姉妹チート

和希

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君が見る明日

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(1)

「遠坂は殺人事件がまだ未解決だからそっちに専念しろ」
「それはおかしいでしょ!」

 俺は上司と口論していた。
 お爺さんの殺人事件の指揮をしているからそっちに専念しなさい。 
 まともに考えたらそうだった。
 しかし今回の件はそうじゃない。
 その殺人事件の組織が関わっているのは間違いない。
 何の根拠も無しに言っているわけじゃない。
 父さん達に話したようにしらみつぶしに奴らのゴーストカンパニーを調べていた。 
 そしてやっと手がかりを掴んだ時に奴らは動いた。
 桐谷茉菜を誘拐した。
 さすがに結を誘拐するのは無理だと分かったのだろう。
 比呂達と別れて家に帰る途中を奴らは狙った。
 そして奴らの要求がそれを決定づけた。

「娘の命が惜しかったら捜査をやめろ」

 馬鹿でも分かりそうな要求を奴らはしてきた。
 娘の命を軽視するような誠さんや学じゃない。 
 だから厄介だった。

「そんなに死にたいなら今すぐ殺してやる!」
「水奈がそう言うなら遠慮することないな。茜!すぐに居場所探せ!」
「分かった」

 そうやってSHの中ではFGを皆殺しにしようと皆が激怒していた。

「どうやって潰すの?」

 空は一人そうやって冷静を装っていたが、美希が様子をしっかり見ている。
 空はすぐに一人で片づけようとする。
 悪い癖だ。
 SHの暴走を止める為だけじゃない。
 渡辺班も同様に怒り狂っていた。

「ゴキブリ一人攫ったところで釣り合いが取れないわね。1時間ごとにガキを一人ずつ殺すってのはどう?」

 晶さんがそう提案していた。

「それで茉菜の身の安全が保障されるならいいけど、そうじゃないでしょ?」

 父さんも皆を落ち着かせていた。
 とりあえず手がかりが見つかるまでは動かない。

「冬夜!大事な孫娘が誘拐されたんだぞ!」

 お前他人事みたいに言ってるとお前から殺すぞ!と誠さんが言ったらしい。

「孫娘が大事なら今は動くな。まずは警察だ。俺達が下手にかき回すと純也の足を引っ張る」

 父さんがそう言うと皆落ち着いた。
 誰を怒らせたか分かってしまったから。
 当たり前だ。
 菫達が攫われた父さんなら誠さんの気持ちくらいわかっている。
 だから俺も必死だった。
 父さんが俺じゃ手に負えないと分かったら何をやりだすか分からない。
 そして父さん達が協力してくれたらしい。

「遠坂警視の言う通りだ。この件も遠坂警視に任せよう」
「しかし、いまだにホシを特定できない遠坂警視に任せて大丈夫なのですか?」
「それは違う、現状がそう物語っている」

 多分俺がホシじゃなくてそのホシの所属する組織を突き止めたから慌てたに違いない。
 だったらまとめて任せた方がいい。
 そう言うと上司が引き下がった。

「で、まずどうします?」

 部下が聞いてきた。

「そうだな……とりあえず動くな」
「え?」

 部下が驚いてた。

「俺達に捜査を止めろと言ってるんだ。続けていたら被害者の命が危ない」
「でも解決できないっすよ?」
「手は打つよ。それにやれることはある」

 殺人事件の捜査は茜達に任せよう。
 俺達はセオリー通り誘拐犯を突き止める。
 誘拐された女の子の命がまず優先。
 
「そう言うわけだからまずは誘拐事件を片付けよう」

 ふざけた要求をしてきたんだ。 
 間違いなく犯人の核心に触れた情報がある。
 その証拠がどれなのかをくまなく探す。
 今まで調べた書類の中に必ずある。

「二手に分かれて捜査ですね」
「そういう事になるかな」
「了解っす」

 時間が無い。
 早く探し出さないといけない。
 厄介な事をしてくれた。
 犯人の命を守るために全力で突き止めないと。
 しかし犯人は本当に馬鹿だった。
 一番怒らせてはいけない人間を怒らせてしまったようだ。

