姉妹チート

和希

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want to be with you

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(1)

「やっぱこう天気がいいと気持ちいいな!?瑛大」
「そうだな!気温もちょうどいいし」
「ほら、亜依お疲れさん」
「本当この日の為にどれだけ仕事詰めた事か」

 そんな感じで地元どころか世界最悪と呼ばれる渡辺班は昼間からビールを飲んでいた。
 飲んでないのは僕と愛莉と空と翼くらいだ。

「空もたまにはじけないとストレスたまるだろ?」
「翼だって育児で疲れてるんじゃないの?」

 カンナと亜依さんが二人に勧めるけど二人とも断っていた。
 そう、今日は運動会の日。
 また桜子大変だな。
 陽葵と菫だけじゃない。
 結や茉奈達も走る。
 天音の話だと足は若干結莉の方が速いらしい。
 あくまでも若干だ。
 結莉や茉莉よりも速いのは同世代だと結くらいらしい。 
 しかし思わぬ展開が待っていた。
 2人が一緒に走ることになった。
 やはり結莉の方が速い。
 悔しがりながら戻ってくる茉莉。

「あんまりそんな事で競っても仕方ねーだろ」

 天音がそう言って茉莉を慰める。
 パワーは茉莉の方が上だからちょうどいいだろ。
 だけど……。

「パワーがあるって女の子を褒め言葉なの?」

 茉莉がそう言うと天音が返答に苦しむかと思った。
 だけど天音はちゃんと回答を用意していたみたいだ。

「女だから有効なんだ」

 天音の自身の体験談だった。
 中学の時体格のしっかりした暴走族に蹴りを入れたら軽々と受け止められた。
 女子は男子より力がない。
 ただしレスリングの選手などは別だけど。
 それが原因で天音は取り返しのつかない事態になりかけていたのを大地が追い払った。
 中学生で中型の自動2輪を持ち上げるほどの力があったらしい。
 それ以来天音は学習した。
 力が男子に勝てないならと見た目ローファーの安全靴を履くようになった。
 もちろん通学時にだけだったそうだ。
 それ以外の時は大地に任せておけばいい。
 そんな風に考えるようになったそうだ。

「茉莉には朔がいる。だけどいつも朔と一緒じゃない。どんなにスピードがあっても威力が足りないと取り返しがつかない事態になるんだ」

 だからパワーがある女子はそれだけで有利だと天音が言う。
 ただ結莉が不利というわけではない。
 同等の質量なら通常の2倍3倍のスピードで殴れば同じことだから。
 皆なるほどね。と、納得していた。
 愛莉を除いては。

「女の子らしく大人しくしてるっていう発想は天音にはないのですか!?」
「愛莉は分かってない!SHってだけで因縁つけてくるどうしようもない馬鹿もいるんだ!」

 天音の主張は「馬鹿は死んでも治らない、だから殺した方が早い」だった。

「大丈夫よ二人とも、石原家の娘に馬鹿な真似をしたら地獄に落とすだけだから」
「そうね、茉莉も安心して。朔の彼女にふざけた真似をするやつは徹底的にいたぶってやるから」

 恵美さんと晶さんが言う。
 愛莉が僕の顔を見る。
 何とかしてくださいと訴えていることくらいわかった。
 多分恵美さん達を説得するより愛莉を説得した方が早い。

「愛莉、天音が大地と付き合うようになってどうなったか考えたらこれでいいんだと思うよ」

 天音は多少無茶をやるけど、場所くらいわきまえている。
 そういう場所に出たらちゃんと考えるように自分で弁えるよ。
 今はまだ5歳。
 焦らず見守ってあげよう。

「そうですね……ですが、茜達といいどうしてこう問題の多い娘ばかりなのでしょうか?」

 自分の育て方が悪かったんじゃないのか?と悩んでいるらしい。

「それは無いよ」

 僕は即答した。
 
「どうして断言できるんですか?」
「翼」
「……性格が違うって事ですか?」
「だと思うよ」

 なるほどね、と愛莉が納得する。
 しかし納得しない者もいた。

「パパ!それおかしい。まるで私だけ暴れてるみたいじゃないか!」
「パパの言う通りじゃない。私大人しくしてるし」
「ふざけんな!指の骨負ったりヒールがあるのをいいことにかかとで体に穴開ける女のどこが大人しいんだ!?説明しろ」
「天音、私の場合はただの護身術。自分から暴れたりはしてない」

