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FACES PLACES
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(1)
「お疲れ様」
「ありがとう……。やっぱり生まれたてだとよくわかんねーな」
産後の天音はそう言って笑っていた。
男の子だった。
子供の名前は決めてあった。
海翔
男の子だったらそうしようと決めてあった名前だ。
「大地の様に優しくて強い男になって欲しいな」
天音はそんな風に僕を見ていたのか。
「天音の様に元気な子になって欲しいよ」
僕はそう返した。
「私のような男の子になったら私でも手におえるか分かんねーぞ」
天音はそう言って笑う。
現に天音は結莉と茉莉に手を焼いていた。
コンコン。
誰かがノックしている。
多分母さん達だろう。
天音を見る。
「いいよ」
天音がそう言うので「どうぞ」と声をかけるとドアが開いた。
僕の両親と天音の両親が入ってきた。
「どう?」
お義父さんが聞いたので「元気な男の子です」と答えた。
「あら?そうなの。天音ちゃんと大地の子なら最強の男の子になるわね」
母さんがそう言って喜んでいた。
「恵美、ちょっと心配がある」
お義母さんが言う。
「どうしたの愛莉ちゃん」
「空達のやる気の無さと冬吾のような積極的な子。どっちを継いでいるのかが心配で……」
あと共通する”怒り出すと何をしでかすか分からない”性格。
「そっか、愛莉ちゃんからはそう見えるわけね」
「恵美は違うの?」
すると母さんは言った。
「どっちにしろこの子達の彼女は絶対に守られる事は保証されるでしょ?」
きっとそうだろうね。
きっと化け物みたいなスペックを持って生まれてくるんだろうな。
それに石原家の後ろ盾があれば九州最強なんてどうでもよくなるくらいの存在になるんだろうな。
「名前は決めたのかい?」
父さんが聞いた。
「海翔にした」
「天と大地と海か……なるほどね」
義父さんが理解したみたいだ。
「そうね……男の子なら天音にこつを教えてあげないといけないわね」
「こつ?」
天音にも分からなかったらしい。
義母さんが言う。
「もし海翔が暴走しだしたら後頭部を小突いてあげなさい。そうすれば大体止まるから」
「あ、そういう事か」
空も冬吾も同じだったからきっとそうだと言う。
その事をもし海翔に彼女が出来たら教えてあげて。
海翔がもし暴走を始めたら止められるのは天音か彼女だけだと義母さんが言っていた。
すると海翔が泣き出す。
お腹が空いたのだろう。
「僕達は外で待ってるよ」
義父さんがそう言うと4人は外に出た。
僕は天音が授乳する姿を見守っていた。
結莉と茉莉の時もそうだったけど、この時の天音の顔は本当にお母さんのように優しい表情だ。
そんな天音の優しい笑顔を見ていると天音が僕に気づいた。
「大地さ、結莉と茉莉の時もそうだったけど」
「どうしたの?」
「お前は気づいてくれないのか?ちょっとだけおっぱいが大きくなったんだぞ」
私の顔ばかり見てないでそっちを気にしたリしないのか?
「今の天音のおっぱいは子供の為の物だろ?海翔に譲るよ」
「そういうものなのか……」
天音は理解できないらしい。
「……その子が成長したらまた僕に構ってくれるまで待つよ」
「その間お前は平気なのか?」
男は定期的に処理しないとまずいって聞いたらしい。
「天音以外の女性で処理してたら僕が殺処分だよ」
「うーん、愛莉は浮気くらい許してやれって言ってたけど、私はやっぱり悔しいんだ」
「わかってるよ、そんな自殺行為するわけないだろ」
今は誰よりも天音が愛おしいんだ。
「そう言ってくれるのは嬉しいけど結莉達や海翔にも愛情を注いでくれ」
そう言って天音は笑っていた。
「パパー。私も赤ちゃん見たい」
あ、そうか。
結莉達も連れて来ていたんだった。
結莉と茉莉を抱き上げて海翔を見せてやる。
「はじめまして、海翔」
結莉達が挨拶するが海翔はボーっとしていた。
まだそんなに目も良くないから仕方ないのだろう。
そう説明すると結莉達は納得していた。
「じゃ、僕結莉達の面倒も見ないといけないから」
「ああ、そんなに入院する必要無いみたいだから」
「でも家事はできないんだろ」
「……世話かけるな」
「どうせ母さん達が海翔見に来るから大丈夫だよ」
「そっか。じゃあまた」
「ねえパパ?」
茉莉が何か聞きたそうだった。
私達の時もこんな感じだったの?
