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現在を生きる憧憬
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(1)
「メリークリスマス!」
ママ達もこの聖夜を祝っていた。
俺も家でクリスマス料理を楽しんでいた。
さすがに小学生が彼女と夜を過ごすわけがないだろ。
小学生の恋人が2人で夜を過ごすことは無い。
だけど2人だけじゃないから認められた。
今夜のパーティには誠司郎達が呼ばれていた。
「こんな日くらい私と一緒にいてくれてもいいでしょ!」
私はそう主張していた。
「まあ、誠司郎なら害はないだろ」
神奈がそう言ってパオラ達を説得していた。
「愛莉の奴も中学の時にはしてただろ?」
「小学生の時は私でもしてないよ?」
「それは相手がトーヤだからだろ?」
じいじだから愛莉の気持ちや要望が分かってない。
「いくらなんでも早いだろ?」
パパがそう言うけど茉菜の父親の誠司がそうではなかった。
「雪は冬吾の子供で、瞳子の子供だ。ある意味誠司郎より危険だ」
「どういうこと?」
パパが聞くと誠司が説明したそうだ。
パパでもさすがに女性と男性の違いに興味を持ったらしい。
そしてそれをじいじや愛莉に聞いていた。
愛莉もさすがに説明に困ったらしい。
「そう言う話を女性にするのはダメってのは分かってるんだろ?母さんは女性じゃないのかい?」
じいじがそう言って説得してからは一人で悩んでいた。
当然愛莉に聞くのも躊躇っていた。
それを知っていたからママは体が変化を始めた頃にパパに見せたらしい。
だけど私は違う。
私が子供なのは分かり切ってる。
でもそのうちママや愛莉みたいに女性らしくなっていくんだろう。
だから今は我慢。
それが神奈達が気に入らない理由だったらしい。
本当なら誠司郎からもっと攻めていくべきだと思っているみたいだ。
女子からアプローチしても気づかずにゲームに夢中になっていた男子がクラスに何人かいたそうだ。
愛莉も奥手なじいじにあの手この手を仕掛けたらしい。
愛莉の血筋の女性は皆積極的になる。
そうでもしないと相手に気づいてもらえないから。
そして今日はクリスマスイブ。
絶対に私は暴走する。
愛莉の孫で、ママの娘だから。
実際そのつもりでいた。
だから今夜は一泊せずに帰るらしい。
ちょっとがっかりしていた。
まだ大人のようなクリスマスの過ごし方は無理だと分かっている。
ただ抱き合うだけでいいのに……
キスくらいしたかった。
しょぼんとしているとママが話しかけてきた。
「雪。誠司郎と部屋に行ってなさい」
え?
「いいの?」
「母さん達はちょっと大人の話がしたいから」
私達には聞かせられない。
だから部屋に行ってなさい。
ただしドアは必ず開けてなさい。
いつも通りのルールだった。
「誠司郎、行こう?」
「あ、ああ……」
誠司郎を連れて部屋に行く。
いつでもいいようにちゃんと部屋は片付けてある。
そわそわしてる誠司郎に声をかけた。
「もう何度も来てるんだから少しは慣れてよ」
面白いテレビやってないかな。
そう言って誠司郎と並んでテレビを見ている。
歌番組を見ていた。
いろんなクリスマスソングが流れている。
並んでテレビを見ている。
今はそれで我慢しよう。
我慢できないのは誠司郎の方だった。
軽く手が触れた時咄嗟に誠司郎の顔を見ると、誠司郎も私を見ている。
「雪……前からちゃんと言おうと思っていたんだ」
「うん」
何を言おうとしているのかは分かる。
「俺は雪が……大好きだ」
「私も……大好き」
何か胸のつかえがとれた気がする。
自信が無くてずっと言えなかったことを言い出すきっかけを誠司郎が与えてくれた。
「誰にも渡したくないんだ」
「私もだよ」
気づいたら私達は抱き合っていた。
見られたらまずいとかそんなの関係なかった。
そのままキスをして、頭の中がとろけそうになる。
誠司郎の中で何かが外れたのか私を床に押し倒す。
「痛い!」
思わず声を上げてしまった。
「ご、ごめん。思わず……」
我に返った誠司郎が謝っている。
だけど私は我に返りたくなかった。
「多分私にも分からないけど、誠司郎の好きにしていいよ」
男の子の中でも色々情報があるんでしょ?
私を使って自由に試してみてよ。
「灯り……消した方がいいんだっけ?」
「あ、そうだね」
「その必要はありません」
ママの声がして振り向くとドアのところにママが立っていた。
「今日はそこまで、パオラたちがそろそろ帰るって」
誠司が呼ぼうとするのを止めてよかったと笑っている。
「す、すいません」
「誠司郎が悪いんじゃない。誘ったのは私だし」
「そういう問題じゃないの。何かがあったらあなた達だけで責任はまだとれないのだから」
私の身体はまだ未発達。
だから無理にすれば一生子供の産めない体になるかもしれない。
キスや抱き合ったりするだけなら認める。
でもその先はまだ早い。
ママが頃合いを見て説明するからそれからにしなさい。
それでもまだ早い。
行為をするのは責めて中学生になるまで待ちなさい。
行為ってなんだろう?
