姉妹チート

和希

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羽ばたき

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(1)

「ですからただ今社長は不在で……」
「そういう態度取るわけ?他に責任者いるだろ?さっさと呼んで来い!」

 受付が困っているみたいだ。
 その招かざる客は、午後社長が出た後やって来た。

「お宅の会社は差別をしていると聞いたんだけど?」
「え?」

 もちろん受付が知るわけがない。
 僕は社長から聞いていた。

「僕がいない時に来たら対応は空に任せる」

 そう言われていた。
 社長はこうなる事をあらかじめ予想していた。
 理由は一つ。
 とても面接に来たとは思えない格好で面接に来た女性。
 面接もめちゃくちゃで足を組むわ「灰皿無いの?」と聞いて来るわ、言葉遣いも酷かったそうだ。
 
「ここは君に物事を教える学校じゃない」

 そう言ってその場で履歴書を突き返したらしい。
 もちろんしっかり履歴書を見ていた。
 そして住所が気になっていた。
 水奈の父さんに確認したら、調べるまでも無かったらしい。
 その住所の集落は昔から差別を受けていた。
 身分制度が無くなってもそこに住んでいるだけで差別されるほど。
 まともな会社には就職できない。
 だから元々は国の責任だから国が支援する。
 ……っていうのは大昔の話。
 簡単な問題だ。
 支援金で引っ越せばいい。
 だけど現実は真逆だった。
 わざわざその地区に引っ越してくる輩が多かった。
 理由は簡単。
 
「生活保護を受けたいならそこに引っ越せ」

 そんな無茶な指示をする市役所の所員もいたそうだ。
 仕事をしないで生活する。
 そんな美味しい話にありついて在日も引っ越してくるほどだ。
 その言葉は禁句とされてきた。
 口にすれば差別になるから。
 だから最近の若者は知らない。
 県外から引っ越した何も知らない夫婦が家賃が安いからとそこに引っ越そうとすると「それは無理だ」と答えた。
 なぜかと聞かれて理由を説明されて「なにそれ?」と思うほど今時の子はその存在すら知らない。
 それが問題だと喚きたててわざわざ差別される理由を作り出す意味不明な行動。
 そしてそこに面接を受けた女性が住んでいた。
 父さんから聞いた話だと有限会社程度の規模の会社に電話をして「名簿を買わないか?」と売り込んでくるらしい。
 もちろんそれが罠。
 高い金を払って買った企業は「お宅の会社は差別をするのか?」と脅迫を受ける。
 だから予防策で素性の知れない名前を名乗ってくる人間の電話は「社長は今不在なので用件を伝えておきますのでどうぞ」と対応する。
 すると相手は大体が無言で電話を切る。
 当然社長はその住所を見て落としたわけでなくてその態度を見て判断した。
 しかし、そんなやりとりはどうでもいい。
 彼等は口実が欲しかっただけだ。
 騒がれるとまずいから言われるがままに金をたかられる。
 それは延々と続く。
 そんな事をするから人は煙たがる。
 何もしなければ誰も知らないんだ。
 そういう集落がある地元の人ですら知らない程で引っ越そうとして市役所に「止めとけ」といわれるくらい。
 しかし逆に美味しい話だと知った若者が協会に「僕も引っ越したいです」と申し込みしたらしい。
 その返事が「あそこには選ばれたものじゃないと入れない」という返事だった。
 その集団だけは手に負えない。
 京都で「海外の人間の反日教育の為に国税を使うな!」という内容を過激なセリフで抗議したらしい。
 その結果国は対応した。
 ヘイトスピーチ規制法。
 逮捕されたのは抗議した人間。
 それ以来彼等は大人しくなってしまった。
 迂闊な事を言えば逮捕されるという言論の自由を真っ向から否定した対応。
 彼等は差別から逃れる方法を知っているのに敢えてそこにとどまるどころか、そこに住もうとする。
 そして何かあれば声を上げて自分の生活を保障してもらう連中。
 で、多分それを利用した原川組の強請りだろう。
 とりあえず社長にメッセージで連絡する。
 用件が済んだらすぐ戻るからそれまでよろしくといわれた。
 半分泣きそうになっている受付を洗面所に案内するように女性社員に言うと僕が対応することにした。

