姉妹チート

和希

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(1)

 茉莉や菫達も遊達と一緒になって熱唱している。
 絶唱したら死んじゃうからダメって天音に言われたらしい。
 しかし聞けば聞くほど意味の分からない歌だ。
 騎乗位ってなんだろう?
 馬並みのアレってなんだろう?
 ガバスがマネーって何処の国の通貨なんだろう?
 不思議に思いながらも聞いていた。

 ぽかっ

「結。この唐揚げ自信作なの」
「茉奈はさ、馬並みのアレって……」
「食べて♪」

 聞いたらいけない事らしい。
 素直に唐揚げを食べる事にした。
 あれ?

「茉奈。これいつもと味が違う」
「でしょ。だから自信作なんだよ」

 優翔と試行錯誤した配合の秘伝のたれにじっくり漬け込んだらしい。
 これは確かに美味しい。

「本当?」
「うん、これ多分……」

 母さんのより美味しい。
 俺がそう言うと茉奈は嬉しそうに抱き着いてきた。
 茉奈は最近積極的に抱き着いてくる。
 母さんは理由を知っているようで笑っていた。

「絶対に茉奈に言ったらだめだよ」

 母さんがそう言って教えてくれた。
 茉奈ももう小学校5年生。
 そろそろ体が女性らしく変化を始める事。
 それは茉莉を見ていたら分かる。
 菫はあまり変わらないみたいだけど「絶対にそれは触れないでおやり」って秋久が言っていたから黙っていた。
 しかしそんな事を教えられて抱き着かれるとやっぱり意識してしまう。
 確かに柔らかい物があった。
 俺の様子がおかしい理由に気づいた茉奈はにこりと笑う。

「結も気づいてくれた?」
「……うん」
「でも、まだ駄目だよ」

 そういうのは中学生になってからって神奈が言ってたそうだ。
 俺もそう聞いていた。

「しかし茉奈の唐揚げってそんなに味違うの?」

 父さんは唐揚げの味の方が気になったらしい。

「空も一個食ってみるか?」

 そう言って水奈は父さんに唐揚げを渡すと、父さんはそれを食べていた。
 そして驚いている。

「本当だ……。多分これ母さんのより美味しい」
「そう言われると気になるね。水奈、私にも一つくれ」

 天音もそれを食べて驚いていた。
 そんな天音を見て水奈は得意げに笑う。

「そんなに違うのか?」

 美嘉さんや紗理奈達も気になったようだ。
 
「いっぱい作ってあるから遠慮するな」

 茉奈の唐揚げを食べた皆が驚いていた。

「これ下手な店に入るより美味いじゃないか?」

 フランスで賞をとった茉里奈ですら賞賛する茉奈の唐揚げ。

「いっとくけどレシピは教えねーぞ」

 水奈はビールを飲みながらそう言っていた。
 作ったのは優翔と茉奈らしいけど。
 今日は渡辺班のお花見。
 お花見なのに夜するという意味が分からない日本の伝統。
 まあ、夜更かし出来るから嬉しい。
 最近夜更かしという事を覚えた。
 比呂やカミルも一緒だ。
 そして23時頃になるのを待つ。
 昭和からの伝統の音楽を鳴らしてラーメンの屋台がやってくる。
 それを聞いた俺は母さんに「ラーメン」とお願いする。

「ひょっとしてその為に起きていたの?」
「うん」
「そっか。……でもだめ」
「どうして?」
「そんな事の為に夜更かしした子供を叱るのが母さんの仕事だから」
「あなた達今からそんなんだと将来絶対に後悔しますよ!」
「愛莉。キャンプの時は夜食を許すのに今日はダメっておかしくないか?」

 じいじがそう言ったらしい。
 だけど愛莉は反論する。

「冬夜さんは自分も食べたいから言ってるだけでしょ!絶対に許しません!」
「まあ、多分そうだろうと思って用意しておいたんだ」
「え?」

 不思議そうにする愛莉の前を通ってキッチンに向かうと引き出しの中からカップラーメンを取り出した。

「外に出れないからこれで我慢しなさい」

 天音達は喜んだ。
 愛莉は激怒した。

「どうして冬夜さんはそうやって子供たちに甘いんですか!」
「だって別に夜更かしして成績落としてるわけでもないし怒る理由ないだろ?」
「成績落とさなかったら何してもいいというのはおかしくないんですか!?」
「だから小学生だから夜間に徘徊するのはまずいだろうからカップラーメンならいいんじゃないかって」
「問題はそこじゃないってどうしたら分かってくれるんですか!?」
「他に何か問題あるの?」
 
 徹夜で勉強するのはいいのに、徹夜で遊ぶのはだめっておかしくないか?
 それが原因で学業がおろそかになってないのは成績見たら分かるだろ?

