優等生と劣等生

和希

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3rdSEASON

惹かれ合う二人

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(1)

秋晴れの空の朝。

「冬夜君おはよう。朝だよ!」

愛莉が体を揺すりながら僕を起こす。

「今日は日曜だろ?のんびりさせてくれよ」
「そんな事言ってると麻耶さんに怒られるよ」

それがあった。
ぼくは、起き上がって着替えを始める。

「今日亜依から連絡があって、学祭に遊びに来いって」

ああ、向こうのキャンパスは学祭が早いんだっけ?

「渡辺班は全員駐車場で集合って言ってた」

僕はスマホを見る。確かに書いてあった。
僕が着替えるのを確認すると愛莉は「朝ごはん出来てるよ」という。
……なんか様子がおかしい。「私を見て見て」ってオーラが漂ってる。どこか感じ違うところないか?こういう時って大抵……。やっぱりだった。

「イヤリング似合ってるよ。つけてくれたんだね、ありがとう」

愛莉はもじもじ恥ずかしそうにしている。
ダイニングに向かうとご飯が並んでた。
それを食べるとのんびりとコーヒーを飲む。

「あら?冬夜、今日は珍しく早いじゃない」

早く起きないと愛莉が働きだすからだろ。
何か【口実】を見つけて愛莉を連れ出さないといけない。
僕は朝ごはんを食べる。

「ところで冬夜。もう小遣い無くなったのかい?」

母さんが聞いてきた。
いくらなんでも月初めからそれはない。

「いや、まだ十分あるよ。どうして?」
「ホテルにも泊まる金がないのかい?と思ってね」
「へ?」
「ほえ?」

その言葉に愛莉も反応した。

「一昨日愛莉ちゃんの誕生日だったんだろ?どうせするならホテルとかムードのあるところですればいいのにと思ってね」

コーヒー吹いた。

「ち、違うんです。冬夜君は誘ってくれたんだけど私が家で良いって言って……」

愛莉が説明する。

「でもね、愛莉ちゃん。その……声とかきにならないのかい?」

なんてことを聞いてるんだ母さんは。

「もう一度聞かれちゃったしいいかなぁ~って……」
「まあ、慣れたのは慣れたけどね。ただどうせなら誕生日とか特別な日くらい……そうねタワーホテルとかでもいいんじゃないかい?」
「おじさんもそう思うぞ、愛莉ちゃん。今のシティホテルも綺麗になってるらしいぞ……」
「あら、お父さん。どうしてそんな話をしっているの?」
「うっ、部下がそんな事を話していてな……」

気まずくなった空気から逃げ出すかのように僕は洗面所に急ぐ。

「あの、迷惑なら私の家でしますので……」
「それも梨衣さんやお父さんに悪いでしょ」

母さんが反対する。

「うぅ……じゃあ、そうします」
「ベッドも狭いしセミダブルでも用意してあげようかね。どうしても予約取れない時あるだろうし」
「あとは防音工事も入ってもらった方が良いかもしれないな」
「わ、私は気にしてませんから」
「愛莉ちゃんが気にしなくても私たちが気になるのよ。愛莉ちゃんを責めてるわけじゃないのよ。ただ冬夜の無神経さがねえ」
「あいつはそういう事に無頓着だからなあ」
「冬夜君は誘ってくれてるんです。私が家の方が落ち着くし良いって……」

そんな両親と愛莉の言い合いが続いてる中、僕はダイニングに戻った。

「冬夜君~」

助けを求めるような愛莉の声。

「母さんたちが五月蠅くて眠れないって言うなら外でするよ」
「そういう話じゃなくてね、少しはシチュエーションを変えてやったらどうだい?って話なのよ」
「愛莉は家でするっていうのが好きらしいから好きにさせてやるよ。でも母さんの言う通り特別な日くらいはホテルを予約しとくよ」
「そうしてあげなさいな」
「じゃあ、そろそろでかけるから。愛莉、行くぞ」
「う、うん」

