姉妹チート

和希

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life

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(1)

「ちょっと輝夜どうしたの!?」

 急に気分が悪くなった。
 食欲もあまりない。
 すると社長が来た。
 明日奈が社長に様子を伝える。

「中島さんは車で通勤してたわね?」
「はい」
「明日奈さん、中島さんの車で送ってあげて。拓海にその後を追わせるから」

 今の私に車は運転させられないという。

「それとすぐに病院に行きなさい。主人にも連絡して」

 社長が言うと私達はすぐにそうする。
 車の中で明日奈が聞いていた。

「社長の話聞いてたけど、ひょっとして……」
「私もそれ考えてた」

 だから運転はさせられないし、病院に急げなんだろう。
 私だっていい歳した女性だ。
 勝利とだってそういう事はしてたし、SHでもそういう女性が多いから何となく察した。

「これからどうするの?」

 父親だっているし当然勝利は喜んでくれるだろうから産む。
 ギリギリまでは働けるはずだから働く。
 だけど問題はその後だ。
 産んだ後復職出来るかどうか。
 SHの中では専業主婦に切り替える人が多かった。
 でも私は……。
 勝利が許してくれるだろうか?
 運転を明日奈に任せてよかった。
 頭が混乱してどうしたらいいか分からなくなる。
 明日奈に家に送ってもらうとすぐにタクシーで病院に向かう。
 予想通りの結果だった。
 勝利には知らせておいた。
 いつもより早く帰って来た。
 私を見るなり「大丈夫か!?医者はなんて?」と聞いていた。

「9月頃が予定日って言ってた」
「よかったじゃないか!?……なのになんでそんな顔してるんだ?」

 勝利が私の顔を見て言った。
 勝利が言うと私は涙が出て来た。
 勝利に縋って泣いていた。

「な、なんか問題があるのか?」

 出産したら私の命が危ないとか言うんじゃないだろうな?
 そんな事を心配していた。

「そうじゃないの……」
「俺の稼ぎじゃ不安か?」

 そんな事無い。
 勝利だって市役所勤務の職員だ。
 それなりの年収がある。
 将来の為にと貯蓄していた分もある。
 出産費用とかは問題ない。
 問題は私自身だ。
 産みたくない?
 そんな事あるわけない。
 待ち望んでいた勝利との子供だ。
 この日を夢見て頑張って来た。
 だけどそれが事実になると不安になる。
 産むことに対する不安じゃない。 
 そのことを勝利に話すこと自体に不安を覚える。
 ただの私の我儘じゃないのか?
 躊躇っていると勝利が私の事をやさしく包んでくれる。

「俺だってちゃんとした輝夜の旦那のつもりだ。どんな相談でも乗ってあげたい。俺じゃ信用できないのか?」

 そんな風に言われると言わなきゃって思う。

「予定日より前には産休がもらえるから出産には問題ない。問題はその後」
「俺が育児を手伝わないとか?」
「それは無いと信じてる」
「じゃあ、どうしたんだ?」
「……私仕事に戻りたい」

 今の仕事が大好きだ。
 だから続けたい。
 赤ちゃんが1歳になるまでは育休も申請できる。
 だけどその先は保育園に預けるしかない。
 そんな放任を勝利が認めてくれるかどうか。
 母親なんだからやはりちゃんと面倒見ないとダメなんだろうか?
 そんな不安がこみ上げて来て辛い。
 そう勝利に打ち明けていた。
 すると勝利は言った。

「それ悩む必要あるのか?」

 え?

「うちの母さんだって看護師続けてるぞ?」
「そうだね……」
「嫁は家を守ってろなんて古い考え持ってないよ」

 輝夜が今の仕事を続けたいならそうしたらいい。
 夢だったって中学の時言ってたじゃないか。
 子供くらいで諦める必要ないだろ。
 社会だって働く女性を認めているのだから自分で可能性を否定する必要は無い。
 
「俺は大体定時で上がれるから子供の送り迎えくらい任せてくれ」

 そんな言葉を聞くとまた涙がこぼれてくる。
 理解のある夫で助かった。
 
「それはそうと親には連絡したのか?」
「あ、まだだった」
「多分今の時間ならいるはずだから」

 そう言って勝利の車で実家を訪ねて両親に報告する。
 
「保育園は考えなくていいよ」

 私の母さんが言った。
 母さんが暇してるし孫の面倒くらい見るから心配しないで。
 
「花菜、悪いけどしばらく輝夜の様子見てあげれないかな?」

 勝利の母さんが言っていた。
 勝利の母さんは面倒を見たいけどまだ働いていて時間が取れない。

「分かった。娘もその方が気が楽だろうし」
「俺もついにお爺ちゃんか……」

 父さんがそう言って笑っていた。
 私の実家で夕食を食べて家に帰ると風呂に入る。
 勝利はお茶を飲んでいた。

「あれ?お酒じゃなくていいの?」
「俺だってSHのチャットをちゃんと見てるよ」

 大体の妊婦がアルコールの妊婦を嫌う事はSHのチャットを見れば明らかだった。
 だから禁酒を決めたらしい。

「ごめんね」
「輝夜の方が大変な思いをするんだ。このくらいなんてことないさ」
「でも勝利だって仕事大変なのに楽しみがないと辛いんじゃないの?」
「楽しみならあるさ。……9月なんだろ?」

