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2ndSEASON
多田誠
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スポーツ公園
うちの高校と城宝科学高校の生徒が押し寄せていた。
全国高校サッカー地区大会・準決勝。
準決勝ともなれば応援に駆り出される。
もっともうちの高校の男子でサッカーに目を奪われていたのはどれだけいただろうか?
城科の女子の制服は県内でも群を抜いて人気ある制服だ。
ただでさえ人気ある制服に丈の短いスカート。
うちのクラスは城科側と接していたので露骨に見てる奴が多い。
制服が可愛いと言うだけで、中身にも上方補正がかかる。
そんな補正のかかった女子にもなびかないのが僕なのだが。
甲子園予選のときは売ってたジュースも今は買えない。
喉渇いたなぁ~。
立ち上がり、ちょっくら自販機でも探してくるか……先に買っとけば良かったかな。
ぐいっ!
ほらね、きっと止められると思ったよ。
食べ物じゃないから、喉が渇いただけだから。水分補給は大事なんだぞ愛莉。
そんな僕の気持ちを呼んでいたのか愛莉はバッグから水筒を取り出すと僕に渡した。
ありがとう愛莉!気が利くね。
それを一口飲む。
生き返る!!
「愛莉はよく気が利くな……良い嫁さんになるよ」
そんな様子を隣で見てたカンナが一言漏らす。
そうだよね!
多分相手は決まってるんだろうけど。
愛莉は僕の顔を見る。
何か言って欲しそうだ。
目がキラキラしてる。
「僕もそう思うよ」
一人はしゃぐ愛莉。
「そんな冬夜君のいい伴侶になれるだなんて!」
いや、そこまで具体的な事は言ってないぞ愛莉。
愛莉の耳についてる補正機能ではそういう風に上方補正されてるんだろうな。
あ、試合が始まった。
城科のサッカー部もそれなりに強いらしい。
何せ伊田高を破ってのベスト4入りらしいから。
そういや、伊田高は誠が欠場してたとか。
どっからその情報仕入れたのかって?
佐古下さんがわざわざ教えてくれたよ。
カンナからは何も聞いてないけど、知っていたのだろうか?
浮かない顔で試合を眺めている。
後で聞いてみるかな?
今は試合を見よう。
え?僕が試合を見るとまた入り込むんじゃないかって?
特別注目する選手もいないし多分大丈夫だろ。
ちなみに男子は全員城科の女子に入り込んでる。
そのままスカートの中に入り込まないように祈るよ。
さすがにそれで逮捕は格好悪いぞ。
僕はと言うとさっきも言ったけど特に気にならなかった。
と、いうか隣の女子2人がそれを妨げていた。
多分、僕が見とれていたら、一人に怒鳴られもう一人には「私ので我慢しなさい!」と恥ずかしげもなく言うだろう。
それよりも試合……。
うん、うちの高校のキーパー勢いがいいなぁ。
飛び出すべきところできちんと飛び出してる。
セーブ力も中々だ。
それにしてもうちの高校攻められすぎやしないか……。
ほら、裏にスペース空いてるぞ。
「おーい」
うーんプレスかけるならもっとパスコース消していかないと。
「冬夜君てば~」
あ、そこじゃキーパーの視界遮ってる。
ほらゴール決められた。言わんこっちゃない。
キャーと城科陣営から歓声が沸き起こる。
立ち上がり喜ぶ女子もいた。
すかさずスマホで写真を撮る男子も……。
「さっきからうぜーんだよ男子共!そんなに短いスカートが気になるんだったらもっと別のところで見とけ!」
カンナが立ち上がって怒声を上げる。
因みに愛莉もカンナも今はスカートの丈は短い。
「神奈落ち着いて」
愛莉がカンナを落ち着かせる。
「なんだ、音無。アノ日かぁ」
男子の一人がそんなことを言うもんだから……。
バキィッ!
