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Wannabe
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(1)
「もう少しくらい楽しそうにしてくれてもいいでしょ」
茉奈が俺にそう言いながらはしゃいで俺と腕を組んだりしている。
俺達は毎年恒例の紅葉狩りに来ている。
父さんやじいじ達は着くと同時に売店に向かう。
俺もついて行こうとしたら茉奈が腕をつかんだ。
茉菜を見るとにこりと笑って俺に言う。
「どこ行くの?つり橋はこっちよ?」
「……ハンバーガー食べたいんだよ」
「んなもん何処で食っても同じだよ?結は何しに来たの?」
ハンバーガー食べにっていうのは茉奈が許してくれなかった。
そんな様子を神奈が見て笑う。
「まあ、諦めろ」
そう一言神奈が言うと皆がつり橋に向かっていく。
しかし気になる。
「なんで比呂は良くて俺はダメなんだ?」
「心配しなくてもカミラが相手してるよ」
「でもカミラも食べに行ったじゃないか」
「お昼食べられなくなるよ」
「それはちゃんと食べるよ」
「食べてばかりじゃだめ!」
するとカミルが答える。
「日本の女子ってのは大体が体型を気にして大食いしないんだよ」
だから食ってばかりじゃ彼女を退屈させるだけ。
彼女の機嫌を損ねるような下手なデートのプランは止めとけ。
一理あるかもしれない。
「さっきも聞いたけど結は私じゃ不満だと言いたいのか?」
「それはないけど」
「じゃ、問題ないよね。さ、行こう?」
そう言って茉奈は俺を引っ張ってつり橋を渡る。
「……ああいう手があったのか。わが孫娘ながらうまいな」
「神奈。結はまだ中学生。油断できない」
神奈と愛莉がそう言っていた。
橋を渡り終えるといつも通り集合写真を撮る。
写真を撮るのを勧めておいて金をふんだくる悪徳商法だ。
でもなんで毎年撮るんだろう?
その質問には渡辺さんが答えてくれた。
「毎年来れるメンバーが違うから」
二度はない同じ光景。
だから記念に撮るんだ。
家族が増えたり減ったりする。
橋をまた引き返してやっと売店に行けると思ったらまた茉菜が手を掴む。
「どこ行くの?」
「橋を渡ったんだから売店行っていいだろ?」
「そんなの誰が決めたの?」
へ?
「他に行くところあるのか?」
「ここから下に降りて滝が近くで見れるらしいの。行こう?」
俺に拒否権はないらしい。
結局俺は茉奈について行って滝を見ていた。
「そう言えば滝を上から見下ろせる場所があるって神奈が言ってた」
「そこに食べ物はあるのか?」
「ソフトクリームくらいだって」
だけどじいじはソフトクリームを全部食おうとして愛莉に怒られたそうだ。
「子供達が真似するからやめてください!」
「でもこの味って他の店では売ってないんだよ」
「じゃあ、それ1つだけでいですよね?」
「い、いやでもこんなにメニューがあるんだし……」
「いいですよね?」
それでじいじは引き下がるしかなくなるらしい。
地元で絶大な権力を持つじいじですら愛莉に敵わない。
だから俺が茉菜に逆らえないのも当たり前なんだろう。
それに茉菜に逆らえない理由は他にある。
それはまだ当分は秘密だ。
「もう十分見たろ?早くもどろう?」
「結は私と二人っきりになるのが嫌なの?」
そう言う質問はずるいって父さんが言ってたぞ。
そう答えると茉菜はにやりと笑った。
「私と二人になるのが不安?」
「そうだったらあんなことしないだろ?」
「分かってるじゃない」
茉奈は嬉しそうに言った。
「ねえ、結。一つ聞いてもいい?」
「どうした?」
「もう私に飽きた?」
むせた。
そんな中学生いないだろ。
慌てる俺を見て茉奈は笑ってた。
「そんなわけないだろ」
「分かってるよ。だから許したんだし」
ただ最近全然誘ってくれないからと、茉奈が不満を漏らす。
そんな中学生はいないだろ。
「……中学生に何を求めてるんだよ?」
「中学生になったら自己責任て愛莉は言ってたそうだよ」
俺は茉奈に魅力を感じないのか?
