姉妹チート

和希

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(1)

 俺は片桐家の実家に来ていた。
 理由は父さんの会社に一本の電話があった。

「佐伯恵理子を預かっている」
「誰それ?」

 父さんは即答したらしい。

「お前の息子の同僚と言えばわかるか?」
「で、どちら様?」

 誠心会と名乗ったそうだ。
 今までじっとしていたのが急に動き出した。

「ああ、子供の喧嘩を仲裁しなきゃいけないほどあの子達も子供じゃないよ」
「お前の子供のやんちゃに大変迷惑している」
「だったら子供に直接言え」

 親に叱ってくれとか情けないにもほどがあるぞ。

「あまりふざけているとこの女殺すぞ」
「勝手にしろ。こっちは仕事で忙しいんだ。話がそれだけならもう切るぞ」

 その後恵理子の悲鳴が聞こえたらしい。

「明日の19時に公園に片桐空と純也とお前の3人で来い」
「なるほど、純也の同僚か」
「分かったら言うとおりにしろ。要件はそれだけだ」

 そう言って電話が切れたらしい。
 で、確認の電話が俺のスマホに来た。
 そして父さんに説明する。
 恵理子は俺の同僚で間違いないと説明した。
 今日は非番で居なかったから気づかなかった。

「つまり命知らずの馬鹿が殺してくださいって言ってきたってことだよな?大地チャカ貸せ」
「天音話を聞いてた?3人で来いって言ってるんだよ」
「あ、そっか。じゃあ狙撃銃でいいよ」
「天音、それは無理。素人が夜間に狙える物じゃない。恵梨香さんに誤射したら大変だ」
「うぬぬ……」
「天音は母親って自覚をいつになったら持つのですか!?」

 愛莉が天音を叱っていた。

「でもまさか本当に3人だけで乗り込むわけないよね?」

 翼が言っている。
 
「いや、人質がいるんだ。とりあえずは言うとおりに動こう」
「父さんの言うとおりだ。まずは3人で行って出方を見よう」
「武装してるの純也だけってやばくないか?」

 天音が言うけど警官だからって銃を自由に撃っていいわけじゃないんだ。
 警察もFGと暴力団の犯行とみて動いているけど目立つわけにはいかない。
 恵理子の命がかかっている。
 慎重に動かざるを得ないというのが上の結論だった。
 俺ですら迂闊な真似をするなと渡瀬本部長から言われている。
 遠坂のお爺さんの孫を危険に晒せないと慎重になっている。
 それにしても妙だ。
 空も、父さんも妙に落ち着いている。
 こういう時の片桐家の人間は何か確証を得ている証拠だ。
 茜にも聞いてみた。

「ごめん、この件は純也に言ったらいけないと言われてる」
「誰に?」
「パパ」

 その事を聞きたかった。

「父さんは何かウラがとれたの?」
 
 空が父さんを見ていた。
 父さんは少し考えている。

「純也。この件が片付いたら愛莉パパに相談したらいい」
「遠坂のお爺さんに?」
「パパさんは何か知っているのですか?」
「今は言えない。純也は何も知らない方が動きが分かりやすいから」

 やっぱり父さん達は何か隠していた。
 でも今は言えないと言っている以上聞いても無駄だろう。

「じゃあ、明日公園に集合で?」
「そうだね。純也、同僚の命がかかってるから焦ってるだろうけど忘れてはいけない事がある」

 それは俺にも梨々香や香澄と純がいる。
 俺が浮足立っている隙を狙って3人を狙うかもしれない。
 もちろん恵美さん達が護衛をつけている。
 それでも用心に越したことはない。
 長距離からの狙撃なんて防ぎようがないんだから。
 幸い家の周りにはビルなんかはない。
 しかしヘリコプターから狙撃するなんて事態もある。
 今は恵梨香を人質にして油断させておいた方がいい。
 妙だ。
 いつもなら過剰なまでに報復を企む空ですら何も言わないでいる。
 何があったのだろう?

