姉妹チート

和希

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あなたがいることで

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(1)

「じゃあ、頑張ってね」
「うん、それは良いんだけど……」
「どうしたの?」
「繭どこか悪いんじゃないのか?」

 繭の顔色も悪いし辛そうだ。
 
「それなら今日母様に頼んで病院行ってくるから」
「やっぱりまずいのか?」

 俺が聞くと繭はくすりと笑った。
 
「ある意味まずいかもしれませんね」

 どういう事だろう?

「あ、早く行かないと。社長が遅刻なんていけませんよ」

 心配してくれるのはいいけどちゃんと気をつけて運転してね。
 繭がそう言うと俺は出勤する。
 相変わらず爺共の相手をしていた。
 欠伸も許されないって地獄だな。
 どうでもいい話題を必死に討論するおっさんたちの話を聞きながら繭の事を考えていた。
 会議が終った後山積みの書類を秘書の飯島さんが区別している。
 どうでもいい書類はシュレッダー行きなのは4大企業の中では割と普通らしい。
 同じ女性だし試しに聞いてみるか?
 何となく相談していた。
 すると飯島さんの手が止まった。

「それはいつごろから?」
「こんな症状はありませんでしたか?」

 そんな風にいくつか質問された。
 心当たりがある事はあったので話していた。
 すると飯島さんはくすりと笑った。

「これから社長は大変ですよ」
「どうして?」
「それは奥様から聞いたらいいと思います」
「なんかやばい病気?」
「違いますよ。奥様だって女性なのだから当たり前ですよ」

 しっかり支えてあげないと。
 飯島さんはそう言う。
 定時になると「早く帰ってあげて下さい」と言うのですぐに帰った。
 すると繭とうちの母さんと晶さんがいた。
 やっぱりなんかあったのか?
 急に不安になった。

「ど、どうしたの?繭今日病院に行ったんだよね?」

 俺が聞くと母さんがにっこりと笑っていた。

「ええ、それで今後どうしようかと思って晶先輩と相談してたの」
「どういう事?」
「それは繭ちゃんから聞いた方がいいんじゃないかな?」

 母さんが言うと繭が俺を見てにこりと笑った。
 
「天は来年には父親ですよ」

 え?
 ちょうど8週目らしい。
 来年の8月が予定日だという。
 まじか!?
 繭に色々質問してた。
 入院した方がいいのか?
 男の子?女の子?
 俺に出来る事ある?
 などなど聞いていた。

「落ち着いて天。それで母様達に来てもらったの」

 繭の具合もあるけど俺の世話をどうするか考えないといけない。
 放っておけば毎食弁当で済ませようとするかもしれない。
 部屋の掃除とかもある。
 そんなのどうでもいいと思ったんだけど……。

「最初は私が繭を引き取ろうと思ったけど、それは筋が違うと繭が言うのよ」

 繭はもう酒井家の人間じゃない。
 生まれてくるのは如月家の跡取りだ。
 だから俺の母さんが様子を見に来ると言った。
 だけど俺にもやらなきゃいけないことがある。
 まだ時期は早いけどこれから繭は段々出来ないことが増えて来る。
 その時に俺が代わりにやってあげなさいと言われた。

「いい?繭を放って飲みに行くなんて絶対に許さないから」

 晶さんが言った。
 子供を授かったのは繭だけの問題じゃない。
 2人で作ったんだ。
 だから2人で乗り越えるべきと晶さんは言う。
 絶対に会議で遅くなるだの、取引先の社長と飲むとか許さないと晶さんが言う。
 そのことは善明達を見て知っていた。
 間違いなく取引先は消滅する。
 
「じゃあ、私もたまに様子を見に来るから」

 如月家の人間とはいえ、やはり実の母親の方が気楽だろうしと晶さんが言った。
 2人が帰ると繭に聞いていた。
 気になっていたことがある。

「繭は薄々気づいてたのか?」
「……天は肝心なことはなに一つ学んでないのですね」

 私の何を見ていたの。
 少しは男女のメカニズムくらい学んでおきなさい。
 そんな事ばっかり聞いてくるような変態は嫌だけど、少しは嫁の体調を気づかって欲しい。
 善明達から聞いていたけど旦那も色々考えてやらないといけないとは聞いていた。