中学生に魅力を感じたらぎりぎりアウトだぞ。
少し考えた。
「……悪い。俺はまだ子供なんだ」
「私だって一緒だよ」
「だったら約束しないか?」
「約束?」
茉菜が聞くと俺は頷いた。
俺の提示した案はシンプルだ。
もう少し待って欲しい。
何かあっても責任とれるくらいにはなりたい。
それには中学生ではおろか高校生だって無理だ。
「そんなに我慢しないといけないの?」
「特別な日くらいは考えるよ」
「もうすぐ楽しみだね」
約束だからね。
「心配するな」
「じゃ、そろそろ昼飯だろうし戻ろう?」
腹を空かせた片桐家がこの世界で一番怖いって神奈達が言っていたらしい。
あんなに嬉しそうにしている茉奈を見ているとつい思ってしまう。
そしてその想いをすぐに振り払う。
ただ、茉奈を見て思う。
せめてもう少しだけ今の関係でいさせて欲しい。
できれば永遠に……
そんな事を考えながら茉菜の背中を見ていた。
(2)
「あれ?雪は?」
「ハンバーガー食べに行ってる」
誠司郎が一人だけだったので聞いてみた。
「誠司郎は行かなかったのか?」
「この後昼食食べるのに無理だろ?」
「それ、雪の前で言うなよ」
「分かってるよ」
だけど誠司郎はなんか複雑そうな感情を持っている。
俺だって父さんの子供だから結ほどじゃないけど力はある。
その最大の特徴がやっぱりスポーツだろう。
何をやってもそこそこやれる自信があるけど、じいじのバスケの試合を見てこれだと決めた。
サッカーでもいいけど、たった一人で日本に金メダルをもたらしたじいじがカッコいい。
俺も将来こうなる!と決めていた。
「なんでそんなに難しい顔してるんだ?」
誠士郎に聞いてみた。
「雪の考えてる事がさっぱりわかんね」
ああ、そういう事か。
「それなら雪がどうとかじゃなくて誠司郎自身の問題だろ?」
誠司郎が雪を望むなら多分そうなるだろう。
「比呂はカミラに対して不安とかないのか?」
「ないね」
俺はきっぱり答えた。
そんなのを考えていたらカミラに対して失礼だ。
俺はいつだって全力何だと伝えた。
「なんで茉奈じゃだめなんだ?」
「そんなの決まってるだろ?」
神奈の娘や孫娘の前で胸の話をしたらいけない。
大体落ち込むから。
「ほう……トーヤの馬鹿はそんな事を孫に吹き込んでたのか?」
神奈に聞かれたらしい。
「冬吾さんもです!そう言う話はまだ比呂には早いでしょ!」
母さんも父さんを叱っている。
「でも父さんが言ってたんだ。男の子は意外と早く女の子のそういう所を気にするから」
「比呂も結も全く気にしないじゃないですか!」
父さんに似て食べ物くらいしか興味を示さない。
それを聞いていた神奈が母さんに聞いていた。
「おい待て。じゃあ、カミラは大きくなるのか?」
「そ、そう言う話は聞いたことないから。比呂、どうなの?」
「愛莉くらいには育つと思うよ」
きっぱり答えた。
「お前やっぱり茉奈の胸じゃ不満なのか!」
誠が現れた。
「お前一つ勘違いしているぞ!確かに神奈の孫娘だけど水奈の娘なんだ!水奈はああ見えて……いてぇ!」
「お前は一々一言余計なんだよ!」
誠が神奈に小突かれている。
「日本人の事はよくわからないけど、女の子の体形は成長しないとどうなるかわからないのよ」
それに体形ばかり気にしてもしょうがない。
見た目より性格を見てくれる男の子の方がポイントが高いとパオラが言っていた。
「そういうわけじゃないんだ」
「じゃあ、何が気に入らないんだ?」
誠司が聞いてきたから答えた。
「俺が一目ぼれしたのはカミラだったから」
茉奈が結に対して思ったように、俺もカミラに対してだけそう思った。
「……それは冬夜さんに似たのね」
愛莉がそう漏らしていた。
「だからカミラだけしか俺には考えられないよ」
「お前本当にトーヤの孫か?」
神奈が笑っていた。
「そこは多分冬吾の息子だからだろ?」
