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2ndSEASON
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(1)
受験番号は入力した。
あとは、検索をクリックするだけだ。
右手の人差し指でマウスを押すだけ。
それなのになかなかできない。
自分の事になると臆病になる。
これで不合格だったらどうしよう。
愛莉と浪人か?
一生遠坂家に頭が上がらない。
3人の視線がモニターに集まる。
僕は目をつぶって左クリックを押す。
何も聞こえてこない。
あれ?
ひょっとしてやらかした?
無言の時間が続く。
ごめん愛莉!
ぽかっ
「冬夜君、クリックする位置ずれてるよ!目をつぶってやるから」
あれ?知らない間に動かしてた?
「ああ、もうじれったいな!どけよ!」
カンナが席を変わるように言うと僕の受験番号を再度入れてクリックする。
皆固唾を呑む。
画面に表示されたのは合格の通知。
感動のあまり言葉がでない。
安堵して体の力が抜ける。
膝を崩して倒れるのを愛莉が抱いて受け止める。
「おめでとう、冬夜君。やったね」
愛莉が自分の事のように喜んでいる。
「これで4人とも無事進学か!」
誠がそう言ってガッツポーズを決める。
思考が止まっていたが、やがてそれが動き始めると、こみあげてくる何かを吐き出した。
「やったああああああ!」
力の限り叫ぶ僕。
「うん、よく頑張ったね。重荷をかけた私が言うのもなんだけど、ありがとうね」
愛莉が泣いている。
あ、渡辺君たちにも知らせないと。
メッセージグループを開いて合格したことを知らせると、渡辺班は皆合格してる事を知った。
「よくやった冬夜」
「おめでとう」
そんなメッセージが次々と流れていく。
「じゃ、用は済んだし私らは帰るわ、後は二人で感動に浸ってくれ」
「待ってよ。神奈達も一緒に祝おうよ」
「私らも二人っきりでお祝いしたいんだよ」
そう言ってカンナと誠は帰って行った。
二人っきりになった、僕達。
愛莉は容赦なく僕をベッドに押し倒す。
「今日は冬夜君の好きにしていいよ」
「本当に?」
「う、うぅ。その顔は嫌な予感がする」
「まだ昼前だよね?」
「そうだけど……」
「お昼食べたらドライブ行かない?まだ愛莉を乗せて走ったことないし」
「へ?」
「愛莉言ってたろ?二人っきりでドライブ行きたいって」
「……うん!じゃあお昼作るね!冬夜君ならインスタントラーメンでいいよね」
そう言って部屋を飛び出す愛莉。
どこ行こうかな?
10号線が良いって誠がいってたよな。
でも海を見るなら……。
(2)
冬夜君が右に座って運転をしている。
コンビニによってお菓子とジュースを買い込んでドライブにでかけた。
誠君の車よりもちょっと席の位置が高い車。
新車の匂いがする。
乗り心地がいい。
誠君も上手だけど冬夜君の運転は安心できる。
前との車間距離を常に一定に保ちつつ速度も維持している。
右に左に曲がるときも全然揺れが無い。
当然のように停止するときもスムーズに止まる。
加速減速どれ一つとっても非の打ち所がない。
紙コップに水を入れてホルダーに置いてこぼれない様にする運転て言えばわかるかな?
私を気遣ってくれてるのかな?無理な追い越しもすることは無い。
ゆったりと流れる二人の時間。
車は197号線を通って海岸線を走る。
海が綺麗だ。
「綺麗だろ?父さんが昔連れて行ってくれたのを思い出してさ」
冬夜君が照れくさそうに言う。
あ、やってみたい事があったんだ。
「冬夜君お腹空いたでしょ?はい」
お菓子を取り出して冬夜君の口に放り込む。
冬夜君はそれに応えてくれる。
曲がりくねった道でもスムーズに進む。
ゆったりとしていて気持ちがいい。
いけないこのままだと寝ちゃいそうだ。
さすがにそれはできない。
一生懸命冬夜君に話しかける。
冬夜君は楽しそうに私の話に耳を傾け時折返事をしてくれる。
車は臼杵で止まった
駐車場に止めて……!?
後ろを見ながらバックする冬夜君を見てドキッとした。
神奈が言ってたのってこれのことかな。
駐車場にとめて臼杵の街を散策する。
冬夜君は3つもソフトクリームを食べてた。
お腹壊さない?
両親へのお土産に臼杵せんべいを買って行った。
日が沈むころ再び車を走らせ帰路についた。
来た道とは別の道。
山を抜けて10号線へと出る。
今日は黒の服だよ。
気にしなくていいんだよ?
私は夕食にカレーを提案した。
冬夜君は驚いていたけど、途中のカレー屋さんに止まって夕ご飯を食べた。
冬夜君は大食いだ。
自分のをたいらげた挙句、私が残したのを食べる。
今夜の食事はおしまいだからね。
食べ物の時間はお終い。
今度は私に夢中になって。
冬夜君は応えてくれた。
車は家に帰らず高速に乗ると別府に向かう。
高速から見る別府の眺めは綺麗だ。
別府で降りると山を下りて明礬温泉の方を抜けてテレビ塔に向かう。
え?そこって神奈から聞いたよ。
カップルでくる車でごったがえしていて、少々いちゃつこうが気にならないって、誠君が言っていたって。
そういうことなの?
