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Fires of Liberation
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(1)
「冬夜さんごめんなさい!愛莉さんは私を庇って……」
「大事な娘なんだから当たり前だよ。落ち着いて」
そう言って片桐君は自分自身を落ち着かせるように瞳子に優しく言っていた。
病室に入り切れない見舞い人たちが病室の外で待っている。
何があったか?
FGが1番やってはいけない事をやってみせた。
たまのショッピングと瞳子と出かけた愛莉さん。
その瞳子を狙っていたFGの若い連中が白昼堂々と銃撃した。
……ここ日本だよ?
そしてとっさの判断で愛莉さんは瞳子を庇う。
その結果愛莉さんは今意識不明の重体。
愛莉さんを死なせたなんて事になったら大惨事になる。
だから康介がオペを任されるはずだった。
だけどオペをする必要が無かった。
雪の能力”既存概念”は”銃撃なんて事が起こるわけがない”と事象否定をして愛莉さんの傷をなかったことにした。
銃撃時に雪がいなかったことがFGにとって幸運だったのだろう。
いたら確実に消去されてるね。
「瞳子のお陰だよ」
冬夜さんが説明する。
FGの奴らが立ち去った後冷静に警察と救急車に通報した。
その早さのお陰で大事には至らなかったと康介が説明する。
しかしその一言が天音の癇に障った。
「大事には至らなかっただと?」
天音が康介に食ってかかる。
「ざけんな!愛莉は銃弾食らったんだぞ!絶対ただじゃすまさねーぞ!」
「天音、落ち着いて。まずは犯人を特定しないと」
大地が宥めようとすると駄目みたいだ。
「お前も馬鹿な事言ってんじゃねーぞ!FGのチャカ使う奴なんか誠心会とかいう奴らに決まってるだろ!」
今まで放っておいたけどもう構う事はない。
本部にロケットランチャーぶち込まないと気が済まない。
「天音、落ち着いて。本当にそれで気がすむの?」
「どういうことだよ恵美さん」
「爆発に巻き込まれて死んだなんて楽な殺し方じゃ私は気が済まないわよ」
それが親の言う事なのかどうかはおいておいて恵美さんもかなり頭にきてるようだった。
「そうね、何かの本で読んだわ」
相手が死ぬまでに何発の矢を打てるか?
それを銃弾で試してやる。
相変わらず物凄い発想をする晶ちゃんだった。
「んなもん、相手を見つけないと無理じゃないか!」
「そうよ、だからまずは犯人をあぶりだすのが先決」
案外晶ちゃんは冷静だったようだ。
「それも警察よりも早く抑えないといけない。銃刀法違反如きで済ませられないでしょ」
前言撤回。
そう、SHや渡辺班を抑えるのに一番有効な方法は片桐家の弱点をつくこと。
しかしそれをミスった時、……多分ミスらなくても同じオチだけど、その反撃を考えたら絶対取ってはならない行動。
「警察の方は大丈夫です」
純也がやって来た。
警察の動きを統率するのに時間がかかったらしい。
対策本部はとりあえず純也が信頼できる同僚に任せたそうだ。
ただし「犯人は不明」で処理するようにほのめかしたらしい。
「多分海外に高飛びするかもしれないな」
そうなったら手が出せない。
つまりそう言う事だ。
警察の手なんか使う必要ない。
俺達で始末してやるという意味だろう。
「……冬夜はどう判断してるんだ?」
渡辺君が片桐君に聞いていた。
今はそっとしておいた方が良いと思うんだけど。
現に今は瞳子を宥めながら何かを考えているようだった。
「パパ!愛莉がやられたんだ。もう遠慮なんてする必要ないだろ!」
小学校だろうが大学だろうが知った事か。
片っ端から馬鹿の口にパイナップル詰め込んでやる。
天音が言うと紗理奈や水奈も言い出した。
特別室を用意してもらったから多少はスペースがあるし騒いでも大丈夫だけど天音達の怒りは収まらない。
空ですら一人で外に出ようとするのを美希に止められていた。
茜達はさっそく犯人の特定にかかっている。
FGは皆殺しにするのはまちがいないけど、まずは愛莉さんを撃った愚か者をどう処分するかが大事だ。
純也も「ちょっと結の力を借りたい」と病院に寄ったらしい。
狼狽えている父親を見たくないのが本音だったそうだ。
「トーヤ!まさかてめぇがビビったなんて言ったら私がお前をぶっ殺すぞ!」
「神奈。落ち着け」
慌てて誠君が抑えるが遅かった。
片桐君もぎりぎりの状態で冷静を保とうとしていたんだろう。
「いいから少し黙ってろ!」
普段の片桐君からは決して考えられない怒声が発せられると皆静まる。
皆ようやく気付いたみたいだ。
そしてすぐに我を取り戻した片桐君は「ごめん」という。
「いや、私もトーヤの気持ち考えてなかった……気をつけろよ。相手は愛莉を平気で狙ってくるんだ」
「実はそのケースも想定していたんだ」
「え?」
まともに考えるならSHであろうと渡辺班であろうと愛莉さんや瞳子を狙ってきて当たり前。
だけどやはりその後の事を考えたら普通はしないはず。
その後の事を考えたら少なくとも片桐君ならやらない。
仮にやったとしても一度に片桐家を全滅させる手段を使わないと仕返しが恐ろしい。
そんな手段あるはずがない。
だけど馬鹿は中途半端に手を出した。
愛莉さんの命を奪う事すらできなかった。
片桐君が考える中で一番最悪のケースだ。
「俺も少し相手を舐めてた。動揺すると思って皆に忠告しなかった俺の判断ミスだ」
片桐君の一人称が「俺」になってるときは一番最悪の状態。
もう犯人がせめて安らかに眠ってくれるのを願うしかないね。
絶対無理だろうけど。
晶ちゃんがまず許さない。
「相手は誠心会で間違いない。でもそこに出入りしてるとは限らない」
晶ちゃんが言う。
「だから戦車で建物ごとすりつぶしてやる」
周辺の住民の被害を考えていないのだろうか?
