優等生と劣等生

和希

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3rdSEASON

旬な時

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(1)

ピンポーン。
呼び鈴が鳴った。
多分この時間からくるって事は十中八九誠だろう。
何で来たのかも大体予想がつく。
今日は私の誕生日。
サプライズも何もこの日と翌日はバイト休めなんて言われたら否応でも気付くだろ。
やれやれ、偶にはサプライズしてやるか。
私はシャツを着ると。玄関にでる。
因みに下に履いてるのはパンツだけだ。

「おはよう……っておお!?」

誠は派手に驚いてみせた。
裸じゃないけど上はシャツ一枚。
これで満足なんだろう。

「満足したか?寝起きも見れたし満足だろ?」
「神奈……来客が俺じゃなかったらどうするんだ。押し倒したくなるじゃないか」

真顔で言う誠。馬鹿かこいつは。

「お前だと思ったからやったんだよ、じゃなきゃやるかボケ」
「ありがとう神奈、最高のご褒美だ」

そう言って拝む誠。

「いいからさっさと入れ、戸を閉められないだろ」

外から見られたら恥ずかしいんだよ。

「あ、ごめん。でも本当に神奈はそう言う格好の似合うスタイルだわ」

褒められてるのか貶されてるのか分からない。

「で、今日は何の用だ?」
「折角だから出かけないか?」
「ああ、言われた通り休みはとった」
「よしっ!あ、荷物に水着入れておいてな?」

水着でプレイがしたいとかいうんじゃないだろうな?

(2)

誠に言われた通りお泊りセットと水着を用意すると誠の車に乗った。
誠は210号線を走っていく。

「で、どこに行く気なんだ?」

私は誠に聞いた。

「ホテル」
「……下ろせ。今すぐ下ろせ!!」
「うわぁ!神奈の想像してるそっちのホテルじゃねーよ。ちゃんとしたレジャー施設のあるホテルだよ!」
「なら最初からそう言え!」
「でもそっちを想像するとは神奈も実は意外と……。うわ、嘘です冗談ですマジごめん」

全くこの男は……


「おい」
「どうした?」
「ここはどこだ?」
「湯布院だけど?」
「この前来たばっかりだろ?なんで湯布院なんだ?」
「時間調整、あとやりたいことあってさ」

由布院駅前に止まると、誠が何か手続きをしてる。戻ってきた。

「ちょうどいい時間のがあった!」

何があったというのか。


湯布院の街中をかっぽかっぽと走る辻馬車。
湯布院を散策する。
小一時間ほどでそれは終わった、
車で金鱗湖周辺に移動し昼食にする。

「もう一個やりたいことあるんだけどいいかな?」
「それはいいけど、プールの時間あるのか?」
「それはもうばっちりよ!」

誠がもうやりたいもう一つの事。
それは人力車で街中を散策する事。
結構高い目線に立てるんだな。
しかし湯の坪街道の人混みを書き分けながら進むのは若干抵抗があった。
こう見えて私はあまり人前にでるのがいやなんだ。
下を向く私に気づくはずもなく、誠ははしゃいでいる。

「冬夜が言ってたんだ『好きな人と乗るのは結構楽しいぞ』って」

私は恥ずかしいけどな。

「あいつ、ああ見えて。いろんなところ遠坂さんと行ってるんだな」
「あの二人と比較するのは止めろって言っただろ」
「比較してるわけじゃないよ、ただ羨ましいと思ってるだけだよ。比較っていうか目標かな?ああなりたいって言う」

なるほどな……。
でも冬夜にしか作れない世界があるように、お前しか作れない誠の世界もあると思うんだ。そこを目指せばいいのでないか?
私も手伝ってやるから……。


(3)

ホテルに着くとチェックインを始める。

「な?ばっちりのタイミングだったろ?」

部屋は広かった。
ダブルのベッドが一つ。あと座敷があって、海が見える。

「早速泳ぎにいこうぜ」

誠が言うと私もプールに向かった。


プールは広かった。が、人も多かった。
そして一人でブルーになる。
他の女性に会って私にはない貧相な胸。
誠の目線が気になる。他の女性の胸を見てるんじゃないかと。
……その心配はなかった。
誠の視界には私しかいないようだ。良い意味でも悪い意味でも。
誇れるものなど何一つないこの体に絡みつくような誠の視線がとても恥ずかしい。
気にしだすと止まらない。
周囲の男性の目線も感じるようになってきた。
体の震えが止まらない。
体はこんなに熱いのに。
唇を真っ青にしている私にようやく誠が気づいたようだ。

