姉妹チート

和希

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MAN WITH A MISSION

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(1)

「……参ったわね」
「……うぅ」

 恵美さんと愛莉が悩んでいる。
 USEの現・専務である天音も苦笑いをしていた。

「桜子にも言ってるけど悩みすぎると禿げるぞ愛莉」
「若者には受けてるみたいだしいいじゃないか」

 天音と水奈がそう言っている。
 そう、若者には人気のある歌だった。
 最初はそれでよかった。
 初恋のもどかしい気持ちを表現した歌。
 それがクイーンアイズの最初の歌だった。
 しかしそんな甘ったるいだけのラブソングなんて茉莉や希美が許すわけがない。
 すぐに暴れ出す。

「ざけんな!そんなしょうもないラブソングで私はイカねえんだよ!」

 そんなヤジを待っていたかのようにボーカルの樹理がにやりと笑う。
 メンバーが集まって何か相談をしていた。
 そして再度再び配置に着く亜咲や悠翔。
 
「じゃあ、つぎはとびきりの歌をくれてやる!」

 そう言って歌いだした。
 激しい里紗のギターに合せる悠翔。
 ドラムもかなり激しい。
 そして歌いだしたのは樹理と亜咲。
 それは歌詞じゃなかった。

「だぁああああああああ!」
 
 ひたすらメロディに合せて叫び続ける二人。
 遊達も気に入ったみたいだ。
 一緒になって叫んでいた。
 上手く茉莉達の機嫌を直していた。
 そして何曲が歌ってまた悠翔と亜咲が樹理の下に行く。
 その間里紗は経験が他のメンバーより上なので将弥と2人でMCでつないでいく。

「……本当にあれをやるのか?」
「やるために作ってきたんだろうが!お前の方が声はいいんだからつべこべ言うな」
「冬莉達も言ってたよ。同じやるなら思いっきり恥をかけって」
「……わかったよ」
 
 悠翔がそう言うと再び演奏を始める。
 それは茉莉達のお気に召さない曲の出だしだった。
 当然茉莉達が暴動を起こそうとする。
 だが茉莉達は動きを止めた。
 さっきと違う。
 悠翔のパートを樹理が歌って、樹理のパートを悠翔が歌っている。
 何か企んでいると僕と渡辺君もステージを見ていた。
 嫌な予感がするとカンナと愛莉がステージを見つめていた。
 そしてその悲劇は起こった。
 1番と2番の間に本来は悠翔のラップが入るんだけど今回も悠翔のラップっぽいのが入っている。
 その中身が酷かった。

「言う事無いから(自主規制)」
「(自主規制)最高!」

 そしてカンナと愛莉が頭を抱えていた。
 演奏が終わるとクイーンアイズは盛況のなか次のアーティストにステージを譲っていた。
 その後に恵美さん達が来て今の状況がある。

「いやあ、悠翔は堅物だからバンドなんかできるのかと思ったけど案外やれてるじゃねーか」
「私も驚いた。さすが私の息子だ!」

 水奈は得意気にそう言っていた。
 それを𠮟りつけるのがカンナ。

「お前は自分の息子が小学生が言いそうなしょうもない事を歌っていて感想がそれだけなのか!?」
「母さんだって私の趣味にあれこれ言わなかっただろ!?あのくらい許してやるのが親だろう!?」
「水奈……それは違うよ。私は旦那の趣味を趣味だからと放っておいたら取り返しのつかない事になっていた」

 亜依さんがそういうけど天音達には通じない。

「大地や学はくそ真面目過ぎるんだよ。遊だって最近子供の世話に夢中だし。妻の私達は不満だらけなんだ!」

 天音が反論するとカンナが対応した。

「いいか天音。それは幸運だといつか分る。娘の部屋に盗聴器仕掛けようとする父親なんて最悪だぞ」

 カンナが説得していたけど天音達は全く聞いていない。
 まあ、誠は誠司にピッキングスキルを伝授しようとしていたらしいからな。
 しかし僕の孫娘の雪は違う事で困っていた。

