優等生と劣等生

和希

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2ndSEASON

君は何思う?

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(1)

4日目。
朝4時ごろ水田先生に起こされた。
そのまま自分の部屋に戻され再び寝る。

「冬夜起きろ!朝飯行くぞ!」

渡辺君に言われ身を起こすと学ランに着替える。

「おい、今日は東京見学だぞ。私服じゃないと」

渡辺君に言われて気づく。
そうだった。愛莉が選んでくれた服を着る。

「へえ、決まってるじゃん」

渡辺君が感心そうに見てる。

ニットセーターの下にロング丈Tシャツを着て上からジャケットを着る。
下は黒スキニー。
全部愛莉が選んでくれたものだ。
気付いてくれるといいんだけど、色々あったし忘れてるだろうな。
……ジャケットはあとででいっか?
そうして朝のバイキングにありつくのだった。
今日こそ、今日が最後なんだから。
絶対に制覇してみせる。
意気込んだのは最初だけだった。

「おはよう、冬夜君」

見張っていたらしい。有無も言わされず連行される僕。

「はい、今日はパン大目にしといたよ」
「え?」
「その服装似合ってるよ」

愛莉が耳打ちする。

「ありがとう」
「ううん。冬夜君ちゃんと着てくれたんだね。でも朝ごはんの後でもよかったのに、汚れちゃうよ?」

大丈夫だよ、愛莉。
汚さずに食べる方法くらいちゃんと心得てるから。
着替えていたのは僕だけじゃない。
男子全員、指原さん……つまり、カンナと愛莉以外は全員着替えていた。

「そういやイッシー、飯田さんにはメッセージ送ったのか?

カンナが石原君に聞くと石原君は答えた。

「女性の朝って早いし忙しいんでしょ?僕みたいにID交換した人多いと思うし迷惑かなと思って」
「ほほう、初めての割には気を使ってるんだな。感心感心」

愛莉が石原君を褒めていると、見慣れない女子がやってきた。
朝ごはんを乗せたトレイを持ってきている。

「あの、ご一緒してもいいかしら?」
「いいけど……どちら様?」

って聞いたら、指原さんからおしぼりが投げつけられた!

「いいよ、恵美!」

ああ、この人がイッシーの相手の江口恵美か。
指原さんがどこかで聞いた名前を口にした。
神奈の隣に座る江口さん。

「で、亜依ちゃん。石原君てどの人?」

江口さんが尋ねると渡辺君の隣に、座ってる石原君を指差した。

「すごく純情で大人しいけど、良い人だよ」
「昨夜考えたんだけど、多分直接言った方が良いから言うね」

なんか雲行きが怪しくなってきたぞ。

「ちょっと恵美、未だ話てもいないうちから決めつけるのは良くないよ。話せばいいところあるから……」

指原さんも感じ取ったのだろう。
慌ててフォローする。

「でも、こういうこと人任せにして自分は何もしない人ってどうなのかな?と思って」
「ごめんなさい……」

石原君が謝る。

「他に言うこと無いの?無いなら行くね」
「とあるファミレスのハンバーグさ『ここはまずい』って思いこんで食べると本当に不味かったんだよね」
「冬夜君また食べ物の話!」

愛莉から注意されるも渡辺君が「続けろよ」と言う。

「でも、何も考えずに食べると美味しかったんだよね。先入観って大事だと思うよ?何も考えず食べてみたら?」
「でも、私は注文の品すら受け取ってないのよ」
「それはとりあえず当店のご勧めメニューですよって勧められてる段階だから。この後は江口さんの言う通り石原君次第だけど。ね、石原君?」

僕は石原君にバトンタッチする。

「あ、あのすいません……」

渡辺君が石原君の口を塞ぐ!

「ごめん、こいつ女子とあまり喋ったことが無くて。ちょっと準備させておくから。そうだな、冬夜の言い方で言うと味付けがまだなんだ」
「素材の味を確かめたくてきたんだけど」

僕がまた一言言った。

「朝寝起きの所に来るなんて。肉を生で食うようなものだよ?」
「片桐君て面白い。全部例えが食べ物なんだね!」

よかった、江口さんの中で僕の好感度が上がったようだ。
って僕の好感度を上げてどうする?