「やれる事は何でもやるよ!」
「そうですね、まずは洗濯物をちゃんと洗濯かごに入れる事から始めて下さい」

 繭もそんなに俺の世話ができない。
 少しでも自分で出来る事があると思ったら自分でして欲しい。

「分かった!じゃあ、今日は一杯飲むか?」

 そう言うと繭はしかめっ面をする。

「妊娠中はお酒の匂いが気持ち悪いから止めて欲しい」

 そういや善明も酒を断っていたな。

「分かった、まずは飯だよな。何食う?」

 そう言って出前を取る準備をする。

「本当に困った旦那様ですね。少しは自炊しようと思わないのですか?」

 そう言って笑っていた。
 食事は母さんが作るから片付けくらい自分でしなさいと言われた。
 片付けるのを繭が見ている。

「天、洗剤つけ過ぎです!キッチンを泡だらけにしてどうするの!?」
「泡がいっぱい出てる方が綺麗になったって気にならないか?」
「馬鹿な事いわないで!」

 ちょっとくらい大目でもいいだろ?
 そんなに洗剤って高いのか?
 その後風呂に入ってテレビを観る。
 酒は禁止らしいからジュースで我慢していた。
 そのくらいなんてことない。
 だって繭は何かを食べる事すら辛そうだから。
 それでもしっかり栄養をとらないと赤ちゃんに影響が出る。
 あ、遊が言ってたな。
 俺はスマホを操作して注文する。

「何買うつもり?」
「レモン水」

 妊婦には一番だって善明が言ってた。

「だからって箱買いする必要あるのですか?」

 本当に仕方ない旦那様だと繭は笑っていた。

「繭、お腹触ってもいい?」
「本当に何も知らないのね」

 まだ触ったくらいで分かるほど成長していないと繭が言う。
 
「名前どうしようか?」
「性別も分からないのに気が早いですよ」
「両方考えたらいいだろ?」

 そうか、俺が父親か。
 どんな子だろうな。
 繭みたいな美人が生まれてくると良いな。

(2)

「梓、おめでとう」
「ありがとう母さん」

 晶ちゃんと梓が話をしているのを見ていた。
 祈に繭と続いてだ。
 流石に僕も慣れたよ。
 梓はあまりSHとは関りが少ない。
 だから志水家の関係者と新郎の浜崎瑞生さんの親族とあと西松医院から何人か招待していた。
 慣れたと言っても僕も父親だ。
 娘の花嫁姿を見ながら飲むのは気持ちいいものがある。

「あら?父さんは泣いてくれないの?」
「みっともない姿を晒さないようにしてるだけだよ」
「その割には繭や祈の時は泣いてたじゃない」
「……どういう事かしら?善君」

 晶ちゃんに睨みつけられる。
 本当に石化するんじゃないかと言うような形相だ。
 
「酒井先輩おめでとうござーっす」
「また出てるよ」

 楠木知事が挨拶に来た。
 晴斗は言葉遣いを矯正中らしい。
 むしろ今まであれでやってたのが脅威なんだけど。

「でも片桐先輩達呼ばなくていいんすか?俺みたいなの呼ぶのに」

 どこの世界に知事を招待しないで友達を優先するなんて無茶をする人がいるんだい?
 晶ちゃんはやろうとしてたけど必死で止めた。
 その代わり披露宴が終ったら2次会は若い者に任せて渡辺班で集まろうって段取りをしていた。
 披露宴が終ると決めていた店に入る。
 片桐君達はすでに食べていた。
 飲んでいたじゃない。
 それは桐谷夫妻と多田夫妻と美嘉さんだ。
 石原夫妻は披露宴に招待しておいた。
 4大企業と地元銀行の重鎮くらいは呼んでおかないとまずい。
 そんな立場にある人間だった。 

