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lies and the truth
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(1)
「あ、瞳子」
ファミレスに入ると冴の声が聞こえたのでそっちを向くと冴が座っていた。
顔色が悪い。
無理もないか。
「こんな時間に出回って大丈夫?」
「うん、今は落ち着いている」
原因が分かったら落ち着くらしい。
その原因が冴の相談の内容だったんだけど。
「こんな時間にごめんね」
今にも泣き出しそうな冴。
そんなに不安になるのだろうか?
そんなになるなら最初から対策しておけ。
男ならそう言うだろう。
多分冬吾君でも分かってもらえないこの不安。
私も天音達を見てこなかったらきっと分からなかったかもしれない。
「で、研斗君に連絡着いたの?」
私が聞くと冴が首を振った。
「で、最後にしたのはいつなの?」
「期末考査が始まる前だから7月くらいかな」
そうしてまずは冴の話を聞くことにする。
異変に気付いたのは夏休みに入った頃。
来るものが来ない。
だけど多少の誤差はある。
計算通りにはいかない。
だから油断していた。
しかしさすがに突然吐き気がきたりすると当たり前だけど不安が増す。
さすがにこの状態で運転は怖いから研斗君に送ってもらってた。
「あんまり酷いなら病院行ってみたらどうだ?」
「今日行ってみる。でもそん前に検査薬試してみる」
「あんまり思いつめるなよ」
そんな不安な状態でますます遅れるという事もある。
冴はまず検査薬を使ってみた。
やはり陽性だった。
その後病院に一人で行く。
調べた結果やっぱり妊娠していた。
すぐに研斗君に知らせるけど返事が来ない。
家に帰ると理由が分かった。
スマホを家に置きっぱなしにしてあった。
冴は嫌な予感がしたから箪笥とかを見ていた。
するとやっぱり何日分かの着替えが無かった。
そんな状況で平静でいられるわけがない。
冴はパニックを起こす。
友達とかに研斗の行き先を聞くけどどこにもいない。
どうしていいかわからずに私に相談した。
そしてバイトの終わりにスマホを見て気づいた。
そして今に至る。
「……友達に聞いてもダメだったんだよね?」
「うん。心当たりのある所は全部行ってみたけどダメだった」
あんまり考えたくないけどまずその線を潰すしかない。
「研斗君の実家の連絡先は?」
「わかんない。聞いたことないから。……やっぱり瞳子もそう思う?」
「現状を冷静に判断したらそう考えるしかないと思う」
「私どうしたらいいんだろう?」
案の定冴は泣き出した。
とりあえず落ち着かせる。
そして今できる事を伝える。
「まずは冴の両親に知らせる事」
「やっぱりそうしないとダメかな?」
親に怒られるのが怖いと言っている。
もし堕胎しろと言われたらどうしよう?
そんな子供の様な事を言っていたらそう言われてもしょうがないと私は冴に言った。
そうなるリスクを理解してそんな事をしたのでしょ?
だったら責任は研斗君だけじゃない。冴にもある。
産むにしろ堕胎するにしろ一人で出来る事じゃない。
まあ、冴の歳なら堕胎はできるけど、それでも母体はもちろん冴の心にも傷が残る。
それは冴のお母さんだって分かっているはずだから簡単にそんな風には言わないはず。
産みたいというなら強く願えばいい。
ただし今まで大学生として頑張ってきてあと半年で卒業という時の事。
多少怒られてもしょうがないと思った方が良い。
当たり前だ。
親にしてみれば娘の人生が180度変わってしまうのだから。
だけどそれくらいでくじけるなら産まない方が良い。
きっとまともに育児が出来ない。
24時間無休で面倒を見ながら生活費も稼がないといけないんだ。
無理なら親を頼るしかない。
結局親がいないとどうしようもない事態になっていると自覚した方がいい。
明日にでもいいからすぐに実家に行った方が良い。
私は冴にそう伝えた。
「で、研斗はどうするの?」
「それは私に任せて」
ここまで来たらもうそんなに手段はない。
SHの力を借りよう。
「私は何度もSH出た身。助けてくれるかな?」
「だから私が話をする。冴は親に相談して絶対に一人で馬鹿な真似をしないで」
もう冴一人の体じゃないんだよ?