誠司郎を見送る。
「また夜メッセージ送るよ」
「うん。あ、待って」
そう言ってパパ達が見てる前でキスをした。
これだけ堂々とすれば誠司郎も躊躇わないだろう。
パパ達はそれを見てじいじと飲みにいって愛莉たちに怒られたらしい。
(2)
「おい!冬吾!雪は誠司郎に何か妙な真似しなかっただろうな?」
「それを言うなら僕の方だよ。雪はあれからやけにうれしそうなんだ」
「何があったんだ?」
「瞳子に聞いても教えてくれないんだ」
教えたらまた冬吾さん達は勝手に飲みに行くからダメ。
ただ雪もそこまで詳しいことはないみたい。
「って事は雪は知らないのか?」
「娘がそういうのを見るなんて聞いたことないよ」
「お前、それくらい父親が教えてやるべきだろ。瞳子だって若いんだし……いてぇ!」
「まだ1年生の雪にどんな悪癖つけさせるつもりだこの馬鹿!」
いつもの通り誠がカンナにどつかれていた。
しかし愛莉や瞳子は知っているみたいだ。
パオラやカンナにも誠司たちは聞いてみたけど「秘密です」と言われたらしい。
「誠司郎、もっと食べないと大きくならないよ!」
「雪の基準で食べてたら体型維持できないよ」
「まだ小学生なんだから気にしなくていい!」
そう言って黙々と食べる雪を誠司郎は呆れてはいたものの優しい目で雪を見ていた。
「で、冬夜先生は全て分かっているという事か?」
佐が聞いてきた。
「先に言っておく。多分言葉じゃないと思う」
大好きとか愛してるとか言葉の意味がよく分かってないのに口に出す子じゃない事は知っている。
だから違う何かで雪を喜ばせたのだろう。
それが正解だったのかは多分雪にすら分かっていない。
そう皆に説明した。
「……って事はやっぱりトーヤの思い通りに事は運んでるって事か?」
「違うね」
「え?」
僕がカンナの質問を否定すると皆が驚いてた。
「僕が思っている以上に雪も誠司郎も積極的だよ」
誤算だったのは小学生になって2人の時間が増えた事。
一度警戒を解いて心を開けば素直に雪が誠司郎を受け入れていた事。
もう一切の戸惑いがない。
自分自身に感じていた劣等感すら消えている。
だからどうすればいいか、分からない。
出来るだけのことを誠司郎にしてあげたい。
そんな風に考えたんだろう。
「それじゃ、二人とも……」
「そういう事になるかもね」
やっぱりあの子は愛莉に似たんだ。
そして誠司郎も誠司のいい部分だけを持ってる。
雪の気持ちなんて気づいてる上で自分の気持ちを打ち明けてる。
結果が歯止めの利かない今の状態なんだろう。
「雪は誠司郎の事になるととてもうれしそうに話すんです」
愛莉も瞳子もそれを楽しそうに聞いてるらしい。
キスの味はどうだった?
抱き合ってるだけで不思議な気分になる。
そんな話をしているそうだ。
そこから先はもう少し大きくなったら冬吾と瞳子が2人で説明するだろう。
「それなんだけどさ。父さん達もそうだったんだろうけどどういえばいいか分からなくてさ……」
冬吾でも悩むらしい。
やっぱり瞳子に任せておいた方が良いのかと聞いてきた。
「冬吾さん。雪は女の子だから私に任せてもらえませんか?」
「瞳子の言う通りかもしれませんね。その頃には冬吾に対して恥じらいもあるでしょうし」
「じゃあ、誠司郎の方は俺がまかせてもらっていいのかな」
「私は凄く不安なんだけど」
「パオラ、誠司の奴誠司郎に何を吹き込んだ?」
「ば、馬鹿。誠司!あれは母親に見せる物じゃないだろ!」
そう誠に言われたらしい。
「誠……やっぱりお前が問題を起こすのか?」
「誠だったの?あんなのを誠司に渡さないで!」
「パオラは知ってるのか?」
カンナが聞くとパオラはため息を吐いて説明した。
友達のお母さんを押し倒す小学生。
もちろん本物の小学生じゃないのは動画を見れば明らかだった。
「どうして誠司はこういう物に興味を示すの!?」
誠司が一人で楽しむのは勝手だけど誠司郎がこういう物を見たらどうなるか想像できないの!?
そういう風にパオラは誠司を叱ったらしい。
しかし遅かった。
誠司郎は見てしまっていた。
当然誠司郎は戸惑う。
瞳子は心当たりがあったようだ。
誠司郎が家に遊びに来た時瞳子を見てもじもじしていたそうだ。
そんな誠司郎の態度を見逃すような雪じゃない。
「誠司郎。何があったの?」
「別に大したことじゃないよ」
「ってことは何かあったのね?」
大した事かどうかは私が決めるから話なさい。
そして誠司郎はあっさり話した。
すると怒ると思った雪は笑っていた。
「彼女に馬鹿正直にそんなもの見たって話す彼氏を疑うわけないでしょ」
でもそういうのを見て変な知識をつけられても困ると判断した雪は瞳子に相談した。
瞳子はパオラに連絡する。
「誠司郎がそういうのに興味を持つのは男の子なら当たり前なの。でも前にも言ったでしょ?」
そういう行為を雪にしたら雪の身体が危険だ。
もう少し待ってあげて欲しい。
「で、でも瞳子だってたまには違うシチュエーションを……」
冬吾だって妻が親友におそわれるってきっとぞくぞくするぞと馬鹿な事を言っていた。
「それは多分父さんと一緒。妻にそんな真似させられないよ」
「む、冬夜はどうなんだ?神奈を抱きたいとか思わないのか?」
「思っていても今言うわけないだろ?」
ぽかっ
「思ってはいけません」
やっぱり愛莉に怒られた。
「誠君もいい加減にして!」
「それは違うよ愛莉さん。冬夜みたいに何も知らないで困るのは雪だろ」
「お前のような悪癖持った相手が初体験の相手になる彼女の事も考えろ!」
いつの間にかカンナが誠司郎を連れて戻ってきていた。
「相変わらずの行事みたいだな」
渡辺夫妻がやってきた。
そんな毎年ビンタをくらう落語家みたいに言われても困るんだけどね。
桐谷君と遊は天達とステージの前に立って騒いでいると思ったけど違うようだ。
「パパは私よりあんなおばさんの方が良いの?」
琴音にそう言われて遊は自由になれないらしい。
「遊達にはあのくらいがちょうどいいかもね」
亜依さんがそう言っていた。
「今日は空達は着てないのかい?」
酒井君と石原君がやってきた。
恵美さん達はどうしたんだろう?