「ねえ、ママ?どうしても理解できないんだけど」

 ぽかっ

 瞳子が雪の頭を小突いていた。

「そういう事はまだ気にしてはいけないと言ったでしょ?」
「だから不思議なの」
「え?」

 雪は何も知らない。
 だから瞳子は冬吾の件があったからあらかじめそういう体の特徴については気にしたらいけないと言い聞かせていた。
 だから疑問が発生する。

「あんな言葉連発して何が面白いの?」

 結が瞳子に言うと天音達もやっと気づく。
 まだ小さい子供だっている。
 なのにあの歌はまずかったと思ったんだろう。
 
「雪がもう少し大きくなったら分かるよ」
「どうしてこの手の話になるとそうなるの?」
「その理由もまだお前には早いんだ」

 そう言って天音が雪を説得している。
 水奈も手伝うみたいだ。

「大丈夫だ雪。お前は何も知らなくていい。私が誠司郎にしっかり教えておくから」
「お前は自分の甥に何を吹き込むつもりだ!」
「だって相手は天音の姪だぞ。大地みたいな男になったら不満を感じるだろ!」

 誠だって”神奈はああ見えて恥ずかしがっていたんだ”と言っていたそうだ。

「瑛大!酒きれたから取りに行こうぜ!」
「そ、そうだな!今夜は朝まで飲むぞ!」

 そう言って逃げ出そうとする誠と桐谷君は既に妻に腕を掴まれていた。

「水奈。誠はお前に何を教えた……?」
「だからそれだけ」
「で、お前は誠司郎に何を教えようとしたんだ?」
「気になるわね……遊と違って学もそういうのには疎いはずだったし」
「ああ、そうだった。だから天音と相談したんだ」
「ば、馬鹿水奈。ふざけるな!私を巻き込むなといつも言ってるだろ!」

 天音が慌てている。
 しかし水奈は天音を巻き込むつもりだった。
 2人は自分のPCでそういうサイトを見て研究したらしい。
 もちろんSHの女子グルの中でも色々相談していたそうだ。

「さ、先に言っておくぞ!祈やなずな、美希や翼だって一緒に相談したんだ!」
「私は最後まで見てない!」

 翼が反論する。

「お前や祈は彼氏が気遣ってくれるからいいけど大地達は部屋で裸にならないと気付かないんだぞ!」
「大地!あなたそうだったの!?そんな事母さんに知れたらどうなるかわかってるでしょ!」

 美希がそう言うけどその母親の恵美さんがしっかり聞いている。

「望!それは父親のあなたがちゃんと教えるべきでしょ!」
「恵美、冷静になって。子供に彼女の抱き方なんて普通教えないよ!」
「え?そうなんですか?」

 美希が驚いていた。

「どうしたの?美希」
「いや、それだと一つ疑問があって……」
「美希!僕ちょっと食べ物取ってくる。光太もどうだ?」
「そ、そうだな。お前らはとりあえず食わないとダメだしな」

 しかし麗華や美希がしっかり捕まえていた。
 そして麗華も美希も犯人が誰なのか断定していた。

「光太……あんた達何をしてたの?」
「ま、まて。落ち着け麗華。中学生なら普通だろ?」

 光太が説明する。
 多分中学生になったら彼女と一緒に寝る時が来る。
 その時にどうしたらいいか?
 それを相談したのは善明だった。
 それで光太が先輩から借りたDVDを見て学習したそうだ。
 しかし実際に経験して光太は驚いたらしい。

「いやあ、結構筋肉つけておかないとダメなのか?と思ったけど案外普通の体勢がいいんだな」

 そう言って光太は笑っていた。

「あんた……そんな初体験を私を相手にするわけだったの?」
 
 麗華が睨みつけていた。
 美希も心当たりがあるらしい。
 空の場合美希がある程度知識があったから美希が主導権を握っていたそうだ。
 で、一つの動作をするのに躊躇っていたからどうしたの?と聞いたらしい。 
 すると空は言った。