「分かった。明日実家に連絡して帰る」
「うん、私に任せて。冴は赤ちゃんの事だけを考えて」
そう言って私が冴の家に送ると私も戻って寝る事にした。
(2)
「ふざけるな!そんなの冴の勝手じゃねーか!?SHに関係ない!」
天音はそう言って取り付く島もなかった。
しかし冬吾は瞳子のお願いだから聞いてやりたい。
だけど冬吾はスペインにいる。
俺もイタリアにいた。
日本にいたら沖縄中を探して研斗って野郎を殴り飛ばすところだ。
ぽかっ。
「サッカー選手が暴行事件なんて許されるはずないでしょ」
パオラに怒られた。
「それにさ、これは女の勘って言うのかな……」
「何か分かったのか?」
「そのケントって人きっとそういうつもりで行方をくらましたわけじゃない気がするんだよね」
「他に理由あるのか?」
「だって例えその実家に逃げたところで何が変わるの?」
大学には絶対通えない。
確かに無事に卒業は無理だろうな。
「じゃあ、パオラはどう考えてるんだ?」
「うーん。たまたま時期が重なっただけ……かな?」
何かやむを得ない事情があって冴に伝えられなかった。
スマホを忘れるくらい焦っていたんでしょ?
まあ、冴の妊娠発覚もそのくらい重大な事だから完全に否定はできないけど。
とりあえずその彼氏から話を聞かないとどうにもならないでしょ?
パオラの言う通りかもしれない。
しかし探し出そうと思ったらSHの情報網を使うしかない。
だけどSHの中でも意見が対立していた。
冴はもう何度もSHを裏切って来た女だから力を貸す必要はない。
瞳子の友達なら助ける口実はある。それに同じ女性としてその彼氏が許せない。
そんな意見がSHのグルチャで飛び交っていた。
すると様子を見ていた学が言った。
「空はどう考えているんだ?」
SHの中で意見が分かれているのならリーダーの空が決めるべきだ。
皆は空の意見を待っていた。
すると空は言った。
「天音は女性だろ?相手が冴じゃなかったとして、もし同じような子が悩んでいたらどうする?」
「……それが空の答えなのか?」
「僕は男だから口を出すべきじゃない。女性が決めるべきだと思ってた」
だけどその女性の中で意見が分かれるのなら空が決める。
空はそう言って天音を説得していた。
「……確かに私だって冴の気持ちくらい分かる。でもSHとして空はそれでいいのか?」
「理由はさっきから出てるじゃないか。大事な弟の彼女のお願いなんだ。答えは出るだろ」
天音だってその彼氏の対応次第では海に沈めたいとか考えたんじゃないか?
「じゃ、決まりだね」
翼がそう言うと話は決まった。
まずは石原家と酒井家の力を借りてそのふざけた彼氏を探し出す。
石原家なら十分可能だろう。
研斗だって別府で部屋を借りる際親に保証人を頼んでいるはず。
そこから探すのはたやすいだろう。
スマホが残っているならスマホの契約内容を洗えばいい。
「……それにしても空。一つ女性として許せない事があるんだけど」
美希がそう言っていた。
「確かにそうね。空は肝心な事を分かってない」
水奈もそう言っていた。
俺には大体わかった。
空は知らなかったのだろう。
「妊娠は女性だけの問題っていう意見は女性からしたら酷い話だよ?」
茜が空に言っていた。
「まあ、しっかり美希に怒られるのね」
麗華がそう言ってこの話は済んだ。
空はしっかり美希に怒られたらしい。
愛莉さんにも相談した。
愛莉さんは容赦なく空を叱りつけたそうだ。
「冬夜さんでもずっと心配してくれましたよ!」
冬吾の父さんは笑顔で見ていたそうだ。
(3)
「あ、瞳子。久しぶり」
冴と二人で駅に着くと天音と美希と大地が待っていた。
大地と美希がいるのは天音が暴走しないようにという事らしい。
本当は水奈も行くと言っていたらしい。
「女性の怒りを私が代弁してやる」
「偉そうな事を言う前にお前は母親としての務めを果たせといつも言ってるだろ!」
学がそう言って引き留めたらしい。
天音は私を見ている。
どうしたんだろう?
