姉妹チート

和希

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どうしようもない私に舞い降りた天使

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(1)

「あれ?」
「泉どうしたの?」
「体操着のパンツがない」
「え?」

 冬莉がそう言って私のロッカーを見る。
 上着だけ入っていた。
 おかしいな、忘れないようにロッカーに入れっぱなしにしておいたのに。
 別に体操着を忘れたからといて下着で授業を受けろと言うような先生ではない。
 単にいい加減持って帰らないと母さんに怒られるから。
 盗難された?
 あんな汚れたパンツを好き好んで盗む変態がいるのだろうか?
 もしそうなら「どうしようもない変態が舞い降りた」とサブタイトルを変えるべきだと思う。
 冬莉は違う可能性を提示した。

「泉、机の引き出し確認した?」

 ロッカーに入れるのも面倒だから机の引き出しに入れてある場合がある。
 念の為確認したけど入ってなかった。
 そうしている間に昇降口で待っていた瞳子たちが教室に来た。
 事情を瞳子たちに説明する。

「盗まれたのかな?」

 瞳子もそういう結論に達した。

「なんか気持ち悪いね」
 
 頼子が言う。
 別にそういうのは思ったことがない。
 何に使うつもりなのか知らないけど、勝手にすればいい。
 ただどうせならネットで売りさばいた方が小遣い稼げたかな。
 私は酒井家の娘だ。
 お金に困ったことは一度もない。
 ただ、どうせ無くなるならと思っただけ。
 とりあえず家に帰って母さんに報告した。

「本当にそうなの?」
「本当だって」
「あなたお小遣いがないから売ったなんて馬鹿な事言わないでしょうね?」

 母親からそんな事言われるのはさすがにショックだ。

「あんな汚いの売れるの?」

 一週間は洗濯してない。
 とりあえず私も女子だ。
 いくつかストックは持ってる。
 ほとんど使った事無いけど。
 それでなんとかなるからいいだろうと母さんに言った。

「いいけど、体育の授業があった日くらい持って帰って洗濯しなさい!」

 あなた女の子でしょ。
 女の子と言うだけでそんなに面倒な事をしないといけないのはなぜだろう?
 学校生活もそうだけど日常生活もデートの時も体調的な理由も含めてとにかく面倒だ。
 男女公平じゃないの?
 もっとも化粧した男子中学生が”ムカついたから”と冬吾に殴り飛ばされたらしいけど。
 SHの女子チャットでそんな話をしていた。
 片桐茜は毎晩風呂に入る入らないで母親と攻防しているらしい。
 私も母さんに「女の子でしょ!」と叱られている。
 父さんは何も言わない。
 女の子の問題だから下手に口出ししない方がいいと思っているのだろう。
 天音達は彼氏に下着を選ばせるとかやったらしいけど。
 同じ人種だった冬莉に聞いてみた。
 
「茜も多分同じだと思うんだけど……」

 やっぱり好きな人に綺麗って言われたいから。
 じゃあ、私は別にいないからしなくてもいいんじゃないか?

「でもそういうのってふとした時に癖でやっちゃうから普段からちゃんとしておいた方がいいと思うよ?」

 瞳子が言った。
 大体彼氏がいないならなおさら気をつけるべきじゃないのか?
 彼氏がいるならデートの時だけ気をつけたらいい。
 だけど彼氏がいないという事はその時がいつ来るのか分からない。
 突然そんな関係になってしまうかもしれない。
 なんかのテレビでやってた。
 性欲の強い女子がすぐに誰とでも関係を持つからわざと地味な下着をつけて「今日は見せられない」と自重させる為にするらしい。
 そこまでしないと抑えきれないのが不思議だったけど。
 大体出会ってすぐにそんな事態に持ち込む中学生の男子と付き合いたいのだろうか?
 男は体目当て。
 その思考を中学生が持っていたらやっぱりどうしようもない変態じゃないのか?
 まあ、中学生でも援助交際するらしいからありなんだろう。
 どっちにしろ私には関係ないと思ってた。

