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(1)
「とーや、そろそろ起きないとダメだよ」
茉奈が僕の体をゆすっている。
思い出した。
今日は入学式だ。
目を開けると茉奈はエプロン姿だった。
「……朝食作ってたの?」
「うん、もう出来上がってるから早く顔洗ってきて」
「俺も手伝ったのに」
「急がないと遅刻しちゃうよ?車使わないのでしょ?」
茉奈がそう言うと俺は起き上がる。
すると茉奈が抱き着いてきた。
「どうしたの?」
「ほら、朝起きたら最初にする事あるでしょ?」
何をしたいのかはすぐにわかった。
茉奈が目を閉じたから。
軽くキスをすると準備を始める。
服を着替えているとネクタイが上手く締めれない。
苦戦していると茉奈が手伝ってくれた。
終わると同時に頬にキスをしてくる。
「茉奈はそんなにキスがしたいの?」
「彼氏とキスしたくない女性なんていないと思うよ」
それとも「私口臭臭かった?」といってにこりと笑う。
茉奈は凄く身なりに気を使う。
ちなみに茉莉は特攻服を着て入学式に行こうとしていたらしい。
「お前は入学と同時に退学処分食らいたいのか!?」
「女性だからパンプス履けなんてのは女性蔑視だと誰かが言ってたぞ!」
「男でも特攻服着て入学式行く馬鹿はいないよ?」
「それは嘘だ!」
大地の意見を真っ向から否定する茉莉。
理由を天音が聞いて呆然としていたらしい。
「大学の卒業式にスーツを着るのは社会人になるからだ。ロックシンガーを目指す奴はパンクな格好で卒業式にでたらしいぞ!」
茉莉がロックシンガーになりたいなんて初めて知ったけど、特攻服でなりたいものって何だろう?
「いいか!お前の将来だからお前が決めろ!だけど一つ茉莉は忘れている」
天音がそう説得していた。
お前が特攻服で何になりたいのか知らないけど、そんな茉莉を恵美さんが見たら大地の命がないぞ。
そう言って説得して普通のスーツにしたらしい。
もちろん安物の量販店のものではなくブランドのスーツ。
入学式の会場に行くと菫達も同じだったみたいだ。
しかし菫は気づいたらしい。
茉莉はピンヒールの靴を履いてきていた。
「お前それ歩きづらくないか?」
菫はそう思ったらしい。
「ほら、痴漢がいたらかかとで足に穴開けてやれるだろ?」
「それなら殴り飛ばせばいいじゃないか?」
「それだと電車とかバスだと混んでたら周りが迷惑するだろ?」
「……大学に通学するのに電車もバスもないだろ?」
「菫は週末飲んだりしないのか?」
「ああ、そういう事か」
そんな話を茉莉達としていたら自然に周りにスペースが出来る。
誰も菫達に近づこうとしない。
だけどそんなの菫達には関係ない。
「始まるからさっさと行こうぜ」
菫がそう言うと中に入って入学式をしていた。
高校の卒業式の時もそうだけど茉莉と菫は昔から変わっていない。
豪快ないびきを立てて爆睡していた。
終わる頃になると朔達が起こす。
「お、やっと終わったか!?さっさと飲みに行こうぜ!」
茉莉が起きるとそんな叫び声をあげる。
朔は少し困っているようだった。
「お前昼間から飲むつもりだったのか?」
「当たり前だろ!大学生になったんだから誰にも文句言われないぞ」
「まあ、それもそうだな」
菫も納得したみたいだ。
それでいいんだろう。
しかし結莉は違ったらしい。
「スーツのままじゃ動きづらいよ?一度家に帰らない?」
「ならなんでバスで来たんだよ!」
まあ、そうだね。
「バスには時間表があるから」
結莉はそう言って茉莉達に説明を始めた。
バスはある程度それまでの経験を培って時間を決めている。
それにバス専用レーンになる時間帯だ。
バスの方が遅刻するリスクは少ない。
「それに朝まで騒ぐならこんな格好じゃ無理だよ」
結莉が言うと2人は納得していた。
それから昼ご飯だけ食べて一度家に帰って着替える時によく説得できたねと茉奈と結莉を褒めていた。
「あれは翼に聞いたんだって」
「え?」
「きっと茉莉達の行動を翼が予想していたみたい」
「天音からじゃなかったんだ」
「天音は専門学校だし府内のマンションに住んでたから」
茉莉と菫は必ず問題を起こす。
それは天音や水奈達と変わらない。
だからそれを制御する策を翼が考えていたそうだ。
俺は聞いてないのに。
「結に余計な苦労かけないであげてって翼に言われてたから」
僕はSHの新しいリーダーになる。
絶対に問題を起こすのは茉莉と菫、優奈と愛菜だ。