そんな疑問があったみたいだ。
僕と天音は笑っていた。
「結莉達の時はもっと大変だったんだ」
初めての子供。
しかも双子。
育児書が全く役に立たないくらいの成長速度。
何もかもが手探りだった。
海翔はさすがに天音も扱いが慣れているだろう。
だから母さん達もあまり何も言わない。
それに比べて結莉達の時は産前の時から片桐家と石原家が大騒動だった。
あ、こういう時に言えばいいんだな。
「海翔も同じだけど結莉と茉莉の命は多くの犠牲の上に成り立っているんだ。絶対に命を粗末にしてはいけない」
結莉達は意味を理解してくれただろうか?
「お腹空いた」
茉莉が言う。
「片桐家の人間は腹が減ると暴れ出すから早く何か食わせてやってくれ」
天音が笑って言う。
帰る途中にファミレスに寄って食べさせる。
天音に似たんだろうな。
お子様ランチの幼稚な玩具につられる子供じゃない。
鉄板の料理はダメだと言うとそうじゃない料理を2歳児とは思えないくらい食べる。
2歳児とは思えないアクションを繰り広げる原動力なんだろうな。
家に帰ると結莉達をお風呂に入れて寝かせる。
もうすでにお風呂に入ったら寝るだけだと理解してくれたみたいだ。
自分で部屋に行ってベッドで寝る。
自分でトイレにも行けるようになった。
後は次のステップだろうな。
身の回りの事は大体するようになった。
幼稚園に入れた時に他の子とうまくやっていけるか?
そんな事を考えながら天音の相手をチャットでしていた。
(2)
「どうぞ」
学の声が部屋からする。
俺達は病室に入る。
学が二人の子供を抱えていた。
一人はベビーベッドで寝ている。
「水奈ちゃんお疲れ~」
亜依さんが水奈にねぎらいの言葉をかけていた。
「水奈、性別は?」
神奈が水奈に聞いている。
娘が二人らしい。
「む、娘の名前は俺が……」
「ずるいぞ誠!学の子だから俺が決めるに決まってるだろ……」
「お前らは黙ってろ!」
神奈がそう言いながら、学に名前は決めたのか聞いていた。
水奈と相談して決めたらしい。
優奈と愛菜。
「いいんじゃないか?」
亜依さんは愛菜を抱えていた。
「学、どっちが優奈なんだ?」
「こっちです」
「抱かせてくれないか」
「どうぞ」
そう言って神奈は優奈を抱えていた。
優奈はぼーっと神奈を見ているが神奈だって母親だったんだ。
生まれたての赤子の視力くらい分かっている。
初めての孫か。
「学、俺も抱いてもいいか?」
俺が言うと亜衣さんが譲ってくれた。
まだ生まれて間もない赤ちゃんだ。
つい言ってしまう。
「お爺ちゃんですよ」
愛菜はその意味を理解は多分してないだろうけどじっと俺を見ていた。
「誠だけずるいぞ。俺にも抱かせろ!」
「お前間違っても落としたりするなよ!」
それはないだろう……
あったらしい。
遊を産んだ時に落として大ゲンカしたそうだ。
その後もしばらく病室にいたけど子供達が泣き出す。
それでも瑛大と俺は残ろうとした。
すると亜依さんと神奈が俺達を引きずる。
「どうせ水奈の胸が膨れているはずだとか考えているんだろうが。この変態!」
娘にする行為じゃないぞと神奈は叱る。
「あとは少し2人にさせておいてあげよう。水奈もまだ疲れているはずだし」
亜依さんが言うと俺達は帰る事にした。
俺は病室にいる時に気付いた事を神奈に話していた。
「どうしたんだ?」
「水奈の表情……変わってた」
「まあ、母親になったんだ。そりゃ変わるだろう」
「そうだよな……」
俺の考えていることを読み取ったのか神奈が言った。
「心配するな。そのうち子育てに苦労しだしたらお前に感謝の一言くらいかけてくれるさ」
神奈がそう言った。
「でもいきなり4人も大丈夫か?」
「まあ、色々苦労はするだろうな」
一度に4人は抱えきれないだろうし。
「それ大丈夫なのか?」
「私も亜衣も偶には様子見に行くよ」
水奈の子供とは言え、俺達の孫だ。
水奈の子育てというのも若干不安がある。
今のところ優翔と茉奈には問題はなさそうだけど。
あえて言うなら茉奈が見た目とは裏腹に若干気弱なところがあるらしい。
いつも優翔の影に隠れているんだそうだ。
「私も一つ楽しみがあるんだが」
「どうした?」
「多分誠は優奈と愛菜と茉奈しか見てなかったんだろ?」
って事は悠翔の事か?
