姉妹チート

和希

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OVER THE RAINBOW

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(1)

「ガッデム」

 そう言って祈の眉間に水鉄砲を命中させる結莉。

「人に向けてやったらダメだって言っただろ」

 そう言って私は結莉を注意する。
 まだ早いと思ったのだが簡単な音くらいは発するようになった。
 ただ結莉の最初に覚えた言葉が「ガッデム」だった。
 これ直した方がいいんだろうか?
 ちなみに茉莉は「ボケナス」だった。
 今日は祈の家に遊びに来ていた。
 水鉄砲を浴びた祈は苦笑している。

「悪い」
「気にするな、天音の子らしくて安心したよ」

 祈は結莉に「おまわりさんに捕まっても知らないぞ」と笑って頭を撫でていた。

「朔はどうなんだ?」
「普通だよ」
 
 いたって健康な元気な子らしい。

「善明に似なくてよかった」

 祈はそう言って笑っていた。
 その朔は祈の腕の中で寝ている。

「しかし天音の子は凄い髪の色してるな。染めなくて大丈夫か?」
「いいんじゃね?」

 アニメだと普通にピンクや金髪がいるんだ。
 小説でいてもおかしくないだろ。
 茉莉は緑色、結莉は青色だった。
 そんなに派手じゃないから大丈夫だ。
 精々髪の無い禿げた教師が嫉妬するくらいだろ。
 祈達も親に家をプレゼントされて引っ越していた。
 陸も真っ直ぐ帰ってくるんだそうだ。
 初めての赤ちゃんに浮かれている。

「ほーら、パパが帰って来たぞ。元気にしてたか?」

 そう言って陸が朔を持ち上げると喜ぶんだそうだ。
 茉莉と結莉は運動能力も同世代では多分頭二つくらい抜けてるみたいだけど、食に対してはそれ以上の物があった。
 さすがに歯が生えそろってないけど、リビングに案内されてテーブルにあるクッキーを見つけるとそれを掴んで無理矢理噛もうとする。

「天音の子供だから多分想像以上だと思っていたけど、ここまでとは思わなかったぞ」

 祈が驚いていた。
 最近は私が昼食にラーメン食ってると「茉莉も!!」って言いだすようになった。
 ただ片桐家のしきたりは分かっている様だ。
 クッキーを必死に食べている間は静かにしている。
 静かにさせておきたいときはガムを噛ませておけば問題なかった。
 2人とも器用だ。
 風船ガムを噛ませると器用に膨らませていた。
 もちろんそんなところ愛莉に見せられるはずがない。
 何言われるかわかったもんじゃない。
 つい最近も実家に帰った時「ばあばですよ~」と愛莉が茉莉に話しかけたら「ばばあ!」と言い出して冷や汗かいた。

「ガムって……誤飲とか大丈夫なのか?」

 祈が聞いていた。
 茉莉も結莉も共通して言えるのは私がそれをどうしているかをちゃんと見て学んでいるところにある。
 だからガムは飲み込むものじゃないと知っている。
 心配はしていないと祈に説明した。
 朔は初めて会った茉莉と結莉を不思議そうに見ている。
 陸の子供だからか?
 もうすでに色気づいたんだろうか?
 ちなみに茉莉も結莉も朔の事は完全に無視してお菓子を食ってる。
 そんな茉莉と結莉を見て祈は不思議に思ったらしい。

「これのどの辺が大地なんだ?」

 それは私も悩んだ。
 銃に興味を持ったあたりだろうか?
 服装のセンスが大地に似たら最悪だ。
 それだけは注意してる。
 しばらく話をしていると陸が帰って来た。
 その時、ここが大地の特徴かと思った。
 陸がリビングに入って来るなり結莉はとっさに陸に水鉄砲を向けている。
 さすがに陸も驚いたらしい。

「悪い人じゃないよ」

 私がそう説明すると結莉は水鉄砲を床に置いた。
 そろそろ大地も帰ってくるだろう。
 
「私も帰って夕食の準備するよ」
「今度皆で集まれるといいな」
「私はそろそろ子どもを外に出してもいいみたいだけどな」

 その時朔が寂しそうに茉莉を見ていた。
 ……まさかな。
 家に帰って夕食の準備をしている。
 結莉と茉莉は2人でタブレットを触っていた。
 バトロワ系と呼ばれるゲームを2人でしていた。
 意思の疎通は出来てる様だ。
 しばらくすると結莉が何かを感づいたようだ。
 ハイハイして玄関に行く。
 心配はしてない。
 結莉がこの行動をするときはだいたい決まってる。

