優等生と劣等生

和希

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3rdSEASON

虹がかかる空に

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(1)

「冬夜君朝だよ~」
「もう少しだけ……今日は時間あるだろ?」

冬夜君はたまに寝起きが悪いときがある。
色々試しては見るもののどれもいまいちだ。
痛いのはかわいそうだなと思ってやってないけど、甘いのかな?
偶に冬夜君が先に起きる時がある。
そんな時は優しく起こしてくれるから。時々隠れて色々してるときあるけど。
私も出来るだけ優しく起こしてあげようと努力はしてるけど、起きない時がある。
冬夜君は最近色気づいてきた。
その為、今までのやり方だと通用しないことがある。
北風と太陽作戦も起きてはくれるけどその後が大変だ。
冬夜君は意地悪で気づいてるのに起きてくれず私の策を待っていることがある。
してくれるのは嬉しいんだけど時と場合を考えて欲しい。
逆に考えたら、そういうことをして欲しいときにすればいいのか。
冬夜君は優しくなった。したいときに甘えたらすぐに受け入れてくれる。
でも偶に意地悪する。
今日の冬夜君も後者だ。
わざと起きないで私の行動を待っている。
毎回毎回してあげると思ったら大間違いなんだから。

「遅刻しても知らないんだからね!」

そう言って私は着替えを始める。
元々私の好みでもあったんだけど、夏場とかはワンピースとかロングスカートが多い。
冬夜君の好みに合わせてるんだけど。冬夜君の好みはエルトのボーカルの子。
冬夜君にもそういう好みあったんだなって思いながら着替えてると、突然後ろから抱き着いてくる冬夜君。

ぽかっ

「今着替えてる最中だよ」
「……今日機嫌悪いのかなと思って」
「大丈夫だから着替えさせて」

すると冬夜君は手は離してくれたもののまだ何か言いたげだ。
しょうがないなあ。
私は着替え終えると冬夜君にキスをする。

「冬夜君も早く着替えないとご飯冷めちゃうよ」

漸く着替えを始める冬夜君。

「先に降りてるね~」

そう言って私は部屋を出る。

「あら?愛莉ちゃん、冬夜は?」

麻耶さんが聞いてくる。

「冬夜君今着替えてます。そうすぐしたら来ると思います」
「そう?毎朝悪いね」

妻の務めですから。
少ししてから冬夜君がやってきた。
まだ眠そうだけど食欲だけはしっかりある。
私は先に食べ終えて洗面所に向かう。
冬夜君がやってきたので一人分横にずれて冬夜君にスペースを空けてあげる。
先に仕度を終えるとコーヒーの準備。
麻耶さんとの取り決めで朝ごはんを作るのは私、片づけるのは麻耶さんの役割って決めてある。
片付けもしたいんだけど、麻耶さんがいうのでお言葉に甘えてる。
コーヒーをマグカップにいれて冬夜君の部屋に入ると、冬夜君がテレビ観てた。
いつもの番組だ。
ゲームには間に合ってそう。

「今日は何色にする?」
「う~ん……」

いつも赤にするから冬夜君は私が赤が好きだと思ってる。たまには変えてみるか。

「黄色……かな?」

「えっ?」って顔をしながら黄色を選択する。すると黄色で当りだった。
そのあとは準備をしながらドラマを見る。
準備を終えると冬夜君の隣に座ってテレビを見る。
お料理のコーナーがあると冬夜君に「こういうの好き?」と聞く。
健康食材がメインだったので冬夜君にはあまり興味がないらしい。
まだオリーブオイルなコーナーの方が冬夜君の興味を引くらしい。

「愛莉今度さ、ハンバーグ専門のお店行こうか?」
「ほえ?」
「小食用のコースもあるみたいだしさ。一回行ってみたかったんだよね」
「う~んじゃあ、お買い物済ませてからなら……」
「じゃあ、山の方のショッピングモールだな」

