優等生と劣等生

和希

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1stSEASON

10年後の僕ら

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(1)


「ふぃー終わったー!」

カンナが仰向けに倒れる。
確かに夏休みの課題は大体終わった。
あとは読書感想文だけだ。
特に本に指定はない。
図書館に行かないとなぁ。

「神奈おつかれー」

愛莉はとっくに課題を終わらせ、僕たちの課題を見ながら、自習をしていた。
一緒に遊んでいたのにこの差はなんだ?

「しかしホテルに一泊かぁ……」

遊びに行ったことはお土産を渡したときに話した。
驚いていたが。

「で、トーヤ……ヤれたのか?」

カンナが耳打ちする。

「んなわけないだろ?親がいたのに」
「親が居なかったらヤるのか?」
「お前の頭はそれだけかよ!」
「そんなわけないだろ……」

カンナの元気が消えた。

「明日図書館にいこっか?遊びに行くついでに」

愛莉の頭の中は遊びに行くことしかないらしい。
これで学年トップなのだから、佐伯や仲摩が悔しがるのも無理はない。
そんなわけで、明日図書館に行くことになった。

(2)

適当な本を選び読んで感想を書く。
文字にするとすごく簡単なのだが、実は大変面倒くさい。
全く興味のない本の感想なんて【よかったね】の一言で済ませたくなる。
そこで、後書きを見ながらもっともらしい感想文を書いていくんだが……。
カンナは寝ていた。

「神奈起きなよ」

愛莉がカンナの体をゆすって起こす。

「だめだぁ……。こういうの苦手なんだよ」

流石に図書館という場所をわかっているのか、叫びはしないものの愚痴は吐く。

「しょうがないなぁ」

愛莉はカンナの読んでいた本を手に取ると一気に読みだす。
そんな速度で本当に読んでるのか?

「よし!」

愛莉はノートにペンを走らせ一気に感想文を書きあげる。
そのノートを愛莉に渡す。

「はいこれ、丸写しはだめだからね。自分で理解できたところだけ書き写すんだよ」
「サンキュー、愛莉。恩に着る」

愛莉の言葉を聞いていたのかいないのか、ものすごい勢いで書き写していくカンナ。

「おい……」
「なに?」
「俺にはないのか?」
「自分で書いた方が良いよ?書けるんでしょ?」

けろっと言う愛莉。
差別だ……

愛莉のチートによって僕よりも早く感想文を書きあげたカンナ。
適当な漫画を取って読んでいる。
愛莉は僕に付き合って勉強している。
僕は……あとちょっとだ。

「よし、出来た」

僕はペンを置く。

「お疲れ様」

愛莉は僕に合わせてキリを付けると道具を片付け、本をもとの場所に戻す。
僕も本を直し、片づけると図書館を後にする。

「これからどうする?」

時計を見ると11時半をまわったくらいか。
予定よりだいぶ早く終わったな。

「お昼どうする?」
「フードコートでいいんじゃね?今ならまだ空いてるっしょ?」
「んじゃいこか」



そうして僕たちは駅ビルに向かった。
それなりに賑わってる。
僕はかつ丼、カンナと愛莉はハンバーガーを頼んだ。
カンナが食べながらスマホを弄ってる。

「お、ちょうど今日から上映だ!」
「あ、それ私も見たかったんだ」

二人はそろって僕の顔を見る。
ダメな理由はない。

「……いいよ」

僕がそう言うと二人は喜んでいた。

上の階に行きチケットを買うと上映時間まで待つ。
カンナはポップコーンとジュースを買う。

「神奈、一緒に買お?ペアセットだとお得だよ」
「お、そうだな」

僕はポップコーン……とホットドッグとジュースを買った。

「よく食べるなぁ」

カンナが驚きの声をあげる。
カンナ、お前に言われたくないぞ。

上映時間になり劇場に入る。
最初の予告で眠くなってきた。
カンナ、愛莉、僕の順で座っていた。
カンナが通路側だ。
カンナと愛莉の様子を見る。
二人ともポップコーンをつまみながら予告を見てた。