 空が暴れそうになった時に抑える役目。
 その為に自分が処分する。
 その方が空が暴れ出すよりましだから。
 翼の言う通りだ。
 だから安心なんだ。
 だってその役回りが結と結莉達なんだろ?
 冬夜を怒らせたらきっと止められるのは茉奈だけ。
 結を怒らせるくらいだから結莉は当たり前の様に怒っているはず。
 その為に茉莉達が先にその原因を排除する。

「片桐家はいつまでもすごいってわけか」
「誠司達だって頑張ってるじゃないか」

 もう、2人ともプロ1年目でバロンドール候補にノミネートされてるらしいと日本のメディアが騒いでいる。

「それが問題なんだよ……」

 カンナが言う。

「そう言えば水奈この前めちゃ怒ってたな」

 天音も心当たりがあるようだ。

「いったい何やったんだ?」

 誠に聞いてみた。

「冬夜は2人のチームの試合見てるか?」
「まあ、録画して見てるけど」
「この前の試合誠司出ていないの気づかなかったのか?」
「……そう言えば出てなかったね。まさか怪我でもしたのか?」
「そうじゃねーよ……」

 そう言ってカンナはため息をつきながら酒を飲む。

「親がそうだから子供もそうなるって何度言えば分かってくれるのですか!?」

 気づいたら桜子が来ていた。
 亜依さん達は「毎年のお約束だからいいじゃない」と笑ってごまかす。

「片桐先輩達はいつになったら私を楽にしてくれるのですか?」
「ゆ、結はいい子だよ?」

 美希が弁解する。

「私の娘もSHだから天音の娘たちのことくらい聞いてますよ!」
「子供は元気なのがいいっていうじゃねーか!」
「天音の言うとおりだ。心配しすぎると本当にはげるぞ?」

 安心しろ、優翔と茉奈は大人しいから問題ない。
 水奈はそう言って弁明する。
 
「桜子は誠司が欠場した理由知ってるの?」
「だから多田先輩の持ってるそれが原因です!」

 へ?

 僕は誠の顔を見ると缶ビールを持って笑っている。

「どういうことなの?まさか誠司飲酒ばれたとか?」

 翼が聞いた。
 半分あっていた。
 イタリアでは18歳から飲酒とタバコを認められているらしい。
 だから飲んでいても問題がない。
 ちなみに冬吾のスペインも同じだった。
 だけど冬吾は飲まないらしい。

「父さんと約束したから」

 そう言って断ってるそうだ。

「じゃあ、何が問題なの?」

 翼にも分からないらしい。
 ただ誠は一言言った。

「そういう事なら飲み方くらい教えておくべきだった」
「そうじゃないでしょ!体調管理なんてアスリートなら基本じゃないですか!」

 誠司が欠場した理由は二日酔い。
 朝までワインを飲んでいて次の日に寝不足と二日酔いで酷かったらしい。
 当然監督に厳しく怒られたらしい。

「試合前日に朝まで飲む馬鹿がどこにいるんだ!?」

 移籍した時にはその事を知らなかった。
 その代わり風俗で遊び回っていたらしい。
 誠司の収入なら当たり前なんだろう。
 しかし女遊びで思いもよらぬスキャンダルが出たらまずい。
 そう思ってチームの同僚に誰かいい女をあてがってやれと言ったらしい。
 その時に飲み会になって事実を知ったらしい。
 理由は分からないけど、風俗通いはやめて酒で遊びだした。
 その結果二日酔いで一日中吐き気がして使い物にならなかったらしい。
 誠でもしなかったはずなんだけど。
 ……あれ?