そう言って冬夜君はスマホで検索する。
何を検索してるんだろう?冬夜君のスマホを覗き込む……。

「…… 下着」

ぽかっ

「愛莉が言い出したことだろう!?」
「一々調べなくていいの!」

因みにあったらしい。
サイトの中を覗こうとしてたけど止めた。
するとメッセージの着信がある。
何件か来てるみたいだ
渡辺班のグループだった。

「今度の土曜日空いてないかい?」

西松君が咲良さんに言い寄ってるみたいだ。

「予定ならありますよ」
「どんな予定だい?」
「秘密です~」
「そんな予定キャンセルしなよ。僕が素敵な夜を演出してあげるよ」
「薬盛ることが素敵な演出なんですか?」
「同じ失敗はしないさ」
「……そうですね。頃合いかもしれませんね」
「?」

咲良さんの発言がいったん止まった。そしてまた咲良さんがコメントする。

「土曜日なら朝10時に駅の改札にいますよ~」
「朝10時だね……わかった」

私のスマホだけが鳴る

「ちょっと咲良何考えてるの!?」

亜依だ。

「ちょっとした悪戯ですよ~心配しないでください~」
「その悪戯が事故を呼び起こすのよ?分かってるの?」
「絶対大丈夫です、策は練ってますから。彼って本当単純なんですね~」
「?」
「私の願望もちょっと入ってるから~。日曜日にはお知らせします~」

策ってなんだろう?冬夜君と顔を見合わせて考え込んでいた。

(2)

土曜日朝10時前に私は駅の改札近くの柱の側に立っていた。
この柱ならおあつらえだ。
5分前になると西松君がやってきた。
相変わらずの自信家だ。
前髪を触ると私に話しかけてくる。そんなに気になるなら切ればいいのに。

「やあ、待たせたね。これでも急いできたつもりなんだけど」
「別に待ってないからいいです」
「じゃあ、映画でも見ていくかい?」
「何言ってるのかちょっとわからないんですけど?」
「え?俺と待ち合せしてたんじゃないの?」
「”居る”とは言ったけど”待ってる”とは言ってないですよ?」
「じゃあ何でここにいるんだ?」
「人を待ってるからですよ?」

その人は程なくしてきた。

「咲良!!」と大声で呼んでいる檜山先輩。

私は手を振って応えた。

「待たせたな、すまない、駅の中来たこと無くて分からなかった」
「そうならそうと言ってくれたらいいのに」
「咲良、どうせなら駅ビル近くの北口でよかったんだぞ」
「離れてるから電車で来ると思ったの」
「で、こいつだれ?」
「一応渡辺班のメンバー。西松君。この前電話で話したでしょ」
「ああ、こいつが……」

彼は、やれやれと頭をかいて私の後ろの柱をどんと叩いて、西松君を睨みつける。

「で、その西松君とやらが俺の咲良になんか用あるの?」

ちょっとドキッとした。

「き、君こそ咲良さんに振られた身でどうしてここに?」
「咲良、こいつに説明したの?」
「いや、聞かれてないからしてないよ?」
「そうか」

そう言うと彼は私の肩に手を回し自分に抱き寄せると西松君に言う。

「こいつ、俺の女になったから」

彼がそう言うと西松君は何か言おうとしている。

「何?なんか言いたいことあるなら聞くけど」
「君は知らないだろうけど、その女には大勢の男がいて……」
「それが何?俺以外の男なんて咲良の目にはうつってないから」
「随分と自信過剰なんだね?」
「まあ、俺だしね。俺が認めるほどの女なんだ。そのくらい当然だと思うけど」
「と、いうわけでそれではまた~。行こ?春樹先輩」

呆然と立ち尽くす西松君を無視して、駅ビルのコーヒーショップに向かった。



「あのな~咲良」
「なに?」
「お前と西松って男の間のゲームの事は知ってるけど、そんな茶番に俺を巻き込むんじゃねーよ」

彼はそう言ってコーヒーを飲む。

「お蔭で清々しました。ああいう役やらせると先輩決まりますね」
「ああいう役ってなんだよ。事実を言っただけだろ?」
「『俺以外の男なんて咲良の目には映ってないから』とか、『俺が認めるほどの女なんだ』とか胸がキュンとくる言葉が似合うの先輩意外に見たことないですよ」

多分片桐先輩が言っても寒いだけ。

「……まあ、そういう役回りをさせられてきたからな」
「そうなんですね~。……でも似合ってるよ」
「……ありがとうな。で、これからどうする?」
「初めてのデートだし、王道の映画なんてどうです~?」
「ベタだな」
「いやですか~?」
「……見たい映画あるのか?」