それを制御するのはいくら俺でも難しい。
だって僕は片桐家の息子。
女性には絶対に勝てない。
だから僕の彼女の茉奈や結莉に任せたんだそうだ。
着替えると再びバス停に行く。
早めの方がいいだろうと15時頃には出た。
バスを待っている間に茉奈に聞いてみた。
「タクシーでもいいと思ったんだけど」
「私だって結の財布を預かってる身だから」
結莉や茉莉じゃないし節約できるところはしておきたいらしい。
「ところで、今でも結の夢は警察官なの?」
「まあな」
それよりも、じいじが教えてくれたことがある。
「大学の履修登録は気を付けておかないと大変な事になるよ」
瑛大は単位を1個だけ取り逃して半年留年したらしい。
「それはね、水奈が忠告してくれたから大丈夫」
天音と水奈は結莉に言ったらしい。
「何が楽しくて大学で勉強しないといけないんだ!?」
大学なんて必要最低限の単位だけ取っておけば遊べばいい。
それでも茉奈は意外とまじめで神奈や愛莉に相談したらしい。
案の定2人は娘を厳重注意していた。
当たり前かもしれない。
だって天音はともかく水奈は旦那に勉強を任せていたのだから。
優奈達を同じようにさせたら大変だとなずなと亜依さんが定期的に様子見してるそうだ。
優奈や愛菜は「4年間遊べるんだからもったいないじゃん」と言っているそうだけどそもそも大学に入れるのだろうか?
そんな風に話しているとバスを降りて予約していた店に入る。
すでに茉莉と菫は飲んでいて、朔達がため息を吐いていた。
俺も茉奈と一緒に飲み物を注文して乾杯する。
家にはおいてないから初めて茉奈と飲むことになった。
「けっこう苦いね」
結莉はそう言って笑っていた。
「あんまり飲み過ぎない方がいい。初めてなんだろ?」
秋久がそう言っていた。
そんなのお構いなしに茉莉や菫は騒ぎまくる。
それはラストオーダーを過ぎても止まらなかった。
「朔、私はまだ物足りないぞ!」
「分かってるよ。茉莉を一人にさせられないから付き合うよ」
「分かってるじゃないか」
多分茉莉が狙われる事より、酔った勢いで暴れ回る危険を考えたんだろう。
俺達はどうしようかと茉奈と相談してると秋久が声をかけて来た。
「まだ少しくらいいいだろ?良い所を父さんから聞いたから一緒に来ないかい?」
「結は風俗とか駄目だから」
「父さんがそんなところ行くわけないよ。そんなのが母さんにバレたら僕は生まれていない」
秋久のいう事が真実なのだろう。
そして駅近くのホテルの上階にあるバーに来ていた。
こんなお洒落な店知ってたんだ。
俺はそういうの全く知らなかったからちょっと残念だった。
「今度から一緒に探そう?」
茉奈がそう言って慰めてくれた。
さすがにこの時間にバスはないからタクシーで帰る。
「しわになるからせめて着替えてから寝てね」
シャワーは朝入ればいいから。
酔った状態で風呂でおぼれたら大変だ。
ちなみに翌日茉莉達はアルコールが抜けない状態で大学に来た。
ネカフェで少しだけ寝たらしい。
もちろん天音は愛莉たちに黙っておけばいいと思ったらしい。
しかしSHのチャットにはしっかりログがある。
それを見逃す母さんじゃない。
しっかり愛莉の耳に入って厳重注意されたらしい。
「あんまり愛莉さんを困らせないで。最近本当に大変みたいだから」
母さんがそう言ってた。
(2)
「おい松原、お前の家靴も買ってもらえないのか?」
登校中の私を目撃していた男子がそういって冷かしていた。
理由は簡単。
今日は晴れ。
なのに私は長靴をはいていた。
理由はある。
最近ブーツが流行っている。
しかし当然それが認められるわけがない。
しかし長靴を禁止する校則もあるわけがない。
だから雨靴を履いていた。
ただそれだけ。
茉莉達のように叩きのめすのは簡単だけど私が暴れ出すと面倒な事になる。
母さんの冬莉はF・SEASONのボーカル。
だから問題になる……と言うわけじゃない。
問題になるのはそのことをUSEの専務が知った時に起こる。
「靴ぐらいでガタガタいうんじゃねえ!」
そう言って校長を僻地へ流転させる事くらいやってのける。
私の中にも片桐の血が流れている。
片桐家の者を怒らせたら片桐家が動く前に他の人間が動き出す。
私もSHの人間だから簡単には手を出してこない。
SHを挑発したFGという愚かな集団は空を怒らせてあっという間に消滅した。
その事は誰もが知っている。
「ひょっとして下着も穿いてないんじゃないのか?」
こいつは中学生の下着にどんなロマンを描いているんだろう?
