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MEN OF DESTINY
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(1)
6月のある日の事だった。
天音達が実家にやってきた。
海翔は何か包みを抱えている。
リビングに案内すると結もやって来た。
海翔は結を見ると包みを結に差し出した
「メロンです。にい」
結は不思議そうにメロンを受け取ると言った
「俺は海翔にオペを頼んだ覚えはないけど」
ああ、結はそっちを解釈したのか。
天音と結莉達はにやにやしている。
ぽかっ
美希から小突かれた。
「旦那様!その変なドラマの真似とかを結に教えないでください!」
美希が気づいたという事は多分母さんも気づいてるのだろう。
「天音も同じです。そういう事を子供に教えてどうするの!?」
「メロンが美味しい時期だしちょうどいいと思っただけだよ」
物騒な話ばかりだとつまんないだろ?と物騒な話を作り出してる天音が言う。
「まあ、いいじゃないか。ありがたくもらって食べよう」
父さんがそう言うと母さんは結に「皆で食べられるように分けるから」と結からメロンを受け取ろうとする。
だけど結は何かを考えていた。
「結、どうしたの?」
母さんが聞くと結が答えた。
「生ハムは?」
天音は子供たちに色んな味覚を教えようと色々食べさせていたらしい。
「なんか組み合わせおかしくない?」
そう言って食べようとしない大地をしかりつけて生ハムとメロンを食べさせた。
とてもメロンが甘く感じて美味しかったと結莉が結に教えたらしい。
それで冬夜が興味を示した。
だから天音はその事を予測していた。
「ちゃんと生ハムも用意してるよ。メロンも一個だけじゃ足りないだろうから」
天音がそう言うと大地がメロンと生ハムを出した。
天音と母さんが準備をしている間、大地達といろいろ話をしていた。
結莉に悩みがあるらしい。
それは茉莉が先に朔とキスをしたこと。
自分より先にしたことが悔しいとかじゃ無くて、結莉もキスがしたいけど芳樹にそのそぶりは全く見せない。
茉莉がキスをしたことは大地がこの前飲みに誘ってきたときに聞いた。
望さんも父さんも大地を慰めていた。
ファーストキスか……。
僕も突然翼にされたな。
あんな思い出で良いのかどうかは分からないけどいい思い出になっている。
父さんも似たようなものだったらしい。
中学生の時に母さんが突然路上でしてきたそうだ。
それに比べたらさすがに朔は上手いことしたみたいだ。
しかし結はさすが片桐家の男子だ。
「キスってどんな味?」
そんな事を茉莉に聞いていた。
「なんなら私が試してやってもいいけど、やっぱり茉奈とした方がいいだろ?」
そのうちそういう雰囲気になるかもしれないから楽しみにしとけと茉莉が言う。
「……キスって茉奈としないとだめなのか?」
まあ、結だったらそう言うだろうな。
「まあ、好きな人とするのが普通だね」
美希がそう答えると結が即答した。
「じゃあ、母さんとする」
しかし美希は結の反応をあらかじめ想定していたみたいだ。
にこりと笑って結に説明する。
「母さんはいいけど。結は絶対後悔するよ?」
「どうして?」
「人生でたった一度だけのチャンスだよ?」
大好きな人とした方がいい。
ファーストキスが母さんとなんて絶対に後悔する。
美希は結にそうアドバイスしてた。
「ふーん」
あまり深く考えずにメロンを食べていた。
だけどキスくらいならそのうちするかもしれないな。
「大地。今夜でも相手してやろうか?」
「……そうですね。空も大変だろうし」
「ふざけるな!そういう真似をするなって恵美さんに言われてただろうが!」
「天音の言う通りです。父親だけで飲むなんて絶対に許しません!」
天音と母さんが反対していた。
父さんも今回は母さんに賛成の様だ。
「大地はその前にしないといけない事があるだろ?」
「やっぱり結莉の下着買うのか?」
「芳樹にそんなの見せても困るだけだろ?」
「じゃあ、なぜ冬夜さんは他に何かすることがあるというのですか?」
父さんはくすりと笑って言った。
「大地は海翔に焼肉食べさせないとダメだろ?」
たんまりカルビを食わせてやれ。
ぽかっ
「さっきそういう事を孫に吹き込んではいけないと言ったでしょ!」
母さんが父さんを小突くとみんな笑っていた。
(2)
「ちょっと離して!」
「いいじゃん、今夜ホテルも用意してあるんだ」
この下種が!
