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1stSEASON
記念日
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(1)
「おはよう、冬夜君」
「……」
返事がないただの屍のようだ。
で済ませてくれるはずもなく。
「そりゃあ!起きろ!!」
と布団を奪い取られるのであった。
さ、寒い。
「3学期になってたるんでないかね?冬夜君」
愛莉はそう言って笑う。
年が明けてから愛莉は上機嫌だ。
正確に言えば去年のクリスマスからか。
まあ、機嫌が悪いよりかはましだろう。
「先に降りてて」
「は~い」
いつものやりとり。
着替えて、下に降りるとカンナと愛莉が待っている。
「おーっす。相変わらずだらしねーなぁ」
カンナが元気よく挨拶する。
年明けにびっくりした。
今は少し伸びてるけど、髪を肩にかかるかからないかくらいまで切ってた。
「どうしたの!?」
って愛莉が驚いてたっけ。
その後、誠とよりを戻したと聞いた。
ふーん……。
なんか複雑な心境だった。
いや、だめだ。揺らいだらだめだ。
愛莉をまた悲しませる。
……僕も髪切ろうかな?
でも冬だし寒いし風邪引いてしまいそうだ。
……やめとこ。
そんな事を考えながらご飯を食べて支度をする。
「そういや、髪の毛染めないんだね。神奈」
「え、そう思ったか?愛莉?」
「え。染めてるの?」
「ちょっとだけな、目立たない程度に」
そんなやりとりを二人がしてる中、慌てて支度をする。
「終わったよー!」
僕がそう言ってリビングにもどると二人は立ち上がる。
「じゃ、いこっか」
「そうだな」
このやりとりはいつもだ。
そして相変わらず愛莉は腕を組んでくる。
カンナは後ろからスマホを弄りながらついてくる。
誠とやり取りしてるんだろうか?
「神奈、バレンタインはどうするの?」
「え?」
カンナは慌ててスマホをしまう。
「だからチョコ誰にあげるのって!?」
「……それ聞いてどうすんだ?」
「別にどうもしないけど、聞いちゃいけなかった?」
「いや、別にいいんだけどさ。誠とトーヤかな……後はよくしらねーし」
「ふーん……」
「愛莉はどうすんだ?」
「私も誠君と冬夜君かな」
そういや、後1週間ちょっとだな。
大体毎年この時期憂鬱になるんだけどここ2年は……うん?ここ2年?
「あ!!」
僕は声に出していた。
驚く二人。
「どうしたんだ?トーヤ」
「どうしたの?冬夜君」
「い、いや大したことじゃない」
明らかに動揺してる僕。
「また何か隠しごと?」
「そんなんじゃないよ」
「本音で話そうって言ったよね?」
覚えてたか。
でもこれだけは言えない。
「ごめん、でも変な事じゃないから」
「てことは隠し事あるんだね!」
問い詰められる僕。
「まあ、楽しみに待っててよ」
「?」
「ふつう逆じゃね?楽しみに待ってるのは冬夜の方だろ?」
カンナも混ざってきたが、僕は答えなかった。
(2)
1週間後。
「おはよう冬夜君!」
「……」
いつものやりとり。
下に降りると愛莉からプレゼントが。
「はい、昨日作ったんだよ」
そう言って手渡されたチョコレート。
よくホワイトデーは3倍返しという。
手作りの場合はどう換算すればいいんだ?
ちなみにお菓子を手作りでというのは却下。
カンナからももらった。
「ま、一応手作りだからな」
照れくさそうに渡すカンナ。
「ありがとう」
そう言って受け取る。
「早く仕度しないと、遅刻だよ」
愛莉が言う。
僕は冷蔵庫に二つのチョコをしまい、支度にもどった。
学校へ向かう途中。
僕は二人に言った。
「ごめん今日の勉強会はパスで!」
両手を合わせて謝る。
「え?なんで?」
「どうしたの!?テスト終わったばっかりだけど……」
「今日どうしても外せない用事があって」
「なーに?用事って」
う!
「この前からずっと変だよ冬夜君」
……気づかれてはいないようだ。
確かにこの一週間上の空だった。
テストも悲惨な結果だった。
「隠し事しないって約束したよね?」
「悪いことじゃないから」
「私を怒らせることが悪いことじゃないの?」
「後でちゃんと謝るから」
「もういい!」
まずい余計に愛莉を怒らせたみたいだ。
でも……気づいてくれても良いんじゃないか?
