307 / 535
GONG
しおりを挟む
(1)
「旦那様、朝ですよ。起きないと今日から仕事でしょ?」
美希が僕を起こす。
確か父さんこういう時はこうすればいいって言ってたな。
瞼を開けると目の前にいる美希を抱きしめる。
「きゃっ」
驚く美希にキスをしてあげた。
「おはよう」
「本当に朝から甘えん坊なんだから」
そう言って軽く微笑む美希。
「ご飯出来てるから早く着替えて来てくださいな」
そう言って部屋を出ようとする美希の足が止まった。
「どうしたの?」
起き上がってみると部屋の入口に比呂が立っていた。
比呂は不思議そうにこっちを見ている。
そして一言言った。
「父さんってどんな味するの?」
美希は笑顔で言った。
「それは将来比呂が同じような事をする子に出会うまでのお楽しみ」
「ふーん。どうしてするの?」
「大好きだからだよ」
「じゃあ、僕も母さんの事好きだからしてよ」
「残念でした。母さんは父さんの物だからだめなの」
そう言って美希は笑っていた。
あまり関心がなさそうだ。
結は朝食はまだかと一人席に座って待っている。
朝食を食べて準備をしていた時だった。
「冬夜さん!ちょっと来てくださいな!」
母さんが父さんを呼んでいる。
何事かと思って僕もリビングに行くとテレビを見て唖然としていた。
森重知事宅火災。5人全員焼死。
「森重知事ってたしか……」
美希が何を言おうとしているかは分かった。
「森重知事は今度の知事選には出馬できない」
そんな脅迫を受けているのも知っていた。
父さんも少し考えていたけど「そろそろ会社に行かないと遅刻だよ」と言って僕と一緒に家を出る。
会社に行くと社長が仕事始めの挨拶をしている。
それが終ると仕事に入る。
と、いっても今日は顧客にあいさつ回りだ。
早速朝から行こうとすると社長に呼び止められた。
「ちょっと社長室に来なさい」
何となく用件は分かった。
社長室に入るとソファにかけるように言われる。
「朝のニュースの件だけど」
「うん」
多分森重知事の事だろう。
「父さんも迂闊だった。狙うとしたら外だと思った」
父さんは遠坂のお爺さんのツテを使って大体の事情を把握していた。
ニュースでは焼死と言われていたが実際は不可解な事になっていたらしい。
全員何かで縛られていた跡があったそうだ。
縛られでもしない限り5人固まって焼死なんてあり得ない。
父さんより少し若いくらいの娘とその旦那と子供も一緒になっていた。
まさか家を焼くなんて暴挙に出るとは想像してなかった。
父さんの判断ミスだと言っている。
でもこのご時世家ごと焼いて一家全員殺すなんてあり得ない。
「空の言う通りだ。そしてそんなあり得ない無茶をやる連中だとしたら、多分間違いないだろう」
父さん達の敵対組織アルテミス。
裏には誠心会がいる。
その中心は原川組。
僕達も見過ごす事の出来ない組織だ。
父さんがリベリオンでなくそっちだと断定したのはまだ理由がある。
リベリオンはこんなずさんなやり方しないはず。
なんらかの能力を使って誰にも気づかれずにやるだろう。
「社長はどうするつもりですか?」
「相手がそういう手口を使うなら僕も容赦するつもりはない。さっき恵美さん達と今夜集まろうと話をしてた」
だからSHは手を出すな。
SHも十分強固だけど渡辺班が動くなら下手な真似をして渡辺班の行動を妨げる恐れがある。
SHは強いけど弱点も多数抱えている。
下手に手出しをしたら酒井家と石原家ではカバーできない部分が必ず出てくる。
だから今回だけは手を出すな。
それが父さんの結論だった。
「分かりました」
「じゃあ、あいさつ回り行くんだろ?僕もそろそろ行かないといけないから。ごめんね」
「いえ、失礼します」
そう言って部屋を出ようとすると「一つ言う事を忘れていた」と社長が呼び止める。
「当たり前だけど目障りなSHを狙って僕達の行動を妨害しようと企ててるかもしれない」