「悠翔の顔つき誠にどことなく似ていた」
きっと誠に似た子供になるぞ。
「それって神奈的にどうなんだ?」
「まあ、お前の悪趣味まで移ったら大変だけど……そうじゃない気がするんだ」
誠司だって悪趣味がなかったら今の誠司なんだろ?
学が父親ならその面は心配してない。
だったらどうなる?
「きっと立派な男になるぞ」
「俺って立派な男か?」
「じゃなかったら結婚してねーよ」
まあ、そうだな。
今度冬夜達と飲もうか。
あいつも結莉達が出来た時どんな気持ちだったか気になるし。
「それもいいな」
もうそんな事を考える時期になったんだな。
(3)
呼び鈴が鳴った。
玄関に出る。
学達は仕事だ。
母さん達かな?
「おーい、私だ。水奈」
天音の声がする。
ってまじかあいつ!
私は玄関の扉を開けると結莉と茉莉と天音とその腕の中で眠っている海翔がいた。
「天音、平気なのか!?」
「ああ、流石に慣れた」
そういう問題なのか?
「ひょっとして優奈達寝てる?」
まあ、一日の殆どが寝てるかミルク飲んでるかだからな。
「まあ、上がれよ」
すると結莉が私に向かって言う。
「ガッデム!」
「こんにちは……だろ?」
そう言って結莉の頭を撫でる。
善明の母さんに向かって「ババア」と言って生き残ってる最強キャラらしいからな。
「なんかこいつの中では初めましてって意味みたいになってんだよな」
それでいいのか?天音。
「で、今日はどうしたんだ?」
天音達をリビングに案内して話を聞いた。
「いや、お互い赤ちゃんがいて何もできなくて暇だろ?」
二度目だから余裕があるのだろうか?
私は結構苦労してるんだけど。
夜は学が手伝ってくれるからいい。
「少しでも休める時に休め」
そう言って風呂に入れたりしてくれてる。
寝かしつけるのも慣れたもんだった。
不思議だったのでどこでその知識手に入れたんだ?と聞いてみた。
「知識というか経験だな」
「経験?」
恋が幼い時、亜依さんは仕事、学の父さんは遊びに出かけるから結局学が見るしかなかった。
そういや付き合い始めた時もそうだったな。
まあ、そんなわけで学は色々と助けてくれる。
「へえ、さすが学だな」
「大地はどうなんだ?」
「あいつももうすぐパパ3年生になるしな」
慣れたもんだ。
男の子だから嬉しそうに世話してくれてるよ。
「そうだ、聞いてくれ水奈」
「どうしたんだ」
それは美希達が空の同僚の披露宴に行くから結と比呂を預かった時の事らしい。
比呂が何か不安そうにしていた。
天音の母さん達が抱いてる時はそんな事無かったのになんで?と思ったらしい。
その理由に気づいた美希は笑っていたらしい。
美希にあって天音に無い物……。
怒りより悲しみが優先だったようだ。
美希はまだ小さい。
だからそんなものに興味があるはずがない。
だから純粋に「寝るのに何か足りない」と思ったのだろう。
そしてそれは口にしたらいけないものだと「認識」していたのだろう。
だから困っていた。
「お前大丈夫か?優奈達に足りてるか?」
「そんなわけないだろ?私の胸で2人分は無理だ」
だから粉ミルクで補ってる。
そう天音に説明した。
「結莉と茉莉見てると思い知らされるんだよな」
天音が言う。
私と天音は小学校の時とにかく問題ばかり起こして母さん達が呼び出されていた。
家の事で忙しい時でも来ていた。
確かにな……やり過ぎたところもあるかもしれない。
この子達もそうなるかもしれない。
そんな時どうすればいい?
