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3rdSEASON
僕らは一人じゃない
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(1)
愛莉の説得に成功して一日平均3限くらいで済んだ。
まあ、空いた時間に愛莉の相手をしてやらないといけないんだけど。
別にイヤじゃないよ?
だからこうして昨日から愛莉が泊まりに来てる。
「ん~朝だ。冬夜君寝てるかな」
愛莉って頭は良いけどアホの子なんだな?ってたまに思う。
そこがまた可愛らしいんだけど。
「……うん、やってみよう」
朝に弱い僕を考慮してくれたのか1限目の講義は極力避けてもらえてる。
受けなきゃいけないのもあるけど、今日は2限目からだ。
「あ、あった~。これを着て……」
バイトは出来ないけど経済的支援は親から全面的に受けている。
良い親の下に産まれてこれたんだなぁと感謝しないとな。
「冬夜君そろそろ時間だよ」
あ、時間らしい。じゃあ、そろそろ目を覚まそうか?
「おはよう……ってえっ!?」
愛莉の姿を見て目を疑った。
裸の上にぼくのYシャツを着て立っている。
「朝から何やってんの!?」
ほら、生地が薄いから体のシルエットが……。
「あれ?男の人は大抵喜ぶって神奈からきいたんだけど」
何を吹き込んでるんだ神奈は!
「いやだった?」
その姿でそんな座り方してそんな顔してそのセリフは反則だぞ。
「……可愛いよ」
「わ~い、褒められた~」
愛莉は喜んでいる。
その姿ではしゃぐのは、もっと反則だ。
「他人のYシャツをしょうもない事に……」
「うぅ……しょうもないことじゃないもん。冬夜君に喜んでもらおうと思って……」
愛莉に近づく。
「Yシャツ汚しちゃったの怒ってる?……きゃっ!」
愛莉を抱きしめて、キスをする。
「どうしようもなく可愛いやつだな」
きょとんとしてる愛莉。
もうその姿が凶器すぎるぞ……。
「あ、急いで着替えないと遅刻しちゃうよ」
時計を見る。
あ、もうこんな時間。
「愛莉急ごう!」
慌てて着替える僕の背後から抱きしめる愛莉。
「受講終わったら続きしようね」
(2)
酒井君とは偶に合う。
恐らくみんなが履修してるであろう、第一外国語と基礎演習の時に授業が一緒になる。
その時に色々と聞く。
「あの科目はテスト重視じゃないらしいからピッとしておくだけで単位取れるよ」とか
「その科目は毎回テストの内容同じらしいから先輩から問題用紙もらっとくといい」とか。
もちろんそんなの愛莉が許すはずが無いけど。
「ちゃんとお金払ってもらって入学したんだからきちんと受講するの!」
ってな感じにね。
「でも酒井君良くそんな情報仕入れてくるね」
自分に興味が無いと知って安心したのか、愛莉が酒井君に話しかける。
「友達がサークルに入っててさ、それで先輩とかからレクチャーされたの聞いてるだけだよ」
「へえ、何のサークル?」
「サッカー部だよ」
「……そうなんだ」
愛莉の表情が曇る。
これはやばい。
僕が何かを言おうとすると酒井君が笑って話した。
「そんなに怖がらないでよ、僕も情報と引き換えにサッカー部に入れって脅されてる口でね。バイトあるから無理って断ったんだ。片桐君たちもそうなんでしょ?」
「いや、バイトやってないんだ」
僕が答えた。
「ああ、面接決まらない?バイト先紹介しようか?」
「そうじゃなくて、バイトしないって決めたんだ」
「?」
「バイトじゃなくて彼女優先にしようと思ってね」
「なるほどね、でもそれなら尚更お金いるんでないかい?」
「当面お金の心配はしなくていいみたいだから」
「そうなんだ」
これ以上は深入りしないほうがいいだろう。酒井君はそう感じたのか、話題を切り替えた。
「それならサークル入っておいた方が良いかも。交流を深めて色々情報仕入れられるから。」
「一人じゃないから」
「へ?」
「高校時代からの仲間がいるから何とかやっていけてるよ」
「そうなんだ羨ましいね」
彼はそう言っているがあまり興味なさげだ。
大体彼と話していると、そんな感じがする。
自分から話しかけておいてそれはないだろとは思ったんだが……。
大学の授業は1限90分とかなり長い。
正直眠くなる。
それでもメモ取っておかないと後で大変なことになる。
まあ、愛莉っていう保険がついてるけどね。
愛莉と一緒の授業っていうリスクはあるけど。
4限が終わると、大学を出る。
と、思ったら愛莉が突然言い出した。
「5限目ドイツ語があるの。ちょっと覗いていかない?」
履修してない科目をわざわざ受けるの?