檜山先輩がそう言うと私と一緒にスマホのサイトを見て映画を探した。



映画を見た後、昼食を食べてから、檜山先輩の車で少しブラブラした後夕食を食べて私の家に送ってくれた。

「家に寄っていきませんか~?」
「初めての男を家に上げる程尻軽な奴じゃないだろ?」
「それもそうですね~」
「それとこれやるから約束しろ……」

そう言って檜山先輩は私にプレゼントをくれた。

「約束ってなんですか~?」
「俺以外の男と二人きりになるなんて行為はやめろ。俺だけを思っていてくれ」
「……」
「ごめんな、俺お前以外の女に興味なくなったから」

返す言葉が無かった。ただこくこくとうなずくだけだった。

「じゃあ、おやすみ」

そう言って彼の車は走り去っていった。

家に帰り包装を開けるとネックレスが入っていた。二つ指輪がくくられた。

それを仕舞うと。シャワーを浴び部屋に戻りスマホを操作する。
今日の一部始終を伝えた。
皆草生やしてた。

「そろそろ、可哀そうになって来たな」と音無先輩。
「まだまだ足りないわね、彼のリアクションに不満が残るわ」と志水先輩。
「ここからは教育の時間ね」と江口先輩。
「皆気を抜くのは早いよ」と指原先輩。
「とどめを刺すのは高階先輩だよね」と遠坂先輩。
「え?私?」と高階先輩は戸惑っている。
「言ったでしょ?素敵な事が待っているって」と遠坂先輩が言う。
「私そういう感情持ったこと無いから」と、高階先輩が言う。

そんな高階先輩に、遠坂先輩が言う。

「だからそう言う感情をプレゼントしてあげます」

どうやってそんな魔法みたいなことをするんだろう?
私はそのおまじないの方法に興味が湧いていた。

(3)

「社長、お先に失礼します」
「はい、おつかれさま」

そう言って社員が帰る中俺は黙々と作業をしていた。

「真鍋君、あなたも帰っていいのよ?貴方に任せてる資料はそんなに急ぎの物じゃないから」
「でももうすぐ出片付くんでやって帰ります。社長の雑用もいるだろうし」
「私ももうすぐ帰るから心配しないで」
「尚の事残りますよ、いつもタクシーだと大変でしょ、家に送ります」
「そう……じゃあ、コーヒーでもお願いしようかしら」
「わかりました」

俺はコーヒーをいれて社長に渡す。

「あなたなら即戦力になるわね。どこの設計事務所に行っても大丈夫よ」
「それならここで雇って頂いてもいいんですよ」
「……」

社長は何も答えなかった。

こうやって逃げ道をあらかじめ塞いでもすり抜けてしまう。

「しかし真鍋君もこう入り浸っていて大丈夫なの?」
「入り浸っていると言っても週3くらいだし」
「真鍋君なら彼女もいるでしょう?」

大学生時代の付き合いは大事よ?と社長は笑う。

「社長は学生時代の時に恋愛をしたんですか?」
「したわよ……旦那と」
「あ……すいません」
「いいのよ、話を振ったのは私だし」

社長・原田聡美は結婚していた。
しかし交通事故にあい夫を失い自分も重傷を負っている。
今は個人の設計会社の社長として、奮闘している。重症の体をおして。
丹下先生から頼まれたのは彼女のサポート。
俺なら人当たりは良いし適任だろうと任された。
しかし触れたら壊れてしまいそうな体、美しいけど儚いその姿に俺は惹かれてしまった。
社長の事を聞いたのは丹下先生からだった。

「お前は人の過去を詮索するタイプとは思ってなかったんだがな」と丹下先生は笑いながら教えてくれた。

その過去を知って益々彼女が魅力的に思えた。
バイトとしてではなく個人的に支えてやりたい。そう思っていた。
だけど彼女はあくまでもバイトとその雇い主という姿勢を貫こうとしていた。
分厚い壁を築いていた。
分厚い壁に設けられた小さな扉。
その扉を開けてすり抜ける方法を模索する毎日をすごしていた。