そんなのなら、別にお家でもいいんだよ……。
冬夜君はそんな私の思いにきづくはずもなく、車をテレビ塔の駐車場で止めた。
「降りよ?」
冬夜君はそう言って車を降りる。
冬夜君の言われるがままに車を降りると……。
息をのんだ。
すごく夜景が綺麗。
「一度連れてきてみたかったんだ」
照れ隠しをしながら冬夜君は言う。
「ありがとう」
冬夜君の頬にキスをする。
今更、恥ずかしがることもないよね?
ありがとう、冬夜君。
でもね、今度からは事前に教えてね。
ドッキリは無しだよ。
いつも通りのアナタでいいのだから。
今の冬夜君で十分素敵だよ。
(3)
アミューズメント施設に集合するクラスの面々。
ぞろぞろとボーリング場に向かう。
ホットドッグにから揚げミックスピザにナポリタン、大盛り焼そばに炒飯……これは悩むぞ。
さらにはフランクフルトやアメリカンドッグまで……。
さすがに全部はきついかも……。
ぽかっ!
「とりあえずフリードリング”だけ”でいいよね?」
にこりと笑う愛莉。
これから動くんだからいいだろ?
「冬夜、飲み食いはあとの楽しみにしとけ?」
渡辺君が言う。
「後でってどういう事?」
その時メッセージが入った。
「渡辺班は一次会終わったら駅前に集合」
てことは渡辺班だけで2次会やるのね?
ボーリングはあまり好きじゃない。
というかあまりしたことが無い。
なので無様な格好しか見せられない。
人間誰しも得手不得手があるものだ。
愛莉には苦手なのがないみたいだけど。
ただ今日は長いスカートを履いていたので思うようにスコアが伸びなかったみたいだ。
そういや、愛莉がズボンを履いてるところをみたことないな。
あ、部屋着がスウェットか。
カンナも得意みたいだった。
ストライクを連発するカンナ。
その度に皆とハイタッチをする。
え?僕?
ガーター防止のアレをつけて欲しいくらいだよ。
それにしても思う。
これクラスの皆で来る意味あったの?
だいたいグループごとにまとまってるみたいだけど。
渡辺君の配慮なんだろうけど。そこまでしてする必要あったのだろうか?
ボーリングを3ゲーム投げ、カラオケに移動する面々。
カラオケも大体同じ面子で固まっていた。
そしていつも通りの歌を歌う。
僕は愛莉とデュエットしてるだけだった。
愛莉が希望するから歌ってるだけだけど。
その時他の部屋のメンバーが乱入してくる。
ああ、そういうノリなのね。
愛莉の隣の席を希望する男子の多いこと多い事。
愛莉は笑って受け入れる。
それもそのはず
愛莉の右隣りには僕がいて、愛莉の右手は僕の左手とつながっているのだから。
カラオケが2時間済むとスポーツ&レジャーコーナーに赴く。
皆が楽しんでる間僕はひたすら食べてた。
「お前そんなに食べてるとまた愛莉に怒られるぞ」
神奈がドリンク片手に僕の隣に座ってきた。
愛莉はセグウェイに夢中なようだ。
「トーヤも運転上手いんだな」
愛莉にも褒められてた。
感覚で運転してるだけなんだけどな。
「カンナ自分の車で来ればよかったのに、よかったのか?」
「私がいたら邪魔だってか?言うようになったな、トーヤも」
「いや、そうじゃなくて……」
「誠が後から合流するからいいんだよ。それに私運転できなくなるからな」
「?」
早速免停か?
「まあ、お前まで巻き込むつもりないから心配するな」
謎の言葉を残してカンナもセグウェイのコーナーに向かった。
「冬夜、頼みがあるんだが……」
次は渡辺君だ。
「なんだい?」
「ここに来るときは美嘉に送ってもらったんだけど帰りいないだろ?冬夜が送ってくれないか?」
知ってるよ。派手な外車に乗ってきてたね。
「いいよ」
「助かる。ところでお前は遊んでいかないのか?」
「見てるだけで楽しいからいいよ」
「普段のお前は本当にやる気がないんだな」
良く言われる。
「今日でクラスの連中とも最後なんだぜ。少しは思い出残しておけ」
「渡辺班はこれからも一緒なんだろ?」
「皆サークルやコンパでなかなか時間作れないかもしれないだろ?」
ああ、そこまで考えてなかった。
皆と一緒の時間か?
少しは作っておくかな。
渡辺君とセグウェイのコーナーに向かった。
「あ、冬夜君。これ楽しいよ」
愛莉はそう言ってそれを僕に渡す。
「傾けるとね進むんだよ……って、え?」
それをいとも簡単に乗りこなす僕。
ふーん、思ったより楽しいな。
コーナーを2,3週してから愛莉に返す。
「冬夜君ってやっぱりすごい……」
愛莉は感嘆していた。
施設を出て全員集合の写真を撮る面々。
卒業式の時に撮ったんだけどな。
そんな時一人の女子が僕にお願いしてきた。
「一緒に写真撮ってもいいですか?」
へ?
僕でいいの?
背中に突き刺さる冷たい視線が気になるけど承諾する僕。
二人並んでピースして……ってえ!?
腕組むなんて聞いてないよ。
ほら後ろからどす黒いオーラが漂ってきた。
僕悪くないよね?