そして映画の本編の始まり。
邦画だった。
結婚を控えてた女性が突然倒れて意識がなくなるという話。
意識がもどるも、記憶が無くなっていたり、運動機能に支障がでていたりと大変なお話。
主人公は彼女のために一生懸命つくすも自分の事を覚えていない。
そんな主人公をこれ以上見ていられないと女性は言う。
主演女優が割と好きだったので見てられたが……眠い。
隣をちらりと見る。
食い入るように見る愛莉に対して……あれ?カンナも見てる?
しかもなんか泣いてないか?
意外な一面を見た。
見とれていたらエンドロールが流れていた。
幸いなことに3人ともエンドロールが終わるまで座ってる派だったので問題なく最後まで見れた。
終わって照明がつくと、みんな一斉に出る。
僕の癖だ、辺りを見回す。
泣いてる女性が何人かいる。
愛莉はもちろんだがカンナもハンカチを目に当てていた。

「いやあ、いい映画だったねえ」
「そうだね!」

劇場を出ると二人ともけろっと立ち直ってる。
気持ちの切り替えが早いよなぁ、女って。

「なあ、トーヤはどうだった?」
「い、いい映画だったよ」
「ちゃんとみてた?欠伸してたけど」
「寝、寝てないよ」
「本当に?」
「二人とも号泣してたとこまでちゃんと見たぜ」

そう言って笑う。

「号泣なんかしてねーよ!」
「そんなところ見てないでちゃんと映画みなさい!」

焦るカンナと赤面する愛莉。

「トーヤだって腕で涙拭ってたじゃん!」
「欠伸すると涙出るんだよ」

僕も赤面してた。

「冬夜君は滅多に泣かないよ、無感動なんだから」
「そう言えば見たことなかったなぁ、泣いてるところ」
「僕の事はどうだっていいだろ」

泣いたことは一度だけあるんだけど。
それはまた別の機会に。
取りあえず僕たちは帰ることにした。


愛莉を送りとどけたあと、カンナを送る。
この道を通るのも久しぶりだ。

「なあ、トーヤだったら8年も待てるか?」

唐突な質問だった。

「どうだろうなあ、相手によるんじゃないか?」
「愛莉だったらどうだ?」
「うーんどうだろ?」
「お前移り気だもんな」
「どういう意味だよ」
「じゃあさ、もし私だったら?」
「は?」
「小4の時にもし付き合っててたら待っていられるか?」
「そんなの分かんねーよ、帰ってくるって保証もないんだろ?」
「ま、そうだよな……」

それっきり黙るカンナ。
まずいこと言ったかな?僕。
カンナの家に着いた。
家に入ろうとするカンナに声をかける。

「でも、もし付き合っていたら。手紙書いたり、電話くらいはしたかもしれないな」

気休めになればいいけど。
カンナはくすっと笑って家に入っていった

(3)

この日も3人で勉強をしていた。
カンナは宿題を済ませ余裕が出来たのか漫画読んだりしてるが、僕と愛莉は夏休み明けの実力テストへ向けての勉強をしていた。

「神奈。夏休み明けにすぐテストあるんだよ?大丈夫?」

心配そうに言う愛莉。
その言葉を聞いて起き上がるカンナ。

「マジかよ」

マジだよ

「え?テスト範囲とか決まってるのか?」
「まあ、夏休みの課題の中からだろうな」
「冬夜君に聞いたら、冬夜君のヤマ結構当たるんだよ」
「そうか、冬夜どこだよ教えてくれよ!」
「今から聞いてどうするんだよ。全般的に勉強しとくのが基本だろ?」
「そんなの広すぎてやってらんねーよ」

入試の事考えてるのか?

「とにかく復習あるのみ」
「ちぇっ、本当は大体わかってんだろ?」
「まあな」

本当にわかっていた。が、教えない。

「わかってるなら教えろよ!」

カンナは裸絞め僕の背後に回り裸絞めをしかける。

「や、やめろって」
「二人とも騒がない!」

最近また愛莉が怒りっぽくなった。
何かあったんだろうか?