「そんな物愛莉の命と比べるまでもないでしょ?」
前回の話を忘れたのだろうか?
忘れてるだろうな。
「ごめん、ちょっと頭冷やしたいから外に出る。純也と空はついてきて」
「う、うん」
「わかった」
そう言って3人は外に出た。
それを見て晶ちゃん達に言う。
「片桐君がいたから言わなかったけど天音達も今は片桐君をそっとしておいた方が良い」
「どうして?善君」
「……多分今一番危険なのは片桐君」
善明は悟ったみたいだ。
まあ、空がキレたら何しでかすかわからないのを経験してきたからね。
「パパはどうするつもりなんだろう?」
天音が聞いたら翼が答えた。
「パパが何を考えていようと私達は空に従うだけ」
空がゴーサインを出すなら地獄に変えてやる。
「天音、多分あの馬鹿がこの中で一番キレてる」
そしてそれを抑える愛莉さんがこの状態だ。
何をするかわからない。
「だから止めろって言うのか?私は絶対やるぞ!」
「それでいい。多分冬夜も同じ事を考えているはずだ」
今の片桐君では冷静に判断できない。
純也は警察の動きをフォローする事。
空はSHの持てる力を使って全力で潰せという事だろう。
「じゃ、晶ちゃん。僕達は先に帰ろうか?」
「愛莉はまだ意識不明なのよ」
「僕達がいたからって何も変わらないよ。それよりやっておくことがある」
子供達に与える玩具とか手配しないといけないでしょ。
今までは圧力を加えるだけだっただけど協力企業を文字通り片っ端から潰してやる。
少なくとも誠心会とパイプのある武器密輸人は全員抹消しないといけない。
「酒井君の言う通りね。じゃあ、望。私達も帰るわよ」
「そうだね……」
石原君もキレてるね。
本当に面倒な事をしてくれたよ。
僕達が帰るすれ違いで片桐君達が戻ってきた。
その後空達もすぐに病院を出たらしい。
善明からお願いがあった。
SAPのボーリング場を貸し切りにしてほしいという願いだった。
……まさか、あれを使うつもりなのだろうか?
犯人の冥福をとりあえず祈ることにした。
(2)
「な、なんで結が!?」
神奈が驚いてた。
愛莉の意識が戻るとじいじと話して皆が帰ると神奈達も病室を出る。
するとお決まりの様に病院の外で待ち伏せしていたゴキブリ共。
多分愛莉を狙った後は、割と無力な多田家だろうと読んでいた。
皆が動揺しているしタイミング的にも申し分ない。
「お前らもあの婆みたいにしてやるよ」
そう言ってFGの一人が銃向けていた時に俺が姿を見せた。
「ガキ。大人しくしてたら見逃してやるぞ?」
そんな事を言って俺に銃を向ける馬鹿を無視して茉奈達に早く車に行けと言った。
「で、でも」
「こいつらはただの雑魚。全然怖くない。心配しないで真っ直ぐ家に帰れ」
「勝手な事言ってんじゃねーぞ!?」
怒った馬鹿が多分銃を撃とうと思ったんだろうけどそれは絶対に無理だった。
俺が馬鹿な連中の動きを封じていたから。
戸惑う馬鹿に一言だけ言う。
「お前らのスマホをよこせ」
「そう言われて素直に渡す馬鹿がどこにいる」
「渡した方が賢明だと思うんだけど?」
「寝ぼけた事言ってるとお前から殺すぞ」
絶対に動けない馬鹿が状況を把握してないようだ。
しかし場所が悪い。
こんなところで騒いでいたら絶対に父さん達に気づかれる。
「わかった、もういいよ」
そう言うと同時に俺は動いた。
馬鹿の一人に狙いをつけて突進する。
その動きは多分父さん達くらいしかおえないはず。
馬鹿の後ろに立って振り返る。
立っているのは首なし死体。
俺の手にあるのは馬鹿の頭。
もちろんこんな物が欲しいわけじゃない。
奴らに恐怖を与える為。
「わ、わかった。ポケットの中にあるから……」
そう言った馬鹿の縛りを制限付きで解除する。
DOLLから奪った能力を使ってそいつのスマホを受け取った。
パスワードの解除なんて楽勝だろ。
「これで命は助けてもらえるんだよな」
随分情けない態度になったな。
「ああ、殺すのは止めるよ」
もともと、全員殺すなんて面倒だし時間が無い。
だけど……。
「殺さないけど見逃すとは言ってない」
そう言って菫の能力で全員影の中に引きずり込んだ。
「あいつらどうなったんだ?」
神奈が聞くと俺は答えた。
「命は奪ってない。何もない無の空間に閉じ込めただけ」
そこで生きていけるなら自由にしろ。
すると神奈が言った。
「お前の力は皆認めてる。だけどお前にしか出来ない事が他にあるんだ」
「何それ?」
「きっと瞳子は今凄く不安だ。普通の母親なら絶対にそうなる」
自分の子供は大丈夫だろうか?
俺は特に危険な事に首を突っ込むから他の子供達よりずっと不安だ。
だから母さんの側にいて安心させてやれ。
それは俺以外に出来ない。
「結は考えなしにどこにでも突っ込む。結の力があれば可能なんだけど」
それでも子供の心配をするのが母親なんだ。
少しだけでも母さんの事を考えてやれ。
そう言って神奈達は家に帰って行った。
病室に戻ると瞳子が「どこに行っていたの?」と聞く。
「茉奈が心配だったから見送ってた」
「……あんまり心配させないでね」
そう言って母さんは俺の頭を撫でていた。
もちろんこのままただで済ますつもりはない。
空達でもてこずるDOLLをどうやって始末するか考えていた。
(3)
僕達は空の招集でSAPのボーリング場に集まっていた。
夜間外出が許されているメンバーの殆どが集まっていた。
空にはロッカーのカギを渡しておいた。
空はやる気だ。
皆が集まったのを確認すると空は静かに語った。
「今日僕の母さんがFGの馬鹿に撃たれた」
「んなの分かってる!これからどうするかが問題なんじゃないのか?」
「天音、少し黙って空の話を聞きなさい」
翼が天音を注意する。
しかし皆もやはり動揺を隠しきれない。
この辺で手を引いた方がいいんじゃないか?私達の安全は誰が保証してくれる?