「恵美と晶は何してるの?」
「それが何か連絡があったみたいでそれの対応してるみたいです」
連絡?
こんな時間に?
普通なら連絡をした相手が悲惨な年明けになるだけなのになんだろう?
その回答はカウントダウンが始まった時に分かった。
「3、2、1……!?」
突然すべての照明が消え真っ暗になる。
パニックに陥る皆を落ち着かせようと僕達が動く。
そんな中石原君が「皆伏せろ!」と叫んだ。
理由は次の瞬間銃声が鳴り響いた。
茉莉や希美はテーブルを蹴り倒して盾にして銃を取り出す。
「結達はステージに行け!」
「茉莉、何人かわかるか!?」
「結構いるみたいだ。くそっ、折角クリスマスに補充したのに!」
「命は補充出来ないぞ」
そんなやりとりを茉莉と菫がしている間に結は海翔に優奈達を任せて結莉とステージに上がる。
「冬夜さん、これは?」
「まあ、こんな馬鹿な真似をするのは調べるまでもないだろ」
突然現れた客の銃撃が収まるまで動けない。
「片桐君、実はさっきエントランスの警備員から連絡があって……」
「それが連絡の中身?」
「ええ」
恵美さんが頷いた。
どうやら間違いないようだ。
「雪!?雪はどこに行ったの!?」
瞳子が雪がいないのに気づいたらしい。
立ち上がって我が子を探そうとする瞳子を冬吾が抑えていた。
「今立ち上がったらダメだ。的になる」
「でも雪だって同じじゃない!?」
「雪なら大丈夫だから落ち着いて」
「主は事態の収束に向けて動き始めました。ご安心ください」
うずめが瞳子に優しく声をかける。
僕達もうかうかしてられない。
石原君達とこちらの反撃の機会をうかがっていた。
そんなに乱射していたら長くは持たない。
銃撃が収まると何人かの武装した男が入ってきた。
「下手に動かない方が良いですよ。彼らは君たちの兵隊と同レベルの達人だ」
「向こうも傭兵を用意してきたってわけね」
「そうみたいだね……」
「どうする?増援を手配するならそんなに時間はかからないけど」
「その必要は無いよ晶ちゃん。奴らは自分で墓穴を掘った」
「どういう事?」
晶さんが言うと酒井君は答えた。
「僕達の兵隊と同レベルでしかないと自爆した」
「どうしてそうなるの?」
「傭兵如き自分一人でどうにかしなさいと善明達に教育したのは晶ちゃんじゃないか」
「ふざけやがって。車に積んであったロケランぶち込まないと気が済まないぞ」
「なんで天音はそういうのを車に積んであるの!?」
皆自分たちのペースに持って行こうと必死になっている。
ステージにいるアーティストは結と結莉で十分だろう。
入り口は4か所。
全て相手が抑えている。
しかしこういう時は最低3人一組くらいで動かないと反撃される可能性があることを知らないようだ。
個々で動いていたら茉莉達なら簡単に隙をついて始末するだろう。
空と翼は孫の世話を手伝うために来ていない。
状況を確認すると僕もそろそろ動くことにした。
ゆっくりと暗闇の中を立ち上がると静かに言う。
「で、君たちは何の用?パーティに招待されなかったから拗ねている連中とかじゃないよね?」
「か、片桐君危ない!」
「大丈夫。心配ないから」
石原君に言うとにこりと笑った。
「お前は何者だ?」
「標的の顔くらい教わっとけ。僕が片桐冬夜だ」
「て、事はお前が片桐結の祖父か?」
「ああ、結に用があるのか?」
スカウトに来たとか馬鹿な話なら祖父として容認できないよ。
そう言うと傭兵たちが一斉に僕に銃口を向ける。
つまり菫や茉莉達から注意が反れた。
その隙を見過ごすほど茉莉達も馬鹿じゃない。
暗闇の中での視界にも慣れてきたころだろう。
一斉に傭兵たちの銃をめがけて発砲する。
慌てる兵たちに茉莉達が反撃に出る。
「SHに手を出したら死ぬってママに教わらなかったのか?」
「今度生まれ変わる時にはちゃんと教えてもらえ。この間抜け」
もちろん出入り口を抑えていた連中が茉莉達を狙うがそれは朔や秋久がすでに動いていた。
「他人の彼女に物騒なものを向けてただで済ますわけにはいかないんでね。勘弁しておくれ」
ただで済ませたら祖母に殺されかねない秋久と朔が始末する。
それを見て茉莉や菫が激怒する。
「てめぇ、他人の物横取りするな!」
「そうだぞ。久々に面白い場面に出くわしたのに、天音が用意したロケラン朔にぶち込むぞ!」
「天音!あなたの教育の結果ですよ!」
「じょ、女子だからって殺したらいけないって法は無いぞ!愛莉」
そもそも人殺しを許可された人間の方が少ないんだけどね。
その様子を確認してどうやら制御室を制圧したらしい連中に向かって声をかけた。
「なんだ。こちらの兵隊の方が全然使えるじゃないか」
「そんな事無いね。それで全員だと思ってるの?」
「思ってないから敢えて言う。これ以上被害を出す前に大人しく帰れ。折角のパーティが台無しにされたんだ。今のうちに逃げた方が良い」
雪が瞳子の側にいない。
その理由を考えたのか?