「とりあえずさ、下味付けて焼き上げるまで待ってよ」
「わかった」

その間に江口さんは朝食を食べ終えていた。

「じゃあ、失礼しました。また後でね」

そう言って江口さんは立ち去って行った。
江口さんて悪い人じゃなさそうだ。
嫌な感じはしない。
顔も綺麗だし。
成績もいいらしい。
あれなら石原君にいいかもしれない。
正確がちょっときつめなのは愛莉もカンナも一緒だ。
でも僕の話を理解してくれたのは大きなポイントだぞ。

「おーい」

石原君にはどう映ったんだろ?
どう見えたんだろう?
どう感じたんだろう?
委縮してちゃんと見てなかった気がするけど。
人は見た目だけじゃないというけど。
ちゃんと見ておかないと食べ物をよく見もしないで食べるのと一緒だ。
目で見て鼻で匂ってその後に味わう……。
女子を鼻で嗅いでたらただの変態だけど。
でも、シャンプーの匂いくらいは嗅ぐだろ?
女子なら、優しい声に癒されるだろ?
抱きしめる感覚を楽しむだろ?
人間五感をフルに活躍させて楽しむ……

「ふぅ……」

ほら、こんな風に耳に息を吹きかけられたりね。
って愛莉、こんなところで!?

「また一人で考え込んでたぁ~」

愛莉が不満そうに言う。

「ごめん、石原君の事を考えてた」
「どんな事?」

僕は石原君の顔を見て言った。

「石原君、江口さんを見てどう思った?」
「え?……よくわかんない」
「それじゃダメだよ、ちゃんと見て話を聞かないと。相手の良いところもわからないんじゃ。付き合うのも大変だよ?江口さんはそれを確かめにきたんだと思うけど、石原君は下を向いている、何も喋らない。それじゃ、なにも伝わらないし江口さんも不審に思うよ。なんで自分なんだろう?って」
「そ、そうだね……」
「そもそも、江口さんのどこを好きになったの?」
「……見た目と優しさと頭のよさかな……好きになったって実感はない」
「だったら尚更。ちゃんとお話ししないと、ちゃんと見ないと。実際に目の前にしてダメだって思うならそれもいい。ファーストインプレッションだよ。何事も最初が大事。」

それはサッカーも一緒だ。
最初にボールを触れたとき、フィールドのイメージがなんとなく頭に浮かぶ。

「冬夜は感性で動くタイプなんだな」

渡辺君が感心している。

「その感性もたまに働かない時あるけどな」と、カンナ。

「でも、感性が働いた時凄く素敵だよ~」と、愛莉。

「まあ、取りあえず話してみなよ。フォローはしてあげるからさ」

指原さんが、石原君に言う。

「で、でも何を話せばいいのか……」
「だからフォローするってば!」
「東京で、一緒に行動するの?」

僕は指原さんに聞いた。

「片桐君たちは別行動でいいよ、二人で渋谷でも楽しんできなよ」

いや、僕は断然浅草を推すね!
浅草寺の雷門みたいじゃん!
それに……。

「でも5人は一緒に行動なんでしょ?」

愛莉が尋ねる。

「まあ、私は暇だし?」

カンナはそうだろうな

「私は誘った責任あるしね。瑛大も一緒だよね!?」
「うん……」

桐谷君は渋々と言った感じか。最後は……渡辺君だが。

「俺も暇だしな。まあ二人はデート楽しめよ」
「ごめんなさいね」
「気にすることないよ遠坂さん。じゃ、また今夜も集合だな」
「また女子の部屋に忍び込むの!?」
「声がでかい瑛大!」

指原さんが、注意する。

「忍び込むなんて人聞きの悪い事言うなよ。『招待してる』んだよ」

物は言い様だな、カンナ。

「そうと決まったら早速戦闘準備だよ!イッシー」

指原さんが石原君に言うと石原君は驚いた。

「え?でも東京に着いてからって……」
「そんな甘い考えでは戦いに勝てないよ」

戦いに勝つってどんな意味だよ。

「私準備出来てるから男子の部屋にお邪魔するね。イッシーのコーディネートしないと」

何でそんなに慌ててるんだ?
それはカンナも愛莉も思っていたようで。

「そんなの別に後からでも……」
「この私にかかれば水田先生との取引も簡単な事ですよ」
「え?」
「バスはとりあえず好きに座れるとして。飛行機の座席くらい簡単に弄れますよ」
「まじか!?指原、お前本当にできる女だな」

渡辺君が驚いていた。
僕も驚いた、いつの間にそんな取引を……。

「男子が部屋に帰る時にね『水田先生、高校生の思い出を石原君に作ってあげたくてお願いがあるんですけどぉ~』って。水田先生だったから楽勝だったよ」
「てことは、水田先生もグルか!?」

カンナが驚きの声を上げる。

「まあね~でも水田先生だから大丈夫」

てな事を言われてますよ、水田先生。


部屋に戻ると一緒に、指原さんもついてきた。
石原君に今持ってる服を全部出せと言うと石原君は全部出す。
そのなかから組み合わせながらベッドの上に重ねていく。
そして……、