当然やり返すしかないだろ。舐められっぱなしは気に入らない。
そんな二つの意見が議論する中空は黙って様子を見ていた。
「ビビった奴は抜ければいいだろ!」
「今更抜けたってあいつ等には関係ないかもしれないじゃない!」
意見は平行線のまま議論が続いた。
しかし空がまた話し始めた。
「さっき、病院で父さん達と相談した」
空の父さんは一言だけ言った。
「今回は僕達は何も言わない」
自分たちで決めろって事だろうか?
「で、空はどうする気なんだ?」
学が聞くと空は答えた。
「父さんは何も言わないと言った。やめろとも続けろとも言ってない。……俺の判断で動けと言った」
「それでお前はどうする気だ?」
「言ったろ?父さんは止めろとは言ってない。だったら俺の中で父さんの指示はまだ有効だ」
指示を遂行するまで止まるつもりはない。
空の父さんの命令は空の中ではまだ存在している。
それを完遂するまで止まるつもりはない。
だから僕達は僕達の判断で動け。
「それってつまり……」
大地が聞くと空は大地を見て言った。
「俺はたとえ一人になろうとゴキブリを完全に叩き潰すまで止まるつもりはない」
SHの仲間に手を出すなら容赦しない。
SHの邪魔をする奴は片っ端から叩き潰してやる。
それを聞いた天音達が興奮を抑えている。
それはまだ空の話が済んでいないから。
だけど空はゆっくり立ち上がるとロッカーのカギを開けて中身を出す。
FGの人間は哀れな事に全滅が確定したよ。
だってそのロッカーの中には銃火器が大量に詰まってあったから。
こんな場所のロッカーにこんな物騒な物が入っているなんて誰も思わないだろう。
その銃を手に取り空は手をあげて言う。
「ついてこれる奴だけついてこい。ここから先は単なる殺し合いだ」
邪魔する奴は皆殺してやる。
ふざけた連中はネズミ一匹見逃すつもりはない。
僕と大地は父親に連絡を入れる。
戦えない仲間を護衛する必要があるから。
相手が子供だろうが大人だろうがここから先は知らない。
黒いリストバンドをつけた馬鹿全員が標的だ。
潰せ。
二度と馬鹿なことが出来ないようにしっかり止めをさせ。
やはり空はキレていた。
そしてそれを止める役の翼ですら止める気がないようだ。
「で、具体的な指示は?」
大地が落ち着いて言った。
銃を持ち歩いて黒いリストバンドを見つけたら撃ち殺すなんて先に警察に捕まってしまう。
すると純也が説明した。
純也は警察の捜査の情報を流す。
茜達がネットで片っ端からメンバー全員の素性をばらす。
それをもとに片っ端から潰していく。
場所はどこでもいい。
どうせ大半の連中は誠心会だ。
暴力団同士の抗争だと警察は断定するだろうと南署の署長の純也が言った。
「それって純也がやばいんじゃないのか?」
「ちゃんと上の許可ももらってる。恵美さん達が後押ししてくれる」
恵美さん達渡辺班だって自分でぶっ殺したいくらいだ。
だけと空の父さんが「空に任せる」と言った以上直接は手を下さない。
僕達の世代の問題だから僕達に尻ぬぐいまでさせろ。
それが出来ない情けない男に育てた覚えはない。
「じゃあ、何をやってもいいんだな?」
菫達が聞くと頷いた。
「ただし相手も本気でやってるんだから気を付けて」
本気なんだろうから本気で相手してやる。
その結果どうなるかは知った事じゃない。
FGだって覚悟を決めてるんだろう。
知らなかったなんて絶対に言わせない。
一度だけSHの本気を見せつけてやろう。
二度と馬鹿なグループが現れないように。
「後はDOLLと呼ばれる特殊部隊ですね……残り3人だけど」
「いや、多分もう1人いると思う」
「どうしてですか?」
大地が聞くと空が答えた。
「人形を誰が作ったか?って事だよ」
「……なるほど」
「よくわかんないけど片っ端からぶっ殺していいって事だな?」
天音と水奈と紗理奈が言うと空は顔色一つ変えずに言った。
「俺達も一応仕事の合間に対応できるように父さん達が段取りしてくれている」
だけど中学生まで成長した海翔達ならもう大丈夫だろう。
高校生なんかも天音達が遊撃部隊になって片っ端から始末しろ。
大地と僕も動く予定だ。
昼間だろうが朝だろうが夜中だろうが関係ない。
相手に休む間も与えないくらいに恐怖を与えてやろう。
「そろそろ空気が乾燥してくるだろうから火災もあるかもしれない」
つまりは「家ごと焼き払ってもいい」と言事なんだろう。
「空。私達は?」
茉莉が聞いていた。
「FGの中学生の本体は東中らしい」
つまり「東中のFGを皆殺しにしろ」という事だろう。
「茉莉。どっちが始末した数が多いか勝負だ」
「いいぜ、実弾撃たれたからってビビるなよ?」
「ばーか。こんなにぞくぞくする場面なんて滅多にねーぞ」
派手に暴れてやろうと2人で話をしていた。
すると翼がスマホを見て空に言った。
「案外ちょろいんだね。準備出来たって茜から」
翼はそう言って空に電話番号を教える。
空は電話をかける。
「ああ、あんたが誠心会の会長さん?」
「誰だお前?」
「俺の事なんてどうだっていい。一つ挨拶しておこうと思ったんだ」
「挨拶?」
相手がそう言うと空は美希を見る。
美希はすぐに恵美さんに連絡する。
数秒間をおいて相手の反応があった。
「ガキ。誰を相手にしてるの分かってんだろうな?」
「お前こそ分かってるんだろうな。今更謝っても遅いぞ……じゃあな」
そう言って電話を切るとスマホを握りつぶした。
再び空は皆を見る。
「ここから先はただの喧嘩じゃない。殺し合いだ。今更抜けようが残ろうが好きにしろ。だが俺は作戦を終えるまで続ける」
銃を撃ってくるなら腕をちぎり取ってやる。
車で突進してくるなら車ごと焼却してやる。
もういまさら途中下車なんて許さない。
僕達にも覚悟を決めろと淡々と言う。
「そんな腰抜けがSHにいるわけねーだろ!空が良いって言ったんだ。一匹たりとも残すつもりはねーぞ」
遊が言っていた。
「じゃ、早速始めよう。なずな達は極力単独での外出は控えて」
「わ、分かった」
「どうしても買い物が必要なら翼や天音と動いたらいい」
翼や天音に銃や短刀での脅しは通用しない。
もう誰も空を止めようとする者はSHにいなかった。
もし自分の親が狙われたらどうする?