「お前の孫はチキンなの?」
「そんな孫にしたら恵美さんに叱られるよ」
「じゃあ、雪を出せ。そうしなかったらこのホールを爆破するぞ」
「いいよ」
雪がそういってステージの上に現れた。
理屈は分かる。
既存概念の応用だろう。
自分に使ったら自分が消えてしまう。
だから応用した。
既存概念の定義を少しだけ変えた。
その結果既存概念の中では雪が見えないようになった。
既存概念の上書き。
そして元に戻して再び現れた。
「で、私に何の用?こんな物騒な告白はお断りするよ」
もう約束した人がいるの。ごめんね。
すると増援が来た。
「結達は麻里達を任せる」
雪はそう言って前に出る。
増援は一斉に結に襲い掛かる。
勝負は一瞬だった。
襲い掛かった増援の動きが止まった。
自分が何者かを忘れてしまったかのように。
「誠司郎ってガキを狙え!」
相手の指揮官は本当に頭が悪いらしい。
雪にとって誠司郎がどういう存在か知らなかったらしい。
そんな誠司郎を雪が無防備にするはずがない。
誠司郎に銃口を向けるとパオラが庇おうとするけど誠司郎がそれを振り払って一人になる。
「誠司郎!」
パオラの悲鳴と同時に無情にも銃が発砲された。
しかし誠司郎は傷一つない。
唖然とする兵隊に襲い掛かるルプス。
「勝手な真似しないで大人しく死んでくれないかな?」
青龍刀を振り回す兵隊に青龍刀を口でかじりついて尻尾で首を絞める。
絞め殺すなんて生易しい物じゃない。
そのまま首を切断していた。
「あ、言うの忘れてた」
結の動きが止まった。
何があったんだろう。
「さあ、お前の罪を数えろ……だったかな」
冬吾が言っていたのを覚えていたんだろう。
「結、そういうテレビの真似はしたらいけません」
愛莉が注意していた。
こうなると形勢が逆転してくる。
おそらく制御室を抑えていた主犯が逃げようとしたんだろう。
しかしわが孫ながらそこまで間抜けじゃない。
しっかり死の宣告者を用意していた。
「何度も同じ事言わせないで欲しいんだけど。お前らがどこにいようと関係ない。敵対勢力は片っ端から消去する」
それが彼らが最後に聞いた伝言だったらしい。
結が制御室を奪い返すとすぐに明かりがつく。
悲惨な光景が広がっていた。
ほとんどというか全員リベリオンの連中だったけど。
雪が能力を行使してふらふらしている兵隊はすぐに石原家の兵隊に拘束される。
結と海翔は何か話をしていた。
「あのセリフは2人で言おう」
結莉達も呆れていた。
「リベリオンも本格的に狙って来たわけね?」
「まあ、そうだろうね」
そう恵美さんに答える。
「どうしていきなりこんな大掛かりに?」
石原君が聞くと僕は説明した。
原因は結だろう。
ずっとSHをつけ狙う馬鹿を始末してきた。
だから結を始末しないと優勢に出られない。
この程度で結をどうこうできると考えてる時点で頭の程度が知れてるけど。
いや、考えていなかったから無力と考えた雪を狙ったんだろう。
「じいじ、この件は俺が請け負っていいんだよね?」
結が聞いてきた。
そういやSHも代替わりだったな。
「結は来年受験なんだからほどほどにね」
「結っていったい何なの?」
晶さんが聞いていたから一言で答えた。
「片桐家最強の人間……だと思ってた」
皆気づいていない。
結がこの戦闘で使った能力はあの首を振り回すゴムの様なものとエイリアスだけ。
それだけでも結の凄さがわかるけど能力なしでも身体能力ですでに大人を余裕で圧倒する。
しかし雪は直接戦闘をしていない。
たった一つの能力を行使して1小隊を鎮圧した。
多分あの能力なら石原家全軍を一人で鎮圧するだろう。
「茉菜。大丈夫だったか?」
「うん。結のお陰。ありがとう」
「ならよかった」
そんな二人を見てカンナ達が笑顔で見守っている。
一方雪と誠司郎の方も……
「誠司郎無事でよかった」
「あのおまじない、また更新しないとね」
「おまじない?」
「何をしたの?」
「な、内緒だよ!」
瞳子とパオラが聞くと雪が慌ててる。
愛莉だけはその秘密を知っていたらしくて笑って見ていた。
FGとの闘争を終結させたのが空なら、リベリオンとの闘争は結と雪なのかもしれない。
そんな事を考えながら波乱の1年の幕開けとなった。
「メリークリスマス!」
ママ達もこの聖夜を祝っていた。
俺も家でクリスマス料理を楽しんでいた。
さすがに小学生が彼女と夜を過ごすわけがないだろ。
小学生の恋人が2人で夜を過ごすことは無い。
だけど2人だけじゃないから認められた。
今夜のパーティには誠司郎達が呼ばれていた。
