姉妹チート

和希

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(1)

「今年も最高だな!瑛大」
「本当気持ちいいよな!誠」

 渡辺班の殆どの人間が「孫が張り切ってる姿を見に来た」と言う名目で小学校の運動会に来ていた。
 相変わらず奮闘する孫をしっかり応援しているのはいない。
 空と美希は結達をしっかり応援していた。
 結も言われたとおりに加減しながら徒競走で1位を取るという離れ業をしていた。
 それも「茉奈に喜んで欲しいから」と片桐家ではあまりない理由で頑張っていた。

「やっとトーヤの血をもらえる時が来たのか」
「神奈、あの子は桐谷家のものだよ」

 カンナと亜衣さんが上機嫌で言う。
 昔何人かのハリウッドのアクション俳優がいて、その人たちがチームを作って映画を作っていた。
 あのメンバーだけで竹島くらい奪還するんじゃないかと噂していたほどのメンバー。
 まあ、渡辺班の場合奪還するというミッションを忘れて竹島を跡形もなく消し去ってしまいそうだけど。
 子供たちが孫を作る連れて参加するメンバーが増えて来た。
 完全に一部のエリアを支配して競技そっちのけで騒いでる。
 いつか出入り禁止食らいそうな気がするんだけど、校長も渡辺班には手を出したくないそうだと石原君から聞いていた。
 自分の地位を守りたかったら手を出してはいけない存在。

「愛莉。瞳子はいつ頃産まれそうなんだ?」

 カンナが愛莉に聞いていた。
 もうそろそろのはずだと愛莉が答える。

「お互いまだ楽しみがあるっていいよな」

 誠が言う。
 僕も「そうだね」とだけ返した。

「何か不安でもあるのか?」

 カンナが聞いてくると僕は答える。

「ただ凄いだけじゃない気がしてさ」
「それが不安なのか?」
「空といい、冬吾といい、冬夜さんの息子は良い子ばかりだったじゃないですか?」

 娘だから不安はあるけどと愛莉が言う。

「ちょっと待て!じゃあ、私達は問題だと愛莉はいいたいのか!?」

 天音が怒り出した。

「天音は現在進行形で問題を起こしてるじゃないですか!」
「愛莉、今日くらい許してやれよ。いつも子供の世話で頑張ってるんだから」
 
 いつも何かしら問題を起こしてくるから問題なんだけど。
 しかし誠は違うように受け取ったらしい。

「お前の性格を継ぐのなら問題ないだろ。それに冬吾の子だぞ?」
「そうだよ。僕の孫で冬吾の子なんだ」
「じゃ、問題ねーじゃん」
「トーヤは高望みしすぎなんじゃないのか?誠に比べたら全然いい方だぞ」
「そうだよ。片桐君の一族なら絶対問題ないって」

 カンナと亜依さんが言う。
 切れるとどこまでも暴走する。
 父親を誘惑する。
 問題なんてそれくらいだという。
 だけど本当にそれだけなのだろうか?
 何かを忘れている気がしてならない。
 それが分からなくてここ数日悩んでいた。

「私が言うのもなんですけど旦那様は理想の父親ですよ」

 娘に甘いのが少々問題なくらいだと美希が言う。

「それは冬夜さんも同じでした」

 愛莉がため息交じりに言う。

「ひょっとして男の子が欲しかった?」

 冬莉が言う。
 それを言ったら結莉や茉莉もなんだけど。

「孫娘はいいぞ。可愛いくてたまらない。な?瑛大」
「そうだぞ。今から優しくしてやってじいじ大好きって言われるのが俺の夢なんだ」

 誠と桐谷君が言うとどうも犯罪の匂いがするのは気のせいだろうか?
 どう説明しようか。
 
「……結はいい子だね」
「でしょ、私達も自慢できる子供になりました」
 
 美希が嬉しそうに言う。

「そうだね。冬吾にも似ているし空にも似てる」

 どうでもいいことに興味を示して、基本的にやる気がない。

「冬夜さんそっくりになってしまいましたね」
「愛莉。愛莉から見た僕ってそれだけだった?」
「え?」

 何か重要な要素を忘れていないか?

「そうだな。私から言わせるとどこまでも女性の気持ちに鈍い!」
「それは空もそうだった」

 カンナと美希が言う。
 それだけだろうか?