「そんなしょうもない客呼んでどうするの?」

 晶ちゃんがそう言うのを宥めた。

「それにしても晶の所は今年は大変ね」

 愛莉さんがそう言って笑っていた。
 繭が妊娠した。
 新婚旅行中に作ったらしい。
 だからといって晶ちゃんが怒る事はなかった。

「結婚してるのだから当たり前でしょ?」

 まあ、割とある話みたいだしね。

「片桐君の所も色々大変なんじゃないかい?」

 茜が結婚するらしいし、冬莉と冬吾の進路は決まったみたいだし。
 それよりも大変なことがある。
 孫の冬夜の事だ。
 むちゃくちゃな子供を考えてくれたよ。
 あの子が将来暴れたら片桐君でも止められないらしい。
 止められるのは結の隣で大人しくしてる可愛い女の子だけ。
 後は美希くらいだろうか。
 子供達になんらかの能力を与えられているのは多分その能力を使わないと対処できない敵がいるからじゃない。
 結が動く前に処理できる力を与えられているのだろう。
 そんな結にも二つ名がついたらしい。

 天を取る者。

 それを守る2人には「生を司る紫陽花の姫君」と「死を司る菫の姫君」と称されたらしい。
 その能力も酷い物だった。
 前に能力を使えない状態なら秋久が優勢かと思っていたけど思い違いだったらしい。
 結がその気になった時点で負けは確定。
 音速を越える速さで突進してきたら誰も止められない。
 結にいる女の子桐谷茉奈は「すごいね」と嬉しそうにしていたそうだ。
 基本的になんらかの刺激を与えなかったら大人しいらしい。
 そりゃご飯食べて寝てるだけの生活だしね。
 茉莉と菫は相変わらずだと善明が言っていた。
 2人は顔を合わせるとまず拳をお見舞いするらしい。
 かわすけど。
 それから乱闘が始まると保母さんが止めるまで終わらないらしい。
 陽葵や菫にも彼氏が出来たら変わるか?
 それは無いとすぐに分かった。
 だって茉莉には彼氏いるから。
 末が恐ろしいと翼が悩んでいた。
 2人とも夏休みの前に「もう少し女の子らしくするようにお願いします」と言われたらしい。
 
「男女平等なんだから関係ないだろ!」

 天音はそう言い返したそうだけど。
 天音より愛莉さんの方が悩んでるみたいだ。
 結は……

「結君は何か趣味があるの?」
「……寝る事」

 あらゆる意味で正直だった。
 それでいいんじゃないかと思うけど。
 あれで何かをやり始めたら何であろうと死人を作る。
 天音達のように暴れ出したらその被害は天音なんて可愛い物だ。
 天音もそれを分かっているらしく「絶対に結を怒らせるな。そんな馬鹿がいたら生き埋めにしろ」と茉莉に言ったそうだ。
 まあ、地元を破壊するより人間一人で済むなら安いのだろう。
 恋愛小説の価値観じゃない気がするけど。
 それでも片桐君は空達にヒントを与えるだけで具体的な教育は空と美希に任せているそうだ。

「空の王なんだからそのくらい出来るだろ」

 そう言って笑っている。
 多分善明には空の苦労が分かるんだろうな。
 嫁の機嫌を損ねたら企業が潰れる。
 規模は全然違うけど危険人物を扱っている事に変わりはない。
 皆から「おめでとう」と言われながら飲んでいた。

「次はいよいよ俺か」

 渡辺君が笑っている。

「いいか正志!泣いたりするんじゃねーぞ!」

 美嘉さんが注意している。
 多田君達も揶揄っている。
 皆基本的に楽しい事が好きな仲間だ。
 ただ手出ししてきたら容赦しない。
 それだけのこと。
 その反撃が普通じゃないだけ。
 日が替わる前に皆家に帰る。
 年を重ねるごとに空き部屋が増えて行く。
 ベッドに入ると晶ちゃんが言った。

「善君はあとどれくらい働くつもり?」
「善斗達が立派に独り立ちするまでは頑張るつもりだよ」
「その後の事は考えてる?」
「いや、まだだけど……」
「恵美と話をしていたんだけど……」

 こんな老夫婦がいたそうだ。
 街にコンサートホールがある。
 それだけでなくても飲み屋なんかも多い。
 だけど毎回タクシーで帰るのが面倒だ。
 ホテルの予約を取るのもいいけどその老夫婦は違う事を考えた。

「街の中に別荘を作ればいい」

 そう考えてマンションの最上階を買い取って工事して第二の住居にしたらしい。
 恵美さん達もそうしようかと思ってるそうだ。
 どうせ善明達がこの家は使うだろう。

「そうだね。その時にまた考えるよ」
「わかった」

 僕達が現役でいられる日ももうそんなに長くない。
 第2の人生を考える時がきたんだろう。

(3)

