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2ndSEASON
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「冬夜君、おはよう」
今日は素直に起きた。
愛莉の顔を見る。
目に隈ができてる。
眠れなかったのか。
「おはよう愛莉。眠れなかったの?」
「うん、ちょっとね。早く着替えてね」
そう言うと、愛莉は部屋を出て行った。
やっぱりまだ怒ってるのかな?
とりあえず着替えようと制服を手に取るとなんか匂った。
消臭剤の匂いだ。
愛莉の仕業か?
そんなに気になるのか?
早い所説明した方が良さそうだ。
急いで着替えると荷物を手に外に出た。
1階に降りるとダイニングのテーブルの席には父さんと、愛莉とカンナがついていた。
カンナが僕をみつけると、睨みつける。
「まだ言ってないのかよ」
とも言いたげな表情だ。
「愛莉、昨日の話だけど……」
「早く食べて準備しないと間に合わないよ」
とりつくしまもない。
「トーヤが何か話あるみたいだから、聞いてやれよ」
カンナが愛莉を諫めるが、
「話なら後でじっくり聞かせてもらうから今は急いで」
と、話にならない。
諦めて今は食事をしよう。
「後で聞いてくれるんだな?」
と、念を押す。
その言い方が気に障ったのか、
「ええ、聞くだけならいくらでも聞いてあげる。さぞ納得のいく説明をしてくれるんでしょうね」
「あらあら、珍しく痴話げんか?二人共仲良くしないと」
母さんが間に入る。
「冬夜君に言って下さい」
と、母さんにまであたる始末。
かなりキてるな。
本当に早く説明しないと。
だけどそのチャンスは学校が終わるまで来ないのだった。
(2)
「愛莉、朝の態度よくないぞ。トーヤ困ってただろ」
学校の休み時間、神奈が話かけてきた。
「神奈は聞いたの?理由」
「まあな、でも私から言うことじゃないだろ?」
「そうだね」
朝は私もどうかしてた。
匂いを嗅ぐだけでムカってくるから消臭剤を学ランにかけてやった。
「眠れなかったの?」
誰のせいだ!
一生懸命説明してくれようとしているのは分かってる。
でも、素直に聞けないよ。
どうして昨夜のうちに話してくれなかったの?
朝の時間に出来る説明なら昨夜してくれてもよかったじゃない。
「一つだけ言っとく。愛莉が考えてるような事態じゃねーよ。本当にしょうもない理由だ」
「そうなんだ。でも私がイラって来てるのは理由がどうとかじゃないの。神奈にはすんなり喋って私には『関係ない』って一言だけの冬夜君に腹が立ってるの」
「トーヤにもトーヤなりの考え方があるんだろ?」
「誠君はちゃんと神奈に話したじゃない」
「あ、それもそうだな……」
本当はしょうもないことに腹を立てて冬夜君の言い分を聞かない自分にもイライラしてる。
なに意固地になってるんだろ私。
冬夜君は結局昼休みにも話をしてくれなかった。
あーあ。せっかくとっておきの準備をしておいたのに。
全部台無しじゃないか!
冬夜君の馬鹿!
学校が終わるとやっと冬夜君が動いた。
「愛莉話を聞いてくれ」
「帰りながら聞けることなの?どうして今まで黙ってたの?昼休みとか時間はいくらでもあったでしょ」
ていうかどこに行ってたの?
「あ……ごめん」
「もういいよ。帰りながらでいいなら聞くから」
「うん」
私どうしてだろう?
思いつめてた?
教室に鞄を忘れていた。
「ごめん、鞄忘れてた。教室に取りに行ってくる」
そう言って私は教室に戻った。
教室に入ろうとしたとき聞こえてくる話声。
「ぶっちゃけさあ、片桐君ってありえなくね?」
「言えてる言えてる。ノリ悪いしなんかそんなに成績良くないのに真面目ぶってるし」
冬夜君の話をしてる?
「サッカーしてるときは、イケてるなあと思ったんだけどな~」
「サッカー以外はてんでダメね」
「冬夜君はそこまで悪い人じゃないよ!」
気付いたら私は二人の会話に割って入ってた。
喧嘩してるとはいえ、彼氏の悪口を言われたら文句の一つも言いたくなる。
「あ、遠坂さんちょうどいいところに」
「片桐君てどこがいいわけ?サッカー上手いのは分かるけどサッカー部に入ってるわけでもないし」
「他に取り柄があるってわけでもないし」
「なんか普通以下って感じ」
ムカついた。
どうしてそこまで言われなきゃいけないの!
普通以下?
普通って何よ?
何を基準に決めてるわけ?
