優等生と劣等生

和希

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2ndSEASON

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(1)

竹下武史。防府高校一年生。粗暴で野蛮。性格が悪い。
しょうもない事で腹を立ていたぶる。
どうしようもない奴だけど……。


入学式当日。

遠坂さんと、音無さんを一目見ようと教室に詰め寄る。

「あの……通してください!!」

言っても全然聞いてくれない。
困ってた時にすっと現れた腰パンの野蛮そうな男子。

「どけよこらぁ!」

と言って力づくで押しのける。

「ほら、来いよ」

男子は私に手を差し出した。
自然と手が伸びてた。

これって一目惚れ?

「ありがとう、あの私工藤雫。あなたは」
「竹下武史」

それだけ言って竹下君は自分の席についた。

(2)

入学式から1週間くらい経った頃。
片桐君と竹下君が揉めた事件のあと。

「傷……大丈夫?」

片桐君に殴られ蹴られまくった竹下君も、鼻と口から血が滲んでいた。
それをハンカチで拭こうとすると手をはねのけられる。

「うぜえんだよ!」
「やめなよ……そうやって皆を敵視するの」
「うるせーな。そうやって上から目線で見られるのが一番ムカつくんだよ」

どれだけひねくれてるんだ?

「そんなんだと友達もできないよ」
「どうせ出来ねーもんは出来ねーんだよ!」
「そんなことないよ」
「俺と友達になろうなんて奴どこにいるんだよ!どいつもこいつも顔色伺いやがってイラつく」
「ここにいるよ」
「は?」
「私がなってあげる」
「なってあげるって何様のつもりだよ」

私は竹下君の手を握る。

「はい、これで友達。友達だから上も下もないよ。対等な関係」
「お前頭おかしいんじゃないのか?」
「どうとってもらっても結構。これで友達なんだから、友達悲しませるような真似しないでね」

そう言って自分の席にもどった。


その日の放課後

「ちょっと待ってよ!」
「またお前か、なんだよ!?」
「お前じゃない、工藤雫って前に自己紹介した!雫でいいよ」
「で、何の用だよ?」

私はスマホを見せる。

「スマホくらい持ってるんでしょ!番号教えて!」
「はぁ?」
「友達なんだから、番号交換くらいするでしょ!」
「誰がいつ友達になったんだよ!?」
「私が!さっき!」

相手にしてられるかと言わんばかりに立ち去ろうとする竹下君の腰を掴む。

「離せよ!」
「教えてくれるまで離さない!」

人目を気にしたのか竹下君が折れた。
ポケットからスマホを取り出すと、操作を始める。

「ほらよ」

そう言って竹下君がスマホを渡す。
その画面を見て私は自分のスマホに登録する。
そして竹下君のスマホにワン切りする。

「ありがとう。登録しておいてね」
「……はぁ。分かったよ」

そう言って嫌々操作をする竹下君。
操作を終えると「じゃあな」と言って立ち去る。
私はその後を追う。

「なんでついてくるんだよ!」
「だって駅がこっち方向だし!」
「……まじかよ」

そう言って自転車に乗る竹下君。
黙って後ろに乗る。ご丁寧にステップついてるじゃないですか?

「なにやってんだよ!」
「どうせ駅まで行くんでしょ?ゴーゴー!!」

※自転車の二人乗りは大変危険です。やめましょう。

「ちっ……全く」

竹下君は自転車を降りると押して歩き出した。
真面目だねえ。
てか私の為に歩いてるの?
二人乗りでいいじゃん。

「ねえ、何の為にステップつけてるの?」
「雫には関係ねーだろ!」

まあ、世の中の大半は私に関係ないけどね。

「彼女でも乗せてたの?」

揶揄い半分で聞いてみた。が、当たっていたらしい。

「……高校が別々になって別れたよ」
「ごめん」
「いいよ別に。同情してほしくて言ったんじゃないしな」

こういう時のノリって怖いもんだ。
つくづく思い知った。

「じゃあさ、私が彼女に立候補してあげよっか?」
「友達からいきなり彼女かよ!」
「フリーなんでしょ?」
「どうせ、良いって言うまで言い続けるんだろ?」
「嫌ならいいけど……」
「いいぜ」

へ?

「なんだその間抜け面。自分で言いだしたことだろうが」
「……ありがとう。よろしく」
「ああ……」
「と、言うわけで彼女なんで悲しませたりしないでね」

(3)

それから、楽しい日々が続いた。
竹下君も暴力を振るうことはあまりなくなった。
全くとは言えないけど。
休日にデートしたリ。帰りに寄り道したリ。
本当に楽しい日だった。
あの日が来るまでは……。
黒木君にちょっかいを出したあの日。
また片桐君が逆らった。
片桐君の描いた絵をくしゃくしゃにしてごみ箱に捨てた。

授業が終わった後、外に連れ出す。

「何であんなことしたの?」
「なんだっていいだろ!面白いからやったんだよ!ムカついたからやったんだよ」
「約束したよね。彼女悲しませるような真似は止めてね!って」
「悲しむんだったら別れたらいいだろ!」
「……何言ってんの?」
「だから言っただろ!どうせ俺の周りに近づく奴なんてろくなやつじゃねーって……!」

バシッ!