「神奈大丈夫か?」
「あ、ああ……なんでもない」

やめてくれ、そんなに優しくしないでくれ。
それを見られているだけで恥ずかしいんだ。

「……部屋に戻ろう。一人で更衣室まで行けるか?」

私は黙ってうなずく。

「じゃ、更衣室出たところで待ってる。気をつけてな」

そう言うと誠はプールを出た。
私もプールを後にした。


部屋に戻ると私はベッドに横になる。
誠は頭を下げると、私に言った。

「ごめん、神奈の性格考えてなかった」
「気にするな、少しはまともになったと思ってたんだがな。私の方こそごめんな、折角のプールデート台無しにして」
「いいんだ。神奈と楽しい思い出作りたかっただけだから。ごめんな、神奈の事全く分かってない自分が情けなくなる」
「私も愛莉のように等身大の自分を誠に晒せたらいいのにな」

そしたら、誠にこんな苦労させずに済むのに。
私も本当はすごくなんてない。誰にも見せたことのない顔、誠には見せてる。

「そうだな、等身大の俺を受け入れてくれたんだ、今度は俺が受け入れる番だな」

そう言って誠は私を抱きしめる。駄目だ、今は。心臓が張り裂けそうなくらいドキドキしてる。
こんな薄っぺらい胸じゃ誠にまで届いてしまう。

「そう言う弱い所もっとみせてくれよ。優しく包んでやるから」
「……ありがとう。今も見せてる」
「知ってる」

今なら誠の悪趣味も受け入れられそうな気がする。誠、今ならお前と世界を共有してもいいぞ。
だけど、誠は私を介抱すると離れていく。
いやだ、今は一緒にいたい。離さないで。
思わず誠の腕を掴む。顔は下を向いたまま。見るのが怖かった。だから気づかなかったんだ。誠の優しいそのまなざしに。

「すぐ戻るから少しまってて」

そう言われて誠の腕を離す。誠は自分の荷物を漁り小箱を取り出す。

「これ、誕生日プレゼント」

そう言って渡されたのは鍵と小箱。

「ありがとう、開けてもいいか?」
「ああ」

開けるとそこには小さなピアスが入ってあった。

「神奈ピアスの穴開けてたろ?だからアリかなと思って」
「つけてもいいか?」
「もちろん」

私は今付けてるピアスを外してプレゼントされたピアスをつけた。
有名ブランドのオープンハートのピアス。

「似合ってるよ、綺麗だ」
「あ、ありがとう」

で、気になるのがある。この鍵は……。

「あ、そのカギは俺が住んでるアパートの合鍵。いつでも入ってきていいよって意味で」
「ほ、本当に良いのか?」
「ああ、今殆ど大学だと一人なんだろ?寂しくなったらいつ来てもいいから?」
「そんな事言って家政婦やらせる気じゃないだろうな?」
「そういうプレイに燃えないことはないけど……」
「お前ピアスをプレゼントする意味知っててわたしてるんだろうな?」
「へ?」
「離れていても自分の存在を感じてもらいたいって意味らしいぞ……」
「それなら問題ないだろ?実際そうなんだし」
「ありがとうな」
「ああ……」

合鍵を渡してもらえた……。それってつまり将来の事も考えてくれいるんだろうか?
そんな淡い期待を胸にそっとしまった。

「そろそろ飯いかね?早めに行って風呂入っておきたいしさ」
「風呂を急ぐことに意味があるのか?」

そんなに慌てるなら部屋にシャワーついてるぞ?

「夜やってる噴水ショーがすごいらしいんだよ。見てみたくね?」

ああ、それなら。愛莉が画像送って来たな。

「わかったよ。じゃ、さっさと飯にするか」

そう言って部屋を出た。

(4)

夕食を食べた後私と誠は温泉に入る。
私が出ると誠が待っていた。

「やっぱり、風呂上がりの神奈も最高……ぐへっ!」
「誉め言葉として受け取っておくよ」
「なら殴らなくても……」

部屋に荷物を置くと時間を確認する。
時間も頃合いだ。再びシャトルバスに乗って移動する。
そして施設に入ると……始まった。
誠は懸命にスマホで動画取ってる。

「やべぇ!バッテリーが持たない!」

途中であきらめたようだ。
噴水ショーが終わるとアミューズメントで少し遊んでから部屋に戻る。

誠はテレビをつけて楽しんでいる。
……今日くらいいいだろ。
誠の隣にぴったりとくっつき座りテレビを見る。
誠の目線がテレビから私の胸元に移ったのがはっきりとわかった。
少しくらいバレない様にするとか工夫しろ!
今日の私はどうかしてる。いつもなら怒るところなのに、恥ずかしさと怒りが混在して戸惑っている。
誠はそんな私に気がついて驚いていた。

「な、なんか初々しいな……。素敵だぞ神奈」

誠にそう言われて益々恥ずかしくなった。この馬鹿!!