「ありがとう。大体の事情は分かった。何かあったらまた連絡する」
「じゃあ、俺も帰ります。梨々香達が心配だし」
「そうするといい、真っ直ぐ帰りなさい」

 父さんが言うと俺は家に帰る。
 梨々香が「大丈夫?」と心配していた。

「父さんが動く以上多分間違いは絶対にない。そう信じてる」
「だといいんだけど……純也、馬鹿な真似だけはしないで」

 私や香澄達を置いていくなんて真似は絶対にやめて。

「わかってるよ。明日中にケリがつくよ」

 そう言って梨々香の頭を撫でる。
 SHだけで飽き足らず渡辺班を動かせる羽目になったんだ。
 相手は間違いなく後悔することになるだろう。

(2)

 約束の日。
 僕達は休みを取って昼間からホテルの会議室を借りていた。

「んなもん、恵理子って女取り返して皆殺しでいいだろ!」

 天音と水奈はそう主張していた。

「その恵理子って女を取り返す方法でみんな悩んでいるんじゃないの?」

 大地がそう天音に説明している。
 実はそれもちょっと違うんだけど。

「でも、本当に3人で行くわけ?」

 恵美さんが父さんに聞いていた。

「それが相手の要求だしね」
「トーヤ……お前何隠してる?」

 神奈さんは感づいたみたいだ。

「大したことじゃないよ。空、FGの後受けは喜一に任せていいんだな?」
「喜一はそうしてるらしいけど」
「分かった」
「おいおい、俺達にも説明してくれ。わざわざ仕事休んだんだ」

 渡辺さんが言う。
 
「……いいけど、これからいう事は絶対に相手に気づかせたらいけない。だから3人で行くんだ」
「そ、そんなにやばいことなのか?」
「大したことじゃないさ……」

 そう言って父さんが説明する。

「ま、まじか?」
「誠に確かめたらいいだろ?」

 父さんがそう言うと神奈さんは誠さんに聞いてる。
 そして言葉を失っている。

「なるほど、抑えるのは行政だけじゃダメだったって事だね」

 公生さんが言った。

「でもそれなら3人で行く必要なくないか?」
「相手の要求がそれだけなわけないだろ?」

 僕達に何をさせようとしているのか?
 相手の目的を知りたい。
 多分今まで伏せていたのは最後の切り札だからだろう。
 今まで伏せていたのを突然出す意図を知りたい。
 FGという言葉を使わなかった。
 多分もうFGの関係は全部把握したんだろう。
 SHのが片っ端から潰しているから使えないと思ったんだろう。
 だからFGもこれで最後のはず。
 その証拠に今まで出てこなかった四宮達樹の後釜とやらも出てこない。
 ここをクリアしたら後のFGはただのガキの集団だ。

「アルテミスってのはどうなってるんだ?」

 神奈さんが聞いていた。

「多分、もう手を引いてるはず」

 奈留さんが答えた。
 父さんも同じことを考えていたらしい。
 ジハードとやらが出てきた時点でこれ以上九州にこだわるのは危険だと判断したんだろう。
 それに誠心会は一度総力を挙げてつぶしに来たのに出来ないどころか達樹の死亡で幕を閉じた。
 これ以上九州にこだわる理由はない。
 ジハードを超えたとしてもさらに4大企業という存在がある。
 それは自分たちが苦労しているジハードを簡単に退ける存在。
 そんなのを相手にするより他のエリアで勢力を増やした方がいい。
 頭のいい首脳陣ならそう判断するだろう。
 だからこれが最後の手札。
 ここを乗り切れば脅威が一つ減る。
 後は子供に任せておけば勝手に始末するだろう。
 FGは子供のおもちゃにして僕達はジハードに専念しよう。
 父さんがそう言うと誰も反対意見を言わなかった。

「トーヤ……お前が私を庇って刺された時の愛莉覚えてるか?」

 ものすごく取り乱していたらしい。

「分かってる。まだまだ子供に教えることはたくさんあるからね」

 父さんはそう言って笑っていた。
 会議が終わるとSHだけでファミレスで集まっていた。

「空はどうするんだ?」
「別に何もしないさ」
「ふざけるな!お前だってパパと一緒だ。翼や結がいるんだぞ!」

 簡単に捨てていい命じゃないと天音が言う。

「落ち着け天音。話は最後まで聞け」
「まだ続きがあるのか?」

 学が聞いてきた。

「王は何もしなくても配下がちゃんと動く。いつも言ってるのは学たちじゃないか」
「……なるほどな」

 あの公園ならいくらでも潜伏する手段がある。
 それは多分FGも考えているだろう。
 だから敢えてあの公園にしたんだ。
 後は言わなくてもいいでしょ?