「これでいいか!」

と言うとそれを着るように石原君に言う。
着替えてる間に、ドライヤーと渡辺君が持ってるワックスを準備する。
着替え終わった石原君を化粧台の前に座らせると髪を整えていく。
手慣れた手つきだなぁと感心していると。

「これでも美容師希望だからね」とにやりと笑う。

そして30分で石原君は変貌を遂げた。
それを見て満足すると指原さんは自分の部屋にもどっていった。
白のロング丈Tシャツ、デニムスキニーパンツ、ダウンジャケットといった姿になっていた。
その変貌ぶりに僕も渡辺君も驚きを隠せない。
馬子にも衣裳って言ったところか。
チェックアウトしに、下に降りるとカンナや愛莉も感心していた。
江口さんも驚いていた。

その後バスに乗り込む。
一番後ろの席にカンナ、石原君、江口さん、指原さん、桐谷君。
左前に渡辺君、右側に愛莉と僕が座っていた。
……露骨すぎるだろ。
冷や冷やして偶に後ろを振り返るんだが……。

「江口さん、趣味とかあったっけ?」
「読書かな」
「へえ~、イッシーも読書好きなんだよね」
「う、うん。主にミステリーとかファンタジー系だけど」
「あら?趣味はあるみたいだね」
「そうなの、西野かなえとか湊東吾とか好きなんだけど」
「真昼の関数とか面白かったですよ」
「え~、私あれまだ買ってないんですよ」

……うまく言ってるみたいだ。

安心して景色を見る。
北海道の人はこんな凍結してる道でも平気でアクセルを踏んでいる。
小刻みに加速していく。
誰か言ってたっけ?
雪道を制する者は夏を制するって……。
一面真っ白な大地の中を走っていく景色はそれはそれで楽しい。
夏は一面緑なんだろうな。
夏の北海道もいいらしい。
やっぱり一度来てみたい。
働いてお金稼いで、愛莉と一緒に……

「おーい」

どこにいくのがいいかな。
稚内とか楽しそうだ。
あとは、やっぱり札幌tか函館とかか?
でも観光地には興味ないんだよなぁ。

「もう、しょうがないなぁ」

愛莉が耳の裏に息を吹きかける。

「うわっ!」と声を上げる僕。

「どうしたんだよ?」
「また自分の世界に入ってたよ」
「移動中くらいいいだろ?」
「だってぇ~退屈なんだもん」
「寝てたらいいだろ?」
「冬夜君と一緒の時間なんだよ?」

ああ、覚えていたのね。

「……どうしたいんだよ?」
「構って~」

そう言って愛莉は僕の腕にしがみつく。

周りをみる。
大体寝てる。
後ろを見ると、指原さんと桐谷君は二人でいちゃってる。
って、江口さんと石原君は!?
……心配なかった

「ファンタジーだとどんなの見るの?」
「精霊の守護者とか」
「あのシリーズ好きだよ。あとは二十二国記とか」
「あれもシリーズ長いですよね」

上手く話が弾んでるみたいだ。
カンナは寝てた。
渡辺君も寝てる。
僕はバッグからスマホを取り出すとゲームを……。

ぽかっ

「彼女が構って~って言ってるのにゲームするわけ!」

黙って、ゲームを始める。

「ちょっとまた世界に入り込んで……あら?可愛い」

それは自分のアバターを操作して魚や虫等を採取して動物にプレゼントし自分のキャンプに動物を招待するというシンプルなゲーム。
キャンプ地もも自分好みに色々細工できる?
お友達も呼んだりできるんだ。
愛莉に説明すると「私もやる~」と言い出し、スマホを取り出す。
そう言うと思ってたんだよ。
愛莉にやり方を説明してやる。
多分その様はいちゃついてるように見えるだろう。
愛莉も楽しんでるようだ。


飛行機内

流石に二度もはしゃぐ奴はいない。
皆次の目的地、東京の観光どこに行くかを決めているみたいだ。
僕は相変わらず外を見ていた。
青森がはっきりと見える。
それだけで胸躍るというもの。
すごいなぁと、感動しているとそれを妨げる女子が一人。

「ねえねえ冬夜君」

構ってって目で訴える愛莉。
なんか話題を振らないと……。

「愛莉は東京で行ってみたいところあるの?」
「んとー、渋谷とランドマークタワー」

スマホで検索する。……浅草は通る!

