姉妹チート

和希

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(1)

 テレビに映った結果発表を見て皆が喜んでいる。
 今日はサッカーの最優秀選手に贈られる賞「バロンドール」の発表日。
 誠司君と冬吾君。
 二人も日本人が候補に残っていただけでもすごいのにその二人が1,2位を占めたのは日本中を震わせた。
 受賞したのは冬吾君だった。
 私のアドバイスを素直に聞いてくれたみたいだ。

「ファンの皆さんのお陰です。ありがとうございました」

 そんな挨拶をしていた。

「しかし冬莉と冬吾、2人ともすごいじゃないか」

 誠さんがそう言ってる。

「誠司もすごいよ、怪我が無かったらどうなっていたかわからなかったと思う」

 冬吾君のお父さんがそう返していた。
 冬吾君がいなかったら……。
 そんな評価をする無責任な解説者も少なくなかった。
 その冬吾君を超えようと努力している誠司君と、絶対に負けないと頑張っている冬吾君。
 二人はそうやってお互いに今よりももっと上を目指そうとしている。
 冬吾君はそれでマスコミに対して怒りを露わにした。
 さすがにそれはダメだと私だけでなく冬莉も注意したらしい。
 二人の事を知っている人はちゃんといるんだから、何も分かってない連中には好きに言わせてやれ。
 わざわざ敵を作るような真似をしてはいけない。
 あまりにもひどいのがいても大丈夫。
 冬吾君を支える強力な人間がいる。
 きっと恵美さんが容赦しないだろう。
 
「しかし瞳子も大変だね」

 冬莉が言った。
 将来結婚するんでしょ?
 そしたらやっぱりサッカー選手に育てるんじゃないの?

「そりゃ凄そうだね。瞳子責任重大だよ」

 翼がそう言っていた。
 だけど私は首を振った。
 そういう話はよくしていた。
 その度に冬吾君は言っていた。
 冬吾君のお父さんも言っていたらしい。

「やりたい事をやらせたらいい」

 冬吾君も父さんに言われたけどサッカーが好きだからサッカーを選んだ。

「バスケがしたいです」
 
 そんな事を冗談交じりに言って本当にバスケを初めて金メダルを二つ取ってきた冬吾君のお父さん。
 きっと冬吾君と私の間に生まれた子供も何かしたい事を見つけるかもしれない。
 それをさせてやったらいい。
 たとえだらだらと大学生活を過ごして、会社を継ぐでもいいだろう。

「片桐先輩そんな事冬吾君に言ったんですか!?」

 桜子先生が驚いていた。

「なんかまずかったかな?」

 冬吾君のお父さんはそう言って笑った。

「それ、世間が認めると思ってるんですか?片桐先輩の時も大変だったじゃないですか!」
「桜子落ち着いて。あくまでも冬吾の子供がそれを望んだらの話。何を夢見るかもわからないんだよ」

 愛莉さんがそう言っている。
 まだ誰と子供を作るかもわからない。
 男の子か女の子かもわからない。
 そんな存在もしていない子供の事を考えるのは気が早すぎる。

「確かにそうだな……」

 神奈さんは納得したそうだ。
 過度な期待を子供に押し付けるのはよくない。
 結だってあれだけの能力を持っていながら将来の事なんて考えていない。
 食べる事しか頭にない。
 少しは茉奈の事を考えてるみたいだけど。
 ただ、誠司君達と話をしていたことがある。