「こんなのでいいの?」

 その意味が分からなかったけど今の説明で納得したそうだ。
 もちろん美希と愛莉が怒り出す。
 しかし一番怒っていたのは晶さんだった。

「善明!あなたいつからそんな情けない子になったの!?」
「あ、晶ちゃん落ち着いて。中学生で慣れてたらそれはそれで問題じゃないかい?」
 
 酒井君が宥めるけど晶さんは酒井君を睨みつける。

「善君がちゃんと指導しないからこんな情けない子になったんでしょ!これで秋久はまだなんてふざけた事言ったら埋めるわよ!」

 自分の孫を埋める気でいるらしい。
 晶さんならやるな……。
 だから酒井君も必死になる。

「それはないよ」
「え?」

 晶さんは驚いていた。

「なんで酒井君が知ってるの?」

 愛莉も気になったらしい。
 まあ、普通に考えて親に「彼女と寝ました」なんて事一々言わない。
 だけど秋久は悩んだらしい。
 上手くできただろうか?
 自分の体で満足してもらえただろうか?
 これで秋久の彼女の心音が愛想をつかさないだろうか?
 色んな不安を父親の善明に相談したらしい。
 で、それを酒井君に説明したそうだ。
 女性である母親には相談しづらかっただけ。

「まだ一人前でもないのに他人様の娘さんに何やってるの!事が起こってからでは遅いのよ!」

 普通の母親ならそういう。
 しかし少なくとも愛莉たちは違う。
 ある日の事だった。

「冬夜さん。少しご相談があるのですが?」

 愛莉がそう言って来たので話を聞いた。
 翼から相談を受けたらしい。
 いつもワンパターンだ。
 私じゃ詰まんないのかな?
 翼がそう悩んでいたから善明に色々教えてやって欲しい。
 僕は当然のように答えた。

「それは無理だよ」
「どうしてですか?父親ならそういうことは分かるのでは?」
「愛莉は僕が中学生の時どうだった?」
「……冬夜さんじゃ荷が重いですね」
 
 そう言って愛莉が笑っていた。
 それを聞いていた亜依さん達が激怒する。

「なんで愛莉だけそんないい旦那さんなわけ!?」
「桐谷君は違ったの?」
「この馬鹿は社会見学と称して高校生の遊を風俗に連れて行ったぞ!」
「学も誘ったけど断られたんだよ」
「そういう問題じゃないだろこの馬鹿!」

 そんなやりとりを見ていた渡辺君が呆れていた。

「お前達は毎年飽きないな」
「一つ聞いてもいいかな?」

 渡辺君に聞いてみた。

「どうした?冬夜が質問なんてめずらしいな」
「渡辺君の初体験はどうだったの?」
「そりゃもちろん相手は美嘉だったよ」

 そうじゃないなら今頃生きてないよと渡辺君は笑っていた。

「いや、そうじゃなくてさ」

 女性と寝る方法ってどうやって身に着けたんだろうって……。

「やっぱり動画見たりじゃないのか?あとはそうだな……気持ちの問題だな」
「気持ち?」
「ああ、冷静に考えてみたらわかると思うけど初めての経験であんな無理な姿勢だったり彼女にも恥じらいがあるだろ」

 もっとも美嘉には無かったと笑って言ってた。

「誠司郎。飲み物きれたから取りに行こう?」

 この話を誠司郎が聞いていたらまずいと思った雪が誘っていた。

「でもなんか気になってさ」
「いいから行こうよ」
「でも……」
「誠司郎。こういう時は雪に従っていた方がいい」

 誠司が言うと2人は飲み物等を取りに行った。
 それを見ていたパオラが言う。

「あの2人はやっぱり違うみたいですね」
「片桐家の娘の定義ともかけ離れてるしね」

 空がそう答えていた。
 
「俺も応援してやりたいんだ。雪の事を話している誠司郎は本当にうれしそうなんだ」

 誠司がそう言っていた。

「雪もなのよ。誠司郎の事を話しているときは本当にうれしそうなの」

 瞳子も同じように言っていた。

「どうしてああなったんでしょう?」

 愛莉が不思議そうに言う。
 偶には言ってやろうか?