「……なあ瞳子。お前大学に入学してまた大きくなってないか?」
「ああ、一つサイズが上がった」
「なんで他の女は大きくなるのに私はいつまでも小さいんだよ」
「あ、天音。今日はそう言う話じゃないだろ?」
「そうそう、その子が冴?」
美希が言うと私がそうだと答えた。
「色々言いたい事があるけどまずはちょっと待て。もうすぐ来るから」
天音がそう言うと特急が到着したらしい。
改札口から日焼けした男が現れた。
多分研斗君だ。
「あ!」
冴も気づいたらしい。
天音が冴に確認してその男を捕まえる。
「お前が比嘉研斗か?」
「君は?」
「ちょっとこっち来いよ」
天音はそう言って研斗君を冴の前に連れてくる。
「冴!?この人たちは?」
「瞳子の友達。SHの人達」
「そんな事はどうでもいいんだよ!お前冴に言う事あるんじゃねーのか!?」
「天音、とりあえずそこのコーヒーショップにでも入ろう?それに落ち着いて話をしないと」
美希が言うと天音はいったん落ち着いてコーヒーショップに入った。
「どうせならフードコートにしてくれ」
「それだと天音が話にならないでしょ」
「あの、これはどういうことですか?」
冴が美希に尋ねていた。
美希はにこりと笑って説明をした。
「まず空が決断してすぐに比嘉君を探した」
そのくらい簡単にやってのけるのが石原家の恐ろしさだ。
そしてまずは事実確認を美希がした。
すると全く違う事実が確認できた。
研斗君が慌てて沖縄に帰ったのは冴に子供が出来たからじゃない。
研斗君の父親が倒れたから。
そうすると研斗君の家の民宿を誰かが手伝わないといけない。
だから帰ってこれなかった。
父親が倒れたから慌てていてスマホを忘れて来た。
その事に気づいた時は既に飛行機の上。
冴の事を気にかけながらも、まずは仕事が先だ。
電話をしようにも彼女のスマホの番号を暗記するような彼氏はそんなにいない。
だけど美希が確認したら研斗君が慌てたらしい。
母親に事情を説明してそして今日帰って来た。
「ごめん、不安だったんだろ?」
「父親が倒れたらしょうがないよ。それで研斗はこれからどうするつもりなの?」
冴が言うと研斗君は黙ってしまった。
そんな研斗君に天音は苛ついて怒鳴りつける。
「お前、この期に及んで逃げようとしたら沖縄じゃなく地元の海に沈めるぞ!」
「天音、落ち着いて。多分そうじゃないと思うんだ」
大地は男だから研斗君の気持ちが分かるという。
その上で大地が研斗君に伝えた。
「男の立場でしてみたらそういうのってやっぱり雰囲気大切にするよね。でもね、今はそんな事言ってる場合じゃないんだ」
もう逃げ道は無い。
覚悟を決めるだけ。
そんな時にムードなんて気にしていたらダメだ。
今ここで言ってあげた方がきっと冴も安心する。
大地がそういうと研斗君は意を決して自分の意思を伝えた。
「俺、大学辞めて親の後を継ごうと思うんだ」
「お前やっぱり逃げる気か!?」
天音が言うと美希が最後まで聞いてやれてと宥めていた。
「冴が俺についてきてくれるなら一緒に沖縄に行かないか?結婚して欲しい」
産むのは地元で構わないから。
それは冴も大学を辞める事になる。
「私が研斗の重荷になるって事は無い?」
「母さんにも相談した。嫁に来てくれるなら歓迎だって」
すると冴が泣き出した。
「ありがとう……まずは私は元気な子供を産むね」
「絶対幸せにするから」
そう言って研斗君は冴を慰めていた。
「じゃあ、僕達は帰ろうか。比嘉君は冴の家に挨拶に行かないとダメだろうし」
大地が言うと3人は帰って行った。
私は研斗君と冴を冴の実家に送る。
「じゃ、がんばってね。それと……おめでとう」
「ありがとう。瞳子もあと少しだけだから……」
頑張れ。
冴がそう言うと私は家に帰った。
(4)
「うーん……」
「どうしたの?」
瞳子が聞いてくると質問していた。
「女性にとってそんなに重大な事なの?」
すると瞳子は笑っていた。
