姉妹チート

和希

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Arise

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(1)

「しかし身内だけでも随分な数になったね」
「本当ですね。こんなに賑やかになりました」

 じいじと愛莉がそう言ってはしゃいでる皆を見ていた。
 渡辺班の花見はあった。
 だけど今年は片桐家だけでやってみないか?
 父さんがそう言って今日片桐家だけでやることにした。
 とはいえ、恵美達もいる。
 誠達もいた。
 雪も誠司郎を誘ったらしい。
 雪は誠司郎のそばにいる。
 雪は片桐家の娘だから食事中のマナーを守っている。
 食事中は一切喋らない。
 そんな雪の隣でも楽しそうにしている誠司郎。
 どうしてだろう?

「結は気にしなくていいの」

 茉奈がそう言うから気にしない事にした。
 もう一つ気になる事があったから。

「まだ何か悩みがあるの?」

 茉奈が聞いてきた。
 別に茉奈になら話してもいいだろう。

「あのさ、ちらし寿司ってあるよね?」
「あるね。結は好きなの?」
「いや、嫌いなんだ」
「どうして?」

 茉奈が理由を知りたがっていたから教える事にした。
 茉奈は理由をわかったら次からそれを外してくれるから。
 理由は簡単だった。
 まず桜でんぶが入っているから。
 あの甘さと色が意味が分からない。
 人間の食べるものじゃないように思える。
 もう一つは酢飯がきつい。
 ご飯が長く保存できる為らしいけどどうしてもつらい。
 あれを食べるくらいなら普通に寿司を食べたいと結莉に訴えた。
 するとにこりと笑っていた。

「それなら、大丈夫だよ」

 俺が桜でんぶが嫌いなら入れなきゃいい。
 彩りが悪くなるけど、食べれないなら入れなきゃいい。
 それに味付けは優翔としっかり研究したそうだ。
 だから酢飯の酢の量を間違えるなんてことはまずないから安心して欲しい。
 でもそこまでしてちらし寿司を食べないといけない理由があるのだろうか?

「あれはお祝い事の時とかに作る物だから」

 普段作ることは殆どないから心配しないでいい。

「茉奈……主人もそうなの」
「え?」

 天音も愛莉も初耳だったそうだ。
 父さんは海老がそうだったそうだ。
 でも愛莉は父さんがエビフライは食べるから気づかなった。
 海老チリも食べるから普通は分からない。
 寿司だって海老を食べるのだから。
 しかし母さんの目はごまかせなかった。
 それはまだ父さん達が小学生の頃だった。
 じいじの父さんが生きていたころ大人数になったから運動会の時にオードブルを予約しておいた。
 それを食べながら話をするじいじ達。
 その時に茹でた海老が入っていたのを父さんは避けていたのを母さんは見逃さなかった。
 母さんは父さんと同棲を始めた時に真っ先に聞いたらしい。
 父さん達にとって食事は楽しみだ。
 だから父さんの嫌いなものをテーブルに並べたくない。
 そして母さんの予想通りだった。

「なんかこう自然の物じゃない色に見えて気持ち悪くて食べれないんだ」
「……本当にしょうがない彼氏だね」

 通りでうちでは海老は海老チリや天ぷらにして出てくる。
 だから中華風の肉団子が食べれないという大地の気持ちは分かるらしい。

「……実は爺さんも伊勢海老とかが苦手でね」

 じいじがそう言っていた。
 しかし不思議に思った。
 母さんは父さんを叱らないのはなんでだろ?
 天音も同じ風に思ったらしい。

「なんで翼は注意しないんだ?」
「だって空の欠点なんてそのくらいだから」

 完璧な人間なんていない。
 その人の欠点を受け入れられるかどうか。
 それが人を愛するという事。
 母さんはそう言った。
 てことは愛莉も同じなのだろうか?

「冬吾だってそうなのだから、当たり前でしょ」

 辛い味付けの国の料理はダメだと冬吾は言っていた。
 それでも子供に好き嫌いをさせたくないならその料理を把握して出さないようにするしかない。
 父さんの事をずっと見ていた母さんだから分かる。
 父さんが苦手な物を目にしたときの反応をすぐに察する。
 それでも父さんは食べないなんて真似はせずに普通に食べる。
 だけど母さんはしっかり覚えていて次からは同じミスをしない。

「どうして美希は空を叱らないんだ?」

 天音が母さんに聞いたら母さんは即答した。

「喧嘩したくないから」

 父さんが仕事から帰って来たのだからお疲れ様。
 疲れた父さんが楽しみにしているのが母さんの夕飯。
 その夕飯で父さんを困らせてもしょうがない。 
 少しは休ませてあげたいから。
 そこまで考えて母さんは献立を毎日考えているのだという。
 食事は楽しむ物だ。
 その食事が原因で喧嘩してもしょうがない。
 母さんはそう言った。