例えばFGを使ってとか。
「今回の仕事は大仕事だ。そんな雑魚一々相手してられない」
つまりそんな雑魚は僕達で対処しろって事か。
「分かりました」
「気をつけてね。空は偶に詰めが甘い時がある」
「はい」
それは分かってる。
一度ミスをしたんだ。
僕の判断ミスが命取りになる。
絶対に過ちは許されない。
事務所をでるとあいさつ回りをする。
その中には当然善明の会社などがあった。
「空や、昼食の時間くらいないかい?」
善明が誘ってきた。
そのくらいの休憩時間は認められている。
大地と天も来るらしい。
僕達は近くのラーメン屋に集まった。
「かなりふざけた真似をしてくれますね」
大地が言っていた。
「大地!ダイナマイトもってこい!そのふざけた連中の家にぶっこんでやる!」
そう言って暴れる天音を宥めるのに必死だったそうだ。
その事を察した母さんや恵美さんも天音の家に駆け付けたらしい。
「天音ちゃん落ち着いて。あなたは母親なのを忘れてはいけない。何よりも大事なのは結莉ちゃん達でしょ?」
「恵美の言う通り。天音が無理をしたら子供達を危険に晒すだけだから落ち着きなさい」
そう言って天音を落ち着かせたらしい。
天音にも母親の意識はある。
さすがに結莉達を危険には晒せないだろう。
「で、僕達はどうするのか気になってね」
確か僕が今日あいさつ回りに来るだろうから相談しようと大地達と話してたらしい。
「父さんから言われたのはアルテミスには手を出すな」
邪魔になるから手を出すな。
「それで空は大人しくしてるのかい?」
善明が言うと僕は言った。
「この混乱に乗じてSHを潰そうと企む馬鹿がいるかもしれないけど、そんな雑魚の相手をしてる余裕はないってさ」
「つまりその雑魚を始末すればいいんですね?」
大地が聞くと頷いた。
「週末にSHで招集をかけよう。それくらいには情報もある程度入ってるだろうから」
相手の動きが読めるまでは絶対に動かない。
「分かりました。天音にもそう言っておきます」
「望さんも大変みたいでね。爆撃機を手配しようとしてる恵美さんを抑えるのに必死だったそうなんだ」
善明がそう言って苦笑している。
恵美さんならそうなるよな。
……あれ?
「善明のとこの母さんはどうなんだ?」
「……父さんは今日休日を取ったよ」
今も必死に宥めているはずだと善明が笑って言った。
その後午後のあいさつ回りを済ませて事務所に戻ると終業して帰ろうとすると社長が呼び止めた。
社長室に入るとファイルを渡される。
「今回の犯行にかかわった奴らの拠点が全部乗ってある」
渡辺班に脅威を感じた。
まさか一日でそこまで調べるのか?
「これを空に渡す意味……理解できる?」
「絶対に近づくな……って事?」
「さすが僕の息子だね」
社長はそう言って笑う。
僕は事務所を出ると家に帰る。
「何か変わったことはあった?」
美希に聞いてみた。
「天音の怒りが止まらないくらい」
美希はそう言って笑う。
「僕達もやれる事だけを確実にやろう」
そう言って美希にファイルを渡した。
「これ何?」
「さすが父さん達だよ」
もう相手の素性を殆ど暴いていた。
もっともテレビでは報じられていないけど。
遠坂のお爺さんから何らかの手掛かりを聞いたのだろう。
後は水奈の父さんが調べ上げる。
茜も引けを取らないけど経験値が違い過ぎる。
それに公生さんも奈留さんも加わってるし。
「これをどうするの?」
「父さんが言ってた。”邪魔はするな”」
つまりそこに記されてる場所をどこか選択するのか全部潰すつもりなのか分からないけどうっかり近づいたら巻き込む恐れがある。
その場所には近づくなと言う意味だろうと美希に説明した。
「天音には見せない方がいいかもね」
「大地に任せるしかないよ」
相手がどんな巨大な組織か知らないけど馬鹿な真似をした。
SHなら”次馬鹿な真似したら殺すよ”で済むけど渡辺班は甘くない。
警告なしで仕掛けていく。
