姉妹チート

和希

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Trick or Treat!

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(1)

「トリックオアトリート!」

 結莉と茉莉達が愛莉に向かって叫んでいる。

「はい、どうぞ」

 愛莉がそう言ってお菓子を渡すと結莉と茉莉達は他の親の所に向かった。
 俺は不思議だった。
 そんな事しなくても家にお菓子がいっぱいあるんじゃないだろうか?
 
「どうしたの?結」

 茉奈が聞いた。
 僕は茉奈の姿を見てまた違う事を考えていた。
 魔女の格好をしていた。
 海翔はカボチャの仮面をしていた。
 欧米ではカボチャのお化けがいるらしい。
 それは美味しいのだろうか?
 アンパン男のカボチャ版みたいなものか?

「食べたら駄目だよ。結」

 茉奈が言う。
 じゃあ、食べられないのだろう。
 今日は別に祝日というわけじゃない。
 ハロウィンという西洋のお祭りの日。
 なんでもありの日本だからいつの間にか始まったらしい。
 とても不思議なお祭り。
 子供が仮装して近所の家を回って「トリックオアトリート」と言うと大人がお菓子をくれるらしい。
 お菓子をくれないと悪戯するぞと言う意味なんだそうだ。
 しかし確かアメリカなんかだと庭に入ったら射殺してもいいと聞いたことがある。
 日本ならではとかではないらしいけどどうやって子供は家に侵入するんだろう?
 それに誠や瑛大の家に女の子が行ったら「おじさんがいたずらしちゃうぞ」くらい言いそうな気がした。
 いたずらの中身は母さんがまだ興味持ったらダメだというから気にしないことにした。
 大人なのに悪戯するんだろうか?
 するらしい。
 光太と遊や天が外に出かけようとしてお嫁さんに捕まっていた。

「天、どこに行くのですか?」
「ちょっと出かけてくるだけだよ」
「せっかくパーティをしているのに何の用があるの?」
「それだよ、せっかく町中でパーティしてるんだろ?」
 
 そんなみんなと一緒に騒ぎたい。
 光太達は今日はそこら辺の軽トラをひっくり返してもいいと思っていたそうだ。
 当然お嫁さんに怒られている。
 茉莉達も好きそうなのに、茉莉達は参加しなかった。
 なんでだろう?

「そんなの別に今夜じゃなくてもいいだろ?」

 茉莉は平然と言ってのけた。
 天音はまずいと思って逃げ出そうとしたけど愛莉に捕まっていた。

「天音は子供に何を教えているの!」

 愛莉がお菓子を用意していたら茉莉が仮装をしてやってきた。
 仮装と言えば聞こえはいいが、刃物を持っていた。
 愛莉は当然叱った。
 だけど茉莉は「これは作りものだから心配するな」と言ったらしい。
 あーりは天音に注意するけど晶が「茉莉はまだましだ」と言う。
 理由は菫だった。
 菫はこの会場に拳銃を持ち込んでいる。
 さすがに翼じゃ手に負えないと判断した愛莉と晶は2人で菫を説得した。

「撃たないからいいだろ?」

 全く説得の意味がなかったらしい。
 菫が男なら有無を言わさずアフリカにバカンスを考えたそうだ。
 だけど菫は女の子。
 そんなところで経験を積んだらますます手に負えない事になってしまう。
 菫は酒井家の家のご令嬢。
 さすがにまずいと晶も悩んでいるそうだ。
 だけど解決策が無いわけじゃない。
 善明が注意するとすぐに直す。
 その代わり善明に告げ口した奴に逆襲する。
 善明がいう事だけはちゃんと守るらしい。
 じいじが愛莉に逆らえないようなものだと母さんが言ってた。
 それでもじいじが言っていた。

「ちゃんと孫娘を見てあげないと可哀そうだよ」
「どういう意味ですか?」
「あの子の変化は一目瞭然だと思うけど?」

 菫には西原という彼氏が出来た。
 それによってある程度は西原に任せようとしている。
 自分の相方という意味をしっかり分かっているとじいじが説明していた。

「父さんは母さんに逆らうの?」
「そんなことないよ。ただ陰でこそこそ何かしようとするの」

 それだけじゃない。
 興味を持たなくていい物に興味を持つ。
 僕はふと茉奈を見た。
 それに気づいた茉奈が「どうしたの?」と聞いてきた。

「茉奈も僕に何か不満あるのか?」
「ないよ」

 でも茉奈にくらいは興味を示してほしい。
 だけど今日だって「その衣装似合ってるよ」って言ってくれたから嬉しい。
 いつも茉奈の側にいる俺だから、茉奈の少しの変化も見逃さない。
 そういうのに気づいてやればいい。褒めてあげたらいい。
 母さんがそう言っていたからそうしてるだけ。
 そんな様子を見ていた恵美が天音に言っていた。

