姉妹チート

和希

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(1)

「あれ?冬夜達は?」

 誠さんに聞かれた。

「愛莉と一緒にりえちゃん見てるから俺達は子供の応援してやれって言われて」
「ああ、お前の家今大変だもんな……」

 今日は純達の運動会。
 親として見に来たのは初めてだ。

「梨々香は大丈夫なのか?」
「ええ、おかげさまで」

 梨々香は父さん達の説得でりえちゃんを週3日デイケアに通わせることにした。
 梨々香の負担を減らすことが目的だった。
 最初は戸惑っていたけどすぐに慣れてその間は子供の相手をするようになった。
 今日も純達がかけっこしているのを応援していた。

「まあ、梨々香も大変だったな。こういう時くらい飲め」

 そう言って神奈さんが梨々香に缶を渡す。
 梨々香はどうやってうまく断っていいか分からないみたいだった。

「すいません、俺達父兄参加の競技あるから」
「ばーか、そんなの加減すればいいだろう」

 とりあえず真っ直ぐ歩く事が出来たら問題ない。
 何もリレーで真面目に走る必要はないと天音は言う。
 それでいいのか?母親。
 
「心配するなゴミの始末だけすれば飲んでいいって桜子が認めたんだから問題ない」
「ええ、そうです。天音達の事はもうあきらめました。だからってこれ以上問題を広げないでもらえないかな」
 
 振り向くと桜子が立っていた。

「母さん達も言ってたぞ、年に一度のお祭りだって」
「いつから運動会が宴会に変わったのか教えて!水奈」
「すいません。注意はしているんですが……」
 
 学が頭を下げている。
 無理もない、亜依さんや瑛大さん、神奈さんに、誠さんが飲んでいるんじゃ説得できない。

「水奈、何飲んでるの?私達も飲みたい」
 
 昼休憩でお弁当と食べに来た優奈と愛菜がそう言っていた。
 学が注意するけど関係なかった。

「紗理奈達が言ってたんだ。せめて中学生になるまで待てって」
「お前は中学生のアル中を育てるつもりか!?」

 学が水奈を叱っていた。
 だけど水奈はそうじゃないという。

「こいつらが興味をもったら注意しても絶対隠れて飲む」

 そんな真似をしだしたら学の言うようにアル中になるかもしれない。
 なら親の監督下で量を決めた方が良い。
 それが水奈の判断だった。
 桜子は肩を落として戻って行った。

「あいつもいい加減諦めたらいいのにな」
 
 瑛大さんが言っていた。
 俺もそう思う。
 この人たちを説得するのは絶対に無理だ。
 純達の学校生活は梨々香から聞いていた。
 すごくまじめにしているらしい。
 一つだけ問題があるけど。
 それはSHの小学生皆がやってること。
 FGいじめ。
 黒いリストバンドをしている奴を見つけたら片っ端から袋叩きにしているらしい。
 空や翼がそう命じたわけじゃない。

「難しい授業受けてストレス溜まってるから発散方法を思いついただけ」

 優奈がそう語っていた。
 小学生だけじゃない。
 中学校でもついに始まった。
 結達の南中のFGは完全に潰した。
 後は東中の本体を叩くだけ。
 茉莉達は馬鹿を2,3人捕まえて警告したらしい。

「私達のエリアでふざけた真似したら学校を粉々にしてやる」

 もちろん東中の連中もやられっぱなしではないらしい。
 東中と南中のエリアの境では緊張状態が続いているらしい。
 それで茜達は不思議に思ったらしい。
 まともに考えたら子供のレベルじゃない武装をしている茉莉達にどうやって対抗しているのか?
 そんな武装を誰かが提供している。
 その気でいるならいっそのこと皆殺しにすればいいけど、それも面倒だ。
 どうせまた湧いてくるのだから。
 兵隊は畑で取れる国があるらしい。
 だったら畑を使い物にならなくした方が良い。
 で、茜や菫が探している。
 だけど茜にとってはFGよりも重大な問題があった。
 椿だ。
 やりたい放題の椿。
 まだ小学生だからこそ今のうちにあの癖を直さないまずい。
 茜は冬莉や泉達と毎日相談していた。
 しかし自分がそうしてきたようにあの手この手を使って屁理屈を言う。
 だからと言って頭ごなしに叱っても意味が無いことくらいはわかってる。
 どうやって娘に着替えて洗濯して風呂に入らせるか?
 自分の経験談等を重ねて考えた。
 茜や冬莉は最終手段をとった。