そんな怒りを持つ者が大半だった。
そしてこうやって話している間もすでに作戦は実行されていた。
石原家や酒井家の兵隊がすでに行動を開始している。
空が言ったように休みを与えない猛攻がついに始まった。
(4)
「と、遠坂署長。ここは捜査中ですよ」
部外者を入れたらまずいという。
「この子は良いんだ。ちょっと協力してもらいたくてね」
そう言って純也が説得している。
普通の人間には分からないだろうけど確かに硝煙の匂いが残っている。
ここが現場で間違いないようだ。
「結。やれそうか?」
純也が聞くと多分愛莉が倒れた場所を見る。
すると光の粒が愛莉と母さんの姿を映し出す。
愛莉の視線を追ってその先を見るとワゴン車が映し出す。
「ナンバー確認して」
純也が部下に指示している。
そしてゆっくりとドアが開いて中からコートを着た男が銃を構えていた。
純也に写真を撮るように指示する。
「レンタカーみたいですね」
純也の部下が言う。
レンタカーの番号は「わ」か「れ」だと決まっているそうだ。
所持者がバレないように盗難車とか使うと考えいたけどかなりの間抜けの様だ。
なぜかって?
だってレンタカーほど身元が分かりやすい物はない。
レンタカーを借りる時当たり前だけど免許証を出すように言われる。
そしてレンタル会社は当たり前の様に誰がどの時間どの車を使用していたかすぐにわかるようになっていた。
すぐにばれる。
免許証を偽造なんて面倒な真似するくらいなら盗難車を使った方が早い。
そしてその面倒な真似をしたがらない奴だから絶対に犯人のグループに行きつくだろう。
純也はそのナンバーを茜にも教えていた。
警察よりも先に絶対に犯人を捕まえてやる。
SHはそう動いているようだ。
「じゃ、約束だから何か食べて帰ろうか」
「私ケーキ食べたい」
そう言ったのはなぜか一緒についてきた茉奈だった。
「茉奈がいるのに危険な事はしたらダメ」
瞳子から制限をかけられていた。
本当はあいつ等から奪ったスマホを使ってDOLLの連中を始末しようと思っていたけど、瞳子やパオラの監視の目が厳しくなった。
「で、結はこの後どうするつもりなんだ?」
純也が俺に聞いてきた。
「DOLLとやらは俺が始末した方が早そうだから」
「大丈夫なのか?茉奈と一緒に行動しろって言われてるんだろ?」
「茉奈は絶対に守るよ。それに逆に茉奈を攫われるよりはましだ」
もちろんその危険は分かっていたから対策はしている。
茉奈の行動は当然把握している。
当たり前だけど風呂やトイレの時は見てない。
「別に結に興味があるなら見せてもいいよ」
「そんな物見てもしょうがないだろ?」
「……そんなに私に魅力ない?」
「あのさ、これは俺だけがそう思ってるだけかもしれないけど」
トイレや体の汚れを落としている入浴時に何を期待するんだ?
俺だってそんな経験をしたことがない。
だったらちゃんと準備を終えた彼女の姿を楽しみにしたほうがいいんじゃないか?
父さんとそんな話をしていた。
「そっか、そんなに楽しみにしてるんだ」
「俺だって男だぞ」
「事件が終わってからだね」
「……へえ。結もやっぱり片桐家なんだな」
「何が?」
茉菜が純也に聞いていた。
「片桐家の男子は大体女子の逆らえないんだ」
「って事は純也も?」
「ああ、大変だったよ」
「じゃあ、雪はどうなるんだ?」
女の子だぞ?
「それはおじさんにも分からないんだよな」
結も考えてみろ。
片桐家の娘がどういう風になっているか分かるだろ?
そう言って純也は笑っていた。
ケーキを食べると家に帰る。
夕食を食べて風呂に入ってると病院に寄っていたじいじが帰ってくる。
「愛莉さんどうです?」
「今週中にでも退院していいってさ」
「よかった」
母さんは心の底からほっとしていた。
そんな母さんを見て父さんの言ったことを思い出していた。
「いいか、もし自分の為に誰かが命を落としたらきっと一生後悔する」
例えば茉奈の為に俺が死んだら茉奈は一生悲しむ。
守るって意味はそうじゃない。
「じゃあ、どうすればいいの?」
父さんに聞いたら一言で返した。
「2人で生き残る手段を考えなさい」
俺なら出来るだろ?