「ありがとう」
と、喜んで立ち去る女子。
後ろにすごい負のオーラをまき散らしてる愛莉がいる。
「うぅ……」と唸り声をあげて僕に近寄ってくる。
ま、待て話せばわかる。
「冬夜君の馬鹿……」
うわあ、めっちゃ怒ってる。どうするかな、後で車の中で……は渡辺君がいるか。
愛莉は僕の腕を掴む。
「冬夜君の腕は私の物って決まってるんだからね!」
所有権を主張する愛莉。
そんなところに颯爽と車で現れる誠。
「あ、私迎えが来たから行くわ」
とカンナは誠の車に乗り込む。
車が去ってしばらくしてメッセージが入る。
「またあとでな」
皆了解のスタンプを送っていた。
「じゃ、僕達も行こっか?愛莉」
「……はだめだから」
へ?
「助手席は私って決まってるんだからね!」
取りあえずほかに乗る人いないけど。親くらいか。
「ハハハ、じゃあ、後ろには乗っていいかな?遠坂さん」
渡辺君が現れる。
「後ろならいいよ」
愛莉の機嫌は難しい。
ちょっとしたことで怒って悲しんで泣いて喜んで。
またトリセツ更新しないといけないな。
(4)
駅ビルの駐車場に止めて駅付近の焼き鳥屋さんに入る。
「予約してあった渡辺ですけど……」
渡辺君がそう言うと2Fに案内してくれた。
2Fには大体そろってる。
あと来てないのは桐谷君と指原さんのペアくらいだ。
「瑛大があんな車買うから」
「カッコいいからいいだろ!」
どうやら瑛大の車の車高が低すぎて駐車する場所に苦労したらしい。
みんなドリンクをオーダーする。
僕はグレープフルーツを、愛莉はウーロン茶を頼んだ。
「私、ファジーネーブル」
「私カルーアミルク」
カンナと美嘉さんが不思議な飲み物を注文していた。
カルーアミルク……コーヒー牛乳の仲間か?
ファジーネーブル……美味しそうだな。
「俺はハイボールっと……これで以上かな?」
渡辺君がそう言うと僕が待ったをかけた。
「待って渡辺君僕もファジーネーブルとやらを……」
ぽかっ!
「冬夜君オレンジジュースがいいならあるよ」
愛莉がにこりと笑ってる。
「嫌なんか気になってさ」
「冬夜、今日はソフトドリンクで我慢しとけ?俺達まで巻き込むな」
意味が分からない。
ドリンクが皆に行きわたる。
渡辺君が音頭を取る
「皆さん今日はお疲れ様でした。大体同じ大学に通うけどまたこうして集まれることを願って……」
「正志なげーぞ」
「乾杯!」
皆が乾杯すると食事が次から次へと出てきた。
愛莉が小皿に適度にとりわけ僕に渡す。
「今日は沢山食べていいからね。お疲れ様です」
愛莉から食事の許可がでた。もう僕を阻むものは居ない。
それにしても、渡辺君、美嘉さん、カンナの。
「黒霧!」
「カルピス酎ハイ!」
「ライム酎ハイ!」
謎の言葉が次々と出てくる……。
見た目普通のジュースと変わらないけど。
渡辺君のは明らかにやばいと分かったが……。
ぽかっ
「私の事大事に思ってくれてるなら今日は我慢しよっ?」
だから何を我慢するんだ。
カンナと美嘉さんが盛り上がっている。
「へえ、カンナを振る男なんているんだな」
「いたんだよ……そのうちの一人がこいつだ」と、僕を指す。
「それは初耳だな」と、渡辺君。
「中2の頃にこっちに戻ってきてまだチャンスがあると思ってしかけてはみたんだけど、愛莉には敵わなかった」
「相手が愛莉じゃ仕方ねーな」
「仕方ねーってあきらめたよ……お代わり!」
「神奈……そのくらいにしといた方が……」
誠が神奈を抑えようとするが。
「五月蠅い、今日くらい飲ませろ!」
……様子が変だぞ?
「神奈、私も止めておいた方が良いと思うな……」
愛莉も止めようとする。
「今日は飲むったら飲む!美嘉!付き合えよ!!」
「おう!そうこなくちゃな!張り合いないぜ」
その後もカンナの昔話の暴露大会が続いた。
そしてやがて矛先は僕に向かう。
「冬夜、今からでも遅くないぞ、私胸はないけど、度量は愛莉に負けないと思ってるぜ……」
僕ににじり寄るカンナ。
その意図を読み取った僕は後ずさりする。
「よ、よくわからないけどそれは止めた方が良いと思うぞ」
「昔はベロチューまでした仲じゃねーか、今更恥じらうなよ」
ほら、愛莉と誠の冷たい視線が突き刺さってるんだけど。
「カンナだめ!!」
カンナと僕の間に愛莉が割って入る。
「神奈そろそろやめとこう、流石に飲み過ぎだ!」
「音無さん、そのくらいにしておこう、冬夜も困ってる」
するとカンナが泣き出す。
「どうせ、私の気持ちなんてわかってくれないさ。分かってくれるのは誠と美嘉くらいだ」
「ああ、俺は分かってるよ。だから今日はやめとこう。愚痴なら聞いてやるから」
誠は度量が広いなぁ。
「誠!止めるな!!ここは黙ってとことん飲ませてやれ!」
「お客さんそろそろラストオーダーを……」
店員がやってくる。
「黒霧ストレートでふたっ……!」
美嘉さんの口を渡辺君が塞ぐ。
「ウーロン茶二つお願いします」
「あ、僕もカルピスを」
色々と荒れた2次会が終わり店を出る。
カンナは泣き止んだけどまだ何かブツブツと言ってる。
「誠はずっと私と一緒だよな?……捨てたりしないよな?」
「しないよ、するわけないだろ?帰ってゆっくり休もう」
カンナを宥める誠。
「帰るなんてずりーぞ誠。神奈もう一件いこうぜ」
「神奈を扇動した罰だ。今日はもう帰るぞ。美嘉」
そう言ってタクシーを呼ぶ渡辺君。
大丈夫なの?