「明日ちゃんと話すから!」
しまった!つい口が滑ってしまった。
慌てて口を押える。
だが、もう遅い。
「明日何があるっていうのよ!?」
頭に血が上っているのか全然気づいてないみたいだ。
どうにかして収拾しないと。
「今話したら意味がないんだよ」
「だからなぜ!?」
こうなったら……。
僕は愛莉を抱きしめる。
「ちょ、ちょっと冬夜君!?」
周囲の目を引く、が、気にしない。というよりあまり気にならなくなってきた。
そして耳元で囁く。
「明日全部話すから、それまで我慢して待ってて。お願い」
理解してくれたのか、抱いたことで落ち着いたのか分からないけど。
「わかったわよ……でも、あしたちゃんと話してよね」
学校が終わると家に帰らず、ショッピングモールに向かった。
まだチョコレートの特売場がある。
そこには目もくれず雑貨屋さんに向かう。
雑貨屋に……あった!
買うときにラッピングしてもらう。
それを持って家に帰る。
家の前にはカンナが立っていた。
「……よう」
カンナはこっちに気づいたのか、手を振る。
「どうしたんだよ?こんな時間に」
「とりあえず送れよ、ここで話していたらまた愛莉に誤解されるぞ」
そう言うと歩き出した。
「で、何なんだよ一体」
カンナが切り出した。
「神奈には関係ないよ」
「関係ない?」
カンナの癇に障ったようだ。
「愛莉は大切な友達だ!その友達を泣かせておいてよく言うな!お前知らないだろ!お前が何も言わずさっさと帰った後愛莉泣いてたぞ!」
「別に泣かせるような真似してねーよ!」
「何してたかどうかはしらねーが、泣いてたんだよ。一言『先に帰る』も言えないほど夢中になることしてたのかよ!?」
ヤバいカンナ本気で怒ってる。
「どうせ、何かサプライズして驚かせようと思ってるんだろうけど、それで愛莉泣かせてたら意味ねーだろ」
「……ごめん」
「謝るなら私じゃなく愛莉に謝れ!」
「分かったよ、明日謝る」
「明日ちゃんと話すんだな?」
「うん」
「で、明日じゃないとダメな理由って何なんだよ」
「それは……」
僕はカンナに理由を話した。
カンナなら分かってくれるだろう。
愛莉に告げ口することはないだろう。
「……そんな理由か?」
呆気にとられるカンナ。
え?そんなに重要じゃなかった?
結構気遣ってたのにな。
ちょっとショックだぞ。
笑い出すカンナ。
笑うなよ。
「愛莉も幸せ者だな」
「言っとくけど愛莉には……」
「わかってるよ、でも謝るのは今夜中にしとけ?私からもフォローしとくからさ」
「ああ」
「で、いつ言うんだ?」
多分時間も近い方がいだろうなと考えていた。
「放課後帰ってからかな?」
「じゃ、明日の勉強会は無しだな」
「ごめん」
「いいよ、二人でゆっくり過ごせよ……前のやろうか?」
「……お前が使えよ」
「ば……誠とはまだそこまでいってねーよ!」
「まだ」……か。
ま、しょうがないよな。
愛莉を選んだ以上、カンナは遅かれ早かれ他の人を探すんだ。
それが誠だっただけ。
そう言えば……。
「なあ?俺からも質問していいか?」
「なんだ?」
「前から思ってたんだけどさ。どうして誠とより戻ったんだ」
「待ってくれるってさ」
「何を?」
「私の頭の中からトーヤが消えるのを。忘れさせてくれるってさ、トーヤといるより幸せな気分にさせてくれるって」
「そうなんだ」
「変な奴だよな『中途半端なのは嫌だ』って言っておいてこのざまだぜ」
笑いながらカンナは言う。
どう答えたらいい?
よかったなって普通に言えば良いのか?