隠していた母さんの気持ちすら見抜いた父さんの子供だからだろうと誠が言っていた。
「そう思ってくれるのは嬉しいんだけど……」
カミラに頬をつねられた。
「そういう気持ちを他人にべらべら喋るのは止めて」
カミラだって恥ずかしいと言う気持ちがあるらしい。
「カミラだって俺だから許したって言ってたじゃないか」
「そうよ?好きな人にしか許さないって当たり前じゃないの?」
「む、カミラ。それは違うぞ。偶には他の男に抱かれてみたいと思うのが……いてぇ!」
「お前は黙ってろ!」
誠が神奈に怒られている。
「で、カミラはお土産買って来たのか?」
「うーん、どうせ毎年来るんだしいいやと思って」
俺が一緒に選んでくれると思ったのにと漏らしていた。
ハンバーガー食ってたから忘れてた。
「じゃ、キーホルダーくらい見ていくか?」
「別にここじゃなくてよくない?」
「記念にはなるだろ?」
「やっぱりいいよ。記念なら写真撮ったし」
そんなやり取りを見ていた亜衣さん達が叫ぶ。
「何よ!致命的な片桐家の弱点すら比呂にはないわけ!?」
「チートにもほどがあるだろ!トーヤ!ふざけんな!」
理不尽な怒りをぶつけられ、戸惑うじいじ達。
すると茉奈と結が戻って来た。
嬉しそうに腕を組んでいる。
また一歩進んだんだな。
(3)
「悪いけど……」
「分かってる。雪の事だろ?」
レストランで注文するとカンナ達の相談を受けていた。
多分浮かれている誠司郎が気になるのだろう。
だけど悪いけど僕にも全く分からない。
まあ、誠が考えてるような事は無いから心配するなと言っておいた。
「……でもあの様子キスくらいはした勢いに見えたけど」
誠司が聞いている。
「それは無いよ」
「なんで?」
「だって、あの子の感情はまだそこまで育ってないよ」
精々一緒にいてくれたらいいとしか思ってない。
それが”好き”という感情だとすら理解していない。
あの子にとってまだ未知の感情なんだ。
そんなに一度に経験することじゃない。
他人に言われて付き合い始めましたなんて続くわけがない。
お互いに惹かれ合って一緒になるのが普通じゃないのか?
すでにあの2人は惹かれ合っている。
あとは雪が誠司郎の気持ちに気づけばいいだけの話。
でも、雪は誠司郎の気持ちは分かってるよ。
だから、隣にいることを許しているのだろう。
「なるほどね」
冬吾は理解したみたいだ。
「それ、大丈夫なの?」
亜依さんが聞いていた。
「さあね」
「さあねってお前の孫の話だぞ!?」
誠の言う通り孫の話だ。
「雪達はまだ3歳だよ。将来のパートナーを見つけるには早いと思わないか?」
「つまり雪と誠司郎ではだめだって事か?」
「そうじゃないよ。もう、あの子達の物語は始まったんだ」
どんな結末を迎えようと悔いの残らない結末ならいいんじゃないのか?
どんな物語を織っていくのかは2人で決めるだけだ。
「でも、冬夜さんは見えてるのでしょ?結末」
「僕が出来る事は雪が行先を見失った時にアドバイスする事だけ」
これまでもそうしたけど、ここからはもっとあの子が自分で判断するべきだ。
たとえ僕達が「誠司郎は雪が好きなんだよ」と言ってもあの子は自分で確かめるまでは信じないだろう。
雪の力は最強だから自分で選ぶように心掛けないとダメだといつも言って来た。
そして雪は時にはためらうことなく使うし、確信が持てるまでは動かないという的確な判断ができるようになった。
「雪はいい子に育ってるよ。大丈夫」
そう瞳子に声をかけてやった。
「そういや、茉菜の事件は解決したけど愛莉さんのお父さんの件はどうなんだ?」
「ああ、それなら俺が説明します」
純也が説明した。
結が書いた人相書きと銃の特徴から相手の素性は割り出せた。
やはり誠心会が絡んでるそうだ。
まだ懲りてないらしい。
FGといい、この手の馬鹿は殲滅するしかないのだろうか?
