姉妹チート

和希

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襲来

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(1)

「おめでとう、麻里」
「ありがとう」

 今は麻里に「お疲れさま」と労わっておいた。
 初産で三つ子。
 さぞ苦労しただろう。
 
「将門名前どうする?」

 麻里が聞いてきた。

「ああ、実は考えておいたんだ」
「へえ、取りあえず聞いてみて良いかな?」

 麻里が聞いてくると俺は答えた。
 子供は男の子二人に女の子一人。
 上から将弥、樹理、亜咲。
 真ん中の子が女の子だ。
 
「悪くはないと思う」

 麻里はそう答えた。
 それでいいよって笑ってくれた。
 フレーズの活動は休止している。
 乳離れが出来るまでは、休止のつもりだ。
 その後はUSEの託児所に預ける事にした。
 とりあえずは出生届などの手続きを俺がすることにした。

「それと……」

 俺はスマホを出す。

「写真でも撮るの?」
「違うよ。これ聴いて欲しい」
「何?」

 俺は曲をかけた。
 俺が作詞作曲した出生祝いの歌。
 俺が自分で歌ってみた。
 母親にひたすらありがとうと言う感謝を込めた歌。
 個人的に麻里に何かしてやりたくて作った。
 それを聞いた麻里は泣いている。

「ありがとう……」
「これからは2人で頑張ろうな」
「そうだね」
 
 そう言って3人の赤ちゃんにも聞かせていた。
 その時誰かがノックした。
 
「どうぞ」

 麻里が言うと入ってきたのは社長と専務だった。

「素敵な曲が流れてるね。誰の歌?」
「将門が作ってくれたみたいです」
「どういう事?」

 専務が聞くと麻里が事情を説明した。

「また素敵な事を考える亭主で良かったわね」

 専務がそう言っていた。
 麻里は少し照れているようだった。

「でも、こんな素敵な曲をただ麻里にだけってのはもったいないわね」
 
 専務が何かを考えている。

「将門、これ貴方名義で売ってもいいかしら?」

 専務が聞いてきた。
 麻里だけに聞かせるだけの歌だから他の人に聞かれるのは正直抵抗があった。
 考えた末麻里に決めてもらう事にした。

「麻里にプレゼントした曲だから麻里に決めさせてやって下さい」
「……私はいいよ。この歌本当に素敵。胎教とかにもちょうどいいかもしれない」
「じゃ、決まりね。タイトルは決めてるの?」

 それは最初から決めていた。
 麻里に送る歌だから麻里に向けてのメッセージだった。

 ありがとう

「うん、悪くないわね」
「ごめん、ちょっと気になることがあるんだけど」

 社長が赤ちゃんを見て何か気づいたようだ。
 俺も赤ちゃんを見てみた。
 ……まさか。
 気のせいかもしれないと社長が言っていたけどそう言われるとそうかもしれない。
 将弥は足でリズムを取ろうとしていて、樹理は楽しそうに聞いていて、亜咲はギターの音に反応しているように見えた。

「これで君達も安泰だね」

 社長がそう言って笑っていた。
 俺も麻里もこの子たちの成長が楽しみだった。

(2)

 突然黒い服装の集団に囲まれた。
 やっぱり来たのか。
 彼等の正体は聞いていた。
 フォーリンググレイス。
 私の夫の勝次が統率していたグループ。
 今所属しているセイクリッドハートの敵。

「お前中村加奈子だよな?」

 正直に答えた方がいいのだろうか?

「違います」
「なんだと?」

 男たちが首を傾げる。

「今は山本加奈子です」
「んなもんどっちでもいいんだよ!」

 男が恫喝する。
 少し怖い。
 こんな経験は2度目だ。
 どうして私が狙われるのかはきっとSHに入っていたからだろう。
 小中学生を対象に誘拐を企てているのはグルチャで聞いていた。
 まさか大学生の私を狙ってくるとは思わなかった。
 足がすくんで動けない。

「大人しくしてたら何もしねーよ」

 そう言って男が1人近づいてきて、私の腕を掴もうとする。
 その腕を誰かが掴んだ。

「いつかは狙ってくるだろうと思ってたよ」

 横を見ると勝次が立っていた。
 勝次は私を見るとにこりと笑う。

「大丈夫だ。心配するな。お前は俺が絶対守る」
「で、でも……」

 人数差があり過ぎる。

「心配するな。俺一人でもなんとかなるけど加奈子守らないといけないからな」

 そう言うと何台かのバイクが構内に入ってくる。

「頭。こいつらがさっき言ってたふざけた奴らっすか?」
「そうだ。あとはなんとかするから精々派手に踊れや」

 そう言うとバイクから降りてFGの連中に襲い掛かる。

「これだけの人数でどうにかできるとか思ってんのか?」

 フォーリンググレイスはまだ余裕を見せている。

「一度しくじったからな。念には念を入れてるんだよ」

 勝次が言うとほぼ同時に新たな集団が乱入してきた。
 先頭に立っているのは喜一だった。

「俺がいない間に随分好き勝手してくれてるらしいな」

 喜一の後ろには無数の男がいる。
 誰だろう。

「ああ、俺がFGのリーダーだった時代の仲間だよ」

 社会に出て嫌気がさして辞めていた連中らしい。
 勝次が連れて来たのは雪華団と威堕天の残党。
 連絡くらいはしてるらしい。

「と、いうわけだ。悪いがお前ら死んでくれや」

 勝次がそう言うと全員が暴れ出す。
 でもどうして勝次がここにいたの?