(2)

「父さんごめん……」

 優翔は泣いていた。
 比呂達と別れた後に家に帰る途中突然背後からスタンガンを食らったらしい。
 
「助けて!!」
「死にたくなければ大人しくしろ!」

 そんな茉菜の声を聞きながら意識が薄れていったそうだ。
 今は誘拐事件のセオリー通りに動いている。
 神奈も今取り乱すわけにはいかない。
 青ざめた水奈を懸命に励ましている。
 僕と空は学の家にいる。
 渡辺班が動くともっとややこしい事態になりかねない。
 今回はまず警察の……純也の手腕を拝見しようと思っていた。
 逆探知は茜達の得意技だから茉奈の位置を特定することは容易だと思っていた。
 だけど犯人は少しは頭がいいらしい。
 茉奈のスマホの電源を切っていた。
 だから居場所を突き止める事が困難だと思ってた。
 だけど茜は違う方法を使ったらしい。

「非通知だろうと発信元を把握している存在がある」

 それは電話会社。
 そうじゃないと通話料を請求できないから。
 だけどそんな簡単に一般市民に教えるわけがない。
 非通知の意味がなくなるから。
 だから茜達は侵入した。
 侵入さえできたら特定は簡単だ。
 水奈ののスマホと通話した相手の中に犯人がいるのだから。
 それは警察も分かっている。
 ただ、やはりFG……薔薇乙女の力は警察に及んでいた。
 令状が取れないと警察も捜査に協力してもらえない。
 だから今こうして逆探知の装置を持って来て次の犯人の接触を待っていた。
 先に動いた方が不利だ。
 いつもなら力づくで潰すところだけど、普通の女の子の茉菜が人質だ。
 潰すにしろ引きずり出すにしろ特定できないと無理だ。

「水奈、大丈夫。純也が絶対に捕まえるから」

 茜がそう言って水奈を励ます。

「その警察だって手出しできない状態なのにどうして安心できるんだ!?」

 そう言って水奈は泣き叫ぶ。

「ふざけた真似しやがって……ただ引きさがる俺達だと思うなよ」

 カンナに止めるなよ?と誠が聞いていた。

「止めるわけねーだろ。むしろ私も一緒に八つ裂きにしてそこら辺に捨ててやる」

 そんな話をしていると水奈のスマホが鳴る。
 水奈が電話に出る。
 犯人からだったらしい。

「どうやら警察は捜査を止めたみたいだね」
 
 水奈は純也達を見る。
 純也は「なるべく時間を稼いで」とメモに書く。

「茉菜の声を聞かせてくれ」

 水奈が言うと茉菜に変わったみたいだ。

「ママ!」
「茉菜。何もされてない?」
「うん、でも怖い」
「大丈夫。警察が言う通りにするって言ってるから」
「大丈夫なの?」
「ええ、大丈夫よ」
「もう十分だろ?」