「なんだそれ?」

 誠さんが聞いていた。

「冬吾君の子供と誠司君の子供が結ばれたらどうなるんだろうなって話をしていたんです」

 サッカーの才能はきっとすごいのが生まれるだろう。
 だけど……。

「それはちょっと危険じゃないのか?」
 
 神奈さんならそう言うと思った。
 サッカーの能力はいい。
 だけど性格や趣味が問題だ。
 どっちに似るかで大きく変わってくる。

「でも俺みたいなイケメンの凄いサッカー選手になる可能性も……」
「だといいけど、僕みたいなやる気のない誠みたいな趣味持った子供になったら大変だよ」

 誠さんと冬吾君のお父さんが言う。
 しかし恵美さんは笑みを浮かべていた。

「片桐君忘れてない?片桐君の孫の話でしょ?」

 それは石原家の親戚だ。
 そんなふざけた精神の持ち主なら徹底的に調教してやる。

「恵美、それならまず結莉達をどうにかしないと」
「愛莉ちゃん大丈夫。とりあえず思春期迎えるまで様子見しましょう」

 それでも馬鹿げたことをやっていたら何かしら教育するから。
 新條でもつけるから問題ない。
 石原家としては海翔の方が問題だ。
 大地の後を継ぐのは海翔なんだから。
 その海翔も大人しいけど情けない様子はない。
 ただ、結を慕って、てくてくついてるだけの子供。
 海翔くらいの歳なら当たり前だろう。
 お兄さんの様な存在の結が気に入ってるんだろう。
 そして結莉もそれを邪魔だと思っていない。
 弟の相手くらいしてやろうと思っているみたいだ。
 結局は馬鹿があの子達にちょっかいを出さなかったら何も問題ない。
 それをするから結莉達が怒り出して反撃する。
 やられたらやり返せ。
 それも何倍にして。
 ただそれだけの話だ。
 むしろ問題なのはあの子達に手を出そうとする懲りない雑魚がまだいるという事。
 そう主張して天音や翼や水奈が保母さんと口論する。
 天音や翼で収まっているうちはいい。
 問題はそれで片付かずに恵美さんや晶さんが出てきた時だ。
 望さんや善幸さんはそれを聞いた時点で仕事を部下に任せて幼稚園に向かう。
 必死で宥める。
 そうしないと翌日幼稚園が無かったなんて事件になりかねない。
 少なくとも1世帯くらいは地元に居場所がなくなるだろう。
 そんな大惨事を「よくわかんねーから春奈に任せるっす」というのが今の知事。

「どうして晴斗にしたんだ?俺だってほとんど仕事なんてないからいいのに」
「誠に知事なんてさせたら青少年育成条例を絶対改悪するだろ?」
「まあ大学生が風俗で仕事してるんだから高校生もバイトくらいいいんじゃないかくらいは言うな」
「それいいな誠!女子高生が相手なら絶対儲かるぜ!」
「お前みたいな馬鹿がいるから誠にはさせられないって言ってるんだ!」
「亜依ちゃん心配しないで。絶対立候補させないから」

 恵美さんがそう言って笑っていた。

「いいバイトが出来ると思うんだけどな」

 千帆や姫乃が言うと瑛大さんが「それなら俺が小遣いやるから」と言い出す。
 血は繋がってないから問題ない。

「パパは気持ち悪い事させるから嫌!」
「ほ、他の男だって似たようなもんだぞ!」

 自分の様な趣味の人間が通う店だぞと瑛大さんが熱弁していると亜依さんに頭を叩かれる。

「お前は自分の娘に売春させる気か!?」

 風俗か。
 冬吾君大丈夫なのかな?
 男の人はあまり貯めすぎると体に良くないって聞いたけど。
 そんな悩みをしていると愛莉さんが私の頭を撫でる。

「冬夜さんはね、私がねだるまでそういう事をしなかったの」

 たまに誠さんに妙な動画を送られてきてるけどそれを不思議そうに見てるだけ。
 それはきっと冬吾君もいっしょだと愛莉さんは言う。

「瞳子の方こそ寂しいんじゃないの?」

 冬莉がそう言っている。

「それはお互い様だと思っているから」
「じゃあ、冬吾も問題ないんじゃないの?」

 そうかな。

「冬吾はいいけど、あいつ女性関係の問題も起こさないのにサッカーまで封印されて大丈夫なんだろうか?」

 やけになって馬鹿な真似をしなければいいけど。と、神奈さんが心配している。
 誠司君は今何をやっているんだろう?
 そんな心配をしていた。

(2)

 俺とパオラは病院に来ていた。
 何度も通って「まだ駄目」と言われ続けていた。
 まさかこのままW杯も逃すのか?
 パオラの前では見せないようにしていたけど、やはり不安だった。
 しかし医者は言った。

