姉妹チート

和希

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灼けつく刻、凍える瞬間

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(1)

「冬華……」

 親戚になるらしい遠坂香澄がそう言って私に近づいてきた。
 理由は多分私が見ているあれだろう?。
 この時期になると必ず発生する恒例行事。
 新しく入園した子供たちがFGというグループに勧誘される。
 訳も分からず入る子もいるけど大体はその様子を見て嫌がる。
 だけど嫌だと言って逃がすような甘い連中じゃない。
 
「ふざけた事言ってると砂場に埋めるぞ」

 そんなセリフでどうして入りたがるというのだろう。
 水島結人が女の子達の前に立って精いっぱい抵抗している。
 とはいえ、数的不利な状況は否めない。
 それに女の子が一人人質に取られたらその場でジエンド。
 さすがに見過ごすわけにはいかないか。
 あの中にいる村井潤子と千秋の事を頼むと冬莉に言われてたし。
 汗かくような真似したくないんだけどな。
 すれば帰ってからお風呂に入らないといけなくなる。
 率直に言って面倒だ。
 とはいえ、最近は冬莉も簡単に納得してくれなくなった。
 愛莉という冬莉の母親がそうさせているらしい。
 
「じゃあ、パパと一緒に入る」

 そう言ったら大丈夫だと聞いたけど「別にいいよ」と冬莉は余裕を見せる。
 たかだか幼稚園児とパパが一緒に入るくらいどうとも思わないらしい。
 むしろそれが心配になる父親の方がこの先怖い。

「俺が行こうか?」

 香澄の双子の弟の純が聞いていた。

「あんたが行ったら問題になるからいいよ」

 純は父親に似てキレやすい。
 何をしでかすかわからない。
 結局私がやるしかないか。
 どうするかな?
 純が持っているボールを見て思いついた。

「純、ボール貸して」
「どうするんだ?」

 そう私に聞きながらも私にボールを渡す。
 そのボールを地面に置く。

「お前まさか!?」

 純が叫ぶと奴らも気づいてこっちを見た。
 そんなの関係ないけど。
 冬莉の兄の冬吾はサッカー選手。
 約束された勝利の剣と称されるほどの名選手。
 どこのチームも欲しがるけど絶対に渡すつもりがないらしい。
 その兄の奥の手が右足のシュート。
 目にも止まらない速さで一瞬でゴールに突き刺さるそうだ。
 それも冬吾の狙った位置を絶対に外さない。
 冬吾のさらに兄の空の息子、結は蹴ったボールで頭を粉砕するらしい。
 私は初めてボールを蹴る。
 狙いを外さない自信はある。
 だけどどの程度の威力かはやってみないと分からない。

「死んだらごめんね」

 そう呟いて私は奴らの頭をめがけてボールを蹴り飛ばす。
 さすがに威力が増すシューズとかは持ってない。
 あれは、ボールを使わずに直接相手を蹴った方がいいんじゃないかと思ったけど。
 速さは目に映る程度だった。
 大したことないな。
 頭部を吹き飛ばすほどの威力は無かった。
 だけどボールを食らった男子は吹き飛んだ。
 倒れた彼は鼻血を流しながら気絶していた。

「何の真似だ松原!?」

 目的通りあいつらは標的を私に移した。
 それを確認して純に潤子たちを離すように伝える。

「目の前で鬱陶しい馬鹿がいたら殺せって聞いたから」

 表情を変えずに淡々と私が告げる。
 死ななくてよかったね。
 さすがに幼稚園児で殺人犯にはなりたくない。
 後はこのままあなた達が退散してくれたら追い回す様な真似はしない。
 汗かくの嫌いなんだ。
 そんな交渉を一応試みた。
 多分無駄だろうとは思ったけど。

「ふざけるな!お前FGを舐めてるのか?」
「あのさ、長生きできるなら忠告するけど……」

 その名前はそんなに堂々と出していい物じゃない。
 そんな馬鹿を餌にする猟犬が地元にはうじゃうじゃいる。
 その人たちに見つかったら絶対に生きていけない。
 私程度で済んでるうちに大人しく引き下がって欲しい。
 答えはノーだった。

「お前を真っ裸にして写真撮ってやる!」

 そう息巻いて私を取り囲む。
 そんな事してる間に職員が駆けつける事すら分からないのだろうか?
 私は悲鳴を上げるだけでいい。
 だけどそれは私が許せない。
 こんな時だけ女だからとかそんな風に思われたくない。