って擬音が正しいんだろうな。
カンナの蹴りが男子の顔面を捕らえた。
「いてーな!何すんだよ!」
鼻血を垂らしながら男子が怒鳴る。
いつもなら怒声におびえるカンナだったが、今日は違う。
慌ててカンナを抑える。
水田先生が現れた。
「どうしたお前ら静かに試合を見ろ!……お前その鼻血どうしたんだ?」
ここで「女子に蹴られました」と言える男子はそんなにいないだろう。
いたらある意味尊敬する。
誰かが「城科の女子見て興奮してました」と言い訳する。
「お前ら……ちゃんと試合に集中しろ」
そう言って水田先生が僕たちのそばに陣取る。
正確には僕の横に陣取る。
そして僕に耳打ちする。
「美樹本先生から聞いたんだがな、お前まだ選手登録されてるらしいんだ」
はい?
「どうする?今から出るか?」
「出ません!」
即答した。
「だよな、そのように伝えておくよ」
そう言って水田先生は去って行った。
「トーヤもはっきり言えるようになったんだな」
カンナがそう言って僕の背中をたたいた。
その後しばらく考えると僕と愛莉にこっそりいう。
「後で話しておきたい事がある。誠には口止めされてたけど……もう今更って気もするし」
「……僕も聞きたいことあったんだ」
多分同じ事だろう。
「それより冬夜君さっきまた入っていたでしょう!」
「え?」
「カンナが怒鳴るまで呼び続けてたけど全然気づいてくれなかったよ!」
「あ……」
やってしまった。
「まったく、その冬夜の境地を他の男子にも少し分けてやれよ」
カンナが呆れたように言う。
それよりさっき気づいたんだけど、なんかこう城科の生徒の目線が気になる。
あまり名前を連呼しないほうが。
「どうしたの?冬夜君?」
早速呼ばれた。
愛莉たちは気づかないのか、この異様な視線に。
「あの人ってテレビでやってた人じゃない?」
「えーでも、今試合やってるんだよ?ここにいるわけないよ」
「今サッカーやってないって言ってたじゃない」
そうだよ、サッカーやってないんだよ。
だからそっとしてて。
僕は試合に集中することにした。
「おーい冬夜君」
やめて、呼ばないで。
「また入ってるよ!」
違うから。
「冬夜君てば~!!」
僕の体を揺さぶる愛莉。
「あの……」
城科の女子生徒が声をかけてくる。
「ひょっとして片桐冬夜君ですか?」
ここは無視した方が良いな。
「そうですよ~」
そうだよな、愛莉が代わって答えるよな。
その一言で堰を切ったように騒ぎ出す女子生徒たち。
「あの、握手してください!」
「どうしてサッカー辞めたんですか!?」
「やばい、本物だよ!!」
「辞めた理由の彼女ってどっちですか!」
答えたら、まずいよな。
「私で~す」
この娘はどこまで素直なんだ。
矛先は愛莉に向かった。
「ふつう彼女ならサッカー勧めませんか!?」
「どうしてサッカーさせてあげないんですか!?」
「ていうか束縛系ってうざがられない?」
愛莉は相手の言い分を一通り聞いた後に静かに答えた。
「そうやってやりたくもない事を無理やりさせる方がウザがられると思うけど?」
相手は引き下がらない。
「どうしてやりたくないって分かるんですか?遠慮してるだけかもしれないじゃないですか!」
「5年も付き合ってればそれなりに衝突もするし相手の事も少しは理解するだろ」
それまで黙っていたカンナが口を開く。
「ていうか、何も知らないでキャーキャーミーハーぶって騒いでるのが一番イラつくんだけど」
嵐の前の静けさって今の状態を言うのかな?
嵐が来る前に城科の先生がきて騒ぎの収集に入った。
「冬夜君気にしちゃだめだよ」
愛莉が背中をさすって言う。
でも違うことを考えてた。
今日のカンナ、妙にイライラしてないか?
因みに試合は2-0で負けた。
(2)
試合が終わった後、ジュースを買い飲み干す。
解散し人も少なくなったところでカンナの話を聞こうか?