殴り飛ばしたいところだけどさすがにそれはまずい。
相手は有名なアイドルグループのメンバー。
不祥事を起こしたら恵美さんに迷惑をかける。
とにかくホテルに行くことを拒否していた。
それは麻里も一緒の様だ。
「今のままだと新人にファンを取られてしまうよ。俺たちが持ってる番組のレギュラーに推薦してやるから」
事務所の力を使わないと女を口説くことも出来ない下種。
どうしてこんなことになったのか?
「実は環奈に頼まれたんだけど」
ある日そう麻里に声をかけられた。
「何かあったの?」
「今度私達東京で収録あるでしょ?」
「うん」
「その後飲み会するから私達を連れてきて欲しいと言ったみたいでさ」
「なら、志希に予定聞いてみる」
「それが問題なんだよね」
麻里が言った。
私と麻里だけできて欲しいらしい。
「麻里もだけど私も旦那持ちだよ?」
「そう言ったんだけど、それはちゃんと伝えてる。ただ一緒に飲みたいだけって言うんだよね」
山本環奈は女優だ。
アイドルグループの所属する事務所の力は強い。
彼らの機嫌一つで主演に抜擢されたりする。
環奈の為にもここは参加するしかないか。
「一応志希には伝えておく。誤解されたくないから」
「私も将門には伝えてるから」
「……念の為恵美さんにも言っておいた方がいいかも」
「専務に?」
麻里が言うと私が頷いた。
ただ飲むとは言えアルコールの入った男は危険だ。
SHの飲み会は大体が彼女がいるから馬鹿な真似はしないけど、正直芸能界の裏なんてのに良いイメージはない。
「それなら俺が伝えておくから」
マネージャーがそう言うので任せる事にした。
そして居酒屋に来て盛り上がっているとアイドルグループの一人が私を口説き始めた。
「悪いけど私結婚してるの」
そう言って左手を見せる。
だけどやはり頭が悪いのは間違いなかった。
「知ってる。初恋の彼が夫なんだろ?」
環奈はそんなことまで話していたのか。
「それは関係ないと思うんだけど?」あと
「いいじゃん。ここに来たって事はその気があったんだろ?」
やっぱり馬鹿だった。
ちらりと麻里を見るとやはり同じ目にあっている。
「あんた、アイドルなんでしょ?こんなところで女性を無理やり連れ帰ったなんてマスコミの格好の餌だと思うんだけど」
「大丈夫だよ。事務所がもみ消してくれる」
そう得意気に言う馬鹿を鼻で笑った。
「何から何まで事務所の力に頼ってるなんて情けなくて笑えない」
「なんだと?」
「酒の席だから覚えてるかわからないけど忠告してあげる」
女を口説き落とすくらい自分の実力でなんとかしろ。
あなたは結婚相手まで事務所に探してもらうの?
「……あまり俺達を怒らせない方が良いぞ」
私達が歌番にすら出られなくするのは簡単だぞ。
コンサート会場を奪い取るなんてたやすいこと。
CDを出せるかすら分からなくなっても知らないぞ。
とりあえこの馬鹿の言い分を聞いたうえで真っ向から否定した。
「貴方勘違いしてない?」
IMEは自社でCDを作るしDLするサイトも準備してあるから問題ない。
私達のCDを店に並べないと店の売り上げに影響すると自負している。
歌番組なんてわざわざ東京まできて面倒な事は恵美さんだって嫌がっているのに出なくていいなら私達も楽だ。
歌番組に出演しないとCDが売れないなんて平成時代の遺跡か?
会場を奪い取る?