「愛莉の孫娘だからだよ」
「愛莉ってどうやって片桐君を攻略したの?」

 亜衣さんが聞いていた。

「本当に気づいてくれない困った人だったの~」

 そう言って嬉しそうに思い出す愛莉の話を聞いていた。

(2)

「あ、あそこの席開いてる」
「別に父さん達のところに戻ればいいんじゃないのか?」
「誠司郎は私と二人きりだと不満なの?」
「いつも2人きりじゃないか」
「じゃあ、今夜も一緒でいいよね?」

 誠司郎が空いてるテーブルに着くと、誠司郎が話しかけてきた。

「一つ聞いていいか?」
「どうしたの?」
「さっきもそうだけど……」

 何で誠司郎だけ秘密の話になるんだ?
 
「まだ早いからって言われたでしょ?」
「だからさ、内容じゃなくてなんで俺が知ったらいけないんだって話だよ」
「なるほどね……」

 私はジュースを飲みながら考えていた。
 そして思いついた。

「あのさ、誠司郎は私と寝たら抱き着いてきたりキスをしたりするでしょ?」
「それが嫌だって言うならやめるよ」
「その逆だよ」

 私だって誠司郎がそういう風にしてくれると嬉しい。
 だからそれ以上の事はまだ俺には教えられない。
 その理由は実に単純だ。
 誠司郎が私にそれを求めたら、私はそれを拒む方法も理由もない。
 それは非常に危険な事らしい。
 だから俺にはまだ早い。
 そういう事。

「それが男女の関係ってやつか?」
「そこは気づいてたんだ?」
「まあな……比呂達が言ってたし」
「比呂が?」

 男子グルのグルチャではそういう動画のリンクを張られているらしい。

「やめて……」

 そんな女性の声と服を強引に脱がされる女性の動画。

「なんでこんなもの見てるんだ?」
 
 普通に意味がわからないので聞いてみた。
 見たいなら母さんに言えばいいんじゃないのか?

「た、単なる社会勉強だよ」
「誠司郎もいずれ雪に見せてもらえるよ」

 不思議に思いながらもその動画を閉じたらしい。
 私は無言で水奈達にメッセージを送った。
 そして私はあることに気づいた。

「ってことは会話の内容は大体把握できてるんじゃないの?」
 
 全然分からないって嘘じゃない。

「どうしてそうなるんだ?」
「え?」

 私も予想していない返事だった。
 誠司郎は説明した。
 さっきも言ったけどみたけりゃ母さんと風呂に入ればいいだけじゃないか?
 なんでわざわざテレビで見るんだ?
 女性の体なんて胸が膨らんでるのと下半身に違いがあるかくらいだろ?
 何で女性には無いのかは不思議に思ったけど、そんなのは私の言う通り母さんや女の子に聞いたらいけないって言ってたから聞いてない。
 でも、誠士郎や比呂は知っているのに誠司郎がそれがどういう行為なのか知らない。
 さっき聞いてた話だと中学生くらいには自分でネットで調べるみたいだ。
 だけど誠司郎は検索する手段すら知らない。
 比呂達は知ってるみたいだけど、誠司郎には教えてくれない。
 男と女……そんなに秘密があるのか?
 誰も教えてくれないのに比呂達は知っているから不思議に思った。
 そう説明すると私は笑っていた。

「誠司郎。それが分からないうちはまだ知る必要ないよ」
「なんでだよ?」
「知ってどうするの?」

 誠司郎の理屈だと私には聞いたらいけないんでしょ?
 パオラにも聞いたらいけない。
 じゃあ、どうやって確かめるの?
 
「そっか、私に興味が無いと思ったけどそこから知らなかったんだね」
「まあな……胸を触ったのが悪かったのなら謝るよ」
「それはいいの。誠司郎だけは特別だから」

 誠司郎だけは特別だから見られても嫌じゃないし色々されてもいい。
 だけどさっきも言ったけど何でも受け入れてしまうからまだ危険なんだ。
 だから私や誠司郎がもっと大人に近づいたら説明してあげると言った。
 男女の体の違いとその理由。
 その先から導き出される恋人だけ許される特別な行為。
 比呂達はもう十分成長しているからいいの。
 だけど私達はまだ小学生。
 その違いくらいわかるでしょ? 