「あの野郎ふざけやがって。私も20歳まで我慢してたんだぞ!」

 水奈が怒っている。
 しかし学はそうは思っていないらしい。

「水奈が我慢していたというのは俺の記憶がおかしいのかどうか教えて欲しいんだが?水奈」

 学はそう言って水奈を見る。

「学が飲んでいいって言ったじゃないか!」
「ふざけんな水奈!私なんか愛莉がやかましいからちゃんと我慢してたんだぞ」
「嘘をついてはいけません!相手が大地だからって朝まで飲んで学校サボったこと忘れてませんよ!」
「水奈も同じだ!お前の大学生活は最後の卒論書いただけだろうが!」

 孫が見てるのを忘れて喧嘩を始める。
 桜子は「来年結がはいってくるんですよね……」と落ち込んでいる。
 そんなこと構わず弁当を食べ始める孫達。
 我ながらすごい孫を持った。

「心配しないでいいよ片桐君。片桐君もこんな感じだったから」

 亜依さんに言われた。

「でもさ、一つ気にならないか?」

 なんとなく気になったので誠に聞いてみた。

「何が?」
「誠司は一人で飲んでいたのか?」
「……そう言えばその事は何も聞いてないな」

 誠も聞いてないらしい。
 誠司は恋人を見つけてこいと飲み会に誘われた。
 その結果酒を飲むという事を覚えた。
 これが今の段階の情報。
 しかし、その結果誠司は朝まで飲んで二日酔いで欠場。
 おかしくないか?
 チームメイトと一緒に飲んでいたならそんな無茶絶対しないだろ?
 ってことは一人で飲んでいたのかもしくは……
 誠もなんとなく不思議には思っていたらしい。
 一人でちまちま飲むようなおっさんって年齢じゃない。
 友達とか誰か相手がいるだろう?
 誰だ?

「……そういえば」

 水奈が何か思い当たることがあるらしい。
 
「あ、そういえば瞳子も言ってたな」

 天音も思い出したようだ。
 2人とも同じことを言っていた。
 冬吾がソースらしい。
 
「誠司風俗通いやめたってさ」

 それってまさか……
 この時間なら部屋で遊んでるか何かだろう。
 神奈がメッセージで聞いていた。

「内緒」

 やっぱりそのようだ。

「ま、誠。まさかあいつ金髪の彼女連れてくるのか?」
「ま、まだわからんぞ。だってあいつ帰国する予定なんだろ?」

 その間の友達って線だってある。
 だからはっきり言わないんだろ。
 普通なら4年先の事なんて分からないのだから。
 やっぱり帰国しないでイタリアで一緒に過ごすと言い出すかもしれない。
 だけど運命はどの選択肢も取らないようだった。

(2)

「おめでとう純也君」
「う、うむ……」

 りえちゃんとお爺さんがそう言って祝ってくれた。
 今日は俺と梨々香の結婚式。
 梨々香はお色直しをしている最中だった。
 梨々香はお色直しなんてめんどくさいと言ったけど、親がいいからやっておきなさいと言うから仕方なくしたらしい。
 その間に同僚が司会して色々プログラムを進行していた。
 
「先輩おめでとうっす!」

 同僚の佐伯恵理子がやってきた。

「忙しい時にありがとうな」
「いいっす。そのうち私の花嫁姿を見せるっす」
「……お前相手いるのか?」
「それなんですよね……」

 恵理子は肩を落としていた。
 高校時代には付き合ってる人がいた。
 だけど警察官になってぱたりと連絡が途絶えた。
 それは浮気とか冷めたとかじゃない。
 警察官なら当たり前だけど休みが不規則だ。
 休みでもいつでも出勤できるようにしておかなければならない。
 デートもままならない。
 ましてや家の事がほとんどできないから実家で暮らしている。
 そんな毎日を暮らしているうちに面倒になったのだろう。
 そして出会いの場なんてそんなにない。
 公務員なんてみんな似たようなものだ。
 だから飲み会も偽名の会社名を使ってしたりする。
 税金で飲み会なんて言語道断なのだから。
 公務員も税金払ってるんだけどな。
 恵理子が警官じゃなかったら紹介もしてやれる。
 だけどいくら紹介してもデートも出来ないんじゃ続くはずがない。