「美嘉の家はこの近くだからな。じゃあ、皆気をつけて帰れよ」
「入学式の時に会おうね」
江口さんがそう言うと皆散り散りになって行った。
「私たちも帰ろうか?」
愛莉の声が心なしか元気ない。
どうしたんだろう?
(5)
酔っていたとはいえ神奈の口から出た言葉は忘れらえなかった。
もう過ぎた話だ。
最後に言ってたじゃない。
「誠はずっと私と一緒だよな?」って……。
いけない、私の方が揺らいでる。
冬夜君は神奈の事どう思ってるの?
……聞いちゃいけない事かもしれないけど、聞いたら終わってしまいそうな恐怖もあるけど。確かめておきたい。
「冬夜君は今神奈のことどう思ってるの?」
私がそう言うと冬夜君は帰り道を外れて行った。
産業道路にでてアミューズメント施設を超えてどこまでも反対方向に走っていく。
大きな川の橋を渡ると、ラブホが集まってる場所に出る。
「冬夜君?」
冬夜君は何も言わない。
いつでもいいように準備はできてるけど。
りえちゃんにも冬夜君と一緒って言ってるから大丈夫だけど。
いきなりですか?
それが答えなの?
答えはノーだった。
ラブホ街を過ぎ産業廃棄物処理場を通り過ぎ海岸線にでる。
そこにはカップルがたくさんいて、車内でいちゃついていた。
……広い車で良かったな。
ってそうじゃない!私だって恥ずかしいよ。
体が硬くなる。
そんな私の肩を抱き一点を指差す。
石油化学コンビナートの配管や煙突につけられた照明が綺麗でまるで千葉のテーマパークのようだった。
高校の時行ったな。
「誠から聞いたんだ、ここの夜景は綺麗だぞって」
私も神奈から聞いたことを思いだした。
車の中でするのにいい場所って誠君に言われたってことを。
「昼間にきてみたらさ、ただの石油化学コンビナートだったよ。不思議だね。照明一つで変わってしまう」
冬夜君の顔を見る。なんかの台詞を真似たとかじゃないみたい。
「思い出もそうなんじゃないかな。実際は何のことでもないけど。いざ思いだすと照明で彩られて綺麗にみえてしまう。それが僕の答え。カンナとの思い出は綺麗だけど今は誠と付き合ってるという事実は変わらない。僕はそう思ってる。カンナに何があったのか分からないけど、同じなんじゃないかな?」
「思い出は思い出のままでいい……ってことかな?」
「思い出は優しいから甘えちゃダメだ!って痛い!」
「今何かの台詞真似たでしょ」
そう言って私は笑っている。
不安はとうに消えていた。
そして相変わらずな冬夜君をみて優しい気持ちになる。
……キスくらいならねだってもいいよね?
私は目を閉じて冬夜君のそれを待つ。
雰囲気で分かる。もうじきだ。と思った時。
ぱっと明るく光る。
後ろに止めてあった車が動くためライトをつけたらしい。
せっかくのチャンスだったのに。
二人で顔を見合わせて笑う。
「そろそろ帰ろうか?」
「うん」
そうして、私たちは家に帰った。
家の前で冬夜君は車を止める。
私は車を降りる前に冬夜君の頬にキスをする。
「さっきしそこねたしね」
「……なんなら今から続きする?」
冬夜君から誘ってくるなんて嬉しいな。
「いいよ、私の家に泊まっていく?」
冬夜君は慌てて謝っていた。
「ごめん、つい勢いで」
謝らなくてもいいのに。
「それじゃまた明日ね」
「ああ」
そう言うと彼の車を見送った。
と、いっても2軒隣の家なんだけど。
家に帰るとシャワーを浴びて部屋に戻る。
するとスマホが着信通知が。
知らない番号だ。
どうしよう?
こんな夜更けだし明日で良いかな?
そう考えてるとまた同じ番号から電話がかかってきた。
悩んだ末出た。
「もしもし?」
「もしもし……」
どこかで聞いたことのある嫌悪感を感じる声。
「勝也です、お久しぶり愛莉ちゃん」
勝也!?
確か冬夜君の従兄の……。
「どうしてこの番号を!?」
「亜子から聞いたよ」
「そう言うのってルールー違反だと思いますけど」
「硬い事言うなよ。冬夜とは上手く行ってるの?」
「あなたには関係ありません!」
「なるほど、上手く行ってないのか?どう?遠距離恋愛になるけど……」
「失礼します!」
私はすぐに着信拒否登録をした。
そして冬夜君に電話する。
お願い!出て……。
「もしもし?どうした愛莉」
冬夜君の声だ、心なしかいつもより優しい気がする。
冬夜君に事情を説明する。
「勝也が!?」
冬夜君の声に怒気がこもっている。
「ごめんなさい……」
なぜか私は泣いていた。
「すぐに着信拒否を」
「もうしたよ」
「そうか、母さんたちにも言っとく。固定電話に電話するかもしれないから。絶対に知らない番号に出るなよ」
「うん」
「じゃあ、今日は疲れたろ?ゆっくりお休み」
冬夜君は私を落ち着かせようとしてるみたいだ。
その気持ちだけで癒されるよ。
「おやすみなさい」
そう言って電話を切る。
高校生活最後の最後でどうしてこうなるんだろう?