「なんだそれ?」
「私も誠司郎もまだ子供。だけど比呂達はもう大人なの」
「どこから大人なんだよ?」
「それはいずれ分かるよ」
「もう一ついいか?どうして雪はそんなに詳しいんだ?」
「女子グルって結構過激だから」

 きっかけは私だった。
 ある行為をしていて妙な感じになったから女子グルで相談したら教えてくれた。
 ママに聞かなかったのは多分いけない事だと思ったから。

「じゃあ、教えてくれてもいいじゃないか」

 傷つくような事ならしないよ。
 だけど茉菜は言う。

「私は誠司郎より辛いの」
「なんで?」
「だって知っているから」

 その行為を誠司郎にされるのなら構わない。
 そう思ってしまうから誠司郎には教えられない。
 その理由は凄く簡単だった。

「誠司郎と初めてキスした時嬉しかった」
「ああ、それが関係あるのか?」
「そしたら誠司郎はあれからよくキスしてくれたり抱きしめてくれるじゃない」

 誠司郎は私を求めている。
 だからきっと誠司郎がその事を知ったら私に求めてしまう。
 そして私もそれを拒むつもりがない。
 もっと正直に言う。
 本当は今すぐ誠司郎に教えてして欲しい。
 でもそれは本当に危険な行為なの。
 だからまだ早い。

「……分かったよ。そのうち教えてくれるんだな」
「ええ、いやだって言われても強請ってあげる」

 でも私だって女の子だ。
 そういうのは誠司郎から迫って欲しい。

「だから誠司郎が言ってくれるのを待つよ」

 そろそろ戻ろうと言うと私と誠司郎は親の下に戻った。

「馬鹿かお前は!んなもん一々私が許可を出さないといけない間抜けしかいないのか!?」

 天音が怒鳴りつけている。
 美希達も同じみたいだ。

「何があったの?」

 私が神奈に聞いていた。
  
「なんか物騒な爆撃機がこっちに向かってるらしい」

 そんな物飛ばせるのは天音や美希の家だけだと思っていたけど……ああ、そういう事か。

「リベリオン?」

 私が聞くとじいじが「多分そうだろうね」と答えた。

「どうするもこうするもあるか!この馬鹿垂れ!さっさと撃ち落とせ」

 新年の花火代わりにしてやると天音が言っているのを止めた。

「空の上とはいえ、爆発があったら色々面倒でしょ?」
「どうするつもりだ?」

 狙いはこのホテル。
 間違いなく爆撃する気だ。
 天音はそう言った。
 私は言った。

「それはありえない」

 私が言うとパオラ達が私を見た。

「どうしてそんなものが日本の上空を飛んでるの?」

 そう言った時に天音に連絡が届いた。

「爆撃機が消失したらしい」

 その天音の報告に皆が驚いている。

「そんなものが日本の上空を飛んでるはずないじゃない」

 私がにこりと笑って言う。

「雪の仕業?」

 そう言って愛莉が私を見る。
 私は一言だけ言った。

「気のせいだったんだよ」

 例えSHのメンバーだけで集まっていようとその情報を与えたくない。
 信頼していないわけじゃないけど知ってしまったら、その関係者を保護する必要がある。
 拉致って拷問くらいやりかねない連中だから。
 だからメンバーの為に敢えて黙っていた。
 その事はじいじや空も察したみたいだ。
 また、宴が始まった。
 しかし今夜はこれだけで事件が収まったわけではなかった。

(3)

「それでは本年もよろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします」
 
 そう言って礼をすると客人は去って行った。

「お疲れ様」
「あざーす」
「それはだめって言ったはずでしょ?」
「そうでした。さーせん」
「それもだめ」

 妻の春奈がそう言って笑っていた。

「でも最近は少しは慣れてくれたようで助かります」

 秘書の林田さんがそう言ってくれた。
 
「晴斗もやっと板についてきたな」

 冬夜先輩がやってきてそう言ってくれた。

「やっとだけどな……そろそろお前も潮時じゃないのか?」

 渡辺先輩もそう言っている。

「それは林田さんと今調整中です」

 春奈が答えると「あてはあるの?」と恵美先輩が尋ねて来た。

「そうですね。その為に今4大企業以外の地盤を固めようとしている最中です」
「……まあ、志水グループや江口グループからは選べないよね」

 せっかくのクリーンなイメージが崩壊してしまう。
 それだけは避けたい。
 かといって天ではいくらなんでも無茶すぎる。
 昔国会中にスマホ弄ってて叩かれた議員がいたがそれより最悪だ。
 それで目をつけたのが息子の秋斗だった。
 年齢的にも申し分ないし真面目な息子だ。