「他には何かなかった?」
「……うーん。致命的なまでの食欲くらいじゃないのか?」

 カンナにも分からなかったみたいだ。

「まあ、生まれる前から孫の心配してもしょうがないだろ?」

 渡辺君がそう言う。
 その時後ろから声が聞こえた。

「その通りです。今のお孫さんの心配を少しはしてもらえませんか?」

 振り返ると結達と桜子がいた。
 確認するまでもなく茉莉や菫はいない。

「あいつらまたどこかに逃げたのか?」

 カンナが聞いていた。
 すると桜子は今にも泣き出しそうな声で言った。

「どうして先輩達と言いお孫さん達と言い私を困らせて楽しむんですか?」
「水奈!お前今度は何を優奈達に吹き込んだ!?」

 学が水奈に聞く。
 
「い、言っとくけど私達は今回は何もアドバイスしてないぞ!なあ?天音」
「水奈の言う通りだ。私達の場所だと愛莉たちがすぐに感づくから自分で考えるって……あっ」

 自分の迂闊さに気づいた天音が口を塞ぐ。

「どうしてその前に”競技にちゃんと参加しなさい”と注意できないのですか!?」

 愛莉たちが怒り出す。
 すると様子を見ていた結が秋久に声をかける。

「秋久、何か知ってる事あるんじゃないの?」
「……やっぱり結には隠せないよね」
「秋久!?あなた何を聞いたの!?」

 晶さんが秋久に問い詰める。
 すると秋久は意外な人物を指差した。
 それは今年入学した山本恭一。
 山本喜一の息子。
 彼の能力を見て悟ったらしい。
 もちろん恭一の仕業じゃない。
 それを盗んだ秋久の仕業だった。
 恭一が持っていた能力”エリア”を使ったらしい。
 特殊な空間でその中で何が起きようと外の世界には何の関係もないそうだ。
 それを知った菫が「お前の力が必要だ」と脅迫したらしい。
 姉妹に勝てないのは片桐家だけではないらしい。

「すぐにその空間から追い出しなさい!」

 美希が言うけど結が止めた。

「それだと秋久が菫に怒られるだけだよ」
「結は何か他の方法を知っているのかい?」

 善明が聞くと結は秋久を見る。
 秋久の足元に茉莉達が突然現れる。
 さすがに秋久も驚いたらしい。

「結や。何をしたんだい?」

 善明が聞くと冬夜は悩みだした。
 そんな結を見て茉奈が笑いながら言った。

「”強制解除”……でいいんじゃないの?」
「ああ、それにする」

 相手の特殊能力を無理やり解除する能力。

「それにするじゃねーよ!お前らなにばらしてんだよ!」
「これなら授業中でも使えると思ったのに!」

 茉莉と菫が文句を言う。
 すると結はまた困りだす。
 理由を考えているのだろうか?
 天音達は「そういう手段もあるのか?」と感心していた。
 当然愛莉たちに怒られていたけど。
 様子を見ていた茉奈がにこりと笑っている。

「結はせっかく応援に来てくれた親に申し訳ないからちゃんと競技しないとダメって思ってるの」

 だけどその親が昼間っから酔いつぶれている。
 だからどうしようか悩んでいた。
 茉奈が説明すると納得していた。
 皆が納得したのを見ると結と一緒に弁当を食べだす。

「こうなるからやめとけって言ったのに……」

 親がこの体たらくじゃ注意しようがないでしょ。と、翼が言う。
 子供達はお昼休憩が終わると結達と共に応援席に戻った。

「しかし結もすごいですね」
「……そうじゃないよ」
「どういうことですか?」

 愛莉が聞いてくると僕は答えた。

「凄いのは結の考えてる事をすぐに分かった茉奈だよ」
「ああ、それはいつもなんだ」
 
 水奈が説明する。
 一緒にいると結はいつも茉奈を意識しているらしい。
 そんな年頃なんだな。

「学校から帰ってからにしようね」

 茉奈は嬉しそうに答えるらしい。
 そう言えば僕が学生の頃も愛莉はそうだった。
 ……まてよ。
 そこに何か重要なヒントが隠されている気がする。
 何が大切な事を忘れている。
 そんな気がしてならなかった。

(2)