「やっとあのゴキブリに引導を渡せるわけか」

 天音達が盛り上がっているけど僕は首を振った。

「バックから暴力団がいなくなるだけ。根本的な部分は多分残ってる」
 
 それでも喜一たちが動いているからかなりましになるだろうけど。

「……終わったら打ち上げやりたいね」

 翼がそう言って笑っている。

「旦那様、気を付けて」

 美希はやっぱり僕が心配らしい。

「大丈夫だよ」

 有能な部下に恵まれているからね。

(3)

 約束の時間。
 僕達は約束通りに息子の空と純也の3人で公園に現れた。
 予想通り相手は大勢いた。
 
「恵理子!」

 純也が銃をこめかみに突き付けられた女性を見て叫んでいた。

「先輩逃げてください!」

 恵理子と言う女性がそう叫んでいる。
 あの子がそうか。
 空も確認しているようだった。

「思ったよりちょろいんだな?本当に3人で来るとは思わなかった」
「お前誰?」
「SHの新しい王」

 つまりFGのリーダーはあいつか。

「それが君たちの要求?」

 空が対応する。

「ああ、SHに関する全権を俺によこせ。そしたらこの女を開放してやる」
「……分かった。で、どうすればいいわけ?」
「空!?」

 空が言うと純也が驚いている。
 僕は様子を見ていた。

「本当に生温い集団だな。そんなに人命が大事か?」

 誠心会の連中は笑っている。

「人の命より重い物なんてないだろ。空の王と言う物にあまり未練はないんだ」

 空は落ち着いてそう言った。

「よかったな。たった今からお前が空の王だ。喜べ。そしてさっさと恵理子さんを渡せ」

 しかしそうではなかった。
 そのくらいは空でもわかっていただろう。
 自分がリーダーを譲りますと言って譲れる物じゃない。
 だから男は銃を空に向ける。

「言葉だけでは信用できない。だからお前の命をもらうとしよう」
「……僕に死ねと?」
「他にどうやって俺が新しい王だと証明する?」
「ふざけるな!誰に銃を向けてるのか分かってるのか!?そんな真似をして命を落とすのはお前だぞ」

 純也が叫ぶ。

「純也は下がってて。大丈夫、このくらい予想していた」

 空が純也にそう言うと前に出る。

「先に恵理子さんをこっちに引き渡せ。それが条件だ」
「随分と勇ましい王だな」

 そう言って男はにやりと笑う。

「だが、状況を考えろ。お前がそんな事を言えた立場か?」

 気づいたら周りに潜んでいた誠心会の兵隊が僕達に銃を向けている。

「お前達3人さえいなければこっちのものだ。悪いが死んでくれ」
「お前ら……最初から交渉なんてする気なかったのか?」
「約束は守っただろ?ちゃんとこの女は返してやるよ」

 その代償が僕達3人の命だという。
 まあ、そんな事だろうと思ったよ。

「父さん、空……ごめん」

 僕達を巻き込んでしまったと純也が悔しがっている。

「まあ、気にしないで。こうなると思ってたから」
「そうそう純也が気にすることない」
「え?」

 純也が僕達を不思議そうに見ている。
 頭がどうかしたかとでも心配しているのだろうか?