「香澄達は離れてて」
「冬華大丈夫?」
「私もさ、片桐家の血が流れてるから」

 大体の事はこなす。
 少なくともこの馬鹿達を私刑するくらいは造作でもない。
 香澄や蘭香は純が守ってくれるだろう。
 汗をかきたくないから交渉してやったのに台無しにしてくれた。
 お陰で私は今日風呂に入らないといけない。

「面倒な真似してくれたんだからきっちり清算してもらうよ」
 
 そう言って私は動いた。
 その動きは彼らには見えなかっただろう。
 雑魚Aの後ろに回り込んで、飛び上がると頭をめがけて回し蹴りする。
 そいつが吹き飛んで倒れる前に隣にいた男のみぞおちに肘を叩き込む。
 そんな感じで一人ずつ始末していく。
 結果的彼らは微動すら出来ずに何が起きているか理解しようとする間に次々と倒れていく。
 そんなに時間かかからずに最後の一人になった。

「何か言いたい事があるなら聞いておくけど……」
「ば、化け物……」
 
 それは酷くないか?
 私だって女の子だ。
 そんな事を言われると傷つくよ?
 あんまり使わない方がいいと言っていた拳を握りしめて最後の一人を思いっきり殴り飛ばす。
 乙女を傷つけた代償だ。
 天音なら間違いなく骨壺の中に放り込むところだ。
 全員始末すると先生がやってきた。

「松原さん!またあなたの仕業!?」
「先生、私女の子だよ?こんな真似できるはずないよ」

 こいつらが勝手に暴れて痛手を負っただけだと主張した。
 しかしこの2年間で結構問題を起こした私の言葉を信じてくれるはずがなかった。
 その日私は職員室で叱られる。
 適当に聞き流しながら「今日のテレビ何があったかな?」とか考えていた。
 親は呼ばれない。
 だって冬莉を呼び出せるはずがない。
 冬莉がくるならそれでいい。
 しかし冬莉が仕事をしている間は恵美さんが来る。
 そうなると幼稚園の存続にかかわる問題になる。
 そこまで分かっているから「今日は冬莉達いないよ」と嘘を吐く。
 確認するわけがない。
 本当だったらさっき言った通り恵美さんの耳に入る。
 説教が終わって解放されると純達が待っていた。

「お勤めご苦労さん」

 純がそう言って笑っていた。

「さすがに今日は汗かいたから風呂入らないと怒られる方が面倒だよ」

 純にそう言うと香澄が言った。

「あのさ、冬華。女の子なんだから汗かいてなくてもお風呂に入るくらいしようよ」
 
 それに仮に入らなかったとしてもそれを男子に言うのはまずいんじゃないのか?
 ほら、女の子だからと言う理不尽な理由で風呂に入らないといけなくなる。
 面倒な世界だなぁ。

(2)

「ママ?」

 雪が私を見て不思議そうにしている。
 いい加減慣れると思ったけどまだ分からないのかな?
 
「じゃ、行ってきます」

 愛莉さんに言う。

「子供の事は任せて頑張ってきてね」

 愛莉さんが雪を抱きかかえ笑顔で言った。
 家を出ると車に乗って小学校に向かう。

「じゃあ、また今日からよろしくね」

 桜子先輩がそう言って花束をくれると拍手が起きた。
 そんなにのんびりしている暇はない。
 名簿を手にして教室に向かう。
 私は今日から入学する新1年生を担当することになった。
 名簿の中には見覚えの名前がある。
 渡辺さんや桐谷さん。
 渡辺班のお孫さんらしい。
 教室に入ると黒板に名前を書いて自己紹介をする。
 それから今日の一日の手順を分かりやすく説明する。

「わかったかな?」
「は~い!」

 皆元気のいい子供達ばかりだと思ったけど、やっぱりそうでないらしい。
 鋭い目つきで私を見ている集団がいる。
 どの学年にもいる不良集団FG。
 私の役目はこの子達をどうやってFGから守るか?