俺だって分かってる。
そんな事を考えながら部屋に戻ってスマホの中にダイブする。
FGも思った以上にでかい組織だ。
この中からDOLLを探し出すのに時間が必要だった。
「冬夜さんごめんなさい!愛莉さんは私を庇って……」
「大事な娘なんだから当たり前だよ。落ち着いて」
そう言って片桐君は自分自身を落ち着かせるように瞳子に優しく言っていた。
病室に入り切れない見舞い人たちが病室の外で待っている。
何があったか?
FGが1番やってはいけない事をやってみせた。
たまのショッピングと瞳子と出かけた愛莉さん。
その瞳子を狙っていたFGの若い連中が白昼堂々と銃撃した。
……ここ日本だよ?
そしてとっさの判断で愛莉さんは瞳子を庇う。
その結果愛莉さんは今意識不明の重体。
愛莉さんを死なせたなんて事になったら大惨事になる。
だから康介がオペを任されるはずだった。
だけどオペをする必要が無かった。
雪の能力”既存概念”は”銃撃なんて事が起こるわけがない”と事象否定をして愛莉さんの傷をなかったことにした。
銃撃時に雪がいなかったことがFGにとって幸運だったのだろう。
いたら確実に消去されてるね。
「瞳子のお陰だよ」
冬夜さんが説明する。
FGの奴らが立ち去った後冷静に警察と救急車に通報した。
その早さのお陰で大事には至らなかったと康介が説明する。
しかしその一言が天音の癇に障った。
「大事には至らなかっただと?」
天音が康介に食ってかかる。
「ざけんな!愛莉は銃弾食らったんだぞ!絶対ただじゃすまさねーぞ!」
「天音、落ち着いて。まずは犯人を特定しないと」
大地が宥めようとすると駄目みたいだ。
「お前も馬鹿な事言ってんじゃねーぞ!FGのチャカ使う奴なんか誠心会とかいう奴らに決まってるだろ!」
今まで放っておいたけどもう構う事はない。
本部にロケットランチャーぶち込まないと気が済まない。
「天音、落ち着いて。本当にそれで気がすむの?」
「どういうことだよ恵美さん」
「爆発に巻き込まれて死んだなんて楽な殺し方じゃ私は気が済まないわよ」
それが親の言う事なのかどうかはおいておいて恵美さんもかなり頭にきてるようだった。
「そうね、何かの本で読んだわ」
相手が死ぬまでに何発の矢を打てるか?
それを銃弾で試してやる。
相変わらず物凄い発想をする晶ちゃんだった。
「んなもん、相手を見つけないと無理じゃないか!」
「そうよ、だからまずは犯人をあぶりだすのが先決」
案外晶ちゃんは冷静だったようだ。
「それも警察よりも早く抑えないといけない。銃刀法違反如きで済ませられないでしょ」
前言撤回。
そう、SHや渡辺班を抑えるのに一番有効な方法は片桐家の弱点をつくこと。
しかしそれをミスった時、……多分ミスらなくても同じオチだけど、その反撃を考えたら絶対取ってはならない行動。
「警察の方は大丈夫です」
純也がやって来た。
警察の動きを統率するのに時間がかかったらしい。
対策本部はとりあえず純也が信頼できる同僚に任せたそうだ。
ただし「犯人は不明」で処理するようにほのめかしたらしい。
「多分海外に高飛びするかもしれないな」
そうなったら手が出せない。
つまりそう言う事だ。
警察の手なんか使う必要ない。
俺達で始末してやるという意味だろう。
「……冬夜はどう判断してるんだ?」
渡辺君が片桐君に聞いていた。
今はそっとしておいた方が良いと思うんだけど。
現に今は瞳子を宥めながら何かを考えているようだった。
「パパ!愛莉がやられたんだ。もう遠慮なんてする必要ないだろ!」
小学校だろうが大学だろうが知った事か。
片っ端から馬鹿の口にパイナップル詰め込んでやる。
天音が言うと紗理奈や水奈も言い出した。
特別室を用意してもらったから多少はスペースがあるし騒いでも大丈夫だけど天音達の怒りは収まらない。
空ですら一人で外に出ようとするのを美希に止められていた。
茜達はさっそく犯人の特定にかかっている。
FGは皆殺しにするのはまちがいないけど、まずは愛莉さんを撃った愚か者をどう処分するかが大事だ。
純也も「ちょっと結の力を借りたい」と病院に寄ったらしい。
狼狽えている父親を見たくないのが本音だったそうだ。
「トーヤ!まさかてめぇがビビったなんて言ったら私がお前をぶっ殺すぞ!」
「神奈。落ち着け」
慌てて誠君が抑えるが遅かった。
片桐君もぎりぎりの状態で冷静を保とうとしていたんだろう。
「いいから少し黙ってろ!」
普段の片桐君からは決して考えられない怒声が発せられると皆静まる。
皆ようやく気付いたみたいだ。
そしてすぐに我を取り戻した片桐君は「ごめん」という。
「いや、私もトーヤの気持ち考えてなかった……気をつけろよ。相手は愛莉を平気で狙ってくるんだ」
「実はそのケースも想定していたんだ」
「え?」
まともに考えるならSHであろうと渡辺班であろうと愛莉さんや瞳子を狙ってきて当たり前。
だけどやはりその後の事を考えたら普通はしないはず。
その後の事を考えたら少なくとも片桐君ならやらない。
仮にやったとしても一度に片桐家を全滅させる手段を使わないと仕返しが恐ろしい。
そんな手段あるはずがない。
だけど馬鹿は中途半端に手を出した。
愛莉さんの命を奪う事すらできなかった。
片桐君が考える中で一番最悪のケースだ。
「俺も少し相手を舐めてた。動揺すると思って皆に忠告しなかった俺の判断ミスだ」
片桐君の一人称が「俺」になってるときは一番最悪の状態。
もう犯人がせめて安らかに眠ってくれるのを願うしかないね。
絶対無理だろうけど。
晶ちゃんがまず許さない。
「相手は誠心会で間違いない。でもそこに出入りしてるとは限らない」
晶ちゃんが言う。
「だから戦車で建物ごとすりつぶしてやる」
周辺の住民の被害を考えていないのだろうか?