まあ、穿かないという選択肢も考えた。
どうせスカートだし突風が突然吹くなんて事もないだろう。
だけど冬莉はダメだと言った。
「冬華は……あの日はどうするつもりなの?」
女子って面倒な生き物だな。
納得せざるを得なかった。
ちなみに父さんは私の下着に興味は示さなかった。
やっぱりお子様には興味がないのだろう。
「お前話聞いてるのか?」
そう言って私の髪を引っ張ろうとする馬鹿がいた。
そんなことしたら純が黙っていない。
恋人の蘭香と話していた純がこっちを見ている。
だけど男の愚行を止めたのは違う男子だった。
「何の真似だ?宮本」
「そうやって気になる女子の気を引こうとするのは絶対に間違ってるからやめておけ」
宮本君はそう言ってにこりと笑う。
好きな子を虐めて気をひかせたいという理由が分からない男子の行動。
だけどそんな行動は小学生までにしておけ。
お前将来絶対後悔するぞ?
「こんな臭い女子好きになるわけないだろ!」
まあ、入学式の日に風呂に入って以来入ってないからな。
連休開ける前に入っとけばいいやと思ってたんだけど。
さすがに男子に「臭い」と言われると私も傷つくみたいだ。
「素直になれよ。一言”ちゃんとお風呂に入って清潔にしていればもっと素敵な女子になるよ”って言えばいいだろ?」
宮本君はそう言って笑顔を崩さない。
そもそも臭いなら最初から近づかなかったらいい。
それをしないのは私が気になるからだろ?
「お前俺達に喧嘩売ってるの?リベリオンに逆らったら……」
「今のは聞かなかったことにしてやる。これは警告だ。それ以上続けるなら俺が動かなきゃいけなくなる」
面倒な事をさせるなと純が言うと男子達は去って行った。
「というわけだからお前も見逃してやってくれ」
純が誰に言っているのかはSHの人間なら大体想像がつく。
私達は従兄の結が常に見張っている。
SHを守るため。
暇つぶしのリベリオンをあぶりだすため。
多分どちらも結の目的だろう。
「それにしてもどうして修三が冬華を?」
純が宮本君に聞いていた。
「俺もあいつらと同じで気になったから」
宮本君はそう言って私を見た。
「俺も松原さんをよく見かけた。いつも長靴履いてるのが気になったから」
「別に何履いてこようが関係なくない?校則は守ってるよ」
破るのも面倒だし、買い食いくらいしかしていないと宮本君に伝えた。
すると宮本君は意外な事を言いだした。
「俺の考えでしかないけど、松原さん服装とかあまりこだわらないだろ?」
「……まあね」
「だったら長靴はやめて指定のシューズにしておいた方がいいよ。下手に目立っても面倒だろ?」
男子も同じだ。
校則を破って虹色のスニーカーを履いて目立ってる男子。
丈の長い学ランを着ていたりするどこの時代から来たのか分からない男子。
世の中はそれが当たり前で常識と言う服装が存在する。
それは学校でも会社でも変わらない。
ミニスカや短パンで通勤する馬鹿は絶対にいない。
だから普通にしていれば目立たないから私の望むような生活が送れる。
「なるほどね。ありがとう。言いたい事はそれだけ」
「いや、もう一つあるんだけど」
「どうしたの?」
「松原さん普段はどんな格好なんだ?」
私の私生活に興味があるのだろうか?