「パパと一緒なら風呂に入るんだね?」
「いいの?」
「いいわよー」
「やったー、パパはいろう?」
「い、いいのか?」
「多分そのうち恥じらいを覚える……んじゃないかな?」
 
 自信がないのは自分たちは社会人になってもそうやって父さんを誘惑していたから。
 しかしその手は泉には使えなかった。

「そんなど変態な男だったの!?」

 そう言って晶さんが怒り出すのが目に見えてる。
 育人の命を守るためにも絶対に使えない。
 しかし最近変わったことがあるそうだ。
 あれだけ目くじら立てていた愛莉や晶さんが何も言わなくなったそうだ。
 その事で一番戸惑っていたのが3人の母親だった。

「多分愛莉だからじゃないのか?」

 神奈さんが答える。
 きっと愛莉の事だから精々悩むといい。
 私がどれだけ悩んだか思い知るといい。
 それはひょっとしたら父さんの差し金かもしれない。

「純達は大丈夫なのか?」

 そう言うと梨々香は苦笑いして話した。

「香澄、台所で何してるの?」

 夜中一人でりえちゃんが食べ物がないか物色してる時があるから見回りをしていた。

「お腹空いたからラーメンでも作ろうかなって」
「夕飯食べたでしょ!」
「でもほら、受験生って夜食食べるじゃん」

 キャンプでだって夜食にラーメンを食べる。
 だから別にお腹空いたんだったらいいんじゃないのだろうか。

「今からそんなに食べていたら大きくなってから悩むからやめた方がいいよ」

 梨々香の中学生の時の胃袋も片桐家クラスの物を感じたけど?

「だから、あれはデザートは別腹って言ったじゃない」

 そういう問題なのか?
 その話を聞いた高校生だった天音は帰りに食べて帰った結果、夕飯を控えめにしてしまう上に父さんに小遣いをねだって愛莉に怒られていた。

「多分片桐家の子供だから大丈夫だよ」

 茜がそう言っていた。
 その片桐家の俺ですらきつかったんだけど。
 午後の競技が終わる頃には神奈さん達は爆睡していた。
 梨々香が神奈さん達を起こしてる間に俺は片付ける。
 ゴミは絶対に残すなと言われているので全部拾ってビニール袋に入れた。
 家に帰ると異臭がする。
 梨々香はその異臭の元を片付けに行く。

「ごめん、そこまで酷いとは思ってなかった」

 自分の母親だからなおさらショックだったのだろう。
 トイレまで遠いから部屋に簡易トイレをつけておいたけどそれでも駄目みたいだ。
 オムツを用意するしかないな。
 医者にも言われたこと。
 進行を遅らせる事は出来ても回復することはまずない。
 まだ片桐家にとってつらいことが続くようだ。

(2)

 瞳子と一緒に多田家に遊びに来ていた。
 今日は神奈達は運動会に行っているから誠司郎は親と一緒に家でお留守番らしい。
 どうして運動会なのに酔っぱらってくるのかパオラには不思議だったらしい。
 母さんが呼び鈴をならすとパオラが出る。

「雪、こんにちは」

 誠司郎はにこりと笑って俺に挨拶する。
 
「こんにちは……」

 相変わらずそっけない態度を取る自分に腹が立つ。
 会えるだけで嬉しくてしょうがないのに。
 別にモテたいなんて一度も思ったことはない。
 たった一人誠司郎に振り向いてくれたらいい。
 多分無理だと思うけど。
 誠司郎は私に向かって言った。