「……おじいさんはどうやってりえちゃんと知り合ったの?」
「……おじさんも一緒でね。しかも真面目だったから出会いがなくてね」

 見るに見かねた上司が知り合いの娘だったらりえちゃんを紹介したらしい。

「……俺は仕事一筋であまり構ってやれないかもしれない。それでもよかったら」
「あら~?いきなりプロポーズですか?確かにそんなに仕事が忙しいならその方が早いかもですね~」

 それでいいのかりえちゃん。
 りえちゃんだからありなのだろうか?
 そんな風にとんとん拍子に話が進んで見合いをして3か月後にプロポーズしたらしい。
 色々あったけど今は2人で余生を楽しんでいる。
 なるほどな。

「あら、梨々香ちゃん戻ってきたわよ」

 すると綺麗なドレスを着た梨々香が戻ってきた。
 
「とりあえず、和装じゃなくてよかった……やっぱりお色直しなんて無駄だよ」
「頼むからせっかくのめでたい行事でそういう愚痴やめてくれないか?」
「あ、そうだったね。ごめん」

 そう言って梨々香は笑っていた。
 披露宴が終わって2次会だけ顔を出すとタクシーで家に帰る。

「あら?はやかったのね~。やっぱりホテルくらいとってあげたらよかったかしら~?」

 りえちゃんはそう言って笑っている。
 そんなりえちゃんの前で正座をする。

「これからよろしくご指導のほどよろしくお願いします」
「この歳で姑になるとはね~」

 そんなに固くなることはない。
 片桐家とそんなに変りない。
 特別しなきゃいけないしきたりなんてない。
 そこまでこうるさい事言うつもりもないけどな。
 まあ、カレーにたくあん入っていたら文句を言うかもしれないけど。
 それから風呂に入って寝室で二人っきりになる。

「どうする?初夜だからしなきゃいけないってことはないらしいけど」
「それは卑怯だよ。私がっついてるみたいじゃない」
「そうだな。じゃあ、今夜相手してくれないか?」
「ええ、不束者ですがよろしくお願いします」

 そうして夜を過ごすと朝まで寝ていた。
 気づいたら梨々香がいない。
 どうしたんだろ?
 ダイニングに向かうとりえちゃんと一緒に朝食の支度をしていた。

「あら?まだ寝ててもよかったのに」
「まあ、気づいたら梨々香いなかったからひょっとしてと思って」

 さすがに気づいた以上嫁に家事させて寝てるって新婚のやることじゃないような気がしたから。
 そう説明すると梨々香は笑う。

「でも、起きてきて何するの?」
「何か手伝うことある?」
「ない」

 きっぱり言われた。

「今日はゆっくり休んで。明日から仕事なんでしょ?」
「でもさ……」

 するとりえちゃんが言った。

「共働きじゃないんだからそんなに気を使う必要もないのよ~」

 お爺さんはただ朝のワイドショーをのんきに見ていたらしい。
 でもそのうち夫の力が必要になる時が来る。
 それは子育ての時。
 子供が生まれたら手伝ってやればいい。
 最初からそんな風に気遣っていると長く続かないとりえちゃんは言った。
 しかたなくお爺さんとテレビを見ていた。

「純也は新婚旅行いかないのかい?」
「梨々香が東京のテーマパーク行きたいって言ったので、週末開いてるときに行こうかと」
「……それならいい。そうやって嫁をいたわってやる気持ちがあれば問題ない」

 お爺さんが連休に頻繁に旅行に行く理由はそれだったのか。
 父さん達の関係が理想だと思っていたけど、遠坂のお爺さん達ももう一つの理想の夫婦なんだな。

「朝食出来たよ」

 梨々香が言うとテーブルに向かった。
 今日から新しい生活が始まる。
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