「愛莉も同じなのか?」
「ええ、毎日楽しみですよ。瞳子と買い物しながら今日は何がいいかな~?って考えるの」
「それが愛莉ちゃんたちの夫婦円満の秘訣なのかもね」

 恵美がそう言っていた。

「これは片桐家では当たり前のルールになっていたんだけどね」
 
 じいじがそう言った。
 確かに父さんと母さんもそうしていた。
 それが当たり前だと思っていた。
 結莉も同じようだ。

「食事中はテレビ・新聞・スマホは一切禁止」

 天音や茜ですら守って来たそうだ。
 いつもそんな物を見ているんだから食事の時くらい話題を準備して皆で話しながら楽しく食事しよう。
 そういう癖をつけておかないと大変な事になる。
 中学生くらいになったらデートで食事することもある。
 その時相手がスマホに夢中になっていたらいい気しないだろ?
 だからその練習を今のうちにしておきなさい。
 母さんがそう言っていた。

「片桐家は食事に関しては結構厳しいんだな」

 水奈がそう言っていた。
 すると天音が答えた。

「そりゃ当たり前だろ。知らない人と話をするってなったら大体食事だ」

 その時の相手の態度を見て色々判断する。
 愛莉が言っていたそうだ。
 例えば茉莉が話がつまらないと言ってスマホを弄りだしたら茉莉はもちろん天音達も恥をかく。
 だから茉莉も例外なく食事中は何があっても休戦だと決めているらしい。

「つまり私も多少の好き嫌いは大目に見てやれって事か?」
 
 しかし大地の好き嫌いは空とかパパみたいな生温い物じゃないぞと天音が悩んでいる。

「……大地は魚がだめなんだろ?刺身とか」

 誠が大地に聞いていた。

「ええ、そうですけど」
「だったらいい方法があるぜ」
「え?」

 皆は誠を見ていた。
 しかし神奈と水奈はなぜか誠を睨みつけている。
 そしてその理由がすぐにわかった。
 裸の女性の上に刺身を乗せる。
 なぜだろう?

 ぽかっ

「結は気にしなくていい!」

 茉奈に怒られた。

「誠さん。それ折角新鮮な魚がもったいないよ」

 ぽかっ

「空も考えなくていい!」

 父さんも母さんに怒られていた。

「お前はいつになったらその馬鹿な頭が直るんだ!?」
「ま、待て。落ち着け神奈。これには理由があるんだ!」
「どんな理由だ!?」
「パオラが言っていたんだ」
「パオラが?」

 皆がパオラを見る。
 パオラは不思議そうに言っていた。

「日本に来る前に色々調べたんだけど……」

 その中に女体盛りという文化があることを知ったらしい。
 しかし誠司に聞いたら全然違う回答が返って来た。

「それ冬吾達の前では絶対に言うなよ」
「どうして?」
「冬吾達は食事に対しては厳しいんだ」

 天音にいたってはカレーにゴキブリ混入させた馬鹿を半殺しにしたらしい。
 食べ物に対する冒涜は誰であろうと許されない。
 しかしパオラはそれが日本の文化だと信じていたから不思議に思い誠に聞いたらしい。
 それはさすがに誠も驚いたそうだ。 
 だって海外では女体盛りは日本の文化だと思い込んでる人が大半だそうだ。
 なかには実際に寿司を裸の女性の上にのせて食べる人もいた。
 日本は世界の中でトップレベルで風俗のお店が多いらしい。
 中にはそれが性犯罪の抑止につながっているという意見もあるけどもちろん人権団体が認めるはずがない。

「遊郭なんて言葉は女性蔑視だ」

 日本人はどんなに頭のおかしい発言でもそれがお金になるから言うらしい。
 不思議な国だな。
 
「片桐家の前で言うなって言ってるのにどうして大地に教えるんだこの馬鹿!」
「よ、よく考えろ神奈。海翔は優奈と付き合ってるんだよな?」
「それがどうしたんだ?」
「ってことは海翔は石原家、優奈は桐谷家だ。でも多田家の血も入ってある」

 だから多田家のしきたりも教える必要があるんじゃないのか?