「さてと、そろそろ帰るとしましょうか?」

そう言って彼女は立ち上がる。

「じゃあ、俺車とってきます」

そう言って車を入り口に回すと彼女が入り口で待っていた。

「いつも悪いわね」
「気にしないでください、割のいいバイト何で助かってるのはこっちなんですから」
「そう言ってもらえると助かるわ」

彼女が住んでいるのは会社から車で10分もかからないマンション。

「ありがとう。じゃあ、また連絡します」
「はい」

そう言って彼女をマンションの前に降ろし。車を出す。
その時だった。サイドミラー越しに見えた彼女が倒れこむ風景。
直ぐに車を止め、彼女の元に駆け寄る。

「大丈夫ですか!?」
「大丈夫……痛み止めを飲めば治るから」
「……部屋の鍵を」

彼女から鍵を受け取ると、彼女を抱きかかえ、マンションに入り部屋に辿り着く。
彼女は薬をのみ落ち着くとその場で寝てしまう。
彼女を寝室に運び、ベッドに寝させると部屋を出る……、鍵を持ったまま出て行ったのは、車を移動させるため。
近くの駐車場に車を止めると再び彼女の部屋に入ると、着替えようとしている彼女がいた。

「し、失礼しました」

慌てて寝室から出て待っていると、彼女の「いいわよ」というか細い声が。
ノックしてから寝室に入るとベッドの中にいる彼女がいた。

「ありがとう助かったわ……。今日はもう遅いわ、泊って行きなさい」

心のどこかで歓喜している自分がいる。
しかし今は自制心が試されるとき。
俺はリビングのソファーで横になっていた。
暫くすると何かうめき声が聞こえてくる。
寝室からだ。

「失礼します」

そう言って寝室に入ると魘されている彼女がいた。

無意識に彼女の手を握って「大丈夫ですよ」と声をかけた。
すると抱きついてくる彼女。
自制心なんてものはすでになかった。
彼女を抱きしめる。
最初驚いてはいたが、それを受け入れる彼女。

これが彼女と俺が初めて一夜を共に過ごした日の話。

翌朝、朝食を用意して彼女を起こす。

「何から何までお世話になってごめんね」
「気にしないでください」

それから彼女を会社まで送り届けると彼女は「じゃあ、またね」と言ってビルの中に消えて行った。

「またね」が何を差しているのかその意味はわからなかった。

(4)

「あら?啓介?」
「深雪……なんでここに……」

私は目を疑った。
どうしてこんなところに啓介が。
ここは駅ビルの改札口。

私は片桐君に呼び出されて、改札口にやってきた。
啓介は遠坂さんに呼び出されてここに来たらしい。
しかし二人共時間になっても現れる気配がない。

「ちっ!またか……」

啓介はそう漏らした。
また……。
多分この前咲良さんにやられた事を差しているのだろう?
今回もということは私も嵌められたという事?
そう言えば言っていた。「私に素敵な物をプレゼントしてくれる」と。
それがこれ?
だとすれば大きな誤算よ?
彼が私に恋するなんてありえない。
彼にしてみれば、私なんてものは最初から付いて来ているオプションみたいなもの。
何とも思ってないわ。
私が彼に対して抱いている感情と同じように……。

「してやられたみたいね」

私もふと漏らしていた。
彼はそんな言葉に反応していた。

「仕方ない。深雪、どこか遊びに行くか?憂さ晴らしに」

私は憂さ晴らしの対象でしかないわけ?
そんな事を考えている自分を馬鹿げていると思った。

そんなの最初から分かっている事じゃない。

「それもいいわね……どこに行く?」
「とりあえずコーヒーでも飲んで頭を冷やす……?」

啓介の言葉が途中で止まった。
私は振り返る。
遠坂さんと片桐君が二人くっついて歩いてくる。
私は啓介と顔を見合わせる。

「遠坂さんと片桐君……」
「ごめんなさい~ちょっと遅れちゃった~」

遠坂さんが謝る。

「遠坂さんこれは一体……」
「うん、だから冬夜君が寝坊したの」
「あ、愛莉がちゃんと起こしてくれたら……」
「酷い、なんでもかんでもお嫁さんのせいにしたらいけないと思うよ?ね、西松君そう思わない?」
「そうですね、なんでも女性のせいにするのは良くない。男性なら最低限のマナーですよ。片桐先輩」