「そんなことない、冬夜君にだっていい所あるもん!」
「じゃあ、どこよ。片桐君のいいところって」
「そ、それは優しいとことか……」
「そりゃ誰でも彼女には優しいでしょ」
「私だけじゃない!誰にだって優しい!」
「それって八方美人ていうんじゃないの?片桐君の場合優柔不断って方があってると思うけど」
「あなた達には多分分からないと思う。冬夜君の良い所は」
「それって逃げてない?自分だけ分かってたらいいの?それって愛情ってより憐れみなんでない?」
「あ、それならしっくりくる。ダメ男に惚れてる自分優しいとか思ってたりとかさあ」
ダメ男!?
完全に頭にきた。
「あのね……」
私が何か言おうとしたとき背後に誰かがいるのを確認した。
「その辺にしときなよ」
振り返ると立っていたのは……。
「冬夜君!?」
「愛莉その辺にしとけ。もういいだろ」
「冬夜君悔しくないの!?自分が馬鹿にされてるんだよ」
「別に悔しくないけど」
どこまで人が良いんだこの人は。
「ハハハ、遠坂さんの言うとおりだな。冬夜の良さは遠坂さんにしかわからないよ」
もうひとり来た。渡辺君だ。
「二人共ちょっといいかな?話がしたい」
そう言って私と冬夜君を連れてどこか人気のない所に向かった。
「昼間冬夜から事情は聞いたよ。すまなかったね、遠坂さん」
「?」
昼間いなかったのは渡辺君と話をしていたの?
でもなんで渡辺君が謝るの?
「遠坂さんには黙ってろって言ったのは俺なんだ」
事態が良く呑み込めない。
「昨日の事を話すよ、実は……」
………
……
…
なるほどね。
「……と、いうわけで冬夜は何も悪くない。むしろ嫌がってた冬夜を無理矢理誘った俺に非がある。ごめん」
そう言って渡辺君は頭を下げた。
「ま、そんな感じで。後は二人で話しあってくれ。俺は消えるから」
そう言って立ち去る渡辺君。
残された私と冬夜君。
「愛莉あの……」
「どうして言ってくれなかったの?」
「……怖かった」
は?
「誠の一件の時言ってたじゃん。他の女性と腕組んだりしてたら怒るって……それで怖くて言えなかった」
私その時言ったよね?
「でも冬夜君信じてるから揺らがないよとも言ったよね?」
「あ……」
今更思いだしたか。
「冬夜君悪くないじゃない。何で冬夜君が怖がるのよ?私そんなに怖い?」
「い、いや。そんなことはないけど……でも別れるって言われるのが怖い」
「そう思うなら二度とこんな真似はしない。たとえ誘われたとしても事情を説明する。それだけでいいんだから」
「わかった」
「とはいえ、私に黙って女子にあったのは許せませんね~」
「え……」
一瞬冬夜君の表情が曇る。
「帰ろ?罰はその後」
そう言って私は歩き出した。
(3)
家に帰る。
急いで着替える。
17時半。
自転車で飛ばせばギリギリ約束の時間に間に合うか。
ピンポーン
ってあれ?
「冬夜、愛莉ちゃん迎えに来たわよ」
なんで?
「考えてみたら家に来た方が早いと思ったから」
それから二人で街にでかける。
向かった先は駅ビル……じゃなくて商店街の中の店。
アクセサリーなんかを売ってる店。
「お、約束通りに来たね」
ソフトモヒカンな男の店員が愛莉を見て言った。
「あの、この人の指のサイズなんですけど」
そう言って僕の左手を掴み店員に見せる。
店員は僕の薬指を見て言う。
「うーん、15号ってところだな。ちょっと待ってて」
店員はそう言うと店の奥に引っ込んだ。
困惑する僕。
にこにこしてる愛莉。
しばらくして店員がでてくる。
「はい、出来たよー」
そうして二つのシルバーの指輪を愛莉に渡す。
愛莉は指輪を僕に差し出す。
「はい、誕生日プレゼント」
え?
あ、今日は僕の誕生日か。
でも二つも……?
愛莉はだまって左手を差し出す。
???
「少年、まだまだ鈍いなぁ~。彼女につけてやんなよ。ついでに言っとくけど薬指だからな」
店員が笑いながら見てる。
ちょっと待って!
それって結婚指輪じゃないの?
ていうか愛莉からもらっていいのか?
店員が、さらに言う
「イミテーションだから大した意味はないよ、気軽に付けな」
しかし高校生がつけるのか?
愛莉が「早く!」と急かすのでとりあえずはめてやる。
小さなシルバーリングは愛莉の薬指にぴったりとはまった。
さて問題は僕だ。
はめたら外せないなんて呪いはないよな?