「茉莉は朔と付き合っているのよね?」
「ええ、そうみたいだけど。それがどうかしました?」

 すると恵美は晶に話していた。

「茉莉の場合は多分茉莉をどうこうするより朔から言わせた方が良いかもしれない」
「確かに恵美の言うとおりね。やるなら早いうちの方がいいわね」

 そんな相談をしていた。

「でも、大地のいう事は聞くんでしょ?」

 愛莉が言っている。
 結莉も茉莉も大地のいう事は聞くらしい。
 正確には天音のいう事も聞いている。
 だけど大地が教育しようとしても天音は茉莉達に余計な事を吹き込む。
 大地もさすがに天音には反抗できない。
 正しくは大地は天音ともめ事を起こしたくない。
 仕事でトラブルが毎日起きているのに家庭で余計なトラブルを起こしたくない。
 夫婦喧嘩なんてものを子供に見せたくない。
 天音と喧嘩したなんて恵美に知れたらどうなるかくらい想像がつく。

「……つまり茉莉のあの行動は天音が作り出したという事ですね?」
「ま、待て愛莉。それだと結莉はどう説明するんだ!?」

 やっぱり親より恋人から言った方がいいんじゃないか?
 小学校1年生の彼氏に娘の教育を丸投げする天音。
 あれはただの責任転嫁だとママが教えてくれた。

「だいたい小学生なんて茉莉くらいが普通だろ!?結が異常なんじゃないのか?」
「天音が自分の娘をどういう風に育てようと私は関与しない。でも私の息子をそういう風に言うのだけは許さない」
 
 だから結莉や茉莉がどういう風になろうと愛莉は心配だろうけど、母さんが口出しすることじゃないと思っていた。
 それでも俺の事をそういう風に言うのは絶対許さない。
 それは父さんも同じだったみたいだ。

「美希と天音の違いくらいは分かる。だけど僕達の子供をそういう風に言うなら僕も黙ってないよ」
「ご、ごめん空。天音はそういうつもりで言ったんじゃないんだ」

 大地がパパに謝っている。
 だけど天音も日頃から小言を言われてたまっていた物があるらしい。

「どうせ私は母親失格だって言いたいんだろ!もういい!」
「いい加減にしなさい!!」

 じいじの怒声に父さん達も愛莉も恵美さんも驚いた。
 だけどじいじは話を続ける。

「天音は愛莉が母親失格なんて言い出したらどう思うか考えたの?」

 自分の親はダメな親だ。
 自分のせいでダメな親だと思われている。
 結莉や茉莉がそう思いだしたらもう取り返しがつかない。
 間違いなく道を間違えるよとじいじは話した。

「……でもどうしたらいいか分からないんだよ」
「だから大地がいるんじゃないのか?」

 2人の子供なんだから2人で考えて教育していけばいい。
 どこの家だって同じだ。
 翼だって陽葵や菫の事で何度も愛莉に相談している。
 日頃のストレスだって愛莉は分かってる。
 あーりも天音の事で何度も学校に呼び出されてるのだから。
 
「それは大地も同じなんだよ?」

 天音は結莉と茉莉と言う問題をずっと抱えて生活している。
 石原家の跡取り娘と言うのもあって重圧だってすごいはずだ。
 たまには愚痴りたい時もある。
 でも仕事で忙しい大地にこれ以上迷惑をかけられない。
 そのストレスの発散方法がゲームなんだろう。
 愛莉達の様に家を空けられない。
 海翔がいるから。
 ここまで言ったらもうわかるだろ?

「大地が少しだけ子供の事を気にかけてあげたらいい」

 天音がこんなことを言いだすくらい天音一人では限界なんだ。
 だからもう少し子供の事を気にかけてやったらいい。
 子供が大地のいう事を聞くのなら大地が変わってやればいい。
 父親というのは家庭の中で一番の心のよりどころなんだ。
 子供の事を見るんじゃなくて妻の相談相手になってやればいい。
 