「うぅ……」

 愛莉が負けた瞬間だった。
 じいじがすごいのはそこからだと天音が言った。

「愛莉はまだ若いよね?」
「そんなお世辞言っても私の機嫌は直りません」
「そうじゃなくてさ……」

 偶には朝まで相手してよ。

「子供の前で言う事じゃありません……困った旦那様ですね」

 そう言っていともたやすく愛莉を操るんだそうだ。
 しかし問題がある。
 朝まで何をするんだろう?
 確かすごろくのゲームで100年とか設定すると一日じゃ終わらないって聞いた。
 でも愛莉はあまりゲームは好きじゃない。
 何をするんだろう?
 徹夜でDVDを見る理由もわからない。
 誠は夜ひっそりと一人でリビングでDVDを見るらしい。
 誠司はパオラと一緒に寝ているそうだ。
 何でリビングなのか?
 神奈が寝室で寝てるから。
 あとリビングのテレビが一番大きいから。
 だけど誠は詰めが甘いってじいじが言ってた。
 大きな画面で見てヘッドフォンを使って音が漏れないようにしたのはいい。
 だけどそのせいで背後に忍び寄る神奈に気づかなかった。

「お前は深夜に何をこそこそとしてるんだ?」

 神奈が言うと誠は慌てて振り返る。
 するとヘッドフォンのジャックが外れてしまう。
 大音量でそれが家中に響いた。
 当然誠司やパオラも気づいて起きてしまう。
 誠司郎も起きてしまった。
 
「すぐに消せ!」
「わ、わかってる」

 しかしこの世界にもお約束という物がある。
 誠はリモコン操作を誤って一時停止をした。
 リビングに駆け付けた誠司とパオラは驚いていた。
 誠司は笑うしかなかったらしい。
 その後誠は朝まで説教を受けたそうだ。
 じいじも朝まで説教を受けたのだろうか?
 でも愛莉は嬉しそうにしてたそうだからそれはなさそうだ……。
 うーん、何をするんだろう?

 ぽかっ

「結は気にしなくてもいいの」
「でもさ……」
「気にしなくていいよ」

 これ以上続けるのは得策じゃないから卵焼きを食べていた。
 多分女の子だからと母さんは言っていた。
 うちのだし巻き玉子と違って結莉の玉子焼きは甘い。
 お菓子みたいだ。
 でも、これはこれで悪くない。

「おい、冬夜。あのままでいいのか?」

 誠がじいじに聞いていた。

「別に問題ないんじゃないのか?」
「お前がそんなんだから渡辺班の男は女房に舐められるっていつも言ってるだろ!」

 瑛大が立ち上がって叫ぶ。

「ば、馬鹿瑛大。声がでかい」

 誠は多少学習をするらしい。
 少なくとも瑛大よりは。

「お前らは毎年いい加減にしろ!そうやって他の家庭まで巻き込むな!」

 渡辺さんがそう言って注意していた。

「ったく……毎年同じ事で怒らせやがって。誠司郎たちは絶対にそうはさせねーぞ……」
「誠司は誠とは違うみたいだから大丈夫だと思う」

 神奈とパオラが話してる。

「誠司が違う?」

 水奈が気になったみたいだ。
 パオラは言った。
 父親になってからますます変わった。
 誠と違うのは息子なのに誠司郎を溺愛してる事。
 その一方でパオラへの気配りも忘れていない。
 毎晩ご苦労様って労わってくれるらしい。
 それを聞いていた水奈と神奈さんは驚いていた。

「そ、そうだったのか……」

 過去の誠司からは想像つかなかったのだろう。

「多分そういう過去があるからだと思います」

 パオラは誠司の過去を知っているらしい。

「おい、学。お前も少しは妻をいたわってくれてもいいんじゃないか?」
「水奈。お前前提を忘れてないか?」
「どういう意味だよ?」
「この前の話悠翔から聞いたぞ」
「あ、あれは仕方ないだろ!?」
「おい、学。このバカ娘は今度は何をやらかしたんだ?」

 神奈が聞いていた。
 平行四辺形の面積の出し方について優奈達が聞いたらしい。
 多分公式を知らないのは学も察した。
 だから今一生懸命水奈に勉強させているのだから。
 小学校1年生からやり直しているらしい。
 