「もう大丈夫でしょう、でもいきなり試合はやめた方がいいですね。軽く走りこみくらいからがいいかもしれません」

 心配しなくても調整の仕方を間違わなかったらW杯の頃には完治している。
 それを聞いて俺はほっとしていた。
 同伴していたコーチとパオラも胸をなでおろす。
 コーチを話をして、代表戦までは休場しなさいと言われていた。
 また無理をしたら意味がない。
 俺なら試合勘が鈍るなんてことはまずないだろう。
 常に試合をテレビで見てアドバイスしているのだから。
 しかしそんな俺を見ているパオラの気持ちに気づかずにいた。
 その日家に帰るとパオラが「夕食の時に話がしたい」と言っていた。
 どうしたんだろう?
 とりあえず「分かった」と言って夕食の時間まで潰していた。
 テレビは最近バロンドールの受賞が決まった冬吾の事でもちきりだった。
 俺も冬吾におめでとうと言っておいた。

「誠司には本音を言っとくね」
「何かあるのか?」
「正直こんな賞どうでもいい」
「は?」

 冬吾と俺の目的はW杯制覇だ。
 こんな自分だけを賞されるなんてことじゃない。
 だからそのためには俺の存在は必要不可欠。
 しかし俺の状態を知った代表の偉いさんは、俺の合流がぎりぎりになるなら俺抜きの戦術を考えた方がいいんじゃないかと考えたらしい。
 それを知った冬吾と隼人が「誠司抜きで勝つなんて絶対無理だ!」と訴えたらしい。
 いくら冬吾が凄いプレイを出来てもその冬吾を活かす存在がいないんじゃ話にならない。
 俺の替わりの人間が冬吾を活かせるとは思えない。
 もちろん冬吾が俺に頼っているわけじゃない。
 自分でボールを受けに行くこともある。
 しかし4年に1度のサッカーの大舞台。
 完全な状態でないと勝てないのは海外でプレーをしている冬吾や俺にしかわからない。
 間に合うなら絶対に投入しないと勝つなんて無理だ。
 そう言って運営を説得したらしい。

「で、どうなの?足」
「今日病院に行ったら、いきなり試合はやめとけって言われたよ」

 慎重に調整してW杯に万全の体制で挑みなさいってさ。

「本音を言うとお前にW杯には出て欲しくないんだけどな」

 アントニオはそう言って笑っていた。

「まあ、決勝まで当たらない事を祈っとけ、アントニオ」
「日本が決勝ラウンドまで進めるのか?」
「アントニオ。それ本気で思ってるのなら今すぐ捨てろ。そうやって侮った国が日本にやられていくんだ」

 ラファエルが注意していた。
 あの冬吾の存在ですら脅威なのに、冬吾の事を知り尽くした俺が指揮するんだ。
 二人とも味方なら心強いが敵としては最悪のコンビだ。

「悪いな。冬吾と約束してるんだ」

 俺はそうチームのみんなに言った。
 冬吾にとってW杯すら通過点に過ぎない。
 俺の父さんが奪い取った栄光をもう一度地元チームで勝ち取る。
 それが俺と冬吾の目標だった。
 そんな話を楽しくしていたからかもしれない。
 正直浮かれすぎて気づかなかった。
 浮かない顔をしているパオラに。
 練習に復帰の目途をつけて家に帰る。
 その時パオラの様子がおかしいのに気づいた。

「パオラ、なにかあったのか?」
「……とりあえず夕食出来たから。後で話があるから聞いてほしい」

 パオラがそんな事言い出すなんてやっぱり変だ。
 思いつくことと言えば……まさか。
 いや、俺だって馬鹿じゃない。
 ちゃんと最低限のマナーは守った。
 それでも事故があることくらいわかっている。
 
「味付けおかしかった?」

 パオラが聞いてくる。

「い、いや。いつも通りだよ」
「たまには褒めてくれてもいいのに」
「いつも通り美味しいって意味だよ」

 いいお嫁さんになれるよ。

「あら。誠司の嫁にしてくれるんじゃないの?」
「なってくれるのか?」
「そういう言葉はちゃんと誠司が伝えてくれたら応えてあげる」

 だから今は保留。
 いつも通りみたいだけど……じゃあ、話って何なんだ?
 そんな事を考えながら食事をすませてシャワーを浴びながら考えていた。
 俺がシャワーを浴びるとパオラがシャワーを浴びるのを待っていた。
 その間に色々考えていた。
 別にパオラに変な要求はしたことない……はずだ。
 下着の色なんかを希望したくらいだ。
 怒られたけど、そのくらいで別れるは……多分ないはずだ。