「誰だお前?」
「社長と今連絡をして対応してくれと言われたので」
「で、どう対応をするんだ?」
「お引き取り下さい」
「なんだと?」

 男の眉間にしわが寄る。
 
「あなた方のような方に付き合ってる暇はないからとっととお引き取り願え……だ、そうです」
「それがお宅らの誠意ってわけ?このネタマスコミに垂れ込んでもいいんだぞ?」
「ご自由にどうぞ」
「あんまり俺をなめるなよ。ガキ」
「好きにどこにでも垂れ込めばいいだろ?それが希望なら勝手にしろ。当社には全く関係ない話だ」
「お前、大卒の坊ちゃんなんだろ?そんな事したらどうなるのか分からないのか?」

 大卒が何のステータスになるのか知らないが、この男にとってはそうなんだろう。

「そうだよ。大卒の私でもそんな事を習った事はない。そんなものをマスコミに流したらどうなるのかむしろ私の方が知りたいのですが」
「ぶっ殺すぞ!!」
「そういう言葉あまり言わない方がいいよ?」

 そう言うと男は僕に殴りかかる。
 どうってことない。
 簡単に受け止める。

「最後は暴力に訴えるというなら私もそれ相応の対応をとりますね」

 そう言って男の手首を掴んだまま扉を開けて事務所の外に引きずり出すと壁に投げつける。
 さすがに事務所の中で暴れるわけにはいかない。

「ここならいいよ。死にたいなら希望通りにしてやる」
「まだ、手こずっていたのかい。空」

 暴れる時間は無かったらしい。
 社長が男の首を掴み上げていた。

「随分手こずってるね。まだまだだね」

 社長がそう言ってこっちを見て笑う。

「てめえ、俺にこんな真似にしてどうなるか分かってるんだろうな?俺は……」
「原川組。頭を挿げ替えても考える事の次元が低い幼稚なガキ」

 そう言ったのは恵美さんだった。

「少しは頭を使え。こんな脅迫に怯える企業の方が少ないぞ?」

 父さんはそう言うと階段の下に投げ捨てる。
 男は大人しく引き下がっていった。
 途中で善明の父さんとすれ違ったらしい。
 
「ごめんね、そっちも忙しいだろうに」
「その代償はあいつらに精算させるから構わない」

 どうやら4大企業の首脳陣が勢ぞろいしていたみたいだ。

「ありがとう。後は僕達に任せて空は仕事にもどりなさい」
「はい」

 そう言って僕は仕事に戻った。

(2)

 その日仕事が終ると渡辺班が集まっていた。
 ああなる事は履歴書の住所を見て何となく気づいていた。
 普通の人間は興味も示さないどうでもいい情報。
 しかし興味を持った人間なら簡単に手に入る情報。
 念の為、誠に確認させようとしたら「そんなの調べるまでもない」と答えた。
 その時から彼女達の目的を何となく察していた。
 後はどうして僕の会社を狙ったか?
 僕達に恨みを持つリベリオンが相手か、それとも裏のつながりを持つアルテミスか?
 それだけを調べていた。
 そしてアルテミスの方が濃厚だった。
 案の定原川組の末端がやって来た。
 後は今後どういたぶってやるかを考える必要がある。
 あまり変な噂を立てられるのも不本意だしね。
 こんなうわさ立てられたところで何のダメージもない。
 だって「なにそれ?」が大体の反応だから。
 調べたら分かる。
 だけど普通の人間はそんなものに興味を示さない。
 騒ぐだけ無駄だ。
 根拠はある。
 京都の件を挙げたけどそれだってここに書けないくらい過激な発言をしてやっと国が「ヘイトスピーチ規制法」なんて意味の分からない対応をしたくらいだ。
 
「で、次はどう出ると思う?」

 渡辺君が聞いた。

「噂を流すんだろ?」

 本人がそう言ってたし。
 問題はどこに流すかだ。
 彼等の最終的な目的は裁判だろう。
 賠償金目当てでやってるような物だろうし。
 だとしたらそういう方向に流すんだろうな。
 その証拠が酒井君がすれ違い様にすった彼のICレコーダー。

「良いのか悪いのかまだ衰えていませんでした」

 酒井君がそう言って笑う。

「となると警察か?」
「民事だからそれは無いと思う」

 そう言って晴斗の顔を見る。

「俺っすか?」

 晴斗が言うと頷いた。
 渡辺班は地元での基盤をしっかり築いた。
 晴斗を知事にすることに寄って。
 しかし就任後、間もない晴斗に差別疑惑が流れたら大事だ。
 
「なるほどな……で、冬夜はどうするつもりなんだ?」
「片桐君の指示なら奴らの望み通り爆撃して廃墟にしてやるわよ」

 そんなにその集落も多いわけじゃない。
 たまたま地元にあった。
 もっとも隣の県はなかったのに作られたらしいけど。

「面接の時もそうだったんだけど、彼等をどうこうしようとは思わない」

 僕達が差別してるかしてないか、皆がどう思ってるのかなんてどうでもいい事だ。
 ただ努力した者には這い上がる協力くらいはしてやろうと思う程度だ。
 何もしないでただ喚いてる奴に構うほど暇でもない。