「水奈って大卒だよね?」

 父さんや母さんは不思議そうにしてた。
 しかしそんな生温い問題じゃなかった。

「なんだそれ?」

 優奈達にそう答えたらしい。
 平行四辺形ってなんだ?
 あとつらづみって何を積むんだ?
 そう優奈達に質問していた。
 悠翔がどうしようか悩んで学に聞いたそうだ。
 それを聞いていた神奈は怒り出すかと思ったけど頭を抱えていた。

「私がもう少し水奈の勉強を見てやるべきだった」
「お義母さん。多分それでも水奈は変わらないと思います」

 水奈の学力の低さは子供が出来てから発覚したことじゃないらしい。
 水奈と婚姻届けを出す時に学は気づいていた。
 さすがに水奈でも自分の名前を漢字で書くくらいはする。
 だけどその書き順に違和感を覚えたらしい。

「その書き順どこで覚えたんだ?」
「へ?書き順なんてあるのか?」

 結婚した当時から問題を抱えていたそうだ。
 今は天音がそれを説明していた。
 しかし俺はこれだけ騒いでも全く起きる気配がない雪が気になった。
 ぐっすりと眠っている。
 俺の視線に気がついた瞳子が教えてくれた。

「雪は夜は寝る時間って覚えちゃったみたいで」

 その時間だけは絶対に邪魔しちゃいけない。
 じいじが瞳子達にそう忠告したらしい。
 まだ雪は我慢が出来る歳じゃない。
 もし雪にもし何らかの力があったとして雪の機嫌を損ねるのだけは避けた方が良い。
 そう言ってから善明や秋久が頻繁に雪の様子を見てるそうだ。
 秋久には他人の能力を見破る能力があるから。
 その秋久も首を傾げていた。

「虚無だよ」

 得体のしれない物を持っているそうだ。
 人は何らかの接触があると必ず反応を示す。
 しかし結は瞳子が何か話しかけない限り一切反応しない。
 善明ですら恐怖を覚えたらしい。
 実際俺も雪を見ても何も分からない。
 力を持っているのかどうかすら分からない。
 相手が誰だろうと関係ない力を持っていると思っていた。
 だけど雪はそれ以上の何かを持っているように感じた。

「なんで片桐君の子供は普通に生まれてこないんだろうね?」

 公生がそう言って笑っていた。

「僕が知りたいよ。……それに」

 じいじが何か言いたげだった。

「まさかまだ何か持ってるわけ?」

 亜依が言うと首を振った。

「そうじゃない、僕自身がどうだったかを忘れている気がしてならない」

 じいじはそう答えて雪を見ていた。
 その話は家に帰ってからも父さんと母さんがしていた。
 俺達はすぐに風呂に入って寝る。
 じいじの悩みが明かされるのはまだ当分先の様だった。

(2)

「あれ?加奈子と喜一じゃねーか」

 加奈子は山本勝次の妻。
 喜一は妻が女優だから子供の面倒を代わりに見ている。

「天音達も呼び出されたのか?」
「私達は毎日呼び出されてるよ」

 水奈の言ってる事が冗談じゃないから困った事だ。
 あんまりうるさいから着信拒否にしていたら愛莉に連絡しやがる。
 そうなるともっと面倒な事になるから着信拒否は止めた。
 しかし桜子もいい加減学習したらいいのに。
 茉莉や菫を怒らせる馬鹿を駆除した方が絶対早いぞ。
 少なくとも病院の手間が省けるから。
 水奈も相変わらず優奈達が暴れ出すらしい。
 FGなんて名乗ってもいいことはない。
 単なるSHの餌だといい加減気づいてもいい頃だと思うが。
 しかし今年は勝次たちまで巻き込んだのか?

「喜一や勝次の子供はFGなのか?」
「そんな自殺行為を許すわけないだろ」

 喜一がそう言って笑った。

「むしろ逆らしいんだ」
「え?」
「まあ、学校に行けば分かるんじゃないかな?」

 美希がそう言うから私達は学校に向かった。
 職員室に行くと桜子が疲れはてていた。

「おつかれ。桜子」

 とりあえず挨拶をする。

「ちょっとここじゃ狭いからこっちに来て」

 いつもの元気がないな。
 あいつ等々病気になったか?
 少しは手加減してやれって茉莉達に言った方がいいかな?
 私達は会議室みたいなところに入るとあることに気づいた。
 子供達はいる。
 しかし相手の子供がいない。
 いくら何でもそれは無いだろ。