そんな事を考えていた僕に愛莉が告げる。
「それが罰でーす。極力肌身離さずつけておくこと!理由も無しに外したら怒るからね!」
「……それって学校でもつけてろって事?」
「当然でーす」
どうだと言わんばかりの愛莉。
「頭服検査の時どうするの?」
「水田先生なら大丈夫だよ。それにそれしてたら、いくらなんでも誘惑してくる子もいないでしょ」
冷やかす奴はでてくるだろうけどな。
「少年!男だろ!ガっといけガっと!!それとも彼女につけて欲しいか?」
店員は面白そうに見てる。
「そういうことね」
愛莉は僕から指輪を奪うと左手の薬指に無理矢理はめる。
「無くさないようにね。じゃあ、ありがとうございました」
そう言うと愛莉は踵を返し店を後にする。
僕もそれに付いていく。
「困ったなぁ~」
「何が?」
「これじゃ、クリスマスプレゼントのハードル高くなっただけじゃないか」
「う~ん。イブに一緒にいてくれたらそれでいいよ」
それで「わかりました」という男がどれだけいるというのか?
「愛莉昨日はごめん」
ちゃんと謝ってなかった。
今更だけど。
愛莉は頬を膨らます。
「もうその話はなし。たった今罰を与えたのでチャラでーす」
「でも……」
「それ以上言ったら怒るぞ」
「……分かった」
愛莉はまだ不満げなようだ。
「だから鈍いとか言いたい放題言われるんだよ!他に言うことあるでしょ!」
他に言うこと……?あ。
「愛莉、ありがとう」
愛莉は満面の笑みを浮かべた。
「どういたしまして」
もう怒ってないみたいだ。
ほっとするとお腹が空いてきた。
「せっかくだし、なんか食べていかない?」
「麻耶さん用意してるよ」
「明日の朝食べるから……いてっ」
「そんなに食べまくっていると指が太くなって指輪外せなくなっても知らないから」
そんな罠が待っていたのか?
は、謀ったな!!
「あのさ……」
唐突に愛莉が何か話しかけた?
「どうした?」
「指輪……いやだった?」
そんな顔をして言うのは卑怯だと何度言わせれば。
「そんなわけないだろ。愛莉の言う通りこれで魔除けにはなるかもしれない」
「魔除けって……他の女子に失礼だよ!」
そう言って笑う愛莉。
「もう一つあるんだけどさ」
「何?」
「そんなに張り切らなくてもいいからね。クリスマスプレゼント。前にも言ったよね?二人でまったり過ごせたら言うことないって」
「う、うん」
「じゃ、帰ろ」
元はと言えば僕がちゃんと言わなかったのが原因の事件。
愛莉を悪戯に不安にさせたのが失敗のもと。
もっと愛莉を信じよう。
(5)
その晩カンナから電話かかってきた。
「もしもし」
「もしもしじゃねーよ!今日どうなったんだよ?」
「誓いを交わせられた」
「は?」
「左手の薬指に証をつけさせられた。肌身離さずもってろって」
「それって指輪か!?」
「……まあね。」
「そうか、それは良かったな」
良いのか?
「なんだ、嬉しくないのか?」
「複雑な気分、愛莉から渡されるなんて思ってなかった。クリスマスに渡そうと思ったのに」
「そこはまた頑張るしかないな!いいじゃん、お前らハッピーエンドに向かってまっしぐらじゃん」
「ただのイミテーションだってさ」
「馬鹿だなあ、愛莉はそれなりに意味を持ってるよ」
そうなのか。
「じゃあ、いい結果聞けて安心した。またな」
「ああ、おやすみ」
(6)
電話の着信音が鳴る、神奈からだ。
「よお、トーヤから大体事情は聞いた」
「うん、私が一人で拗ねてただけみたい」
「冬夜に罰を与えたんだって?」
「最初から準備してたんだけどね。なんか素直に渡すのも癪だったから我儘いってやった」
「愛莉はそれくらいがいいよ。冬夜を尻に敷いてやれ」
「うん……」
「なんだ?まだなんかあるのか?」
「……私また迷惑かけてないかな?」
「かけてやればいいんじゃね?」
「え?」
「盛大に我儘言って困らせてやれよ。そうしないとあいつは何も気づかないよ」
「そうかなぁ」
「今でも自分がどんだけ愛されてるのかわかってないし」
「愛って……」
「お前たちのはもう、恋愛ってレベルじゃねーよ。愛し合ってる仲だよ。自信持て」
「うん……」
「私たちも負けないからな」
「神奈?」
「お前たちみたいな関係になってやる」
「うん」
「じゃあ、また明日な」
「はーい」
そう言って電話は終わった。
ネットで「恋と愛の違い」を調べてみた。
うん、愛かもしれない。
でも冬夜君のことだから「愛してる」なんて言ったらドン引きされちゃうだろうな。
相手の立場になって考える事が大事だって書いてあった。
今までの私自分を押し通しすぎたかもしれない。
決めた。冬夜君のありのままを受け入れよう。
彼の幸せだけを祈ろう。
それが押しつけがましくならないように。
ただ、彼の笑顔をみれるだけでいいんだ。
彼を想う。
……食べてるところしか思いつかなかった。
……ちょっとは私のことも気遣って欲しいな。
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