「ピッとはしないけど、覗くだけ。冬夜君ドイツ語とか好きそうじゃん」
ちなみにピッとは学生証がICカードになっていてカードリーダーにピッっとするだけでその授業に出席したことになるシステム。
だから、ピッとするだけで講義には出ない人も多数いるとか。
小テストとかは、先輩に出題範囲聞いて勉強しとくらしい。
「愛莉が受けたいならいいよ」
そう言って教室にむかう。
後ろの方にちょこんと聞いて授業を受ける。
うん、わけわかんね。
フランス語だけでも難しいのに無理。
まあ、フランス語よりは楽らしいけど。
5限を終えると。夜になってる。
「この時間だしちょっとコーヒーでも飲んで帰ろうか?」
「うん、私紅茶が良い」
近所の喫茶店に寄って注文を取る。
「あれ?君たちこの店良く来るの?」
髪型をびしっと決めた制服姿が良く似あう男性。
愛莉は誰だか察しが着いたようだ。
「酒井君、ここでバイトしてるの?」
酒井君!?全然見た目が違うよ?
「ハハハ、授業の時はあれでいいんだけど、接客業だしね。ご注文は?」
「アールグレイありますか?」
「僕はブラックで」
「はい、少々お待ちください」
酒井君は、厨房で待ってる女性に注文を伝えると女性は笑ってオーナーに伝える。
「あの二人なんか感じ良いね?」
愛莉がひそひそ話をする。
「そうかな?」
「うん、なんかいい雰囲気」
愛莉が言うんだからそうなんだろうな。
お互い飲み物を飲み終えると店を出る。
財布は愛莉が持ってる。
「その財布はどうかと思うよ」
と、酒井君は愛莉の財布と勘違いしたんだろう。
「う~ん冬夜君のだけど、やっぱり買い換えた方が良いよね?今から行こっか?ショッピングモールで売ってるよ」
「それは良いんだけど……」
また高いもの買うんだろうなあ。
「私が選んであげる。大丈夫私からのプレゼントだから」
「い、いいよ。自分で買うから」
「いつも冬夜君にしてもらってばかりだもん、日頃の感謝の意を込めて……受け取ってください」
「わかったよ」
お気に入りだったんだけどな、あの財布。
(3)
「カード払いでお願いします」
そう言ってカードを差し出す。
「はい、しばらくおまちください」
店員がレジにカードを通して操作している。
愛莉が選んだ財布は少々値が張るものだった。
現金で買えないものじゃないけど、極力カードで決済できるものはカードで払っていた。
まあ、そんなに大したものを買うわけじゃないけど。
親の好意に甘えていた。
「はい、カードをお返しします」
財布は包装して手渡された。
「ありがとうございました」
店員に礼をして帰る。
愛莉がちょっとはなれたところで待っていた。
「せっかくだから何か食べて帰ろうか?」
「うん♪」
「何か食べたいのある?」
「なんでもいいよ?」
「今なんでも良いって言ったね?」
「う、うぅ……そう来ますか?」
愛莉に不安の色が見える。
「お好み焼きなんてどう?もんじゃでもいいけど」
因みに僕は両方食べる気でいたね。
「もんじゃ焼なら……でも、お好み焼きも気になるな~」
愛莉が本気で悩んでいる。
「僕は両方行くけどね」
「どうせ後帰って家でくつろぐだけだよね?」
「そうだね」
「ホテルとか行っても歯磨きできるよね?」
「行くつもりはないけどね」
母さんにメッセージを送りながら言ってた。
「……じゃあ、もんじゃとお好み焼きにする。青のり歯に付いてても笑わないでね?」
よっしゃ、完全に愛莉を攻略した!
待ってろよ!お好み焼き!!
ちょっとはなれたフリーモールにあるお好み焼き屋さんに入った。
「僕チーズ豚玉ととろ肉もんじゃと鉄板ねぎ塩牛タン焼」
「……私はイカゲソのレモンバター焼きで」
注文を受けると店員は厨房に向かっていった。
「愛莉お好み焼きはいいのか?」
「冬夜君のをちょっとだけもらうよ、もんじゃ焼も」
そうか、愛莉は小食だったな。それにしてもイカゲソだけだなんて……。
「ひょっとしてカロリー気にしてる?」
ぽかっ
「うぅ……人が気にしてる事を簡単に言うなんて冬夜君の意地悪」
「それなら別のでも良かったのに」
「でも冬夜君食べたかったんでしょ?」
「ま、まあ」
「高2の頃から言ってたもんね」
覚えてたんだな。
「そうだね」
「冬夜君の行きたいところならどこでも良いって言ったから……」
来たお好み焼きの具をかき混ぜて、焼きながら言う。
「でも偶には愛莉の食べたいものを頼んでも……」
僕がそう言うと愛莉はクスリと笑った。
「冬夜君ね。偶に私がこれだなぁ~って思ったのを自然とチョイスしてくれてるんだよ?」
「そうだったの?」
「うん、デートした時に自然と選んでくれてる」
デートの時はマニュアルどうりに動いてるだけだけど……。
「マニュアル通りに動いでるだけかもしれないけど、でも冬夜君は自分の食べたいもの我慢して気づかってくれてるんでしょ?それだけで十分だよ」
なるほどね。
「ところでさ……」
何?