 また犯人に変わったみたいだ。
 
「捜査を止めたのだから娘を返して!」
「それじゃまだ不十分だ」

 犯人は捜査のファイルを目の前で焼却しろという。
 水奈はまた純也を見ると、純也はうなずいた。

「分かった。で、どこで交換するの?」
「霊山の宿泊施設にお前と純也だけで来い」

 他の奴らを一人でも見たら茉菜を殺すと告げた。
 僕はメモ帳に書いて水奈に見せた。
 水奈は僕の指示通りに犯人に言う。

「お前が茉菜を連れてくるって言う保証はあるのか?」

 それが出来ないなら約束は破棄だ。
 そんな事すら出来ないならこっちも違うやり方をとる。

「随分と余裕があるな。話を長引かせようとする。逆探知でもしてるのか?」

 そんなの当たり前だから気にしなくていいのに水奈は動揺した。

「お前は余計な事を考えずに言う通りに従え。出来ないなら娘を殺す」

 それとこの電話を逆単しても無駄だ。プリべな上に今は車で移動中だと言って電話が切れた。

「犯人の言う通りです。居場所を特定できませんでした」
「……まあ、相手も多少は考えて動いてるみたいだね」

 僕がそう純也に声をかけた。

「冬夜。お前どうするつもりだ」
「犯人の言う通りにするしかないだろ」
「じゃあ、俺ファイルを用意してきます」

 悔しそうに言う純也。
 だけど僕は言った。

「そんなの適当なシュレッダー行きの紙切れを集めておけばいい」
「お前、俺の孫娘の命がかかってるんだぞ!」

 誠が僕につかみかかるのをカンナと学が抑えていた。
 僕は誠に言った。

「いつも言ってるけど、お前の悪い癖だぞ誠」

 すぐにそうやって視野が狭くなる。

「何か手を思いついたのか?」

 カンナは気づいたらしい。
 僕は空に出かける準備をするように伝えてくれと言う。

「でもそれじゃ約束を破るから……」

 茉菜の命がない。
 水奈の言う通りだ。
 だけど水奈も誠も見落としている。

「僕達が約束を守ったから相手が約束を守るとは限らない」

 こういう取引を僕が相手に持ち掛けるならこういう手段を取る。
 まずは、茉菜を別の所に監禁しておく。
 そしてファイルを確認して本物だったら監禁している場所を伝える。
 そうじゃなかったら殺す。
 だけど肝心な事を忘れてないか?
 仮に取引が成功したとして要求通り純也が捜査の資料を破棄したとして次の問題がある。
 それは誘拐事件に関する捜査。
 現にSHは動き出している。
 だったらずっと茉菜を保持して僕達の動きを縛った方が良い。

「……つまり茉菜は助からないのか?」

 カンナが不安そうに言っている。

「だから保険をかけるんだよ」

 もしその作戦通りだったら茉菜はその場には来ていない。
 つまりその場で茉菜を殺すことは出来ない。
 のこのこ現れた犯人を引きずり出して連絡する前に押さえつける。
 そうしたら後は犯人を拷問するなりして茉菜の場所を吐かせたらいい。

「父さんの言う事が本当だったとして、一つ疑問があるんだけど」
「どうしたんだ純也」

 誠司が純也に聞いてた。

「さっきの電話で茉菜と犯人が一緒にいた事は間違いないじゃないか」

 さすが警察をやっていればそこに気づくか。
 だけどもう少し考えた方が良い。

「交渉する時に人質がいないんじゃ話にならない」
「そうか……いるにしろいないにしろまずはのこのこ出て来た馬鹿を捕まえる必要があるって事か」

 誠は納得したらしい。
 さっきも言ったけど相手は警察だけじゃなくて渡辺班やSHも動きを縛らないといけない。
 だったらせっかく手に入れた人質を簡単に返すわけがない。

「だけどどうやって捕まえるんだ?」

 相手の正体すら分からないんだろ?

「だから空達を用意させてるんだ……あっ」
「どうしたんだ?」
「空、恵美さん達に頼んでドローンでもUAVでもいいからスタンバイさせてくれ」

 そのくらい恵美さんならやるだろ。
 空が天音に連絡してる間にカンナ達に作戦を説明する。
 多分次に相手が接触してくるのは取引場所と日時の連絡だ。
 その場所に先に恵美さんのおもちゃを使って偵察させる。
 特殊部隊を潜伏させることも考えたけど、相手が能力者だったら関係ない。
 だからもし相手が能力者なら空に任せよう。
 空の能力のステイシスを使えばそんなの関係なくなるだろ?