「意外と揉みやすい形だな」
「どうせそんなに大きくないよ!」
「多田家はあまり大きな人を好まないんだ」
「……それって私が小さいって言ってるだけじゃない」

 多分嘘はついてない。
 父さんが母さんを選んでいたんだから。
 崇博の相手だって杏采だ。
 そういや、最近新しく妹が増えたって母さんが言ってたな。
 母さんが産んだわけじゃない。
 親に捨てられた子を引き取っただけだと聞いた。

「あれ?今日は飲んでないの?」

 シャワーを終えたパオラがやって来た。
 もちろん寝巻くらい来てる。

「裸でも俺は別にいいぞ」
「日本では裸で寝るのが常識なの?」
「そういう女性もいるのは事実だな」

 信じられないような表情をしていた。

「あ、ああ。飲まないのは夕食の時パオラが言っていたろ?」

 話があるって。
 きっと大事な話なんだろうから飲まないでちゃんと聞いておこうと思っただけだと聞いた。
 するとパオラは俺の隣に座った。
 俺の手の上にパオラの手を乗せる。
 表情は沈んでいる。
 まさかやっぱりそうなのか?

「今日病院に行った時から思ってたんだけど」
「え?」
「誠司の姿を見て不安に思った」
「どうして?」
「私の兄にそっくりだったから」

 パオラの兄はサッカー選手生命を絶たれて失望のどん底まで堕ちてそして……
 もし俺もそうなったらどうしようと不安に思ったそうだ。

「それなら医者がもう大丈夫だって言ってたから……」
「そうじゃない!」
 
 パオラが叫んだ。
 そして驚く俺に抱き着いた。

「どうしてサッカー選手ってみんなそうなの!?サッカーに夢中になって見守っている人の事を忘れてしまう」

 恋人よりもサッカーの方が大事なの?
 俺はパオラに言った。
 そうやって自分を責めるのを止めろ。
 他に大事な人が出来たらちゃんと見ててやればいい。
 だからパオラは俺の事をしっかり見守っていた。
 怪我している間も調整に付き合ってくれた。
 栄養管理もしっかりしてくれている。
 なのにやっぱり誠司はサッカーを失いそうになったとき絶望の中にいた。
 どうしたら私の存在に気づいてくれるの?
 前に聞いたことがある。
 自分がいなくなっても誰も涙を流さない。
 だけど例え俺がそうだったとしても……パオラが泣いてくれる。
 だからパオラが悲しむような真似はしないでくれ。
 そういう事か。
 俺はパオラの頭を撫でる。

「気づいてるよ」
「え?」

 パオラは驚いて俺の顔を見ていた。
 今の俺がいるのはパオラのお陰だってことくらいわかってる。
 そんなパオラを泣かせるような真似するわけないだろ?
 たとえサッカーを失ったとしてもパオラを守るから心配するな、
 ただ、そうなった時俺はイタリアに滞在する理由がなくなる。
 その事で少し悩んでいただけ。
 するとパオラは「馬鹿ね」と言った。

「言ったでしょ?誠司がその気なら私は世界の果てまでついていくよ」

 例え両親が反対してもついてくる。
 そしてパオラの両親はこういったそうだ。

「パオラがそこまで想う人に出会えたのなら絶対に手放すんじゃないよ」
「ごめん、どうしても兄の事が頭の中にちらついて……」
「俺もうかつだった。サッカーをまだ続けられると知った時、パオラの事を忘れてしまっていた」
「今は?」
「違う事考えていた」
「何考えていたの?」

 パオラが聞いてくるので笑って答えた。
 まさか別れようとか言い出すんじゃないかって。

「そんなわけないじゃない。……それにまだ何か隠してるでしょ?」
 
 女性って感が鋭いな。

「まさかパオラが妊娠したのかって」

 俺は笑ってそう言った。

「日本人の男性ってそんな事を怯えながら、彼女に変な事を要求するの?」
「全く心配しない奴とかもいるぜ」
「……男って世界共通で馬鹿なんだね」

 心配しないでいいから今夜抱いてよ。
 パオラがそう言うと寝室に向かった。
 いつかたどり着く場所を俺はもう見つけたらしい。
 目の前には絶望と希望の繰り返し。
 痛みや歯がゆさを伴ってもパオラに何度でも微笑みをプレゼントしてやろう。
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