そんな事恵美さんに知れたら私達も保証しない。
嫌がらせをしてきた事務所は大体閉鎖してタレントは移籍している。
それでも環奈は気を利かせてあなた達に合せているだけ。
それでも私達に牙をむくなら覚悟するのはお前だ。
「麻里、帰ろう。こんな下種に付き合うなんて時間の無駄」
「そうだね」
「あ、私も帰る」
環奈もそう言って帰ろうと立ち上がった時だった。
そんなになるまで飲んでいないはずなのにふらふらする。
まさかこいつら……。
「酔いも回ってきてるみたいだし送ってやるよ」
そう言って男たちが笑っている。
この現場を写真に撮って茜に送ったら派手にばらまいてくれるだろう。
だけどスマホを取り出すことも出来ないくらいくらくらする。
そして無理やり店を出ると私は抵抗する。
「離して!」
「心配しなくてもちゃんとホテルに届けてあげるよ」
嘘はついてないだろう。
多分高級なホテルを用意しているんだろう。
そこで私が安心して眠れるどうかは想像にまかせるけど。
こんな男に抱かれたいと思ってるファンがいるらしい。
麻里と環奈は何を飲み物に混ぜたのか知らないけどもう立っているのもやっとみたいだ。
いつもなら殴り飛ばすけど相手が悪すぎる。
体調も最悪だ。
「志希、ごめん」
そんな事を思い浮かんだ時だった。
「悪いけどその子達私の事務所の稼ぎ頭なの。素直に引き渡しなさい」
恵美さんの声がした。
「なんだお前?」
「口の利き方も知らないガキが調子に乗るな」
「素直に引き渡した方が良いと思う。この歳で暴れるのはさすがにしんどいんだ」
望さんも来ていたみたいだ。
マネージャーが伝えて心配して様子をうかがっていたらしい。
「それにもしそうなったとして騒ぎになったら君たちの事務所も痛手じゃないのか?」
もみ消すにしてもどれだけの費用がかかるか?
大人ならそのくらい察しなさい。
人に迷惑をかけないと女もまともに口説けないのがアイドルなんて笑わせるな。
「それでも不満があるならやってあげる」
顔さえ傷つけなかったらいいんだろ?
だけど忠告する。
酔った勢いで大人に喧嘩を売ったなんて話題になったらこの世界まともに生きていけないよ?
そんな事も判断できないガキなんて地元にもいくらでもいる。
そしてそんなガキどもを地獄に突き落とすのが得意なグループのリーダーが私の兄だ。
望さんがそう説明すると男たちは私達の身柄を引き渡して去って行った。
「専務……すいません」
「行かせた私達にも責任がある。アイドルだからと油断してたわ」
恵美さんがそう言っていた。
「でもこれからどうなるんでしょう」
環奈が言うと恵美さんはにこりと笑った。
「この事を公にして被害が出るのは向こうも同じ。私達が心配しなくても始末してくれるでしょう」
「案外、地元の治安の方がまともかもしれないね」
馬鹿はSHの獲物になるから。
望さん達にホテルに送ってもらうと、私は志希に抱き着いて謝っていた。
「何もしてないから」
「分かってるよ。ただ、気を付けた方がいいかもしれないね」
冬莉は綺麗だから。
「ごめん、今褒められても何もできそうにない」
「何もしなくていいよ。僕が勝手に抱きしめているから」
「ありがとう」
そう言ってこの事件は終わった。
そう思ったのは私にまだ甘い部分があったのかもしれない。
のちに大事件を起こすことになる。
(3)
やれやれ……。
やっぱり僕達を狙って来た。
僕の彼女は菫や茉莉じゃない。
普通のか弱い女の子の心音だ。
僕が彼女を引き付けて彼女に大人を読んでもらう事も考えた。
だけど心音は僕の側に置いておかないと、離れた心音を狙われたらひとたまりもない。
その事に一緒に帰っていた菫達も気づいていた。
「秋久、先に心音連れて帰れ。私が馬鹿たれを始末してやる」
まあ、菫なら余裕だろう。
しかしそれにも少々問題がある。
もしこの場を菫に任せて僕が逃げたなんて晶さんに知れたら殺される。
そうしてお婆さんと呼ばないかって?
「私はまだそこまで歳を取ってない!」
「あ、晶ちゃん。秋久達にしてみたら祖父母なんだよ?僕達」
お爺さんはそう言って説得していた。
相談した末「名前で呼びなさい」と言われた。
冬夜ほどじゃないけど酒井家も圧倒的に女性が強いのは母さん達を見ていたらよくわかる。
僕も心音に頭が上がらない時が来るのだろう。
「それが酒井家の運命だから受け入れた方がいいと父さんは思うよ」
こんな事なら彼女を作るんじゃなかった?
