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3rdSEASON
新歓コンパ
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(1)
ピロリーン。
スマホのメッセージ着信音で目が覚めた。
こんな時間から誰だろ?
スマホを取ろうとベッドから出ようとすると愛莉が抱き着いて離さない。
「起きてるんだろ?ちょっとスマホ取るだけだから」
そう言うとパッと手が離れる。
愛莉の顔を見るとにっこり笑ってる。
「今日1限目からだよね?私朝食の準備してくる」
愛莉は着替えると、部屋を出て行った。
スマホを見る。
「片桐君今ちょっといいかな?朝早くからごめん」
「いいよ。どうしたんだい?」
返信が来るまでに着替えを終える。
大学生って楽でいいなあ。
ラフな格好でも許されるんだから。
まあ、どこまで楽できるかなって某スポーツメーカーのジャージを着て行こうとしたら愛莉に怒られたけど。
「婚約者に恥かかせる気!?」って……。
返事が返ってきた。
「今日1限目だよね?ちょっと話があるんだけど」
「いいけど酒井君2限目からじゃなかったっけ?」
「ゆっくり話したいから1限目でとくよ。外国語でよかったよね?」
「うん、そうだよ」
「じゃ、その時に。紹介したい人もいるけどいいよね?」
「紹介したい人?」
「あ、女性とかじゃないから心配しないで」
まあ、いつもこっちから頼んでるし、偶にはいいか?
「愛莉が一緒で大丈夫な話なら」
「それは大丈夫」
「じゃあ、教室で」
そう言うと荷物をとって下に降りて行った。
1限目。
「しかしどうしたんだい?履修してない科目の時間に話があるってだけで来るなんて」
僕は酒井君に聞いていた。
「先ず紹介するねサッカー部の中島君」
ちょっと色黒の体格のいい男性が礼をする。
「中島です、よろしく。噂はかねがね……」
「サッカーの勧誘なら断るよ」
「そうじゃないんだよ、実は……新歓コンパに僕と片桐君を誘ってくれって言われたらしくて」
サッカー、コンパ……。
その言葉が出るごとに愛莉から覇気を感じる僕。
「サッカー部に入ってなくてもいいから誘えって先輩から言われてて」
申し訳なさそうに言う、中島君。
「あの、嫌だったら断ってもいいんだよ。」
「いいよ」
へ?
愛莉の意外な言葉に思わず振り返る僕。
「花見の一件もあるしね、たまには酒井君の顔も立ててあげようよ」
愛莉でもそう言う義理気にするんだな。
「ありがとう、助かります」
中島君に拝まれる僕。
「ただし条件がありま~す」
何となく予想がついた。
「私も一緒に行くから~」
唖然とする二人。
「む、むしろ来てくれるのは助かるんだけど……いいの?」と、中島君。
「冬夜君一人をコンパに行かせるなんて、婚約者として認めません」
だろうな。言うと思ったよ。
「もう一つ頼みたいんだけど……」
中島君がお願いをする。
「なに?」
「女性をあと一人連れてきて欲しいんだよね。酒井に頼んでも一ノ瀬さんくらいしか知らなくてさ」
「僕も似たようなもんだよ?」
「神奈はバイトって言ってたし……あっ、学部違くてもいいんだよね?」
「まあ、それは良いと思うけど」
「一人用意しとくね。多分男性も一人増えると思うけどいいかな?」
「それはもちろん」
この時ちゃんと誰を呼ぶのか聞いておけばよかった。
むしろ愛莉の交友関係を考えると気づくべきだったのかもしれない。
(3)
夕方18時。
僕達は府内の居酒屋前に集まっていた。
男子の大半を虜にする女性、志水さんは愛莉が呼んだもう一人の女性……江口さんと対峙していた。
「あら、お久しぶりね、江口さん」
「こんばんは、志水さん。お久しぶり」
江口さんの側にいる石原君はおたおたしている。
頑張れ石原君。
しかし新歓コンパなのに居酒屋ってありなのか?
だいたい、サークルにも入ってない僕たちを呼んで意味があるのか?