「冬吾、今日は良いから早く行ってやれ!」
「そうする。じゃあ、お先に!」

 チームの皆に言うと先に練習を終わらせて病院に向かう。
 もともとシーズン中の練習はそんなにみっちりしない。
 学生じゃないんだから、調整する程度かフォーメーションの確認くらいだ。
 やりすぎて故障して試合に出れませんじゃ話にならないから。
 トップレベルのチームほどそうらしい。
 僕のいるチームは必ずトップに上り詰める。
 そんな噂すらされるほど今シーズンの地元チームの成績は凄かった。

「お前はアシスト王くらい俺に譲れよ!」

 誠司がそんな文句を言うほど自由に暴れていた。
 だからフォーメーションの練習をするなら僕抜きの方が良いこともある。
 僕がボールを持つとその瞬間に戦術が組みあがって即興でプレイする。
 それに合わせてくれる仲間も日頃の練習の賜物だと思うけど。
 とりあえず今日は緊急事態が起きていた。
 瞳子が陣痛が始まったらしい。
 それから出産までに10時間を超える戦いになる。
 それでも夫なら嫁の側にいてやれ。
 そうしないと嫁は死ぬまでその恨みを忘れないぞと父さんは会社の同僚から聞いたらしい。
 実際誠司も一緒にパオラの出産に立ち会ったらしい。
 
「生まれてくるところは絶対に見るな」

 誠さんがそう言ったから見なかったそうだ。
 とりあえず落ち着いて車で病院に向かう。 
 母さん達が先に来ていた。

「ごめん練習中で」
「仕方ないよ。それより瞳子に付き添ってあげなさい」

 母さんがそう言うので病室に入る。
 瞳子が僕を見ると申し訳なさそうに言う。

「急でごめんなさい」
「そういうものらしいから大丈夫」
 
 監督とかにもちゃんと説明しておいたし。

「じゃ、後は冬吾に任せるよ」

 冬莉がそう言って病室を出た。
 何度も突然苦しみだす瞳子。
 もちろん暇だからとゲームを始めたりはしなかった。
 なんでもいいから瞳子に話をしてやれ。
 父さんがそう言っていたからそうしていた。
 たまに腰を揉んでやったり。
 痛みが出る周期が短くなっていく。
 そして瞳子が言うと僕はスイッチを押す。
 すぐに看護師が駆けつける。

「お父さんも立ち会いますか?」

 看護師さんが言うと付き合う事にした。
 励ます事しかできないけどそれでも瞳子の側にいてやりたい。
 普段の瞳子からは想像もつかない表情と握力の強さ。
 出産て大変なんだな……。
 冬莉や泉から聞いていたけどここまでとは想像してなかった。
 長い時間かけてようやく子供の産声が聞こえて来た。

「男ならまず我慢できないらしいよ」

 冬莉がそう言っていた。
「おつかれさん」と言って瞳子を労わった。

「子供の顔見たい」

 瞳子がそう言うので見せてやることにした。
 抱っこするだけの事なのにこんなに戸惑う。
 下手に扱ったらすぐに壊れてしまいそうな愛の欠片。

「そんな事だと先が思いやられますね」

 看護師さんにそう笑われた。
 赤ちゃんを見て満足すると病室に戻って少しだけ瞳子を休ませてやる。
 その間に父さん達に子供を見せる。

「名前は?」

 父さん達に言われて初めて気が付く。
 いつの間にか起きていた瞳子が「冬吾さんが決めてあげて」と言うので赤ちゃんを見た。
 前から考えていた。
 雪となづけることにした。
 その時気づいた。
 前に父さんに相談したことがある。
 やがて雪が泣き出す。

「じゃ、僕達は外で待ってるから」

 父さん達はそう言って外に出ると瞳子が乳を与えていた。

「よろしくね。雪」

 瞳子はそう言って笑いかけていた。

「瞳子もあまり無理しないでね」
「じゃあ、私からも冬吾さんに一言」
「どうしたの?」

 瞳子は笑って言った。

「子供が歩き出すまで試合に出ないとか言い出したらだめだからね」

 誠司がそう言っていたとパオラから聞いていたらしい。

(3)

「本当に父さんの言ったとおりになったね」

 空が驚いていた。

「結の時もそうだったし、何でも分かってしまうんですね」

 だから僕が凄い。
 そんな事を愛莉が言っていた。
 だけど僕は違う事を考えていた。
 雪か……
 あの子を見て何か違和感を感じていた。
 やっぱり僕は何かを見落としている。
 一体なんだ?
 その事をずっと考えていたら天音が聞いてきた。

「ひょっとして雪の事考えてる?」
「どうしてそう思った?」
「他に考える事あるの?」

 一見普通な女の子の赤ちゃん。
 だけど何か引っかかる。

「冬夜さんでも孫娘は不安ですか?」

 愛莉も同じ考えを持っていた。

「パパは何を考えてるの?」

 冬莉が聞いてきた。

「逆に聞いてもいいかな?」
「どうしたの?」
「雪が溶けるとどうなる?」
「……水になるんじゃないの?」

 普通はそう答える。
 だけど実は答えはもう一つある。
 それが多分策者の意図だろう。
 やはり雪には何かある。
 それはその名前が示している。
 あの子を見て思った。
 まるで昔の僕を見ているようだった。
 昔の僕?
 何があったのだろう?
 そこにすべては隠されている気がする。

「愛莉、なるべく瞳子の手伝いしてやってくれないかな?」
「冬夜さんがそんな事言うなんて珍しいですね」

 いつもなら育児で四苦八苦する子供を見てるくらいでいいというのに。

「そんなに雪は大変なの?」

 翼も聞いていた。
 皆が雪に注目しているのはすぐに分かった。
 多分雪はみんなの期待を背負って育つのだろう。
 それが僕の勘違いだと気づくのにまだ時間が必要だった。

(4)

 雪が泣き出した。
 あの子は恐ろしいくらいに手がかかる。
 
「愛莉さん、すいません」
「いいですよ。行ってあげて」
 
 愛莉さんがそう言うと私は部屋に向かう。
 お尻の匂いを嗅いでみる。
 こっちではなさそうだ。

「……さっきあげたばかりでしょ」

 そう言いながら雪に乳を与える。
 退院してからしばらく経っても何も異変は無かった。
 普通の子供として育っていた。
 ただ、雪は片桐家の血が濃いらしい。
 ちょっと経つとすぐに乳を求めだす。
 別に一回に飲む量が少ないという事もない。
 
「天音もそうでした」

 愛莉さんはそう言って笑っていた。
 一日の大部分は雪に時間を使っていた。
 とにかく世話の焼ける赤ちゃん。
 何度も何度も泣いて要求する。
 特に病気とか発熱とかはない。
 でも雪の世話で時間を費やして家事が出来なかった。

「すいません……」
「気にしないで。冬夜さんはこれを見越して言ったのでしょうから」

 私の手助けをしてやって欲しい。

「買い物も私がしてくるから二人を見ていて」
「はい」

 そう言って愛莉さんを見送ると部屋で雪を見ていた。
 愛莉さんが帰ってきて夕食の支度をしながら雪の世話をしていた。
 そして冬夜さんが帰ってくる。
 雪は今は眠っているようだ。
 夕食を食べながら一日の事を愛莉さんと一緒に冬夜さんに話していた。
 すると冬夜さんが一言言った。

「雪はどう?」
「多分普通の赤ちゃんだと思いますけど」
「ひょっとして冬夜さんは結の心配をしてたのですか?」

 雪が生まれた時から冬夜さんは悩んでいるようだった。

「まあね……」
「でも、元気に育ってますよ」

 急に不安になった。

「ならいいんだけど」
「冬夜さんは雪の何を心配しているのですか?」

 愛莉さんが冬夜さんに聞いていた。
 でも冬夜さんでもそんな事があるようだ。

「まだ分からない」

 冬夜さんが分からないなら冬吾さんに分かるわけがない。

「今は雪の事を常に考えるくらいに気にかけてやって」
「わかりました。結の身に何が起きてるのですか?」
「……今どうこう出来る話じゃない。とにかくあの子の成長を助けてやるしかない」
「僕が家にいる間は僕も手伝うよ」

 冬吾さんが言う。
 私の下に小さな希望があると思った。
 だけど私だから、冬吾さんだから分からないことがある。
 片桐家に産まれた娘という意味。
 その答えは今はまだ冬夜さんだけが知っているようだった。
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