「確かに仕事に必死で天音の事を気にかけてやれなかった。ごめん天音」
「……いいんだ。私も少し言い過ぎた」

 なんかこの空気好きじゃないな。
 あ、そうだ。
 女性の人はやっていいらしいけど男女平等だ。
 僕は母さんの顔に水をかけた。

「ど、どうしたの?」

 母さんは分かっていないようだ。

「とりっくおあとりーと」

 僕は母さんからお菓子をもらってない。

「……家に帰ったらあげるからがまんしてね」

 ハンカチで顔を吹きながら母さんは笑っていた。

「今日帰ったら少し2人で相談しないか?さすがに小学校に通うようになって今のままではまずい」

 そうでなくても小学校にはリベリオンやFGなんて集団がいる。
 結莉や茉莉が過激になるのは避けられない。
 問題はそれをしていい場所を教えてやることじゃないのか?
 大地はそう思っているらしい。

「……ごめんな。私に任されてるから自分で何とかしなくちゃと思って」
「僕の方こそ天音に任せっきりだった。しっかりするから」
「うん」
「この中で一番チートなのはやっぱり片桐君なのね」

 恵美がそう言って笑っていた。

「でも冬夜さんあいさつ回りしてたのでは?」
「ああ、愛莉にもお願いしたい事があってね」
「私にですか?」
「ちょっとついてきて」
「分かりました」

 そう言って二人はその場を後にした。

(2)

「あ、茉里奈。ちょっと来なさい」

 父さん達に呼ばれて私は父さんについて行く。
 天音の両親と知らない親子がいた。

「茉里奈。この人が父さん達の渡辺班のブレインの片桐冬夜さんと奥さんの愛莉さん」

 そう言うと2人は礼をしたので礼を返した。

「じゃあ、僕から紹介するね。この人は小学校の教師の水島桜子と夫の佐。それに息子の桐翔君」

 そう言うと桐翔さんは「初めまして」と礼をしていた。
 私とそんなに歳は変わらないらしい。
 結婚されているんだろうか?
 
「子供じゃないから桐翔も2人で大丈夫よね?」

 桜子さんがそう言うと父さん達と一緒に私と桐翔さんを残してどこかに行った。
 お見合いのつもりか?
 私は今それどころじゃないんだけど。
 店もまだ出来てないから居候状態なのにどうしろって言うんだ。
 恋人探しに帰国したわけじゃないぞ。
 まだルイスの事だって……。

「ごめんね。俺が無理言ってお願いしたんだ」
「え?」
「茉里奈さんの事は片桐さんから聞いてる。フランスですごい功績を残したんだってね」

 ルイスの事は触れないようにしてくれたんだろうな。

「でも、日本に帰ってきて小さな店一軒で満足するしょうもない奴だから」
「功績を残しただけでもすごいよ。俺はそれすらできなかった。

 桐翔さんは落ち込んでいる。
 功績を残せる人間なんてそんなにいない。
 数が少ないからみんなそれを誇りに思って必死につかもうとする。
 その姿をみっともないなんて言う奴は片っ端からぶっ飛ばしてやる。

「桐翔さんは何をされているんですか?」

 なんとなく聞いてみた。

「バスケの選手……だった」

 地元出身のバスケの選手と言えばさっきの片桐冬夜さんがまず浮かぶ。
 片桐さんを理想としてそれを地元出身の選手に押し付ける。
 だけどみんながそうなれるわけじゃない。
 日本代表どころかプロバスケのチームとも契約を解除された。
 今は親の勧めで中学校のバスケの監督をしているらしい。

「私が運が良かっただけかもしれない。そんなに卑下することはないですよ」

 紗理奈や天音も一緒にフランスに行っていたら変わってたかもしれない。
 たまたまだ。
 バスケの選手なんて料理人の数と同じくらいある。
 しかも本場のアメリカやヨーロッパの選手と張り合わなければならないプロの世界。
 本場のアメリカで活躍している日本人の選手ってだけで注目を集めるのは野球もサッカーも同じだ。
 裏を返すとそれだけ厳しい世界なんだって素人の私だって分かる。

「茉里奈さんは意外と優しいんだね」

 桐翔さんはそう言ってやっと笑顔を見せた。

「そうでもないですよ。その証拠に……聞いてるんでしょ?」

 私とルイスの事。

「そこは俺も茉里奈さんと一緒なんだ」
「え?」

 私が聞き返すと桐翔さんは話を始めた。
 バスケがすべて。
 バスケに人生をささげよう。
 そんな思いで必死にバスケに夢中になっていた。
 その気持ちは分かる。
 私はそれが原因でルイスに振られた。
 だけど桐翔さんは違った。

「高校の時に少し付き合った子がいるだけで後はずっと独り身だったんだ」

 もちろん風俗に通っていたなんてことはない。
 ひたすらバスケの事を考えていた。
 色気のない世界。
 そしてバスケを失った時、桐翔さんは孤独だった。
 何をしたらいいか分からないまま実家に帰って来た。
 後はさっき話した通り。