「こんな日くらい私と一緒にいてくれてもいいでしょ!」
私はそう主張していた。
「まあ、誠司郎なら害はないだろ」
神奈がそう言ってパオラ達を説得していた。
「愛莉の奴も中学の時にはしてただろ?」
「小学生の時は私でもしてないよ?」
「それは相手がトーヤだからだろ?」
じいじだから愛莉の気持ちや要望が分かってない。
「いくらなんでも早いだろ?」
パパがそう言うけど茉菜の父親の誠司がそうではなかった。
「雪は冬吾の子供で、瞳子の子供だ。ある意味誠司郎より危険だ」
「どういうこと?」
パパが聞くと誠司が説明したそうだ。
パパでもさすがに女性と男性の違いに興味を持ったらしい。
そしてそれをじいじや愛莉に聞いていた。
愛莉もさすがに説明に困ったらしい。
「そう言う話を女性にするのはダメってのは分かってるんだろ?母さんは女性じゃないのかい?」
じいじがそう言って説得してからは一人で悩んでいた。
当然愛莉に聞くのも躊躇っていた。
それを知っていたからママは体が変化を始めた頃にパパに見せたらしい。
だけど私は違う。
私が子供なのは分かり切ってる。
でもそのうちママや愛莉みたいに女性らしくなっていくんだろう。
だから今は我慢。
それが神奈達が気に入らない理由だったらしい。
本当なら誠司郎からもっと攻めていくべきだと思っているみたいだ。
女子からアプローチしても気づかずにゲームに夢中になっていた男子がクラスに何人かいたそうだ。
愛莉も奥手なじいじにあの手この手を仕掛けたらしい。
愛莉の血筋の女性は皆積極的になる。
そうでもしないと相手に気づいてもらえないから。
そして今日はクリスマスイブ。
絶対に私は暴走する。
愛莉の孫で、ママの娘だから。
実際そのつもりでいた。
だから今夜は一泊せずに帰るらしい。
ちょっとがっかりしていた。
まだ大人のようなクリスマスの過ごし方は無理だと分かっている。
ただ抱き合うだけでいいのに……
キスくらいしたかった。
しょぼんとしているとママが話しかけてきた。
「雪。誠司郎と部屋に行ってなさい」
え?
「いいの?」
「母さん達はちょっと大人の話がしたいから」
私達には聞かせられない。
だから部屋に行ってなさい。
ただしドアは必ず開けてなさい。
いつも通りのルールだった。
「誠司郎、行こう?」
「あ、ああ……」
誠司郎を連れて部屋に行く。
いつでもいいようにちゃんと部屋は片付けてある。
そわそわしてる誠司郎に声をかけた。
「もう何度も来てるんだから少しは慣れてよ」
面白いテレビやってないかな。
そう言って誠司郎と並んでテレビを見ている。
歌番組を見ていた。
いろんなクリスマスソングが流れている。
並んでテレビを見ている。
今はそれで我慢しよう。
我慢できないのは誠司郎の方だった。
軽く手が触れた時咄嗟に誠司郎の顔を見ると、誠司郎も私を見ている。
「雪……前からちゃんと言おうと思っていたんだ」
「うん」
何を言おうとしているのかは分かる。
「俺は雪が……大好きだ」
「私も……大好き」
何か胸のつかえがとれた気がする。
自信が無くてずっと言えなかったことを言い出すきっかけを誠司郎が与えてくれた。
「誰にも渡したくないんだ」
「私もだよ」
気づいたら私達は抱き合っていた。
見られたらまずいとかそんなの関係なかった。
そのままキスをして、頭の中がとろけそうになる。
誠司郎の中で何かが外れたのか私を床に押し倒す。
「痛い!」
思わず声を上げてしまった。
「ご、ごめん。思わず……」
我に返った誠司郎が謝っている。
だけど私は我に返りたくなかった。
「多分私にも分からないけど、誠司郎の好きにしていいよ」
男の子の中でも色々情報があるんでしょ?
私を使って自由に試してみてよ。
「灯り……消した方がいいんだっけ?」
「あ、そうだね」
「その必要はありません」
ママの声がして振り向くとドアのところにママが立っていた。
「今日はそこまで、パオラたちがそろそろ帰るって」
誠司が呼ぼうとするのを止めてよかったと笑っている。
「す、すいません」
「誠司郎が悪いんじゃない。誘ったのは私だし」
「そういう問題じゃないの。何かがあったらあなた達だけで責任はまだとれないのだから」
私の身体はまだ未発達。
だから無理にすれば一生子供の産めない体になるかもしれない。
キスや抱き合ったりするだけなら認める。
でもその先はまだ早い。
ママが頃合いを見て説明するからそれからにしなさい。
それでもまだ早い。
行為をするのは責めて中学生になるまで待ちなさい。
行為ってなんだろう?