「ふざけるな!んな馬鹿なしきたりいつ決めたんだ!?千歳からは聞いてないぞ!」
「だからさっき言っただろ!瑛大の孫でもあるんだぞ!」
「だからって娘の彼氏に妙な事吹き込むなこの変態!」

 水奈は怒っていたけど優奈と愛菜はにやりと笑っていた。
 悠翔も気づいて止めようとしたけど優奈が言ってしまった。

「じいじは私の女体盛り見たいの?」
「……してくれるのか?」
「孫娘に何馬鹿な真似をさせる気だ!?」

 神奈と誠が喧嘩してる間に天音と水奈が必死に優奈達を説得している。

「ゆ、優奈。そんな事をしてるって海翔が知ったらいい気しないぞ?」
「なんで?」
「彼氏以外に見せていい物じゃないだろ。優奈だって将来きっと後悔するぞ」
「うーん。確かに海翔には見せたんだよね」
「え?」

 水奈も初耳だったらしい。
 しかし優奈ももう中学生。
 彼氏がいたらしたくなるのがしょうがないと母さんが言ってた。
 だから天音は知っていた。
 だって大地の家でしたらしいから。
 それも結莉と違って大声を出していたらしい。
 天音もさすがに大地を慰めるので必死だったそうだ。
 しかしこの話には続きがある。

「初めての時がバレンタインだったんだけどさ、その後全く誘ってくれないの」
「あ、優奈もそうなんだ。私もそうだった」

 私達も初めてだから上手く彼氏を満足させてあげられなかったのかな。
 そんな風に思った2人はなら誠に教えてもらおうとしたらしい。
 学を誘ったら水奈に怒られたから。
 水奈と天音は必死に二人を説得する。
 その間神奈は誠を叱っていた。
 それを退屈そうに見ている雪。
 もう食べ物は尽きたらしい。
 誠司郎が必死に話を振っていた。
 こんな話聞かせたくないんだろう。
 雪も興味なさそうだったけど。
 いつまでも続きそうな話を終わらせたのはじいじだった。
 
「雪が退屈してるみたいだしこの辺でお開きにしようか」
「待て、この馬鹿にはみっちり言わないとダメだ!」
「分かってるよ。だから河岸を変えよう」

 じいじがそう言うと父さん達に言った。

「偶には父さん達だけで飲みたいから先に帰っててくれないか」
「分かった」

 冬吾はそう言って片づけを始めると皆片づけを始めた。
 帰りのタクシーの中で母さんが話した。

「普通はあんな風に受け取る中学生はいないんだけどね」

 やっぱり一度経験してそれっきりだと不安に感じる女子もいるという事。
 母さんと父さんの場合は父さんがそうだったらしい。
 母さんが父さんの未熟な行為を嫌がったと受け取ったらしい。
 でもまともに考えたら中学生で初めては当たり前。
 なのにどこで覚えて来たのか分からない行為をして来たら戸惑う。
 上手くできたかな?
 それは彼氏も彼女もお互いが思う事。
 だから事後の態度が大事。
 女性は終わってから寂しさがこみあげてくる。
 それをいきなり彼氏がパンツを穿きだしたら不安が増す。
 だから茉奈とそういう事になったら気を付けてあげて。
 少なくとも父さんはちゃんと母さんを大事に扱ったらしい。

「結は偶にはちゃんと茉奈の相手してるの?」
「うん」
 
 茉奈がそう言うのを求めている時の態度はなんとなく分かるから。

「空に似たんだね」

 母さんはそう言て笑っていた。

(2)

「さっきのは誠が悪いぞ」
「そうですよ。孫娘に何を言ってるの?」
「いや、優奈達の話は初めて聞いたんだ」
「だからって喜ぶ祖父がどこにいるんだ!?」
「望……あなたまさか……」
「そんな欲があったら恵美を抱くよ」
「……だったらたまには欲を出しなさい」

 石原君は僕のアドバイスをちゃんと実行したようだ。
 だけど僕のアドバイスだから愛莉にはバレた。

「恵美、今のはきっと冬夜さんが入れ知恵したんだと思う」
「……なんですって?」

 僕の事を指揮官というけどこういう状況ではどうも愛莉を裏をかくことが出来ない。
 僕と石原君は妻に怒られていた。

「お前のアイデアも通用しない事あるんだな」
「同じ事を高校時代の修学旅行でやっていたな」

 その結果愛莉を泣かせる羽目になった。

「全く変わらない困った夫なんだから」

 その割には愛莉は笑っていた。

「で、俺達を呼びだした理由は何かあったのですか?」

 石原君は気づいたらしい。

「何かあるのか?」

 神奈も聞いてきた。

「まあね、本当は渡辺君達もいた方が良かったんだけど」
「まさかまた何か問題か?」

 カンナがまだ僕達に敵対する組織がいるのかと聞いた。
 いない事は無い。 
 リベリオン。
 ご丁寧に結達を狙うらしい。
 雪達が小学生になる頃を襲うそうだ。
 本気でそう考えてるのだとしたら死ぬしかないだろう。
 ほっとけばいい。
 それにデウスエクスマキナの動きもない。
 何か手こずっているのだろう。
 FGとの抗争に幕を下ろしたSH。
 もうSHを超える組織なんてない気がする。
 とりあえずこの1年はゆっくりできるだろう。