謝るのはなんか違う気がする。
「気にするなよ。誠と私の問題なんだから」
「それでカンナが良いなら……」
「良いわけねーだろ!」
そう言って頭を小突く。
「一番は『トーヤと私が付き合う』なんだけどな」
そう言って笑う。
カンナ、ごめん。
「こんな事考えてる時点でダメダメだってことさ」
そう言って笑うカンナ。
家に着いた。
「じゃあ、帰ったらちゃんと謝っとけよ!」
そう言って手を振るカンナ。
僕は家に帰る。
カンナ、ごめん。
誰かを傷つけてばっかだな、僕は……。
(3)
私は机に突っ伏して号泣していた。
冬夜君が何か隠しごとしている。
今日も何も言わずさっさと帰ってしまった。
だけど家に寄ってみたらまだ帰ってないという。
約束したのに。
もうずっと一緒だって。
隠し事しないって。
本音で話そうって。
私何か悪いことした?
明日何があるの?
チョコレート渡したのに、そんなに喜んでなかった。
まだ不器用なままなの?
少しだけでも笑ってくれるだけでいいのに。
まるっきり他の事考えてた。
初めてチョコレート渡したときの事を思い出す。
……初めてチョコレート渡したとき?
はっとしてカレンダーを見る。
明日……15日だ。
当たり前だけど。
え?冬夜君ひょっとして……そういうこと?
メッセージが届く。
「トーヤは大丈夫だよ、心配するな」
神奈からだ。
冬夜君と話したのかな?
涙は止まっていた。
代わりに心臓がどきどきしてる。
嘘でしょ!私何も用意してない。
スマホが鳴る。
今度は冬夜君からだ。
「……もしもし?」
「あ、僕だけど」
「うん」
「明日の帰りちゃんと話すから。もうちょっとだけ待って」
帰りって、時間まで指定ですか?
「うん……待ってる!」
そう言って電話を切った。
そして次の日の朝。
「冬夜君おはよう!」
勢いよく布団をめくる。
いつも通りの朝だ。
机の上に置いてあるものは気にしない。
平常心平常心。
「下に降りてて」
「は~い」
そう言って下に降りる。
神奈が来る。
「おーっす」
「おはよう」
「?……なんかいいことあった?」
「いーや」
「その割には随分嬉しそうだな。顔にやけてるぞ」
良いことはこれから起こるんだよ。
冬夜君が降りてきた。
「おーっす、冬夜」
「あ、お早う神奈」
それから冬夜君は準備する。
「行こっか」
「は~い」
(4)
やけに機嫌がいい愛莉だった。
登校中もにこにこしてる。
腕を組んで。
もう全然気にならなくなっていた。
この一年で随分成長したな、僕。
さて……問題はここからだ。
「あのさ……昨日の話なんだけど……もう少し……」
「帰りに話してくれるんでしょ?いいよ!」
やけにあっさりと承諾してくれたな。
……ひょっとして……きづかれた?
そして帰りの時間。
気を利かせてくれたのか。
「私ちょっと寄るところあるから先帰るわ」
と、言って教室を出るカンナ。
「で、話って?」
にこにこしてる愛莉。
「とりあえず帰ろうか?」
「えー……しょうがないなあ」
ちょっと頬を膨らませながらも素直に従う愛莉。
ああ、気付かれてるね。
家まで帰り着く。
「じゃあ、家で待ってて」
「え?私が冬夜君家にいくんじゃなくて?」
「うん、今日は勉強会は中止」
「昨日も中止したのに?」
「うん……だめ?」
おそるおそる聞いてみる。
「……いいよ」
笑ってた。
大丈夫だろう。
僕は家に帰ると、プレゼントを手に家を出る。
そして愛莉の家に行き呼び鈴を鳴らす。
「あら~冬夜君~。愛莉待ってるわよ~」
そう言って家の中に招かれる。
愛莉の部屋に向かう。
「どうぞ」
弾むような愛莉の声。
部屋に入ると愛莉はベッドに腰掛けてた。
僕も適当に座ろうか……、あっ。
今もベッドのそばに置いてある机の椅子に腰かける。
その動作に納得したのかにこにこしてる愛莉。
「で、話って?」
「2年前と一緒だね」
「うん」
「あの時はうまく言えなかったけど」
「うん」
「僕を選んでくれてありがとう」
「違うよ」
「冬夜君が私を選んでくれたんだよ」
そう言って愛莉は僕の首に腕を回す。
「覚えてくれてたんだね……ありがとう」
「驚かせようと思って黙ってたんだけど、気付かれてしまっちゃしょうがないな」
「昨日まで忘れてた」
「また泣かせることになって……ごめん」
「いいの!今があるんだし、気付いた時嬉しさで泣きそうだった。それと冬夜君に申し訳なく思ってしまった。また冬夜君を苦しめたのかなって」
「大丈夫だよ。あ、これ……」
僕はラッピングされたネックレスを渡す。
「わあ、可愛い」
彼女は気に入ってるようだ。良かった。
「ねえ?気づいてる?」
「何を?」
やばいっ!この展開はまずいぞ!