(2)

 その日体育の授業があるのを朝学校に着いた時に気づいてしまった。
 取りに帰る時間は十分ある。
 だけど面倒だ。
 ちゃんと奥の手も用意してある。
 今は7月。
 少し暑いけどジャージを用意してあるからそれで授業を受ければいいや。

「おはよう泉」

 冬莉が冬吾と誠司と一緒に登校してきた。
 こういう時友達が全員同じクラスって不便だと思う。
 クラスが違えば授業が違う。
 そうしたら「ちょっと体操着貸してくれない?」って手段がつかえる。
 ちなみに中学校の体操着の色もジャージの色も学年ごとに決められている。
 違う学年の子から借りるという事は出来ない。

「で、持って来るの忘れたわけ?」
「まあね」
「でも多分何とかなるんじゃないかな?」

 冬吾が言った。

「なんで?」
「そんな予感がしたから」

 冬吾と冬莉の予感は無視できない。
 大体的中するから。
 そして教室に入るとその予感の正体が分かった。
 村井育人。
 クラスではあまり目立たない男子。
 彼が私の机の引き出しに何かを入れようとしている時に教室に入ってしまった。
 彼も私達に気づく。

「何してたの?」

 冬莉が言う。
 村井君が異常に怯えている。

「冬莉」

 冬吾が言うと冬莉が私の机の引き出しを確認した。
 冬吾がしなかったのは万が一の場合自分が変態だと誤解されるからだろう。
 そしてその万が一だった。
 冬莉が引き出しから取り出したのは私の体操着のパンツだった。

「どういう事か説明して」
「ご、ごめんなさい……」

 か細い声で答える村井君。
 そうしている間に他の生徒が入ってくる。
 とっさに冬莉は机の引き出しに突っ込んだ。
 そして村井君とすれ違いざまに言う。

「詳しい話は放課後聞くから。逃げようとか考えないでね」

 村井君は観念したかのようにうなずいていた。
 そういう趣味の持ち主には見えないけど、人は見かけによらないってやつなんだろうか?
 こっちに戻って来た冬莉はにこりと笑ってる。
 冬吾は冬莉と通じ合ったのかにこりと笑う。

「泉もついに年貢の納め時が来たみたいだよ」

 え?
 私がそう言って振り返ると二人共自分の席に戻っていった。
 どういう意味だろう。
 私が自分のパンツを勝手に持ち去っていく趣味の男と付き合うというの?
 まあ、とりあえずその日の体育の時間は助かった。
 着替えをしていると気づいた。
 洗濯されてる。
 それだけじゃない。
 おしりの辺りに違和感を感じた。
 それは見たらすぐに分かった。
 穴が開いていたはずなのに綺麗に縫製されてある。
 村井君がやったの?

「どうしたの?」

 瞳子が聞いたので説明した。

「さすがに女子がおしりの所に穴開いてるパンツ穿くのはどうかと思うよ」

 瞳子はそう言って笑う。
 どうせ見られて困るほど開いてなかったし開いてたとして気にする事はないだろう。
 そうして一日が終って放課後皆が帰る中私達と村井君は残っていた。
 冬吾と誠司と隼人はサッカーの練習があるから先に帰った。
 他に誰もいなくなったのを確認すると冬莉が言った。

「じゃ、説明してくれるかな?村井君」
「はい……」

 無駄な言い訳はするつもりはないらしい。
 しても冬莉が見破るから。
 村井君は説明した。
 私のパンツに穴が開いているのを見つけた。
 何日経っても替えようとしないからつい手を出した。
 私がパンツを持って帰らないのは知っていた。
 だからそっと家に持ち帰って穴を修繕した。
 朝一番に教室に行って机に入れようとしてるところを見られてしまった。
 私はどう対応すればいいのだろう?
 勝手に持ち帰ったことは窃盗だから職員室に引きずっていく?
 穴を修繕してくれてありがとうと礼を言う?