「ん~……やっぱり後で話す」
お好み焼きをひっくり返しながら聞いてた。
「ひそひそ話?」
「冬夜君に恥かかせたくないしね」
お好み焼きにかつお節と青のり……は今回辞めとくか。それとマヨネーズとソースをかける。
それを切ると、愛莉の皿の上にのせてやる。
愛莉は、それを口にする。
「美味しい!冬夜君焼き方上手だね」
「ほら、このマニュアル通りに焼いただけだよ」
「それでもいい焼かげんだよ。初めてにしては上出来だよ……青のり除いてくれたし」
正解だったらしい。
あれだけ気にしてたもの。そりゃ外すでしょ。
僕もお好み焼きと鉄板焼きを食べながら愛莉に話した。
「愛莉はさ、すぐに自分の願いを聞いてくれたからそれだけで幸せっていうけど、もっと甘えて良いんだよ?」
「え?」
「だってこうして僕の細やかな願いも聞いてくれてるじゃないか」
「うん……でも大学の履修の件もあるし」
「愛莉一人じゃないんだよ?僕もいる。僕らはもう一人じゃない。二人。もっといえば渡辺班や酒井君もいる」
「冬夜君……ありがとう」
さて、お好み焼きと鉄板焼きをたいらげたことだしもんじゃ焼くか。
焼いたかすをヘラで捨てると油を塗りなおす。
そしてもんじゃを焼く。
「う~ん、私やっぱりサークル入ろうかな?運動系の」
「どうして?」
「冬夜君次は焼肉食べたいとか言うんでしょ?少しは動いた方がいいかな?って冬夜君もだよ?」
まさかサッカーやれとか言わないよね?
「酒井君が言ってたでしょ、有益な情報も入るって。だから……」
「それならサークルじゃなくてもいいと思うよ」
「え?」
僕はもんじゃを焼き終えると愛莉にスマホを見せた。
そこにはメッセージグループの画面が。
あの科目は結構簡単だったよ。後期に受ける人は受けた方がいいかも。
この科目の過去問先輩から入手した。欲しい人は俺まで連絡待ってる。
といった内容のメッセージがずらりと並んでる。
「僕らはもうひとりじゃない……だね」
「そそ、だから大丈夫だよ。僕らも何か情報提供しないとだけどね」
「大丈夫だよ、ちゃんと授業のポイント押えてるから。試験前に送ればいいよね」
「ズルは無しじゃなかったのか?」
「助けあい、支えあうなら良いんじゃないかなと思って」
もんじゃを食べながら愛莉は言う。
煌めく人生の中で、愛莉に出会えて本当に良かった。
そんな事を考えながら僕はもんじゃを食べてた。
そんな僕を愛莉はじーっと見てる。
顔は笑顔だ。
「どうかした?」
幸せそうに食べるね。とかそんな答えを予想していた。
だけど予想は外れた。
「今素敵な事考えてたでしょ?」
顔見たらわかるよ!って付け足して。
愛莉ってやっぱりエスパーじゃないのか?