不安が残る最後になった。
受験番号は入力した。
あとは、検索をクリックするだけだ。
右手の人差し指でマウスを押すだけ。
それなのになかなかできない。
自分の事になると臆病になる。
これで不合格だったらどうしよう。
愛莉と浪人か?
一生遠坂家に頭が上がらない。
3人の視線がモニターに集まる。
僕は目をつぶって左クリックを押す。
何も聞こえてこない。
あれ?
ひょっとしてやらかした?
無言の時間が続く。
ごめん愛莉!
ぽかっ
「冬夜君、クリックする位置ずれてるよ!目をつぶってやるから」
あれ?知らない間に動かしてた?
「ああ、もうじれったいな!どけよ!」
カンナが席を変わるように言うと僕の受験番号を再度入れてクリックする。
皆固唾を呑む。
画面に表示されたのは合格の通知。
感動のあまり言葉がでない。
安堵して体の力が抜ける。
膝を崩して倒れるのを愛莉が抱いて受け止める。
「おめでとう、冬夜君。やったね」
愛莉が自分の事のように喜んでいる。
「これで4人とも無事進学か!」
誠がそう言ってガッツポーズを決める。
思考が止まっていたが、やがてそれが動き始めると、こみあげてくる何かを吐き出した。
「やったああああああ!」
力の限り叫ぶ僕。
「うん、よく頑張ったね。重荷をかけた私が言うのもなんだけど、ありがとうね」
愛莉が泣いている。
あ、渡辺君たちにも知らせないと。
メッセージグループを開いて合格したことを知らせると、渡辺班は皆合格してる事を知った。
「よくやった冬夜」
「おめでとう」
そんなメッセージが次々と流れていく。
「じゃ、用は済んだし私らは帰るわ、後は二人で感動に浸ってくれ」
「待ってよ。神奈達も一緒に祝おうよ」
「私らも二人っきりでお祝いしたいんだよ」
そう言ってカンナと誠は帰って行った。
二人っきりになった、僕達。
愛莉は容赦なく僕をベッドに押し倒す。
「今日は冬夜君の好きにしていいよ」
「本当に?」
「う、うぅ。その顔は嫌な予感がする」
「まだ昼前だよね?」
「そうだけど……」
「お昼食べたらドライブ行かない?まだ愛莉を乗せて走ったことないし」
「へ?」
「愛莉言ってたろ?二人っきりでドライブ行きたいって」
「……うん!じゃあお昼作るね!冬夜君ならインスタントラーメンでいいよね」
そう言って部屋を飛び出す愛莉。
どこ行こうかな?
10号線が良いって誠がいってたよな。
でも海を見るなら……。
(2)
冬夜君が右に座って運転をしている。
コンビニによってお菓子とジュースを買い込んでドライブにでかけた。
誠君の車よりもちょっと席の位置が高い車。
新車の匂いがする。
乗り心地がいい。
誠君も上手だけど冬夜君の運転は安心できる。
前との車間距離を常に一定に保ちつつ速度も維持している。
右に左に曲がるときも全然揺れが無い。
当然のように停止するときもスムーズに止まる。
加速減速どれ一つとっても非の打ち所がない。
紙コップに水を入れてホルダーに置いてこぼれない様にする運転て言えばわかるかな?
私を気遣ってくれてるのかな?無理な追い越しもすることは無い。
ゆったりと流れる二人の時間。
車は197号線を通って海岸線を走る。
海が綺麗だ。
「綺麗だろ?父さんが昔連れて行ってくれたのを思い出してさ」
冬夜君が照れくさそうに言う。
あ、やってみたい事があったんだ。
「冬夜君お腹空いたでしょ?はい」
お菓子を取り出して冬夜君の口に放り込む。
冬夜君はそれに応えてくれる。
曲がりくねった道でもスムーズに進む。
ゆったりとしていて気持ちがいい。
いけないこのままだと寝ちゃいそうだ。
さすがにそれはできない。
一生懸命冬夜君に話しかける。
冬夜君は楽しそうに私の話に耳を傾け時折返事をしてくれる。
車は臼杵で止まった
駐車場に止めて……!?
後ろを見ながらバックする冬夜君を見てドキッとした。
神奈が言ってたのってこれのことかな。
駐車場にとめて臼杵の街を散策する。
冬夜君は3つもソフトクリームを食べてた。
お腹壊さない?
両親へのお土産に臼杵せんべいを買って行った。
日が沈むころ再び車を走らせ帰路についた。
来た道とは別の道。
山を抜けて10号線へと出る。
今日は黒の服だよ。
気にしなくていいんだよ?
私は夕食にカレーを提案した。
冬夜君は驚いていたけど、途中のカレー屋さんに止まって夕ご飯を食べた。
冬夜君は大食いだ。
自分のをたいらげた挙句、私が残したのを食べる。
今夜の食事はおしまいだからね。
食べ物の時間はお終い。
今度は私に夢中になって。
冬夜君は応えてくれた。
車は家に帰らず高速に乗ると別府に向かう。
高速から見る別府の眺めは綺麗だ。
別府で降りると山を下りて明礬温泉の方を抜けてテレビ塔に向かう。
え?そこって神奈から聞いたよ。
カップルでくる車でごったがえしていて、少々いちゃつこうが気にならないって、誠君が言っていたって。
そういうことなの?