「その前に聞く事があるんじゃない?」

 冬莉がアドバイスしてくれた。
 冬莉が村井君に聞いている。

「どうして穴が開いたのに気づいたの?」
「……ずっと見てたから」

 ずっと私の尻を見ていたのか?
 やっぱりただの変態か?

「ちゃんと言わないと村井君ただの変態だよ?」

 冬莉が言うと村井君は顔を赤くして恥ずかしそうに言った。

「ずっと酒井さんの事見てました。どうしてかは分かりません。でも同じクラスになってからずっと気になってた」

 私たちの学校は滅多にクラス替えはしない。
 理由は面倒だから。
 担任も3年間同じらしい。
 ってことは入学した時からという事になる。
 どうして?
 そんなに私良い尻してたっけ?
 すると冬莉が動き出した。

「じゃ、後は2人っきりにしてあげよう」

 冬莉が言うと瞳子と頼子は教室を出て行った。
 私と村井君の2人きりになった。
 私はどうすればいいんだろう?
 一つずつ疑問を解決していけばいいか。

「どうして私の尻をずっと見てたの?」
 
 そんなに自信のある尻じゃないよ?
 冬莉とかの方が余程良いと思うけど。

「分からない。でも気づいたらいつも酒井さんを見てるんだ」
 
 そんなに私の尻がいいのだろうか?
 まあ、良いって言われて悪い気はしない。
 気持ち悪いとは思ったけど。

「それでどうして私のパンツを修繕しようとしたの?」
「ずっと穴が空いてたから。おかしいとは思ったんだ。酒井さんの家は金持ちだし」

 まあ、家にはストックがある。
 持って来るのが面倒だから持ってこなかっただけだけど。
 村井君は裁縫とかが得意らしい。
 将来はファッションデザイナーになりたいと思ってるそうだ。
 だけど、家は一般家庭。
 専門学校に通うかどうかも悩んでるらしい。
 入学金がないとかじゃなくてデザイナーという不安定な仕事を続けることが出来るのか?
 弟や妹もいる。
 その子たちの服を修繕しているうちに才能を開花させたらしい。
 何となく理解した。
 尻じゃなくてパンツを見ていたのか。
 どっちにしろ文章にするとただの変態だな。
 だけどそこまで聞いたら否応なく気づいてしまう。
 冬莉達が私と村井君の2人にしたのはそういう理由だろう。
 少なくとも変態の線はないだろう。

「じゃ、そういう事だから。もう二度としないから。ごめんなさい」

 そう言って私の横を通り過ぎて教室を出て行こうとする村井君。
 私はとっさに村井君の腕を掴んでいた。
 驚く村井君。
 私も観念する時か。

「それだけでいいの?他に言うべき事あるんじゃない?」

 伝えたい事があるんじゃないの?

「村井君が私の事をどう思っていようと、ちゃんと口にしてくれない人と一緒になりたいとは思わない」

 もう十分恥は晒したでしょ?
 同じ恥をかくならもっと派手にかけ。
 そこまで言っても私の気持ちに気づかないの?

「僕はずっと酒井さんの事を見てきました……」
「それはさっき聞いた。回りくどい人嫌いなの」
「……僕は酒井さんの事が好きです」

 ちゃんと言えるじゃない。

「本当にこれからもそう言える?」
「え?」

 村井君は戸惑っていた。
 良くも悪くも私は女の子らしくない。
 毎日母親に言われていたんだからそう思ってる。
 だからこれから私は女の子らしくならないといけない。

「そんな無理しなくても今の酒井さんが好きなんだ」
「残念だけどそれは無理。だって私は村井君の為に綺麗にならないといけない」

 何日も風呂に入らないなんて真似は出来ない。
 髪の手入れだってしないと。
 本当は今抱きしめてキスをしたいくらいだけど、制服も何日も洗ってない。
 そんな状態で私は自分の初めてを村井君にあげる事はできない。
 それは村井君がどう思っていようと私が許せないの。
 それが「好き」って感情なのでしょ?

「本当に僕みたいなのでいいの?」

 初恋なんでしょ?