「結莉達にも言ってあるから心配するな」

 天音がそう言っていた。
 だから桜子先輩は不安なんだそうだ。
 きっかけがあれば、自分たちが最上級生という事も忘れて暴れ出すSHの爆弾。
 我が物顔で学校内を見て回り、馬鹿がいたら袋叩きにするというゲームをしているらしい。
 結莉は問題ないらしい。
 芳樹がそばにいるから、退屈だという事は無い。
 問題は茉莉と菫。

「学校の中にそんな甘っちょろい空気垂れ流してんじゃねえ!」

 茉莉は茉奈にそう言ったらしい。
 しかし茉奈を困らせると必然的に冬夜が動く。
 結を相手に喧嘩してたら命がいくつあっても足りないと思っているから執拗には挑発しない。
 そして相手がいないから相手を求めて校内を戦場のように駆け回る茉莉達。

「あと1年の辛抱ですから」

 高槻千歳先輩や渡辺正俊先輩がそう言って桜子先輩を慰めているそうだ。

「あまり悩むな桜子!禿げてもしらねーぞ」
「間違って殺してしまってもちゃんと隠ぺいしろと優奈達には言ってるから問題ない!」

 天音と水奈がそうメッセージを送ったらしい。
 水奈のメッセージはそのまま神奈さんに転送したみたいだ。

「お前は娘を殺人犯にするつもりか!?」
「だからちゃんとばれないようにしろって言ってるから大丈夫だって!」
「その考え自体が間違っているとどうして自分で気づかないんだ!」

 学も水奈に一晩かけて説教したらしい。
 水奈の一言は当然の様に天音にも及ぶ。

「天音は遺書の偽造まで娘に教えるんだぞ!私もそれを教えたらいいのか!?」
「天音!あなた茉莉に何を教えてるの!?」

 愛莉さんも天音を叱ったらしい。

「遺書あったら単なる自殺だと断定するから純也も楽だろ!」
「そういう問題じゃないとどうして分からないの!」
「この世界では人殺しなんて幼稚園児だってするぞ!」

 結は2歳で大人を殺せる能力を持っていたらしい。
 愛莉さんと神奈さんは悩んでいた。
 しかし恵美さんと晶さんは若干考え方が違うらしい。

「秋久も朔も彼女が人を殺さないといけないような状況になるまで放っておいたの!?」
「あなた達がさっさと処分するべきでしょ!」

 晶さんと恵美さんはそう言って秋久達を叱ったらしい。
 海翔もしっかりその話を聞いているらしい。
 だから優奈が若干変わった。
 自分に手を出したら海翔が黙っていない。
 そんな安心感にいるのだろう。
 片桐家の男子程頼りになる人はいない。
 翼が以前言ってた事だ。
 冬吾さんの妻である私だからその意味はよく分かる。
 幸い入学式に問題を起こす子はいなかった。
 式が終わると教室で学校での過ごし方を説明して今日は終わり。
 教室から子供たちがいなくなると私も職員室に戻って残務をしていた。

「あれなら復帰したての瞳子でも安心だね」

 桜子先輩がそう声をかけて来た。

「でも、油断はしない方が良い。やっぱりいたみたいだから」

 私と同じように出席していた渡辺先輩も気づいたらしい。
 どうしてそうなるのか分からないけど幼稚園の時点ですでにそれに手を染めている児童がいる。
 彼らを更生するのは難しい。
 だけどせめて彼らが勢力を拡大するのを阻止しないといけない。
 と、なるとやはり茉莉達の存在が重要になる。
 彼らが増殖するスピードを上回る勢いで淘汰していく茉莉達。
 しかし親にはそんな事は関係ない。
 自分の子供が怪我をした。
 そう言って苦情を言ってくる。
 この小学校で一番難しいのはその対応だと桜子先輩が言う。
 なるべく早く説得して帰ってもらわないといけない。 
 その親の為にも。
 長引けばその親に不幸が訪れる。
 そんな板挟みの中で調整しないといけない。
 そんな話をして時間になると家に帰る。
 すると愛莉さんは食事の準備をしていた。
 私は慌てて着替えて手伝おうとする。
 だけど愛莉さんは言った。

「瞳子は今日から仕事でしょ?」
「でも私だって母親だし」
「それは分かってます。でもまずは仕事を優先して欲しい」

 その為に愛莉さんがいる。
 私の中で仕事のペースをつかめたら、その後に手伝うくらいの余裕が出来たらそうしてくれたらいい。
 無理をすると倒れてしまうから。
 そうなったら雪の面倒が見れなくなってしまう。
 そんな話をしていると雪が起きて来た
 
「ママー」

 そう言って私の足にしがみつく雪。
 
「いい子にしてたかな?」

 そう言って雪の頭を撫でてやる。

「とてもいい子なんですよ」

 愛莉さんがそう言っていた。
 日中はテレビを見て過ごしているらしい。 
 それも子供向けの番組ではなくニュースやワイドショーを見てるそうだ。
 いずれ触れ合う社会の情報を手に入れておきたいと思っているのだろう。
 夜になると冬夜さんがニュースの説明をしてくれる。
 間違った情報を手に入れないように。
 冬夜さんは最近帰るのが早くなった。
 仕事を空に丸投げしているそうだ。