 生まれてくる子供の為にと思えばどんなことだって乗り越えられる。
 本当に私は良い夫に恵まれた。

「ありがとう、勝利の相手してあげたいんだけど……」
「もう2人目の予定もするのか?」

 私がしたいだけじゃないのか?
 意地悪な事を言う人だ。

「妊娠中に浮気なんてしたら許さないから」
「そんなことするわけないだろ?」

 俺にとって自分よりも大事な家族なんだから。

「男の子なのか?女の子?」
「まだ分かるわけないよ」
「明日から通勤どうする?俺送ろうか?」

 今の私が1人で運転はリスクが高いだろ?

「いいけど、勝利大丈夫?」

 勝利の通勤時間も考えたら結構早い時間に出ないと間に合わない。

「言ったろ?輝夜一人に苦労させない。協力出来る事ならなんだってやるよ」
「ありがとう」
「じゃ、早く起きないとダメだろ?早く寝よう」
「……うん」
 
 本当は抱いて欲しかったけど無理は言えない。
 すぐに眠りについた。
 朝起きると勝利がベッドにいない。
 私が着替えてキッチンに行くと朝食と昼食の弁当も作っていた。
 いつもならパパッと作ってしまうのにスマホを見ながら必死になってる。
 もちろんグルチャしながら作るようなネット中毒者ではない。
 何を見ているんだろう?

「妊婦って色々食べれない物とかあるって聞いたから」

 妊婦向けのレシピを見ていたんだそうだ。
 その間に私はコーヒーをいれる。
 コーヒーなら少々飲んでもいいらしい。
 会社に行くと社長に相談する。

「明日奈が生まれる時も同じだったのよ」

 そう言って社長は笑っていた。
 極力無理はさせられないと言ってくれた。
 重い資料とかも男性社員に持ってもらった。
 産休を取れる時期までは働くけど他の人の負担にならないように自分でもなるべく気をつけようと思った。
 それでも「もっと周りの人に頼っていい。お腹の子に何かあったら旦那さんに顔向けできない」と言ってくれる。
 とても優しい会社だった。

(2)

「今日は皆に重大な話があります」

 琴葉ちゃんがそう言っていた。
 どうしたんだろう?

「先生は、今年度を持って退職します」

 さすがに驚いた。
 突然すぎるだろ。

「なんでですか?」

 冬眞が聞いていた。
 まさか生徒と関係を持ったとか?
 いや、琴葉ちゃんは結婚してるはず。
 だから今は川島琴葉じゃなくて一ノ瀬琴葉になった。
 教師が不倫なんて無謀な事しないだろう。
 突然すぎる退職宣言。
 女子なら何となく察したんだろう。

「あの禿に何か嫌味言われたんなら俺があの禿ぶん殴ってやる」

 冬眞が馬鹿な事を言いだした。

「冬眞の言う通りだ、あの禿のヅラを頭皮ごとむしってやろうぜ!」

 崇博が言うと皆が盛り上がる。
 本元のSHは同い年の子なんか相手にしない。
 してもつまらないから。
 その代わり目上の者には平気で逆らおうとする。
 それは天音の時から変わらない。
 だけど、歩美も千帆達も杏采も察したらしい。
 自分の彼氏を宥めようとしていた。