「じゃあ、何が問題なの?」

 恵美さんが聞いたら僕は首を振った。

「特に何も無いよ」
「また冬夜さんの意地悪な癖が始まりましたね」

 愛莉がそう言うから簡単に説明した。

「僕達もあと何年かしたら現役引退だろ?」

 子供達だって40になる。
 そろそろ子供達に全部託してもいいんじゃないか?
 そんな相談をしたかった。

「そう言う話なら酒井君達がいる時の方が良いかもしれないですね」

 石原君がそう言った。

「その話愛莉ちゃんから聞いたわよ。片桐君は全部空に丸投げして旅行でも行くつもりなんですって?」
「まあね。海外でセカンドライフも考えたんだけど……」

 天音が愛莉の骨を拾いに行くのが面倒だからやめてくれと言ってたからね。

「あの子は私が死ぬのを待ち望んでいるようです」
「それは違うよ愛莉」
「え?」

 愛莉が聞き返すとくすっと笑って答えた。

「あの子はそんな薄情な娘じゃない。何かあったときにいつでも駆けつけられる範囲にいてくれって事だよ」
「確かに肉親がそばにいる方が安心はしますね」
「天音は愛莉ちゃんの事心配してたわ」

 恵美さんが言った。
 天音は石原家の嫁。
 とはいえ、やはり肉親が心配になるのは当たり前だ。
 もし愛莉が愛莉ママのようになったら瞳子だけに任せていいのか?
 もちろん翼も見に来るだろうけど不安になっていたようだ。
 確かに片桐家と多田家だけ不幸事が多かった。
 愛莉に至っては銃撃されている。

「もうそんな歳なんだな……」

 誠が酒を飲みながら言った。
 
「つまり代替わりをしたいってだけ?」
「石原君達もそろそろ大地に全権を委ねる気なんだろ?」
「そうですね。それが何か関係するんですか?」
「僕達が現役でいる時間はもうそんなにない。だからその間の猶予を使って子供達を試してみたい」

 もう僕達のアドバイスが無くてもやっていけるか?
 怖いけど恵美さんや晶さんの役割を天音や美希に託していいか?
 
「つまり渡辺班の権限を空に委ねるって事ですか?」
「まあね」

 後釜をそろそろ考えないといけない時期になった。
 ちゃんと対応できるか試しておきたい。
 だからリベリオンとの抗争には手を貸さない。
 あの子達が自分の判断で持てる力を行使すればいい。
 最後のテストだ。

「でも空はSHの王だ。荷が重いのでは?」
「空も考えてるみたいだ。仕事の量が増えてSHの子供達の面倒まで見切れない」

 だからきっと結に譲るつもりだろう。

「確かにいつまでも親に頼るような情けない息子に育てた覚えはないわね」
「逆に僕達もいつまでも子離れ出来ないようじゃだめだ。そういう事ですね?」

 恵美さんと石原君が言うと頷いた。

「やっぱ、夏のキャンプで渡辺達と相談するしかないな」
「それは考えてる」
「色々あったなぁ……」

 誠がそう言うとカンナに向かって頭を下げた。

「ど、どうしたんだよ?」
「石原君や冬夜に比べたらダメな夫だったけど神奈には感謝してる。今までついてきてくれてありがとう」

 カンナがいたからこれまでやってこれた。
 カンナも照れ臭かったのだろう。

「ば、馬鹿。これで終わりじゃない。まだまだ続くんだ。あのバカ娘がちゃんと子育てできるようになったら旅行でも連れて行ってくれ」
「それもそうだな」
「望。私達もどこかでのんびりしたいわね」
「そうだね」
「それ大丈夫なのかな?」

 愛莉の疑問はなんとなくわかる。
 恵美さんの権限を天音が引き継いだとして暴走しないかどうか不安だという。
 でもそれが子離れ出来てない証拠だ。
 それじゃ、あの子はいつまでたっても自分で判断できない。
 その見守る期間を作ろう。

「やっと俺達もゴールが見えたんだな」
「そうだね」
 
 もう最後の物語は始まっている。
 どんな結末を迎えようと僕達は舞台から降りる時が来た。
 後は子供に任せよう。
 ここから先は孫の世代の物語なのだから。
 そして最期を飾るのはきっと雪だろう。
 それからは昔話をしながらゆっくり過ごした。
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