コンコン

多分母さんだろう。

「何?」
「今日の晩御飯だけど庭でバーベキューやるからカンナさんもどうだ?って父さんが」

またすぐ勝手に決める。
愛莉に聞かないってことは多分愛莉は人数に入ってるんだろう?
なぜって?それは愛莉の家族もまきこんでのパーティだろうから。

「どうするカンナ?」

僕はカンナに聞いてみた。

「いいけど……誠も誘っていいかな?」

申し訳なさそうに聞いてきた。

「母さんもう一人誘いたいんだけどいいかな?」
「良いわよ」
「だってさ」

母さんの声が聞こえていたのかスマホで誠にメッセージを送っている。
ピロリーン

「来るってさ、あと花火もやろうぜって」
「いいね」

どうせ大人は飲んだくれて酔っぱらって動かないだろうから那奈瀬川の公園でやるか。

「いいよ」

言うや否やスマホポチポチとするカンナ。

「部活終わったら来るって」
「そうか」
「じゃあ、それまで勉強終わらせないとね?神奈」
「はーい……なんか夏休み勉強してばっかじゃね、うちら」

確かにその通りだが……結構遊んでる方じゃないか?
と、いうのは内緒にしておこう。



夕方17時半頃誠がやってきた。
サッカー部のジャージのままだ。
部活終わってその足で来たんだろう?
BBQの準備も出来ていた。
大人は缶ビール、僕たちはコーラを継いだカップをもって乾杯をする。
肉を焼き始める父さんたち。

「育ち盛りなんだからジャンジャン食え」

そう言って勝手に取り皿に焼けた肉を入れる父さんたち。
愛莉はすぐに食べるのを止めた。
普通に小食らしい。
がつがつ食べる神奈とは対照的だ。
そんなことはつゆ知らず愛莉にも容赦なく足す。
それを取って食べてやる僕。

「トーヤは優しいな」

カンナはそんな僕を見てそう言った。

「勿体ないだろ?」
「冬夜君、口の周り汚れてるよ」

そう言って、僕の口の周りを吹く愛莉。

「彼氏ってより弟と化してるぞ冬夜」
「冬夜ったら甘えんぼなんだから」
「どう?うちの愛莉ちゃんは~?冬夜君なら大歓迎よ~。ねえ?パパ~」
「……うむ」

一体後何年先の事なんだ。
その時ふと思い出した。

「8年も待てるか?」

8年たったら21か
まだ大学生だな。

「なにぼーっとしてるんだ冬夜」

誠がコーラを注ぐ。

「また何か考え事してたろ?」
「いつも思うけどなんでわかるんだ?」
「誰が見てもそう思うだろ?」
「単に将来の事を考えてただけだよ」
「なるほどね、やっぱり嫁さんは遠坂さんか?」
「……どうだろ?」

すると誠がぼそぼそと呟く。

「そこはそうだなって言っとけ」

と言って目で合図を送る。
その先には聞き耳を立ててる愛莉の姿があった。
こっちが愛莉を見てるのに気づくと愛莉はにこりと笑う。

「お前は幸せ者だよ。冬夜」
「?。誠だってカンナがいるだろ?」
「そうだな……」

そう言って再び肉を食べ始める誠だった。



一段落着いて、片づけを始めようとすると。

「お前たちは花火行ってこい。あまり遅くまでやるなよ」

そう言って大人だけで片づけを始める。
僕たちは自転車で公園に向かった。

花火と言っても打ち上げ花火とロケット花火と普通の花火。

最初は打ち上げ花火から始まって僕と誠のロケット花火の飛ばし合いになり、愛莉に怒られ普通の花火を二組に分かれてやっていた。

「綺麗だね~」
「そうだな」

花火の明かりに照らされる愛莉も綺麗だとは思ったが口にはださなかった。

「綺麗だね」
「神奈さんも綺麗だよ」
「あ、ありがとな」

照れてるカンナを見るのはすごい久しぶりな気がする。

「神奈いいなぁ~あんな風に言ってもらえて」

花火とカンナたちを交互に見ながら愛莉がつぶやいた。
言って欲しいのか?

「あ、愛莉も綺麗だよ」
「ありがとう」

くすっと笑う愛莉。

「どうせ俺が言っても似合わねーよ」
「そうじゃなくて、冬夜君本音を言うとどもるから。それで嬉しくて」
「よく見てんな」
「あとね、妙に汗かいて挙動不審になるんだよね」
「照れてるっていうんだよ」
「そうなんだ」

笑ってる時の愛莉は可愛い。
出来ればずっと笑っていて欲しい。
ずっとっていつまでのことを指すんだろ?
まだそんな先の事を考える歳でもないよな?
当面は2年後の自分を心配しないと。
10年後……どうなってるかなんてこの時の僕らには誰も想像ができていなかった。

翌月のことすら予想できていなかったのだから。
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