「本当、晴斗の子供とは思えないくらいだから」

 春奈がそう言って笑っていた。
 秋斗はそれとなく他の要人に挨拶周りをさせている。
 選挙はまだ先だけど「次期県知事は秋斗に任せたいからよろしく」というメッセージ。

「ってこと俺の親戚が県知事なのか?」

 誠先輩が驚いていた。

「……お前足を引っ張るなよ?」
「そのくらい分かってるよ」
「でもどうしてわざわざ4大企業以外の票を集めるわけ?」

 晶先輩が聞いていた。
 確かに4大企業が揃っているだけで今や政党作った方がいいんじゃないかってくらいの勢いはある。
 だけどだからこそ他の勢力も取り込んでおいた方がいいと冬夜先輩は言った。

「冬吾がやったあれだね。ミスディレクション」

 公生がそう答えると冬夜先輩は頷いていた。

「……火のない所に煙を立てる輩がこの先現れないとは限らない」

 公生の妻の奈留が説明した。
 多分もう俺の背後に4大企業という後ろ盾がいる事は大体バレていると考えた方がいいだろう。
 それが脅しになってたてつく存在がいないのが証拠だ。
 同じ人間が長年県政を担っている。
 そしてその後釜に息子を置こうとしている。
 さすがにあらぬ噂が立っても不思議じゃない。
 だから少しでも誤魔化しをしないといけない。

「本当は空にでも任せた方がいいかもしれないけど、あの子も色々無茶をやったからね」

 マスコミにも度々取り上げられているSHの長。
 そんな人間を祭り上げる事は不可能だと冬夜先輩は言った。
 天音や水奈は論外。
 なるべくSHの物騒な騒動に関わっていない人間が好ましい。
 そういう面でも秋斗はうってつけだった。

「ま、当分は私達は安泰ってわけね」

 恵美先輩がそう言った時だった。
 
「失礼します。奥様少しよろしいでしょうか?」
「どうしたの?」

 スタッフが春奈に耳打ちする。
 それを聞いた春奈の表情が険しくなった。

「お引き取り願いなさい」
「それがどうしても会わせろと……」
「いつも通りの対応で構いません」
「春奈。どうしたんだ?」

 神奈先輩が聞いていた。

「なんか招かざるものが現れたみたい」
「そんな言い方酷いなぁ。俺達だけのけ者って酷くないか?」

 そう言って無理矢理ホールに入ってきた数人の男が現れた。
 どうやって入ってきたかは右手に持っている凶器を持ってきたら分かる。
 俺が何も言わなくても何人かのガードマンが前に立ちふさがる。
 ここが酒井家や石原家のパーティ会場でなくてよかった。
 そんなものを見て怯えるガードマンなんかじゃない。
 間違いなく今頃大惨事だ。

「誰だお前?ふざけた野郎だな」
「今日は取り込み中だ。後日ぶっ殺してやるから名前だけ名乗れ」

 天音と水奈が前に出る。
 だけど男たちは名乗らない。

「俺達の要求を伝える。今から2時間以内に応じない場合は……」

 このホテルを爆破する。

「はいそうですか?と従うと思ったか?この間抜け」
「俺達って事はなんかの団体だな?逆に解体してやるからさっさと用件を言え」

 用件はどうでもいい。
 お前らが何者かが問題だ。
 さっさとぶっ壊してやるから正体を教えろ。
 天音と水奈と祈が出る。
 多分善明や大地も隙を伺っているのだろう。
 しかし冬夜先輩がそれを制した。