僕は焦ったが彼女はにこにこしながら左手首をみせた。
それを見た僕は右手首を見せる。
お互いの手首にはクリスマスイブにあげたブレスレットが着けてあった。
「ねえ~?冬夜君~?ご飯今夜は食べていかない~?」
「勉強会ないならいいよね?」
「うん」
愛莉は部屋を出ると叫んでた。
「りえちゃん~!冬夜君うちで食べるって~!」
僕も母さんに電話しないとな。
「あ、冬夜君」
「ご飯できるまでちょっと待ってて」
そう言って愛莉は下に降りていく。
何事だ?
僕も部屋を出る。
「りえちゃん~夕食私も手伝う~」
「あら~冬夜君に食べてもらうの~?」
「うん!」
そう言うことか。
じゃあ、お言葉に甘えて部屋で待たせてもらおう。
もう2年、いやそれ以上か。
通いなれた愛莉の部屋。
相変わらず落ち着かないけど。
2年間変わらない部屋。
だけど僕たちは変わり続けてる。
来年の今頃どうしてるんだろうな?
受験勉強で浮かれてる場合じゃないのは想像つくけど。
……それでも変わってない気がする。
そういう奴だ愛莉は。
どこまでもマイペース。
愛莉の部屋で愛莉の事だけを想う。
どんな困難も愛莉となら乗り越えられる。
この時はまだそう思っていた。
そうやって感傷に浸っているとパタパタと音が聞こえてきた。
「冬夜君出来たよー」
いい匂いと共にやってくる愛莉。
「分かった」
僕は愛莉と一緒に下に降りた。
「おはよう、冬夜君」
「……」
返事がないただの屍のようだ。
で済ませてくれるはずもなく。
「そりゃあ!起きろ!!」
と布団を奪い取られるのであった。
さ、寒い。
「3学期になってたるんでないかね?冬夜君」
愛莉はそう言って笑う。
年が明けてから愛莉は上機嫌だ。
正確に言えば去年のクリスマスからか。
まあ、機嫌が悪いよりかはましだろう。
「先に降りてて」
「は~い」
いつものやりとり。
着替えて、下に降りるとカンナと愛莉が待っている。
「おーっす。相変わらずだらしねーなぁ」
カンナが元気よく挨拶する。
年明けにびっくりした。
今は少し伸びてるけど、髪を肩にかかるかからないかくらいまで切ってた。
「どうしたの!?」
って愛莉が驚いてたっけ。
その後、誠とよりを戻したと聞いた。
ふーん……。
なんか複雑な心境だった。
いや、だめだ。揺らいだらだめだ。
愛莉をまた悲しませる。
……僕も髪切ろうかな?
でも冬だし寒いし風邪引いてしまいそうだ。
……やめとこ。
そんな事を考えながらご飯を食べて支度をする。
「そういや、髪の毛染めないんだね。神奈」
「え、そう思ったか?愛莉?」
「え。染めてるの?」
「ちょっとだけな、目立たない程度に」
そんなやりとりを二人がしてる中、慌てて支度をする。
「終わったよー!」
僕がそう言ってリビングにもどると二人は立ち上がる。
「じゃ、いこっか」
「そうだな」
このやりとりはいつもだ。
そして相変わらず愛莉は腕を組んでくる。
カンナは後ろからスマホを弄りながらついてくる。
誠とやり取りしてるんだろうか?
「神奈、バレンタインはどうするの?」
「え?」
カンナは慌ててスマホをしまう。
「だからチョコ誰にあげるのって!?」
「……それ聞いてどうすんだ?」
「別にどうもしないけど、聞いちゃいけなかった?」
「いや、別にいいんだけどさ。誠とトーヤかな……後はよくしらねーし」
「ふーん……」
「愛莉はどうすんだ?」
「私も誠君と冬夜君かな」
そういや、後1週間ちょっとだな。
大体毎年この時期憂鬱になるんだけどここ2年は……うん?ここ2年?