裸はだめって冬莉がいうから下着だけつけてる。
外出する時は制服。
男にナンパされたいならその方がいいと椿が言ってたから。
椿は母親の茜から聞いたそうだ。
とうぜんSHのグルチャで話していたから天音達がすぐに気づく。
いつだったか翼と天音から注意されていた。
「そういうのはナンパじゃない。ただの売春だ」
制服を着たままエッチな事をしたいらしい大人がいるそうだ。
そんなのが初めてなんて絶対黒歴史だと2人は言っていた。
どうせ男子と付き合うなんて事絶対ないからいいやと思ってたんだけど。
話を聞いていた宮本君はそれを聞いてにやりと笑う。
「つまり普段着に困ってるんだろ?」
「それが宮本君に関係あるの?」
「俺さ、姉さんがいるからそう言うのよく見てるんだ」
当然着替えを見ているわけじゃない。
服装を見ているらしい。
だからなんとなく私に似合う服装が分かる。
今度一緒に買いにいかないか?
それを聞いていた純は「じゃ、あとは頑張れ」と言って席に戻る。
何を頑張れと言うのだろう?
「宮本君が選んだ服を私が着る理由は?」
それにそんな真似をして宮本君にメリットがあるの?
すると笑顔でいた宮本君が真顔になった。
「……もうすぐ授業が始まるから。放課後教室に残ってくれないか?」
さすがに私でも薄々気づく。
「いいよ」
断ってもいいけどそれが出来なかった。
「ありがとう。じゃ、また後で」
そう言って宮本君は席に着く。
私も席に着くと香澄が言った。
「冬華も年貢の納め時だね」
「……どうして?」
私に拒否権はないの?
「あるよ?でも残るんでしょ?」
香澄が言うと私は何も返さなかった。
そして放課後に教室に残る。
宮本君もテニス部に所属しているからあまり時間が無いらしい。
「俺にメリットがあるのかって話だよな?」
「ええ」
「松原さんと一緒に服を選ぶのが俺のメリット。それじゃだめか?」
「だめね」
「……、そうか。時間取らせてごめん」
そう言って肩を落として教室を出ようとするのを呼び止めた。
「そうやってさ、なんでも思い込んで先走るの悪い癖だと思う」
「でもいまダメって……」
「そうよ。そんな回りくどいやり方をするのは宮本君らしくない」
「どういう事?」
「今日トラブった時宮本君は自分の意見をちゃんと言ってた。今もたった一言でいいじゃない」
彼女とデートしてみたい。
彼女に綺麗になって欲しい。
宮本君のいう事はそういう事でしょ?
どうしてなのかまで私の口から言わせるの?
そんなのはさっきの男子並みにダサいよ?
すると宮本君も決意したみたいだ。
「俺さ……ずっと松原さんを見ていた」
毎日長靴でいる私に気づくくらい見ていた。
「まだ回りくどい!結局宮本君は私の事どう思っているの?」
「好きだ!」
余りの即答に驚いた。
ちゃんと言えるんじゃない。
「それでいい。じゃ、私も返事しないとね」
「え?」
「バツとして私も宮本君に条件を出す」
「条件?」
「そうだよ」
私はそう言って私の条件を提示する。
服は一緒に選ばせてあげる。
その代わりずっと私の服を選んで欲しい。
私は宮本君の言う通りそう言うのはさっぱり分からない。
「つまり松原さんのスタイリストになればいいのか?」
「違う」
「え?」
「春夏秋冬。シーズンごとにちゃんと選んでもらう」
「……それって?」
私も十分回りくどいようだ。
もっと率直に言おう。
「正直今の告白だけだと私はまだ宮本君を好きになれない」
だから私をその気にさせて。
そのチャンスは与えてあげるから。
「つまり付き合ってくれるって事?」
「交際ってのに当てはまるのならそうだね」
すると宮本君は凄く喜んでいた。
そんな宮本君を見ていて嬉しくなっていた。
「とりあえず私の事はこれから冬華でいいよ。その代わり私は修ちゃんって呼ぶから」
「分かった。……連絡先とか聞いていいかな?」
「それ聞かないと話進まないでしょ?」
「そうだね」
そう言って連絡先の交換をすると時間だと言って部室にダッシュで言った。
私はいつも通りコンビニでおにぎりを買って食べながら家に帰る。
私に恋人?
冬莉が聞いたら驚くだろうな。
そして冬莉に伝えていた。
すると冬莉から意外な注文が来た。
「絶対に面白い場面が見れるから」
パパは苦笑いしていたけど。
いつ行こうか?