「お前リベリオンだな?」

 冬夜先輩が言うと連中は動揺する。
 それを見てにやりと笑う。

「用件を言え。聞くだけは聞いてやる」
「……片桐結の命」

 その名前を見て茉菜がとっさに結を見る。
 結はめんどくさそうに料理を食べていた。
 そしてそんな結を見て冬夜先輩は無茶振りをする。

「お前達は標的の情報を何一つ聞いてないのか?結を狙うにしてはあまりにも最悪のタイミングだぞ?」
「たかが子供一人にビビる俺達だと思ったか?」
「びびってないのは勇敢だが、やっぱりただの馬鹿だ」

 そう言って冬夜先輩は結に「結に用があるみたいだからちょっと時間を割いてやってくれないか?」と言う。
 しかし結は応じなかった。

「そいつらの装備見たらわかるよ。ただの雑魚だ。相手するのも面倒だ」
「舐めてると殺すぞガキ!」

 そう言って連中が結に銃を向ける。
 それに応じて天音や茉莉達が銃を取り出そうとする。
 しかしできなかった。
 本人たちも不思議に思ったそうだ。
 動揺する連中に結は食べながら話をする。

「俺はまだ子供だ。女性の扱い方も知らない子供だ。だけどこの場が銃を扱っていい場所じゃないことくらいわかる」
 
 県のお偉いさん主催の新年会。
 そんな場所でそんな馬鹿な真似をしたらどうなるかくらい想像つく。
 多分恵美先輩達でも処理できない事態になる。
 それを狙っての反抗だろうけど甘すぎだ。

「で、こいつらどうするの?」
「俺が相手しないでもちゃんと用意してるよ」

 すると連中と茉莉達の間に髪の毛の長い少年が現れた。
 肌の色は褐色で目の色が萌える炎の様に赤い。
 丸腰だけど異様な気配を放っている。

「なんだお前?」
「……バルバトス」

 バルバトスと名乗った少年は淡々と告げた。
 ここで皆殺しにしてもいいけど、さっきも言ったようにここで死人を出すわけにはいかない。
 それに俺を名指しで喧嘩を売るって言うのなら喜んで買ってやる。
 今日は帰してやるからその事をリベリオンのリーダーに伝えて怯える生活を送るといい。
 バルバトスはルプス達よりもさらに攻撃型のエイリアス。
 結が敵とみなした人間を排除するための存在。
 人が楽しく食事している時にふざけた真似をした代償はでかいぞ。
 そう言うとバルバトスは片手を彼らに向ける。
 その瞬間奴らの姿は消えた。
 騒ぎ出す客を石原先輩や酒井先輩も手伝って落ち着かせる。
 その間に冬夜先輩が結に聞いていた。

「彼らも消したのかい?」
「それだとまた同じ事繰り返すだけだろ?」

 結は食事を再開しながら言う。
 消すだけじゃ馬鹿の総大将に伝わらない。
 だから別の力を使った。
 強制送還。
 銃撃戦を防いだのは時間停止を両陣営の指に仕掛けただけ。
 理由はさっきも言ったように今日この場所で銃撃戦はさすがにシャレにならないだろうから。

「もういい?次の料理取ってきたいんだ」
「ああ、いいよ。上手く対処できたと思う。さすがだね」

 そう言って冬夜先輩が結の頭を撫でると「いけません!」と愛莉先輩が言う。

「どうしたの?」
「さっき結は聞き捨てならない事を言いました」
「愛莉の言う通りだ。聞き捨てならない事を言ってたぞ」
「何を言ったの?」

 愛莉先輩は結の顔を睨みつけながら言った。

「女性の扱い方が分からないと言いました」
「……結の歳で慣れてたら大変だろ?」
「トーヤ!結は私の孫娘を預けてるんだ!んな言い訳許さないぞ!」
「神奈の言う通りだ!私と何年一緒にいるの!?」

 そう言って結は女性陣に囲まれて説教を受けていた。
 それを見ていると俺の隣に誠先輩が立って言う。

「あれが片桐家だ。いかなる条件で敵に回しても怖い片桐家の男でも絶対に女には逆らえない」

 それは誠先輩も同じじゃないですか?
 そして後に結は暇つぶしを見つけたかのように動き出すことになる。
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