そうして僕たちは家を出た。



「びっくりしたね……」

車の中で愛莉は一息つく。
全くうちの親は朝から何を言い出すかと思えば。……でも確かに気まずい空気はあるよな。愛莉の家ならなおさらだ。

「やっぱりホテルに行くか」

月1以下の頻度だし。

「とはいえ、突然したくなる時とかあるじゃない?」
「……誠に相談してみるよ」

あいつなら詳しそうだしな。

「それより学祭楽しみだね」
「そうだな」

学祭と言えばうちの学祭だ。

「愛莉あれからどうなったんだ?」

どうなった?というのはミスコンの正体だった。

「SNSに参加表明してないから大丈夫だと思う」
「もったいないな、きっと愛莉が一番だと思うよ」

ちょっと意地悪を言ってやった。

「それはないよ、志水さん多分でるだろうし。半分決まってるようなもんだよ」

出来レースに参加する意思はない。と愛莉は言う。

「それに神奈とかが出てきたら私勝てないよ」

愛莉はそう言って笑う。
思えばカンナ、愛莉、大島さん、江口さん、志水さんとうちのグループは女性が綺麗な人が多いなあ。
でも……

「僕の中では愛莉が一番だよ」
「ありがとう~。冬夜君の中で一番なら別にどうでもいいよ」
「僕も愛莉が他の人に気に入られるのはちょっと勘弁かな」

一言余計だったかな?そうでもなかったらしい。

「大丈夫だよ、私も冬夜君以外の男性に興味ないから」

隣に座った妖精はにこりと笑い、涼しげな午前の雲に連れていかれるように。僕たちはキャンパスを目指した。

(2)

駐車場に車を止めると、スマホで連絡を取り合いながら看護学科棟の前で集合する渡辺班。
指原さんと桐谷君、一ノ瀬さんと中島君は先についていた。

「やあ、待たせてすまん」

渡辺君は美嘉さんと……知らない男性を連れてきた。誰だろう?

「まあまあ、大島さんが来たら紹介するよ」と、渡辺君が言う。ああ、そういうことね。

「カッコいい人だね……。大島さん大丈夫かな?また緊張しちゃったりするんじゃないかな?」

愛莉が心配している。渡辺君が選んできたんだから間違いないでしょ。
やがて、黒のトップスにベージュスカート姿の大島さんがやってきた。

「こんにちは」

大島さんがやってくると渡辺君が知らない男性を紹介する

「大島さん、こちら理工学部の木元和哉先輩。木元先輩、彼女が大島花菜さん」
「初めまして大島さん……花菜さんって呼んでいいかな?」
「は、はい……」
「話は聞いてるよ。とりあえず今日は楽しくやろう。お互いの事も良く知りたいしね」

そう言って手を差し出す木元先輩。
大島さんは最初は躊躇していたが、愛莉がひそひそと呟くと手を取った。

「で、今日は何があるんだい?」

木元先輩が聞くと、指原さんが答える。

「え、えーと。軽音部のライブに早食い大会、あとはジャズライブとか?」
「花菜さんはライブとか興味ある?」
「はい、あります」
「じゃあ、見に行こうか」
「あ、俺達も行こうか……」

渡辺君が言うとぞろぞろと移動しだす。

ぽかっ

「冬夜君なにしてるのかな~?」
「いや、出店が出てるからつい……」
「今日の目的忘れてないよね?」

寧ろ今知ったんだけど……。
僕達はライブを見ながら大島さんと木元先輩の様子を見ていた。
感触は悪くない。不器用ながらも見事に大島さんをエスコートする木元先輩。
聞いた話によると成績優秀でスポーツもなんでもこなす優しくて落ち着いた感じの性格。

「そんな好物件よく残ってたね!?」

指原さんが驚きの声を上げる。木元先輩たちには聞こえていない。

「彼イケメンだろ?加えてあの性格だ。女性に甘えるなんてことができなくてね、それで安心できる女性を探していたそうなんだ。大島さんにうってつけだろ?」
「確かにね~、でも他所の学部からよく探して来たね」
「まあ、ツテを使ってな……」

どれだけ情報網を張り巡らせているんだろう。
まあ、大島さん達の様子を見る。
ライブで盛り上がりながら、うまく話をしているようだ。
第一印象は悪くない。

ダンス大会まで見てたら夜になっていた。
正直ビンゴ大会とかの方が興味あったけど今日の目的もあるし、ずっと体育館にいた。
最後まで見るとさすがに疲れる。
その後、ファミレスで食事をとる。
この日の話題は、もう木元先輩一色だった。
キャーキャー騒ぐ女性陣。愛莉も含まれていた。
女性ってイケメンが好きなのね。もちろん恋愛感情とは別の何かだけど。だと、思う。

「でも、皆さんの彼氏さんも素敵ですよ」

爽やかな笑顔で彼が返せば、女性陣はさらに歓声をあげる。
面白くないのは男性陣。桐谷君なんて明らかに不快感をしめしている。
渡辺君は余裕の笑みを浮かべている。僕は食べるのに夢中だ。愛莉は明らかに木元先輩を見てる。今ならいける!