「それ絶対に愛莉さんに言ったらだめだよ」
「分かってる」
空が滅茶苦茶怒られたらしいから。
そばで見ていた父さんも「冬夜さんも他人事の様にしないでください」と飛び火したらしい。
「瞳子も産んだことあるの?」
「冬吾君は偶に意地悪な質問するね」
僕がスペインにいるのにどうしてそうなるのか教えて欲しいと言われた。
そういや母さんが言ってたな。
「それでも夫との愛の結晶だから産みたいと思うのが母性というの」
たまに聞く「公衆便所で産んで便器に捨てた」ってのはどう説明するのか分からないけど。
「じゃあ、冴も大学中退?」
「まあ、大きなお腹で通えないしね」
それなら早めに沖縄に移住して慣れておいた方がいいんじゃないか?
産みのストレスと慣れない環境でのストレス。
それはSHのお母さん組がいつも話していたから瞳子も聞いているらしい。
なずなは苦労したみたいだけどその甲斐あって遊の態度が変わったと言っていた。
「皆それぞれの道を選ぶ時が来たんだね」
「うん、寂しいけど……でも私は待ち遠しい」
「どうして?」
「だってあと半年で冬吾君が帰ってくるんでしょ?」
「なるほどね」
大丈夫。
帰ったら真っ先に伝えようと思う事があるんだ。
楽しみにしていて欲しい。
やっと待ちに待った時がやってくる。
それがこの物語の終焉の始まり。
「あ、瞳子」
ファミレスに入ると冴の声が聞こえたのでそっちを向くと冴が座っていた。
顔色が悪い。
無理もないか。
「こんな時間に出回って大丈夫?」
「うん、今は落ち着いている」
原因が分かったら落ち着くらしい。
その原因が冴の相談の内容だったんだけど。
「こんな時間にごめんね」
今にも泣き出しそうな冴。
そんなに不安になるのだろうか?
そんなになるなら最初から対策しておけ。
男ならそう言うだろう。
多分冬吾君でも分かってもらえないこの不安。
私も天音達を見てこなかったらきっと分からなかったかもしれない。
「で、研斗君に連絡着いたの?」
私が聞くと冴が首を振った。
「で、最後にしたのはいつなの?」
「期末考査が始まる前だから7月くらいかな」
そうしてまずは冴の話を聞くことにする。
異変に気付いたのは夏休みに入った頃。
来るものが来ない。
だけど多少の誤差はある。
計算通りにはいかない。
だから油断していた。
しかしさすがに突然吐き気がきたりすると当たり前だけど不安が増す。
さすがにこの状態で運転は怖いから研斗君に送ってもらってた。
「あんまり酷いなら病院行ってみたらどうだ?」
「今日行ってみる。でもそん前に検査薬試してみる」
「あんまり思いつめるなよ」
そんな不安な状態でますます遅れるという事もある。
冴はまず検査薬を使ってみた。
やはり陽性だった。
その後病院に一人で行く。
調べた結果やっぱり妊娠していた。
すぐに研斗君に知らせるけど返事が来ない。
家に帰ると理由が分かった。
スマホを家に置きっぱなしにしてあった。
冴は嫌な予感がしたから箪笥とかを見ていた。
するとやっぱり何日分かの着替えが無かった。
そんな状況で平静でいられるわけがない。
冴はパニックを起こす。
友達とかに研斗の行き先を聞くけどどこにもいない。
どうしていいかわからずに私に相談した。
そしてバイトの終わりにスマホを見て気づいた。
そして今に至る。
「……友達に聞いてもダメだったんだよね?」
「うん。心当たりのある所は全部行ってみたけどダメだった」
あんまり考えたくないけどまずその線を潰すしかない。
「研斗君の実家の連絡先は?」
「わかんない。聞いたことないから。……やっぱり瞳子もそう思う?」
「現状を冷静に判断したらそう考えるしかないと思う」
「私どうしたらいいんだろう?」
案の定冴は泣き出した。
とりあえず落ち着かせる。
そして今できる事を伝える。
「まずは冴の両親に知らせる事」
「やっぱりそうしないとダメかな?」
親に怒られるのが怖いと言っている。
もし堕胎しろと言われたらどうしよう?