もんじゃを食べると車に乗る。
エンジンをかけようとすると愛莉が待ってといった。
「どうしたの?」
愛莉に聞くと愛莉は僕の耳元で囁いた。
「もう財布の中身があまりないよ」って。
「そういう事なら早く言ってくれたら」
「さっき言おうと思ったんだけど鉄板越しに言うのがちょっと嫌で……」
ああ、服に匂いがつくもんな。
「わかった、明日銀行からおろしておくよ」
「うん、ごめんね。足りない時は私出すから」
「大丈夫、口座の中まだあるから」
今月に入って更に入金されてるはずだ。
「冬夜君、りえちゃんが言ってた。二人で一つだって。これからは一緒にお金管理しよ?」
「……そこまで言うなら愛莉に任せるよ」
「うん!」
「じゃ、明日銀行って覚えておいてね。今日は帰ろうか?」
「は~い」
「……今日も泊ってくか?夜勉強するんだろ?」
「いいの?」
「うちの親も似たようなもんだよ。『これからは二人で支え合って生きていけ』ってさ。まだ結婚したわけじゃないんだけどな」
「……うん!」
愛莉の機嫌は良好なようだった。
この日は帰って勉強して寝た。
明日何が起こるか分からない。
でも大丈夫、怖くなんかない。僕らは一人なんかじゃないんだから。
(4)
今日は1限から授業があった。
2限が終わると、イッシーに連絡をとる。
学食で落ち合うことに。
私はお弁当を持って学食に向かう。
するとまたあの女に出くわした。
「あら、こんにちは江口さん」
「こんにちは、志水さん」
互いに後ろには大勢の男子学生がついている。
教育学部では志水さんの派閥と私の派閥の両方に別れているらしい。
迷惑な話だ。
「これからお食事?」
「そうよ」
「それはお弁当?」
「ええ」
「彼氏さんと食べるの?」
「そうよ」
そう言うと背後の雑魚共が、一目見ようと必死になってる。
「良かったら一緒に食べない?」
「……別に構わないけど後ろの方々はいいの?」
「私は別に気にしてないけど?」
「……そう?」
「ちょっとすいません、道を開けてください」
イッシーの声だ。
待ってた。
「ごめん、恵美。ちょっと道が混んでて……ひっ!」
イッシーが怯える。
私の下の名前を呼び捨てにしたのが雑魚共には気に入らなかったらしい。
イッシーに冷たい視線を浴びせている。
本当に鬱陶しい。
「イッシー、待ってたのよ」
これ見よがしに、イッシーの腕を組む。
……愛莉ちゃんも苦労したんだろうな。
イッシーと空いてる席について、弁当を渡す。
「……僕に?」
他に誰がいるのよ。
後ろの雑魚?
ジャンボでも食べてなさい。
私があなたの為に作ったのよ。
「楽しみだな~」
イッシーが弁当箱のふたを開ける。
……見てくれは悪いけど味は確かよ。
ちゃんと味見係に味見させたから。
初めて作った手作りの弁当。
その時一瞬志水さんの口角が上がるのを見逃さなかった。
あなたにだけは笑われたくない。
どうせ包丁を握ったことも無いのでしょう?
その3重箱に入ってるおかずも料理係の者に作らせたのでしょう?
「一人だと食べきれないから皆さんで食べて」
撒き餌をに群がるように群がる雑魚。
「うん、美味しいよ。恵美。何より嬉しい、僕の為に頑張ってくれたんだね」
イッシーが大きな声で言う。
そんなに大きな声で言うと周りの雑魚からまた視線の集中砲火を浴びるわよ?
そんな事は気にせずに食べるイッシー。
……あなたも強くなったのね。
そんな時ぼそりと聞こえた一言。
「なんか幻滅した。行こうぜ」
そう言って解散する私の方についていた雑魚共。
清々したが、志水さんの勝ち誇った顔が気に入らない。
「恵美、気にしたら駄目だよ。この味は恵美にしか出せないし。それを食べることが出来るのは僕だけしかいない。それだけで十分だから」
今日のイッシーは本当に強くなったのね。
イッシーの言葉を聞いてると、志水さんの存在すら雑魚に思えてきた。
負ける気がしない。
負けた気にならない。
勝負じゃないけど、勝負だったとしてもそう思える。
私にはイッシーがいるのだから。
「ごちそうさま」
イッシーが私の弁当をたいらげると私は黙ってその弁当箱をバッグにしまう。
「私もまだまだね、もっときれいな弁当作れるようになるから」
「今のままでも美味しいよ」
「作れるようになるから、待っていてね」
イッシーは黙ってうなずいた。
世間という悪魔に惑わされずに自分の目的という大事なものを。
世間という悪魔に惑わされずに自分が決めた答えを。
「イッシー?今度海に出かけない?」
「?海水浴にはまだ早いよ」
「海を見るだけでいいの。イッシーの運転で海岸線沿いをドライブしてみたいわ」
「いいよ」
海の次はどこを目指そうか?
またでかけようこの世界を。
その後イッシーにイッシーのコンパクトカーに乗せてもらい海に連れて行ってもらった。
中々楽しいドライブだった。
今度は山かな?
そんな時グループメッセージに渡辺君が一言入っていた。
「来週末ファミレスに集合」
何かあったのかしら?
イッシーと顔を見合わせて、メッセージを送る。
「何かあったの?」
「何もないがちょうど一週間だろ?報告会もかねてな」
そういう事が好きな人なのね。
まあ、そう言うのも大事ね。
学部が違うけど皆繋がっている。
怖い事なんてない、私たちは一人なんかじゃないんだから。
愛莉の説得に成功して一日平均3限くらいで済んだ。
まあ、空いた時間に愛莉の相手をしてやらないといけないんだけど。
別にイヤじゃないよ?