「村井君は違うの?」

 村井君は首を振った。
 私はにこりと笑う。

「お互い初めての恋愛なんだからちゃんとしようよ」
 
 私はまだ好きという感情が上手く理解できてない。
 だから村井君に教えて欲しい。
 そう言うと村井君は喜んでいた。

「よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく。いっくん」

 私がそう呼ぶといっくんは驚いていた。
 そんなに驚く事なのだろうか?
 恋人なら愛称くらいあってもいいんじゃないか?

「僕は何て呼べばいいの?」
「普通に泉でいいよ」
「わかった」
「スマホくらい持ってるよね?」
「うん」

 私はいっくんと連絡先の交換をする。
 すると外から志希の声が聞こえた。

「冬莉、まだ用事終わってないの?」
「志希、静かにして!」

 もう手遅れだよ。
 教室を出るとこっそり隠れて聞き耳立ててる冬莉達がいた。

「まあ、泉がどう対応するか気になっちゃってさ」

 そうだな。
 腕を組んだりして見せつけたいけど昨日風呂に入ってない。
 今日からはちゃんと風呂に入ろう。

「とりあえず付き合う事になった」
 
 私が結果報告する。

「よかったね」

 冬莉はそう言ってにやりと笑った。

「同じ環境にいた私から一つアドバイスさせてもらうね」

 何だろう?
 シンプルだった。

「凄く面倒だから」

(3)

「善君お風呂ちょっと待ってちょうだい」

 晶ちゃんが言う。

「何かあったのかい?」
「泉がお風呂に入るって言いだしたのよ」

 へえ、あの泉がね。
 何かあったのだろうか?

「晶ちゃんはその理由を知ってるのかい?」
「善君は娘の変化に鈍いみたいね」

 晶ちゃんはそう言って笑うと僕に耳打ちした

「……なるほどね。泉もついにか」

 善斗達にも恋人がいるし、これで僕達も少し寂しくなるのかな?

「それはおめでたいし、晶ちゃん少し飲まないかい?」
「そうね……お風呂すんでから……」

 晶ちゃんの動きが止まった。
 よくある光景だ。
 泉が下着だけつけてリビングにやって来た。

「脱衣所で服を着なさいとあれほど言ったでしょ!」

 晶ちゃんが怒り出す。
 よくある光景だ。
 僕は泉を見ないようにするだけ。
 誠君なら喜んで見るだろうけどね。
 僕は関わらないようにしていた。
 しかし泉が不可解の行動をする。
 泉は僕に背を向けて呼ぶ。

「私のお尻そんなにいいかな?」

 はい?

「ど、どうしたんだい?」
「いや、私の彼氏が尻見て惚れたって言うから」

 そんなにいい物だろうかと思って。

「馬鹿な事言ってないで早く部屋に戻りなさい」
「別に父親くらいいいじゃん。誠司の父さんは娘の尻を見たいって言ってたよ」

 そこで見たいって言ったら僕は生きていられないよ。
 泉が部屋に戻ると僕はため息を吐く。

「そんなに娘の裸見るの嫌なの?」

 晶ちゃんが言う。

「晶ちゃんは親に裸見せる子だったのかい?」
「それはなかったわね」

 どうしてああなってしまったんだろう?
 晶ちゃんも首を傾げている。
 晶ちゃんを困らせる泉が最強だよ絶対に。

「で、私のはどうなの?」

 まさか飽きたなんて言わないわよね?
 絶対言えるはずがない。

「あ、後で楽しみに取っとくよ」
「ありがとう」

 その晩僕はこっそり片桐君に電話したよ。
 石原君は普通の娘に育ったみたいだからね。
 多分相談するのは片桐君だと思ったんだ。
 でも間違っていた。
 一つ忘れていたことがある。
 片桐君の側には常に愛莉さんがいる。
 愛莉さんから叱られる。

「そういう相談を父親だけでするのは止めて!」

 ろくな話にならないんだから。
 そして愛莉さんは晶ちゃんに密告する。
 思いっきり怒られたよ。
 父親って難しいんだね。
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