啓介が勝ち誇ったかのように言うと、遠坂さんがクスリと笑った?
何か企んでるようだ。

「ところでどうして片桐先輩が一緒なんですか?」
「ほえ?」
「今日は二人で出かけようって……」
「だから二人同士で出かけようって意味だよ?」

どうやら嵌められたのには間違いない。
何の目的があってなのか知らないが。

「ダブルデートってやつだよ、西松君」

片桐君がそう言うと啓介の顔から笑みが消える。
しかしすぐに立て直す。

「そうならそうと言って下さいよ先輩」
「ごめんなさい~ちょっと言葉足らずだったみたいだね」
「で、これからどうするの?」

茶番に付き合うつもりはない。
私は話題を切り替えた。

「取りあえずコーヒーショップでも行きませんか?」
「いいよ」
「行きましょう」

そう言って啓介が手を差し出すとその手を躱して片桐君の腕にしがみつく。

「冬夜君サイトで見たって本当?」
「うん、駅ビルにもあるって書いてた」

何があるというのだろう?



「遠坂さん」
「は~い?」
「これで勝ったつもりですか?」
「ほえ?」

遠坂さんは誰が見てもとぼけているようにみえた。

「なんのことかな?」
「今日のダブルデート仕掛けたの遠坂さんですよね?」
「そうだよ?」
「俺達をくっつけて自分たちの勝ちのように見せる魂胆でしょうけどそうはいきませんよ……大体俺と深雪は……」
「西松君と高階先輩は……?」

遠坂さんはにやにやしてる。

「……ただの幼馴染ですよ!前にも話したと思いますが」
「ただの幼馴染が路チューするの?」
「それは深雪がしたいっていうから!」

さすがに胸がチクッと痛んだ。
私のせいにして逃げようとしている。
いつもの啓介だから気にしない様にしてるんだけどやはり嫌な気分にはなる。

「だめですよ、自分で言ったじゃない。『なんでも女性のせいにするのは良くない』って」
「……」

会話のペースは完全に遠坂さんが握ってる。
片桐君は横でただ聞いてるだけ。
一人で自滅している啓介。
この形勢はよくない。立場上「啓介の味方」である私は啓介を呼び出す。

「どうした?お前が呼び出すのは片桐先輩であって俺ではないだろ?」
「少し冷静になりなさい。完全に遠坂さんに翻弄されてるわよ。二人の意図は私たちをカップルという既成事実に持って行くこと。そのくらいわかるでしょ」
「だったらなおの事この場面はまずいんじゃないのか?」
「あなたまたいつかの時のように醜態をさらして帰りたいの?」
「……」
「少し落ち着いて。ここからは私が対応するから」
「任せる」

そう言うと席にもどった。

「お待たせしたわね」
「いいんですよ~。二人っきりになりたいんだったらいつでも」
「それじゃ今日のダブルデートの意味がないでしょ?」
「そうですね~」
「ついでに私達からも提案があるんだけど」
「なんですか?」
「お互いのカップルを今日一日交換しない?」
「それはだめです」

遠坂さんはにこりと笑って否定した。

「あら?遠坂さんは片桐君の事信頼してるんじゃないの?」
「でも、私は冬夜君が高階先輩と仲良くしてるのなんて見たくないです。私だけの冬夜君だから」
「じゃあ、別行動すればいいじゃない。見なくて済むわ」
「それはダメです。高階先輩」

片桐君が話に加わる。

「愛莉と約束してるから、どんなことがあっても一人にしないって。愛莉とはもう恋人とかそういうものじゃなくて人生を共にするパートナーみたいなものだから」

片桐君の話を遠坂さんは笑って聞いている。

「そこまで信頼できるのって羨ましいわ」
「高階先輩にはいないんですか?」
「残念ながらそう言う感情を持ったことがないのよ」
「本当にですか?」

遠坂さんの言葉が初めて私の心に突き刺さった。

「愛って楽しい事ばかりじゃないから。苦しい事も寂しい事も辛いことも悲しい事もあるから。愛し合うって綺麗ごとばかりじゃない。それを一番知ってるのは高階先輩だと思ったんですけど」