だからこうして昨日から愛莉が泊まりに来てる。
「ん~朝だ。冬夜君寝てるかな」
愛莉って頭は良いけどアホの子なんだな?ってたまに思う。
そこがまた可愛らしいんだけど。
「……うん、やってみよう」
朝に弱い僕を考慮してくれたのか1限目の講義は極力避けてもらえてる。
受けなきゃいけないのもあるけど、今日は2限目からだ。
「あ、あった~。これを着て……」
バイトは出来ないけど経済的支援は親から全面的に受けている。
良い親の下に産まれてこれたんだなぁと感謝しないとな。
「冬夜君そろそろ時間だよ」
あ、時間らしい。じゃあ、そろそろ目を覚まそうか?
「おはよう……ってえっ!?」
愛莉の姿を見て目を疑った。
裸の上にぼくのYシャツを着て立っている。
「朝から何やってんの!?」
ほら、生地が薄いから体のシルエットが……。
「あれ?男の人は大抵喜ぶって神奈からきいたんだけど」
何を吹き込んでるんだ神奈は!
「いやだった?」
その姿でそんな座り方してそんな顔してそのセリフは反則だぞ。
「……可愛いよ」
「わ~い、褒められた~」
愛莉は喜んでいる。
その姿ではしゃぐのは、もっと反則だ。
「他人のYシャツをしょうもない事に……」
「うぅ……しょうもないことじゃないもん。冬夜君に喜んでもらおうと思って……」
愛莉に近づく。
「Yシャツ汚しちゃったの怒ってる?……きゃっ!」
愛莉を抱きしめて、キスをする。
「どうしようもなく可愛いやつだな」
きょとんとしてる愛莉。
もうその姿が凶器すぎるぞ……。
「あ、急いで着替えないと遅刻しちゃうよ」
時計を見る。
あ、もうこんな時間。
「愛莉急ごう!」
慌てて着替える僕の背後から抱きしめる愛莉。
「受講終わったら続きしようね」
(2)
酒井君とは偶に合う。
恐らくみんなが履修してるであろう、第一外国語と基礎演習の時に授業が一緒になる。
その時に色々と聞く。
「あの科目はテスト重視じゃないらしいからピッとしておくだけで単位取れるよ」とか
「その科目は毎回テストの内容同じらしいから先輩から問題用紙もらっとくといい」とか。
もちろんそんなの愛莉が許すはずが無いけど。
「ちゃんとお金払ってもらって入学したんだからきちんと受講するの!」
ってな感じにね。
「でも酒井君良くそんな情報仕入れてくるね」
自分に興味が無いと知って安心したのか、愛莉が酒井君に話しかける。
「友達がサークルに入っててさ、それで先輩とかからレクチャーされたの聞いてるだけだよ」
「へえ、何のサークル?」
「サッカー部だよ」
「……そうなんだ」
愛莉の表情が曇る。
これはやばい。
僕が何かを言おうとすると酒井君が笑って話した。
「そんなに怖がらないでよ、僕も情報と引き換えにサッカー部に入れって脅されてる口でね。バイトあるから無理って断ったんだ。片桐君たちもそうなんでしょ?」
「いや、バイトやってないんだ」
僕が答えた。
「ああ、面接決まらない?バイト先紹介しようか?」
「そうじゃなくて、バイトしないって決めたんだ」
「?」
「バイトじゃなくて彼女優先にしようと思ってね」
「なるほどね、でもそれなら尚更お金いるんでないかい?」
「当面お金の心配はしなくていいみたいだから」
「そうなんだ」
これ以上は深入りしないほうがいいだろう。酒井君はそう感じたのか、話題を切り替えた。
「それならサークル入っておいた方が良いかも。交流を深めて色々情報仕入れられるから。」
「一人じゃないから」
「へ?」
「高校時代からの仲間がいるから何とかやっていけてるよ」
「そうなんだ羨ましいね」
彼はそう言っているがあまり興味なさげだ。
大体彼と話していると、そんな感じがする。
自分から話しかけておいてそれはないだろとは思ったんだが……。
大学の授業は1限90分とかなり長い。
正直眠くなる。
それでもメモ取っておかないと後で大変なことになる。
まあ、愛莉っていう保険がついてるけどね。
愛莉と一緒の授業っていうリスクはあるけど。
4限が終わると、大学を出る。
と、思ったら愛莉が突然言い出した。
「5限目ドイツ語があるの。ちょっと覗いていかない?」
履修してない科目をわざわざ受けるの?