口が裂けてもそんなこと言えない。
本当に口が裂けるかもしれない。
「正行だっているんだ。正行に標的を変えるかもしれない」
「正行なら多少の喧嘩は出来るけど心音は無理だろ?」
「兄の死体を見たくないなら従っておくれ」
「しょうがねーな。これは貸しだからな」
普通は借りだと思うんだけど。
僕達を狙っているのは視線を感じた時から間違いないから、菫達は家の方に向かって僕達は人気のない方へと向かった。
その事を察した心音が聞いてくる。
「秋久、何かあるの?」
「絶対に振り返らないでおくれ。……何者かわからないけどつけられてる」
「……私達攫われちゃうの?」
「そんな事には絶対させない」
そんなことになったら僕はこの若さで命を落とす。
「いいかい?絶対に僕から離れたら駄目だよ?」
そう言うと心音は無言でうなずいた。
スーパーに向かって、スーパーに向かわず裏口の方へ行く。
まあ、滅多に人のいないところだ。
そこに立ち止まって彼らに声をかける。
「……ここなら人気が無い。いい加減に出てきたらどうだい?」
するとぞろぞろと現れた。
少々計算違いをしていた。
どうせただの素人だ。
どうやら僕は詰めが甘いらしい。
彼らを見て悟った。
それなりに訓練を受けている。
何か武装しているのは明らかみたいだ。
一方僕はともかく一緒にいるのは戦闘なんて無縁の心音。
自分の持ち札を考えてもせっかく人気のない所に誘ったのに派手な能力は使えない。
どうする?
そんな事を考えているうちに襲い掛かってくればいいのに、にやにやと笑っていた。
そういう油断が命取りになるって教わらなかったのかい?
まともな日本人なら絶対に授業には出てこないだろうけど。
「選択肢をやる。お前が攫われるかその女が攫われるか選べ」
馬鹿じゃないのか?
「その選択肢に意味があるのかい?」
「なんだと?痛い目を見ないと分からないのか?」
「そういう事をいちいち確認するのが間抜けだって言ってるんだ」
彼らの頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいる間に僕は行動に移った。
素早く銃を取り出して呑気にセリフを言っていたマヌケに銃弾を撃ち込む。
「心音。建物の方に走って」
僕がそう言った時は僕は彼らの群れの中に紛れ込んでいた。
注意は僕に向かった。
その時に普通は心音の方に銃を向けるんだけどね。
そんな真似をさせる余裕は与えるつもりはないけど。
たった一人で群れの中で暴れていたら当然混乱する。
どこを狙っていいかわからない。
そんなマヌケを一人ずつ片付けていく。
彼らは確かに戦闘の訓練を受けているようだった。
だけど甘く見ないで欲しい。
まさか7歳でこんなセリフを言うとは思わなかった。
「悪いけど君達とは年季が違うんだ」
最後の一人をしとめた後にそう言った。
「これで勝ったと思うなよ」
最後の一人がそう言ってにやりと笑う。
なんとなく読めた。
どこかに狙撃手がいる。
……ここ地元だよね?
よくわからない東南アジアの犯罪都市じゃないよね?
まあ、多分狙うなら心音なんだろうけど、そんなに大した問題じゃない。
自分を中心にバリアを張るなんて一言も言ってない。
ちゃんと心音の周りに展開していた。
それにこのリベリオンとかいう連中も頭がかなり悪いらしい。
お爺さんの敵もそうだったらしいけど消音器というのを付けない頭の悪い狙撃手らしい。
すぐに居場所は特定した。
だけど仕留めたのは菫だった。
「思ったより時間かかってるじゃねーか?」
「まあ、心音の安全が第一だから」
そうしないと僕の命がやばい。
「で、こいつら何者なんだ?」
「多分結達の言ってたリベリオンじゃないかな」
FGの様な素人じゃない。
明らかに訓練を受けている。
「ちょっとは面白い年になりそうだな」
そんな事を言うのは菫と茉莉だけだよ。
「秋久、大丈夫?」
心音が出てきた。
「ああ、厄介事に巻き込んでごめんね。そろそろ帰ろうか」
「うん」
「じゃあ、菫。母さん達に」
「ああ、分かってる」
そう言って心音を家に送る。
心音の家に着くと心音は僕を抱きしめる。
「秋久は凄く頼りになる恋人。だけど私は怖い」
僕の足を引っ張ってないかと不安になったらしい。
「父さんもお爺さんもそうだった」
恋人には逆らえないけど、恋人だけは絶対に守る。
だから安心して。
すると心音は目を閉じるように言った。
何をする気かわかっていたけど言うとおりにした。
こんなファーストキスでいいのだろうか?