遠坂さんの言っている意味が分からない。

「逃げたらだめですよ」

また私の心に突き刺さる。
どうしたの今日の私。妙に動揺してる。



「うーん、それは流石にこれからの季節暑くないか?」
「じゃあ、こっちにする?」

遠坂さんと片桐君はお揃いのパジャマを選んでいる。
仲の良い所を見せつけてくれる。
それにどんな意味があるのかわからないけど。
私には憧憬でしかなかった。

「どうしたんだ深雪。深雪こそペース握られてないか」
「そうね……」
「落とす自信があったんじゃないのか?」

私はガムをかむ。
頭を落ち着かせよう。
今ダブルデートをしかけられてる。私はパートナーの交換を持ちかけた。でも遠坂さんと片桐君に拒否された。
次に打つ手を考えなくては。
……。

「啓介、あなた片桐君を挑発する自信はある?」
「……逆に挑発されたよ」
「え?」

それは前回の映画の時の話だ。

「相変わらず仲がいいですね」
「まあ、本人曰くお嫁さんらしいからね」
「そのお嫁さん少し貸していただけませんか?」
「そういう話だと思っていたよ。残念だけどその話には乗れないね。どんなことがあっても愛莉を危険な目にあわせないようにするのがお前の役目だろって怒られたばかりなんだ」
「お姫様を守る騎士みたいなものですか?」
「君も同じ事が言えるんじゃないのかい?」
「?」
「ぞんざいに扱っていると見捨てられることになるんじゃないの?」
「どういう意味です?」
「そのままの意味だけど?」

啓介は動揺してしまった。
それを片桐君は見て確信したかのように言う。

「思っていた通りだね。君は心が読みやすい。彼女に弱点があるとしたら……君だ」
「何を馬鹿な事を」
「馬鹿な事かどうかは一目瞭然だけど」
「どこまで俺と深雪の仲を知ってるんですか?」
「と、いうことはただの幼馴染って言うのは嘘なんだね?」
「……10年以上もただの幼馴染でいれるはずがない」
「そう思ってるのは君だけかもしれないよ?」
「どういう意味だ!」

啓介は怒鳴っていた。そんな啓介を見てにこりと笑う。

「言ったろ?大切にしないと簡単に失ってしまうものだって」

啓介はそれ以上何も言わなかった。
言えなかった。


「……と、いうわけだ」
「啓介のミスね」
「そんな事分かってる」
「だから言ったわよ。一筋縄じゃいかないって……」
「分かっていると言っただろ!だいたい深雪がもっと早く片桐先輩を懐柔していれば」

今度は責任転嫁?
ガムをさらに噛む。
落ち着け、ここで動揺したら相手の思うつぼだ。

「聞いてるのか深雪」
「五月蠅い黙ってろ!!」

私は大声で怒鳴っていた。
驚く周囲の客。

当然片桐君と遠坂さんにも聞こえていた。

「冬夜君、これでいいからレジ行ってて」
「わかった」

そういうと遠坂さんは私たちの元にやってくる。

「西松君。ちょっと高階先輩借りるね」
「わかりました」

そう言うと私を連れてお手洗いへと向かった。


ガムを包み紙に吐き捨てると。ごみ箱に投げ入れる。
鏡で自分の顔を見ていれば落ち着きも取り戻せる。
私は何にイラついているんだろう?
啓介の言動?
啓介の行動?
啓介の態度?
……啓介の事でイラついてるの?

「言ったよ。愛って綺麗ごとばかりじゃないって」

後ろで私の様子を見ていた遠坂さんが言った。

「私が啓介を愛してるとでも言いたいわけ」

笑わせないで、あいつが私に対してしてきた事。あいつが何をしてくれた?

「そんな西松君を手助けする理由は何?」
「それは……詰まらないから遊んでるだけ」
「ここで逃げたら一生後悔するよ!」

遠坂さんが強い口調で言った。

「はっきり言うね。彼の身勝手な振る舞いを許容してきたそれは愛と呼べるんじゃないんですか?」

遠坂さんに言われてハッとした。仕方ないから、諦めてた……それはつらい自分を隠すための逃げだったって事?