「俺の部屋に来ない?」
「なんで?」
「親の話なんて聞いてても退屈でしょ?」

 誠司郎の言う通りだけど、誠司郎の部屋に行く理由にはならない気がする。
 悩んでいると母さんが言った。

「せっかくだから一緒に遊んでなさい」

 母さんに言われると拒む理由がない。
 従う理由もないんだけど、こんなところで面倒な問題起こしたくない。
 大人しく母さんの言う通りにして誠司郎の部屋に向かう。
 誠司郎の部屋に入るのは初めてだ。
 綺麗に整頓されている。

「今日は雪がくるから綺麗にしておいた」
「……ふーん」
「適当に座ってよ」
「分かった」

 そう言って適当に座っていた。
 誠司郎は父親がよほど好きなのだろう。
 所狭しと誠司のポスターやユニフォームが飾られてあった。 

「それ何?」
「すごろく知ってる?」
 
 誠司郎が笑ってそう聞いていた。
 すごろくくらいは知ってる。
 サイコロを振って出た目の数だけ駒を進めていく玩具。
 毎年年末に出ているシリーズもの。
 TVゲームにすると年末にリリースされるのに糞ゲーの日本一に選ばれて、レベルが違いすぎるからと殿堂入りしたゲーム。
 糞ゲーしか作れない技術力に数年かかってやっと気づいてTVゲーム業界から撤退したそうだ。
 で、このボードゲームの方は意外と人気が高い。
 毎年出してくるのに気づかず毎年ねだる子供もいるそうだ。
 それは良いけど一つ疑問がある。

「なんで、これを誠司郎がもってるの?」

 まだ私達には早い内容でしょ?
 それにこのゲームは多人数でやるゲームだ。
 私はともかく誠司郎にこのマスの意味が分かるのか?
 だけど誠司郎は得意気に言った。

「ちゃんと勉強したから大丈夫」

 両親から色々教わったらしい。
 それを3歳で理解する誠司郎もすごいんじゃないか。
 だって誠司郎の話だと神奈も誠司の説明を真面目に聞いていたそうだから。

「なんでお前そんなに詳しいんだ?」

 誠が聞いたらしい。
 機嫌がいい誠司はうっかり言ってしまう。

「ファンとかアウェイで女の子と飲むとき話題がないとしらけるだろ?」
「つまりお前は嫁を放ってそう言う事をしていたわけか?」
「母さん、それは違う。あくまでもファンとコミュニケーションをとるだけだ」

 話題がないつまらない男になんてなりたくない。
 ただ会話の話題を常に探しているだけ。
 俺が抱くのはパオラだけだ。

「いつも家に帰ったらパオラが優しく抱きしめてくれるって事だけを夢みて夜を過ごしてるんだ」
「誠司はそういう事を神奈達の前で言うのやめて!」

 パオラに怒られたけど反省はしてないみたいだ。

「なんでだよ。嫁を抱くのは常識じゃないのか?」
「そういうのを親に知られて恥ずかしいとかないの?」
「恥ずかしがることないだろ。そういや、パオラと初めて寝た時も……」
「それ以上言ったら本気で怒るからね!」
「パオラ……分からないだろうけど誠司は誠に比べたら全然ましだ」

 神奈が言ったらしい。
 まあ、誠司郎がこのゲームが出来るならいいだろう。
 時間つぶしになる。
 そう言って私も準備する。
 すると誠司郎が一言言った。

「サイコロ振る時とかにインチキするなよ?」
「……しないよ」

 そんな勝つのが分かり切ってるような真似して何が楽しい。
 ストーリーさえわかればいいRPGやシミュレーションRPGじゃない。
 だから手加減もしない。
 そう言ってゲームを始めていく。
 まだ人生が始まったばかりの俺達がやがて結婚して子供を作ってゴールを迎えるゲーム。
 人生のゴールってどこなんだろう?
 梨衣みたいな状態の先にある物なのだろうか?
 誠司郎には聞いたらいけないだろうな。
 身内で不幸があったって母さんが言ってたから。
 
「よっしゃ、俺結婚できたぞー」

 そう言って笑っている誠司郎。
 誠司郎もいつか誰かと結婚するんだろうな。
 その時私は何をしているのだろう?
 