「ピッとはしないけど、覗くだけ。冬夜君ドイツ語とか好きそうじゃん」
ちなみにピッとは学生証がICカードになっていてカードリーダーにピッっとするだけでその授業に出席したことになるシステム。
だから、ピッとするだけで講義には出ない人も多数いるとか。
小テストとかは、先輩に出題範囲聞いて勉強しとくらしい。
「愛莉が受けたいならいいよ」
そう言って教室にむかう。
後ろの方にちょこんと聞いて授業を受ける。
うん、わけわかんね。
フランス語だけでも難しいのに無理。
まあ、フランス語よりは楽らしいけど。
5限を終えると。夜になってる。
「この時間だしちょっとコーヒーでも飲んで帰ろうか?」
「うん、私紅茶が良い」
近所の喫茶店に寄って注文を取る。
「あれ?君たちこの店良く来るの?」
髪型をびしっと決めた制服姿が良く似あう男性。
愛莉は誰だか察しが着いたようだ。
「酒井君、ここでバイトしてるの?」
酒井君!?全然見た目が違うよ?
「ハハハ、授業の時はあれでいいんだけど、接客業だしね。ご注文は?」
「アールグレイありますか?」
「僕はブラックで」
「はい、少々お待ちください」
酒井君は、厨房で待ってる女性に注文を伝えると女性は笑ってオーナーに伝える。
「あの二人なんか感じ良いね?」
愛莉がひそひそ話をする。
「そうかな?」
「うん、なんかいい雰囲気」
愛莉が言うんだからそうなんだろうな。
お互い飲み物を飲み終えると店を出る。
財布は愛莉が持ってる。
「その財布はどうかと思うよ」
と、酒井君は愛莉の財布と勘違いしたんだろう。
「う~ん冬夜君のだけど、やっぱり買い換えた方が良いよね?今から行こっか?ショッピングモールで売ってるよ」
「それは良いんだけど……」
また高いもの買うんだろうなあ。
「私が選んであげる。大丈夫私からのプレゼントだから」
「い、いいよ。自分で買うから」
「いつも冬夜君にしてもらってばかりだもん、日頃の感謝の意を込めて……受け取ってください」
「わかったよ」
お気に入りだったんだけどな、あの財布。
(3)
「カード払いでお願いします」
そう言ってカードを差し出す。
「はい、しばらくおまちください」
店員がレジにカードを通して操作している。
愛莉が選んだ財布は少々値が張るものだった。
現金で買えないものじゃないけど、極力カードで決済できるものはカードで払っていた。
まあ、そんなに大したものを買うわけじゃないけど。
親の好意に甘えていた。
「はい、カードをお返しします」
財布は包装して手渡された。
「ありがとうございました」
店員に礼をして帰る。
愛莉がちょっとはなれたところで待っていた。
「せっかくだから何か食べて帰ろうか?」
「うん♪」
「何か食べたいのある?」
「なんでもいいよ?」
「今なんでも良いって言ったね?」
「う、うぅ……そう来ますか?」
愛莉に不安の色が見える。
「お好み焼きなんてどう?もんじゃでもいいけど」
因みに僕は両方食べる気でいたね。
「もんじゃ焼なら……でも、お好み焼きも気になるな~」
愛莉が本気で悩んでいる。
「僕は両方行くけどね」
「どうせ後帰って家でくつろぐだけだよね?」
「そうだね」
「ホテルとか行っても歯磨きできるよね?」
「行くつもりはないけどね」
母さんにメッセージを送りながら言ってた。
「……じゃあ、もんじゃとお好み焼きにする。青のり歯に付いてても笑わないでね?」
よっしゃ、完全に愛莉を攻略した!
待ってろよ!お好み焼き!!
ちょっとはなれたフリーモールにあるお好み焼き屋さんに入った。
「僕チーズ豚玉ととろ肉もんじゃと鉄板ねぎ塩牛タン焼」
「……私はイカゲソのレモンバター焼きで」
注文を受けると店員は厨房に向かっていった。
「愛莉お好み焼きはいいのか?」
「冬夜君のをちょっとだけもらうよ、もんじゃ焼も」
そうか、愛莉は小食だったな。それにしてもイカゲソだけだなんて……。
「ひょっとしてカロリー気にしてる?」
ぽかっ
「うぅ……人が気にしてる事を簡単に言うなんて冬夜君の意地悪」
「それなら別のでも良かったのに」
「でも冬夜君食べたかったんでしょ?」
「ま、まあ」
「高2の頃から言ってたもんね」
覚えてたんだな。
「そうだね」
「冬夜君の行きたいところならどこでも良いって言ったから……」
来たお好み焼きの具をかき混ぜて、焼きながら言う。
「でも偶には愛莉の食べたいものを頼んでも……」
僕がそう言うと愛莉はクスリと笑った。
「冬夜君ね。偶に私がこれだなぁ~って思ったのを自然とチョイスしてくれてるんだよ?」
「そうだったの?」
「うん、デートした時に自然と選んでくれてる」
デートの時はマニュアルどうりに動いてるだけだけど……。
「マニュアル通りに動いでるだけかもしれないけど、でも冬夜君は自分の食べたいもの我慢して気づかってくれてるんでしょ?それだけで十分だよ」
なるほどね。
「ところでさ……」
何?