誠司郎を見送る。
「また夜メッセージ送るよ」
「うん。あ、待って」
そう言ってパパ達が見てる前でキスをした。
これだけ堂々とすれば誠司郎も躊躇わないだろう。
パパ達はそれを見てじいじと飲みにいって愛莉たちに怒られたらしい。
(2)
「おい!冬吾!雪は誠司郎に何か妙な真似しなかっただろうな?」
「それを言うなら僕の方だよ。雪はあれからやけにうれしそうなんだ」
「何があったんだ?」
「瞳子に聞いても教えてくれないんだ」
教えたらまた冬吾さん達は勝手に飲みに行くからダメ。
ただ雪もそこまで詳しいことはないみたい。
「って事は雪は知らないのか?」
「娘がそういうのを見るなんて聞いたことないよ」
「お前、それくらい父親が教えてやるべきだろ。瞳子だって若いんだし……いてぇ!」
「まだ1年生の雪にどんな悪癖つけさせるつもりだこの馬鹿!」
いつもの通り誠がカンナにどつかれていた。
しかし愛莉や瞳子は知っているみたいだ。
パオラやカンナにも誠司たちは聞いてみたけど「秘密です」と言われたらしい。
「誠司郎、もっと食べないと大きくならないよ!」
「雪の基準で食べてたら体型維持できないよ」
「まだ小学生なんだから気にしなくていい!」
そう言って黙々と食べる雪を誠司郎は呆れてはいたものの優しい目で雪を見ていた。
「で、冬夜先生は全て分かっているという事か?」
佐が聞いてきた。
「先に言っておく。多分言葉じゃないと思う」
大好きとか愛してるとか言葉の意味がよく分かってないのに口に出す子じゃない事は知っている。
だから違う何かで雪を喜ばせたのだろう。
それが正解だったのかは多分雪にすら分かっていない。
そう皆に説明した。
「……って事はやっぱりトーヤの思い通りに事は運んでるって事か?」
「違うね」
「え?」
僕がカンナの質問を否定すると皆が驚いてた。
「僕が思っている以上に雪も誠司郎も積極的だよ」
誤算だったのは小学生になって2人の時間が増えた事。
一度警戒を解いて心を開けば素直に雪が誠司郎を受け入れていた事。
もう一切の戸惑いがない。
自分自身に感じていた劣等感すら消えている。
だからどうすればいいか、分からない。
出来るだけのことを誠司郎にしてあげたい。
そんな風に考えたんだろう。
「それじゃ、二人とも……」
「そういう事になるかもね」
やっぱりあの子は愛莉に似たんだ。
そして誠司郎も誠司のいい部分だけを持ってる。
雪の気持ちなんて気づいてる上で自分の気持ちを打ち明けてる。
結果が歯止めの利かない今の状態なんだろう。
「雪は誠司郎の事になるととてもうれしそうに話すんです」
愛莉も瞳子もそれを楽しそうに聞いてるらしい。
キスの味はどうだった?
抱き合ってるだけで不思議な気分になる。
そんな話をしているそうだ。
そこから先はもう少し大きくなったら冬吾と瞳子が2人で説明するだろう。
「それなんだけどさ。父さん達もそうだったんだろうけどどういえばいいか分からなくてさ……」
冬吾でも悩むらしい。
やっぱり瞳子に任せておいた方が良いのかと聞いてきた。
「冬吾さん。雪は女の子だから私に任せてもらえませんか?」
「瞳子の言う通りかもしれませんね。その頃には冬吾に対して恥じらいもあるでしょうし」
「じゃあ、誠司郎の方は俺がまかせてもらっていいのかな」
「私は凄く不安なんだけど」
「パオラ、誠司の奴誠司郎に何を吹き込んだ?」
「ば、馬鹿。誠司!あれは母親に見せる物じゃないだろ!」
そう誠に言われたらしい。
「誠……やっぱりお前が問題を起こすのか?」
「誠だったの?あんなのを誠司に渡さないで!」
「パオラは知ってるのか?」
カンナが聞くとパオラはため息を吐いて説明した。
友達のお母さんを押し倒す小学生。
もちろん本物の小学生じゃないのは動画を見れば明らかだった。
「どうして誠司はこういう物に興味を示すの!?」
誠司が一人で楽しむのは勝手だけど誠司郎がこういう物を見たらどうなるか想像できないの!?
そういう風にパオラは誠司を叱ったらしい。
しかし遅かった。
誠司郎は見てしまっていた。
当然誠司郎は戸惑う。
瞳子は心当たりがあったようだ。
誠司郎が家に遊びに来た時瞳子を見てもじもじしていたそうだ。
そんな誠司郎の態度を見逃すような雪じゃない。
「誠司郎。何があったの?」
「別に大したことじゃないよ」
「ってことは何かあったのね?」
大した事かどうかは私が決めるから話なさい。
そして誠司郎はあっさり話した。
すると怒ると思った雪は笑っていた。
「彼女に馬鹿正直にそんなもの見たって話す彼氏を疑うわけないでしょ」
でもそういうのを見て変な知識をつけられても困ると判断した雪は瞳子に相談した。
瞳子はパオラに連絡する。
「誠司郎がそういうのに興味を持つのは男の子なら当たり前なの。でも前にも言ったでしょ?」
そういう行為を雪にしたら雪の身体が危険だ。
もう少し待ってあげて欲しい。
「で、でも瞳子だってたまには違うシチュエーションを……」
冬吾だって妻が親友におそわれるってきっとぞくぞくするぞと馬鹿な事を言っていた。
「それは多分父さんと一緒。妻にそんな真似させられないよ」
「む、冬夜はどうなんだ?神奈を抱きたいとか思わないのか?」
「思っていても今言うわけないだろ?」
ぽかっ
「思ってはいけません」
やっぱり愛莉に怒られた。
「誠君もいい加減にして!」
「それは違うよ愛莉さん。冬夜みたいに何も知らないで困るのは雪だろ」
「お前のような悪癖持った相手が初体験の相手になる彼女の事も考えろ!」
いつの間にかカンナが誠司郎を連れて戻ってきていた。
「相変わらずの行事みたいだな」
渡辺夫妻がやってきた。
そんな毎年ビンタをくらう落語家みたいに言われても困るんだけどね。
桐谷君と遊は天達とステージの前に立って騒いでいると思ったけど違うようだ。
「パパは私よりあんなおばさんの方が良いの?」
琴音にそう言われて遊は自由になれないらしい。
「遊達にはあのくらいがちょうどいいかもね」
亜依さんがそう言っていた。
「今日は空達は着てないのかい?」
酒井君と石原君がやってきた。
恵美さん達はどうしたんだろう?