「では、晴斗に忠告したかっただけですか?」

 愛莉が聞いた。

「それは誠に聞いた方がいいよ」

 そう言って誠に説明するように言う。

「冬夜の言う通りあいつ等の集団と誠心会は繋がっていた」
 
 だから僕の狙いはそこ。
 曲がりにもそんな団体が暴力団と繋がってるなんて知ったらそっちの方が面白い記事になるだろう。
 そしてそのネタを流したら絶対に誠心会が反応するはず。
 そこをしっかり捕まえてやる。
 原川組なんて雑魚はSHに任せたらいい。
 しかしその原川組すらSHに怯えて動かなくなった。
 そこに舞い込んだのが今度のネタ。

「そこからアルテミスを狙うってことだね?」

 公生が言うと頷いた。

「で、俺はどうすればいいっすか?」

 晴斗が聞いた。

「晴斗、今県政はどうやって運営してるんだ?」
「よくわかんねーから、春奈に任せてるっす」
「お前……」

 渡辺君が呆れていた。
 まあ、そうなるだろうと思っていたんだけどね。

「私が対応すればいいの?」

 春奈が聞く。

「林田さんに対応してもらおう。こういう強請りのケースは林田さんの方が経験あるだろうし」

 僕が言うと林田さんが頷いた。

「晴斗は今まで通りでいい。率直に答えろ。思ったままに喋っていい」
「ちょっと片桐君。それはあまりにも無茶じゃない」

 県知事が「わかんないっす」じゃそれ自体が致命傷になるんじゃない?と恵美さんは言う。

「恵美さん、片桐君はそれが狙いなんだよ」

 公生が代弁してくれた。

「どういう事?」
「県知事が分からないじゃない。支持率の高い県知事ですらどうでもいい事だって相手に教えるんだよ」

 下手なリアクションされるよりはましだ。
 多分やばい発言は林田さんがどうにかする。
 今度はちゃんと相手に餌をやろう。

「で、その手札を見せたらこっちがカウンター。だね?片桐君」

 公生が言うと頷いた。

「しかしあれだな。なんか年を取るとただ暴れればいいってだけじゃなくなってつまんないな」

 カンナがぼやく。

「神奈は年を考えてくれ……」
「その割には派手な下着を要求するじゃねーかお前は」
「え?誠君どんなのを要求するの?」

 愛莉が話に混ざると神奈が話す。
 頭を抱える誠。
 女性陣は盛り上がる。
 僕達男性陣はそれを笑いながら聞いていた。

(3)

「綺麗だよ」
「ありがとう」

 今日は私と天の結婚式。
 別に政略結婚というわけではない。
 しっかり天と愛を育んできたつもりだ。
 相変わらず好き勝手にやってる天だけど、いい意味でも悪い意味でも馬鹿正直な人。
 自分の立場をもう少し考えて欲しいのだけど相変わらず遊達と馬鹿な事をしている。
 ウェディングドレス姿の私を見て素直に褒めてくれた。
 本人は少し照れくさそうだったけど。
 そういうところは小学生の時から変わらない。
 披露宴が終ると2次会はいつものホール。
 天は今夜がどういう物なのか分かっていないのだろうか?
 遊達に言われるがままに飲みまくっている。
 そして相変わらずバカな歌を歌っていた。
 流石に水奈が注意している。
 そんな光景を見ていると祈姉様が話しかけてきた。

「どっちみち繭も疲れてそれどころじゃないだろうから、今夜は騒げ」
 
 そう言って笑っていた。
 しかし天もやっぱり優しい人だった。
 2次会で帰ると言い出した。

「繭も疲れてるみたいだから今日は悪い」

 そう言って誘いを断っていた。
 家に帰ると風呂に入って寝室に戻ると天がゲームをしていた。
 早々に怒らせたいのだろうか?
 私に気づいているみたいだけどゲームを止めない。
 ああ、そうか。
 天の思惑に気づいた私は天に近づくとゲーム機の電源を切る。

「少しは嫁に構って欲しいですよ」
「うん、いっぺんやってみたかったんだ」

 やっぱり。

「しかし大丈夫なのかな。3ヶ月も会社休んで問題あるのだろうか?