小さな事なら僕達のお手並み拝見と高みの見物してるけど、動き出したら徹底的に動き出す。
僕は自分に任せられた事だけをどうやっていくか考えながら夕食を食べていた。
(2)
実に単純だった。
そんな事も予想できない馬鹿なのか、自信過剰なのかはしらないけど。
福山茂。
それが森重知事の対抗馬。
そう、議員選挙とは違う。
さらに森重知事が盤石な基盤を作り上げていた地元で供託金が無駄な事をする奴なんてそんなにいない。
だから知事選は一騎打ちだった。
つまり福山茂が所属する団体が今回の主導者。
それを誠や恵美さんに調べさせたら前のアルテミスの網に引っかかった。
後は調べるまでもない。
地元中のアルテミスの息のかかった連中なんてすでに把握済み。
半数以上は太陽の騎士団の残党なのだから。
「そこまで分かってるなら悩むことはないだろ!根こそぎ全員ぶっ殺してやる!」
「美嘉の言う通りだしらみつぶしにぶっこみかけるぞ!」
美嘉さんとカンナはそう憤ってる。
「美嘉はいい加減歳を考えろ!そんな無茶できるわけないだろ」
「神奈もだ。少し頭を冷やせ。そんな事してしょっ引かれるのは俺達も同じだぞ」
渡辺君と誠が2人を宥めている。
「じゃあ、正志はこのまま黙って指をくわえてろっていうのか!ふざけんな!」
「美嘉の言う通りよ。やっぱり全拠点片っ端から爆撃してやろうじゃない」
「やられたらやりかえす。向こうが家を燃やしたのなら私たちも焼死体を作ってやろうじゃない」
恵美さんと晶さんが言うのを石原君と酒井君が宥めている。
多分こうなったら止められる方法なんてないような気がする。
しかし恵美さん達の言うように片っ端から焦土にしていたら地元自体がもたない。
何かいい手はあるか?
実はその事を今日ずっと考えていた。
それを察した公生が言う。
「皆落ち着いて。まずは指揮官様の意向を聞いてみようよ」
「そうだな。片桐は何か良い手段を考えているみたいだ」
「片桐君のお手並み拝見といこうじゃないか」
丹下さんと椎名さんが言うと皆が僕を見る。
「トーヤてめぇ今さらブルった何て言ったらてめぇからぶっ殺すぞ」
「神奈の言う通りだ。このまましっぽ巻いて逃げる渡辺班じゃねーぞ!」
2人もかなり頭に来てる様だ。
まずは落ち着かせよう。
「森重さんをやられた。家ごと燃やされた。だから全部焼き尽くしてやる。それもありかもしれない」
だけどそれだとまた反撃を食らうだけ。
子供や孫がいる事を忘れてはいけない。
「じゃあ、やっぱり引き下がるのか?」
渡辺君が言うと首を振った。
「それじゃカンナ達の気が収まらないだろ」
「じゃあ、ぶっこみだな」
「カンナ。少し落ち着け。子供でも分かる問題だぞ」
多分SHのリーダーの空はあのリストを見て僕の意図を分かっているはずだ。
「なんだよそれ?」
カンナが興味を示した。
「どうして彼等は森重知事を狙ったの?」
「そりゃその福山って爺を知事にしたいからじゃないのか?」
「正解」
「それが何だって言うんだよ!?」
美嘉さんには難しい問題なのだろうか。
「冬夜さん、悪い癖です。回りくどい言い方は止めて下さいな」
「確かに冬夜の悪い癖だな、結局冬夜の目的は何だ?」
渡辺君が聞いてくると僕は答えた。
「福山って爺さんの妨害」
「それってぶっこみかけりゃいいじゃねーか!」
「カンナさっきも言ったけど相手の規模がデカいんだ。警察にすら影響するほどだ」
この歳で檻の中に入りたくないだろ?
「そんな事なら私達がもみ消してやるから気にしないでいい」
「恵美の言う通り、たかが爺の命くらい明日にでも刈り取ってやる」
恵美さんと晶さんが言う。
「それだとつまらないでしょ?」
そんな事をしても他の候補を立ててくるだけ。
どれだけアルテミスの立候補を狩り取っても逆にこっちの立場が悪くなる。
後はアルテミスの立候補者が当選するのを指をくわえて見ているだけ。
その方が悔しくない?