「言い残すことがあったら聞いてやるぞ」

 悠長にそんな事を聞いている。
 自分たちが絶対に有利だと確信しているのだろう。

「空、先に何か言ったら?」
「父さんこそ母さんに愛してるくらい言い残さなくていいの?」

 そんな余裕を見せたら駄目だよ空。
 いくら彼らが間抜けでも気づいてしまう可能性が……。
 そんな事を気にしている場合じゃなかった。

「トーヤ!いい加減にしろ!愛莉が心配してるって言っただろうが!」
「冬夜さんも空もいい加減にしてください。いつまでこんな茶番続ける気ですか?」

 神奈と愛莉が怒って出てくる。
 そして……。

 ぽかっ

 お約束通りだった。
 空も美希に小突かれている。

「心配する方の身にもなってよ」
「パパ、ダメだよ。ママ泣きそうになってた」

 カミラたちに注意されている。

「約束が違うぞ」

 彼らのリーダーがそう言っている。
 後の事は空に任せる事にした。

「だからなに?」

 空はとぼけている。

「この女の命がどうなってもいいのか?」
「好きにしたらいいじゃないか」

 空が言うと純也が慌ててる。
 だけど構わず空は続ける。

「ただし、こんな猿芝居に付き合わせたんだ。対価は払ってもらうぞ」

 どうせお前らも大勢連れてきたんだろ。
 その女一人じゃ寂しいだろうけどお前らに後を追わせてやる。

「父さん、どういうこと?」

 薄々感づいた純也が聞いていると一緒に来ていた梨々香が話をしていた。

「ごめん純也。愛莉さん達から話は聞いていたけど純也が知ったらきっと態度に出るから言わないでって言われてて……」
「どういうこと?」

 純也が言うと空は恵梨香とかいう女性に呼びかける。

「今は佐伯恵梨香さんだっけ?君の事はちゃんと調べてある。いい加減諦めなよ」

 もうバレバレだぞ。
 そのくらいわかってるんじゃないのか?

「な、何のこと?」

 誠心会の連中にも動揺が走る。
 純也はもう一人の斑鳩と言う男をスパイだと疑っていた。
 まあ、無理もない。
 そう言う風にわざと思わせていたのだから。
 そうやって囮になる事で本命を隠そうとしていた。
 そして純也は彼らの思惑通りに行動した。
 最後の手段にと何もしないでただ情報をリークしていた。
 当然渡瀬さんも注意を斑鳩に向けていた。
 しかし茜達の目はごまかせない。
 斑鳩と同期の佐伯恵理子もしっかりチェックしていた。
 そして佐伯恵理子というのが偽名だというのも分かった。
 彼女は月の施設で育成されたスパイ。
 警察庁に就職するのに偽名でいいのか?と思ったけど恵美さん達ですら平気で戸籍を書き換える。
 アルテミスと言う連中なら容易いことなんだろう。
 そしてSHの純也と接触する。
 そして純也に仲間だと思い込ませながらSHの情報を引き出そうとしていた。
 アルテミスにとっては警察の情報よりもSHの情報の方が重要なのだろう。
 そして佐伯さんの目論見通りSHに加入することが出来た。
 しかしそれが大きなミス。
 SHのメンバーの事ならなおさら茜達が調べる。
 そしてアルテミスとのつながりを見つけた。
 その事を知らない彼らは彼女を人質に仕立てて僕達をおびき寄せる。
 何も知らないSHなら絶対に来る。
 もっと怒りを露わにしてくるだろう。
 しかし僕達は知っていた。
 当然無視することも考えた。
 だけど空と僕はこれをチャンスと判断した。
 僕達がのこのこ出てくると思っているマヌケの事だ。
 絶対に新しい頭が現れるだろう。

「あとはお前たちを潰して終わり。説明は以上だ」

 空がそう告げる。

「それはデマよ!信じちゃだめ!純也先輩」
「……それなら説明してくれるよな?どうして俺がSHの人間だと知っていたんだ?」

 純也にも心当たりがあったらしい。

「それは最初先輩の歓迎会の時話していたじゃないですか」
「それはない。警察の中で俺がSHの人間だと知っているのは俺と渡瀬本部長だけだ」

 警察の中に個人情報を垂れ流すわけがない。
 警察の中にFGのスパイが紛れているという疑いがあればなおさらだ。

「お酒の席だからそのくらいぽろっと……」
「仮にそうだったとしても普通の人間なら物騒な集団だと遠ざけるか”何それ?”のどちらかだ」

 事情を知らない人間が「私も入りたい」なんて言うわけがない。
 だから茜が素性を調べるんだ。

「悪あがきは止めろ。証拠はちゃんとつかんである」

 空が言うと佐伯さんは空を睨みつける。

「……SHの気まぐれでどれだけの人が犠牲になったと思ってるの?このゆがんだ地元を正すには月の導きが必要なの」

 アルテミスの関係者だと認めたらしい。

「これでこのバカげた芝居も終わり。そして君達との対決もいい加減面倒になったから今始末してあげる」

 空が言うと天音が「ここからは自由時間だよな!?」と現れた。
 その格好を見て空も愛莉も翼も驚いていた。

「天音!あなた何してるの!?」
「パパが言ってた。今日はちゃんと準備している。だから何をやってもいいって!」
「だからってその格好は大地は止めなかったの?」
「滅多にやる機会が無いからやらせろ!私だって育児のストレスがあるんだ!って聞かなくて……」