「そんな物愛莉の命と比べるまでもないでしょ?」
前回の話を忘れたのだろうか?
忘れてるだろうな。
「ごめん、ちょっと頭冷やしたいから外に出る。純也と空はついてきて」
「う、うん」
「わかった」
そう言って3人は外に出た。
それを見て晶ちゃん達に言う。
「片桐君がいたから言わなかったけど天音達も今は片桐君をそっとしておいた方が良い」
「どうして?善君」
「……多分今一番危険なのは片桐君」
善明は悟ったみたいだ。
まあ、空がキレたら何しでかすかわからないのを経験してきたからね。
「パパはどうするつもりなんだろう?」
天音が聞いたら翼が答えた。
「パパが何を考えていようと私達は空に従うだけ」
空がゴーサインを出すなら地獄に変えてやる。
「天音、多分あの馬鹿がこの中で一番キレてる」
そしてそれを抑える愛莉さんがこの状態だ。
何をするかわからない。
「だから止めろって言うのか?私は絶対やるぞ!」
「それでいい。多分冬夜も同じ事を考えているはずだ」
今の片桐君では冷静に判断できない。
純也は警察の動きをフォローする事。
空はSHの持てる力を使って全力で潰せという事だろう。
「じゃ、晶ちゃん。僕達は先に帰ろうか?」
「愛莉はまだ意識不明なのよ」
「僕達がいたからって何も変わらないよ。それよりやっておくことがある」
子供達に与える玩具とか手配しないといけないでしょ。
今までは圧力を加えるだけだっただけど協力企業を文字通り片っ端から潰してやる。
少なくとも誠心会とパイプのある武器密輸人は全員抹消しないといけない。
「酒井君の言う通りね。じゃあ、望。私達も帰るわよ」
「そうだね……」
石原君もキレてるね。
本当に面倒な事をしてくれたよ。
僕達が帰るすれ違いで片桐君達が戻ってきた。
その後空達もすぐに病院を出たらしい。
善明からお願いがあった。
SAPのボーリング場を貸し切りにしてほしいという願いだった。
……まさか、あれを使うつもりなのだろうか?
犯人の冥福をとりあえず祈ることにした。
(2)
「な、なんで結が!?」
神奈が驚いてた。
愛莉の意識が戻るとじいじと話して皆が帰ると神奈達も病室を出る。
するとお決まりの様に病院の外で待ち伏せしていたゴキブリ共。
多分愛莉を狙った後は、割と無力な多田家だろうと読んでいた。
皆が動揺しているしタイミング的にも申し分ない。
「お前らもあの婆みたいにしてやるよ」
そう言ってFGの一人が銃向けていた時に俺が姿を見せた。
「ガキ。大人しくしてたら見逃してやるぞ?」
そんな事を言って俺に銃を向ける馬鹿を無視して茉奈達に早く車に行けと言った。
「で、でも」
「こいつらはただの雑魚。全然怖くない。心配しないで真っ直ぐ家に帰れ」
「勝手な事言ってんじゃねーぞ!?」
怒った馬鹿が多分銃を撃とうと思ったんだろうけどそれは絶対に無理だった。
俺が馬鹿な連中の動きを封じていたから。
戸惑う馬鹿に一言だけ言う。
「お前らのスマホをよこせ」
「そう言われて素直に渡す馬鹿がどこにいる」
「渡した方が賢明だと思うんだけど?」
「寝ぼけた事言ってるとお前から殺すぞ」
絶対に動けない馬鹿が状況を把握してないようだ。
しかし場所が悪い。
こんなところで騒いでいたら絶対に父さん達に気づかれる。
「わかった、もういいよ」
そう言うと同時に俺は動いた。
馬鹿の一人に狙いをつけて突進する。
その動きは多分父さん達くらいしかおえないはず。
馬鹿の後ろに立って振り返る。
立っているのは首なし死体。
俺の手にあるのは馬鹿の頭。
もちろんこんな物が欲しいわけじゃない。
奴らに恐怖を与える為。
「わ、わかった。ポケットの中にあるから……」
そう言った馬鹿の縛りを制限付きで解除する。
DOLLから奪った能力を使ってそいつのスマホを受け取った。
パスワードの解除なんて楽勝だろ。
「これで命は助けてもらえるんだよな」
随分情けない態度になったな。
「ああ、殺すのは止めるよ」
もともと、全員殺すなんて面倒だし時間が無い。
だけど……。
「殺さないけど見逃すとは言ってない」
そう言って菫の能力で全員影の中に引きずり込んだ。
「あいつらどうなったんだ?」
神奈が聞くと俺は答えた。
「命は奪ってない。何もない無の空間に閉じ込めただけ」
そこで生きていけるなら自由にしろ。
すると神奈が言った。
「お前の力は皆認めてる。だけどお前にしか出来ない事が他にあるんだ」
「何それ?」
「きっと瞳子は今凄く不安だ。普通の母親なら絶対にそうなる」
自分の子供は大丈夫だろうか?
俺は特に危険な事に首を突っ込むから他の子供達よりずっと不安だ。
だから母さんの側にいて安心させてやれ。
それは俺以外に出来ない。
「結は考えなしにどこにでも突っ込む。結の力があれば可能なんだけど」
それでも子供の心配をするのが母親なんだ。
少しだけでも母さんの事を考えてやれ。
そう言って神奈達は家に帰って行った。
病室に戻ると瞳子が「どこに行っていたの?」と聞く。
「茉奈が心配だったから見送ってた」
「……あんまり心配させないでね」
そう言って母さんは俺の頭を撫でていた。
もちろんこのままただで済ますつもりはない。
空達でもてこずるDOLLをどうやって始末するか考えていた。
(3)
僕達は空の招集でSAPのボーリング場に集まっていた。
夜間外出が許されているメンバーの殆どが集まっていた。
空にはロッカーのカギを渡しておいた。
空はやる気だ。
皆が集まったのを確認すると空は静かに語った。
「今日僕の母さんがFGの馬鹿に撃たれた」
「んなの分かってる!これからどうするかが問題なんじゃないのか?」
「天音、少し黙って空の話を聞きなさい」
翼が天音を注意する。
しかし皆もやはり動揺を隠しきれない。
この辺で手を引いた方がいいんじゃないか?私達の安全は誰が保証してくれる?