そんなのなら、別にお家でもいいんだよ……。
冬夜君はそんな私の思いにきづくはずもなく、車をテレビ塔の駐車場で止めた。
「降りよ?」
冬夜君はそう言って車を降りる。
冬夜君の言われるがままに車を降りると……。
息をのんだ。
すごく夜景が綺麗。
「一度連れてきてみたかったんだ」
照れ隠しをしながら冬夜君は言う。
「ありがとう」
冬夜君の頬にキスをする。
今更、恥ずかしがることもないよね?
ありがとう、冬夜君。
でもね、今度からは事前に教えてね。
ドッキリは無しだよ。
いつも通りのアナタでいいのだから。
今の冬夜君で十分素敵だよ。
(3)
アミューズメント施設に集合するクラスの面々。
ぞろぞろとボーリング場に向かう。
ホットドッグにから揚げミックスピザにナポリタン、大盛り焼そばに炒飯……これは悩むぞ。
さらにはフランクフルトやアメリカンドッグまで……。
さすがに全部はきついかも……。
ぽかっ!
「とりあえずフリードリング”だけ”でいいよね?」
にこりと笑う愛莉。
これから動くんだからいいだろ?
「冬夜、飲み食いはあとの楽しみにしとけ?」
渡辺君が言う。
「後でってどういう事?」
その時メッセージが入った。
「渡辺班は一次会終わったら駅前に集合」
てことは渡辺班だけで2次会やるのね?
ボーリングはあまり好きじゃない。
というかあまりしたことが無い。
なので無様な格好しか見せられない。
人間誰しも得手不得手があるものだ。
愛莉には苦手なのがないみたいだけど。
ただ今日は長いスカートを履いていたので思うようにスコアが伸びなかったみたいだ。
そういや、愛莉がズボンを履いてるところをみたことないな。
あ、部屋着がスウェットか。
カンナも得意みたいだった。
ストライクを連発するカンナ。
その度に皆とハイタッチをする。
え?僕?
ガーター防止のアレをつけて欲しいくらいだよ。
それにしても思う。
これクラスの皆で来る意味あったの?
だいたいグループごとにまとまってるみたいだけど。
渡辺君の配慮なんだろうけど。そこまでしてする必要あったのだろうか?
ボーリングを3ゲーム投げ、カラオケに移動する面々。
カラオケも大体同じ面子で固まっていた。
そしていつも通りの歌を歌う。
僕は愛莉とデュエットしてるだけだった。
愛莉が希望するから歌ってるだけだけど。
その時他の部屋のメンバーが乱入してくる。
ああ、そういうノリなのね。
愛莉の隣の席を希望する男子の多いこと多い事。
愛莉は笑って受け入れる。
それもそのはず
愛莉の右隣りには僕がいて、愛莉の右手は僕の左手とつながっているのだから。
カラオケが2時間済むとスポーツ&レジャーコーナーに赴く。
皆が楽しんでる間僕はひたすら食べてた。
「お前そんなに食べてるとまた愛莉に怒られるぞ」
神奈がドリンク片手に僕の隣に座ってきた。
愛莉はセグウェイに夢中なようだ。
「トーヤも運転上手いんだな」
愛莉にも褒められてた。
感覚で運転してるだけなんだけどな。
「カンナ自分の車で来ればよかったのに、よかったのか?」
「私がいたら邪魔だってか?言うようになったな、トーヤも」
「いや、そうじゃなくて……」
「誠が後から合流するからいいんだよ。それに私運転できなくなるからな」
「?」
早速免停か?
「まあ、お前まで巻き込むつもりないから心配するな」
謎の言葉を残してカンナもセグウェイのコーナーに向かった。
「冬夜、頼みがあるんだが……」
次は渡辺君だ。
「なんだい?」
「ここに来るときは美嘉に送ってもらったんだけど帰りいないだろ?冬夜が送ってくれないか?」
知ってるよ。派手な外車に乗ってきてたね。
「いいよ」
「助かる。ところでお前は遊んでいかないのか?」
「見てるだけで楽しいからいいよ」
「普段のお前は本当にやる気がないんだな」
良く言われる。
「今日でクラスの連中とも最後なんだぜ。少しは思い出残しておけ」
「渡辺班はこれからも一緒なんだろ?」
「皆サークルやコンパでなかなか時間作れないかもしれないだろ?」
ああ、そこまで考えてなかった。
皆と一緒の時間か?
少しは作っておくかな。
渡辺君とセグウェイのコーナーに向かった。
「あ、冬夜君。これ楽しいよ」
愛莉はそう言ってそれを僕に渡す。
「傾けるとね進むんだよ……って、え?」
それをいとも簡単に乗りこなす僕。
ふーん、思ったより楽しいな。
コーナーを2,3週してから愛莉に返す。
「冬夜君ってやっぱりすごい……」
愛莉は感嘆していた。
施設を出て全員集合の写真を撮る面々。
卒業式の時に撮ったんだけどな。
そんな時一人の女子が僕にお願いしてきた。
「一緒に写真撮ってもいいですか?」
へ?
僕でいいの?
背中に突き刺さる冷たい視線が気になるけど承諾する僕。
二人並んでピースして……ってえ!?
腕組むなんて聞いてないよ。
ほら後ろからどす黒いオーラが漂ってきた。
僕悪くないよね?