ちゃんと私を見てくれる人がいた。
それだけで嬉しかった。
これが恋の始まりだとはまだ分からなかった。
「とーや、そろそろ起きないとダメだよ」
茉奈が僕の体をゆすっている。
思い出した。
今日は入学式だ。
目を開けると茉奈はエプロン姿だった。
「……朝食作ってたの?」
「うん、もう出来上がってるから早く顔洗ってきて」
「俺も手伝ったのに」
「急がないと遅刻しちゃうよ?車使わないのでしょ?」
茉奈がそう言うと俺は起き上がる。
すると茉奈が抱き着いてきた。
「どうしたの?」
「ほら、朝起きたら最初にする事あるでしょ?」
何をしたいのかはすぐにわかった。
茉奈が目を閉じたから。
軽くキスをすると準備を始める。
服を着替えているとネクタイが上手く締めれない。
苦戦していると茉奈が手伝ってくれた。
終わると同時に頬にキスをしてくる。
「茉奈はそんなにキスがしたいの?」
「彼氏とキスしたくない女性なんていないと思うよ」
それとも「私口臭臭かった?」といってにこりと笑う。
茉奈は凄く身なりに気を使う。
ちなみに茉莉は特攻服を着て入学式に行こうとしていたらしい。
「お前は入学と同時に退学処分食らいたいのか!?」
「女性だからパンプス履けなんてのは女性蔑視だと誰かが言ってたぞ!」
「男でも特攻服着て入学式行く馬鹿はいないよ?」
「それは嘘だ!」
大地の意見を真っ向から否定する茉莉。
理由を天音が聞いて呆然としていたらしい。
「大学の卒業式にスーツを着るのは社会人になるからだ。ロックシンガーを目指す奴はパンクな格好で卒業式にでたらしいぞ!」
茉莉がロックシンガーになりたいなんて初めて知ったけど、特攻服でなりたいものって何だろう?
「いいか!お前の将来だからお前が決めろ!だけど一つ茉莉は忘れている」
天音がそう説得していた。
お前が特攻服で何になりたいのか知らないけど、そんな茉莉を恵美さんが見たら大地の命がないぞ。
そう言って説得して普通のスーツにしたらしい。
もちろん安物の量販店のものではなくブランドのスーツ。
入学式の会場に行くと菫達も同じだったみたいだ。
しかし菫は気づいたらしい。
茉莉はピンヒールの靴を履いてきていた。
「お前それ歩きづらくないか?」
菫はそう思ったらしい。
「ほら、痴漢がいたらかかとで足に穴開けてやれるだろ?」
「それなら殴り飛ばせばいいじゃないか?」
「それだと電車とかバスだと混んでたら周りが迷惑するだろ?」
「……大学に通学するのに電車もバスもないだろ?」
「菫は週末飲んだりしないのか?」
「ああ、そういう事か」
そんな話を茉莉達としていたら自然に周りにスペースが出来る。
誰も菫達に近づこうとしない。
だけどそんなの菫達には関係ない。
「始まるからさっさと行こうぜ」
菫がそう言うと中に入って入学式をしていた。
高校の卒業式の時もそうだけど茉莉と菫は昔から変わっていない。
豪快ないびきを立てて爆睡していた。
終わる頃になると朔達が起こす。
「お、やっと終わったか!?さっさと飲みに行こうぜ!」
茉莉が起きるとそんな叫び声をあげる。
朔は少し困っているようだった。
「お前昼間から飲むつもりだったのか?」
「当たり前だろ!大学生になったんだから誰にも文句言われないぞ」
「まあ、それもそうだな」
菫も納得したみたいだ。
それでいいんだろう。
しかし結莉は違ったらしい。
「スーツのままじゃ動きづらいよ?一度家に帰らない?」
「ならなんでバスで来たんだよ!」
まあ、そうだね。
「バスには時間表があるから」
結莉はそう言って茉莉達に説明を始めた。
バスはある程度それまでの経験を培って時間を決めている。
それにバス専用レーンになる時間帯だ。
バスの方が遅刻するリスクは少ない。
「それに朝まで騒ぐならこんな格好じゃ無理だよ」
結莉が言うと2人は納得していた。
それから昼ご飯だけ食べて一度家に帰って着替える時によく説得できたねと茉奈と結莉を褒めていた。
「あれは翼に聞いたんだって」
「え?」
「きっと茉莉達の行動を翼が予想していたみたい」
「天音からじゃなかったんだ」
「天音は専門学校だし府内のマンションに住んでたから」
茉莉と菫は必ず問題を起こす。
それは天音や水奈達と変わらない。
だからそれを制御する策を翼が考えていたそうだ。
俺は聞いてないのに。
「結に余計な苦労かけないであげてって翼に言われてたから」
僕はSHの新しいリーダーになる。
絶対に問題を起こすのは茉莉と菫、優奈と愛菜だ。