「ん~……やっぱり後で話す」
お好み焼きをひっくり返しながら聞いてた。
「ひそひそ話?」
「冬夜君に恥かかせたくないしね」
お好み焼きにかつお節と青のり……は今回辞めとくか。それとマヨネーズとソースをかける。
それを切ると、愛莉の皿の上にのせてやる。
愛莉は、それを口にする。
「美味しい!冬夜君焼き方上手だね」
「ほら、このマニュアル通りに焼いただけだよ」
「それでもいい焼かげんだよ。初めてにしては上出来だよ……青のり除いてくれたし」
正解だったらしい。
あれだけ気にしてたもの。そりゃ外すでしょ。
僕もお好み焼きと鉄板焼きを食べながら愛莉に話した。
「愛莉はさ、すぐに自分の願いを聞いてくれたからそれだけで幸せっていうけど、もっと甘えて良いんだよ?」
「え?」
「だってこうして僕の細やかな願いも聞いてくれてるじゃないか」
「うん……でも大学の履修の件もあるし」
「愛莉一人じゃないんだよ?僕もいる。僕らはもう一人じゃない。二人。もっといえば渡辺班や酒井君もいる」
「冬夜君……ありがとう」
さて、お好み焼きと鉄板焼きをたいらげたことだしもんじゃ焼くか。
焼いたかすをヘラで捨てると油を塗りなおす。
そしてもんじゃを焼く。
「う~ん、私やっぱりサークル入ろうかな?運動系の」
「どうして?」
「冬夜君次は焼肉食べたいとか言うんでしょ?少しは動いた方がいいかな?って冬夜君もだよ?」
まさかサッカーやれとか言わないよね?
「酒井君が言ってたでしょ、有益な情報も入るって。だから……」
「それならサークルじゃなくてもいいと思うよ」
「え?」
僕はもんじゃを焼き終えると愛莉にスマホを見せた。
そこにはメッセージグループの画面が。
あの科目は結構簡単だったよ。後期に受ける人は受けた方がいいかも。
この科目の過去問先輩から入手した。欲しい人は俺まで連絡待ってる。
といった内容のメッセージがずらりと並んでる。
「僕らはもうひとりじゃない……だね」
「そそ、だから大丈夫だよ。僕らも何か情報提供しないとだけどね」
「大丈夫だよ、ちゃんと授業のポイント押えてるから。試験前に送ればいいよね」
「ズルは無しじゃなかったのか?」
「助けあい、支えあうなら良いんじゃないかなと思って」
もんじゃを食べながら愛莉は言う。
煌めく人生の中で、愛莉に出会えて本当に良かった。
そんな事を考えながら僕はもんじゃを食べてた。
そんな僕を愛莉はじーっと見てる。
顔は笑顔だ。
「どうかした?」
幸せそうに食べるね。とかそんな答えを予想していた。
だけど予想は外れた。
「今素敵な事考えてたでしょ?」
顔見たらわかるよ!って付け足して。
愛莉ってやっぱりエスパーじゃないのか?