そんな子供の様な事を言っていたらそう言われてもしょうがないと私は冴に言った。
そうなるリスクを理解してそんな事をしたのでしょ?
だったら責任は研斗君だけじゃない。冴にもある。
産むにしろ堕胎するにしろ一人で出来る事じゃない。
まあ、冴の歳なら堕胎はできるけど、それでも母体はもちろん冴の心にも傷が残る。
それは冴のお母さんだって分かっているはずだから簡単にそんな風には言わないはず。
産みたいというなら強く願えばいい。
ただし今まで大学生として頑張ってきてあと半年で卒業という時の事。
多少怒られてもしょうがないと思った方が良い。
当たり前だ。
親にしてみれば娘の人生が180度変わってしまうのだから。
だけどそれくらいでくじけるなら産まない方が良い。
きっとまともに育児が出来ない。
24時間無休で面倒を見ながら生活費も稼がないといけないんだ。
無理なら親を頼るしかない。
結局親がいないとどうしようもない事態になっていると自覚した方がいい。
明日にでもいいからすぐに実家に行った方が良い。
私は冴にそう伝えた。
「で、研斗はどうするの?」
「それは私に任せて」
ここまで来たらもうそんなに手段はない。
SHの力を借りよう。
「私は何度もSH出た身。助けてくれるかな?」
「だから私が話をする。冴は親に相談して絶対に一人で馬鹿な真似をしないで」
もう冴一人の体じゃないんだよ?
「分かった。明日実家に連絡して帰る」
「うん、私に任せて。冴は赤ちゃんの事だけを考えて」
そう言って私が冴の家に送ると私も戻って寝る事にした。
(2)
「ふざけるな!そんなの冴の勝手じゃねーか!?SHに関係ない!」
天音はそう言って取り付く島もなかった。
しかし冬吾は瞳子のお願いだから聞いてやりたい。
だけど冬吾はスペインにいる。
俺もイタリアにいた。
日本にいたら沖縄中を探して研斗って野郎を殴り飛ばすところだ。
ぽかっ。
「サッカー選手が暴行事件なんて許されるはずないでしょ」
パオラに怒られた。
「それにさ、これは女の勘って言うのかな……」
「何か分かったのか?」
「そのケントって人きっとそういうつもりで行方をくらましたわけじゃない気がするんだよね」
「他に理由あるのか?」
「だって例えその実家に逃げたところで何が変わるの?」
大学には絶対通えない。
確かに無事に卒業は無理だろうな。
「じゃあ、パオラはどう考えてるんだ?」
「うーん。たまたま時期が重なっただけ……かな?」
何かやむを得ない事情があって冴に伝えられなかった。
スマホを忘れるくらい焦っていたんでしょ?
まあ、冴の妊娠発覚もそのくらい重大な事だから完全に否定はできないけど。
とりあえずその彼氏から話を聞かないとどうにもならないでしょ?