「感情のない人間なんていないと思います。ただそれが辛いから隠してるだけ。気付いてる自分から逃げてるだけ」

遠坂さんの言葉に私はいつのまにか泣いていた。
初恋は失恋へ急変するのだから無理もない。

「泣かないでください。まだ失恋て決まったわけじゃないんだから。無理を通すのが渡辺班の役目ですよ」
「……彼を落す秘策があるの?」
「それを考えるんですよ」

彼女の微笑みは女神のそれに思えた。

運命は残酷、だけどそれを恐れてはいけない。女神は戦う者にしか微笑むことは決してないのだから。

(5)

「う~ん」
「……」

僕は考えていた。



愛莉と高階先輩が戻ってくると高階先輩は帰ると言い出した。
そんな高階先輩を追いかける西松君。
僕達も後を追おうとすると愛莉が腕を掴む。

「パジャマ買った?」
「ああ、買ったよ?」

僕は紙袋を見せる。
愛莉は腕を引っ張る。追わなくていいの?

「冬夜君駅ビルにあるって言ってたよね?」
「あ、ああ。あるけど……」
「じゃあ、買いに行こう?」
「今それどころじゃ」
「今は二人に任せておいていいの!」



で、下着売り場に来てるわけだけど。
やはり周囲の目線がつらい。
僕が気にし過ぎなのか?
下手にもじもじしてる方が怪しいと思われるのか?
考えた末、違う事を考えていた。
愛莉から事情は大体聞いた。
しかしあるんだろうか?西松君を振り向かせる手。
無い事はない。だけどそれが通用するか分からない。
でもこういうのって下手な小細工するよりストレートにいった方がいいような気もする。

「冬夜君どっちがいい?」

愛莉に呼ばれた。
愛莉の選んだものは……普通のショーツと……サイドを紐やリボンで結ぶ構造の……

「何選んでるの愛莉は!?」
「そんなに大声出すと周りに迷惑だよ」

分かってないな~といった顔をする愛莉。

「そんなの穿きづらいだろ?」
「分かってないな~神奈が意外と普通のより良いっていってたよ?」
「てことはカンナは……」

ぽかっ

「余計な事考えなくていいの!」

愛莉は何種類か持ってくるが正直正視できなかった。
他にもカップルがいることはいるけど……。

「試着はできないよ?」
「分かってるよ」
「じゃあ、冬夜君が自分でイメージして。どれがに当てると思う?」
「じゃあこれ……」

それは白地にピンクの模様が入ったフリフリのついたひもで結ぶ奴。

「ふ~ん、冬夜君こういうのが趣味なんだ。じゃ、これとこれも買っておこうっと」

愛莉はレジに数セットの下着をもって言った。
愛莉も僕の心を読んでるんじゃないかというほど僕好みの物を選んでいた。
買ってくると愛莉は耳元で囁く。

「今夜試しに使ってみる?」

愛莉にお返しに耳元で囁く。

「今夜はパジャマだけで楽しむよ」

すると愛莉は笑顔で「そうだったね!」と微笑む。

その後靴とか服を選んで買っていた。
愛莉はサンダルを、僕はスニーカーを選び服はお互いの好みの物を選んでいた。

夕食はハンバーグ専門店のチェーン店で食べる。
柔らかくて肉汁があふれてて。美味しい。
愛莉は一判サイズの小さい物を選んでいた。
が、パフェも頼んでいたので結局僕がハンバーグを処理することに。

帰り道。
愛莉は一生懸命スマホを操作している。
多分今日あったことの作戦会議だろう。
女子会のグループでやってるらしい。

「冬夜君はなんかいい手ない?」
「無い事は無いけど……」
「けど?」
「結局は高階先輩次第だからなぁ」
「そっかぁ~」
「でもさ」

愛莉が反応する。

「脈が無い事は無いと思うよ。だから僕の挑発に乗ったんだと思うし」
「そっかぁ~」

問題は西松君が高階先輩に告る状況をいかに作るか?
逆だと簡単なんだけどね。
う~ん逆でもいいんじゃないかな?
雨が降り出した。
でも雨が降った後には虹がかかる。
西松君と高階先輩にも雨を注いでやればいい。
そしたらきっと綺麗な虹がかかる。
きっと固い絆が結ばれることだろう?
でももう二人の心には雨が降っているのかもしれない。
後は晴れるのを待つばかりだ。
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