うーん、お好み焼きは反対方向だしここは……。
ぽかっ
「ファミレスでいいよね?」
「たまにはコーヒーショップ行こうよ!」
「私コーヒー好きじゃないもん」
「紅茶とかジュースもあるよ!」
「うーん……」
「偶には冬夜の要望も聞いてやれよ」
神奈はここぞとばかりに絶妙のアシストをしてくれる。
「じゃあ、そこで……」
「メロンソーダと味噌カツパンと特製ピザとビーフシチュー……いてっ!」
愛莉に小突かれた。
「どれか一つにしなさい!」
「……メロンソーダと味噌カツパンで」
「私はアイスティーを」
「ブレンドコーヒーで」
店員は注文を受けると去っていった。
「お前たちのやり取り聞いてると本当にカップルかと思えてくるよ」
カンナはため息交じりに言う。
「だって冬夜君が……」
愛莉が言うとカンナは笑っていた。
「知ってるよ、でも、もう愛莉も諦めろ。一生治らねーよ」
「うーん……」
愛莉が悩んでいる。
「で、カンナさっきの話だけど……」
僕が話題を変える。
「そうだ、それだ。実はさ、誠の奴地区大会前に足首故障したらしくてさ」
「え!?」
「え~」
「二人共声がでかい!」
カンナが僕と愛莉を落ち着かせる。
「で、大会自体から欠場されて、3回戦で城科に負けたのは誠たちの知ってる通り」
なるほどな、誠悔しかったろうな。
僕なら怪我した自分を呪うだろうな。
怪我は付き物って言うけどタイミングが悪すぎる。
「でさ、トーヤに相談なんだけど……」
言っちゃなんだけど。城科のザルな守備なら誠一人いれば十分加点できた。そこにいなかったのは痛手だ。
試合見てんかったけどうちの高校並みに一方的な試合展開になったんだろうな。
「冬夜君?聞いてる?」
今日の試合も自慢じゃないけど、僕なら突破できる自信はあった。
パスが来るかどうかは別として。
ああ、東京代表と天山高校の試合も似たようなもんだったっけ?
パスさえ繋がればどうとでもなるような。
まあ、そのパスを潰す為に防御が大事なんだるうけど。
僕ならあの沖君て人にぴたりとマークするね。
僕はジュースをぶくぶくさせながら一人考えていた。
考えていた?
あ、まずいかも。
愛莉は何のためらいもなく僕の耳の裏に息を吹きかける。
「ふぁっ!?」
「もう、また入り込んでたでしょ!神奈が相談してるよ」
「あ、ごめん。で、相談って」
カンナは、一呼吸おいてそっと言った。
「……冬夜ならどうしたら嬉しい?何をしたら慰めになる?」
あ、そういうことね。
負けて傷心の誠を励ましてあげたいったところか。
そうだなあ、僕だったら何もしないでもそばにいるだけで嬉しいかな。
ちらっと愛莉を見る。
きっと愛莉はあれやこれやして励ましてくれるんだろうけど、あまりいろいろ気を使われるのも困るかもな。
「トーヤ?」
愚痴っていうか泣き言っていうか、なんて言えばわからないけど心に痞えてるもの吐き出させてくれて且つそれを受け止めてくれるだけで救われる気がする。
まあ、中には何も無かったかのように明るく振舞って遊んでくれるだけで嬉しいって事もあるかも。
誠はどっちだろ?なんか両方どっちでもいい気がする、カンナが気を使ってくれてる。それだけで嬉しいかも。
あ、でも気を遣わかれてイラッとくるって可能性も……誠ならないか。
「トーヤ聞いてんのかよ!?」
あ、また入り込んでた。
でもカンナの事で悩んでたんだぞ。
カンナか……。
神奈の顔をまじまじと見る。
「な、なんだよ」
「誠の怪我は治ってるんだよな?」
「ああ、試合には間に合わなかったけど完治したって」
「それなら話は早い……」
カンナはバイトがあるため途中で別れた。
その後愛莉と二人で家に帰る。
「冬夜君。本当にあれだけでいいの?」
愛莉が聞いてきた。
「うん、要は気がまぎれたらいいんだから。後はカンナの優しさが伝われば多分誠なら大丈夫だよ……性格が変わってなければね」
「それって冬夜君自分に重ねて考えてた?」
「うん、後は誠の性格も考慮してね」