「ただいま~」
「パパ~」

 そう言って結莉が抱っこをせがむと、大地が結莉を抱きかかえる。

「おかえり」
「今日はどうだった?」
「祈の様子見に行ってた」
「どうだった?」
「まともに育ってるみたいだ」

 すると大地が考え込んでいた。

「やっぱり僕達の教育間違ってるのかな?」
「それはねーよ」
 
 間違っていたところを教えてやれば同じ間違いはしない。
 まだこれからいろいろ学習していくんだ。
 
「それよりお前は別の心配した方がいいぞ」
「どうしたの?」

 大地が聞くと私はにやりと笑った。

「朔の奴茉莉が気になってるようだ」

 さすがに動揺したらしい。
 
「気をつけてくれ、お前今結莉を抱いてるんだから」
「あ、ああ。ごめん」

 やっぱり大地も父親なんだな。
 
「彼氏連れてきたときは喜んでやれよ」
「そうだね……」

 その日大地は自分の父親に相談したそうだ。
 いくらなんでもまだ早いだろ。

(2)

「大地!すぐに家に帰ってきなさい!」

 何かやったかな?
 思い当たることは……色々あった。
 その中でも最大の心配事は結莉だ。
 天音の実家に帰った時に結莉がお義母さんに向かって「ガッデム」と言って水鉄砲を当てていた。

「そういう言葉遣いをしてはいけませんよ」

 と義母さんは結莉の頭を叩くけど。

「うっせーぼけなす」

 茉莉がそう言った。
 さすがに天音も慌てて、「結莉達のばあばだよ」って言ってたけど……

「ばばあ!」

 そう言って2人は笑っていた。
 それに結莉がはじめて「ガッデム」と言って水鉄砲を向けたとき咄嗟に僕は銃を向けてしまった。
 姉さんは黙っておくと言ったけど天音がポロリと言ったらしい。
 とりあえず天音と子供を連れて実家に帰る。
 どうしようかと悩みながら呼び鈴を押す。

「あ、大地。おかえり」

 母さんが玄関に出た。
 すると案の定結莉が始めた。

「ガッデム」

 そう言って母さんに水鉄砲を命中させる。
 水鉄砲を取り上げた方がいいんじゃないか?
 そう善明に相談したことがある。
 だけど善明はそれは止めた方がいいと言った。

「水鉄砲で済んでいるうちはいい」

 だけどコインを弾き飛ばすようになったら取り返しがつかない。
 そんな理由で水鉄砲を持たせていた。
 しかし今回は相手が悪い。
 僕も天音も父さんも顔色が悪くなる。
 だけど母さんの反応は意外だった。

「結莉ちゃんはすごいねえ。ばあばはやられちゃったよ」

 そう言って結莉の頭を撫でている。

「とにかく上がりなさい」

 母さんがそう言うから家に入ってリビングに行く。
 話があるみたいだから天音は2人にガムを噛ませていた。
 時々ぷくぅと膨らませながら大人しくしている。

「凄い子になったわね」

 母さんも驚いたらしい。

「話は愛莉ちゃんから聞いたよ。大地、何やってるの?」

 父さんから叱られた。
 僕が結莉に拳銃を向けた事だろう。
 その通りだった。
 しかし怒られる理由が若干違った。

「海外では胸ポケの名刺を取り出そうとした時点で撃たれてもしょうがない国だってあるんだ」

 危機管理が甘いんじゃないのか。
 まず結莉から武器を取り上げるか、自分の身を隠すか。
 それが僕が取るべき行動だったと言う。
 結莉がもし将来僕と同じ行動をして撃たれたら取り返しがつかないよ?
 父さんが言う。