「ありがとう」
と、喜んで立ち去る女子。
後ろにすごい負のオーラをまき散らしてる愛莉がいる。
「うぅ……」と唸り声をあげて僕に近寄ってくる。
ま、待て話せばわかる。
「冬夜君の馬鹿……」
うわあ、めっちゃ怒ってる。どうするかな、後で車の中で……は渡辺君がいるか。
愛莉は僕の腕を掴む。
「冬夜君の腕は私の物って決まってるんだからね!」
所有権を主張する愛莉。
そんなところに颯爽と車で現れる誠。
「あ、私迎えが来たから行くわ」
とカンナは誠の車に乗り込む。
車が去ってしばらくしてメッセージが入る。
「またあとでな」
皆了解のスタンプを送っていた。
「じゃ、僕達も行こっか?愛莉」
「……はだめだから」
へ?
「助手席は私って決まってるんだからね!」
取りあえずほかに乗る人いないけど。親くらいか。
「ハハハ、じゃあ、後ろには乗っていいかな?遠坂さん」
渡辺君が現れる。
「後ろならいいよ」
愛莉の機嫌は難しい。
ちょっとしたことで怒って悲しんで泣いて喜んで。
またトリセツ更新しないといけないな。
(4)
駅ビルの駐車場に止めて駅付近の焼き鳥屋さんに入る。
「予約してあった渡辺ですけど……」
渡辺君がそう言うと2Fに案内してくれた。
2Fには大体そろってる。
あと来てないのは桐谷君と指原さんのペアくらいだ。
「瑛大があんな車買うから」
「カッコいいからいいだろ!」
どうやら瑛大の車の車高が低すぎて駐車する場所に苦労したらしい。
みんなドリンクをオーダーする。
僕はグレープフルーツを、愛莉はウーロン茶を頼んだ。
「私、ファジーネーブル」
「私カルーアミルク」
カンナと美嘉さんが不思議な飲み物を注文していた。
カルーアミルク……コーヒー牛乳の仲間か?
ファジーネーブル……美味しそうだな。
「俺はハイボールっと……これで以上かな?」
渡辺君がそう言うと僕が待ったをかけた。
「待って渡辺君僕もファジーネーブルとやらを……」
ぽかっ!
「冬夜君オレンジジュースがいいならあるよ」
愛莉がにこりと笑ってる。
「嫌なんか気になってさ」
「冬夜、今日はソフトドリンクで我慢しとけ?俺達まで巻き込むな」
意味が分からない。
ドリンクが皆に行きわたる。
渡辺君が音頭を取る
「皆さん今日はお疲れ様でした。大体同じ大学に通うけどまたこうして集まれることを願って……」
「正志なげーぞ」
「乾杯!」
皆が乾杯すると食事が次から次へと出てきた。
愛莉が小皿に適度にとりわけ僕に渡す。
「今日は沢山食べていいからね。お疲れ様です」
愛莉から食事の許可がでた。もう僕を阻むものは居ない。
それにしても、渡辺君、美嘉さん、カンナの。
「黒霧!」
「カルピス酎ハイ!」
「ライム酎ハイ!」
謎の言葉が次々と出てくる……。
見た目普通のジュースと変わらないけど。
渡辺君のは明らかにやばいと分かったが……。
ぽかっ
「私の事大事に思ってくれてるなら今日は我慢しよっ?」
だから何を我慢するんだ。
カンナと美嘉さんが盛り上がっている。
「へえ、カンナを振る男なんているんだな」
「いたんだよ……そのうちの一人がこいつだ」と、僕を指す。
「それは初耳だな」と、渡辺君。
「中2の頃にこっちに戻ってきてまだチャンスがあると思ってしかけてはみたんだけど、愛莉には敵わなかった」
「相手が愛莉じゃ仕方ねーな」
「仕方ねーってあきらめたよ……お代わり!」
「神奈……そのくらいにしといた方が……」
誠が神奈を抑えようとするが。
「五月蠅い、今日くらい飲ませろ!」
……様子が変だぞ?
「神奈、私も止めておいた方が良いと思うな……」
愛莉も止めようとする。
「今日は飲むったら飲む!美嘉!付き合えよ!!」
「おう!そうこなくちゃな!張り合いないぜ」
その後もカンナの昔話の暴露大会が続いた。
そしてやがて矛先は僕に向かう。
「冬夜、今からでも遅くないぞ、私胸はないけど、度量は愛莉に負けないと思ってるぜ……」
僕ににじり寄るカンナ。
その意図を読み取った僕は後ずさりする。
「よ、よくわからないけどそれは止めた方が良いと思うぞ」
「昔はベロチューまでした仲じゃねーか、今更恥じらうなよ」
ほら、愛莉と誠の冷たい視線が突き刺さってるんだけど。
「カンナだめ!!」
カンナと僕の間に愛莉が割って入る。
「神奈そろそろやめとこう、流石に飲み過ぎだ!」
「音無さん、そのくらいにしておこう、冬夜も困ってる」
するとカンナが泣き出す。
「どうせ、私の気持ちなんてわかってくれないさ。分かってくれるのは誠と美嘉くらいだ」
「ああ、俺は分かってるよ。だから今日はやめとこう。愚痴なら聞いてやるから」
誠は度量が広いなぁ。
「誠!止めるな!!ここは黙ってとことん飲ませてやれ!」
「お客さんそろそろラストオーダーを……」
店員がやってくる。
「黒霧ストレートでふたっ……!」
美嘉さんの口を渡辺君が塞ぐ。
「ウーロン茶二つお願いします」
「あ、僕もカルピスを」
色々と荒れた2次会が終わり店を出る。
カンナは泣き止んだけどまだ何かブツブツと言ってる。
「誠はずっと私と一緒だよな?……捨てたりしないよな?」
「しないよ、するわけないだろ?帰ってゆっくり休もう」
カンナを宥める誠。
「帰るなんてずりーぞ誠。神奈もう一件いこうぜ」
「神奈を扇動した罰だ。今日はもう帰るぞ。美嘉」
そう言ってタクシーを呼ぶ渡辺君。
大丈夫なの?