「皆、落ち着いて。これから理由を話します」

 琴葉ちゃんが言うと皆静かになった。
 先に用件から伝えられた。

「先生のお腹の中には赤ちゃんがいます」

 さすがに冬眞も驚いたみたいだ。
 
「誰の子だよ!?」

 そんな事を言う馬鹿はさすがにいなかった。
 理由が理由なだけに男子も口出しできずにいた。

「皆が卒業するまではと思ったけど、どのみち先生は赤ちゃんを産むため、育てる為に休みを取らないといけません」

 そんな時期を過ごしていたら私達の中学校生活の殆どが休みになる。
 それでは皆の成長を見て来たと言えない。
 なら、いっそ教師としての道を諦め、母親としての人生を歩もう。
 琴葉ちゃんはそう考えたらしい。
 母親として子供一人を立派に育てられないで他人の子供を預かるなんて思い上がりだ。
 私達を最後まで見守ることが出来ないのは残念だけど、仕方ない。
 私達にも中学校卒業と同時に様々な時点で人生の分岐路に立つことになるだろう。
 その時自分に後悔しないようにしっかり選びなさい。
 私達ならそれが出来る。
 私達には力がある。
 あとは皆の力をどういう風に活かすか。
 それを考えていけばいい。
 夢に生きてもいい。
 先生のように子供に一生を捧げるのもいい。
 何がしたいかなんて他人に分かるわけがない。
 最終的には自分で選ぶ事になる。
 例え思い通りにならなくてもいい。
 大事なのは最期に自分を認められるか?
 私も残り一月を切ったけどこの1年だけは最後まで私達を見届けるから。
 女子の中には泣く子もいた。
 杏采も泣いていた。
 そうしてその日の終礼が終ると皆で家に帰る。

「でも琴葉ちゃんそんなに長い間教師してないよな?」

 まだ、新米教師なのにもう諦めるのか?
 琴葉ちゃんだって教師になるのが夢じゃなかったのか?
 冬眞が言う。

「赤ちゃんの出来る時期なんて誰も予想できないよ」

 私が説明した。
 天音もそれで悩んでいたのを聞いていたから。

「じゃあ、作らなきゃいいじゃん」

 そんな馬鹿を言う仲間はいなかった。
 大切な人の子供なら誰もが願うだろう。
 例え気をつけていても事故はある。
 ゴムつけてたら大丈夫なんて馬鹿な事は考えない。
 それだけのリスクを知っている上で許せる人に抱かれるんだ。

「でも、復職だって出来るんじゃないのか?」
「冬眞。少しは自分で考えろよ。子供を作るのは一回だけど誰が決めたんだ?」
 
 同じ事が何度もあるかもしれない。
 琴葉ちゃんだってまだ若いんだ。
 そういう事を考えた上で琴葉ちゃんは決めたんだろ。
 崇博が冬眞に説明した。

「なるほどな」
「冬眞、俺達も気をつけないと」

 崇博が言う。
 琴葉ちゃんがそんな大変な事になってるのに、問題起こして負担かけられない。

「残りわずかなんだ。絶対に暴れるなよ」

 俺達の中ですぐキレるのはお前なんだ。
 
「……わかったよ」

 しかし、冬眞には分からなかったのだろう。
 家に帰って夕食の時間に愛莉に聞いていた。

「あ、琴葉妊娠したんだ?」

 茜が聞いていた。
 茜は琴葉ちゃん知ってるんだ。

「なあ、愛莉。出産ってそんなに大変なの?」

 冬眞が愛莉に聞いていた。

「その質問、莉子には絶対してはいけませんよ」

 愛莉はそう言って笑っていた。
 そして説明した。
 場合によっては文字通りに命がけの出産になる。
 自分の命と子供の命の選択を迫られた時、躊躇わず子供の命を優先するのが母親だ。
 その覚悟は妊娠した時から自然と生まれてくる。
 どんな生き物だって同じだ。
 父と母が必死に育てていく命。
 母親の子供に対する愛情は父親には到底かなわない。
 当たり前だ。
 自分が辛い思いをして産み出す命なのだから。
 それは天音を見ていたら分かる。
 あの天音だって子供の事に必死になるのだから。
 そうやって見守られているのだから自分の命を大事にしなさい。
 それは誰だって平等であると同時に誰もが大切な命なのだから。
 生きるという事はそういう事。
 母親と言う生き物は命がけで子供を守る。
 たまにトイレに捨てたりする人もいるけど、それはきっと愛情に恵まれていなかった人。

「冬眞も分かるよ。莉子がそうなるだろうから」

 パパが言った。
 風呂に入って部屋に戻る。
 勉強なんてする意味あるの?ってくらいどうでもよくなってるらしい。
 テレビを見て冬眞と寝る。

「なんか怖くなったな」
「どうして?」
「莉子にそんなリスク背負わせられないよ」

 私がいなくなるなんて嫌だ。
 不安になったのだろう。
 そんな冬眞を抱いてやる。

「忘れないで欲しい事がある」
「なに?」
「私の気持ちを忘れないで」

 私はそれでも冬眞が良いと思ったから冬眞に体を許してる。
 冬眞だってまだ自分が未熟だからとわかってるから危険な事はしないんでしょ?
 私が体を許すのは生涯でただ一人、冬眞だけだよ?

「……わかった」
「残りの間何もないといいね」
「そうだな」

 そんな私達の願いも虚しい物になるのが現実と言う物語だった。
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