それを制御するのはいくら俺でも難しい。
だって僕は片桐家の息子。
女性には絶対に勝てない。
だから僕の彼女の茉奈や結莉に任せたんだそうだ。
着替えると再びバス停に行く。
早めの方がいいだろうと15時頃には出た。
バスを待っている間に茉奈に聞いてみた。
「タクシーでもいいと思ったんだけど」
「私だって結の財布を預かってる身だから」
結莉や茉莉じゃないし節約できるところはしておきたいらしい。
「ところで、今でも結の夢は警察官なの?」
「まあな」
それよりも、じいじが教えてくれたことがある。
「大学の履修登録は気を付けておかないと大変な事になるよ」
瑛大は単位を1個だけ取り逃して半年留年したらしい。
「それはね、水奈が忠告してくれたから大丈夫」
天音と水奈は結莉に言ったらしい。
「何が楽しくて大学で勉強しないといけないんだ!?」
大学なんて必要最低限の単位だけ取っておけば遊べばいい。
それでも茉奈は意外とまじめで神奈や愛莉に相談したらしい。
案の定2人は娘を厳重注意していた。
当たり前かもしれない。
だって天音はともかく水奈は旦那に勉強を任せていたのだから。
優奈達を同じようにさせたら大変だとなずなと亜依さんが定期的に様子見してるそうだ。
優奈や愛菜は「4年間遊べるんだからもったいないじゃん」と言っているそうだけどそもそも大学に入れるのだろうか?
そんな風に話しているとバスを降りて予約していた店に入る。
すでに茉莉と菫は飲んでいて、朔達がため息を吐いていた。
俺も茉奈と一緒に飲み物を注文して乾杯する。
家にはおいてないから初めて茉奈と飲むことになった。
「けっこう苦いね」
結莉はそう言って笑っていた。
「あんまり飲み過ぎない方がいい。初めてなんだろ?」
秋久がそう言っていた。
そんなのお構いなしに茉莉や菫は騒ぎまくる。
それはラストオーダーを過ぎても止まらなかった。
「朔、私はまだ物足りないぞ!」
「分かってるよ。茉莉を一人にさせられないから付き合うよ」
「分かってるじゃないか」
多分茉莉が狙われる事より、酔った勢いで暴れ回る危険を考えたんだろう。
俺達はどうしようかと茉奈と相談してると秋久が声をかけて来た。
「まだ少しくらいいいだろ?良い所を父さんから聞いたから一緒に来ないかい?」
「結は風俗とか駄目だから」
「父さんがそんなところ行くわけないよ。そんなのが母さんにバレたら僕は生まれていない」
秋久のいう事が真実なのだろう。
そして駅近くのホテルの上階にあるバーに来ていた。
こんなお洒落な店知ってたんだ。
俺はそういうの全く知らなかったからちょっと残念だった。
「今度から一緒に探そう?」
茉奈がそう言って慰めてくれた。
さすがにこの時間にバスはないからタクシーで帰る。
「しわになるからせめて着替えてから寝てね」
シャワーは朝入ればいいから。
酔った状態で風呂でおぼれたら大変だ。
ちなみに翌日茉莉達はアルコールが抜けない状態で大学に来た。
ネカフェで少しだけ寝たらしい。
もちろん天音は愛莉たちに黙っておけばいいと思ったらしい。
しかしSHのチャットにはしっかりログがある。
それを見逃す母さんじゃない。
しっかり愛莉の耳に入って厳重注意されたらしい。
「あんまり愛莉さんを困らせないで。最近本当に大変みたいだから」
母さんがそう言ってた。
(2)
「おい松原、お前の家靴も買ってもらえないのか?」
登校中の私を目撃していた男子がそういって冷かしていた。
理由は簡単。
今日は晴れ。
なのに私は長靴をはいていた。
理由はある。
最近ブーツが流行っている。
しかし当然それが認められるわけがない。
しかし長靴を禁止する校則もあるわけがない。
だから雨靴を履いていた。
ただそれだけ。
茉莉達のように叩きのめすのは簡単だけど私が暴れ出すと面倒な事になる。
母さんの冬莉はF・SEASONのボーカル。
だから問題になる……と言うわけじゃない。
問題になるのはそのことをUSEの専務が知った時に起こる。
「靴ぐらいでガタガタいうんじゃねえ!」
そう言って校長を僻地へ流転させる事くらいやってのける。
私の中にも片桐の血が流れている。
片桐家の者を怒らせたら片桐家が動く前に他の人間が動き出す。
私もSHの人間だから簡単には手を出してこない。
SHを挑発したFGという愚かな集団は空を怒らせてあっという間に消滅した。
その事は誰もが知っている。
「ひょっとして下着も穿いてないんじゃないのか?」
こいつは中学生の下着にどんなロマンを描いているんだろう?