「これで秋久は私のものだからね」
誰にも譲らないから。
「ありがとう、光栄に思うよ」
そう言って心音が家に入るのを見届けて僕も家に帰る。
小学校生活2年目ももうすぐ夏休みに入る。
6月のある日の事だった。
天音達が実家にやってきた。
海翔は何か包みを抱えている。
リビングに案内すると結もやって来た。
海翔は結を見ると包みを結に差し出した
「メロンです。にい」
結は不思議そうにメロンを受け取ると言った
「俺は海翔にオペを頼んだ覚えはないけど」
ああ、結はそっちを解釈したのか。
天音と結莉達はにやにやしている。
ぽかっ
美希から小突かれた。
「旦那様!その変なドラマの真似とかを結に教えないでください!」
美希が気づいたという事は多分母さんも気づいてるのだろう。
「天音も同じです。そういう事を子供に教えてどうするの!?」
「メロンが美味しい時期だしちょうどいいと思っただけだよ」
物騒な話ばかりだとつまんないだろ?と物騒な話を作り出してる天音が言う。
「まあ、いいじゃないか。ありがたくもらって食べよう」
父さんがそう言うと母さんは結に「皆で食べられるように分けるから」と結からメロンを受け取ろうとする。
だけど結は何かを考えていた。
「結、どうしたの?」
母さんが聞くと結が答えた。
「生ハムは?」
天音は子供たちに色んな味覚を教えようと色々食べさせていたらしい。
「なんか組み合わせおかしくない?」
そう言って食べようとしない大地をしかりつけて生ハムとメロンを食べさせた。
とてもメロンが甘く感じて美味しかったと結莉が結に教えたらしい。
それで冬夜が興味を示した。
だから天音はその事を予測していた。
「ちゃんと生ハムも用意してるよ。メロンも一個だけじゃ足りないだろうから」
天音がそう言うと大地がメロンと生ハムを出した。
天音と母さんが準備をしている間、大地達といろいろ話をしていた。
結莉に悩みがあるらしい。
それは茉莉が先に朔とキスをしたこと。
自分より先にしたことが悔しいとかじゃ無くて、結莉もキスがしたいけど芳樹にそのそぶりは全く見せない。
茉莉がキスをしたことは大地がこの前飲みに誘ってきたときに聞いた。
望さんも父さんも大地を慰めていた。
ファーストキスか……。
僕も突然翼にされたな。
あんな思い出で良いのかどうかは分からないけどいい思い出になっている。
父さんも似たようなものだったらしい。
中学生の時に母さんが突然路上でしてきたそうだ。
それに比べたらさすがに朔は上手いことしたみたいだ。
しかし結はさすが片桐家の男子だ。
「キスってどんな味?」
そんな事を茉莉に聞いていた。
「なんなら私が試してやってもいいけど、やっぱり茉奈とした方がいいだろ?」
そのうちそういう雰囲気になるかもしれないから楽しみにしとけと茉莉が言う。
「……キスって茉奈としないとだめなのか?」
まあ、結だったらそう言うだろうな。
「まあ、好きな人とするのが普通だね」
美希がそう答えると結が即答した。
「じゃあ、母さんとする」
しかし美希は結の反応をあらかじめ想定していたみたいだ。
にこりと笑って結に説明する。
「母さんはいいけど。結は絶対後悔するよ?」
「どうして?」
「人生でたった一度だけのチャンスだよ?」
大好きな人とした方がいい。
ファーストキスが母さんとなんて絶対に後悔する。
美希は結にそうアドバイスしてた。
「ふーん」
あまり深く考えずにメロンを食べていた。
だけどキスくらいならそのうちするかもしれないな。
「大地。今夜でも相手してやろうか?」
「……そうですね。空も大変だろうし」
「ふざけるな!そういう真似をするなって恵美さんに言われてただろうが!」
「天音の言う通りです。父親だけで飲むなんて絶対に許しません!」
天音と母さんが反対していた。
父さんも今回は母さんに賛成の様だ。
「大地はその前にしないといけない事があるだろ?」
「やっぱり結莉の下着買うのか?」
「芳樹にそんなの見せても困るだけだろ?」
「じゃあ、なぜ冬夜さんは他に何かすることがあるというのですか?」
父さんはくすりと笑って言った。
「大地は海翔に焼肉食べさせないとダメだろ?」
たんまりカルビを食わせてやれ。
ぽかっ
「さっきそういう事を孫に吹き込んではいけないと言ったでしょ!」
母さんが父さんを小突くとみんな笑っていた。
(2)
「ちょっと離して!」
「いいじゃん、今夜ホテルも用意してあるんだ」
この下種が!