「水島先生。これはどういうこと?喧嘩したのなら相手も呼び出すのが筋でしょ」

 翼でもさすがにこれは無いと思ったらしい。
 桜子に事情を説明してもらう。

「相手は多すぎて全員集めるのは無理だから各教室に親を呼んでる」
「いったい茉莉達が何をやったって言うんだ?」

 あいつらはすぐに喧嘩に出るけど1年生いたぶって喜ぶような馬鹿じゃない。
 それにその必要はないけど、相手にしてもすぐに親呼ぶ腑抜けと喧嘩するほど臆病じゃない。

「まずはそれを説明するから話を聞いて」
 
 桜子はそう言って説明を始めた。

(3)

「太一!お前一人じゃ無謀だ。俺達も加勢する」
「大和の言う通りだ。お前一人なんて馬鹿な真似はさせない!」
 
 小泉杏介や如月大和が言うけど俺はそれを拒否した。

「この程度の数どうってことない。お前らは手を出すな!」

 そう言って杏介たちを抑えた。
 昼休みの時間給食が終わると杏介たちと外で遊ぼうとした時だった。
 黒いリストバンドをしたやつらが教室の出口を塞いでいた。

「まずはどっちが強いかはっきりさせておかないとな」

 奴らのリーダーがそう言って笑う。

「馬鹿が現れたら一人残らず処刑しろ」

 茉莉達からはそう聞いていた。
 だから杏介達もそのつもりだった。
 しかしこういう時は頭同士で勝負をしてケリをつけるのが一番だと父さんから聞いていた。
 父さんは言った。

「いいか?いざという時になったらまず最初に牙をむかなければいけないのが頭だ」

 SHは仲間を傷つけられたら真っ先にリーダーが出ようとする。
 だけどリーダーの力が強いからしょうもないことに頭に動かれたら組織として格好がつかない。
 だから仲間は皆言うんだ。

「お前は王なんだから最後にだけでてくりゃいいんだ」

 SHのリーダーはただ人柄の良さでその地位に甘えているわけじゃない。
 SHで一番強いからその地位にいるんだ。
 いざという時に仲間を守るつもりで先頭に立つのがリーダーの条件。
 そんな覚悟すらないチキンにその資格はない。
 リーダーがいつでも前に立とうとする。
 そのリーダーの手を煩わせたくない仲間。
 そんな結束があるからSHは最強なんだ。
 全体のリーダーは無理でも俺はこのクラスの頭でいたい。
 だから杏介達に手を出す奴は俺は許さない。
 タイマンでケリをつけてやるからお前とサシで勝負しろ。
 俺がそう言ったけど相手は違うようだ。

「最初に最大の戦力で完膚なきまでに叩き潰すのが俺達のやり方だ」

 俺ごときの挑発に乗るはずがない。
 いいだろう。
 そう言う事なら受けてやる。

「こいつらを全員叩きのめしたらお前が相手になるんだな?」
「やれるもんならやってやるよ」

 FGのリーダーがそう言うと俺は一番近い奴から殴り飛ばす。
 すると一斉に襲い掛かってくる。
 人数なんか関係ない。
 片っ端から倒していく。

「太一!後ろ!!」

 佐原椿が叫ぶ。
 椅子を持ち上げた男が俺に向かって振り下ろす。

「お前ふざけんな!」
「武器の使用は禁止なんて誰も言ってないだろ?」

 そんなやりとりをしていたが俺には関係ない。
 俺にはその程度の攻撃どうでもいいくらいだった。
 微動だにせず振り向くとそいつを殴り飛ばしてにやりと笑う。

「いいぜ?武器でもなんでも使え。ただし俺がお前達を皆殺しにすると言った以上お前らの死は絶対だ」
「格好つけてんじゃねーよ!」

 なんでそんな物を学校に持ってきたのか分からないけど背中に金属バットで叩きつけた馬鹿がいる。
 椅子で殴られても平気な俺に金属バットなんか使っても意味が無いことくらい分からないのだろうか?
 これが俺に与えられた能力「強化」
 自分の体を極限まで強化する。
 もちろんそんな状態で殴ったりしない。
 相手の頭部を粉砕するだけだから。
 すると卑劣な馬鹿は次の手段を考える。
 桜咲すずめと瑠璃を人質に取ろうと企む。
 すると杏介と大和がそれを阻止する。