そんな悩みを天音がしていた。
「そんなの簡単だろ。母さん達と同じ様にしてやればいい」
子供が間違っていたなら注意すればいい。
間違っていないなら守ってやればいい。
頭ごなしに叱りつけても納得できない。
それは天音や私が一番分かってるじゃないか。
「愛莉も同じような事言ってたよ」
天音がそう言って笑う。
「あ、そろそろ夕食準備しないと」
時計は17時を回っていた。
そう言って天音達は帰っていった。
私も少しくらいは準備しておこうかな。
そう思った頃にだいたい学からメッセージが届く。
「もう少ししたら帰れるから。家事はしなくていいから大人しく休んでろ」
学が倒れても貯えがある。
でも私が倒れたら誰が優奈達を見る?
本当に頼りになる旦那だな。
学が帰ってくると、夕食の支度をしてそしてご飯を食べる。
優奈達を風呂に入れて、私が入るとのんびりする。
まだ目が離せる状態じゃないので寝室でテレビを見ていた。
その間に天音と話したことを学に話していた。
「私達の子はどうなるんだろうな?」
「どうなってもいい。元気に育ってくれたらいい」
小さい頃の私の様に。
そんな子供の為なら何でもしてやる。
そんな期待を背負って子供は育っていくのだろうなと痛感した。
「お疲れ様」
「ありがとう……。やっぱり生まれたてだとよくわかんねーな」
産後の天音はそう言って笑っていた。
男の子だった。
子供の名前は決めてあった。
海翔
男の子だったらそうしようと決めてあった名前だ。
「大地の様に優しくて強い男になって欲しいな」
天音はそんな風に僕を見ていたのか。
「天音の様に元気な子になって欲しいよ」
僕はそう返した。
「私のような男の子になったら私でも手におえるか分かんねーぞ」
天音はそう言って笑う。
現に天音は結莉と茉莉に手を焼いていた。
コンコン。
誰かがノックしている。
多分母さん達だろう。
天音を見る。
「いいよ」
天音がそう言うので「どうぞ」と声をかけるとドアが開いた。
僕の両親と天音の両親が入ってきた。
「どう?」
お義父さんが聞いたので「元気な男の子です」と答えた。
「あら?そうなの。天音ちゃんと大地の子なら最強の男の子になるわね」
母さんがそう言って喜んでいた。
「恵美、ちょっと心配がある」
お義母さんが言う。
「どうしたの愛莉ちゃん」
「空達のやる気の無さと冬吾のような積極的な子。どっちを継いでいるのかが心配で……」
あと共通する”怒り出すと何をしでかすか分からない”性格。
「そっか、愛莉ちゃんからはそう見えるわけね」
「恵美は違うの?」
すると母さんは言った。
「どっちにしろこの子達の彼女は絶対に守られる事は保証されるでしょ?」
きっとそうだろうね。
きっと化け物みたいなスペックを持って生まれてくるんだろうな。
それに石原家の後ろ盾があれば九州最強なんてどうでもよくなるくらいの存在になるんだろうな。
「名前は決めたのかい?」
父さんが聞いた。
「海翔にした」
「天と大地と海か……なるほどね」
義父さんが理解したみたいだ。
「そうね……男の子なら天音にこつを教えてあげないといけないわね」
「こつ?」
天音にも分からなかったらしい。
義母さんが言う。
「もし海翔が暴走しだしたら後頭部を小突いてあげなさい。そうすれば大体止まるから」
「あ、そういう事か」
空も冬吾も同じだったからきっとそうだと言う。
その事をもし海翔に彼女が出来たら教えてあげて。
海翔がもし暴走を始めたら止められるのは天音か彼女だけだと義母さんが言っていた。
すると海翔が泣き出す。
お腹が空いたのだろう。
「僕達は外で待ってるよ」
義父さんがそう言うと4人は外に出た。
僕は天音が授乳する姿を見守っていた。
結莉と茉莉の時もそうだったけど、この時の天音の顔は本当にお母さんのように優しい表情だ。
そんな天音の優しい笑顔を見ていると天音が僕に気づいた。
「大地さ、結莉と茉莉の時もそうだったけど」
「どうしたの?」
「お前は気づいてくれないのか?ちょっとだけおっぱいが大きくなったんだぞ」
私の顔ばかり見てないでそっちを気にしたリしないのか?