しかしそれだけじゃない。
薔薇乙女が直接派遣した能力者がいるらしい。
その集団の名前はDOLLというそうだ。
「ってことは残り6人ってこと?」
「いや、結が別の奴を始末したらしいから5人……ってなんで7人って分かったの?」
そんなのDOLLって名前で分かるよ。
「どんな能力の奴なの?」
「それは分からないって結が言ってた」
「つまり結が接触した相手なんだね?」
「……DOLLの狙いは結らしい」
そして結は挑発した。
「一人ずつなんて面倒だからまとめて来い」
多分結の理由通りなんだろう。
結にとってアメリカ軍全軍で襲い掛かってきても気にも止めない。
あのスキルはさすがに予想しなかった。
「で、どうすればいい?」
純也が聞いてきた。
「結の凄い所って何だと思う?」
「多彩な能力ですか?」
愛莉が答えると首を振った。
「今結が考えてる事を教えるよ。結はただ待ち構えていればいい」
通常の結の行動範囲外からやってくる。
そんなところにいる敵をわざわざ探して潰すのも面倒だから来るのを待つだけでいい。
時間をかけたらかけただけ結が有利になるだけ。
「なんでだ?」
「簡単だよ。あの子に必要なのは時間なんだ」
結が成長して行動範囲が広がるのを待てばいい。
その間に新たな能力を作り出していけばいい。
「まだあいつ能力増やす気か?」
誠が驚いていた。
「まだ物足りないみたいだね」
その対象に関する記憶すらすべて抹消する能力があるのにまだ足りない。
理由は簡単。
能力が強すぎて使う場面を選ばなければならない。
もっと楽に相手を始末する方法を考えたい。
軽く脅かす程度の力が欲しい。
意外と好戦的な性格みたいだね。
「なんで結だけあんなでたらめな能力なんだ?」
誠が聞くと僕の考えを話した。
「昔読んだ漫画があるんだ」
多分結も読んでいるだろう。
自分の能力を強力なものにするために条件を作る。
制約を設ける。
その事で具体的なものになって強化できる。
そんな事を結にアドバイスした。
多分それで結は何か思いついたのだろう。
「なんだよそれ?」
「僕に分かるわけないだろ」
「冬夜さんでも分からないんですか?」
「結も馬鹿じゃないよ。自分の弱点を簡単に見せないさ」
多分冬吾も気づいてないんだろ?