「うちの大将が相手するって言っただろうが!勝手な真似してんじゃねーよ」

 そうこうしているうちにあとはリーダーだけになった。

「さてと、お前は特別に躾けてやらないとな」

 指を鳴らしながらリーダーに近づく。
 しかしリーダーにはまだ余裕があった。

「どうしてこのクラスのメンバーだけだと勘違いした?」

 そう言うと教室の外から他のクラスの……上級生まで混ざって来た。
 
「FGをあまり舐めるなよ?よく頑張ったけどお前らの結末は変わらない」

 勝ち誇るそのリーダーを見て俺達は笑った。
 するとリーダーの表情が変わる。

「何がおかしい?」

 その問いに答えたのは結花だった。

「あんたやっぱりリーダーには向いてない」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味だよ?あんた最大のミスをした」

 それはこのクラスだけで済ませておけば一々動く連中じゃなかった。
 とりあえず自分達だけで何とかしろ。
 そうでなくても俺達1年生は比較的メンバーが多いんだから。
 だけどお前はその配慮を無視して愚かな行動に出た。
 どうして自分たちの仲間が動いて俺達の仲間が動かないと思った?
 そのくらいの判断も出来ない奴がリーダーの資格は無い。

「いざという時に先頭に立てない奴に誰もついて行かない。SHなら誰でも知ってるよ」
「じゃあ、呼べよ。俺達最強のFGに……」
「嘘ついてんじゃねーぞクソガキ」

 その女子の声を聞いて誰かと振り向こうとした時には愛菜が殴り飛ばしていた。

「ったく新学期早々ふざけた真似しやがって」
「退屈な授業の時間なのにとりあえず起きて話を聞いてろって水奈が言うから起きていて、せっかくの睡眠時間まで割いてきたんだ。ただで帰ると思うなよ?」
「愛菜たちの言う通りだな。俺の弟にふざけた真似してくれたんだ。死ぬのはお前らだ」
 
 そう言って上級生が襲い掛かろうとした時、昼休みの終わりを告げるベルが鳴った。

「ちっ……。この件はただで済ますと思うなよ」

 そう言って愛菜たちは教室に戻る。
 珠希が俺に言う。

「能力があるとはいえ無茶しないで」

 そう言って頭を撫でて恭一について行った。
 それから何事もなかったかのように教室を片付けて席に着いた。
 しかし大量のけが人を見た担任の渡辺が事情を聞くと情けないことに「あいつらにやられた」とリーダーが叫んで問題になった。

(4)

「へえ、太一の奴やるじゃん。父親に似たのかな」

 加奈子は嬉しそうにしている。
 しかし問題がある。

「愛菜たちはともかく茉莉達は関係ないじゃないか。なんで私が呼び出されるんだ?」
「ふざけんな天音。お前だけ助かろうってのか?愛菜たちだって授業中起きてるんだからいいだろ!」

 授業中に堂々とゲーム機で遊んでいるそうだけどな。
 寝てた方がましなんじゃないか?
 だけど桜子はその後の事を話してくれた。
 どれだけ馬鹿なのか知らないけどその話は6年生まで動いていたらしい。
 そんな騒動を見逃す茉莉達じゃなかった。
 結末が時間切れじゃ茉莉達が納得いかない。
 相談した末暴れ出した。

「5限目は喧嘩の時間だぁ!」

 そういって茉莉が6年生のドアを破壊したらしい。

「俺達が6年狙うのが普通じゃないのか?」

 朔はそう言ったらしい。
 だけど茉莉は反論した。

「ざけんな!相手が上級生なら手加減無しで殺しても正当防衛になるだろうが!」

 そんな楽しみくらい彼女に譲れ。
 茉莉と菫はそう主張していた。
 で、2人で6年生のFGのメンバーを全員まとめて3階のベランダから投げ飛ばそうとしたらしい。

「心配するな。遺書の偽造の仕方は天音から聞いた。安心して死ね」

 そう言って投げ飛ばそうとするのを教師が大勢で止めたそうだ。
 それなら私達も暴れようぜと優奈と愛菜も4年生の教室に殴り込みをかけたらしい。
 5年生が手薄になったから狙われる?
 心音から離れるような秋久じゃない。
 それでも心音を狙う馬鹿がいる。
 同時多発テロって奴だ。
 教師の数が圧倒的に足りなくて鎮圧するのに時間がかかったそうだ。
 ちなみにその間自由時間になって結と茉奈はのんびり話をしていたらしい。