「そろそろ空に任せてもいいだろ?」
「いけません、まだ60にもなってないのですよ」
「もう60になったら会社を任せてもいいと思ったのだけどね」
「困った父親ですね」

 愛莉さんがそう言って笑っていた。
 冬吾さんもいつかそんな日が来るのだろうか?
 雪もまだよくわからないけどそんな日が来るのを夢見て育てようと思った。

(3)

「進に朱鳥!急がないと遅刻しちゃうよ」

 私は弟と妹を急かしていた。

「うーん、琴音。今日の髪形が決まらなくてさ~」

 妹の朱鳥は髪型で悩んでるらしい。
 
「髪の手入れが面倒!」

 そう言って髪型を丸刈りにしようとして母親が必死に止めた娘がいると母さんから聞いていた。

「パパはどっちが良いと思う?」
「うーん、どっちも可愛いよ」
「それ女の子に言ったらいけない返事だよ?」

 そう言って父さんを困らせていた。

「学校はお洒落するところじゃないから清潔感があればいい」

 そう言って母さんが朱鳥の髪にブラシを通していた。

「ほら、さっさと行ってきなさい」

 そう言うと進も朱鳥も玄関に向かう。
 靴を履く途中で母さんが「進、待ちなさい!」と母さんが止めていた。
 水筒を忘れていたらしい。
 世話の焼ける弟だ。
 途中で栗林快に出会う。

「おはよう、晴れてよかったな」
「そうだね」

 快とは昔っからの知り合いだった。
 SHの中でも母さんと仲のいい快の母親の花さんと2人でお茶をしている時に一緒だったから。
 快は意外と頼りになるし、優しいし運動神経もいい。
 普段は大人しい頼りになる男の子。
 小学生の私が快の事を好きになるのは当たり前だった。
 だけど初恋くらい男の方から言って欲しい。
 そう思っていつかちゃんと「大好き」って言えるように準備をしていた。
 でも母さんが言っていた。

「男からとか女からとかそんなの関係ない。もっと大事な事があるのよ」
「それは何?」
「タイミング」

 自分が大丈夫!って思った時がタイミング。
 それを逃したら次はいつ来るか分からない。
 だから伝えたい時にいつでも言える準備をしておきなさい。
 母さんはそう言っていた。
 父さんはそれを難しい顔で見ていた。
 そんな父さんを母さんは笑ってみている。

「遊もいい加減覚悟決めないとね」

 快と私の仲は前から父さんに伝えていたらしい。
 父さんは私が生まれる前はふらふら毎晩遊んでいたらしい。
 だけど私が生まれてから変わったそうだ。
 私の事を母さんよりも大事にしている。
 それは私もずっと思っていた。
 だから偶に悪戯していた。

「母さんと私どっちが好き?」

 本気で悩みだす父さんを笑ってみていた。

「嘘でも母さんって言わないと大変だよ?」
「じゃ、母さん」
「へえ……嘘じゃないと私って言えないんだ?遊は」

 母さんがそう言って慌てている父さんを見て笑っていた。
 お爺さんも私の事を大事にしてくれるけど、父さんとはなんか違う感情を感じていた。
 率直に言うと気持ち悪い。
 それがなぜだろう?と母さんに相談していた。

「瑛大さんに何かされたの!?」

 母さんの表情が不思議だった。
 
「着替えを手伝ってくれたり、一緒に寝てくれたりするときに体を触ってきたりするの」

 お爺さんにされていたことを母さんに伝えると、母さんは慌てて亜依さんに電話してた。
 亜依さんとは父さんのお母さんのこと。
 その後2人は大ゲンカしたらしい。
 
「いい、なるべく瑛大さんと二人っきりになったらいけない」

 同じ事を朱鳥にも注意してた。
 どうしてだろう?
 快にも相談したけど不思議そうにしていた。
 小学校に着くとみんなグラウンドに整列している私達も進と朱鳥と別れて、自分のクラスの列に並ぶ。
 それから公園まで歩いていく。
 
「で、快はいつになったら琴音に告るの?」
「ば、馬鹿愛菜。声がでかい」
「あのさ、今更な関係だからさっさと事実にしなよ」
「愛菜の言う通りだよ?ちゃんと言わないと1/3どころか1ミリも伝わらないよ」