そこまで言うと公生が気づいたようだ。
愛莉は多分最初から僕の魂胆を見抜いていた。
「なるほど、それはさすがに傑作だね」
公生がそう言って笑った。
「どういう事だ?」
カンナ達にはまだ分からないらしい。
とりあえず晴斗に聞いてみた。
「晴斗、お前仕事の方はどうだ?」
「いや、毎日椅子に座ってるだけで暇してるっす」
難しい事は春奈さんに任せてるそうだ。
もうじき子供が仕事を覚えたら社長の椅子を譲ろうと思ってると晴斗は話した。
「じゃあ、晴斗で決まりだな」
「何がっすか?」
ここまで言うと大体の仲間が気づいたみたいだ。
「それは面白い。処分するのはその後でも問題ないしな」
「……お前マジで言ってるのか?」
渡辺君と誠が言う。
「恵美さんと晶さん、いや4大企業の協力があればなんとかなると思う」
若者の浮動票はSHに任せよう。
ここまで言ったらもう気付くだろう。
「相変わらず派手な事が好きみたいね。片桐君」
恵美さん達も理解したみたいだ。
それでも頭を悩ませるカンナと美嘉さん。
カンナには愛莉が教えてる。
さすがに驚いたらしい。
「そういう事か……そりゃ笑えるな」
「アルテミスとやらがどこまで凄いのか知らないけど、地元に手出しは出来ないと分からせるいい機会だろう」
「で、俺は一体何をやればいいっすか?」
晴斗はまだ分からないらしい。
にやりと笑って僕は晴斗に言った。
年齢は問題ない。
供託金も白鳥グループなら楽勝だろ。
「晴斗、同じ椅子に座ってるだけならもっと立派な椅子に座ってみないか?」
「へ?」
「僕の息子は空の王と言われてるらしいけど、とりあえず晴斗は地元の支配者にでもなってみろ」
「まじっすか!」
準備期間は十分ある。
向こうの目的がそうならそれを邪魔して笑ってやろう。
あまり関わりたくなかったけど、育児も手がかからなくなったし少し遊んでやるとするか。
「旦那様、朝ですよ。起きないと今日から仕事でしょ?」
美希が僕を起こす。
確か父さんこういう時はこうすればいいって言ってたな。
瞼を開けると目の前にいる美希を抱きしめる。
「きゃっ」
驚く美希にキスをしてあげた。
「おはよう」
「本当に朝から甘えん坊なんだから」
そう言って軽く微笑む美希。
「ご飯出来てるから早く着替えて来てくださいな」
そう言って部屋を出ようとする美希の足が止まった。
「どうしたの?」
起き上がってみると部屋の入口に比呂が立っていた。
比呂は不思議そうにこっちを見ている。
そして一言言った。
「父さんってどんな味するの?」
美希は笑顔で言った。
「それは将来比呂が同じような事をする子に出会うまでのお楽しみ」
「ふーん。どうしてするの?」
「大好きだからだよ」
「じゃあ、僕も母さんの事好きだからしてよ」
「残念でした。母さんは父さんの物だからだめなの」
そう言って美希は笑っていた。
あまり関心がなさそうだ。
結は朝食はまだかと一人席に座って待っている。
朝食を食べて準備をしていた時だった。
「冬夜さん!ちょっと来てくださいな!」
母さんが父さんを呼んでいる。
何事かと思って僕もリビングに行くとテレビを見て唖然としていた。
森重知事宅火災。5人全員焼死。
「森重知事ってたしか……」
美希が何を言おうとしているかは分かった。
「森重知事は今度の知事選には出馬できない」
そんな脅迫を受けているのも知っていた。
父さんも少し考えていたけど「そろそろ会社に行かないと遅刻だよ」と言って僕と一緒に家を出る。
会社に行くと社長が仕事始めの挨拶をしている。
それが終ると仕事に入る。
と、いっても今日は顧客にあいさつ回りだ。
早速朝から行こうとすると社長に呼び止められた。
「ちょっと社長室に来なさい」
何となく用件は分かった。
社長室に入るとソファにかけるように言われる。
「朝のニュースの件だけど」
「うん」
多分森重知事の事だろう。
「父さんも迂闊だった。狙うとしたら外だと思った」
父さんは遠坂のお爺さんのツテを使って大体の事情を把握していた。
ニュースでは焼死と言われていたが実際は不可解な事になっていたらしい。
全員何かで縛られていた跡があったそうだ。
縛られでもしない限り5人固まって焼死なんてあり得ない。