「皆さんお待たせしました。さあ、店の中にどうぞ!」
サッカー部の主将がそう叫ぶと皆はぞろぞろと中に入る。
僕の隣には愛莉がくっつくようにぴったりとその隣に江口さんそして石原君。
僕の向かいには酒井君、そして知らない女性、志水さん、中島君。
酒井君の恰好はいつも通りの格好だ。
隣の女性は寄り付きたくも無いらしい、志水さんに寄っている。
笑顔でにらみ合う志水さんと江口さん。
右手で握手して左手で殴り合う。
某南北の国の会談のようなオーラを放っている志水さんに近寄れるとはすごいな。
「それじゃ、今夜は楽しんじゃってください。かんぱーい」
僕達はソフトドリンクを頼んでいた。
「あら?あなたお酒も飲めない子供なの?」
志水さんの挑発に簡単に引っかかる。
「シャンパンくらいなら飲むわよ?」
「あら?そうなの?残念ね!この店にシャンパンは無いわよ」
めっちゃ挑発してくるなこの女性。
高笑いする志水さんに、ムカッときたのか。
「すいません、この女の飲んでるものと同じものを」
「ちょ、ちょっと恵美やめときなよ……」
「僕もそう思うよ恵美……また、大変なことになるよ」
愛莉と石原君が江口さんを止めようとするが。
「帰りは新條に任せてあるから大丈夫!こんな雑魚になめられたくない」
石原君は表情がかたまる。
志水さんの眉間に一瞬しわが寄る。
だが、すぐに笑顔になり。
「慣れないことはするもんじゃないわよ?後で恥ずかしいことになるから」
「ご心配なく、初めてではないので」
そんなやりとりをぽかーんとみてる僕と酒井君。
「片桐君、志水さんってこんな人なの?」と、酒井君が聞いてくる。
こんな人らしいよ酒井君。
「そちらのお嬢さんは飲まないの?」
愛莉にも喧嘩を売ってくるスタイル。
「そうよ、飲みなさいよ」と、隣の女性も煽ってくる。
しかし、愛莉は挑発に乗らない。
「私が初めて飲むのは彼と二人っきりでって決めてるから~」
そう言って僕の腕に抱きつく愛莉。
「あ、彼氏さんいたんだ。ていうかここ女性だけかと思ってた~」
「お、おれもいるから」と中島君。
「あ、そっか。ていうか後の3人誰?」
すっごい失礼な女性だな?
「観、皆自己紹介しよっか?俺中島。サッカー部やってる」
「私は志水よ、よろしく」
「僕は酒井です、なぜこの場に呼ばれたのかは分からないけど……」
「長い次!」
お前は自己紹介すらしてないけどな。
「僕は片桐ですよろしく」
「片桐君の婚約者の遠坂です。よろしくお願いします」
最近アピール激しいな。
「あら?冬夜君からプロポーズ受けたの?」
江口さんが、驚いている。
「4年間だけ待ってって。そしたら素敵なセリフ聞かせてくれるからって」
愛莉は脳内でアルコールを分泌してるんじゃないだろうか?
妄想が凄いぞ……嘘じゃないけど。
「ふん、こんな冴えない男とよく婚約まで考えたわね、もったいない……お代わり」と、志水さん。
「うぅ……、こう見えても冬夜君カッコいいところあるも……」
愛莉の口を塞ぐ江口さん。
「愛莉ちゃん、こんな物の真価も見定められない下種と言い争っても無駄よ……おかわり」
いや、ちょっと待ってください、今凄い事言いましたよ。その飲んでる液体に火をつけるようなもんですよ。
「最後に僕ですね、石原といいま……」
「今何と言ったのか、分からなかったのだけど。江口さん?」
「気にしないで?本当の事を言っただけだから」
「そう?物の真価が分かるあなたには左にいる男がプラチナのように光っているわけね」
ハンと鼻で笑う志水さん。
因みに中島君と女性は他の席に挨拶に行ってる。
「プラチナよりももっと素敵に見えるわよ。言ったでしょ、そこら辺の石ころなんかよりずっとずっと一番大切なものに気づくときがくるって、それともあなたは相変わらず雑魚を連れて歩いて満足してるわけ?」
「時々いるのよね。あなたみたいな人。そこら辺の男で満足してる負け組が」
「負け組だっていいじゃない、私は負けたって平気だよ?だって、他の人には絶対に分からない男性がそばにいてくれてるんだもの?何言われたって平気」
愛莉が話に加わる。
ある意味女子会か?