パオラの言う通りかもしれない。
しかし探し出そうと思ったらSHの情報網を使うしかない。
だけどSHの中でも意見が対立していた。
冴はもう何度もSHを裏切って来た女だから力を貸す必要はない。
瞳子の友達なら助ける口実はある。それに同じ女性としてその彼氏が許せない。
そんな意見がSHのグルチャで飛び交っていた。
すると様子を見ていた学が言った。
「空はどう考えているんだ?」
SHの中で意見が分かれているのならリーダーの空が決めるべきだ。
皆は空の意見を待っていた。
すると空は言った。
「天音は女性だろ?相手が冴じゃなかったとして、もし同じような子が悩んでいたらどうする?」
「……それが空の答えなのか?」
「僕は男だから口を出すべきじゃない。女性が決めるべきだと思ってた」
だけどその女性の中で意見が分かれるのなら空が決める。
空はそう言って天音を説得していた。
「……確かに私だって冴の気持ちくらい分かる。でもSHとして空はそれでいいのか?」
「理由はさっきから出てるじゃないか。大事な弟の彼女のお願いなんだ。答えは出るだろ」
天音だってその彼氏の対応次第では海に沈めたいとか考えたんじゃないか?
「じゃ、決まりだね」
翼がそう言うと話は決まった。
まずは石原家と酒井家の力を借りてそのふざけた彼氏を探し出す。
石原家なら十分可能だろう。
研斗だって別府で部屋を借りる際親に保証人を頼んでいるはず。
そこから探すのはたやすいだろう。
スマホが残っているならスマホの契約内容を洗えばいい。
「……それにしても空。一つ女性として許せない事があるんだけど」
美希がそう言っていた。
「確かにそうね。空は肝心な事を分かってない」
水奈もそう言っていた。
俺には大体わかった。
空は知らなかったのだろう。
「妊娠は女性だけの問題っていう意見は女性からしたら酷い話だよ?」
茜が空に言っていた。
「まあ、しっかり美希に怒られるのね」
麗華がそう言ってこの話は済んだ。
空はしっかり美希に怒られたらしい。
愛莉さんにも相談した。
愛莉さんは容赦なく空を叱りつけたそうだ。
「冬夜さんでもずっと心配してくれましたよ!」
冬吾の父さんは笑顔で見ていたそうだ。
(3)
「あ、瞳子。久しぶり」
冴と二人で駅に着くと天音と美希と大地が待っていた。
大地と美希がいるのは天音が暴走しないようにという事らしい。
本当は水奈も行くと言っていたらしい。
「女性の怒りを私が代弁してやる」
「偉そうな事を言う前にお前は母親としての務めを果たせといつも言ってるだろ!」
学がそう言って引き留めたらしい。
天音は私を見ている。
どうしたんだろう?
「……なあ瞳子。お前大学に入学してまた大きくなってないか?」
「ああ、一つサイズが上がった」
「なんで他の女は大きくなるのに私はいつまでも小さいんだよ」
「あ、天音。今日はそう言う話じゃないだろ?」
「そうそう、その子が冴?」
美希が言うと私がそうだと答えた。
「色々言いたい事があるけどまずはちょっと待て。もうすぐ来るから」
天音がそう言うと特急が到着したらしい。
改札口から日焼けした男が現れた。
多分研斗君だ。
「あ!」
冴も気づいたらしい。
天音が冴に確認してその男を捕まえる。
「お前が比嘉研斗か?」
「君は?」
「ちょっとこっち来いよ」
天音はそう言って研斗君を冴の前に連れてくる。
「冴!?この人たちは?」
「瞳子の友達。SHの人達」
「そんな事はどうでもいいんだよ!お前冴に言う事あるんじゃねーのか!?」
「天音、とりあえずそこのコーヒーショップにでも入ろう?それに落ち着いて話をしないと」
美希が言うと天音はいったん落ち着いてコーヒーショップに入った。
「どうせならフードコートにしてくれ」
「それだと天音が話にならないでしょ」
「あの、これはどういうことですか?」
冴が美希に尋ねていた。
美希はにこりと笑って説明をした。
「まず空が決断してすぐに比嘉君を探した」
そのくらい簡単にやってのけるのが石原家の恐ろしさだ。