当然やり返すしかないだろ。舐められっぱなしは気に入らない。
そんな二つの意見が議論する中空は黙って様子を見ていた。
「ビビった奴は抜ければいいだろ!」
「今更抜けたってあいつ等には関係ないかもしれないじゃない!」
意見は平行線のまま議論が続いた。
しかし空がまた話し始めた。
「さっき、病院で父さん達と相談した」
空の父さんは一言だけ言った。
「今回は僕達は何も言わない」
自分たちで決めろって事だろうか?
「で、空はどうする気なんだ?」
学が聞くと空は答えた。
「父さんは何も言わないと言った。やめろとも続けろとも言ってない。……俺の判断で動けと言った」
「それでお前はどうする気だ?」
「言ったろ?父さんは止めろとは言ってない。だったら俺の中で父さんの指示はまだ有効だ」
指示を遂行するまで止まるつもりはない。
空の父さんの命令は空の中ではまだ存在している。
それを完遂するまで止まるつもりはない。
だから僕達は僕達の判断で動け。
「それってつまり……」
大地が聞くと空は大地を見て言った。
「俺はたとえ一人になろうとゴキブリを完全に叩き潰すまで止まるつもりはない」
SHの仲間に手を出すなら容赦しない。
SHの邪魔をする奴は片っ端から叩き潰してやる。
それを聞いた天音達が興奮を抑えている。
それはまだ空の話が済んでいないから。
だけど空はゆっくり立ち上がるとロッカーのカギを開けて中身を出す。
FGの人間は哀れな事に全滅が確定したよ。
だってそのロッカーの中には銃火器が大量に詰まってあったから。
こんな場所のロッカーにこんな物騒な物が入っているなんて誰も思わないだろう。
その銃を手に取り空は手をあげて言う。
「ついてこれる奴だけついてこい。ここから先は単なる殺し合いだ」
邪魔する奴は皆殺してやる。
ふざけた連中はネズミ一匹見逃すつもりはない。
僕と大地は父親に連絡を入れる。
戦えない仲間を護衛する必要があるから。
相手が子供だろうが大人だろうがここから先は知らない。
黒いリストバンドをつけた馬鹿全員が標的だ。
潰せ。
二度と馬鹿なことが出来ないようにしっかり止めをさせ。
やはり空はキレていた。
そしてそれを止める役の翼ですら止める気がないようだ。
「で、具体的な指示は?」
大地が落ち着いて言った。
銃を持ち歩いて黒いリストバンドを見つけたら撃ち殺すなんて先に警察に捕まってしまう。
すると純也が説明した。
純也は警察の捜査の情報を流す。
茜達がネットで片っ端からメンバー全員の素性をばらす。
それをもとに片っ端から潰していく。
場所はどこでもいい。
どうせ大半の連中は誠心会だ。
暴力団同士の抗争だと警察は断定するだろうと南署の署長の純也が言った。
「それって純也がやばいんじゃないのか?」
「ちゃんと上の許可ももらってる。恵美さん達が後押ししてくれる」
恵美さん達渡辺班だって自分でぶっ殺したいくらいだ。
だけと空の父さんが「空に任せる」と言った以上直接は手を下さない。
僕達の世代の問題だから僕達に尻ぬぐいまでさせろ。
それが出来ない情けない男に育てた覚えはない。
「じゃあ、何をやってもいいんだな?」
菫達が聞くと頷いた。
「ただし相手も本気でやってるんだから気を付けて」
本気なんだろうから本気で相手してやる。
その結果どうなるかは知った事じゃない。
FGだって覚悟を決めてるんだろう。
知らなかったなんて絶対に言わせない。
一度だけSHの本気を見せつけてやろう。
二度と馬鹿なグループが現れないように。
「後はDOLLと呼ばれる特殊部隊ですね……残り3人だけど」
「いや、多分もう1人いると思う」
「どうしてですか?」
大地が聞くと空が答えた。
「人形を誰が作ったか?って事だよ」
「……なるほど」
「よくわかんないけど片っ端からぶっ殺していいって事だな?」
天音と水奈と紗理奈が言うと空は顔色一つ変えずに言った。
「俺達も一応仕事の合間に対応できるように父さん達が段取りしてくれている」
だけど中学生まで成長した海翔達ならもう大丈夫だろう。
高校生なんかも天音達が遊撃部隊になって片っ端から始末しろ。
大地と僕も動く予定だ。
昼間だろうが朝だろうが夜中だろうが関係ない。
相手に休む間も与えないくらいに恐怖を与えてやろう。
「そろそろ空気が乾燥してくるだろうから火災もあるかもしれない」
つまりは「家ごと焼き払ってもいい」と言事なんだろう。
「空。私達は?」
茉莉が聞いていた。
「FGの中学生の本体は東中らしい」
つまり「東中のFGを皆殺しにしろ」という事だろう。
「茉莉。どっちが始末した数が多いか勝負だ」
「いいぜ、実弾撃たれたからってビビるなよ?」
「ばーか。こんなにぞくぞくする場面なんて滅多にねーぞ」
派手に暴れてやろうと2人で話をしていた。
すると翼がスマホを見て空に言った。
「案外ちょろいんだね。準備出来たって茜から」
翼はそう言って空に電話番号を教える。
空は電話をかける。
「ああ、あんたが誠心会の会長さん?」
「誰だお前?」
「俺の事なんてどうだっていい。一つ挨拶しておこうと思ったんだ」
「挨拶?」
相手がそう言うと空は美希を見る。
美希はすぐに恵美さんに連絡する。
数秒間をおいて相手の反応があった。
「ガキ。誰を相手にしてるの分かってんだろうな?」
「お前こそ分かってるんだろうな。今更謝っても遅いぞ……じゃあな」
そう言って電話を切るとスマホを握りつぶした。
再び空は皆を見る。
「ここから先はただの喧嘩じゃない。殺し合いだ。今更抜けようが残ろうが好きにしろ。だが俺は作戦を終えるまで続ける」
銃を撃ってくるなら腕をちぎり取ってやる。
車で突進してくるなら車ごと焼却してやる。
もういまさら途中下車なんて許さない。
僕達にも覚悟を決めろと淡々と言う。
「そんな腰抜けがSHにいるわけねーだろ!空が良いって言ったんだ。一匹たりとも残すつもりはねーぞ」
遊が言っていた。
「じゃ、早速始めよう。なずな達は極力単独での外出は控えて」
「わ、分かった」
「どうしても買い物が必要なら翼や天音と動いたらいい」
翼や天音に銃や短刀での脅しは通用しない。
もう誰も空を止めようとする者はSHにいなかった。
もし自分の親が狙われたらどうする?