「ねえ茉奈」
「どうしたの?」
「なんでコンビニのおにぎりって梅干しの種が無いんだろうな?」
「うーん、種があるのもあるよ?」

 種が入ってないのは誰かが種を抜いてるから。
 だから人の手が触れている。
 それが理由で結莉は種がない梅干しは嫌いらしい。
 しかし誤飲したら問題だと騒ぐ間抜けがいる。
 だから最近は骨抜きの魚とかいうしょうもないものも商品化されている。
 美希はそういうのを使わないらしい。
 骨の取り方くらい子供のうちに教えておくべき。
 食事にたいしては徹底的に躾ける片桐家流にしたがっていたそうだ。
 乱暴な茉莉でも秋刀魚を綺麗に食べるくらいだ。
 大地は殆どの部分を残す。
 
「骨多くて食べにくいんだよ」
「大地が食べないなら私が食べる」
「ふざけんな!お前も徹底的に私が躾けてやる!」

 そんな喧嘩が耐えない石原家だった。
 まあ、そんな理由で美希は呼び出されていない。

「そういうわけで少しは大人しくしてるように教育して欲しいんだけど」

 桜子がそう頭を下げるけど翼は反論していた。

「話を聞いていたら茉莉達はもちろん太一だって落ち度が無いと思うのですが」
「それは分かってる。しかし教師の立場ってのを考えて欲しいの」
「それでもやっぱり茉莉達を叱るのはおかしいと思います」

 一方的にしかけてきて、しかも大勢で襲い掛かってやられたら上級生を呼んで、それでもやられたら教師に泣きつく。
 それが海翔や秋久なら間違いなくイスラエルにバカンスだな。

「私も美希の意見に同感だ。だが、桜子の平等でないいけないという立場も考慮してやる。この場にそのクソガキ全員連れて来い」

 私がそいつらに徹底的に教育してやる。

「絶対そうなると思いました」

 え?
 振り返ると雪を抱えた愛莉が立っていた。

「あなたが動いたら大事になる事くらい少しは理解しなさい」

 今日だって恵美さんや晶さんが乗り込もうとするのを愛莉が抑えたらしい。
 危うく失業者が増える所だ。
 孤児院だってそんなに多くないんだから立場を考えなさい。
 私はそういう立場だ。

「そう言うわけで翼も今日は我慢して」

 翼も恵美さんと同じ真似をするつもりだったらしい。
 愛莉はそう言うと桜子を見る。
 
「今日はこのくらいでいいでしょ?茉莉達が悪いわけじゃないのだから」

 授業時間に教室に特攻かけるのが悪いかどうかは置いておこう。
 しかし愛莉には何か違う思惑があるみたいだ。
 桜子もそれを察して私達は解放される。
 帰りに喫茶店に寄ると愛莉が提案をする。

「あなたは石原家の嫁。だから私が干渉するのはおかしいと思う。それでも天音の力を貸してほしい」
「……ひょっとして雪か?」

 雪が夜泣きを始める頃になった。
 ただ自分の手で掴めるものを持って何かを確かめているようだと愛莉が説明した。
 雪は相変わらず瞳子にしかあまりコミュニケーションを取らない。
 だから雪の夜泣きをあやす役目も瞳子が持っている。
 だから昼間は瞳子の負担を減らしてやろうと今も雪を抱いている。
 今までの様に愛莉が学校に来ることは難しい。
 だけど恵美さんや晶さんが動いたら最悪の結末を迎える。
 だからそうならないように私に協力して欲しい。
 茉莉を注意しろと言うわけじゃない。
 親が出て行かないといけなくなった時に私がいい妥協案を探しなさい。
 それでも忘れてはいけない。
 私だって石原家の嫁だ。
 私に何かあったと知ったら恵美さんが動く。
 身分を弁えて行動して欲しい。
 愛莉がそうお願いしていた。
 私はもう片桐家じゃない。
 だから片桐家の都合を押し付けるわけにはいかない。
 それでもいつまでも愛莉が出てこなきゃいけないような事態は避けて欲しい。
 確かに雪だって私の姪だ。

「わかったよ。努力する」
「ありがとう。助かります」

 愛莉から「ありがとう」なんて滅多に聞かない。
 それだけ片桐家の中も雪の事でてんやわんやしてるんだろう。
 もうただ暴れたらいいわけにはいかない。
 そしてそれだけ愛莉を悩ませる雪。
 桜子は既に新しい爆弾を背負っているんじゃないか?
 それまで桜子が教室を続けていればの話だけど。
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