「あ、あの。大地はこう見えてしっかり父親の役をやってくれてるんです」

 天音が弁護してくれた。
 僕も娘の前では好き嫌いを控えてる。
 こっそり嫌いな物を取り除いたりしてくれてるけど。
 でもそんな大地を見て「これは食べられる物だ」と理解して食べている。
 ナイフは他人に向ける物じゃないと叱っていた。
 それでも結莉達は泣かない。
 僕が甘いからじゃない。
 茉莉達に納得のいくように何度も辛抱強く僕が教えてるから。
 入浴だって嫌がることなく手伝ってくれてる。
 寝かしつけるのも僕がしている。
 ちゃんと父親をやってくれてると天音が言う。
 しかし母さんの意見は違うみたいだ。

「天音ちゃん何か誤解していない?」
「え?」

 天音も驚いたみたいだ。
 そんな天音を見て笑う。

「天音ちゃんが私を怖がるのも分かる」

 天音にとって母さんは姑だから。
 それでも天音の実家ばかりでなくてたまには家にも遊びに来て欲しい。
 元気な孫が見たい。
 ただそれだけだった。

「どういう躾をしているかは愛莉ちゃんから聞いてる。でもそれじゃ寂しいじゃない」
「す、すいません」
「でも姉さんの方は大丈夫なの?」

 僕が母さんに聞いていた。

「美希は片桐家に嫁いだのよ?そんなに干渉していいものでもないでしょ」

 まだ生まれて間もないから様子見にたまに行ってるだけだという。
 教育方針等も姉さんと空で悩んでいけばいい。
 困った時も片桐家の指針に従えばいいだろうと母さんが言う。

「せっかく来たのだから夕食でも一緒にどう?」
「はい」

 そして夕食を食べながら話をしていた。
 1歳に満たない子が肉を必死に食べようとしている姿は母さん達にとって微笑ましい物だったのだろう。
 父さんが言う。

「天音と大地の子だからね。ある程度は覚悟していたよ」

 物心ついたらマナーとかをしっかり教えるから気にしないでいい。
 その好奇心溢れた心を大事にしてやりなさい。
 父さんはそう言った。
 夕食が終ると僕達は家に帰る。

「すまん、大地の家にも行くべきだった」

 母さんが来なくなってから一度も挨拶してなかったらしい。
 
「そんなに気にすること無いよ」

 単に孫の顔を見たかったんだろ。
 天音も2人の娘の世話等で忙しいだろうから、下手に家に来て気づかいさせたくなかったんだろう。

「色々親って大変なんだな」
「僕もまだまだだったよ」

 とりあえずまだ僕は射殺されずに済んだようだ。
 今はまだひたすら成長していくのを見守るだけ。
 間違った方向に成長しないように。
 
(3)

「で、何の話をしようとしていたわけ?善君」
「い、いや……大した話じゃないんだよ晶ちゃん」

 僕達と片桐夫妻と石原夫妻で居酒屋に来ていた。
 理由は石原君にあった。

「くたばればばあ」

 そんな事を言って嬉しそうに水鉄砲を撃つ結莉ちゃん。
 このまま放っておいていいのだろうか?と大地に相談されたそうだ。
 まあ、大地と天音の子だからね。
 普通の子にはならないだろうと予感はしてたよ。
 水鉄砲なんて持たせるべきじゃなかったかと善明に相談したそうだよ

「絶対に電気を放つとか無茶苦茶な能力を持たせる羽目になるから止めた方がいい」

 理由が滅茶苦茶な気がするけど善明はそう答えたらしい。
 ちなみに秋久はやっぱり僕の孫の様だ。
 陽葵と菫には絶対逆らえないらしい。
 食事に対しても全く興味を示さないらしい。
 必要最低限だけ補給して力を蓄える。
 この子はサバイバル術でも学ぶ気でいるのかと不安を抱えながら善明の話を聞いていた。

「あの言葉遣いはちょっと直さないとまずいのでは」

 愛莉さんが言ってた。
 孫に面と向かって「ガッデム」なんて言われたら不安にもなるよね。
 多分結莉ちゃんの中では”こんにちは”程度にしか思っていないのだろう。

「冬夜さんはどう思ってるんですか?」
 
 愛莉さんが片桐君に聞いていた。

「2人とも凄いと思う」
「翼も言ってましたけど何が凄いんですか?」

 愛莉さんが聞くと片桐君が答えた。
 初めて見た時から違和感があったけど、最近になってそれがはっきりした。
 それは翼や空も感じたらしい。
 結莉と茉莉はまだ1歳にも満たない子なのに相手の間合いに入ることを嫌ってるらしい。
 そして相手が敵意の無い人間だと納得すると警戒を解くんだそうだ。