そんな怒りを持つ者が大半だった。
そしてこうやって話している間もすでに作戦は実行されていた。
石原家や酒井家の兵隊がすでに行動を開始している。
空が言ったように休みを与えない猛攻がついに始まった。
(4)
「と、遠坂署長。ここは捜査中ですよ」
部外者を入れたらまずいという。
「この子は良いんだ。ちょっと協力してもらいたくてね」
そう言って純也が説得している。
普通の人間には分からないだろうけど確かに硝煙の匂いが残っている。
ここが現場で間違いないようだ。
「結。やれそうか?」
純也が聞くと多分愛莉が倒れた場所を見る。
すると光の粒が愛莉と母さんの姿を映し出す。
愛莉の視線を追ってその先を見るとワゴン車が映し出す。
「ナンバー確認して」
純也が部下に指示している。
そしてゆっくりとドアが開いて中からコートを着た男が銃を構えていた。
純也に写真を撮るように指示する。
「レンタカーみたいですね」
純也の部下が言う。
レンタカーの番号は「わ」か「れ」だと決まっているそうだ。
所持者がバレないように盗難車とか使うと考えいたけどかなりの間抜けの様だ。
なぜかって?
だってレンタカーほど身元が分かりやすい物はない。
レンタカーを借りる時当たり前だけど免許証を出すように言われる。
そしてレンタル会社は当たり前の様に誰がどの時間どの車を使用していたかすぐにわかるようになっていた。
すぐにばれる。
免許証を偽造なんて面倒な真似するくらいなら盗難車を使った方が早い。
そしてその面倒な真似をしたがらない奴だから絶対に犯人のグループに行きつくだろう。
純也はそのナンバーを茜にも教えていた。
警察よりも先に絶対に犯人を捕まえてやる。
SHはそう動いているようだ。
「じゃ、約束だから何か食べて帰ろうか」
「私ケーキ食べたい」
そう言ったのはなぜか一緒についてきた茉奈だった。
「茉奈がいるのに危険な事はしたらダメ」
瞳子から制限をかけられていた。
本当はあいつ等から奪ったスマホを使ってDOLLの連中を始末しようと思っていたけど、瞳子やパオラの監視の目が厳しくなった。
「で、結はこの後どうするつもりなんだ?」
純也が俺に聞いてきた。
「DOLLとやらは俺が始末した方が早そうだから」
「大丈夫なのか?茉奈と一緒に行動しろって言われてるんだろ?」
「茉奈は絶対に守るよ。それに逆に茉奈を攫われるよりはましだ」
もちろんその危険は分かっていたから対策はしている。
茉奈の行動は当然把握している。
当たり前だけど風呂やトイレの時は見てない。
「別に結に興味があるなら見せてもいいよ」
「そんな物見てもしょうがないだろ?」
「……そんなに私に魅力ない?」
「あのさ、これは俺だけがそう思ってるだけかもしれないけど」
トイレや体の汚れを落としている入浴時に何を期待するんだ?
俺だってそんな経験をしたことがない。
だったらちゃんと準備を終えた彼女の姿を楽しみにしたほうがいいんじゃないか?
父さんとそんな話をしていた。
「そっか、そんなに楽しみにしてるんだ」
「俺だって男だぞ」
「事件が終わってからだね」
「……へえ。結もやっぱり片桐家なんだな」
「何が?」
茉菜が純也に聞いていた。
「片桐家の男子は大体女子の逆らえないんだ」
「って事は純也も?」
「ああ、大変だったよ」
「じゃあ、雪はどうなるんだ?」
女の子だぞ?
「それはおじさんにも分からないんだよな」
結も考えてみろ。
片桐家の娘がどういう風になっているか分かるだろ?
そう言って純也は笑っていた。
ケーキを食べると家に帰る。
夕食を食べて風呂に入ってると病院に寄っていたじいじが帰ってくる。
「愛莉さんどうです?」
「今週中にでも退院していいってさ」
「よかった」
母さんは心の底からほっとしていた。
そんな母さんを見て父さんの言ったことを思い出していた。
「いいか、もし自分の為に誰かが命を落としたらきっと一生後悔する」
例えば茉奈の為に俺が死んだら茉奈は一生悲しむ。
守るって意味はそうじゃない。
「じゃあ、どうすればいいの?」
父さんに聞いたら一言で返した。
「2人で生き残る手段を考えなさい」
俺なら出来るだろ?
俺だって分かってる。
そんな事を考えながら部屋に戻ってスマホの中にダイブする。
FGも思った以上にでかい組織だ。
この中からDOLLを探し出すのに時間が必要だった。
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