僕と石原君と酒井君はもはや蚊帳の外だ。
他の席に移ればいい?
石原君には無理でしょう。必死に立ち上がろうとする江口さんを抑えてる。ウーロン茶を頼もうとすると。
「ウーロンハイの間違いでしょう!」と遮られる始末。
結構庶民的な飲み物知ってるんだね。
僕?うん、一人なら逃げ出したね。ただ、愛莉が隣で腕を掴んで首をフルフル振っているから。そんな事されて置いてくことできる?できないでしょ?
酒井君は僕以外に知り合いいないから一緒にいるって感じ。
ただ隣の志水さんをじっと見てる。
「負けたって平気って言ってる時点で負け組なのよ。高みを目指せないでいる雑魚が自分の価値を吊り上げようと必死なだけよ」
「雑魚ですって!」
「雑魚に雑魚って言って何が悪いの……!?」
酒井君が驚くべき行動に出た。
志水さんの腕を引っ張り店の外に連れ出す。
皆が唖然として二人を見ていたが、志水さんの取り巻きが慌てて外に出ようとする。
気がついたらドアの前に立ってた。
「お前どけよ」
「いや、今志水さん取り乱してるから誰にも見られたくないと思うんだよね。そんなとこ見て幻滅したくないでしょ?」
説得が通じたのか……いや、違った。
矛先が変わっただけだ。僕が隣の席を開けた愛莉に。
「君もかわいいね?学部どこ?」
「今一人?彼氏いる?」
「今何歳?お酒飲める?むしろ飲もうよ」
ああ、忙しいなもう。
愛莉の隣に戻る。
「またお前かよ!お前は志水さんのあと追ってればいいだろ?」
いや、雑魚と言われて追い返されたんですけどね。
きっとあなた達の方が彼女にふさわしいと彼女は思ってますよ。
そのときまた火に油……、いやジェット燃料でも注いだんじゃないかと思うくらいの痛烈な一言を放った。
「これだから、どいつもこいつも、自分だけの綺麗な花を咲かすことも見つける事も出来やしない雑魚だっていうのよ」
一瞬静寂が辺りを包む。
次の瞬間業火を上げる。
「君も美しいね、名前なんて言うの!?」
「学部どこ!?」
「このあと2次会二人で行かない?」
彼女の臨界点に達する前に店の戸がガラガラっと開いた。
志水さんが立っていた。
「女神が戻ってきたぞー!」
と、群れが再び移動しようとすると、志水さんの一言が動きを止める。
「私帰るわ」
にこりと笑うと、そう言って店を出て行った。
後から店に戻ってきた、酒井君に男どもが詰め寄る。
「お前何したんだよ!」
酒井君はハハハと笑って僕を見る。
いや、そんな助けを乞うような目で見られたって出来る事なんてそんなにないよ?
僕は僕で
「冬夜君怖かったよ~」
と抱き着く愛莉をどうにかするので精一杯なんだから。
中島君はさっき隣にいた娘と仲良く飲んでた。
(4)
咄嗟の判断だった。
「雑魚」という言葉が出る前に行動していた。
志水さんを捕まえ外に連れ出すという行為。
外で「何のつもり?」と問い詰められる僕。
「さっきの発言は良くないよ。君には分からないだろうけど」
「どういう意味?」
うーん例えが難しいな。
冬夜君的考えでいってみるか。
「志水さんはソース派なんだね」
なに言ってんのこいつみたいな目で見られてるけど大丈夫かな……?