「今の天音のおっぱいは子供の為の物だろ?海翔に譲るよ」
「そういうものなのか……」
天音は理解できないらしい。
「……その子が成長したらまた僕に構ってくれるまで待つよ」
「その間お前は平気なのか?」
男は定期的に処理しないとまずいって聞いたらしい。
「天音以外の女性で処理してたら僕が殺処分だよ」
「うーん、愛莉は浮気くらい許してやれって言ってたけど、私はやっぱり悔しいんだ」
「わかってるよ、そんな自殺行為するわけないだろ」
今は誰よりも天音が愛おしいんだ。
「そう言ってくれるのは嬉しいけど結莉達や海翔にも愛情を注いでくれ」
そう言って天音は笑っていた。
「パパー。私も赤ちゃん見たい」
あ、そうか。
結莉達も連れて来ていたんだった。
結莉と茉莉を抱き上げて海翔を見せてやる。
「はじめまして、海翔」
結莉達が挨拶するが海翔はボーっとしていた。
まだそんなに目も良くないから仕方ないのだろう。
そう説明すると結莉達は納得していた。
「じゃ、僕結莉達の面倒も見ないといけないから」
「ああ、そんなに入院する必要無いみたいだから」
「でも家事はできないんだろ」
「……世話かけるな」
「どうせ母さん達が海翔見に来るから大丈夫だよ」
「そっか。じゃあまた」
「ねえパパ?」
茉莉が何か聞きたそうだった。
私達の時もこんな感じだったの?
そんな疑問があったみたいだ。
僕と天音は笑っていた。
「結莉達の時はもっと大変だったんだ」
初めての子供。
しかも双子。
育児書が全く役に立たないくらいの成長速度。
何もかもが手探りだった。
海翔はさすがに天音も扱いが慣れているだろう。
だから母さん達もあまり何も言わない。
それに比べて結莉達の時は産前の時から片桐家と石原家が大騒動だった。
あ、こういう時に言えばいいんだな。
「海翔も同じだけど結莉と茉莉の命は多くの犠牲の上に成り立っているんだ。絶対に命を粗末にしてはいけない」
結莉達は意味を理解してくれただろうか?
「お腹空いた」
茉莉が言う。
「片桐家の人間は腹が減ると暴れ出すから早く何か食わせてやってくれ」
天音が笑って言う。
帰る途中にファミレスに寄って食べさせる。
天音に似たんだろうな。
お子様ランチの幼稚な玩具につられる子供じゃない。
鉄板の料理はダメだと言うとそうじゃない料理を2歳児とは思えないくらい食べる。
2歳児とは思えないアクションを繰り広げる原動力なんだろうな。
家に帰ると結莉達をお風呂に入れて寝かせる。
もうすでにお風呂に入ったら寝るだけだと理解してくれたみたいだ。
自分で部屋に行ってベッドで寝る。
自分でトイレにも行けるようになった。
後は次のステップだろうな。
身の回りの事は大体するようになった。
幼稚園に入れた時に他の子とうまくやっていけるか?