 大地が半分笑っていた。
 天音はショットガンを背負って弾薬を体に巻き付けてガトリングガンを手にしていた。

「天音かっこいい!私もしたい」
「茉莉も大きくなったらやらせてやる」

 そんな事を言って未だに子離れすることを恐れている愛莉が頭を抱える。

「天音だけずるいぞ!学、私にもあれ用意してくれ」
「どこの一般家庭にガトリングガンを用意してあるんだ。馬鹿な事を言うな」

 そんなやりとりの中、空は一つだけ言う。

「ボス猿と佐伯さんだけは生かしておいて」

 他は好きにしていいから。
 それを聞いた天音は嬉しそうに銃を構える。

「分かった。お前らまとめて肉片に変えてやる!」

 どんだけ撃っても「死傷者0」って言っておけば問題ない。

「天音、暗いから味方に当たるのだけは注意して」
「大丈夫だ!そのくらいわかってる」
「おっしゃ!菫。ぶるってねーだろうな!私達も暴れるぞ」
「ほざけおもらし姫。天使とダンスしてやらぁ!」

 茉莉と菫も加わるようだ。
 後日愛莉たちと一緒に居酒屋で飲んでいた。
 孫の今後について本気で考えないといけないんじゃないかと悩んでいるようだ。 
 そんな事はつゆ知らずに孫と母親が暴れ出す。
 結は茉奈がいるからそんな真似しない。
 
「物騒だね」
「お腹空いた」

 そんなやりとりをしている。
 それにしてもカミル達も混ざるかと思ったけど大人しくしてる。
 空に理由を聞いていた。

「僕達がカミル達をそう言う世界から逃がしてくれたからそんな世界に戻る気はない。カミル達はそう思ってるみたいです」

 その代わりにそんな世界を知らない菫と陽葵が暴れている。
 結が参加しなかったとはいえ、菫と陽葵の能力だけでも反則だ。
 逃げ出そうとするやつもいたけどそんなのを許すような甘いSHじゃない。
 ちゃんと遊達と山本勝次達が逃げ道を封鎖していた。

「お前と肩を並べて喧嘩することになるとはな」

 遊が言う。

「こっちもいい加減イライラしてたからな。日頃の鬱憤を晴らさせてもらうよ。お前ら派手に踊れや!」

 勝次が叫ぶと新しいFGの集団が戦闘を始める。
 そんな悪夢のような光景の中僕達は佐伯さんの下に近づく。
 流れ弾は空が全部はじく。
 
「これでこの馬鹿げたゲームはお終い。君たちの負けだ。もうあきらめた方がいいよ」

 空がそう言う。
 だけど佐伯さんは諦めてないようだった。

「……お前さえ殺せたらまだ勝負は続く!」

 そう言って懐から銃を取り出そうとすると純也がそれを取り押さえろ。

「悪あがきは止めろ。空がお終いと言った以上もう終わってるんだよ」

 大人しくするなら佐伯さんの処分は掛け合ってやるから。
 ここまでやった以上そんなに軽くはならないだろうけど。
 ちなみに斑鳩の姿はなかった。
 この場に来ていなかった。
 その可能性を捨てきれなかった斑鳩は一人空港にいたのを恵美さんの兵隊が取り押さえた。
 ある意味賢いけど仲間をいとも簡単に見捨てるとはね。
 どのみちこの組織も長持ちしない。
 諦めろと告げる。