「素材そのものより料理の仕方を重視するみたいな。A5というブランドで価値を決めるみたいな」
ジト目はまだ続いている。
「でも江口さんは違う。その素材そのものを重視する。味付けなんてどうでもいい。ブランドなんて関係ない、自分が選んだ絶品をこう評価して後は自分で調理するからみたいな」
「私が上辺だけしか見てないというの?」
「その考え方を否定するつもりはないよ。ただどちらの言い分も味見する客が関係なく激辛ソースをかけたら料理を冒とくしてるって怒るでしょ?志水さんのやった行為はそういうことだよ」
「なるほどね……端から土俵が違ったという事ね」
「そういう事」
分かってもらえたようだ。
「じゃあ、同じ土俵で勝負してやろうじゃない。彼女のいう素材で勝負してあげる。……あなた適任ね」
「はい?」
「石原君だったかしら?彼といい勝負してくらい冴えない。あなたを如何に上品に仕上げるかで勝負してあげようじゃない」
「そ、それも違うと思うよ」
「どうして?」
「石原君は江口さんにとってかけがえのない人になってるんでしょ?僕をどうこうしたところで江口さんにとって石原君以上の存在はあり得ないよ」
「……つまり私があなたを好きになればいいのね?そしてあの二人以上のカップルになる」
この人酔ってるんだったな。
次の日になれば忘れてるか。
「まあ、僕の気持ちを完全に無視してる感は否めないけどね」
「……今日は醜態を晒してしまったわ。後日また改めてあなたに会いに行くから」
へ?
「今日はありがとう、私に説教したのはあなたが初めてよ。良い度胸してるわ。そこは認めてあげる」
彼女はスマホを取り出し誰かに連絡している。
そして店の中に入り「今日は帰ります」と言って店を出た。
「じゃあ迎えが来るからまた明日。またね。酒井君」
そう言って彼女は立ち去って行った。
……ってそんなわけいかないよね。
さすがに酔ってる女性を一人の話にはできない。
志水さんの後を追いかけていく。
「どうしたの?」
「一人で歩かせるわけにはいかないよ」
「そういう配慮もあるのね」
そして百貨店の前で待っているとリムジンがとまった。
本当にこんな車乗る人いるんだ。
「じゃ、ありがとうね。酒井君」
リムジンが去って行った。
「ソースとスパイスか……なんか違うなぁ」
片桐君からダメ出しを食らう。
「じゃあ片桐君なら何に例えるんだい?」
う~んと頭を悩ませる片桐君。
「牛丼屋の違いくらい?」
ああ、なるほどね。
「安さか早さか、美味さか。そのくらいの違いのような気がするんだよね。どれも自分の好みを否定されたら怒るでしょ」
「それならファミレスでもラーメン屋さんでもいいんじゃない?」と、遠坂さん。
「ていうか普通にアイドルグループの誰推し?でいいと思うんですよね」と、石原君。
ぽかっ
片桐君が頭を叩かれてる。
「何でも食べ物に例えようとするから悩むんだよ!」
遠坂さんは言う。
「それにしてもイッシーさっきは格好良かったわよ。私と雑魚共の群れの間に割って入って私を守る様はなかなかだったわ」
そんなことがあったんだね。
「あれほど言ってるじゃないか。僕の事で怒るのは良いけどほどほどにしときなよって。挑発に乗ってこんなに飲んでしまって……歩ける?」
「大丈夫に決まってるでしょ?このくらいなんてことないから」
「縁もたけなわですがそろそろ1次会終了にします。2次会に行かれる方は……」
「僕は帰るけどどうする?」
「僕たちも帰るよ」と片桐君。
「君を送らないとね」と付け足して
(5)
「でも大変だね。結局志水さんの目に止まっちゃったんでしょ?どうするの?」
車の中で片桐君は言う。
「多分お酒入ってたし、連休明けには忘れてるよ」
僕がそう言うと「だと、いいね……」と一言ぼそっと言った。
「酒井君、揺らいだらダメだからね!」
遠坂さんが力強くそう言った。
「またのろけ話になっちゃうけど私たちも何度も揺らいだの。でも絆があれば何度でもやり直しがきく。相手の事を強く思って」
まだそんな段階じゃないと思ってますけど。
「その時はすぐ来るよ」
片桐君はそう言って他人事のように笑う。
「どういう意味……?」
その時メッセージが来た。一ノ瀬さんからだ。
昨日からずっとやりとりしてる。
「グループチャット見ました?明後日から楽しみですね」
何のことだ?
グループチャットを見る。
「木曜12:00湯布院の道の駅に集合!」
はい?
どうやって行けと?
「10時には迎えに行くよ」
知ってたんですね、片桐君。
「パスは通したからね、あとは決めるだけだよ」
その時僕達はまだ知らなかった。
思わぬDFに遭遇することになることを……。
ピロリーン。
スマホのメッセージ着信音で目が覚めた。
こんな時間から誰だろ?