そんな事を考えながら天音の相手をチャットでしていた。
(2)
「どうぞ」
学の声が部屋からする。
俺達は病室に入る。
学が二人の子供を抱えていた。
一人はベビーベッドで寝ている。
「水奈ちゃんお疲れ~」
亜依さんが水奈にねぎらいの言葉をかけていた。
「水奈、性別は?」
神奈が水奈に聞いている。
娘が二人らしい。
「む、娘の名前は俺が……」
「ずるいぞ誠!学の子だから俺が決めるに決まってるだろ……」
「お前らは黙ってろ!」
神奈がそう言いながら、学に名前は決めたのか聞いていた。
水奈と相談して決めたらしい。
優奈と愛菜。
「いいんじゃないか?」
亜依さんは愛菜を抱えていた。
「学、どっちが優奈なんだ?」
「こっちです」
「抱かせてくれないか」
「どうぞ」
そう言って神奈は優奈を抱えていた。
優奈はぼーっと神奈を見ているが神奈だって母親だったんだ。
生まれたての赤子の視力くらい分かっている。
初めての孫か。
「学、俺も抱いてもいいか?」
俺が言うと亜衣さんが譲ってくれた。
まだ生まれて間もない赤ちゃんだ。
つい言ってしまう。
「お爺ちゃんですよ」
愛菜はその意味を理解は多分してないだろうけどじっと俺を見ていた。
「誠だけずるいぞ。俺にも抱かせろ!」
「お前間違っても落としたりするなよ!」
それはないだろう……
あったらしい。
遊を産んだ時に落として大ゲンカしたそうだ。
その後もしばらく病室にいたけど子供達が泣き出す。
それでも瑛大と俺は残ろうとした。
すると亜依さんと神奈が俺達を引きずる。
「どうせ水奈の胸が膨れているはずだとか考えているんだろうが。この変態!」
娘にする行為じゃないぞと神奈は叱る。
「あとは少し2人にさせておいてあげよう。水奈もまだ疲れているはずだし」
亜依さんが言うと俺達は帰る事にした。
俺は病室にいる時に気付いた事を神奈に話していた。
「どうしたんだ?」
「水奈の表情……変わってた」
「まあ、母親になったんだ。そりゃ変わるだろう」
「そうだよな……」
俺の考えていることを読み取ったのか神奈が言った。
「心配するな。そのうち子育てに苦労しだしたらお前に感謝の一言くらいかけてくれるさ」
神奈がそう言った。
「でもいきなり4人も大丈夫か?」
「まあ、色々苦労はするだろうな」
一度に4人は抱えきれないだろうし。
「それ大丈夫なのか?」
「私も亜衣も偶には様子見に行くよ」
水奈の子供とは言え、俺達の孫だ。
水奈の子育てというのも若干不安がある。
今のところ優翔と茉奈には問題はなさそうだけど。
あえて言うなら茉奈が見た目とは裏腹に若干気弱なところがあるらしい。
いつも優翔の影に隠れているんだそうだ。
「私も一つ楽しみがあるんだが」
「どうした?」
「多分誠は優奈と愛菜と茉奈しか見てなかったんだろ?」
って事は悠翔の事か?
「悠翔の顔つき誠にどことなく似ていた」
きっと誠に似た子供になるぞ。
「それって神奈的にどうなんだ?」
「まあ、お前の悪趣味まで移ったら大変だけど……そうじゃない気がするんだ」
誠司だって悪趣味がなかったら今の誠司なんだろ?
学が父親ならその面は心配してない。
だったらどうなる?
「きっと立派な男になるぞ」
「俺って立派な男か?」
「じゃなかったら結婚してねーよ」
まあ、そうだな。
今度冬夜達と飲もうか。
あいつも結莉達が出来た時どんな気持ちだったか気になるし。
「それもいいな」
もうそんな事を考える時期になったんだな。
(3)
呼び鈴が鳴った。
玄関に出る。
学達は仕事だ。
母さん達かな?
「おーい、私だ。水奈」
天音の声がする。
ってまじかあいつ!