 天は悩んでいた。
 悩む事あるんだな。
 母様が最後のプレゼントといって世界一周のクルーズをプレゼントしてくれた。
 善明兄様はそこまで長くなかったけど。

「どうせ、酒井グループと同じだろうから。何かあったら僕がフォローするから安心して楽しんでおいで」
 
 ただし嫁を怒らせるような無礼な奴は容赦するな。
 兄様の新婚旅行の経験から言っているのだろう。

「疲れたし今日はもう休みませんか?」

 私が言うと天もテレビを消してベッドに入る。
 すると私を見て言った。

「頼りないかもしれないけど絶対幸せにするから……」
「それは無理なんじゃないですか?」
「俺じゃ不安か?」

 天でも不安に思う事あるんだな。

「そうじゃありません」
「どういう事?」

 天が聞くと私は天を抱きしめて言った。

「今人生の中で一番幸せなのですよ?これ以上幸せになったら死んでしまいそうです」
「……死なれたら困るかな」

 そう言って天は笑っていた。

(4)

「善君お疲れ様」
「ありがとう」

 今日は娘の繭と如月天の結婚式。
 今年は梓も結婚する予定だった。
 しかし何度経験しても寂しい物があるね。

「分かるぞ酒井!今日は飲め!徹底的に騒ぐぞ」

 多田君が言う。

「誠、やっぱあの曲しかないよな!」

 桐谷君が言う。
 やっぱりそうなるのか?

「いい加減にしろ!孫に聞かせる歌じゃないだろ!!」

 まあ、そうだろうね。
 母親たちが猛抗議する。
 もっとも結は食べ物じゃないと分かっていたので興味を示さずに比呂と食べ続けていた。
 空と美希は自分が食べる暇もなく結と比呂に料理を渡している。
 2人の課題は結達の食欲を制御する事じゃない。
 結はまだ知らない料理が多い。
 まず一番おいしい料理は豚骨ラーメンという価値観を変える事だった。
 それは冬吾も一緒だけど。
 まさかインタビューで「インスタントラーメンが食べたい」なんて言われたら愛莉さんもたまらないだろ。
 恵美さんと一緒になって色々食べさせているらしい。

「カタツムリなんて食べたくない」

 意外と冬吾にも嫌いなものがあったらしい。
 片桐家の子供は共通してるそうだ。
 貝なんかはあまり好まない。
 精々しじみかあさりくらいだ。

「アワビはいいぞ」

 誠司が言うと神奈さんが怒る。

「お前は他人の孫に妙な知識を与えるんじゃない!」

 そう言って叱られている誠司を冬吾は不思議そうに見ていた。

「冬吾君は気にしなくていいんだよ」
「わかった」

 本当に片桐家の男子は怒らせさえしなければ大人しい子だ。
 その反動で怒らせると何をやらかすか分からないけど。
 空の息子の結の逆鱗に触れて文字通り幼稚園を焼き尽くす寸前までいったらしい。
 結を怒らせると危険なのは茉莉や秋久がよく分かっていたので、あの二人に悪意を持つ子供を先に始末しているそうだ。

「そういえば陽葵と菫も大変みたいだね」

 息子の善明に聞いた。
 秋久は無気力な反面、陽葵と菫は好き放題に結莉と茉莉と暴れている。
 静かに忍びよって一発で仕留める。
 本当にアサシンにでもするつもりなのかと思うような芸当をしてみせた。

「子供は元気なのがいいんじゃない?」

 そう言って翼もあまり希美を注意する気配がないらしい。
 そんな陽葵と菫でも「彼氏が欲しい」と今頃から言い出したそうだ。
 茉莉にも朔がいるからだろう。
 興味が湧いたらしい。
 ただちょっと殴り飛ばしたくらいで泣き出すような弱い男はいやだと言っている。
 天音と翼と美希と水奈はほぼ毎日呼び出されている。
 しかし素直に謝る4人じゃない。
 最終的には職員が頭を下げて「お願いだからこれ以上問題を起こさないでください」とお願いするんだそうだ。
 しかし相手は天音。