殴り飛ばしたいところだけどさすがにそれはまずい。
相手は有名なアイドルグループのメンバー。
不祥事を起こしたら恵美さんに迷惑をかける。
とにかくホテルに行くことを拒否していた。
それは麻里も一緒の様だ。
「今のままだと新人にファンを取られてしまうよ。俺たちが持ってる番組のレギュラーに推薦してやるから」
事務所の力を使わないと女を口説くことも出来ない下種。
どうしてこんなことになったのか?
「実は環奈に頼まれたんだけど」
ある日そう麻里に声をかけられた。
「何かあったの?」
「今度私達東京で収録あるでしょ?」
「うん」
「その後飲み会するから私達を連れてきて欲しいと言ったみたいでさ」
「なら、志希に予定聞いてみる」
「それが問題なんだよね」
麻里が言った。
私と麻里だけできて欲しいらしい。
「麻里もだけど私も旦那持ちだよ?」
「そう言ったんだけど、それはちゃんと伝えてる。ただ一緒に飲みたいだけって言うんだよね」
山本環奈は女優だ。
アイドルグループの所属する事務所の力は強い。
彼らの機嫌一つで主演に抜擢されたりする。
環奈の為にもここは参加するしかないか。
「一応志希には伝えておく。誤解されたくないから」
「私も将門には伝えてるから」
「……念の為恵美さんにも言っておいた方がいいかも」
「専務に?」
麻里が言うと私が頷いた。
ただ飲むとは言えアルコールの入った男は危険だ。
SHの飲み会は大体が彼女がいるから馬鹿な真似はしないけど、正直芸能界の裏なんてのに良いイメージはない。
「それなら俺が伝えておくから」
マネージャーがそう言うので任せる事にした。
そして居酒屋に来て盛り上がっているとアイドルグループの一人が私を口説き始めた。
「悪いけど私結婚してるの」
そう言って左手を見せる。
だけどやはり頭が悪いのは間違いなかった。
「知ってる。初恋の彼が夫なんだろ?」
環奈はそんなことまで話していたのか。
「それは関係ないと思うんだけど?」あと
「いいじゃん。ここに来たって事はその気があったんだろ?」
やっぱり馬鹿だった。
ちらりと麻里を見るとやはり同じ目にあっている。
「あんた、アイドルなんでしょ?こんなところで女性を無理やり連れ帰ったなんてマスコミの格好の餌だと思うんだけど」
「大丈夫だよ。事務所がもみ消してくれる」
そう得意気に言う馬鹿を鼻で笑った。
「何から何まで事務所の力に頼ってるなんて情けなくて笑えない」
「なんだと?」
「酒の席だから覚えてるかわからないけど忠告してあげる」
女を口説き落とすくらい自分の実力でなんとかしろ。
あなたは結婚相手まで事務所に探してもらうの?
「……あまり俺達を怒らせない方が良いぞ」
私達が歌番にすら出られなくするのは簡単だぞ。
コンサート会場を奪い取るなんてたやすいこと。
CDを出せるかすら分からなくなっても知らないぞ。
とりあえこの馬鹿の言い分を聞いたうえで真っ向から否定した。
「貴方勘違いしてない?」
IMEは自社でCDを作るしDLするサイトも準備してあるから問題ない。
私達のCDを店に並べないと店の売り上げに影響すると自負している。
歌番組なんてわざわざ東京まできて面倒な事は恵美さんだって嫌がっているのに出なくていいなら私達も楽だ。
歌番組に出演しないとCDが売れないなんて平成時代の遺跡か?
会場を奪い取る?