 純情な感情なんて知らない。
 事実私達はそういう認識をされている。
 だけど雰囲気で察してなんて私が可哀そうだ。
 ちゃんと言って安心させてあげなよ。
 聞こえてるけど聞こえないふりをしながら亜咲や樹理と話していた。

「そういう話に優奈達が突っ込んでいいのか?とは思うんだが」
「悠翔も他人事見たいに言わないで!あんたパパに似て堅物で色気なんてどこにもない!」

 体格まで優奈のお父さんに似ているらしい。

「でも、僕も思うよ。心配しなくても琴音の事は知ってるんでしょ?」

 海翔が言った。
 海翔は優奈と付き合っている。
 私達の学年だと海翔を怒らせると大変な事になる。
 それでも優奈が頭を小突くだけで収まるらしいけど。
 それが海翔の家の男子の特徴らしい。

「わかったよ。で、いつ言えばいいんだ?」

 快がその気になってくれたみたいだ。
 もともと修学旅行までには言おうと決めていたらしい。
 卒業式でもよかったけどどうせならちゃんと交際を始めた方が修学旅行が楽しくなると思ったらしい。
 だけど、優奈達はそこまで気長じゃなかった。

「決めたのなら今日言えばいい」

 偶にこういう無茶振りをする。
 作戦はこうだ。
 どうせ二人っきりになったら緊張して何も言えなかったなんてオチが分かってる。
 だからお弁当食べる時にストレートに気持ちを伝えろ。
 心配しなくても私達の友達で他人の恋愛を冷かす間抜けはいない。
 そんな真似したら優奈と愛菜の餌になる。
 もっと深刻な状態になると海翔が怒り出す。
 私達の学年で済んでるならまだましだ。
 上級生に気づかれたら生きて帰れない。
 なぜなら茉莉と菫がいるから。
 だから私達SHには絶対に馬鹿な真似をしない。
 そう決まっていた。
 だから心配しないでちゃんと見守ってやるから安心して告れ。

「でも、それってムードとかそういうのないのか?」
「んなもん小学生が考える必要ないでしょ?」

 体育館裏に呼び出すのか?
 それともまさかクリスマスやバレンタインを待つなんて言うのか?
 そんなのはプロポーズでもする時に考えろ。
 女子はいつだってかまわない。
 好きって言ってくれるだけで嬉しいんだ。

「わかったよ」
「じゃ、頑張れよ。あんまり長いセリフ考えるな。ストレートに”付き合ってください”でいいんだ」

 まあ、あんまり鳥肌が立つようなくさいセリフは嫌だな。
 お弁当の時間を楽しみにしていた。
 公園に着くと先生の注意が始まる。
 菫達が「いつも言ってるだろ!話がなげーから禿げるんだよ。さっさとすませろ。こっちは腹ペコなんだ!」と叫んで余計に時間を長くしている。
 それが終わると皆それぞれの場所を確保してお弁当を食べていた。
 私達もお弁当を食べ終わってお菓子を食べながら快の告白を待っていた。
 そしてその時が来た。

「あのさ、琴音。聞いてほしいことがあるんだ」
「……うん」

 分かっているとは言え緊張する。
 皆もお菓子を食べるのをやめてこっちを見ていた。
 そして快が意を決して言おうとした時だった。

「琴音!!ちょっと大変!」

 朱鳥の同級生の渡辺波留が血相を変えてやって来た。

「どうしたの?」

 海翔が聞いている。
 あの馬鹿達また今年もやっているようだ。
 1年生からお菓子をたかるFG。
 今は進と朱鳥と波留の弟の正文が相手をしているけど長引くとまずい。
 茉莉達に気づかれたらアウトだ。

「快、ごめん。だけど放っておくわけにもいかない」
「そうだな……」

 落ち込んでいる快。

「また次の機会を待てばいい」

 優奈達がそう言って1年生の場所に向かう。
 私達もついて行った。
 多勢に無勢のところに海翔や優奈達が乱入して乱戦となった。
 進と朱鳥はその名前が示すように能力を与えられている。
 だから上級生くらいどうってことない。
 しかし押され始めたFGが戦えない私達に手を出す。
 男子は皆戦闘中。
 私が何とかするしかないと思った時だった。

「どさくさに紛れて人の彼女に手を出すな!」

 え?
 そう言ってFGのメンバーをぶん殴ったのは快だった。

「悪い、大丈夫か?琴音」
「……うん」

 自分で今言った言葉を分かっているのだろうか?
 