「手を出して来たら二度と馬鹿な真似をする気が起きないように徹底的にいたぶってやれ」

 自分の娘に言う言葉じゃないと思うのは僕だけだろうか?
 そしてついに二人の髪の色にちなんで茉莉は緑の悪魔:グリーンピース、結莉は青の死神:ブルーディスティニーと呼ばれるようになった。
 グリーンピースに罪は無いと思うんだけどいいの?それで。
 結莉は基本的に怒らせなければ何もしない。
 冬夜の前で暴れるなんてことは極力しない。
 そっとしておけば問題ない2人だけど怒らせたら手に負えない2人。
 結は基本的に食べ物の事しか考えていないそうだ。

「雲って美味しいのかな?」

 とか言ってたり、四宮が放ったプラズマを見て。

「あれ肉焼くのに便利そうだね』

 とにかく食べ物の事しか考えてない。
 そんな結の隣で嬉しそうに髪の毛をいじっている茉奈。
 茉奈の三つ編みが結にはツイストに見えたのだろう。

「それ食べられる?」
「結は髪の毛食べるの?」
 
 髪の毛の色で色々言われた茉奈でも食べれるかどうか聞かれたのは初めてらしい。

「髪の毛ならいいや」
「結はどんな髪の女子が好き?」
「それって俺が決めないとダメなのか?」

 自分が好きな髪型にすればいいだろ?
 一々俺に合わせる必要がどうしてあるんだ?
 茉奈の好きにしろ。
 それでうだうだ文句言う奴がいるのなら俺が聞いてやる。

「しかし、茉奈の髪見てるとドーナツ食べたくなったな」

 結はその後帰ると美希が食べさせたそうだ。
 結の食への関心はとどまる事を知らない。
 それを聞いた愛莉さんは悩んでいるそうだ。
 しかし片桐家の男子の制約の一つ”彼女には逆らえない”というのは結も例外ではなかった。
 怒り出した結の頭を茉奈が「ぽかっ」と小突くだけで収まるらしい。
 茉奈は水奈の子供とは思えない程気弱な子だから怒り出すことはまずない。
 子供達の勢力はそんなにでかくない。
 案の定リベリオンとFGの対決という構図になっているそうだ。
 結達を怒らせたらやばいという事くらいは学習している。
 いきなり炎を出されたら誰でも怖いだろう。
 結果あの子達だけでつるんで遊んでるらしい。
 菫は茉莉とじゃれ合いという名の取っ組み合い。
 結莉も新しい彼の東山芳樹と恋人の時間を楽しんでいる様だ。
 朔や秋久も結莉達に手を出そうとする愚か者がいないように警備してるらしい。
 多分自分達の中で一番やばいのは結だと認識しているのだろう。
 それでも本人は全く自覚がない。
 ただ楽しみの時間を邪魔された途端に怒り出す。
 親にむかって「がっでむ」と言っていた結莉が芳樹と楽しんでる時に邪魔されたらどうなるかくらい想像つくだろう。
 ただそんな結でも意外な面がある。
 お遊戯の時間や、お掃除の時間は真面目にするらしい。
 茉莉と菫は全くその気がないらしいけど。
 当然茉奈も結もまじめに掃除をしている。
 四宮とやらがプラズマを発生させて攻撃を仕掛けてくるらしいが、秋久と陽葵が見事に封じているらしい。
 秋久が”模倣”で能力をコピーした後に菫が”強欲”で奪い取る。
 秋久の能力が一つじゃないと思わせないように色々手を変えるらしい。
 だから片桐君達も自分の孫より僕の孫が恐ろしいと思っている様だ。
 結や結莉達は有り余る能力を力任せに使っているけど、陽葵と菫と秋久は限られた能力を有効に使って優位に戦いを進める。
 多分ステイシスという状況下で戦わせたらあの2人が上回るかもしれない。
 もっとも結はステイシスという状況も無視してくるらしいけど。
 そんな恐ろしい結には絶対に逆らわない。
 とうの結も普段は食べ物の事しか考えていない。 
 少しは茉奈の事も案じてあげておくれ。
 茉莉や菫の様に無茶苦茶な言いがかりをつけて暴れ出すことはまずない。
 だからこそ秋久や朔が気をつけているのだろう。
 自分達にも被害が間違いなくでるから。
 そんな気遣いを無駄にするのがリベリオンらしい。