そんな事恵美さんに知れたら私達も保証しない。
嫌がらせをしてきた事務所は大体閉鎖してタレントは移籍している。
それでも環奈は気を利かせてあなた達に合せているだけ。
それでも私達に牙をむくなら覚悟するのはお前だ。
「麻里、帰ろう。こんな下種に付き合うなんて時間の無駄」
「そうだね」
「あ、私も帰る」
環奈もそう言って帰ろうと立ち上がった時だった。
そんなになるまで飲んでいないはずなのにふらふらする。
まさかこいつら……。
「酔いも回ってきてるみたいだし送ってやるよ」
そう言って男たちが笑っている。
この現場を写真に撮って茜に送ったら派手にばらまいてくれるだろう。
だけどスマホを取り出すことも出来ないくらいくらくらする。
そして無理やり店を出ると私は抵抗する。
「離して!」
「心配しなくてもちゃんとホテルに届けてあげるよ」
嘘はついてないだろう。
多分高級なホテルを用意しているんだろう。
そこで私が安心して眠れるどうかは想像にまかせるけど。
こんな男に抱かれたいと思ってるファンがいるらしい。
麻里と環奈は何を飲み物に混ぜたのか知らないけどもう立っているのもやっとみたいだ。
いつもなら殴り飛ばすけど相手が悪すぎる。
体調も最悪だ。
「志希、ごめん」
そんな事を思い浮かんだ時だった。
「悪いけどその子達私の事務所の稼ぎ頭なの。素直に引き渡しなさい」
恵美さんの声がした。
「なんだお前?」
「口の利き方も知らないガキが調子に乗るな」
「素直に引き渡した方が良いと思う。この歳で暴れるのはさすがにしんどいんだ」
望さんも来ていたみたいだ。
マネージャーが伝えて心配して様子をうかがっていたらしい。
「それにもしそうなったとして騒ぎになったら君たちの事務所も痛手じゃないのか?」
もみ消すにしてもどれだけの費用がかかるか?
大人ならそのくらい察しなさい。
人に迷惑をかけないと女もまともに口説けないのがアイドルなんて笑わせるな。
「それでも不満があるならやってあげる」
顔さえ傷つけなかったらいいんだろ?
だけど忠告する。
酔った勢いで大人に喧嘩を売ったなんて話題になったらこの世界まともに生きていけないよ?
そんな事も判断できないガキなんて地元にもいくらでもいる。
そしてそんなガキどもを地獄に突き落とすのが得意なグループのリーダーが私の兄だ。
望さんがそう説明すると男たちは私達の身柄を引き渡して去って行った。
「専務……すいません」
「行かせた私達にも責任がある。アイドルだからと油断してたわ」
恵美さんがそう言っていた。
「でもこれからどうなるんでしょう」
環奈が言うと恵美さんはにこりと笑った。
「この事を公にして被害が出るのは向こうも同じ。私達が心配しなくても始末してくれるでしょう」
「案外、地元の治安の方がまともかもしれないね」
馬鹿はSHの獲物になるから。
望さん達にホテルに送ってもらうと、私は志希に抱き着いて謝っていた。
「何もしてないから」
「分かってるよ。ただ、気を付けた方がいいかもしれないね」
冬莉は綺麗だから。
「ごめん、今褒められても何もできそうにない」
「何もしなくていいよ。僕が勝手に抱きしめているから」
「ありがとう」
そう言ってこの事件は終わった。
そう思ったのは私にまだ甘い部分があったのかもしれない。
のちに大事件を起こすことになる。
(3)
やれやれ……。
やっぱり僕達を狙って来た。
僕の彼女は菫や茉莉じゃない。
普通のか弱い女の子の心音だ。
僕が彼女を引き付けて彼女に大人を読んでもらう事も考えた。
だけど心音は僕の側に置いておかないと、離れた心音を狙われたらひとたまりもない。
その事に一緒に帰っていた菫達も気づいていた。
「秋久、先に心音連れて帰れ。私が馬鹿たれを始末してやる」
まあ、菫なら余裕だろう。
しかしそれにも少々問題がある。
もしこの場を菫に任せて僕が逃げたなんて晶さんに知れたら殺される。
そうしてお婆さんと呼ばないかって?
「私はまだそこまで歳を取ってない!」
「あ、晶ちゃん。秋久達にしてみたら祖父母なんだよ?僕達」
お爺さんはそう言って説得していた。
相談した末「名前で呼びなさい」と言われた。
冬夜ほどじゃないけど酒井家も圧倒的に女性が強いのは母さん達を見ていたらよくわかる。
僕も心音に頭が上がらない時が来るのだろう。
「それが酒井家の運命だから受け入れた方がいいと父さんは思うよ」
こんな事なら彼女を作るんじゃなかった?