「すいませんパフェ一つ……」

ぽかっ

「冬夜君の事見てないと思ったら大間違いだからね。一緒に食べようね~」
「すいませんパフェもう一つ……」

ぽかっ

「一緒に食べようね~」
「すいません……注文一つ取り消しで……」
「片桐君と遠坂さんが付き合ってるんでしたっけ?とても仲良さそうですね」

木元先輩が話題を僕に振ってきた。

「あ、その二人はもう恋人とかそういう次元じゃないから」と、カンナが言う。
「そうですよ~、大学卒業したら結婚する約束したんですよ」と、愛莉が嬉しそうに言う。

卒業したら求婚するとは言ったけどね。まあ、入試よりは楽な審査かな?
台詞を言う前にOKというらしい。

「木元先輩部活か何かやってるんですか?」
「バスケ部に入ってるよ」
「あ、冬夜君もバスケ上手いんですよ」

愛莉がかかさず言う。

「ああ、君が有名な片桐冬夜君か」

僕の事は知っていたようだ。まあ、あれだけ勧誘きたしな。

「それにしてもこのグループは美人ぞろいだね。羨ましいよ」
「羨ましいなら入ってしまえよ。入会費は0円だぞ」

美嘉さんが勧誘する。

「部活の合間で良ければ、花菜さんとももっと仲良くなりたいし……」

木元先輩は大島さんを気に入ったようだ。とりあえず最初の段階はクリアかな。
このあと、愛莉が提案した作戦が成功すればいいんだけど。

「花菜、折角だから今のうちに先輩と連絡先交換しときなよ」

指原さんが勧めると大島さんはおずおずと尋ねる。

「……いいですか?」
「もちろん」

木元先輩は快諾し、互いの連絡先を交換してる。

「えっとグループにも入るんですよね?」
「入れてもらえるなら、入りたいですね」

大島さんが木元先輩にメッセージグループに招待すると木元先輩がはいってくる。

「みなさん、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」

木元先輩が礼をすると皆返礼する。

「じゃ、そろそろ解散にするか。時間も時間だし」
「2次会行こうぜ2次会」
「美嘉も明日朝早いんだろ。早く帰って寝ないと」
「若いんだから徹夜くらいいけるって」
「朝起こす俺の身にもなってくれ……今日は帰る。いいな」
「ちぇっ、つれねーなあ。まあ、いいよ」

そう言って会計に向かう面々。
その間も木元先輩は大島さんと話をしていた。

(3)

「大島さん、悪いけど木元先輩送って行ってやってくれないか?」

渡辺君に突然言われた。

「行きは俺が送ってきたんだけど、帰りくらい二人でゆっくり話したいだろ?」
「ごめん、僕からもお願いするよ」

木元先輩に頼まれて断れる人なんてどれくらいいるだろう?
私は「わかった」と答えた。
浮かれてた。凄く優しい人、そしてイケメン。どうして彼女さんいないんだろう?
木元先輩を助手席に乗せると私は車を発進させた。
すると木元先輩は深呼吸をした。

「ふぅ。こういうの疲れるんですよね」

え?

「こういう場に慣れてなくて、上手く立ち回れない」

そんなことない、ばっちりでしたよ。
急に不安になってきた。連絡先交換までしたのに愛想でしていただけ?
木元先輩に恐る恐る質問してみた。

「もしかして、迷惑でしたか?」

すると木元先輩は慌てて否定する。

「とんでもない、そんな風に聞こえたらすいません。本当に慣れてなくて」

多分嘘はついてないと思う。さらなる疑問をぶつけてみた。

「本当に私でいいんですか?どうして私なんですか?」
「正直なところわかりません、でもあなたが悪い人ではないことはわかった。それに……」
「それに?」
「あなたほど一緒にいて気が休まる人に出会ったことはありません。初めてです」

本音で語ってくれているのだろう。私は木元先輩の言葉に興味が湧いた。

「初めてって今まで付き合った人は?」
「ああ、そういう意味で言ったんじゃありません。付き合った人くらいはいます。ただ、最後はいつも僕が疲れて別れを告げてました。でもあなたは違う」

私も見た目と性格でこの人ならって判断してた。そんな自分を恥じる。でもこの人は私は違うという。どこが違うというのだろう?

「直感でなんですけど、あなたになら弱い自分を見せても良いんじゃないかと思えたところですかね。」

この人の目には私はどう映っているのだろう?どう感じたのだろう?