そう尋ねると冬吾はうなずいた。
だけど愛莉は納得してないみたいだ。
「そうやって分からないふりしても無駄です。冬夜さんの考えてることくらいわかります」
愛莉は気づいたか。
「それでも絶対に僕は言わない。自分の孫の弱点を曝す真似はしないよ」
「まあ、そうだよな」
「じゃあ、ヒントだけでもくれよ」
カンナが言うので一言だけ言った。
どうせ結の事だ。
席に座って食べてるように見せかけてるけどそこまで僕も衰えていない。
フォークを持つ手が動いてないことくらい気づいている。
ミスディレクション。
あの子はそれであの場から気づかれないように動いて、そしてステルスで隠れている。
「皆が言ってる事だよ。片桐家の男なら誰もが抱えてる制約」
「食い癖?」
梨々香が聞くと僕はにこりと笑った。
「この先は自分で考えて。僕が結に消されてしまう」
それが分かったら結の気持ちにも気づくだろう。
きっとあの夜考えたのかもしれない。
それは誓約でありあの子の決意なんだろう。
まだそれを明かすには時期尚早。
じっくり見守ることにした。
「もう少しくらい楽しそうにしてくれてもいいでしょ」
茉奈が俺にそう言いながらはしゃいで俺と腕を組んだりしている。
俺達は毎年恒例の紅葉狩りに来ている。
父さんやじいじ達は着くと同時に売店に向かう。
俺もついて行こうとしたら茉奈が腕をつかんだ。
茉菜を見るとにこりと笑って俺に言う。
「どこ行くの?つり橋はこっちよ?」
「……ハンバーガー食べたいんだよ」
「んなもん何処で食っても同じだよ?結は何しに来たの?」
ハンバーガー食べにっていうのは茉奈が許してくれなかった。
そんな様子を神奈が見て笑う。
「まあ、諦めろ」
そう一言神奈が言うと皆がつり橋に向かっていく。
しかし気になる。
「なんで比呂は良くて俺はダメなんだ?」
「心配しなくてもカミラが相手してるよ」
「でもカミラも食べに行ったじゃないか」
「お昼食べられなくなるよ」
「それはちゃんと食べるよ」
「食べてばかりじゃだめ!」
するとカミルが答える。
「日本の女子ってのは大体が体型を気にして大食いしないんだよ」
だから食ってばかりじゃ彼女を退屈させるだけ。
彼女の機嫌を損ねるような下手なデートのプランは止めとけ。
一理あるかもしれない。
「さっきも聞いたけど結は私じゃ不満だと言いたいのか?」
「それはないけど」
「じゃ、問題ないよね。さ、行こう?」
そう言って茉奈は俺を引っ張ってつり橋を渡る。
「……ああいう手があったのか。わが孫娘ながらうまいな」
「神奈。結はまだ中学生。油断できない」
神奈と愛莉がそう言っていた。
橋を渡り終えるといつも通り集合写真を撮る。
写真を撮るのを勧めておいて金をふんだくる悪徳商法だ。
でもなんで毎年撮るんだろう?
その質問には渡辺さんが答えてくれた。
「毎年来れるメンバーが違うから」
二度はない同じ光景。
だから記念に撮るんだ。
家族が増えたり減ったりする。
橋をまた引き返してやっと売店に行けると思ったらまた茉菜が手を掴む。
「どこ行くの?」
「橋を渡ったんだから売店行っていいだろ?」
「そんなの誰が決めたの?」
へ?
「他に行くところあるのか?」
「ここから下に降りて滝が近くで見れるらしいの。行こう?」
俺に拒否権はないらしい。
結局俺は茉奈について行って滝を見ていた。
「そう言えば滝を上から見下ろせる場所があるって神奈が言ってた」
「そこに食べ物はあるのか?」
「ソフトクリームくらいだって」
だけどじいじはソフトクリームを全部食おうとして愛莉に怒られたそうだ。
「子供達が真似するからやめてください!」
「でもこの味って他の店では売ってないんだよ」
「じゃあ、それ1つだけでいですよね?」
「い、いやでもこんなにメニューがあるんだし……」
「いいですよね?」
それでじいじは引き下がるしかなくなるらしい。
地元で絶大な権力を持つじいじですら愛莉に敵わない。
だから俺が茉菜に逆らえないのも当たり前なんだろう。
それに茉菜に逆らえない理由は他にある。
それはまだ当分は秘密だ。
「もう十分見たろ?早くもどろう?」
「結は私と二人っきりになるのが嫌なの?」
そう言う質問はずるいって父さんが言ってたぞ。
そう答えると茉菜はにやりと笑った。
「私と二人になるのが不安?」
「そうだったらあんなことしないだろ?」
「分かってるじゃない」
茉奈は嬉しそうに言った。
「ねえ、結。一つ聞いてもいい?」
「どうした?」
「もう私に飽きた?」
むせた。
そんな中学生いないだろ。
慌てる俺を見て茉奈は笑ってた。
「そんなわけないだろ」
「分かってるよ。だから許したんだし」
ただ最近全然誘ってくれないからと、茉奈が不満を漏らす。
そんな中学生はいないだろ。
「……中学生に何を求めてるんだよ?」
「中学生になったら自己責任て愛莉は言ってたそうだよ」
俺は茉奈に魅力を感じないのか?