口が裂けてもそんなこと言えない。
本当に口が裂けるかもしれない。
「正行だっているんだ。正行に標的を変えるかもしれない」
「正行なら多少の喧嘩は出来るけど心音は無理だろ?」
「兄の死体を見たくないなら従っておくれ」
「しょうがねーな。これは貸しだからな」
普通は借りだと思うんだけど。
僕達を狙っているのは視線を感じた時から間違いないから、菫達は家の方に向かって僕達は人気のない方へと向かった。
その事を察した心音が聞いてくる。
「秋久、何かあるの?」
「絶対に振り返らないでおくれ。……何者かわからないけどつけられてる」
「……私達攫われちゃうの?」
「そんな事には絶対させない」
そんなことになったら僕はこの若さで命を落とす。
「いいかい?絶対に僕から離れたら駄目だよ?」
そう言うと心音は無言でうなずいた。
スーパーに向かって、スーパーに向かわず裏口の方へ行く。
まあ、滅多に人のいないところだ。
そこに立ち止まって彼らに声をかける。
「……ここなら人気が無い。いい加減に出てきたらどうだい?」
するとぞろぞろと現れた。
少々計算違いをしていた。
どうせただの素人だ。
どうやら僕は詰めが甘いらしい。
彼らを見て悟った。
それなりに訓練を受けている。
何か武装しているのは明らかみたいだ。
一方僕はともかく一緒にいるのは戦闘なんて無縁の心音。
自分の持ち札を考えてもせっかく人気のない所に誘ったのに派手な能力は使えない。
どうする?
そんな事を考えているうちに襲い掛かってくればいいのに、にやにやと笑っていた。
そういう油断が命取りになるって教わらなかったのかい?
まともな日本人なら絶対に授業には出てこないだろうけど。
「選択肢をやる。お前が攫われるかその女が攫われるか選べ」
馬鹿じゃないのか?
「その選択肢に意味があるのかい?」
「なんだと?痛い目を見ないと分からないのか?」
「そういう事をいちいち確認するのが間抜けだって言ってるんだ」
彼らの頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいる間に僕は行動に移った。
素早く銃を取り出して呑気にセリフを言っていたマヌケに銃弾を撃ち込む。
「心音。建物の方に走って」
僕がそう言った時は僕は彼らの群れの中に紛れ込んでいた。
注意は僕に向かった。
その時に普通は心音の方に銃を向けるんだけどね。
そんな真似をさせる余裕は与えるつもりはないけど。
たった一人で群れの中で暴れていたら当然混乱する。
どこを狙っていいかわからない。
そんなマヌケを一人ずつ片付けていく。
彼らは確かに戦闘の訓練を受けているようだった。
だけど甘く見ないで欲しい。
まさか7歳でこんなセリフを言うとは思わなかった。
「悪いけど君達とは年季が違うんだ」
最後の一人をしとめた後にそう言った。
「これで勝ったと思うなよ」
最後の一人がそう言ってにやりと笑う。
なんとなく読めた。
どこかに狙撃手がいる。
……ここ地元だよね?
よくわからない東南アジアの犯罪都市じゃないよね?
まあ、多分狙うなら心音なんだろうけど、そんなに大した問題じゃない。
自分を中心にバリアを張るなんて一言も言ってない。
ちゃんと心音の周りに展開していた。
それにこのリベリオンとかいう連中も頭がかなり悪いらしい。
お爺さんの敵もそうだったらしいけど消音器というのを付けない頭の悪い狙撃手らしい。
すぐに居場所は特定した。
だけど仕留めたのは菫だった。
「思ったより時間かかってるじゃねーか?」
「まあ、心音の安全が第一だから」
そうしないと僕の命がやばい。
「で、こいつら何者なんだ?」
「多分結達の言ってたリベリオンじゃないかな」
FGの様な素人じゃない。
明らかに訓練を受けている。
「ちょっとは面白い年になりそうだな」
そんな事を言うのは菫と茉莉だけだよ。
「秋久、大丈夫?」
心音が出てきた。
「ああ、厄介事に巻き込んでごめんね。そろそろ帰ろうか」
「うん」
「じゃあ、菫。母さん達に」
「ああ、分かってる」
そう言って心音を家に送る。
心音の家に着くと心音は僕を抱きしめる。
「秋久は凄く頼りになる恋人。だけど私は怖い」
僕の足を引っ張ってないかと不安になったらしい。
「父さんもお爺さんもそうだった」
恋人には逆らえないけど、恋人だけは絶対に守る。
だから安心して。
すると心音は目を閉じるように言った。
何をする気かわかっていたけど言うとおりにした。
こんなファーストキスでいいのだろうか?
「これで秋久は私のものだからね」
誰にも譲らないから。
「ありがとう、光栄に思うよ」
そう言って心音が家に入るのを見届けて僕も家に帰る。
小学校生活2年目ももうすぐ夏休みに入る。
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