「網を張ったそうだ」

 勝次が言っていた。
 SHのリーダー片桐空は誘拐未遂があってから相手の手を読んでいた。
 小中学生がダメなら次に狙うのは……。
 そして一番狙われそうなところを待ち構えていたそうだ。

「お前だって悔しい思いしたんだろ?次は絶対に守ってやれ」

 愛する人に守ってもらえるほど嬉しい事はないだろうから。

「で、こいつらがまんまと罠にはまったわけだ」

 勝次が言う。

「こいつらどうすればいいんですか?」

 ボコボコに殴ってる男が言った。

「死なない程度に適当にやれ。殺すと天音が怒り出すからやめとけ」

 殺すのは私の特権だ!
 天音はそう言って怒り出すらしい。
 天音今身籠ってるはずなのに……。
 喜一は指示を出しながらスマホで空達に連絡していたらしい。
 輸送車と兵隊が来ると自分の手下に「面倒にならないうちに行ってくれ。助かったありがとう」と言っていた。
 その間にFGの連中を輸送車に押し込んで去っていった。

「どこに送るの?」

 私が喜一に聞いてみた。
 喜一は笑顔で答えた。

「SHは人材派遣が好きらしいからな」

 SHに手を出すくらいの度胸はあるんだ。
 戦場に弾丸が飛び交う中を駆け抜けるくらい造作でもないだろ。

「しばらく俺が送迎するから」

 勝次が私に言う。

「仕事大丈夫なの?」

 私が聞くと勝次が笑った。

「これでも社長の息子だからな」
「環奈は?」
「環奈は加奈子より安心だよ」

 だってUSEの護衛がついてるんだから。
 それでもなお手を出す馬鹿は同じように人材派遣だろう。
 その前に誘拐と言う手段が無駄だと言う事に気づくだろうけど。
 しかし馬鹿は死なないと直らないという言葉は本当だったようだ。
 良くも悪くも今のFGはSHに手を出すことがどれだけ無謀なのか知らないようだった。

(3)

「石原梨々香だな?」

 大学を終えて家に帰ろうとしている時だった。
 無数の黒い衣装の集団に囲まれる。
 それを囲うようにやじ馬がいる。

「下手な真似はしないほうがいい。そうすれば危害は加えない」

 私は天音や水奈の様に強くない。
 こんな物騒な集団に囲まれたら震えるしかできない。
 
「ついてこい」
 
 そう言って私の腕を掴む。
 恐怖のあまりに悲鳴を上げる事すら出来ない。
 きっとこの人達はFGの連中だろう。
 純也を抑える為に私を人質にする気だ。
 恐れていた事が起きた。
 純也の彼女である以上覚悟はしていたけど、やっぱり怖い。
 別府大学にはSHの人間は他にいない。
 大半のメンバーがFGに流れた。
 私は引きずられていく。 
 純也の足を引っ張っている。
 ごめん、純也。
 すると誰かがその手を掴んでいた。
 男はその人を睨みつけていた。
 30代くらいの女性だった。
 ショートボブの背が高い女性だった。

「君はレディの扱い方を教育する必要があるようだな」

 女性はそう言った。

「お前もやられたいのか!?」
 
 男が言うと女性は掴んだ男の腕の肘あたりをおもいっきり蹴り上げた。
 男の叫び声が聞こえる。
 
「ふざけやがって。無事に帰れると思うなよ?」
「君達は何か勘違いしていないか?」

 女性がそう言うとトラックのような大型車が数台入ってきた。
 そのと楽から数人迷彩服を着た人間が出てくる。

「君達に伝言がある。”そんなに自殺願望があるならすぐに叶えてやる”だ、そうだ」

 女性がそう言ってる間もFGの人間は袋叩きにあい、トラックに無理矢理押し込められている。
 私は女性から事情を聴いていた。
 純也の兄の空はこうなるだろうと予想していた。
 地元大ならともかく別府大学や私立大はさすがに救援に駆けつけるのは難しい。
 だから勝次たちや大地に指示を出していた。
 馬鹿だからきっと狙ってくるだろうと。
 空はFGを無理にでも引きずり出して潰すつもりでいた。
 それで私達には知らせずにこっそり護衛をつけた。
 そして今日まんまと空の張った罠にはまった。