もんじゃを食べると車に乗る。
エンジンをかけようとすると愛莉が待ってといった。
「どうしたの?」
愛莉に聞くと愛莉は僕の耳元で囁いた。
「もう財布の中身があまりないよ」って。
「そういう事なら早く言ってくれたら」
「さっき言おうと思ったんだけど鉄板越しに言うのがちょっと嫌で……」
ああ、服に匂いがつくもんな。
「わかった、明日銀行からおろしておくよ」
「うん、ごめんね。足りない時は私出すから」
「大丈夫、口座の中まだあるから」
今月に入って更に入金されてるはずだ。
「冬夜君、りえちゃんが言ってた。二人で一つだって。これからは一緒にお金管理しよ?」
「……そこまで言うなら愛莉に任せるよ」
「うん!」
「じゃ、明日銀行って覚えておいてね。今日は帰ろうか?」
「は~い」
「……今日も泊ってくか?夜勉強するんだろ?」
「いいの?」
「うちの親も似たようなもんだよ。『これからは二人で支え合って生きていけ』ってさ。まだ結婚したわけじゃないんだけどな」
「……うん!」
愛莉の機嫌は良好なようだった。
この日は帰って勉強して寝た。
明日何が起こるか分からない。
でも大丈夫、怖くなんかない。僕らは一人なんかじゃないんだから。
(4)
今日は1限から授業があった。
2限が終わると、イッシーに連絡をとる。
学食で落ち合うことに。
私はお弁当を持って学食に向かう。
するとまたあの女に出くわした。
「あら、こんにちは江口さん」
「こんにちは、志水さん」
互いに後ろには大勢の男子学生がついている。
教育学部では志水さんの派閥と私の派閥の両方に別れているらしい。
迷惑な話だ。
「これからお食事?」
「そうよ」
「それはお弁当?」
「ええ」
「彼氏さんと食べるの?」
「そうよ」
そう言うと背後の雑魚共が、一目見ようと必死になってる。
「良かったら一緒に食べない?」
「……別に構わないけど後ろの方々はいいの?」
「私は別に気にしてないけど?」
「……そう?」
「ちょっとすいません、道を開けてください」
イッシーの声だ。
待ってた。
「ごめん、恵美。ちょっと道が混んでて……ひっ!」
イッシーが怯える。
私の下の名前を呼び捨てにしたのが雑魚共には気に入らなかったらしい。
イッシーに冷たい視線を浴びせている。
本当に鬱陶しい。
「イッシー、待ってたのよ」
これ見よがしに、イッシーの腕を組む。
……愛莉ちゃんも苦労したんだろうな。
イッシーと空いてる席について、弁当を渡す。
「……僕に?」
他に誰がいるのよ。
後ろの雑魚?
ジャンボでも食べてなさい。
私があなたの為に作ったのよ。
「楽しみだな~」
イッシーが弁当箱のふたを開ける。
……見てくれは悪いけど味は確かよ。
ちゃんと味見係に味見させたから。
初めて作った手作りの弁当。
その時一瞬志水さんの口角が上がるのを見逃さなかった。
あなたにだけは笑われたくない。
どうせ包丁を握ったことも無いのでしょう?
その3重箱に入ってるおかずも料理係の者に作らせたのでしょう?
「一人だと食べきれないから皆さんで食べて」
撒き餌をに群がるように群がる雑魚。
「うん、美味しいよ。恵美。何より嬉しい、僕の為に頑張ってくれたんだね」
イッシーが大きな声で言う。
そんなに大きな声で言うと周りの雑魚からまた視線の集中砲火を浴びるわよ?
そんな事は気にせずに食べるイッシー。
……あなたも強くなったのね。
そんな時ぼそりと聞こえた一言。
「なんか幻滅した。行こうぜ」
そう言って解散する私の方についていた雑魚共。
清々したが、志水さんの勝ち誇った顔が気に入らない。
「恵美、気にしたら駄目だよ。この味は恵美にしか出せないし。それを食べることが出来るのは僕だけしかいない。それだけで十分だから」
今日のイッシーは本当に強くなったのね。
イッシーの言葉を聞いてると、志水さんの存在すら雑魚に思えてきた。
負ける気がしない。
負けた気にならない。
勝負じゃないけど、勝負だったとしてもそう思える。
私にはイッシーがいるのだから。
「ごちそうさま」
イッシーが私の弁当をたいらげると私は黙ってその弁当箱をバッグにしまう。
「私もまだまだね、もっときれいな弁当作れるようになるから」
「今のままでも美味しいよ」
「作れるようになるから、待っていてね」
イッシーは黙ってうなずいた。
世間という悪魔に惑わされずに自分の目的という大事なものを。
世間という悪魔に惑わされずに自分が決めた答えを。
「イッシー?今度海に出かけない?」
「?海水浴にはまだ早いよ」
「海を見るだけでいいの。イッシーの運転で海岸線沿いをドライブしてみたいわ」
「いいよ」
海の次はどこを目指そうか?
またでかけようこの世界を。
その後イッシーにイッシーのコンパクトカーに乗せてもらい海に連れて行ってもらった。
中々楽しいドライブだった。
今度は山かな?
そんな時グループメッセージに渡辺君が一言入っていた。
「来週末ファミレスに集合」
何かあったのかしら?
イッシーと顔を見合わせて、メッセージを送る。
「何かあったの?」
「何もないがちょうど一週間だろ?報告会もかねてな」
そういう事が好きな人なのね。
まあ、そう言うのも大事ね。
学部が違うけど皆繋がっている。
怖い事なんてない、私たちは一人なんかじゃないんだから。
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