中学生に魅力を感じたらぎりぎりアウトだぞ。
少し考えた。
「……悪い。俺はまだ子供なんだ」
「私だって一緒だよ」
「だったら約束しないか?」
「約束?」
茉菜が聞くと俺は頷いた。
俺の提示した案はシンプルだ。
もう少し待って欲しい。
何かあっても責任とれるくらいにはなりたい。
それには中学生ではおろか高校生だって無理だ。
「そんなに我慢しないといけないの?」
「特別な日くらいは考えるよ」
「もうすぐ楽しみだね」
約束だからね。
「心配するな」
「じゃ、そろそろ昼飯だろうし戻ろう?」
腹を空かせた片桐家がこの世界で一番怖いって神奈達が言っていたらしい。
あんなに嬉しそうにしている茉奈を見ているとつい思ってしまう。
そしてその想いをすぐに振り払う。
ただ、茉奈を見て思う。
せめてもう少しだけ今の関係でいさせて欲しい。
できれば永遠に……
そんな事を考えながら茉菜の背中を見ていた。
(2)
「あれ?雪は?」
「ハンバーガー食べに行ってる」
誠司郎が一人だけだったので聞いてみた。
「誠司郎は行かなかったのか?」
「この後昼食食べるのに無理だろ?」
「それ、雪の前で言うなよ」
「分かってるよ」
だけど誠司郎はなんか複雑そうな感情を持っている。
俺だって父さんの子供だから結ほどじゃないけど力はある。
その最大の特徴がやっぱりスポーツだろう。
何をやってもそこそこやれる自信があるけど、じいじのバスケの試合を見てこれだと決めた。
サッカーでもいいけど、たった一人で日本に金メダルをもたらしたじいじがカッコいい。
俺も将来こうなる!と決めていた。
「なんでそんなに難しい顔してるんだ?」
誠士郎に聞いてみた。
「雪の考えてる事がさっぱりわかんね」
ああ、そういう事か。
「それなら雪がどうとかじゃなくて誠司郎自身の問題だろ?」
誠司郎が雪を望むなら多分そうなるだろう。
「比呂はカミラに対して不安とかないのか?」
「ないね」
俺はきっぱり答えた。
そんなのを考えていたらカミラに対して失礼だ。
俺はいつだって全力何だと伝えた。
「なんで茉奈じゃだめなんだ?」
「そんなの決まってるだろ?」
神奈の娘や孫娘の前で胸の話をしたらいけない。
大体落ち込むから。
「ほう……トーヤの馬鹿はそんな事を孫に吹き込んでたのか?」
神奈に聞かれたらしい。
「冬吾さんもです!そう言う話はまだ比呂には早いでしょ!」
母さんも父さんを叱っている。
「でも父さんが言ってたんだ。男の子は意外と早く女の子のそういう所を気にするから」
「比呂も結も全く気にしないじゃないですか!」
父さんに似て食べ物くらいしか興味を示さない。
それを聞いていた神奈が母さんに聞いていた。
「おい待て。じゃあ、カミラは大きくなるのか?」
「そ、そう言う話は聞いたことないから。比呂、どうなの?」
「愛莉くらいには育つと思うよ」
きっぱり答えた。
「お前やっぱり茉奈の胸じゃ不満なのか!」
誠が現れた。
「お前一つ勘違いしているぞ!確かに神奈の孫娘だけど水奈の娘なんだ!水奈はああ見えて……いてぇ!」
「お前は一々一言余計なんだよ!」
誠が神奈に小突かれている。
「日本人の事はよくわからないけど、女の子の体形は成長しないとどうなるかわからないのよ」
それに体形ばかり気にしてもしょうがない。
見た目より性格を見てくれる男の子の方がポイントが高いとパオラが言っていた。
「そういうわけじゃないんだ」
「じゃあ、何が気に入らないんだ?」
誠司が聞いてきたから答えた。
「俺が一目ぼれしたのはカミラだったから」
茉奈が結に対して思ったように、俺もカミラに対してだけそう思った。
「……それは冬夜さんに似たのね」
愛莉がそう漏らしていた。
「だからカミラだけしか俺には考えられないよ」
「お前本当にトーヤの孫か?」
神奈が笑っていた。
「そこは多分冬吾の息子だからだろ?」