「恵美と晶は何してるの?」
「それが何か連絡があったみたいでそれの対応してるみたいです」
連絡?
こんな時間に?
普通なら連絡をした相手が悲惨な年明けになるだけなのになんだろう?
その回答はカウントダウンが始まった時に分かった。
「3、2、1……!?」
突然すべての照明が消え真っ暗になる。
パニックに陥る皆を落ち着かせようと僕達が動く。
そんな中石原君が「皆伏せろ!」と叫んだ。
理由は次の瞬間銃声が鳴り響いた。
茉莉や希美はテーブルを蹴り倒して盾にして銃を取り出す。
「結達はステージに行け!」
「茉莉、何人かわかるか!?」
「結構いるみたいだ。くそっ、折角クリスマスに補充したのに!」
「命は補充出来ないぞ」
そんなやりとりを茉莉と菫がしている間に結は海翔に優奈達を任せて結莉とステージに上がる。
「冬夜さん、これは?」
「まあ、こんな馬鹿な真似をするのは調べるまでもないだろ」
突然現れた客の銃撃が収まるまで動けない。
「片桐君、実はさっきエントランスの警備員から連絡があって……」
「それが連絡の中身?」
「ええ」
恵美さんが頷いた。
どうやら間違いないようだ。
「雪!?雪はどこに行ったの!?」
瞳子が雪がいないのに気づいたらしい。
立ち上がって我が子を探そうとする瞳子を冬吾が抑えていた。
「今立ち上がったらダメだ。的になる」
「でも雪だって同じじゃない!?」
「雪なら大丈夫だから落ち着いて」
「主は事態の収束に向けて動き始めました。ご安心ください」
うずめが瞳子に優しく声をかける。
僕達もうかうかしてられない。
石原君達とこちらの反撃の機会をうかがっていた。
そんなに乱射していたら長くは持たない。
銃撃が収まると何人かの武装した男が入ってきた。
「下手に動かない方が良いですよ。彼らは君たちの兵隊と同レベルの達人だ」
「向こうも傭兵を用意してきたってわけね」
「そうみたいだね……」
「どうする?増援を手配するならそんなに時間はかからないけど」
「その必要は無いよ晶ちゃん。奴らは自分で墓穴を掘った」
「どういう事?」
晶さんが言うと酒井君は答えた。
「僕達の兵隊と同レベルでしかないと自爆した」
「どうしてそうなるの?」
「傭兵如き自分一人でどうにかしなさいと善明達に教育したのは晶ちゃんじゃないか」
「ふざけやがって。車に積んであったロケランぶち込まないと気が済まないぞ」
「なんで天音はそういうのを車に積んであるの!?」
皆自分たちのペースに持って行こうと必死になっている。
ステージにいるアーティストは結と結莉で十分だろう。
入り口は4か所。
全て相手が抑えている。
しかしこういう時は最低3人一組くらいで動かないと反撃される可能性があることを知らないようだ。
個々で動いていたら茉莉達なら簡単に隙をついて始末するだろう。
空と翼は孫の世話を手伝うために来ていない。
状況を確認すると僕もそろそろ動くことにした。
ゆっくりと暗闇の中を立ち上がると静かに言う。
「で、君たちは何の用?パーティに招待されなかったから拗ねている連中とかじゃないよね?」
「か、片桐君危ない!」
「大丈夫。心配ないから」
石原君に言うとにこりと笑った。
「お前は何者だ?」
「標的の顔くらい教わっとけ。僕が片桐冬夜だ」
「て、事はお前が片桐結の祖父か?」
「ああ、結に用があるのか?」
スカウトに来たとか馬鹿な話なら祖父として容認できないよ。
そう言うと傭兵たちが一斉に僕に銃口を向ける。
つまり菫や茉莉達から注意が反れた。
その隙を見過ごすほど茉莉達も馬鹿じゃない。
暗闇の中での視界にも慣れてきたころだろう。
一斉に傭兵たちの銃をめがけて発砲する。
慌てる兵たちに茉莉達が反撃に出る。
「SHに手を出したら死ぬってママに教わらなかったのか?」
「今度生まれ変わる時にはちゃんと教えてもらえ。この間抜け」
もちろん出入り口を抑えていた連中が茉莉達を狙うがそれは朔や秋久がすでに動いていた。
「他人の彼女に物騒なものを向けてただで済ますわけにはいかないんでね。勘弁しておくれ」
ただで済ませたら祖母に殺されかねない秋久と朔が始末する。
それを見て茉莉や菫が激怒する。
「てめぇ、他人の物横取りするな!」
「そうだぞ。久々に面白い場面に出くわしたのに、天音が用意したロケラン朔にぶち込むぞ!」
「天音!あなたの教育の結果ですよ!」
「じょ、女子だからって殺したらいけないって法は無いぞ!愛莉」
そもそも人殺しを許可された人間の方が少ないんだけどね。
その様子を確認してどうやら制御室を制圧したらしい連中に向かって声をかけた。
「なんだ。こちらの兵隊の方が全然使えるじゃないか」
「そんな事無いね。それで全員だと思ってるの?」
「思ってないから敢えて言う。これ以上被害を出す前に大人しく帰れ。折角のパーティが台無しにされたんだ。今のうちに逃げた方が良い」
雪が瞳子の側にいない。
その理由を考えたのか?