「そうじゃなかったら?」
「俺が始末してやる」

 え?
 それは僕のセリフじゃなかった。
 皆があたりを見る。
 まさか!?
 僕は美希にすぐに連絡する。

「結は家にいる?」
「え?さっき夕食食べてましたけど」
「今すぐ部屋を見に行って!」
「分かりました……あれ?いません!?」

 しまった!
 もうそこまで成長していたのか。
 作戦をやり直しだ。
 
「空、結の気配感じた?」
「いや……全然。……まさか結が聞いてた?」
 
 さっきの声を聞いたらそうとしか考えられない。
 結もまだ中学生。
 
「まさか、結が動き出した?」
「多分そうだろうね」
「ど、どうするんだ?トーヤ」

 多分結の足取りを追うなんて不可能だろう。
 
「……犯人の要求通りにしよう」
「その先はどうするんだ?」
「結次第だと思う」
「お前の孫だろ?大丈夫なのか」

 これが僕の孫娘ならすぐに答えは出せる。
 だけど人質はカンナの孫娘だ。
 一歩間違えたら危険だ。
 判断に悩んでいるとカンナが水奈を説得していた。

「いいか水奈。このままだと茉奈はどのみち危険なのはわかるよな?」
「……うん」
「ここにいるトーヤってのはこのくらいの修羅場なんて比較にならないくらい大勢の命を背負って難しい判断をしてきた」

 それは空や冬吾でも経験したことのない大事件でも僕が見事に乗り越えた。

「だからここはトーヤに茉奈を託してみないか?」

 動き出したのも結だ。
 間違いは多分ない。
 犯人の命運を心配した方がいいくらいだ。と、カンナが説明していた。
 それを聞いた水奈は僕を見る。

「……お任せします。どうか茉奈を助けてあげてください」

 そう言って深々と頭を下げる水奈。

「じゃあ、説明するよ。まず要求通りに動こう。本物を準備する時間はある?」
「あるけど大丈夫なのか?こんなものいくらでもコピーできる」
「そのくらい相手も考えてるさ」
「で、その後どうするんだ?」
「それなんだけど、少し変更しよう」

 そう言って説明すると誠たちは驚いていた。

「結一人で大丈夫なのか?」
「多分結はとうにキレてるよ」

 何だってやるだろう。
 だから賭けてみる事にした。

(3)

 茉菜の家に侵入してじいじ達の話を静かに聞いていた。
 状況は大体把握した。
 警察やじいじ達は動けない。
 なら……。

「俺が始末してやる」

 そう言い残して俺は家を出た。
 もうすぐ暗くなる。 
 あまり遅くなると母さんが心配すると言っていたから部屋に書置きしてきた。

 あまり遅くならないようにするから

 まずは茉奈が優先だ。
 茉奈が攫われたらしい地点に着くと念じる。
 地面から光の粒が浮かび上がってくる。
 それが茉菜と犯人を形作りやりとりする声が頭の中に入ってくる。
 泣き叫ぶ茉奈の声を聞いてますます怒りが湧いてきた。
 その光は車になって移動する。
 車の形である必要はないので光の線に変える。
 その線は俺を茉奈の居場所へと導いていく。 
 浮遊するボードに制限速度なんてない。
 あっという間にその場所に着いた。
 割と近所だったみたいだ。
 池が近くにある。
 廃墟の中に侵入する。
 当然隠蔽のスキルは使っている。
 怯えている茉奈とのうのうとスマホをいじっている犯人。
 こいつに能力はない。
 ただの雑魚の様だ。
 んじゃ、早速始めるか。
 こいつの精神を支配する。
 雑魚の動きは止まってスマホを落としそうになるのを拾わせる。
 その動きを不思議そうに茉奈が見ていた。
 男も自分の思い通りに動かないのを見て驚く。

「誰だ!?」

 しばらく様子を見ていたが誰も駆けつける様子はないらしい。
 何人か仲間がいると思ったけど期待外れだ。
 それを確認して姿を現す。

「結!?どうしてここに?」
「助けに来た。もう大丈夫だ」
「てめえ、その娘の命がどうなってもいいのか?」

 状況が理解できてない男の目を睨みつけていた。

「俺に指図するな。俺が聞いたことだけ答えろ」

 すると男は黙った。
 縄で硬く手首を縛られていたのを解いてやる。
 茉菜は状況を考えずに俺に抱き着いてきた。

「ありがとう。まさか結が助けてくれるなって思ってなかった」
「当たり前だろ。少しは俺を信頼してくれ」
「うん」

 男を見て俺は告げる。

「実行犯の名前を教えろ。余計な事は一切言うな」

 こいつは俺の束縛を受けている。
 俺の言う通りに従うしかない。

「堂本雄一」
「DOLLの一人か?」
「そうだ……」
「どんな能力を使うんだ?」
「見た事がない」

 俺の前で嘘を吐くことは許されない。
 多分見せた事が無いんだろう。
 これからどうするか考えた。
 多分取引の場所には純也達が向かってるはず。
 そっちが先だな。