父さんより少し若いくらいの娘とその旦那と子供も一緒になっていた。
まさか家を焼くなんて暴挙に出るとは想像してなかった。
父さんの判断ミスだと言っている。
でもこのご時世家ごと焼いて一家全員殺すなんてあり得ない。
「空の言う通りだ。そしてそんなあり得ない無茶をやる連中だとしたら、多分間違いないだろう」
父さん達の敵対組織アルテミス。
裏には誠心会がいる。
その中心は原川組。
僕達も見過ごす事の出来ない組織だ。
父さんがリベリオンでなくそっちだと断定したのはまだ理由がある。
リベリオンはこんなずさんなやり方しないはず。
なんらかの能力を使って誰にも気づかれずにやるだろう。
「社長はどうするつもりですか?」
「相手がそういう手口を使うなら僕も容赦するつもりはない。さっき恵美さん達と今夜集まろうと話をしてた」
だからSHは手を出すな。
SHも十分強固だけど渡辺班が動くなら下手な真似をして渡辺班の行動を妨げる恐れがある。
SHは強いけど弱点も多数抱えている。
下手に手出しをしたら酒井家と石原家ではカバーできない部分が必ず出てくる。
だから今回だけは手を出すな。
それが父さんの結論だった。
「分かりました」
「じゃあ、あいさつ回り行くんだろ?僕もそろそろ行かないといけないから。ごめんね」
「いえ、失礼します」
そう言って部屋を出ようとすると「一つ言う事を忘れていた」と社長が呼び止める。
「当たり前だけど目障りなSHを狙って僕達の行動を妨害しようと企ててるかもしれない」
例えばFGを使ってとか。
「今回の仕事は大仕事だ。そんな雑魚一々相手してられない」
つまりそんな雑魚は僕達で対処しろって事か。
「分かりました」
「気をつけてね。空は偶に詰めが甘い時がある」
「はい」
それは分かってる。
一度ミスをしたんだ。
僕の判断ミスが命取りになる。
絶対に過ちは許されない。
事務所をでるとあいさつ回りをする。
その中には当然善明の会社などがあった。
「空や、昼食の時間くらいないかい?」
善明が誘ってきた。
そのくらいの休憩時間は認められている。
大地と天も来るらしい。
僕達は近くのラーメン屋に集まった。
「かなりふざけた真似をしてくれますね」
大地が言っていた。
「大地!ダイナマイトもってこい!そのふざけた連中の家にぶっこんでやる!」
そう言って暴れる天音を宥めるのに必死だったそうだ。
その事を察した母さんや恵美さんも天音の家に駆け付けたらしい。
「天音ちゃん落ち着いて。あなたは母親なのを忘れてはいけない。何よりも大事なのは結莉ちゃん達でしょ?」
「恵美の言う通り。天音が無理をしたら子供達を危険に晒すだけだから落ち着きなさい」
そう言って天音を落ち着かせたらしい。
天音にも母親の意識はある。
さすがに結莉達を危険には晒せないだろう。
「で、僕達はどうするのか気になってね」
確か僕が今日あいさつ回りに来るだろうから相談しようと大地達と話してたらしい。
「父さんから言われたのはアルテミスには手を出すな」
邪魔になるから手を出すな。
「それで空は大人しくしてるのかい?」
善明が言うと僕は言った。
「この混乱に乗じてSHを潰そうと企む馬鹿がいるかもしれないけど、そんな雑魚の相手をしてる余裕はないってさ」
「つまりその雑魚を始末すればいいんですね?」
大地が聞くと頷いた。
「週末にSHで招集をかけよう。それくらいには情報もある程度入ってるだろうから」
相手の動きが読めるまでは絶対に動かない。
「分かりました。天音にもそう言っておきます」
「望さんも大変みたいでね。爆撃機を手配しようとしてる恵美さんを抑えるのに必死だったそうなんだ」
善明がそう言って苦笑している。
恵美さんならそうなるよな。
……あれ?
「善明のとこの母さんはどうなんだ?」
「……父さんは今日休日を取ったよ」
今も必死に宥めているはずだと善明が笑って言った。
その後午後のあいさつ回りを済ませて事務所に戻ると終業して帰ろうとすると社長が呼び止めた。
社長室に入るとファイルを渡される。
「今回の犯行にかかわった奴らの拠点が全部乗ってある」
渡辺班に脅威を感じた。
まさか一日でそこまで調べるのか?