「あ!!」
僕は声に出していた。
驚く二人。
「どうしたんだ?トーヤ」
「どうしたの?冬夜君」
「い、いや大したことじゃない」
明らかに動揺してる僕。
「また何か隠しごと?」
「そんなんじゃないよ」
「本音で話そうって言ったよね?」
覚えてたか。
でもこれだけは言えない。
「ごめん、でも変な事じゃないから」
「てことは隠し事あるんだね!」
問い詰められる僕。
「まあ、楽しみに待っててよ」
「?」
「ふつう逆じゃね?楽しみに待ってるのは冬夜の方だろ?」
カンナも混ざってきたが、僕は答えなかった。
(2)
1週間後。
「おはよう冬夜君!」
「……」
いつものやりとり。
下に降りると愛莉からプレゼントが。
「はい、昨日作ったんだよ」
そう言って手渡されたチョコレート。
よくホワイトデーは3倍返しという。
手作りの場合はどう換算すればいいんだ?
ちなみにお菓子を手作りでというのは却下。
カンナからももらった。
「ま、一応手作りだからな」
照れくさそうに渡すカンナ。
「ありがとう」
そう言って受け取る。
「早く仕度しないと、遅刻だよ」
愛莉が言う。
僕は冷蔵庫に二つのチョコをしまい、支度にもどった。
学校へ向かう途中。
僕は二人に言った。
「ごめん今日の勉強会はパスで!」
両手を合わせて謝る。
「え?なんで?」
「どうしたの!?テスト終わったばっかりだけど……」
「今日どうしても外せない用事があって」
「なーに?用事って」
う!
「この前からずっと変だよ冬夜君」
……気づかれてはいないようだ。
確かにこの一週間上の空だった。
テストも悲惨な結果だった。
「隠し事しないって約束したよね?」
「悪いことじゃないから」
「私を怒らせることが悪いことじゃないの?」
「後でちゃんと謝るから」
「もういい!」
まずい余計に愛莉を怒らせたみたいだ。
でも……気づいてくれても良いんじゃないか?
「明日ちゃんと話すから!」
しまった!つい口が滑ってしまった。
慌てて口を押える。
だが、もう遅い。
「明日何があるっていうのよ!?」
頭に血が上っているのか全然気づいてないみたいだ。
どうにかして収拾しないと。
「今話したら意味がないんだよ」
「だからなぜ!?」
こうなったら……。
僕は愛莉を抱きしめる。
「ちょ、ちょっと冬夜君!?」
周囲の目を引く、が、気にしない。というよりあまり気にならなくなってきた。
そして耳元で囁く。
「明日全部話すから、それまで我慢して待ってて。お願い」
理解してくれたのか、抱いたことで落ち着いたのか分からないけど。
「わかったわよ……でも、あしたちゃんと話してよね」
学校が終わると家に帰らず、ショッピングモールに向かった。
まだチョコレートの特売場がある。
そこには目もくれず雑貨屋さんに向かう。
雑貨屋に……あった!
買うときにラッピングしてもらう。
それを持って家に帰る。
家の前にはカンナが立っていた。
「……よう」
カンナはこっちに気づいたのか、手を振る。
「どうしたんだよ?こんな時間に」
「とりあえず送れよ、ここで話していたらまた愛莉に誤解されるぞ」
そう言うと歩き出した。
「で、何なんだよ一体」
カンナが切り出した。
「神奈には関係ないよ」
「関係ない?」
カンナの癇に障ったようだ。
「愛莉は大切な友達だ!その友達を泣かせておいてよく言うな!お前知らないだろ!お前が何も言わずさっさと帰った後愛莉泣いてたぞ!」
「別に泣かせるような真似してねーよ!」
「何してたかどうかはしらねーが、泣いてたんだよ。一言『先に帰る』も言えないほど夢中になることしてたのかよ!?」
ヤバいカンナ本気で怒ってる。
「どうせ、何かサプライズして驚かせようと思ってるんだろうけど、それで愛莉泣かせてたら意味ねーだろ」
「……ごめん」
「謝るなら私じゃなく愛莉に謝れ!」
「分かったよ、明日謝る」
「明日ちゃんと話すんだな?」
「うん」
「で、明日じゃないとダメな理由って何なんだよ」
「それは……」
僕はカンナに理由を話した。
カンナなら分かってくれるだろう。
愛莉に告げ口することはないだろう。
「……そんな理由か?」
呆気にとられるカンナ。
え?そんなに重要じゃなかった?