「美嘉の家はこの近くだからな。じゃあ、皆気をつけて帰れよ」
「入学式の時に会おうね」
江口さんがそう言うと皆散り散りになって行った。
「私たちも帰ろうか?」
愛莉の声が心なしか元気ない。
どうしたんだろう?
(5)
酔っていたとはいえ神奈の口から出た言葉は忘れらえなかった。
もう過ぎた話だ。
最後に言ってたじゃない。
「誠はずっと私と一緒だよな?」って……。
いけない、私の方が揺らいでる。
冬夜君は神奈の事どう思ってるの?
……聞いちゃいけない事かもしれないけど、聞いたら終わってしまいそうな恐怖もあるけど。確かめておきたい。
「冬夜君は今神奈のことどう思ってるの?」
私がそう言うと冬夜君は帰り道を外れて行った。
産業道路にでてアミューズメント施設を超えてどこまでも反対方向に走っていく。
大きな川の橋を渡ると、ラブホが集まってる場所に出る。
「冬夜君?」
冬夜君は何も言わない。
いつでもいいように準備はできてるけど。
りえちゃんにも冬夜君と一緒って言ってるから大丈夫だけど。
いきなりですか?
それが答えなの?
答えはノーだった。
ラブホ街を過ぎ産業廃棄物処理場を通り過ぎ海岸線にでる。
そこにはカップルがたくさんいて、車内でいちゃついていた。
……広い車で良かったな。
ってそうじゃない!私だって恥ずかしいよ。
体が硬くなる。
そんな私の肩を抱き一点を指差す。
石油化学コンビナートの配管や煙突につけられた照明が綺麗でまるで千葉のテーマパークのようだった。
高校の時行ったな。
「誠から聞いたんだ、ここの夜景は綺麗だぞって」
私も神奈から聞いたことを思いだした。
車の中でするのにいい場所って誠君に言われたってことを。
「昼間にきてみたらさ、ただの石油化学コンビナートだったよ。不思議だね。照明一つで変わってしまう」
冬夜君の顔を見る。なんかの台詞を真似たとかじゃないみたい。
「思い出もそうなんじゃないかな。実際は何のことでもないけど。いざ思いだすと照明で彩られて綺麗にみえてしまう。それが僕の答え。カンナとの思い出は綺麗だけど今は誠と付き合ってるという事実は変わらない。僕はそう思ってる。カンナに何があったのか分からないけど、同じなんじゃないかな?」
「思い出は思い出のままでいい……ってことかな?」
「思い出は優しいから甘えちゃダメだ!って痛い!」
「今何かの台詞真似たでしょ」
そう言って私は笑っている。
不安はとうに消えていた。
そして相変わらずな冬夜君をみて優しい気持ちになる。
……キスくらいならねだってもいいよね?
私は目を閉じて冬夜君のそれを待つ。
雰囲気で分かる。もうじきだ。と思った時。
ぱっと明るく光る。
後ろに止めてあった車が動くためライトをつけたらしい。
せっかくのチャンスだったのに。
二人で顔を見合わせて笑う。
「そろそろ帰ろうか?」
「うん」
そうして、私たちは家に帰った。
家の前で冬夜君は車を止める。
私は車を降りる前に冬夜君の頬にキスをする。
「さっきしそこねたしね」
「……なんなら今から続きする?」
冬夜君から誘ってくるなんて嬉しいな。
「いいよ、私の家に泊まっていく?」
冬夜君は慌てて謝っていた。
「ごめん、つい勢いで」
謝らなくてもいいのに。
「それじゃまた明日ね」
「ああ」
そう言うと彼の車を見送った。
と、いっても2軒隣の家なんだけど。
家に帰るとシャワーを浴びて部屋に戻る。
するとスマホが着信通知が。
知らない番号だ。
どうしよう?
こんな夜更けだし明日で良いかな?
そう考えてるとまた同じ番号から電話がかかってきた。
悩んだ末出た。
「もしもし?」
「もしもし……」
どこかで聞いたことのある嫌悪感を感じる声。
「勝也です、お久しぶり愛莉ちゃん」
勝也!?
確か冬夜君の従兄の……。
「どうしてこの番号を!?」
「亜子から聞いたよ」
「そう言うのってルールー違反だと思いますけど」
「硬い事言うなよ。冬夜とは上手く行ってるの?」
「あなたには関係ありません!」
「なるほど、上手く行ってないのか?どう?遠距離恋愛になるけど……」
「失礼します!」
私はすぐに着信拒否登録をした。
そして冬夜君に電話する。
お願い!出て……。
「もしもし?どうした愛莉」
冬夜君の声だ、心なしかいつもより優しい気がする。
冬夜君に事情を説明する。
「勝也が!?」
冬夜君の声に怒気がこもっている。
「ごめんなさい……」
なぜか私は泣いていた。
「すぐに着信拒否を」
「もうしたよ」
「そうか、母さんたちにも言っとく。固定電話に電話するかもしれないから。絶対に知らない番号に出るなよ」
「うん」
「じゃあ、今日は疲れたろ?ゆっくりお休み」
冬夜君は私を落ち着かせようとしてるみたいだ。
その気持ちだけで癒されるよ。
「おやすみなさい」
そう言って電話を切る。
高校生活最後の最後でどうしてこうなるんだろう?
不安が残る最後になった。
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