まあ、穿かないという選択肢も考えた。
どうせスカートだし突風が突然吹くなんて事もないだろう。
だけど冬莉はダメだと言った。
「冬華は……あの日はどうするつもりなの?」
女子って面倒な生き物だな。
納得せざるを得なかった。
ちなみに父さんは私の下着に興味は示さなかった。
やっぱりお子様には興味がないのだろう。
「お前話聞いてるのか?」
そう言って私の髪を引っ張ろうとする馬鹿がいた。
そんなことしたら純が黙っていない。
恋人の蘭香と話していた純がこっちを見ている。
だけど男の愚行を止めたのは違う男子だった。
「何の真似だ?宮本」
「そうやって気になる女子の気を引こうとするのは絶対に間違ってるからやめておけ」
宮本君はそう言ってにこりと笑う。
好きな子を虐めて気をひかせたいという理由が分からない男子の行動。
だけどそんな行動は小学生までにしておけ。
お前将来絶対後悔するぞ?
「こんな臭い女子好きになるわけないだろ!」
まあ、入学式の日に風呂に入って以来入ってないからな。
連休開ける前に入っとけばいいやと思ってたんだけど。
さすがに男子に「臭い」と言われると私も傷つくみたいだ。
「素直になれよ。一言”ちゃんとお風呂に入って清潔にしていればもっと素敵な女子になるよ”って言えばいいだろ?」
宮本君はそう言って笑顔を崩さない。
そもそも臭いなら最初から近づかなかったらいい。
それをしないのは私が気になるからだろ?
「お前俺達に喧嘩売ってるの?リベリオンに逆らったら……」
「今のは聞かなかったことにしてやる。これは警告だ。それ以上続けるなら俺が動かなきゃいけなくなる」
面倒な事をさせるなと純が言うと男子達は去って行った。
「というわけだからお前も見逃してやってくれ」
純が誰に言っているのかはSHの人間なら大体想像がつく。
私達は従兄の結が常に見張っている。
SHを守るため。
暇つぶしのリベリオンをあぶりだすため。
多分どちらも結の目的だろう。
「それにしてもどうして修三が冬華を?」
純が宮本君に聞いていた。
「俺もあいつらと同じで気になったから」
宮本君はそう言って私を見た。
「俺も松原さんをよく見かけた。いつも長靴履いてるのが気になったから」
「別に何履いてこようが関係なくない?校則は守ってるよ」
破るのも面倒だし、買い食いくらいしかしていないと宮本君に伝えた。
すると宮本君は意外な事を言いだした。
「俺の考えでしかないけど、松原さん服装とかあまりこだわらないだろ?」
「……まあね」
「だったら長靴はやめて指定のシューズにしておいた方がいいよ。下手に目立っても面倒だろ?」
男子も同じだ。
校則を破って虹色のスニーカーを履いて目立ってる男子。
丈の長い学ランを着ていたりするどこの時代から来たのか分からない男子。
世の中はそれが当たり前で常識と言う服装が存在する。
それは学校でも会社でも変わらない。
ミニスカや短パンで通勤する馬鹿は絶対にいない。
だから普通にしていれば目立たないから私の望むような生活が送れる。
「なるほどね。ありがとう。言いたい事はそれだけ」
「いや、もう一つあるんだけど」
「どうしたの?」
「松原さん普段はどんな格好なんだ?」
私の私生活に興味があるのだろうか?