「神奈」

誠が私を呼んでいる。私は意を決して誠の顔を見る。
とてもやさしい顔だった。そういう風に見えただけかもしれない。
周りの時間が止まったかのように思えた。
ああ、私も辿り着いたんだなと思えた。
愛莉の気持ち。今なら良く分かるよ。
私と誠以外の物はこの世界に存在しなかった。



ピリリリ……。
スマホのアラームの音で目が覚める。
誠はまだ寝ているようだ。
私は開けている浴衣を脱ぎ捨て服を着る。
そして誠を起こす。

「ちっ!神奈の生着替えを見損ねた」

そんなの幾らでも見るチャンスあるだろ?
朝食を食べ、早めにチェックアウトをする。
何でも行きたいところがあるんだそうな。
地元民なら一度は行ってみたいだろ。と言っていた。

安心院のサファリパークだった。

自分の車で入らずにサファリバスに乗る。
そっちの方が動物が寄ってくるらしい。
餌やりのサービスもやってるらしい。
ライオンに肉を与えてくださいといってるのに「野菜も食わないとダメだ」と人参を食べさせる誠をどついた。
その後園内を回り昼食をとる。
ブドウジュースで我慢しておいた。
一通り回ると帰路につく。
途中温泉があって、家族湯と書いてある看板を見て車を止める誠。
いつもなら違うけど……今日は特別だ。
誠の欲求を受け入れることにした。
二人なら恥ずかしくない。
不思議なことだ。
誠の欲求を満たすと再び帰る。
その代わり私の要求も受け入れてもらうからな。

「帰る前に寄って欲しい所があるんだけど」
「どこ?」
「先ずスーパー」
「どこの?」
「私立大近くにあっただろ?」
「ああ、いいけど?」

誠は自分の家のスーパーに寄った。そこで食材を買う。そして……。

「次は誠の家」
「え?今から!?」
「行ったらまずい事でもあるのか?自分で言ってたよな『いつでも来い』って」

誠の家は大学からそう離れてない場所にあるアパートだった。

「鍵が気になるんだったら神奈が開けてもいいけど?」
「それは心配してない」
「そうか……」

そう行って誠がカギを開け扉を開けると中に入る。
……思った以上の惨状だった。
まず足の踏み場が無いほどに散乱している、雑誌とかその他いろいろ。
ほかにも人形とかも置いてあった。

「これでよく彼女を呼ぶ気になったな」
「いや、今日片付けようと……」

私は部屋に入ると埃の被った残滓等を適当に積み重ねていく。部屋の隅に置いて次に掃除機で床を綺麗にする。
テーブルに散らかってる食器類は台所に移しカップ麺の残骸をごみ袋にまとめる。

「今度ごみの日いつだ?」
「確か明日だったかな?」
「出しておけよ」
「わかった。」

その後食器類を洗い、棚に片づけると食材を広げ調理にとりかかる。
二人分の食材だ。
それが出来上がると食器に盛り付け二人で食べる。
食べ終わると、食器を洗い、拭く。
その後念のためバスルームとトイレを見る。
……案外綺麗だった。

「……今日来て正解だったな」
「すまんな、疲れてるところ」
「あの人形今度来るまでに処分しとけよ」
「そんな俺の第2の恋人を……いてっ!」
「人形に浮気される彼女の気持ちも考えろ!……時間あるときは来るから」
「ありがとうな」
「気にするな」

その後家に送ってもらう。

「じゃあ、また」
「ああ、またな」

そう言って誠は帰って行った。
私も自分の家に帰る。
部屋に戻ると襲う孤独感。
でも明日は来る。
また会える日が来る。
誠が約束してくれた。
その証をそっとキーホルダーにつける。
愛の欠片が消えない様に手を伸ばして強く深く抱きしめた。
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