「車で来てるんですよね?走行中は狙ってこないと思いますが気をつけて下さい」

 念の為護衛の車は用意してある。
 そう言って駐車場まで彼女はついて来てくれた。

「あの、あなたもSHのメンバーですか?」

 何となく聞いてみた。
 彼女は違うと言った。
 石原家の付き人らしい。
 名前は須田由梨花。
 家に帰ると私の後をつけていた護衛の車は去っていった。
 家に帰ると純也が待っていた。

「無事か?」

 純也も心配していたらしい。
 かといって純也が送迎できる場所じゃない。

「こんな事いつまで続くの?」

 私は純也に聞いてみた。

「今からちょっと空に呼ばれてるんだけど梨々香も来る?」
「何かするの?」
「そうみたい」
「じゃ、準備するよ」

 そうして純也と一緒に空の指定した場所。坂ノ市の埠頭に向かった。

(4)

 僕達は坂ノ市の埠頭に来ていた。
 僕達の前にいるのは身柄を拘束された誘拐犯。
 菫たちを狙う連中だ。
 さすがに大人が小学校に侵入したら大事になる。
 それに僕達も馬鹿じゃない。
 子供達にもそれなり対策をしていた。 
 菫と陽葵は毎日翼が送迎をしていた。
 しかしやられっぱなしで平気でいられる人間がSHにいるわけがない。
 小学生と中学生はダメ……。
 しかし地元大は彼等も手を出せない。
 手を出そうとして純也に葬られた人間はいるらしいけど。
 そうなると次に狙うのはSHが弱い場所。
 それは私立大と別府大学だとすぐに分かった。
 だから勝次たちと須田さんにお願いした。
 そして今日まんまと罠にかかった。
 そのまま無理矢理拉致っていま縄で縛られて目の前に立っている。
 僕が前に立つと男たちが僕を睨みつける。

「ガキがこんな真似してただで済むと思ってるのか?」
「ざけんな、このゴキブリ共が!お前等こそ無事に帰れると思うなよ!」
「天音、落ち着いて」

 大地が天音を宥める。
 そんな二人を見てから僕が連中に告げた。

「お前ら何か勘違いしてないか?」
「なんだと?」
「天音の言う通りだ。こんなふざけた真似して警察に引き渡されるなんて甘っちょろい考えもってるんじゃないのか?」

 刑事罰くらいで済むなんて勘違いも甚だしいぞ。
 どうせお前らの事だから警察ともパイプがあるんだろ?
 実際僕達は警察に通報はしていない。
 そんなもんで済ませるほど甘くはない。
 勘違いするな。
 
「誰に物言ってんだ?俺達は……」

 ぱすっ。

「空の話は済んでない。少し黙ってろ。次何か喋ったら殺すよ?」

 大地が何か言おうとしていた男に警告する。

「……原川組かなんか知らないけど僕達に喧嘩を売るなら喜んで買ってやる」

 その警告をお前らを使ってしてやる。

「なにする気だ?」
「……海外派遣も考えたけど輸送するのも面倒だ」

 僕がそう言うと学達が驚いてた。

「お、おい。何するつもりだ?」
「空、ここでキャンプファイアしようぜ!火なら結がいれば大丈夫だろ?」

 学と天音が言っている。

「天音、それだと後始末が面倒」

 翼が言う。
 
「じゃあ、どうするんだ?」

 遊が聞いていた。

「……じゃ、大地任せる」

 僕がそう言うと大地は兵隊に指示を出す。
 兵隊は縛られているFGの人間を海に突き落とす。

「さ、さすがにそれはまずいんじゃないかい?」

 善明が言う。

「なんで?」
「へ?」
「翼……あれ用意してる?」
「持ってきてるよ」

 そう言って翼が取り出したのは偽造した遺書。

「彼等は”自ら海に飛び込んだ”なんかまずい事あるの?」
「それで警告になるのか?」
「父さんが言ってたんだ」

 切り札は絶対に先に見せるな。
 見せるならさらに奥の手を準備しなさい。

 小学生を狙った時は田中さんを彼等に配送してやった。
 その結果大学生を狙った。
 手を出したらこっちも徹底的にやりますよって警告をしている。
 そうしていたら多分暴力団が出てくるはず。
 暴力団の背後にいる奴らは父さん達が把握しているらしい。
 そこまで無理矢理引きずり出すのが僕達の仕事。
 その後は父さん達にまかせていいみたいだ。

「しかし遺書があってもさすがに縄で縛ってると無理があるんじゃないか?」
「大丈夫、多分死人はいないはずだから」
「え?」

 学が聞く。
 善明は大体察したらしい。
 死人なんて出すわけがない。
 存在そのものが消去されるか、誰かが偶然助けるか。

「じゃ、用は済んだし帰ろうか?」

 そう言って僕達は帰る。
 家では結と比呂はもう眠っていた。
 結達はもう寝たみたいだ。
 リビングで父さんと母さんがテレビを見ていた。
 しかし少し気になることがある。
 これだけ過剰に報復しても反応が薄すぎる。
 まるでまだ何か手札を持っているように。
 まずはそれを把握するのが先か。
 お互いけん制している状況だった。
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