裸はだめって冬莉がいうから下着だけつけてる。
外出する時は制服。
男にナンパされたいならその方がいいと椿が言ってたから。
椿は母親の茜から聞いたそうだ。
とうぜんSHのグルチャで話していたから天音達がすぐに気づく。
いつだったか翼と天音から注意されていた。
「そういうのはナンパじゃない。ただの売春だ」
制服を着たままエッチな事をしたいらしい大人がいるそうだ。
そんなのが初めてなんて絶対黒歴史だと2人は言っていた。
どうせ男子と付き合うなんて事絶対ないからいいやと思ってたんだけど。
話を聞いていた宮本君はそれを聞いてにやりと笑う。
「つまり普段着に困ってるんだろ?」
「それが宮本君に関係あるの?」
「俺さ、姉さんがいるからそう言うのよく見てるんだ」
当然着替えを見ているわけじゃない。
服装を見ているらしい。
だからなんとなく私に似合う服装が分かる。
今度一緒に買いにいかないか?
それを聞いていた純は「じゃ、あとは頑張れ」と言って席に戻る。
何を頑張れと言うのだろう?
「宮本君が選んだ服を私が着る理由は?」
それにそんな真似をして宮本君にメリットがあるの?
すると笑顔でいた宮本君が真顔になった。
「……もうすぐ授業が始まるから。放課後教室に残ってくれないか?」
さすがに私でも薄々気づく。
「いいよ」
断ってもいいけどそれが出来なかった。
「ありがとう。じゃ、また後で」
そう言って宮本君は席に着く。
私も席に着くと香澄が言った。
「冬華も年貢の納め時だね」
「……どうして?」
私に拒否権はないの?
「あるよ?でも残るんでしょ?」
香澄が言うと私は何も返さなかった。
そして放課後に教室に残る。
宮本君もテニス部に所属しているからあまり時間が無いらしい。
「俺にメリットがあるのかって話だよな?」
「ええ」
「松原さんと一緒に服を選ぶのが俺のメリット。それじゃだめか?」
「だめね」
「……、そうか。時間取らせてごめん」
そう言って肩を落として教室を出ようとするのを呼び止めた。
「そうやってさ、なんでも思い込んで先走るの悪い癖だと思う」
「でもいまダメって……」
「そうよ。そんな回りくどいやり方をするのは宮本君らしくない」
「どういう事?」
「今日トラブった時宮本君は自分の意見をちゃんと言ってた。今もたった一言でいいじゃない」
彼女とデートしてみたい。
彼女に綺麗になって欲しい。
宮本君のいう事はそういう事でしょ?
どうしてなのかまで私の口から言わせるの?
そんなのはさっきの男子並みにダサいよ?
すると宮本君も決意したみたいだ。
「俺さ……ずっと松原さんを見ていた」
毎日長靴でいる私に気づくくらい見ていた。
「まだ回りくどい!結局宮本君は私の事どう思っているの?」
「好きだ!」
余りの即答に驚いた。
ちゃんと言えるんじゃない。
「それでいい。じゃ、私も返事しないとね」
「え?」
「バツとして私も宮本君に条件を出す」
「条件?」
「そうだよ」
私はそう言って私の条件を提示する。
服は一緒に選ばせてあげる。
その代わりずっと私の服を選んで欲しい。
私は宮本君の言う通りそう言うのはさっぱり分からない。
「つまり松原さんのスタイリストになればいいのか?」
「違う」
「え?」
「春夏秋冬。シーズンごとにちゃんと選んでもらう」
「……それって?」
私も十分回りくどいようだ。
もっと率直に言おう。
「正直今の告白だけだと私はまだ宮本君を好きになれない」
だから私をその気にさせて。
そのチャンスは与えてあげるから。
「つまり付き合ってくれるって事?」
「交際ってのに当てはまるのならそうだね」
すると宮本君は凄く喜んでいた。
そんな宮本君を見ていて嬉しくなっていた。
「とりあえず私の事はこれから冬華でいいよ。その代わり私は修ちゃんって呼ぶから」
「分かった。……連絡先とか聞いていいかな?」
「それ聞かないと話進まないでしょ?」
「そうだね」
そう言って連絡先の交換をすると時間だと言って部室にダッシュで言った。
私はいつも通りコンビニでおにぎりを買って食べながら家に帰る。
私に恋人?
冬莉が聞いたら驚くだろうな。
そして冬莉に伝えていた。
すると冬莉から意外な注文が来た。
「絶対に面白い場面が見れるから」
パパは苦笑いしていたけど。
いつ行こうか?
ちゃんと私を見てくれる人がいた。
それだけで嬉しかった。
これが恋の始まりだとはまだ分からなかった。
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