隠していた母さんの気持ちすら見抜いた父さんの子供だからだろうと誠が言っていた。
「そう思ってくれるのは嬉しいんだけど……」
カミラに頬をつねられた。
「そういう気持ちを他人にべらべら喋るのは止めて」
カミラだって恥ずかしいと言う気持ちがあるらしい。
「カミラだって俺だから許したって言ってたじゃないか」
「そうよ?好きな人にしか許さないって当たり前じゃないの?」
「む、カミラ。それは違うぞ。偶には他の男に抱かれてみたいと思うのが……いてぇ!」
「お前は黙ってろ!」
誠が神奈に怒られている。
「で、カミラはお土産買って来たのか?」
「うーん、どうせ毎年来るんだしいいやと思って」
俺が一緒に選んでくれると思ったのにと漏らしていた。
ハンバーガー食ってたから忘れてた。
「じゃ、キーホルダーくらい見ていくか?」
「別にここじゃなくてよくない?」
「記念にはなるだろ?」
「やっぱりいいよ。記念なら写真撮ったし」
そんなやり取りを見ていた亜衣さん達が叫ぶ。
「何よ!致命的な片桐家の弱点すら比呂にはないわけ!?」
「チートにもほどがあるだろ!トーヤ!ふざけんな!」
理不尽な怒りをぶつけられ、戸惑うじいじ達。
すると茉奈と結が戻って来た。
嬉しそうに腕を組んでいる。
また一歩進んだんだな。
(3)
「悪いけど……」
「分かってる。雪の事だろ?」
レストランで注文するとカンナ達の相談を受けていた。
多分浮かれている誠司郎が気になるのだろう。
だけど悪いけど僕にも全く分からない。
まあ、誠が考えてるような事は無いから心配するなと言っておいた。
「……でもあの様子キスくらいはした勢いに見えたけど」
誠司が聞いている。
「それは無いよ」
「なんで?」
「だって、あの子の感情はまだそこまで育ってないよ」
精々一緒にいてくれたらいいとしか思ってない。
それが”好き”という感情だとすら理解していない。
あの子にとってまだ未知の感情なんだ。
そんなに一度に経験することじゃない。
他人に言われて付き合い始めましたなんて続くわけがない。
お互いに惹かれ合って一緒になるのが普通じゃないのか?
すでにあの2人は惹かれ合っている。
あとは雪が誠司郎の気持ちに気づけばいいだけの話。
でも、雪は誠司郎の気持ちは分かってるよ。
だから、隣にいることを許しているのだろう。
「なるほどね」
冬吾は理解したみたいだ。
「それ、大丈夫なの?」
亜依さんが聞いていた。
「さあね」
「さあねってお前の孫の話だぞ!?」
誠の言う通り孫の話だ。
「雪達はまだ3歳だよ。将来のパートナーを見つけるには早いと思わないか?」
「つまり雪と誠司郎ではだめだって事か?」
「そうじゃないよ。もう、あの子達の物語は始まったんだ」
どんな結末を迎えようと悔いの残らない結末ならいいんじゃないのか?
どんな物語を織っていくのかは2人で決めるだけだ。
「でも、冬夜さんは見えてるのでしょ?結末」
「僕が出来る事は雪が行先を見失った時にアドバイスする事だけ」
これまでもそうしたけど、ここからはもっとあの子が自分で判断するべきだ。
たとえ僕達が「誠司郎は雪が好きなんだよ」と言ってもあの子は自分で確かめるまでは信じないだろう。
雪の力は最強だから自分で選ぶように心掛けないとダメだといつも言って来た。
そして雪は時にはためらうことなく使うし、確信が持てるまでは動かないという的確な判断ができるようになった。
「雪はいい子に育ってるよ。大丈夫」
そう瞳子に声をかけてやった。
「そういや、茉菜の事件は解決したけど愛莉さんのお父さんの件はどうなんだ?」
「ああ、それなら俺が説明します」
純也が説明した。
結が書いた人相書きと銃の特徴から相手の素性は割り出せた。
やはり誠心会が絡んでるそうだ。
まだ懲りてないらしい。
FGといい、この手の馬鹿は殲滅するしかないのだろうか?