結構気遣ってたのにな。
ちょっとショックだぞ。
笑い出すカンナ。
笑うなよ。
「愛莉も幸せ者だな」
「言っとくけど愛莉には……」
「わかってるよ、でも謝るのは今夜中にしとけ?私からもフォローしとくからさ」
「ああ」
「で、いつ言うんだ?」
多分時間も近い方がいだろうなと考えていた。
「放課後帰ってからかな?」
「じゃ、明日の勉強会は無しだな」
「ごめん」
「いいよ、二人でゆっくり過ごせよ……前のやろうか?」
「……お前が使えよ」
「ば……誠とはまだそこまでいってねーよ!」
「まだ」……か。
ま、しょうがないよな。
愛莉を選んだ以上、カンナは遅かれ早かれ他の人を探すんだ。
それが誠だっただけ。
そう言えば……。
「なあ?俺からも質問していいか?」
「なんだ?」
「前から思ってたんだけどさ。どうして誠とより戻ったんだ」
「待ってくれるってさ」
「何を?」
「私の頭の中からトーヤが消えるのを。忘れさせてくれるってさ、トーヤといるより幸せな気分にさせてくれるって」
「そうなんだ」
「変な奴だよな『中途半端なのは嫌だ』って言っておいてこのざまだぜ」
笑いながらカンナは言う。
どう答えたらいい?
よかったなって普通に言えば良いのか?
謝るのはなんか違う気がする。
「気にするなよ。誠と私の問題なんだから」
「それでカンナが良いなら……」
「良いわけねーだろ!」
そう言って頭を小突く。
「一番は『トーヤと私が付き合う』なんだけどな」
そう言って笑う。
カンナ、ごめん。
「こんな事考えてる時点でダメダメだってことさ」
そう言って笑うカンナ。
家に着いた。
「じゃあ、帰ったらちゃんと謝っとけよ!」
そう言って手を振るカンナ。
僕は家に帰る。
カンナ、ごめん。
誰かを傷つけてばっかだな、僕は……。
(3)
私は机に突っ伏して号泣していた。
冬夜君が何か隠しごとしている。
今日も何も言わずさっさと帰ってしまった。
だけど家に寄ってみたらまだ帰ってないという。
約束したのに。
もうずっと一緒だって。
隠し事しないって。
本音で話そうって。
私何か悪いことした?
明日何があるの?
チョコレート渡したのに、そんなに喜んでなかった。
まだ不器用なままなの?
少しだけでも笑ってくれるだけでいいのに。
まるっきり他の事考えてた。
初めてチョコレート渡したときの事を思い出す。
……初めてチョコレート渡したとき?
はっとしてカレンダーを見る。
明日……15日だ。
当たり前だけど。
え?冬夜君ひょっとして……そういうこと?
メッセージが届く。
「トーヤは大丈夫だよ、心配するな」
神奈からだ。
冬夜君と話したのかな?
涙は止まっていた。
代わりに心臓がどきどきしてる。
嘘でしょ!私何も用意してない。
スマホが鳴る。
今度は冬夜君からだ。
「……もしもし?」
「あ、僕だけど」
「うん」
「明日の帰りちゃんと話すから。もうちょっとだけ待って」
帰りって、時間まで指定ですか?
「うん……待ってる!」
そう言って電話を切った。
そして次の日の朝。
「冬夜君おはよう!」
勢いよく布団をめくる。
いつも通りの朝だ。
机の上に置いてあるものは気にしない。
平常心平常心。
「下に降りてて」
「は~い」
そう言って下に降りる。
神奈が来る。
「おーっす」
「おはよう」
「?……なんかいいことあった?」
「いーや」
「その割には随分嬉しそうだな。顔にやけてるぞ」
良いことはこれから起こるんだよ。
冬夜君が降りてきた。
「おーっす、冬夜」
「あ、お早う神奈」
それから冬夜君は準備する。
「行こっか」
「は~い」
(4)
やけに機嫌がいい愛莉だった。
登校中もにこにこしてる。
腕を組んで。
もう全然気にならなくなっていた。
この一年で随分成長したな、僕。
さて……問題はここからだ。
「あのさ……昨日の話なんだけど……もう少し……」
「帰りに話してくれるんでしょ?いいよ!」
やけにあっさりと承諾してくれたな。
……ひょっとして……きづかれた?