「いや、茉莉には参った。まさか幼稚園で問題起こすとは思わなかった」

 天音はそう言って笑っている。

「菫達もまさかああなるとは思わなかった。別に悪さしてるわけじゃないから構わないけど」

 天音も翼も毎日の様に幼稚園に呼び出されて苦労してる様だ。

「子供達に非が無いのなら堂々としてればいい。親が守ってあげなさい」

 恵美さんがそう言っている。

「……そんなに凄いんですか?」

 桜子が早くも怯えている。

「まあ天音の娘だから」

 愛莉さんも困ってる様だ。

「まあ、桜子。運動会の時にぱーっとやれば忘れるよ」

 神奈さんはその行動が桜子を困らせている事を分かっていない。

「多分桜子が心配する必要はないんじゃないかな」

 片桐君が言った。

「どうしてですか?」

 愛莉さんが笑うと片桐君はにこりと笑った。

「話を聞いていると結と茉奈があの世代の中心人物みたいだ」
  
 小学生になれば冬夜ももう少し考え方が変わって来るだろ。
 幼稚園の段階で真面目に掃除をするような子供だ。
 多分その理由は早く家に帰って昼ご飯を食べたいから。
 なら、結は勉強には興味を示さないかもだけど少なくとも学校で説教を受けて下校時間が遅くなる様な真似はしないよ。
 そしてそんな無駄な時間を作るような真似を絶対に許さないだろう。
 茉奈と結が一緒にいる間はあの2人が絶対的存在になっているのなら問題を起こすようなことはしないよ。
 自分がしないだけじゃない。
 無駄なことに付き合わされるのを極端に嫌がるみたいだ。
 天音が小学生時代に病院送りに起こす真似をしていたけど、結を怒らせたら病院送り程度じゃ済まない。
 反抗する子はいないだろう。
 FGとSHが争っていた構図に似ている。
 FGが下手に動けばSHが口実作ってFGを痛めつけていたように、結達も動くだろう。
 その結果どうなるかは桜子が知ってるんじゃないのか?

「良くも悪くも結君の機嫌ひとつってわけですね」

 桜子は納得したらしい。
 桜子が言うと片桐君は頷いた。
 
「多分結が動く前に朔や秋久が動くよ」

 結が動き出せば校舎を破壊しかねない。
 なるほどね……

「あとはやっぱり秋久と陽葵と菫がかなりレベルの高い戦闘をするようだね」
「まさか陽葵達まで暴れ出すとは思いませんでした」

 石原君が苦笑している。
 すると愛莉さんが悩んでいる。

「愛莉どうしたんだ?」

 神奈さんが聞いていた。

「結莉や茉莉は間違いなく天音の教育だと思うんだけど……」
「結が心配なのか?」
「だって、そんなに能力があるのに食べ物の事しか考えてないんだよ?」
「……それは片桐家だから諦めろ」
「それもそうだけど、じゃあ茉奈はどう説明するの?」

 茉奈は優翔と一緒に水奈の家事の補佐にまわってるらしい。
 大人しくまじめな茉奈を見てると少しは結も気にかけてあげてもいいんじゃないかと思うほど。
 愛莉さんが言う通りだ。
 僕も今のままでいいと思うね。
 あの能力使ってスポーツなんて始めたら間違いなく死人出すよ。

「私にも分からないんだ愛莉」

 神奈さんもあの性格は誰に似たのかわからないらしい。
 強いて言えば恋か。
 だとすると一つ問題が出てくる。

「いいか!絶対に誠と瑛大が家に来たら知らせろ!」

 そうなってからでは遅い。
 そう水奈に言い聞かせていた。
 
「それは大丈夫だと思う」
「なってからでは遅いんだぞ!」
「もうすでに始まってるんだ」
「え?」

 水奈が説明する。
 茉奈は自分や優菜や愛菜に対する多田君と桐谷君を見ていて恐怖を覚えて優翔の影に隠れるんだそうだ。

「……おい、誠。どういうことか説明しろ」
「ま、待て。別に何もしてないぞ!」
「ちょっと抱っこしておへそを舐めたりキスしたりしてるだけだろ!」
「十分してるじゃねーか、この変態!」

 亜衣さんと神奈さんが二人を説教してる間に翼も悩んでいた。

「子供の気持ちを忘れないことが重要って聞いたけど、やっぱ愛莉に迷惑かけたなって反省してるよ」
「まだそれは早いんじゃない?」

 愛莉さんが言うと翼達は愛莉さん達を見た。
 愛莉さんはにやりと笑った。

「あの子達はまだ幼稚園児。茉莉は絶対に天音を悩ませる事になる」

 それを聞いていた天音は笑って誤魔化そうとした。
 これからも次々と次世代を担う者が増えていくだろう。
 僕達は育児に奮闘する子供を見守る段階に来ていた。
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