「ふ~ん、私はそっとしておくのが正解だと思ってた」
それも正解だとは思う。
でもそれだと……。
「それだと、愛莉の気が済まないでしょ?愛莉の気が晴れないでしょ?」
「まあ、もやもやはしてると思う。でもそっとしているのが優しさなら」
「そういう優しさがかえって誠に気を遣わせるともう。大丈夫誠ならきっとカンナの優しさに気づいてくれるよ」
「う~ん……。もし冬夜君が落ち込んでいたら、私は叱ってあげるね!くよくよすんな!って」
「ありがとう、愛莉はそれでいいよ。愛莉がそうだから僕は安心して落ち込める」
「私が落ち込んでいたら冬夜君どうしてくれる?」
僕は少し考えた。
「隣にいてあげるかな。ここにいるよって。どこにもいかずに待ってるって」
「ありがとう。じゃあずっと落ち込んでる!」
「え?」
「だって落ち込んでいたらずっとそばにいてくれるんでしょ!?」
愛莉はそう言って笑っていた。
最高の選択肢は「愛莉を落ち込ませないこと」なんだけどね。
何があっても今度こそは揺るがない。
(3)
駅前で待ち合わせていた。
するとフーデッドコートとビッグニットセーター、スキニーパンツ姿で現れた。
「またせたな」
「私も今来たところだ」
「でも珍しいね、てか初めてじゃね?神奈から誘ってくれたの!」
来た早々テンションが高い誠。
そう見せてるだけかもしれないけど。
「じゃあ、今日はとことん歌おうか!」
「そうだな、久々だしな!神奈のアレ聴きたい!」
「わかったよ」
そう言ってカラオケで二人で6時間歌っていた。
出てくるころには二人共のどがガラガラだった。
「ふぅ、満足した!」
「そうだな」
満足していただけたようだ。
これで忘れてくれればいいが……。
しかしそううまくいくはずもなく。
街の電光掲示板に出てくる文字。
高校サッカー地区大会城宝科学優勝。
ああ、うちに勝ったところか……ってバカ、今その情報はいらない!
誠の方をちらりと見ると、誠がその電光掲示板をじっと見つめている。
ここで私も落ち込んでいちゃいけない。
「歌ったら腹減ったよ。なんか食って帰ろうぜ!」
「ああ、それなら一度行ってみたい店あったんだ」
そう言って誠は私の手を取り歩き出す。
行きついた店は公園そばの洋食屋さんだった。
注文は誠に合わせる。
店員が注文を取り奥に下がると誠はふと漏らした。
「俺もサッカー辞めて地元大学行くかな?」
水を拭きこぼしそうになった。
「なんでそうなるんだよ?」
「そしたら問題なく神奈と暮らせるだろ?」
今日は誠を励ましに来たはずだった。
にこにこ笑って「嬉しい~」とでも言えばよかったのか?
だけど私は無性に腹が立ってた。
「ふざけるな……」
「え?」
「ふざけんなって言ったんだよ!」
店の中にはそれなりに客がきてる。
その客が一斉に私たちを見た。
「神奈、落ち着け」
「落ち着いていられるか、誰のせいでこうなったと思ってるんだよ!サッカー辞める?たった一度の挫折で簡単にあきらめる程度のものなのかよ!」
「冬夜だって似たようなもんだろ」
「トーヤとお前は違うだろ!」
「違わないよ!冬夜だって一度の挫折で挫けたんじゃないか!」
「違うよ!お前はただ逃げてるだけだ。一度怪我したくらいで!全国逃したくらいで捨てきれるほどのものじゃないだろ!」
「冬夜には『意思を尊重する』で俺は『逃げるな』っておかしくないか!?」
「あのお客様……少しお静かに」
店員に注意された。
「分かったよ……お前の意思を尊重する。その代わり私の意思も尊重してもらうぞ『お前と別れる』」
「……神奈にとって、サッカーが俺の全てなのかよ」
「違うよ、サッカーしてるお前が一番輝いていたからだよ。まさかこんなことで挫ける軟弱な奴だとは思ってなかった」
「こんなことって、俺の気持ちが神奈にわかるのかよ」
「それを言うなら大好きな彼に別れを言わなきゃいけない私の気持ちが分かるのかよ」
「だったら言わなきゃいいだろ」
「言わなきゃ分かんないだろ!」
どうしてこうなるんだ?