「……取引の場所と時間は指示したのか?」
「あ、ああ……」
「どこに何時だ?」

 男は場所と日時を俺に教えた。
 そして男はミスをする。

「こ、これで助けてくれるんだろ?」

 馬鹿なんじゃないだろうか?
 俺は冷徹に告げる。

「俺は命令したはずだぞ?勝手に喋るなと」

 俺がそう言ったと同時に男は吐血して倒れた。
 言う通りにしてたら長生き出来たろうにな。

「こ、この人どうなったの?」
「天罰を受けただけだから気にするな」

 それより茉奈を家に送るよ。
 水奈達心配してたから。

「その後結はどうするの?」
「堂本ってやつは何らかの能力を持っているみたいだから俺が始末する」
「じゃあ、私もついてく」
「ダメだ。危険すぎる」
「結のじいじが言ってたよ。この世界で絶対安全な場所があるとしたら結の側だって」
「わかったよ」

 時間が惜しい。
 じいじ達だけでも心配する必要ないけど茉奈を解放したことを知らないから不利だろう。

「で、どうやって行くの?」

 俺たちには車の運転は無理だ。
 それにそんな事する必要はない。
 だけど一つだけ問題がある。

「方法はある。だけど一つだけ茉奈にお願いがある」

 そう言いながら男のスマホを操作していた。

「何をすればいいの?」

 なんかあまり言いたくないんだけど。

「俺にしっかり捕まってろ」
 
 絶対に離れるな。

「私夢でも見てるのかな?結がすっごい頼もしく見える」

 そう言いながら俺に捕まる。
 スマホでさっきの堂本という奴の連絡先は調べた。
 俺はスマホを見つめて念じる
 スマホから一筋の光が伸びる。
 その先にあるのは言うまでもない。
 どんなに逃げても俺の追跡からは逃げられない。
 スケボーに乗って目的地に急いだ。

(4)

 突然俺達が現れて水奈達も堂本とか言う男も驚いている。
 俺達はスケボーで取引の場所へとやってきた。

「茉奈!」
「ママ!」

 茉奈がそう言って水奈の所に行こうとすると地面から何体かの土人形が現れた。
 茉奈は立ち止まってしまう。
 そのうちの一体が茉奈を捕まえようとしたのが分かったので容赦なく攻撃した。
 捕まえようとした土人形が飛散する。
 茉奈の周りにはフィールドを展開しておいたから土の塊がぶつかるなんてことはない。
 
「茉菜、まだ駄目だ」

 俺が言うと俺の側に来た。
 俺の腰に手を回すと俺と一緒に男を見る。

「どうやってここまで来た」
「お前の疑問に答える義務はない。勝手にしゃべるな」

 いいか、俺が良いというまで絶対に動くな。
 能力も禁止だ。
 破ったら容赦なくお前を殺す。
 そう言ってから水奈の下に行くように茉菜に指示を出す。
 水奈がしっかりと茉奈を抱きしめると俺は堂本に聞いた。

「この場にいるDOLLとやらはお前だけか?」
「そうだが、それがどうかしたのか?」
「お前一人でどうにかできる相手だと侮られているのか?」

 雪にも一人で軽くあしらわれたそうじゃないか?