「あ、お待たせ」
「大丈夫、丁度来たところだから」

 俺は彼女の紫が来ると手を振った。
 
「じゃあ、どこ行く?」
「今日は大丈夫?」
「うん、ちゃんと休み取っておいた」

 紫は地元テレビ局でアナウンサーをやっている。
 だから勤務時間が変則的だったりする。
 最初は早口言葉だのなんだので大変だったらしい。
 お互い仕事の苦労話をしながらドライブをしていた。
 俺は大学の4年間福岡にいたから、長い事デートすらしてやれなかった。
 もちろん地元に戻ってきた時は会ったりしてたけど。
 それでも寂しい思いをさせた事には変わりないだろう。
 それは社会人になれば大丈夫だと思っていた。
 地元で就職したら問題が解決すると思っていた。
 だけど違っていた。
 紫の変則的な勤務時間でなかなか時間があわない。
 また紫の相手をしてやれない。
 どうすればいいだろう。
 同じような状態だった奏に相談してみた。

「そんなの答えは一つしかないだろ?」

 奏の言う通りかもしれない。
 だけど紫は俺を受け入れてくれるだろうか?

「おーい」
「どうした?」
「なんか一人で考え事してたから、声掛けてみた」
「あ、ごめん」
「何か問題起きたの?」
「……その話後でいいかな?」
「分かった」

 それからは普通に喋りながら県北の方を回っていた。
 海の見えるレストランで夕食を取る事にした。
 夕食を食べると星空を見ながら帰る。
 途中国道沿いにある公園に寄る。

「こんな時間に公園?」
「だめかな?」
「別にいいよ」

 にこりと笑っている紫。
 紫と公園のベンチに座って海を見ていた。

「で、話って何?」
「俺達の今後について考えていたんだ」
「それで?」

 これからずっとすれ違いの生活が続く。
 大学卒業したら終ると思っていた生活がまだ続いている。
 いい加減紫が不安なんじゃないのか?
 仮に平気だったとしても俺は不安だ。
 だから俺達の仲を確かなものにしておきたい。
 形で示してあげたいと思った。
 紫はじっと俺の顔を見て話を聞いていた。
 話の最後に紫に頭を下げる。

「俺と結婚しないか?」

 賽は投げられた。
 あとは紫の気持ちを確かめるだけだ。

「いいよ」

 へ?

「それだけ?」
「うん」

 紫はにこりと笑っていた。

「その言葉ずっと待っていた」

 紫も同い年の友達が結婚していく中で不安もあったみたいだ。

「心配しなくても秀史も考えてるみたい」

 瑞穂から聞いたらしい。
 奏が喋ったのか。

「でもさ、一つ不思議なんだよね」
「何が?」
「何でこの場所を選んだの?」

 この場所だけじゃない。
 男はなぜかプロポーズの場所に拘るのが不思議なんだそうだ。
 でもそう言うのって雰囲気とか大事じゃないのか?

「そりゃ泥酔した状態でされても本気かどうか分からないからイヤだけど」

 ずっと付き合って来たんだよ?
 昨日今日付き合い始めたわけじゃない。
 私だって秀史の気持ちわかるよ。
 極端な話同棲してるんだから家でもいい。
 いろんな意見があるだろうけど、私は突然こんな場所に連れてこられた方が不安になる。

「そっか……」

 力み過ぎたかな。

「……でも秀史の気持ちもわかる。特別な日にしたいんだよね?」
「そりゃな」
「だからずっと考えてた。なんて答えてあげようか」
「その答え聞いてもいいか?」
「……ありがとう。これからもよろしくお願いします」

 そう言ってにこりと笑って紫は頭を下げる。

「こちらこそよろしく」
「じゃ、帰ろう?」
「そうだな」

 車で家に帰っている間紫はスマホを触っていた。
 きっとSHの皆に伝えているんだろう。
 その証拠に俺のスマホが鳴りっぱなしだった。
 後日両親が帰ってきた時に報告した。
 
「私はいつになったらプロポーズしてくれるのかな?」

 夏希は彼氏の渡辺正俊に聞いていた。

「まだ、僕学生だよ!?」

 そう言って戸惑っている正俊を見て笑っていた。
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