私は玄関の扉を開けると結莉と茉莉と天音とその腕の中で眠っている海翔がいた。
「天音、平気なのか!?」
「ああ、流石に慣れた」
そういう問題なのか?
「ひょっとして優奈達寝てる?」
まあ、一日の殆どが寝てるかミルク飲んでるかだからな。
「まあ、上がれよ」
すると結莉が私に向かって言う。
「ガッデム!」
「こんにちは……だろ?」
そう言って結莉の頭を撫でる。
善明の母さんに向かって「ババア」と言って生き残ってる最強キャラらしいからな。
「なんかこいつの中では初めましてって意味みたいになってんだよな」
それでいいのか?天音。
「で、今日はどうしたんだ?」
天音達をリビングに案内して話を聞いた。
「いや、お互い赤ちゃんがいて何もできなくて暇だろ?」
二度目だから余裕があるのだろうか?
私は結構苦労してるんだけど。
夜は学が手伝ってくれるからいい。
「少しでも休める時に休め」
そう言って風呂に入れたりしてくれてる。
寝かしつけるのも慣れたもんだった。
不思議だったのでどこでその知識手に入れたんだ?と聞いてみた。
「知識というか経験だな」
「経験?」
恋が幼い時、亜依さんは仕事、学の父さんは遊びに出かけるから結局学が見るしかなかった。
そういや付き合い始めた時もそうだったな。
まあ、そんなわけで学は色々と助けてくれる。
「へえ、さすが学だな」
「大地はどうなんだ?」
「あいつももうすぐパパ3年生になるしな」
慣れたもんだ。
男の子だから嬉しそうに世話してくれてるよ。
「そうだ、聞いてくれ水奈」
「どうしたんだ」
それは美希達が空の同僚の披露宴に行くから結と比呂を預かった時の事らしい。
比呂が何か不安そうにしていた。
天音の母さん達が抱いてる時はそんな事無かったのになんで?と思ったらしい。
その理由に気づいた美希は笑っていたらしい。
美希にあって天音に無い物……。
怒りより悲しみが優先だったようだ。
美希はまだ小さい。
だからそんなものに興味があるはずがない。
だから純粋に「寝るのに何か足りない」と思ったのだろう。
そしてそれは口にしたらいけないものだと「認識」していたのだろう。
だから困っていた。
「お前大丈夫か?優奈達に足りてるか?」
「そんなわけないだろ?私の胸で2人分は無理だ」
だから粉ミルクで補ってる。
そう天音に説明した。
「結莉と茉莉見てると思い知らされるんだよな」
天音が言う。
私と天音は小学校の時とにかく問題ばかり起こして母さん達が呼び出されていた。
家の事で忙しい時でも来ていた。
確かにな……やり過ぎたところもあるかもしれない。
この子達もそうなるかもしれない。
そんな時どうすればいい?
そんな悩みを天音がしていた。
「そんなの簡単だろ。母さん達と同じ様にしてやればいい」
子供が間違っていたなら注意すればいい。
間違っていないなら守ってやればいい。
頭ごなしに叱りつけても納得できない。
それは天音や私が一番分かってるじゃないか。
「愛莉も同じような事言ってたよ」
天音がそう言って笑う。
「あ、そろそろ夕食準備しないと」
時計は17時を回っていた。
そう言って天音達は帰っていった。
私も少しくらいは準備しておこうかな。
そう思った頃にだいたい学からメッセージが届く。
「もう少ししたら帰れるから。家事はしなくていいから大人しく休んでろ」
学が倒れても貯えがある。
でも私が倒れたら誰が優奈達を見る?
本当に頼りになる旦那だな。
学が帰ってくると、夕食の支度をしてそしてご飯を食べる。
優奈達を風呂に入れて、私が入るとのんびりする。
まだ目が離せる状態じゃないので寝室でテレビを見ていた。
その間に天音と話したことを学に話していた。
「私達の子はどうなるんだろうな?」
「どうなってもいい。元気に育ってくれたらいい」
小さい頃の私の様に。
そんな子供の為なら何でもしてやる。
そんな期待を背負って子供は育っていくのだろうなと痛感した。
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童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。
許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…
僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…
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