スマホを取ろうとベッドから出ようとすると愛莉が抱き着いて離さない。
「起きてるんだろ?ちょっとスマホ取るだけだから」
そう言うとパッと手が離れる。
愛莉の顔を見るとにっこり笑ってる。
「今日1限目からだよね?私朝食の準備してくる」
愛莉は着替えると、部屋を出て行った。
スマホを見る。
「片桐君今ちょっといいかな?朝早くからごめん」
「いいよ。どうしたんだい?」
返信が来るまでに着替えを終える。
大学生って楽でいいなあ。
ラフな格好でも許されるんだから。
まあ、どこまで楽できるかなって某スポーツメーカーのジャージを着て行こうとしたら愛莉に怒られたけど。
「婚約者に恥かかせる気!?」って……。
返事が返ってきた。
「今日1限目だよね?ちょっと話があるんだけど」
「いいけど酒井君2限目からじゃなかったっけ?」
「ゆっくり話したいから1限目でとくよ。外国語でよかったよね?」
「うん、そうだよ」
「じゃ、その時に。紹介したい人もいるけどいいよね?」
「紹介したい人?」
「あ、女性とかじゃないから心配しないで」
まあ、いつもこっちから頼んでるし、偶にはいいか?
「愛莉が一緒で大丈夫な話なら」
「それは大丈夫」
「じゃあ、教室で」
そう言うと荷物をとって下に降りて行った。
1限目。
「しかしどうしたんだい?履修してない科目の時間に話があるってだけで来るなんて」
僕は酒井君に聞いていた。
「先ず紹介するねサッカー部の中島君」
ちょっと色黒の体格のいい男性が礼をする。
「中島です、よろしく。噂はかねがね……」
「サッカーの勧誘なら断るよ」
「そうじゃないんだよ、実は……新歓コンパに僕と片桐君を誘ってくれって言われたらしくて」
サッカー、コンパ……。
その言葉が出るごとに愛莉から覇気を感じる僕。
「サッカー部に入ってなくてもいいから誘えって先輩から言われてて」
申し訳なさそうに言う、中島君。
「あの、嫌だったら断ってもいいんだよ。」
「いいよ」
へ?
愛莉の意外な言葉に思わず振り返る僕。
「花見の一件もあるしね、たまには酒井君の顔も立ててあげようよ」
愛莉でもそう言う義理気にするんだな。
「ありがとう、助かります」
中島君に拝まれる僕。
「ただし条件がありま~す」
何となく予想がついた。
「私も一緒に行くから~」
唖然とする二人。
「む、むしろ来てくれるのは助かるんだけど……いいの?」と、中島君。
「冬夜君一人をコンパに行かせるなんて、婚約者として認めません」
だろうな。言うと思ったよ。
「もう一つ頼みたいんだけど……」
中島君がお願いをする。
「なに?」
「女性をあと一人連れてきて欲しいんだよね。酒井に頼んでも一ノ瀬さんくらいしか知らなくてさ」
「僕も似たようなもんだよ?」
「神奈はバイトって言ってたし……あっ、学部違くてもいいんだよね?」
「まあ、それは良いと思うけど」
「一人用意しとくね。多分男性も一人増えると思うけどいいかな?」
「それはもちろん」
この時ちゃんと誰を呼ぶのか聞いておけばよかった。
むしろ愛莉の交友関係を考えると気づくべきだったのかもしれない。
(3)
夕方18時。
僕達は府内の居酒屋前に集まっていた。
男子の大半を虜にする女性、志水さんは愛莉が呼んだもう一人の女性……江口さんと対峙していた。
「あら、お久しぶりね、江口さん」
「こんばんは、志水さん。お久しぶり」
江口さんの側にいる石原君はおたおたしている。
頑張れ石原君。
しかし新歓コンパなのに居酒屋ってありなのか?
だいたい、サークルにも入ってない僕たちを呼んで意味があるのか?