「智也たちに任せるか……琴音は俺のそばを絶対離れるな!」
「馬鹿!快!後ろ!!」

 愛菜が叫ぶと快は後ろを振り向く。
 なんでそんな物を所持していたのか分からない。
 金属バットを持って快に襲い掛かろうとするFG
 しかしその動きはピタっと止まった。
 よく見ると海翔が睨みつけていた。

「すごいね快は。やっぱり自分の彼女くらい守りたいよね」
「なんだこのガキ……動けない」
「それに比べて君たちは情けないにもほどがあるよ。もう時間だ。諦めなよ」

 海翔がそう言うとそいつは突然殴り飛ばされた。
 時間切れだった。
 当たり前の様に茉莉と菫が嗅ぎつけて来た。

「お前の弟も言うようになったじゃねーか?茉莉」
「ああ、さすが私の弟だ。これで心置きなく卒業できる」
「……にいにと結莉は?」

 海翔が聞くと茉莉が答えた。

「あいつらはいちゃつきながらお菓子食ってるよ」

 結莉と結が出てきたら最後。
 この公園の存続自体が危うくなる。
 その前に可能な限り始末する。
 それがSH小学生のルール。
 菫と茉莉が前に出ると後ずさるFG。

「ったく……喧嘩したいなら素直に言えばいつでも受け付けてやるぜ」
「茉莉の言う通りだな。私達に黙って抜け駆けすんなこのクソガキ」

 2人はそう言って構わず片っ端から黒いリストバンドをした男たちを叩きのめす。

「茉莉、能力は使うな。後が面倒だ!」
「お前こそその腰にぶら下げてる道具使うんじゃねーぞ」

 また天音が愛莉たちに怒られる。
 彼らは既に戦意を喪失していたけどそんなの二人に関係ない。

「少しは抵抗しろ馬鹿!やりがいがねーだろ!」
「私達が出てきてビビるくらいなら最初から面倒なことさせるんじゃねえ!」

 お前らのせいでお菓子食い損ねたどころか下手すりゃ晩飯抜きだぞ!
 無茶苦茶な理由で逃げ出そうとするやつも捕まえて殴り飛ばす二人。
 そんなに時間はかからなかった。
 桜子先生が駆けつける頃には大体ほとんどのFGが倒れていた。
 その惨状を見て桜子先生が茉莉達を叱る。

「ざけんな!こいつらが1年生からお菓子を巻き上げるとか乞食みたいな真似するから指導しただけだ!」
「だからと言って気絶するまで殴り続ける小学生がどこにいるの!」
「ここにいるから問題ないだろ!」
「あるに決まってるでしょ!二人ともこっちに来なさい」

 そう言って桜子先生が二人を連れて行く。
 だけど天音と水奈と母さん。
 恵美さんと晶さんと美希。
 そんな母親たちの前に桜子はなすすべがなかったらしい。

「他人の食べ物横取りしようとして死ななかっただけましだろ?」

 天音はそう言ったそうだ。
 そんな騒動で快の告白は無に帰った。
 ……そんなわけにはいかない。
 学校に戻ると解散した。
 快は家まで送ってくれる。

「じゃ、またな」
 
 そう言って帰ろうとする快を呼び止めた。

「どうかしたの?」
「……進と朱鳥は先に家に帰っていて」
「分かった」

 そう言って進と朱鳥は家に入る。

「今日のお昼何か言おうとしてたんでしょ?」

 今教えてよ。

「ここで言うのか?」
「何かいい場所あるの?」
「特にないけど……」
「だったら今伝えてよ」
 
 今日知りたい。
 やっとチャンスが来たんだから逃したくない。
 頑張って。
 快が何を言おうかをすでに知ってる事に気づいたらしい。
 快は恥ずかしそうに言った。

「ずっと好きだった。付き合って欲しい」
「……ありがとう。私も快が好き」

 よろしくね。
 そう言って快は安心すると家に帰って行くのを見届けた。

「……で、朱鳥は盗み聞きするのは趣味が悪いよ」
「ばれてた?」

 玄関の扉を少し開けて様子を見ていた朱鳥が笑っている。

「いいなあ。私も彼氏できるかな?」
「きっとできるよ」

 だってこれは恋愛小説。
 当たり前のように皆が恋に落ちる物語。
 余りに嬉しくて母さんに相談した。

「やっぱりそうなったか」

 そう言って娘の初恋を祝ってくれた。
 父さんは週末に快の父さんの粋と飲みに行ったそうだ。
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