「いいよ、途中に浅草とか回ると良いね!」
「浅草~?また年寄り臭い選択だね」
「雷門観たいんだよ!」
「誤魔化されませんよ~もんじゃ焼き食べたいとか思ってるんでしょ~?」

うっ……。
また喧嘩になるのは避けたい。
だったら最初から言うなって?
あわよくばと思っただけだよ。
しかしバレたし諦めるしかないか。
でももんじゃ食いたいしなぁ、なんとか説得できないものか。

「冬夜君?」

ほらほらまた悲しそうな顔してるよ。
もう2度とさせないって決めたのに。
どうしていつもいつも……。
愛莉って食に対する関心が薄いのかな?
まて、ランドマークタワーの側にももんじゃやってるかもしれない。
それならイケる!
いやまて、食べるという行動自体に嫌悪感をしめしていたら、そもそも論だ。
愛莉を取るか食事をとるか。
答えは最初から決まってる。
だが、諦めきれるのか?
北海道の時とは違ってたった一度きりのチャンスだぞ!?
地元じゃなかなか食べられなくなったもんじゃ。食っておきたいじゃないか!
妬き方はちゃんとネットで検索してきた。

「ねえ……?」

まずい、そろそろ何か言わないと。
でもなんて言えば良い?
愛莉との想い出作りたいって言ったんだから、それを実践すればいいだけじゃないか。
もんじゃ!?それこそ地元で食ってもいい。
あるかどうかは知らないけど。
こんな時こそ検索だ、
僕は、検索する……。
結構ある!
ただ気になることがある、女子をもんじゃに誘っていいのか?
こう書いてあった。それなりに親しい中ならもんじゃもお好み焼きもありだって。
でも愛莉たこ焼きの時青のり気にしてたな。
やっぱ年頃の女子には不評なのか?
匂いがつくのも嫌がると書いてあった。
初めてのデートの場合女子は服装に気合をいれてくるからだと。
だけど愛莉は、今でも服装に気合入れてくる。
……誠と行くか!

「うぅ……」

そうだ、男友達と行けばいいんだ。
それなら全然問題ない。
それは今日もそうなんじゃないか?
班行動すればさりげなくもんじゃ誘える。
きっと渡辺君がフォローしてくれる。
みんなで一つのもんじゃをちまちま食べるのもいいじゃないか?
ちまちま食べてる時間があるのかはわからないけど。
江口さんと石原君との距離も縮まるかもしれない。

「おいこらっ!」

カンナからチョップを食らった。
その時気づいた。
カンナに泣きついてる愛莉に。
しまった!
今回は考えすぎた。

「……ごめん」
「謝るなら愛莉にだろ!この馬鹿」
「分かってる」
「分かってるならなんで愛莉泣かすような真似するんだよ!まだわかってないのか!?」

分かってるから考えてたんだよ。

「ぐすっ……冬夜君もんじゃ食べないの我慢しようとかそう言うこと考えてたんでしょ……もう大丈夫だって思ってたのに……」
「いや、その件なんだけど……みんなでもんじゃ食べないか……いてっ!」

思わぬところからゲンコツが飛んできた。
渡辺君だ。

「ハハハ、ちょっと冬夜借りて良いかな。なんだったら音無さんも」
「そうだな……愛莉ちょっと待ってろ」
「私一人邪魔者あつかいなの~?」
「そうじゃないよ、ちょっと冬夜に話があってね、すぐ戻ってくるから」
「……じゃあ私もついてく」
「遠坂さんには荷物ちょっと見ておいて欲しいんだ」
「愛莉、すまね」

渡辺君とカンナが言うと一言「分かった」と言って小説を読みだした。


「この馬鹿!」

最初の一言はカンナだった。
それを渡辺君が制する。

「なあ冬夜。お前やっぱり天才だよ、良い意味でも悪い意味でも。一部始終見てた。お前一つの事に集中すると周りが見えなくなる。周りの事を感じ取ることはできるみたいだけど」
「ごめん……」
「なあ、冬夜。なんで遠坂さん泣いてたかわかってるか?」
「それは、僕がもんじゃの事で悩んでたから」
「ちょっと違うな。多分もんじゃの事じゃそんなに怒ってないよ」

え?