「皆さんお待たせしました。さあ、店の中にどうぞ!」
サッカー部の主将がそう叫ぶと皆はぞろぞろと中に入る。
僕の隣には愛莉がくっつくようにぴったりとその隣に江口さんそして石原君。
僕の向かいには酒井君、そして知らない女性、志水さん、中島君。
酒井君の恰好はいつも通りの格好だ。
隣の女性は寄り付きたくも無いらしい、志水さんに寄っている。
笑顔でにらみ合う志水さんと江口さん。
右手で握手して左手で殴り合う。
某南北の国の会談のようなオーラを放っている志水さんに近寄れるとはすごいな。
「それじゃ、今夜は楽しんじゃってください。かんぱーい」
僕達はソフトドリンクを頼んでいた。
「あら?あなたお酒も飲めない子供なの?」
志水さんの挑発に簡単に引っかかる。
「シャンパンくらいなら飲むわよ?」
「あら?そうなの?残念ね!この店にシャンパンは無いわよ」
めっちゃ挑発してくるなこの女性。
高笑いする志水さんに、ムカッときたのか。
「すいません、この女の飲んでるものと同じものを」
「ちょ、ちょっと恵美やめときなよ……」
「僕もそう思うよ恵美……また、大変なことになるよ」
愛莉と石原君が江口さんを止めようとするが。
「帰りは新條に任せてあるから大丈夫!こんな雑魚になめられたくない」
石原君は表情がかたまる。
志水さんの眉間に一瞬しわが寄る。
だが、すぐに笑顔になり。
「慣れないことはするもんじゃないわよ?後で恥ずかしいことになるから」
「ご心配なく、初めてではないので」
そんなやりとりをぽかーんとみてる僕と酒井君。
「片桐君、志水さんってこんな人なの?」と、酒井君が聞いてくる。
こんな人らしいよ酒井君。
「そちらのお嬢さんは飲まないの?」
愛莉にも喧嘩を売ってくるスタイル。
「そうよ、飲みなさいよ」と、隣の女性も煽ってくる。
しかし、愛莉は挑発に乗らない。
「私が初めて飲むのは彼と二人っきりでって決めてるから~」
そう言って僕の腕に抱きつく愛莉。
「あ、彼氏さんいたんだ。ていうかここ女性だけかと思ってた~」
「お、おれもいるから」と中島君。
「あ、そっか。ていうか後の3人誰?」
すっごい失礼な女性だな?
「観、皆自己紹介しよっか?俺中島。サッカー部やってる」
「私は志水よ、よろしく」
「僕は酒井です、なぜこの場に呼ばれたのかは分からないけど……」
「長い次!」
お前は自己紹介すらしてないけどな。
「僕は片桐ですよろしく」
「片桐君の婚約者の遠坂です。よろしくお願いします」
最近アピール激しいな。
「あら?冬夜君からプロポーズ受けたの?」
江口さんが、驚いている。
「4年間だけ待ってって。そしたら素敵なセリフ聞かせてくれるからって」
愛莉は脳内でアルコールを分泌してるんじゃないだろうか?
妄想が凄いぞ……嘘じゃないけど。
「ふん、こんな冴えない男とよく婚約まで考えたわね、もったいない……お代わり」と、志水さん。
「うぅ……、こう見えても冬夜君カッコいいところあるも……」
愛莉の口を塞ぐ江口さん。
「愛莉ちゃん、こんな物の真価も見定められない下種と言い争っても無駄よ……おかわり」
いや、ちょっと待ってください、今凄い事言いましたよ。その飲んでる液体に火をつけるようなもんですよ。
「最後に僕ですね、石原といいま……」
「今何と言ったのか、分からなかったのだけど。江口さん?」
「気にしないで?本当の事を言っただけだから」
「そう?物の真価が分かるあなたには左にいる男がプラチナのように光っているわけね」
ハンと鼻で笑う志水さん。
因みに中島君と女性は他の席に挨拶に行ってる。
「プラチナよりももっと素敵に見えるわよ。言ったでしょ、そこら辺の石ころなんかよりずっとずっと一番大切なものに気づくときがくるって、それともあなたは相変わらず雑魚を連れて歩いて満足してるわけ?」
「時々いるのよね。あなたみたいな人。そこら辺の男で満足してる負け組が」
「負け組だっていいじゃない、私は負けたって平気だよ?だって、他の人には絶対に分からない男性がそばにいてくれてるんだもの?何言われたって平気」
愛莉が話に加わる。
ある意味女子会か?