「佐伯さん。あなたはこう言った。”SHが地元を歪めている”と」

 空が言うと佐伯さんは空を見る。
 空は構わず続けた。

「だからその歪みを修正するのもSHだ。弱みに付け込んで乗っ取ろうとする組織の役割じゃない」

 君もその弱みに付け込まれた人間なんだろ。

「今更どうしろっていうのよ!」

 佐伯さんが叫ぶ。

「君がどんな理由でSHに人生を狂わせられたのかは知らない。だけど君には君のしでかしたことを清算する必要があるんじゃないか?」

 歪んだ地元を正すSHのように。

「もう、遅いわ。……私の負け。それでいいのね」

 そう言って自分のこめかみに銃を当てて自殺を図ろうとする佐伯さん。
 だけどその手を空並みの速さで翼が蹴り飛ばした。

「ふざけるな!どんな過去を背負っても必死に生きようとする子供たちの前で自殺なんて馬鹿な真似は絶対に許さない」

 翼が怒鳴りつける。

「……大人しくしろ。虚偽告訴罪で逮捕するよ」

 そう言って同僚の手に手錠をかける純也。
 
「天音!そろそろ退こう。警察が来たみたいだ」
「分かった!しかしこれ暑くて火傷しそうだな」
「だから薄着は危ないって言ったろ?」
「茉莉達もその辺でやめとけ!また恵美さんに厄介事押し付ける」

 すでに遅い気がするんだけど天音と大地は子供を連れて撤収した。
 他の者も撤収していた。
 残ったのは天音と遊達が暴れた痕跡だけ。
 それも特に問題なかった。
 だってそいつらは銃を持っていたのだから。
 同士討ちとでも思ったのだろう。
 抵抗するFGの人間を連行していった。
 純也も警官に報告して佐伯さんの身柄を引き渡す。
 純也のショックは計り知れない物だろう。
 誰も純也にどう声をかけていいか分からなかった。

(4)

 俺は遠坂のお爺さんと飲んでいた。
 
「二人で話がしたい」

 そう言うとお爺さんが「たまには外で飲むか」と言った。
 りえちゃんも「明日も仕事なんだから遅くなったら駄目よ~」と言うだけだった。
 遠坂のお爺さんに今日あったことを話していた。
 お酒を飲んでいても真剣な表情で聞いていた。
 そして一言言った。

「あいつもそうだった……」

 あいつとは多分渡瀬本部長の事だろう。
 本部長も刑事の時は自分の正義と信念を貫く熱血派の刑事だったそうだ。
 若い時のお爺さんの様に。
 信念を貫こうとするから壁にぶち当たる。
 要領のいい人間はそれを見なかったことにして先に進む。
 だけどそれが出来なかったのがお爺さん達だった。
 そんな事件の中に父さんたちが暴れた事件があった。
 地元の平和を守るために戦ったそうだ。
 自分たちの無力さにくじけそうになったらしい。
 だからお爺さんは言った。

「あの子達だからこそできる事がある。……だからあの子たちが自由に動ける環境を作ってやればいい」

 法に基づいて行動する俺達警察官と法を飛び超えて理不尽な暴力に対抗する渡辺班。
 この世界には法では裁ききれない物が無数にある。
 だからそれに対抗する手段が必要なんだ。 
 本来はそんな物に頼らなくても法の下に平等な世の中になるのが一番いい。
 しかしどんな世界にだって理不尽な力が存在する。
 絶対にそんなのに屈するわけにはいかない。
 それが渡辺班だった。
 それで父さんはお爺さんに相談しろと言っていたのか。

「純也君も一緒だよ。純也君が空達に自由に動ける環境を作ってやればいい」

 空は立派に育った。
 父さんの父親の血を継いでいる。
 絶対に自分の使命を全うする。
 だから”空の王”なのだろう。
 そんな空を信じて仲間が動く。
 立派なグループだ。
 この先この地元を正義で守るためには必要不可欠な存在だ。
 空はその事を自覚している。
 だからどんな事があっても揺るがない。
 純也も同じだ。
 この先もっと理不尽な事がいくらでも待ち構えている。
 それに飲まれないように頑張りなさい。
 警察官としての責務を最後まで全うしなさい。
 決して自分の出世を優先する官僚のような警察官にはなるな。

「……分かった」
「しかしこうやって孫に信念を教える歳になったか」

 そう言ってお爺さんは笑っていた。
 それから少しゆっくりして家に帰る。
 子供たちの寝顔を見ていた。
 この子たちはどんな道を選ぶのだろう。
 絶対に歪んだ子供にしちゃいけない。
 正しく信念のある子供に育てたい。
 改めてそう思った。
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