「あなたは僕のどこを好きになったんですか?」
「……優しそうなところかな?」
「最初はそうですよね、皆同じ回答をする。でも本当の僕はそうじゃない。打算的なものがある薄汚いものなんですよ」
「そう自覚してるところってすごいと思いますよ。それが綺麗にすら思えます」

この人は本当に優しい人なんだ。少なくとも今まで出会ってきたどの人よりも……。

「正直、まだ好きかどうかは分からない。それでもよければ」
「ありがとうございます」
「こちらこそよろしくお願いします」

木元先輩の住んでいるアパートに着く。

「ありがとう、また連絡するよ」
「はい、ではまた」

彼の去る姿を追う。さっき「またね」って言ったばかりなのにもう会いたくなる。
模試も二人の帰る場所が同じだったら、時計に邪魔されないでおかえりもおやすみもそばで言えたらどんなに幸せだろう?
でも……。

家に帰るとスマホにメッセージが。
木元先輩からだった。

「おやすみなさい」って。

そのメッセージを見てから思う。私は恋をしたんだって。
会えない時間でも目を閉じれば彼がいる。
ただそれだけで強くなれる。
この先も二人で一緒にいたいと強く思った。

なんてメッセージを返そう?
そんな普通の事に悩む。
彼の存在が私を惑わせるの。
シンプルが一番かな?

「おやすみなさい」

彼の反応はなかったけど。翌日の朝「おはよう、今日もよろしく」ってメッセージで目を覚ました。

(4)

「で、結局今日はどうだったわけ?」

僕は愛莉に尋ねていた。

「冬夜君食べ物しかみてなかったわけ?」

愛莉が頬を膨らませて言う。
まあ、男性陣はみんなそうだったと思うよ。だって先輩の話ばっかりでつまんなかったし。桐谷君は少なくともそうだっただろう。渡辺君は一応様子を見てる感じだったけど。

「きっと上手くいくと思う。ただの直感だけど」

こういう時の女性の直感は無視できないって何かで読んだな。愛莉が言うんだから間違いないだろう。後はあの作戦を実行するだけか。

「作戦上手くいくといいな」

ちらりと愛莉を見てから言った。

「うん」

愛莉は満面の笑みで答えた。
車のヘッドライトに照らされた愛莉の姿は、美しく眩しく思えて見とれてしまいそうになる。
もちろん危険だからすぐに目線を前方に戻すけど。ルームミラー長いやつ売ってたな。今度買おうかな?
ふと思った疑問。愛莉はやっぱりああいう男性に憧れるんだろうか?まあ、憧れない女性なんていないよな。なんか自分が情けなく思える瞬間だった。と、同時に不安が襲う。正直木元先輩にいい印象は無かった。男性の敵っていうんだろうか?
そして思う、愛莉も同性から似たような目線で見られ続けてきたんだろうか?今でも見られているのだろうか?それはないか。だって男性は志水さんに夢中だから。
愛莉が普通に思えるくらいに美人ぞろいのグループ。傍から見れば羨ましいグループなんだろうな。

「どうしたの?」

愛莉が上目遣いで僕の方を見る。ちょっと入り込んでいたかな?

「愛莉はさやっぱり、木元先輩みたいな人に憧れるの?」
「ほえ?」

愛莉は不思議そうに首を傾げる。

「いや、ああいうイケメンで優しくて背が高い男性が好きなのかな?って」
「嫌いじゃないよ。良い人そうだし」

やっぱりか……。

「でも恋愛対象としてなら見てないかな?だって……私には冬夜君がいるもん」
「そういうもんなのか?」
「そうだよ~。冬夜君だってカンナや、志水さんがいるのに私を選んでくれてるじゃない」

僕と愛莉じゃ比較対象が違い過ぎるだろ。と、そんな事を言おうものなら……。

「今思ってる事を言ったら罰ゲームだからね」
「……わかってる」
「うん、冬夜君が私を選んでくれたから、私も冬夜君をずっと選択するの。出来れば永遠に……」

そう言う愛莉の表情はとても優しいものだった。彼女の事を想う。どこまでも愛おしくて。
家に帰りつくと駐車して二人で降りる。
その時だった。
家の前に止まってあった車のヘッドライトが点灯し眩しく照らす。
なんだ!?
そのまま車はエンジン音を鳴らして走り去っていった。

「なんだろう?」

愛莉は不安そうに僕にしがみつく。
ずっと見張ってたのだろうか?その車の正体は今はまだわからなかった。
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