しかしそれだけじゃない。
薔薇乙女が直接派遣した能力者がいるらしい。
その集団の名前はDOLLというそうだ。
「ってことは残り6人ってこと?」
「いや、結が別の奴を始末したらしいから5人……ってなんで7人って分かったの?」
そんなのDOLLって名前で分かるよ。
「どんな能力の奴なの?」
「それは分からないって結が言ってた」
「つまり結が接触した相手なんだね?」
「……DOLLの狙いは結らしい」
そして結は挑発した。
「一人ずつなんて面倒だからまとめて来い」
多分結の理由通りなんだろう。
結にとってアメリカ軍全軍で襲い掛かってきても気にも止めない。
あのスキルはさすがに予想しなかった。
「で、どうすればいい?」
純也が聞いてきた。
「結の凄い所って何だと思う?」
「多彩な能力ですか?」
愛莉が答えると首を振った。
「今結が考えてる事を教えるよ。結はただ待ち構えていればいい」
通常の結の行動範囲外からやってくる。
そんなところにいる敵をわざわざ探して潰すのも面倒だから来るのを待つだけでいい。
時間をかけたらかけただけ結が有利になるだけ。
「なんでだ?」
「簡単だよ。あの子に必要なのは時間なんだ」
結が成長して行動範囲が広がるのを待てばいい。
その間に新たな能力を作り出していけばいい。
「まだあいつ能力増やす気か?」
誠が驚いていた。
「まだ物足りないみたいだね」
その対象に関する記憶すらすべて抹消する能力があるのにまだ足りない。
理由は簡単。
能力が強すぎて使う場面を選ばなければならない。
もっと楽に相手を始末する方法を考えたい。
軽く脅かす程度の力が欲しい。
意外と好戦的な性格みたいだね。
「なんで結だけあんなでたらめな能力なんだ?」
誠が聞くと僕の考えを話した。
「昔読んだ漫画があるんだ」
多分結も読んでいるだろう。
自分の能力を強力なものにするために条件を作る。
制約を設ける。
その事で具体的なものになって強化できる。
そんな事を結にアドバイスした。
多分それで結は何か思いついたのだろう。
「なんだよそれ?」
「僕に分かるわけないだろ」
「冬夜さんでも分からないんですか?」
「結も馬鹿じゃないよ。自分の弱点を簡単に見せないさ」
多分冬吾も気づいてないんだろ?
そう尋ねると冬吾はうなずいた。
だけど愛莉は納得してないみたいだ。
「そうやって分からないふりしても無駄です。冬夜さんの考えてることくらいわかります」
愛莉は気づいたか。
「それでも絶対に僕は言わない。自分の孫の弱点を曝す真似はしないよ」
「まあ、そうだよな」
「じゃあ、ヒントだけでもくれよ」
カンナが言うので一言だけ言った。
どうせ結の事だ。
席に座って食べてるように見せかけてるけどそこまで僕も衰えていない。
フォークを持つ手が動いてないことくらい気づいている。
ミスディレクション。
あの子はそれであの場から気づかれないように動いて、そしてステルスで隠れている。
「皆が言ってる事だよ。片桐家の男なら誰もが抱えてる制約」
「食い癖?」
梨々香が聞くと僕はにこりと笑った。
「この先は自分で考えて。僕が結に消されてしまう」
それが分かったら結の気持ちにも気づくだろう。
きっとあの夜考えたのかもしれない。
それは誓約でありあの子の決意なんだろう。
まだそれを明かすには時期尚早。
じっくり見守ることにした。
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