「雪はまさか手加減しているんじゃないだろうな」
「してないよ。……ほら、私も結婚したよ」
「でも雪が相撲取りってなんかありえないよね」

 そんな風に笑いながらゲームを勧めていた。

「はい、私子供4人目」
「ちょっと!なんでそんなにいっぱい作れるの」

 このゲーム戻ったりするから子供が車に見立てた駒に乗り切れないくらい子供が出来る時がある。

「俺も負けないぞ」

 意外と競争心高いんだな。
 そうしているうちに誠司郎の子供の数が追い付いた。

「よし!追い抜いてやる!」

 そう言うゲームじゃなかった気がするんだけど。
 黙々とゲームをしてるのもどうかと思ったのでなんとなく聞いてみた。

「誠司郎は子供何人くらい欲しいの?」
「え?」

 誠司郎の手が止まった。
 私を見ている。
 そしてにやりと笑って言った。

「雪が産んでくれるのか?」
「私とは限らないでしょ」
「雪は誰かと結ばれたいとかないのか?」
「……考えた事もない」
「俺は雪と結ばれたいぞ」

 誠司郎がそう言った時だった。

「ま、待て!落ち着け誠」
「ふざけんな!3歳で子作りなんて羨ましい状況俺は許さないぞ……いてぇ!」
「お前はどこまで馬鹿なんだ!」

 そう言って誠が部屋に乱入してきた。

「おい!まだ2歳のガキだからと許していたらふざけた真似させないぞ!」
「じいじ。そういう時はノックするのがマナーって母さんが言ってたよ?」
「誠司郎!まだお前に子作りは早い!じいじだって中学まで待ったんだぞ」

 もう誠司に子作りを教わったのか?

「教えるわけないよ。まだ3歳だよ?」
「世の中そのくらいの歳が良いって男がいる事は誠司が知って……いてぇ!」
「馬鹿か!他人様の孫に向かって何をあほな事言ってやがる」

 神奈が誠の頭を小突いていた。

「で、何してたの?」

 パオラが聞いてきたから答えた。

「ゲーム」
「お前は他人様の孫娘捕まえてゲーム感覚で……いてぇ!」
「お前は少し黙ってろ!」

 誠と神奈が喧嘩してる中、私がパオラに説明していた。

「ああ、あのゲームしてたのね」

 パオラは納得したようだ。

「雪、ゲームの途中で悪いけどそろそろ時間だから」

 母さんがそろそろ帰ろうというので私は玄関に向かった。
 
「雪、またやろうね」

 そう言って手を振る誠司郎に言った。
 家に帰ると愛莉たちは既に帰っていた。
 愛莉が夕食を作っている。
 時間まで部屋で本を読んでいた。
 父さんが自分の部屋にある漫画の中から面白いのを選んで渡してくれる。
 この歳ですでに字が読める私だから大丈夫だろうと言っていた。
 夕食の時も誠司郎と何をしていたか説明する羽目になっていた。
 無理もない。
 じいじのスマホに誠が電話して文句を言っていたらしい。

「本当に困った人ですね」

 愛莉がそう言っていた。

「雪はどうだったの?」

 楽しかったのかとじいじが聞いてくる。
 まあ、悪い気分はしなかった。

「まあまあかな」
「そうか」

 じいじはそう言ってその件はそれ以上聞いてこなかった。

「雪の子供が欲しい」

 なぜかその言葉が頭の中から離れない。
 誠司郎はなぜあんなことを言ったのだろう?
 まだまだ長い時間がある。
 そのうち正解が見えてくるだろう。
 そう割り切って寝る事にした。
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