私は竹下君を平手打ちしてた。
そのまま、その場を立ち去る。
彼が気がついたかどうかはわからない。
私の頬を伝わる一滴の涙を。
それから彼との連絡は途絶えた。
だけども連絡先を消せずにいた。


クラスマッチの日。

よりにもよって竹下君と片桐君が一緒のサッカーだ。
竹下君は中学の時サッカーをやっていたらしい。
まあ、スポーツ万能と聞いていたが。
竹下君は一生懸命プレイしていた。
それに引き換え片桐君は……。
あっちうろうろ、こっちうろうろしてる。
やる気あんの?
ふと音無さんと遠坂さんを見る。
にこにこしてる。
ふと、二人に聞いてみた。

「片桐君何してるの?」

二人は口をそろえて言った、

「見てれば分るよ」

それからしばらく見てたが、自分のポジションにもどる。

それを見た、サッカー部の梅木君が何か話しかけてる。
少し話をすると。梅木君が元に戻って行った。

「はじまるよ~」

遠坂さんが一言告げる。

(4)

……、グラウンドは整備されてないな。
ところどころくぼみがある。
まあ、これはこれでやりようがあるか?

自分のポジションに戻ると、梅木君が近寄ってきた。

「行けるか?」

と、一言。
へ?

「おれ宗田小だったからさ、お前のプレイ見てたんだよね。中学の時はやってなかったみたいだけど癖は隠せないよな」

そう言ってにやりと笑う、梅木君。

「まあ、なんとか」
「おっけー」

そう言って自分のポジションに戻る。
とはいえ、相手のキーパーサッカー部の人らしい。
一発で決めるのは無理だろうな。
ちらりと竹下君を見る。
気は進まないけど、やるしかないか。

梅木君がパスを受け取ると同時にスペースに飛び出す。
それを見越して梅木君がパスを出す。
今度は利き足で蹴れそうだ。
足元を見て慎重に蹴る。


周りから見たらボールが一瞬消えたかのように見えただろう。
蹴ったグラインダーのボールはDF3人の足の股をすり抜けてゴールに向かう。
当然キーパーが飛び出しボールを抑え込もうとする。
だが、ボールは手前のくぼみにあたり左に跳ね返る。
そこにはちょうど竹下君が。
竹下君はそのままボールを押し込みゴールとなる。
観客から歓声が上がる。

「竹下君すごい!!」
「良く決めたぞ竹下!」

竹下君は僕のもとに近づく。
また喧嘩するの?
いやだなぁ……面倒だ。

「……ナイスパス」
「偶然だよ。ナイスシュート」

そのまま試合は勝った。


(5)

「きゃあ!さすが冬夜君」
「やる気があれば言うこと無いんだけどなぁトーヤの奴」

二人で騒いでる。
私は唖然としてた。
アレを狙ってやったの?
特技とか言うレベルじゃないじゃん。
でも竹下君に花を添えたつもりなんだろうけど、竹下君の気に障らなければいいんだけど。
ほら、竹下君が片桐君に近づいてる。
何か様子がおかしい。
お互い握手してる。
仲直りしたの?
それならそれでいい。
私以外に友達増えたなら言うこと無い。
片桐君ありがとう。
私の役目はこれでお終いかな。

「雫ちゃんどうしたの?」

遠坂さんが声をかける。
私の頬に一滴の涙が流れていたのだ。

「な、なんでもない」

ちょっと、卒業の気分に浸っただけ。


その晩は意を決して竹下君にメッセージを送った。

「片桐君と仲直りできて良かったね。友達出来て良かったね。もう私必要ないね。散々勝手な事言ってごめんね」

これでいいんだ。

少ししてスマホが着信音を鳴らした。
私は通話に出る。

「もしもし」
「何言ってんだ?雫とは友達じゃないだろ?」

そうでしたね……。

「彼女なんだろ?しっかりしろよ」

え?

「あの時は感情的になって悪かった。謝るよ」

竹下君が謝るの?

「じゃあ、また明日。駅で待ってる。早めに来いよ」

そう言って竹下君は電話を切った。
また明日。
また明日があるんだ。
嬉しかった。


そしてその翌日。
駅で出迎えてくれたのは竹下君だった、

ここから学校までは結構時間がかかる。
私も自転車用意しようかな。

余談。

「片桐君とは仲直りしたの?」
「さあな、またなにかしてきたらわかんね」
「何もしなきゃ片桐君も手出ししないよ」
「そうだな」

そう言って長い通学路を時間をかけて歩くのでした。
苦にはならなかった。
それだけ話す時間があるのだから。
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