「これを空に渡す意味……理解できる?」
「絶対に近づくな……って事?」
「さすが僕の息子だね」
社長はそう言って笑う。
僕は事務所を出ると家に帰る。
「何か変わったことはあった?」
美希に聞いてみた。
「天音の怒りが止まらないくらい」
美希はそう言って笑う。
「僕達もやれる事だけを確実にやろう」
そう言って美希にファイルを渡した。
「これ何?」
「さすが父さん達だよ」
もう相手の素性を殆ど暴いていた。
もっともテレビでは報じられていないけど。
遠坂のお爺さんから何らかの手掛かりを聞いたのだろう。
後は水奈の父さんが調べ上げる。
茜も引けを取らないけど経験値が違い過ぎる。
それに公生さんも奈留さんも加わってるし。
「これをどうするの?」
「父さんが言ってた。”邪魔はするな”」
つまりそこに記されてる場所をどこか選択するのか全部潰すつもりなのか分からないけどうっかり近づいたら巻き込む恐れがある。
その場所には近づくなと言う意味だろうと美希に説明した。
「天音には見せない方がいいかもね」
「大地に任せるしかないよ」
相手がどんな巨大な組織か知らないけど馬鹿な真似をした。
SHなら”次馬鹿な真似したら殺すよ”で済むけど渡辺班は甘くない。
警告なしで仕掛けていく。
小さな事なら僕達のお手並み拝見と高みの見物してるけど、動き出したら徹底的に動き出す。
僕は自分に任せられた事だけをどうやっていくか考えながら夕食を食べていた。
(2)
実に単純だった。
そんな事も予想できない馬鹿なのか、自信過剰なのかはしらないけど。
福山茂。
それが森重知事の対抗馬。
そう、議員選挙とは違う。
さらに森重知事が盤石な基盤を作り上げていた地元で供託金が無駄な事をする奴なんてそんなにいない。
だから知事選は一騎打ちだった。
つまり福山茂が所属する団体が今回の主導者。
それを誠や恵美さんに調べさせたら前のアルテミスの網に引っかかった。
後は調べるまでもない。
地元中のアルテミスの息のかかった連中なんてすでに把握済み。
半数以上は太陽の騎士団の残党なのだから。
「そこまで分かってるなら悩むことはないだろ!根こそぎ全員ぶっ殺してやる!」
「美嘉の言う通りだしらみつぶしにぶっこみかけるぞ!」
美嘉さんとカンナはそう憤ってる。
「美嘉はいい加減歳を考えろ!そんな無茶できるわけないだろ」
「神奈もだ。少し頭を冷やせ。そんな事してしょっ引かれるのは俺達も同じだぞ」
渡辺君と誠が2人を宥めている。
「じゃあ、正志はこのまま黙って指をくわえてろっていうのか!ふざけんな!」
「美嘉の言う通りよ。やっぱり全拠点片っ端から爆撃してやろうじゃない」
「やられたらやりかえす。向こうが家を燃やしたのなら私たちも焼死体を作ってやろうじゃない」
恵美さんと晶さんが言うのを石原君と酒井君が宥めている。
多分こうなったら止められる方法なんてないような気がする。
しかし恵美さん達の言うように片っ端から焦土にしていたら地元自体がもたない。
何かいい手はあるか?
実はその事を今日ずっと考えていた。
それを察した公生が言う。
「皆落ち着いて。まずは指揮官様の意向を聞いてみようよ」
「そうだな。片桐は何か良い手段を考えているみたいだ」
「片桐君のお手並み拝見といこうじゃないか」
丹下さんと椎名さんが言うと皆が僕を見る。
「トーヤてめぇ今さらブルった何て言ったらてめぇからぶっ殺すぞ」
「神奈の言う通りだ。このまましっぽ巻いて逃げる渡辺班じゃねーぞ!」
2人もかなり頭に来てる様だ。
まずは落ち着かせよう。
「森重さんをやられた。家ごと燃やされた。だから全部焼き尽くしてやる。それもありかもしれない」
だけどそれだとまた反撃を食らうだけ。
子供や孫がいる事を忘れてはいけない。
「じゃあ、やっぱり引き下がるのか?」
渡辺君が言うと首を振った。
「それじゃカンナ達の気が収まらないだろ」
「じゃあ、ぶっこみだな」
「カンナ。少し落ち着け。子供でも分かる問題だぞ」
多分SHのリーダーの空はあのリストを見て僕の意図を分かっているはずだ。
「なんだよそれ?」
カンナが興味を示した。
「どうして彼等は森重知事を狙ったの?」
「そりゃその福山って爺を知事にしたいからじゃないのか?」
「正解」
「それが何だって言うんだよ!?」
美嘉さんには難しい問題なのだろうか。
「冬夜さん、悪い癖です。回りくどい言い方は止めて下さいな」
「確かに冬夜の悪い癖だな、結局冬夜の目的は何だ?」
渡辺君が聞いてくると僕は答えた。
「福山って爺さんの妨害」
「それってぶっこみかけりゃいいじゃねーか!」
「カンナさっきも言ったけど相手の規模がデカいんだ。警察にすら影響するほどだ」
この歳で檻の中に入りたくないだろ?