ただ、誠を励ましてやりたかっただけなのに。
冬夜の言われた通り「支えてやれ」と実践しただけなのに。
「トーヤは自分の意思でサッカー辞めて愛莉とくっついて、それで愛莉を選択した。でも誠は私を理由にサッカーから逃げようとしている。口実につかわれるくらいなら別れた方がマシだ」
自分で言ってて情けなくなってきた。
いつの間にか私は泣いていたんだ。
「神奈に甘えていたのかもしれないな……」
甘えて良いんだよ。
ただ流されないで欲しい。
簡単に夢を諦めないで欲しい。
サッカーを続けることが夢なんだろ?
その夢を諦める口実に使われるくらいなら、私は身を引く。
辛い選択だけど。
それが誠の為になるなら、敢えて選ぶ。
誠の中で何か踏ん切りがついたらしい。
「冷めないうちに食おうぜ」
は?
良くこの状況でそんな台詞吐けるな。
空気って字読めてるか?
誠がだまって食べ始めたので私も食べた。
お腹が満たされると頭も冷めてくる。
そして酷く落ち込んでいた。
これで誠ともお終いだって。
お互い何も言わない。
バスターミナルまで送る。
「じゃあな……」
そう言って立ち去ろうとすると誠に呼び止められた。
「待てよ神奈」
腕を掴む誠。
「離せよ」
もういいだろ、十分話し合ったんだろ?
お前の中で何かが決まったならそれ以上言うことは何もない。
「一つだけ頼みがある」
「頼み?」
誠は頷いた。
「いいよ、何だ言ってみろ」
「俺を殴ってくれ?」
は?
「今なんて言った?」
「俺を殴ってくれって」
そうか、そんなに殴り飛ばされたいか?
「……あし踏ん張れ。歯ぁくいしばれ」
「ああ、大丈夫だ」
私は思いっきりグウで殴った。
女子のとりわけ鍛えてるわけでもない私が殴ったところで吹っ飛ばされるほど軟弱な誠ではなかったが。
「ありがとう、これですっきりした」
すっきりしたって……お前Mっ気だったか?
どちらかっていうとドSだと思っていたけど。
「ありがとう、私もすっきりした」
じゃあな、と言うと私は自分の乗り場に移動しようとした。
すると後ろから抱き着く誠。
なにやってんだよ?すっきりしたんだろ?もう放っておいてくれ。
「これで仲直りだよな?」
は?
なんでそうなるんだ?
振り返ると口から血を垂らしながら誠が笑う。
ちょっとしたホラーだぞ。
「何言ってるんだ?」
「神奈の涙見て目が覚めた。神奈に殴られて吹っ切れた。サッカー続けるよ。だから別れる話は無しだ」
「……今度は『私に別れるって言われたから辞めない』か?」
もう一発殴ってやろうか?
「違うよ、完全に違うとは言い切れないけど。でもサッカーから逃げるのは止めたよ。一緒には暮らしたいけど」
何を言ってるんだこの男は?
「ごめんな、神奈の気持ち聞いてやっと気づいたよ。重荷背負わされるのはいやだよな。神奈にそうさせてた」
「わかってるならいいだろ?離せよ」
「もう二度と同じ過ちをしない。許してくれないか?」
「ったく男って生き物はどうしてこう鈍くてずるくて卑怯なんだ……分かったから話せ、人目が痛い」
「じゃあ、許してくれるんだな?」
「いいよ、ただし。今回だけだからな」
嘘だ。
何度でも許すんだろう?
愛莉たちと同じように。
何度でも何度でも。
変わらぬ愛に届くまで。
「じゃ、今夜はお泊りだな」
はい?
「気分盛り上がってきたろ?」
こいつは心底馬鹿だ。
誰も知らない誠の一面。
「……ブーツで踏みつけるプレイでもお望みか?」
「う……神奈がのぞむなら」
「な、わけねーだろ!!」
今なら言える。
誠もトーヤと変わらない。
そんなに変わらない。
誠も分かってる様で分かってない。
それが誠なんだと割り切ろう。
私はここにいるから。どこにもいかずに待っているから。どうか今のままでいて欲しい。
ここにいるけど、見つめていたい、誠のその瞳。
分かって欲しい。私はいつでも待っている。
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