そしてまずは事実確認を美希がした。
すると全く違う事実が確認できた。
研斗君が慌てて沖縄に帰ったのは冴に子供が出来たからじゃない。
研斗君の父親が倒れたから。
そうすると研斗君の家の民宿を誰かが手伝わないといけない。
だから帰ってこれなかった。
父親が倒れたから慌てていてスマホを忘れて来た。
その事に気づいた時は既に飛行機の上。
冴の事を気にかけながらも、まずは仕事が先だ。
電話をしようにも彼女のスマホの番号を暗記するような彼氏はそんなにいない。
だけど美希が確認したら研斗君が慌てたらしい。
母親に事情を説明してそして今日帰って来た。
「ごめん、不安だったんだろ?」
「父親が倒れたらしょうがないよ。それで研斗はこれからどうするつもりなの?」
冴が言うと研斗君は黙ってしまった。
そんな研斗君に天音は苛ついて怒鳴りつける。
「お前、この期に及んで逃げようとしたら沖縄じゃなく地元の海に沈めるぞ!」
「天音、落ち着いて。多分そうじゃないと思うんだ」
大地は男だから研斗君の気持ちが分かるという。
その上で大地が研斗君に伝えた。
「男の立場でしてみたらそういうのってやっぱり雰囲気大切にするよね。でもね、今はそんな事言ってる場合じゃないんだ」
もう逃げ道は無い。
覚悟を決めるだけ。
そんな時にムードなんて気にしていたらダメだ。
今ここで言ってあげた方がきっと冴も安心する。
大地がそういうと研斗君は意を決して自分の意思を伝えた。
「俺、大学辞めて親の後を継ごうと思うんだ」
「お前やっぱり逃げる気か!?」
天音が言うと美希が最後まで聞いてやれてと宥めていた。
「冴が俺についてきてくれるなら一緒に沖縄に行かないか?結婚して欲しい」
産むのは地元で構わないから。
それは冴も大学を辞める事になる。
「私が研斗の重荷になるって事は無い?」
「母さんにも相談した。嫁に来てくれるなら歓迎だって」
すると冴が泣き出した。
「ありがとう……まずは私は元気な子供を産むね」
「絶対幸せにするから」
そう言って研斗君は冴を慰めていた。
「じゃあ、僕達は帰ろうか。比嘉君は冴の家に挨拶に行かないとダメだろうし」
大地が言うと3人は帰って行った。
私は研斗君と冴を冴の実家に送る。
「じゃ、がんばってね。それと……おめでとう」
「ありがとう。瞳子もあと少しだけだから……」
頑張れ。
冴がそう言うと私は家に帰った。
(4)
「うーん……」
「どうしたの?」
瞳子が聞いてくると質問していた。
「女性にとってそんなに重大な事なの?」
すると瞳子は笑っていた。
「それ絶対に愛莉さんに言ったらだめだよ」
「分かってる」
空が滅茶苦茶怒られたらしいから。
そばで見ていた父さんも「冬夜さんも他人事の様にしないでください」と飛び火したらしい。
「瞳子も産んだことあるの?」
「冬吾君は偶に意地悪な質問するね」
僕がスペインにいるのにどうしてそうなるのか教えて欲しいと言われた。
そういや母さんが言ってたな。
「それでも夫との愛の結晶だから産みたいと思うのが母性というの」
たまに聞く「公衆便所で産んで便器に捨てた」ってのはどう説明するのか分からないけど。
「じゃあ、冴も大学中退?」
「まあ、大きなお腹で通えないしね」
それなら早めに沖縄に移住して慣れておいた方がいいんじゃないか?
産みのストレスと慣れない環境でのストレス。
それはSHのお母さん組がいつも話していたから瞳子も聞いているらしい。
なずなは苦労したみたいだけどその甲斐あって遊の態度が変わったと言っていた。
「皆それぞれの道を選ぶ時が来たんだね」
「うん、寂しいけど……でも私は待ち遠しい」
「どうして?」
「だってあと半年で冬吾君が帰ってくるんでしょ?」
「なるほどね」
大丈夫。
帰ったら真っ先に伝えようと思う事があるんだ。
楽しみにしていて欲しい。
やっと待ちに待った時がやってくる。
それがこの物語の終焉の始まり。
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