僕と石原君と酒井君はもはや蚊帳の外だ。
他の席に移ればいい?
石原君には無理でしょう。必死に立ち上がろうとする江口さんを抑えてる。ウーロン茶を頼もうとすると。
「ウーロンハイの間違いでしょう!」と遮られる始末。
結構庶民的な飲み物知ってるんだね。
僕?うん、一人なら逃げ出したね。ただ、愛莉が隣で腕を掴んで首をフルフル振っているから。そんな事されて置いてくことできる?できないでしょ?
酒井君は僕以外に知り合いいないから一緒にいるって感じ。
ただ隣の志水さんをじっと見てる。
「負けたって平気って言ってる時点で負け組なのよ。高みを目指せないでいる雑魚が自分の価値を吊り上げようと必死なだけよ」
「雑魚ですって!」
「雑魚に雑魚って言って何が悪いの……!?」
酒井君が驚くべき行動に出た。
志水さんの腕を引っ張り店の外に連れ出す。
皆が唖然として二人を見ていたが、志水さんの取り巻きが慌てて外に出ようとする。
気がついたらドアの前に立ってた。
「お前どけよ」
「いや、今志水さん取り乱してるから誰にも見られたくないと思うんだよね。そんなとこ見て幻滅したくないでしょ?」
説得が通じたのか……いや、違った。
矛先が変わっただけだ。僕が隣の席を開けた愛莉に。
「君もかわいいね?学部どこ?」
「今一人?彼氏いる?」
「今何歳?お酒飲める?むしろ飲もうよ」
ああ、忙しいなもう。
愛莉の隣に戻る。
「またお前かよ!お前は志水さんのあと追ってればいいだろ?」
いや、雑魚と言われて追い返されたんですけどね。
きっとあなた達の方が彼女にふさわしいと彼女は思ってますよ。
そのときまた火に油……、いやジェット燃料でも注いだんじゃないかと思うくらいの痛烈な一言を放った。
「これだから、どいつもこいつも、自分だけの綺麗な花を咲かすことも見つける事も出来やしない雑魚だっていうのよ」
一瞬静寂が辺りを包む。
次の瞬間業火を上げる。
「君も美しいね、名前なんて言うの!?」
「学部どこ!?」
「このあと2次会二人で行かない?」
彼女の臨界点に達する前に店の戸がガラガラっと開いた。
志水さんが立っていた。
「女神が戻ってきたぞー!」
と、群れが再び移動しようとすると、志水さんの一言が動きを止める。
「私帰るわ」
にこりと笑うと、そう言って店を出て行った。
後から店に戻ってきた、酒井君に男どもが詰め寄る。
「お前何したんだよ!」
酒井君はハハハと笑って僕を見る。
いや、そんな助けを乞うような目で見られたって出来る事なんてそんなにないよ?
僕は僕で
「冬夜君怖かったよ~」
と抱き着く愛莉をどうにかするので精一杯なんだから。
中島君はさっき隣にいた娘と仲良く飲んでた。
(4)
咄嗟の判断だった。
「雑魚」という言葉が出る前に行動していた。
志水さんを捕まえ外に連れ出すという行為。
外で「何のつもり?」と問い詰められる僕。
「さっきの発言は良くないよ。君には分からないだろうけど」
「どういう意味?」
うーん例えが難しいな。
冬夜君的考えでいってみるか。
「志水さんはソース派なんだね」
なに言ってんのこいつみたいな目で見られてるけど大丈夫かな……?