「お前の孫はチキンなの?」
「そんな孫にしたら恵美さんに叱られるよ」
「じゃあ、雪を出せ。そうしなかったらこのホールを爆破するぞ」
「いいよ」
雪がそういってステージの上に現れた。
理屈は分かる。
既存概念の応用だろう。
自分に使ったら自分が消えてしまう。
だから応用した。
既存概念の定義を少しだけ変えた。
その結果既存概念の中では雪が見えないようになった。
既存概念の上書き。
そして元に戻して再び現れた。
「で、私に何の用?こんな物騒な告白はお断りするよ」
もう約束した人がいるの。ごめんね。
すると増援が来た。
「結達は麻里達を任せる」
雪はそう言って前に出る。
増援は一斉に結に襲い掛かる。
勝負は一瞬だった。
襲い掛かった増援の動きが止まった。
自分が何者かを忘れてしまったかのように。
「誠司郎ってガキを狙え!」
相手の指揮官は本当に頭が悪いらしい。
雪にとって誠司郎がどういう存在か知らなかったらしい。
そんな誠司郎を雪が無防備にするはずがない。
誠司郎に銃口を向けるとパオラが庇おうとするけど誠司郎がそれを振り払って一人になる。
「誠司郎!」
パオラの悲鳴と同時に無情にも銃が発砲された。
しかし誠司郎は傷一つない。
唖然とする兵隊に襲い掛かるルプス。
「勝手な真似しないで大人しく死んでくれないかな?」
青龍刀を振り回す兵隊に青龍刀を口でかじりついて尻尾で首を絞める。
絞め殺すなんて生易しい物じゃない。
そのまま首を切断していた。
「あ、言うの忘れてた」
結の動きが止まった。
何があったんだろう。
「さあ、お前の罪を数えろ……だったかな」
冬吾が言っていたのを覚えていたんだろう。
「結、そういうテレビの真似はしたらいけません」
愛莉が注意していた。
こうなると形勢が逆転してくる。
おそらく制御室を抑えていた主犯が逃げようとしたんだろう。
しかしわが孫ながらそこまで間抜けじゃない。
しっかり死の宣告者を用意していた。
「何度も同じ事言わせないで欲しいんだけど。お前らがどこにいようと関係ない。敵対勢力は片っ端から消去する」
それが彼らが最後に聞いた伝言だったらしい。
結が制御室を奪い返すとすぐに明かりがつく。
悲惨な光景が広がっていた。
ほとんどというか全員リベリオンの連中だったけど。
雪が能力を行使してふらふらしている兵隊はすぐに石原家の兵隊に拘束される。
結と海翔は何か話をしていた。
「あのセリフは2人で言おう」
結莉達も呆れていた。
「リベリオンも本格的に狙って来たわけね?」
「まあ、そうだろうね」
そう恵美さんに答える。
「どうしていきなりこんな大掛かりに?」
石原君が聞くと僕は説明した。
原因は結だろう。
ずっとSHをつけ狙う馬鹿を始末してきた。
だから結を始末しないと優勢に出られない。
この程度で結をどうこうできると考えてる時点で頭の程度が知れてるけど。
いや、考えていなかったから無力と考えた雪を狙ったんだろう。
「じいじ、この件は俺が請け負っていいんだよね?」
結が聞いてきた。
そういやSHも代替わりだったな。
「結は来年受験なんだからほどほどにね」
「結っていったい何なの?」
晶さんが聞いていたから一言で答えた。
「片桐家最強の人間……だと思ってた」
皆気づいていない。
結がこの戦闘で使った能力はあの首を振り回すゴムの様なものとエイリアスだけ。
それだけでも結の凄さがわかるけど能力なしでも身体能力ですでに大人を余裕で圧倒する。
しかし雪は直接戦闘をしていない。
たった一つの能力を行使して1小隊を鎮圧した。
多分あの能力なら石原家全軍を一人で鎮圧するだろう。
「茉菜。大丈夫だったか?」
「うん。結のお陰。ありがとう」
「ならよかった」
そんな二人を見てカンナ達が笑顔で見守っている。
一方雪と誠司郎の方も……
「誠司郎無事でよかった」
「あのおまじない、また更新しないとね」
「おまじない?」
「何をしたの?」
「な、内緒だよ!」
瞳子とパオラが聞くと雪が慌ててる。
愛莉だけはその秘密を知っていたらしくて笑って見ていた。
FGとの闘争を終結させたのが空なら、リベリオンとの闘争は結と雪なのかもしれない。
そんな事を考えながら波乱の1年の幕開けとなった。
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