そして帰りの時間。
気を利かせてくれたのか。
「私ちょっと寄るところあるから先帰るわ」
と、言って教室を出るカンナ。
「で、話って?」
にこにこしてる愛莉。
「とりあえず帰ろうか?」
「えー……しょうがないなあ」
ちょっと頬を膨らませながらも素直に従う愛莉。
ああ、気付かれてるね。
家まで帰り着く。
「じゃあ、家で待ってて」
「え?私が冬夜君家にいくんじゃなくて?」
「うん、今日は勉強会は中止」
「昨日も中止したのに?」
「うん……だめ?」
おそるおそる聞いてみる。
「……いいよ」
笑ってた。
大丈夫だろう。
僕は家に帰ると、プレゼントを手に家を出る。
そして愛莉の家に行き呼び鈴を鳴らす。
「あら~冬夜君~。愛莉待ってるわよ~」
そう言って家の中に招かれる。
愛莉の部屋に向かう。
「どうぞ」
弾むような愛莉の声。
部屋に入ると愛莉はベッドに腰掛けてた。
僕も適当に座ろうか……、あっ。
今もベッドのそばに置いてある机の椅子に腰かける。
その動作に納得したのかにこにこしてる愛莉。
「で、話って?」
「2年前と一緒だね」
「うん」
「あの時はうまく言えなかったけど」
「うん」
「僕を選んでくれてありがとう」
「違うよ」
「冬夜君が私を選んでくれたんだよ」
そう言って愛莉は僕の首に腕を回す。
「覚えてくれてたんだね……ありがとう」
「驚かせようと思って黙ってたんだけど、気付かれてしまっちゃしょうがないな」
「昨日まで忘れてた」
「また泣かせることになって……ごめん」
「いいの!今があるんだし、気付いた時嬉しさで泣きそうだった。それと冬夜君に申し訳なく思ってしまった。また冬夜君を苦しめたのかなって」
「大丈夫だよ。あ、これ……」
僕はラッピングされたネックレスを渡す。
「わあ、可愛い」
彼女は気に入ってるようだ。良かった。
「ねえ?気づいてる?」
「何を?」
やばいっ!この展開はまずいぞ!
僕は焦ったが彼女はにこにこしながら左手首をみせた。
それを見た僕は右手首を見せる。
お互いの手首にはクリスマスイブにあげたブレスレットが着けてあった。
「ねえ~?冬夜君~?ご飯今夜は食べていかない~?」
「勉強会ないならいいよね?」
「うん」
愛莉は部屋を出ると叫んでた。
「りえちゃん~!冬夜君うちで食べるって~!」
僕も母さんに電話しないとな。
「あ、冬夜君」
「ご飯できるまでちょっと待ってて」
そう言って愛莉は下に降りていく。
何事だ?
僕も部屋を出る。
「りえちゃん~夕食私も手伝う~」
「あら~冬夜君に食べてもらうの~?」
「うん!」
そう言うことか。
じゃあ、お言葉に甘えて部屋で待たせてもらおう。
もう2年、いやそれ以上か。
通いなれた愛莉の部屋。
相変わらず落ち着かないけど。
2年間変わらない部屋。
だけど僕たちは変わり続けてる。
来年の今頃どうしてるんだろうな?
受験勉強で浮かれてる場合じゃないのは想像つくけど。
……それでも変わってない気がする。
そういう奴だ愛莉は。
どこまでもマイペース。
愛莉の部屋で愛莉の事だけを想う。
どんな困難も愛莉となら乗り越えられる。
この時はまだそう思っていた。
そうやって感傷に浸っているとパタパタと音が聞こえてきた。
「冬夜君出来たよー」
いい匂いと共にやってくる愛莉。
「分かった」
僕は愛莉と一緒に下に降りた。
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