「もんじゃの事で悩んで遠坂さんの事置き去りにして自分の世界に入ってたろ?それが悲しかったんだよ」

ああ、たまにやってるな。

「前に小樽で揉めてたろ?その時どうした?」
「直感で行動した。愛莉の目を見てオルゴール屋に行ってた」
「その時も入ってたろ?」
「あ、そう言えば……」
「スポーツの世界では『ゾーン』っていうらしいけどな、お前普段からその状態に入りやすいんだよ」
「そうか、どうすればいいんだい?」

取りあえずもんじゃは諦めるとして。

「もんじゃ諦めるとかそんな事かんがえてるんだろうけどそれは違うぞトーヤ」

カンナが言った。

「もんじゃが嫌いとかそんなんじゃねーよ、そういうやりとりも含めて愛莉は楽しんでるんだよ。さっきも泣き出した原因はそのやりとりを放棄してお前がそのゾーンとやらに入り込んでたからだ」
「それじゃ、どうしたらいいんだ」
「いつも言ってるが、愛莉の事だけを考えろ。愛莉ならどうしたい?愛莉は何を思ってる?さっき言ってたろ?『愛莉の目を見て』って……。それが正解だよ」
「なるほど」
「後もう一つ!」

カンナが忠告する。

「渡辺も言ってたけど愛莉はお前の食い意地で怒るような器の小さい奴じゃねーよ。本人も自覚して受け入れようとしている。その努力を少しは受け入れてやれ」
「全然言ってることがわかんないよ。もんじゃの事は考えるなでももんじゃのことで怒ってないって……」
「考えるな、考える前に感じたままに行動しろ!それが最善の方法だってことだよ。もちろん遠坂さんの目を見て話せよ」

渡辺君が僕の肩を叩く。

「そろそろ戻ろうか?あまり時間を費やしてると遠坂さん心配する」

僕たちは席に戻った。

愛莉はイヤフォンをつけ小説を読んでいる。
僕たちが戻ってきても一緒だった。
愛莉の顔は元に戻ってる。
イヤフォンつけてるんじゃ今話しても無駄だな……。
僕はバッグから携帯ゲーム機をとりだし……。

ぼこっ

本の角は痛いぞ愛莉。

「帰ってきたら早速ゲーム?それが神奈達と話しあった答え?」

愛莉の目を見る。
いかんまた涙浮かんできてるじゃないか?

愛莉の向こう側から鬼のような形相のカンナが……。

「さっきはごめん、どうやら自分の世界にすぐ入り込む性格みたいで」
「ふーん……で?」
「さっきももんじゃと愛莉を秤にかけてた」
「は?」
「愛莉は僕を受け入れるって言葉の意味ちゃんと理解してなかった。僕自身も愛莉との想い出を作りたいを言っておきながらこの様だ」
「……分かってるじゃない」
「だから今敢えて言う、愛莉と初めての共同作業ってわけじゃないけど……、まったりした時間を過ごしたいって言ってた言葉を信じていうよ……一緒にもんじゃが食べたい」
「それってわざわざ東京でしなきゃいけないこと?もんじゃなんて地元でも」
「うん、でも旅行の思い出にはならないだろ?」
「……私の服見て言ってる?」

白いタートルネックと黒のジャンパースカートだ。
うん、もんじゃ食べる格好じゃない気がしてきた。

「ごめん」
「謝るくらいなら最初から言わないで」
「思いついたままに話すべきだと思ったから。愛莉の目を見て」
「そう言われたの?」

おい、どう考えても逆効果だぞ……。
もう一度愛莉の顔を見る……あれ?
怒ってない。

「もんじゃに行きたいならそういえばいいのに、どうせお昼も自由行動内なんだし。そしたら私も恰好考えてきたのに」

もんじゃ用の服なんて用意してないだろ?

「で、どこのお店に行きたいの?」
「さっき検索したらランドマークタワーの近辺にももんじゃのお店あってさ……ってあれ?」
「ど~したの?」
「いや、その格好でもんじゃはだめって……」
「東京まで来てラーメンよりは東京らしいじゃない?おやつとか言ったら怒るからね!」

いやいや、東京のラーメンも美味しいらしいですよ。
うーん……。

「愛莉は何食べたい?」
「はい?」
「愛莉の中で東京の食べ物ってなんなんだろう?って」
「う~ん……うどん?も微妙だったしなぁ。あとはお高い店って感じ。高校生にはとても入れないような」
「じゃあ、問題ないね」
「良いっていってるじゃない~」

愛莉の目はどこまでも優しい目をしていた。

ぽーん

シートベルト着用のランプがついた。

「間もなく当機は羽田空港に……」

「冬夜君」
「なに?」
「私って面倒だよね?すぐ泣いたり拗ねたり……」
「だから放っておけないんだろ?」
「!?」
「今更何言われても手放す気ないよ。指輪に誓ったしね」
「こ、これはイミテーションだって。本物は冬夜君に買ってもらうんだから~」
「イミテーションだけど僕は意味あるものだと思ってるよ」
「……ありがとう」

着陸する。
いよいよ東京だ。
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