「桐翔さんは後悔しているんですか?」
「それはない。自分で選んだ道だから」

 やれるだけやり切ったとはっきり言える。
 自分に嘘は一切つかなかった。
 ただ、その先が何もなかった。
 これから何をして過ごしていけばいいのか分からない。
 その感覚は分かる。
 虚無感ってやつだろう。
 私は母さんが道を用意してくれた。
 だからいい。
 だけど私は桐翔の道をどうやって作ってやればいい?
 今の桐翔は指導する立場か。
 私も独り身。
 片桐さん達の意図はそういう事か。
 父さん達の渡辺班は縁結びの神様。
 努力する物に力を与える存在。
 夢や希望を示してくれる偉大な存在。
 私もかけてみるか。
 自分の可能性に。

「桐翔さんは今気になる人とかいるんですか?」
「地元に帰ってきてずっと中学生の世話をしているから」

 そんな暇ないよ。
 桐翔さんは笑った。
 私も姉に似ている部分がある。
 母さんもきっとそうだったのだろう。

「ごめん、私こういう堅苦しいの嫌いなんだ。めんどくさい駆け引きが嫌いなんだ。だからため口でいいよ」
「わかった。で、どうしたの?」
「桐翔の夢。子供に託してみたいとか思わないか?」
「思ってる。だから今子供たちを必死に指導しているところだ」
「そうじゃなくて!」

 私がそう言うと不思議そうに私の顔を見ていた。
 私は笑顔で答える。

「桐翔の夢。私にも協力させてもらえないか?」
「どういう意味だ」
「まずは私と交際してみないか?」
「どういう意味だ?」
「そんなに難しいことじゃないよ」

 私と付き合って桐翔が私を愛してくれるなら私と結婚してくれ。

「それが俺の夢とどう関係があるんだ?」
「自分の息子が夢を叶えるなんて素敵じゃないか?」
「……それは違うと思う」

 そんな自分のエゴを子供に無理に押し付けたら逆に子供はバスケットと言う道を嫌いになってしまう可能性だってある。
 そんな自分の欲求の為に子供を作るなんて無理だ。

「それはあくまでも産まれてからの話だろ?」

 女の子だったら母親に、男の子なら父親に理想を見つける。
 よほどいい加減な親じゃなかったらそうなるよ。
 道を選ぶのは子供の自由だ。
 でも道を先導しても悪くはないだろ。
 子供が球技が苦手なら諦めろ。
 ただそれだけの話。

「そんな賭け事みたいなことの為に茉里奈さんを巻き込めない」
「私は構わない。それで私は恋人を得る事が出来るから」
「……本気なのか?」
「いつの間にか桐翔の話に自分を重ねていた。だから何か桐翔の生きがいを作ってやりたい」

 はっきり言ってやらないと分からないか?
 私は桐翔が好きになったんだ。
 桐翔は私が嫌いなのか?

「高校生くらいまでは彼女いたけど部活ばかりであまり女性との付き合い方を知らないんだ」

 きっと私がつまらないだろう。
 男ってバカだな。

「女性だからこうだって決めつける方がよほど失礼だと私は思うんだけど」

 女性だって色々な性格があるんだ。
 それなのに勝手なイメージを押し付けられる方が嫌だ。
 初めてでもいいんだ。
 慣れてなくていいんだ。
 そんな経験は全く役に立たないのが恋愛だ。
 恋愛なんて教科書があるわけがない。
 人間だれしも正常位じゃいけないんだよ。

「……分かったよ。茉里奈さんの言葉に甘えるよ」

 そうして私は桐翔と連絡先を交換する。

「慣れてないなら仕方ないけどせめてクリスマスとかは一緒に過ごしたい」
「そのくらいならわかるんだけど……その……」

 桐翔の様子を見て察した。
 桐翔に悪いと思ったけど思わず笑ってしまった。
 高校生の時に彼女がいた。
 それだけでこの世界の人間はそれが当たり前だと思い込む。
 だけど桐翔はそうじゃなかった。

「私もそんなに経験豊富ってわけじゃないから心配するな」

 日本人と寝た事はないんだ。

「そう言う話なら私に任せろ」

 姉の紗理奈がやって来た。

「茉里奈はどんなプレイが好きなんだ?」

 紗理奈は場所を考えずにこういう話をする。
 きっと母さんに似たのだろう。
 困惑する桐翔を見ながら心の中で笑っていた。
 そうして私の第2章が始まろうとしていた。
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