「素材そのものより料理の仕方を重視するみたいな。A5というブランドで価値を決めるみたいな」
ジト目はまだ続いている。
「でも江口さんは違う。その素材そのものを重視する。味付けなんてどうでもいい。ブランドなんて関係ない、自分が選んだ絶品をこう評価して後は自分で調理するからみたいな」
「私が上辺だけしか見てないというの?」
「その考え方を否定するつもりはないよ。ただどちらの言い分も味見する客が関係なく激辛ソースをかけたら料理を冒とくしてるって怒るでしょ?志水さんのやった行為はそういうことだよ」
「なるほどね……端から土俵が違ったという事ね」
「そういう事」
分かってもらえたようだ。
「じゃあ、同じ土俵で勝負してやろうじゃない。彼女のいう素材で勝負してあげる。……あなた適任ね」
「はい?」
「石原君だったかしら?彼といい勝負してくらい冴えない。あなたを如何に上品に仕上げるかで勝負してあげようじゃない」
「そ、それも違うと思うよ」
「どうして?」
「石原君は江口さんにとってかけがえのない人になってるんでしょ?僕をどうこうしたところで江口さんにとって石原君以上の存在はあり得ないよ」
「……つまり私があなたを好きになればいいのね?そしてあの二人以上のカップルになる」
この人酔ってるんだったな。
次の日になれば忘れてるか。
「まあ、僕の気持ちを完全に無視してる感は否めないけどね」
「……今日は醜態を晒してしまったわ。後日また改めてあなたに会いに行くから」
へ?
「今日はありがとう、私に説教したのはあなたが初めてよ。良い度胸してるわ。そこは認めてあげる」
彼女はスマホを取り出し誰かに連絡している。
そして店の中に入り「今日は帰ります」と言って店を出た。
「じゃあ迎えが来るからまた明日。またね。酒井君」
そう言って彼女は立ち去って行った。
……ってそんなわけいかないよね。
さすがに酔ってる女性を一人の話にはできない。
志水さんの後を追いかけていく。
「どうしたの?」
「一人で歩かせるわけにはいかないよ」
「そういう配慮もあるのね」
そして百貨店の前で待っているとリムジンがとまった。
本当にこんな車乗る人いるんだ。
「じゃ、ありがとうね。酒井君」
リムジンが去って行った。
「ソースとスパイスか……なんか違うなぁ」
片桐君からダメ出しを食らう。
「じゃあ片桐君なら何に例えるんだい?」
う~んと頭を悩ませる片桐君。
「牛丼屋の違いくらい?」
ああ、なるほどね。
「安さか早さか、美味さか。そのくらいの違いのような気がするんだよね。どれも自分の好みを否定されたら怒るでしょ」
「それならファミレスでもラーメン屋さんでもいいんじゃない?」と、遠坂さん。
「ていうか普通にアイドルグループの誰推し?でいいと思うんですよね」と、石原君。
ぽかっ
片桐君が頭を叩かれてる。
「何でも食べ物に例えようとするから悩むんだよ!」
遠坂さんは言う。
「それにしてもイッシーさっきは格好良かったわよ。私と雑魚共の群れの間に割って入って私を守る様はなかなかだったわ」
そんなことがあったんだね。
「あれほど言ってるじゃないか。僕の事で怒るのは良いけどほどほどにしときなよって。挑発に乗ってこんなに飲んでしまって……歩ける?」
「大丈夫に決まってるでしょ?このくらいなんてことないから」
「縁もたけなわですがそろそろ1次会終了にします。2次会に行かれる方は……」
「僕は帰るけどどうする?」
「僕たちも帰るよ」と片桐君。
「君を送らないとね」と付け足して
(5)
「でも大変だね。結局志水さんの目に止まっちゃったんでしょ?どうするの?」
車の中で片桐君は言う。
「多分お酒入ってたし、連休明けには忘れてるよ」
僕がそう言うと「だと、いいね……」と一言ぼそっと言った。
「酒井君、揺らいだらダメだからね!」
遠坂さんが力強くそう言った。
「またのろけ話になっちゃうけど私たちも何度も揺らいだの。でも絆があれば何度でもやり直しがきく。相手の事を強く思って」
まだそんな段階じゃないと思ってますけど。
「その時はすぐ来るよ」
片桐君はそう言って他人事のように笑う。
「どういう意味……?」
その時メッセージが来た。一ノ瀬さんからだ。
昨日からずっとやりとりしてる。
「グループチャット見ました?明後日から楽しみですね」
何のことだ?
グループチャットを見る。
「木曜12:00湯布院の道の駅に集合!」
はい?
どうやって行けと?
「10時には迎えに行くよ」
知ってたんですね、片桐君。
「パスは通したからね、あとは決めるだけだよ」
その時僕達はまだ知らなかった。
思わぬDFに遭遇することになることを……。
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