「あまり大人を舐めるなよ」

 堂本がそう言うと俺は土人形の腕をつかむ。
 土人形の上半身を吹き飛ばした。

「……それがお前の能力か?その程度なのか?」

 男がにやりと笑うと、男の周りにいくつもの土人形を作り出す。
 
「お前こそその程度じゃないか?」
「これがさっきの土人形と一緒だと思うなよ」

 ウルツァイト窒化ホウ素と呼ばれる世界で一番硬い物質で出来ているらしい。
 つまり人形を作り出すだけじゃなく成分も自在に操れるというわけか。
 しかし、俺には関係ない。

「お前を殺す前に一つだけ忠告してやる」
「お前に俺を殺せるのか?」

 そう言うと俺は右手を上げた。
 空中でランスの様なものを形成する。

 最強の矛盾

 空の能力だ。
 
「全力で防御してみろ。今から放つ俺の一撃を防げたら命は助けてやる」
「ガキ。今の話聞いてなかったのか?」
「ああ、それもあったな。まあ、そんなに難しいことじゃない」

 あまり自分の能力を自慢する物じゃない。
 対策されるだけで得な事は全くない。
 だから予告も無しにぶっ放すんだ。
 こんな風にな!
 俺が放った攻撃はランスの様なものから一筋のレーザーが奴の土人形を貫通して堂本の肩を貫通する。
 堂本は反対の手で肩を抑える。

「な、なんでだ?」
「だから言っただろ?」

 最強の矛盾。
 いかなる物も貫く矛と、いかなる物も防ぐ盾。
 その二つがぶつかったらどうなる?という意味の言葉。
 結果なんてどうでもいい。
 肝心なのはその最強の盾と矛を自在に操るのが俺の能力。
 だれも本当にランスを投げつけるなんて言ってない。

「約束だ。お前は俺の攻撃を防ぐことが出来なかった。だから死ね」
「ま、待て。俺を殺したところでまだ……」
「残り5人の能力者がいるってだけだろ?どうでもいいよ」

 お前らは俺たちが平穏な生活を送るのに邪魔な存在。
 だから死ね。
 死に方くらいは選ばせてやる。
 そうだな……。

「俺の質問に答えろ。答えなかったら殺す」

 堂本は頷いた。
 
「他の能力者の能力を吐け」
「知らない」

 多分言ってる事は本当だろう。
 嘘を吐いたり俺の意に反したらすぐに奴の心臓に仕掛けたトラップが発動する。
 それをわざわざ説明してやる義理もないから黙っていた。

「お前らの頭はどこにいる?」
「知らない」
「お前らDOLLの頭も能力者か?」
「あったこともない」

 結局何も知らないのか。
 役立たずだな。

「……分かった。殺すのは止めよう」

 色々後始末が面倒だしな。
 俺が堂本に対して背を向けるとすかさず何か仕掛けようとしていた。

「危ない!」

 純也が叫ぶ。

「そう言う詰めの甘さが子供だな」

 そんなセリフを吐いた人間は次の瞬間消滅していた。

「あ、あれ?」

 純也達が首を傾げている。
 きっとここに何をしに来たのか分からない。
 そんなところだろう。
 理由は簡単。
 俺の能力の一つ「削除」
 その対象の存在はもちろん、そいつに関するすべての記憶をすべての生き物から削除する。
 殺人事件にもならない。
 だってそいつはいないんだから。

「茉奈だって疲れてるはずだから早く帰ろう」

 じいじ達も来てるんだろ?
 そう言うと隠れていたじいじ達が出て来た。

「純也……」

 じいじが純也に何か言おうとしている。

「分かってます」

 記憶にないのだから事件になるはずがない。
 これは単に少女が一人迷子になっただけ。
 たったそれだけの事だ。

「じゃ、いい加減帰ろうか。お腹も空いたろうし」

 じいじが言うとみんなその場を後にした。
 残りはあと5人。
 それに遠坂のじいじをやった連中。
 まだ残している課題はある。
 一つずつ始末していけばいい。
 少なくとも茉奈に手を出す馬鹿は俺が自ら葬ってやる。
 雪が誠司郎を守り続けるように。 
 SHにFGが手を出した。
 そのツケはきっちり払ってもらうとしよう。
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