「そんな事なら私達がもみ消してやるから気にしないでいい」
「恵美の言う通り、たかが爺の命くらい明日にでも刈り取ってやる」
恵美さんと晶さんが言う。
「それだとつまらないでしょ?」
そんな事をしても他の候補を立ててくるだけ。
どれだけアルテミスの立候補を狩り取っても逆にこっちの立場が悪くなる。
後はアルテミスの立候補者が当選するのを指をくわえて見ているだけ。
その方が悔しくない?
そこまで言うと公生が気づいたようだ。
愛莉は多分最初から僕の魂胆を見抜いていた。
「なるほど、それはさすがに傑作だね」
公生がそう言って笑った。
「どういう事だ?」
カンナ達にはまだ分からないらしい。
とりあえず晴斗に聞いてみた。
「晴斗、お前仕事の方はどうだ?」
「いや、毎日椅子に座ってるだけで暇してるっす」
難しい事は春奈さんに任せてるそうだ。
もうじき子供が仕事を覚えたら社長の椅子を譲ろうと思ってると晴斗は話した。
「じゃあ、晴斗で決まりだな」
「何がっすか?」
ここまで言うと大体の仲間が気づいたみたいだ。
「それは面白い。処分するのはその後でも問題ないしな」
「……お前マジで言ってるのか?」
渡辺君と誠が言う。
「恵美さんと晶さん、いや4大企業の協力があればなんとかなると思う」
若者の浮動票はSHに任せよう。
ここまで言ったらもう気付くだろう。
「相変わらず派手な事が好きみたいね。片桐君」
恵美さん達も理解したみたいだ。
それでも頭を悩ませるカンナと美嘉さん。
カンナには愛莉が教えてる。
さすがに驚いたらしい。
「そういう事か……そりゃ笑えるな」
「アルテミスとやらがどこまで凄いのか知らないけど、地元に手出しは出来ないと分からせるいい機会だろう」
「で、俺は一体何をやればいいっすか?」
晴斗はまだ分からないらしい。
にやりと笑って僕は晴斗に言った。
年齢は問題ない。
供託金も白鳥グループなら楽勝だろ。
「晴斗、同じ椅子に座ってるだけならもっと立派な椅子に座ってみないか?」
「へ?」
「僕の息子は空の王と言われてるらしいけど、とりあえず晴斗は地元の支配者にでもなってみろ」
「まじっすか!」
準備期間は十分ある。
向こうの目的がそうならそれを邪魔して笑ってやろう。
あまり関わりたくなかったけど、育児も手がかからなくなったし少し遊んでやるとするか。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
【R18】私はお父さんの性処理係
神通百力
恋愛
麗華は寝ていたが、誰かが乳房を揉んでいることに気付き、ゆっくりと目を開けた。父親が鼻息を荒くし、麗華の乳房を揉んでいた。父親は麗華が起きたことに気付くと、ズボンとパンティーを脱がし、オマンコを広げるように命令した。稲凪七衣名義でノクターンノベルズにも投稿しています。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
オークションで競り落とされた巨乳エルフは少年の玩具となる。【完結】
ちゃむにい
恋愛
リリアナは奴隷商人に高く売られて、闇オークションで競りにかけられることになった。まるで踊り子のような露出の高い下着を身に着けたリリアナは手錠をされ、首輪をした。
※ムーンライトノベルにも掲載しています。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)
幻田恋人
恋愛
夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。
でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。
親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。
童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。
許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…
僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる