姉妹チート

和希

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I Don't Want To Miss A Thing

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(1)

「今日はとことん付き合ってやるからな!冬吾」

 誠司がそう言ってあいさつに来た。
 今日は僕と瞳子の結婚式。
 父さん達が挙げた式場ですることになった。
 今は式が終わって披露宴の最中。
 恵美さんに注意されて冬莉はあの歌を禁止しているらしい。
 普通のウェディングソングを歌っていた。
 それを聞いて結莉達は不満そうだけど、母さんは安心していた。
 母さんはあの事知っていたのだろうか?
 瞳子に酒を勧める冬莉達を制していた。
 冬莉も女性だからすぐに察したのだろう。
 余り無理に飲ませようとはしなかった。
 その分僕を酔わそうとする。
 ビールはあまり嫌いなんだけどな。
 そして渡辺班の子供は皆この難関を通るらしい。
 誠さんと瑛大さんが来た。

「冬吾、いいか!俺達の次世代はお前や空が中心なんだ。威厳ある夫の姿というのを教えてやる」
「誠の言う通りだ。お前が嫁さんに舐められると渡辺班全体に関わるんだ!」

 父さんがそれ「死亡フラグ」って言ってたんだけどな。
 あまり瞳子に負担かけたくない。
 しかしどう断ればいいか迷っていると誠司達も遠くで眺めていた。
 
「お前らはいつになったら学習するんだ?」

 渡辺さんが助けてくれた。
 父さんも一緒だったみたいだ。

「悪い。今回ばかりはちょっと瞳子に負担かけたくないから遠慮してくれないか?」

 父さんがそうやって止めるのは珍しい。 
 母さんから事情を聞いていたのだろうか?

「お前らはこっちにこい。神奈は来れないらしいから私が相手してやるよ」
「いつもいつも問題起こしやがって……いい加減にしろ」

 美嘉さんと亜依さんがそう言って二人を引きずって行った。

「瞳子大丈夫?ドレスもしんどいかもしれないけど……」
「瞳子もそうならそうと早めに言ってくれたらもう少し楽なの考えさせたのに」

 母さんと泉が言っている。
 この様子だと女性陣はみんな知ってるみたいだ。
 そして誠司は知らなかったらしい。

「どういうことだ?瞳子何かあったのか?泉」
「あんたさ。まさかとは思うけどパオラにも同じ事聞いたんじゃないでしょうね?」

 泉が言うと誠司も気づいたらしい。

「まさかお前ら……」

 誠司が言うと瞳子は恥ずかしそうにうなずいた。

「まじかよ!じゃあ、子供で勝負だな!」
「誠司は場所を弁えなさい。それに子供に何させる気?」

 誠司が言うと泉が注意していた。
 すると誠司は少し考えて小声で聞いてきた。

「それで結婚式急いだのか?」
「違うよ。それに知っていたら産んでからとかにするだろ?」
 
 ドレスでいるのが辛いんだ。
 2次会で説明するべきかと思ったけどこうなったら言うしかないかな?
 瞳子に聞くと「いいよ」と瞳子が頷いた。

「じゃあ、説明するよ……」
「待ちなさい。そう言う話なら2次会にしなさい」

 色んな業界のお偉いさんも来ている。
 瞳子も2次会までくらいは付き合うつもりだったからそれでもいいと言った。

「それでいいけどお姉さんから一つだけ約束してくれ」

 天音がそう言うと僕はどうしたのか?と聞いてみた。

「花嫁ってすっごい疲れるんだ。しかも瞳子は訳ありなんだろ?話済んだらなるべく早く家に帰してやれ」
「分かった」

 そう言うと披露宴が進行して終わり、2次会の店にはSHのメンバーが揃っていた。

「どうしてそうなったんだ?お前がそんな馬鹿な真似するわけないと思ってたけど」

 誠司が言うと「冬吾さんは何もしらなかったの。私と愛莉さんが仕掛けた罠だから」と言った。

「罠って何やったの?」

 冬莉が聞く。

「まず式の前の事から説明するよ」

 そう言って僕は話を始めた

(2)

「綺麗だよ」
「ありがとう」

 そんな挨拶をしてると瞳子の両親が席を外してくれた。
 冴からも手紙をもらっていた。
 元気な男の子が生まれたらしい。
 すごいやんちゃな子だけど頑張って育ててるそうだ。

「冴も大変だね」

 普通に返したつもりだった。
 しかし瞳子から思いもよらない言葉を聞いた。

「冬吾さんも他人事じゃないよ」
「え?」

 瞳子の顔を見るにこりと笑っている。

「結婚式まで待ってって言った事覚えてる?」
「ああ……、それが何か関係あるの?」

 その時にはまさか……と思った。

「冬吾さんも今年中にはパパになれるよ」
 
 それを聞いた時頭が真っ白になった。
 気を付けていたつもりなのに。

「ごめん!」

 そう言って頭を下げた。
 すると瞳子が言った。

「謝る必要はないよ。私が望んでそう仕組んだのだから」
「え?」

 どういう事だろう?
 それは僕が帰国したころにまで遡る。
 パオラから誠司との関係を聞いていた時に思いついたらしい。
 だから僕は瞳子から聞かされていた。

「せっかく結婚するんだからもう普通にしてもいいと思うの」

 そっちの方が気持ちいいらしいし。
 でも瞳子は教師になったばかりだ。
 さすがに悪いよと言った。
 すると瞳子が提案してきた。
 外国では割と普通らしい。
 女性は妊娠しないように薬を飲む。
 男性は病気を移したり移されたくないからゴムをする。
 だから誠司がゴムをするのがパオラには不思議だったそうだ。
 だから瞳子も薬を飲むことにするから心配しないで。
 瞳子はそう言った。
 それが瞳子と母さんの仕掛けた罠。
 瞳子は飲んでいなかった。
 なのに知らない僕は当たり前の様に瞳子を抱く。
 そして見事に子供を授かった。

「どうしてそんな嘘ついたの?」

 怒ってはいないけど理由くらい聞いておきたい。
 瞳子は理由を話してくれた。

「教師になったから子供を作れない。じゃ、いつ作るの?」

 教師でいる間はずっと作れないの?
 僕だって子供を見たいんじゃないのか?
 桜子にも相談したらしい。

「私は教師になった時にはみなみを育てていた」

 周りの協力があれば不可能じゃない。
 だから母さんにも相談した。
 父さんと母さんも相談して許可をした。
 それが最大の僕へのプレゼントになるから。

「それならどうして僕には内緒だったの?」
「それも冬吾さんがさっき言ったじゃない」

 僕がダメだと思ったら絶対に避妊する。
 だからその警戒を解く必要があった。 
 そういう事か……。

「今度は私から質問してもいい?」
「どうしたの?」
「今の話を聞いて嬉しい?」

 今瞳子の中にいる子供を僕が否定するならさらなる悲しみを生むべきではない。
 でも僕がそれを肯定するなら子供は祝福される中で生まれてくるだろう。
 自分の命を愛するだろう。
 僕は悩んだ。

「……学校は大丈夫なの?」
「うん、もう一応届けてはいる」

 母さんも一緒だからぎりぎりまでは教師を続けて育休を取るらしい。
 せっかく担任になれたけど高槻先生にバトンを渡すらしい。

「……それじゃ、今日から気を付けてね」
「わかってる。愛莉さんもいてくれるから大丈夫」
「後は気を付けてね」
「大丈夫だよ。でも心配してくれてありがとう」

 だからさっきの質問に答えて欲しい。
 子供が出来た事は嬉しいか?

「当たり前だろ、嬉しいに決まってるじゃないか」
「よかった。子供達にもサッカーを教えるの?」
「父さんが言ってた」

 片桐家の子供は必ず何か得意な事がある。
 だからやりたい事をさせてやるといい。

「愛莉さんからも言われてる。基本的には素直な子だから後は育て方を間違えなかったらいい」

 教師なんだからそれは信用してる。
 母さんはそう言ったそうだ。

(3)

「って事は冬吾帰って来た時から……だったのか!?」

 遊が聞いていた。

「そうだよ」
「まじかよ!なずな、俺達も……」
「あのさ、これ以上子供増やして苦労するのは遊だよ?」
「私達は問題ない!学もしたいだろ!?」
「瞳子なら教育の問題はないって前提があるだろ?どこの世界に九九を言えない母親がいるんだ!?」
「水奈……お前それはさすがにまずいぞ」

 天音ですらまずいと思う状況。
 学力なら水奈より悠翔の方が上らしい。
 それは学でも危険を感じるだろう。

「大昔の人間は女は学問なんてしなくていいって言ってたって授業で聞いたよ?」

 優奈がそう言う。
 女性も社会進出をしたいという時代に完全に逆らった思考を持っているようだ。
 学も手を焼くだろうな。

「瞳子、私の方が先輩だから忠告するね」

 冬莉が瞳子に言っていた。

「絶対に余計なことはするな。体力を常に温存するくらいのつもりでいろ」

 瞳子の妹として忠告したい。
 本当は今すぐ教師を止めさせたいくらいだ。
 それでも瞳子の意思を尊重して母さんや父さん、きっと翼や天音も様子見に来たりするだろう。
 こんなプレッシャーを瞳子にかけるのはどうかと思うけど敢えて忠告する。
 瞳子の産む子供は文字通り片桐家を背負う子供になる。
 期待の分だけフォローしてくれる。
 自分一人の問題だと勘違いしてはいけない。
 悩みがあったら母さんに言え。
 きついと思ったらこのくらいとか無理しないで素直に母さんに甘えろ。
 瞳子の子供はそれだけみんなの期待を背負っている。

「それは大丈夫。冬吾さんとも約束したから」

 瞳子は真っ直ぐ冬莉を見て答えた。

「じゃ、約束だ。冬吾は瞳子を連れてすぐに帰れ」

 今日はもうへとへとだろうから労わってやれ。
 天音がそう言うので家に帰った。
 家にはまだ誰も帰っていない。
 きっと父さん達も飲んでるんだろう。
 瞳子も風呂に入るとすぐにベッドに入る。
 僕も風呂に入って部屋に戻ってベッドに入ると瞳子にお願いを言ってみた。

「お腹の音聞いてもいい?」

 すると瞳子が笑いだした。

「冬夜さんも同じ事愛莉さんに言ったみたい」

 まだ瞳子自身も分からないのに音が聞こえるはずがないと瞳子が言った。

「冬吾さんは男の事女の子どっちがいいの?」
「うーん、あまり気にしてないよ。僕と瞳子の子供だから」
「誠司君はどっちもってパオラさんに言って”そんなにしんどい真似を私にさせたいわけ!?”て怒られたみたい」

 誠司なら言いかねないな。
 誠司が言ってたな。
 僕と誠司の子供。
 どっちの方が優れているか。
 しかしそんな勝負は絶対にありえない事になった。

(4)

「これで後は冬眞達だけか?」

 子供たちが2次会してる頃僕達も河岸を変えて飲んでいた。

「そうだね」

 誠がビールを勧めるとそれを受け取っていた。

「何か冬夜さん心配事でもあるんですか?」

 隣で様子を見ていた愛莉はそう思ったそうだ。

「冬吾の子供だからね。僕達があれこれ手出しするわけにいかないからね」
「ま、まさか茉莉達より凄いのが生まれるとでも?」

 愛莉もそれが不安らしい。
 
「か、勘弁してください。小学校でももう片桐家自体が問題になってるんですよ」
「桜子の言う通りらしい。桜子も毎日悩んでるし」

 桜子と佐が言うと愛莉が「ごめんね」と謝っている。
 だけど茉莉達はまだ「親の手に負える範囲」だ。
 嫌な予感しかしなかったから空達を説得して冬吾が実家で暮らせるように準備しておいた。
 多分すぐに子供をつくるだろう。
 そこまではなんとなく分かった。
 だけど問題はこれからだ。
 一体どんな子供が生まれてくるのか分からない。
 性別すら分からないんだから。
 多分娘だろう。
 なぜなら空の子供が結と比呂だから。

「ってことはひょっとしたら俺の孫と結ばれるかもしれないってことか?」
「それは誠司の子供が男の子だったらって前提だろ?」
 
 昔じゃあるまいし生まれた時から婚約者がいるなんて事はしないよ。
 それで酷い目にあったのが深雪先生だろ?

「あれは俺も反省してます。何をしてもどうせ深雪と結ばれるんだ。そんな驕りがあったのかもしれない」
「でも、あの件が無かったら、私は目の前にある宝物を見逃すところだったからそんなに後悔はしてないわ」

 西松君と深雪先生が言う。

「でも、おかしな話ね。だってあれあけ人の恋愛感情を動かしてきた片桐君のセリフとは思えない」

 恵美さんが言うと亜依さんも言った。

「確かにそうね。春奈と晴斗なんて完全に操っていたじゃない」
「それは春奈さんの心が分かったからだよ」

 だけど今度はまだ生まれてもいないんだ。
 無理だろ?

「じゃあ、何が問題なの?」

 恵美さんが聞いてきた。

「それが分かれば悩まないよ」

 対処の仕方を考えたらいいのだから。
 分かる範囲で言えば冬吾の子供達は間違いなくリベリオンに狙われる。
 本人がそう言ってるんだから間違いないだろう。

「それなら私達が警護させるから大丈夫よ」
「茜達も加わってリベリオンの活動は大体把握済みだから心配するな」

 恵美さんと誠が言うと僕は否定した。

「誠や恵美さんの把握してる内容はある前提がある」
「それはなんだ?」
「ネットでの情報が基本だろ?」

 逆に言えばそれが無いと何も分からない。
 確かに情報は完全につかんでるかもしれない。
 しかしその結果今はどうだ?
 何をしているのかすら分かっていない。
 子供たちが見つけて始末してる程度だ。
 なんとなく気になったので恵美さんにそのスマホの番号の通話記録を調べてもらった。
 案の定電話でのやりとりはやりたい放題だ。
 通話も電話代よりは安いからとSNSをつかったボイスチャットが主流になっている。
 しかし彼らは普通の電話を利用していた。
 間違いなく僕達の目を気にしているのだろう。
 だから今彼らが何を企んでるのかわからない。
 間違いなく戦力の増強を図っているのだろうけど。

「つまり私達ももっと警戒しないといけないって事?」
「まどろっこしいからその母体をさっさと潰した方が良くない?」

 恵美さんと晶さんが言った。

「それは多分手遅れだ」
「どういうことですか?」

 愛莉が聞くと答えた。
 そんなに難しいことじゃない。
 母体を動かしに友恵がロンドンに向かってもう1年以上経つ。
 なのに動きがない。
 それは空の警告が有効だったんだろう。
 そうなると友恵たちのとる行動は一つ。
 自分たちで思うように母体を動かすつもりだろう。
 と、なれば……。

「そういう事なら問題ねえ。返り討ちにすればいいってだけだろ?」

 美嘉さんが言う。
 だけど僕は全く違う結論を出していた。

「前にも言ったけどこの件はもう僕達が動く必要はない」

 SHが対処するだろう。
 いや、もっと別の何かが動きそうな気がする。

「……ひょっとしてそれと冬吾の子供が関係するのですか?」

 愛莉は僕の考えに感づいたようだ。

「それは無理だろ。だってまだ生まれてもないし生まれてもいきなり戦闘はしないでしょ」

 そう、狙うなら生まれた時が一番いい。
 だけどあいつらは愚かな選択を取った。
 子供が小学生まで成長するのを待って冬吾が子供の将来を楽しみにしているのを絶望に染める。
 多分それが間違っていると気付いた時は手遅れだろ。

「……今度はどんな能力持ってくるわけだ?」

 渡辺君が聞いていた。
 だけど僕は首を振った。
 結であれだけの能力を持っている。
 きっとアレを超える能力はないだろう。
 問題はそこじゃない気がする
 結と僕の違い。
 それは僕の血を継いでいるかどうか。
 ……もしかして。

「愛莉。多分そろそろ家に帰ってると思うから冬吾に確認してくれないか?」
「何をですか?」
「もし女の子だったら名前決めてたりしないか?」
「分かりました」

 そう言って愛莉が名前を聞いてる間に誠にも頼んでみた。
 息子の名前を決めていたりしないか?
 教えてもらえないか。

「分かった。ちょっと待ってろ」

 誠もそう言ってスマホを操作する。

「冬にちなんで雪と考えていたそうです」
「こっちも分かったぜ。誠司郎だってさ」
「……医者でも分からないのに片桐君にはわかるわけ!?」

 亜依さんが驚いていた。
 もっとも奈留も気づいたみたいだけど。
 ようやく恋愛小説という物を書く気になったようだ。
 いよいよ終幕に向けて物語が動き出す。
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