「最初は僕と天音の間に入るからなんだろう?って思ったんだけどね。天音を守ってるのかと思ったらそうじゃなかったらしい」

 瞬時に相手の戦闘能力を把握するみたいだ。
 それは天音にも無かった能力。
 きっと大地の血が流れているからだろうと片桐君は言っていた。
 
「翼の子はどうなの?」

 恵美さんが愛莉さんに聞いていた。

「陽葵も菫も元気みたい」

 元気に秋久を嬲っているそうだ。

「しかし秋久は問題ないんじゃないの?」

 そもそもなんでこの話に善君がいる必要があったの?
 晶ちゃんはそう言った。
 
「ああ、僕が相談があるって誘ったんです」

 石原君が言う。
 孫の事で悩みがあるから話をしないか。
 片桐君と石原君と僕の3人で飲むはずだった。
 しかし僕は晶ちゃんに呼び止められた。

「こんな時間にどこに行くの?」
「ああ、ちょっと石原君に呼び出されてね」

 居酒屋で相談でもしようって。
 
「……多田君や桐谷君ほどじゃないけど男3人てのはちょっと気になるわね」

 そう言って晶ちゃんは愛莉さん達にすぐに知らせる。
 そうして6人になった。

「で、善君は陽葵や菫、秋久に何が問題があると思ってるの?」
「晶ちゃんは秋久の目を見て何か思うところはなかったかい?」

 まるで人生を投げてるような諦めてるような目をしている。
 祈の息子の朔とは雲泥の違いだ。
 陽葵と菫の方は心配していない。
 きっと強い女性に育つよ。
 善明の手に負えるか分からないくらいの。

「……それなら問題ないでしょ?」

 物心ついたらアラスカに旅行させたらいい。
 旅行とはまた聞こえの良い言葉だね。
 アラスカで何をさせるのかはもう読者でも察しがつくだろう。
 その斜め上をいく訓練だよ。

「でも、冬夜さんはどうしてそういう相談を私にしてくれないんですか?」

 愛莉さんが聞いていた。

「望もよ。どうして私にしないの?」

 恵美さんも同じ意見の様だ。

「いや、男親同士で通じる事があるんだよ」
「誠君ほどじゃないと思っていたけど却下です」

 片桐君が言うと愛莉さんが全否定した。
 孫娘の心配と言えば聞こえはいい。
 しかし彼氏ができたらとかそういうレベルじゃない。
 そのうち死人を作りそうなレベルの問題だ。
 結莉ちゃんは間違いなく闇社会に飛び込んでいきそうな勢いだ。
 片桐君だって心配にもなるだろう。
 まあ、片桐君もギリギリ死人を出してないだけだけど。
 僕は大丈夫だよ。
 ロケットランチャーを顔面に食らってびくともしない化け物としか戦ってないからね。
 殺せと言う方が無理があるよ。
 
「やっぱり天音の教育に問題があるんでしょうか?」
「結莉ちゃん達は問題ないわよ。その辺は大地達に任せておけばいいでしょう」

 愛莉さんと恵美さんが話している。
 初対面の人に「ガッデム」と言う子に問題が無いと言える恵美さんが凄いよ。
 あの二人に女性らしい特徴はほとんどない。
 近接戦闘を選ぶか狙撃手を選ぶかくらいの違いしかないらしい。
 言っとくけどこの世界でもそんな求人無いよ。

「天音だって大地と付き合いだして変わったし何とかなるんじゃないかな」

 僕が助け舟を出した。
 山に高校生を生き埋めにしたところのどこが変わったのかと言われると僕自身わからないけど。

「僕の両親の真似をすればいいんじゃないかな?」

 片桐君が言っていた。
 片桐君の両親は子供の教育をどうやっていくか観察だけしてたらしい。
 片桐君が親として正しい判断が出来るかその手腕を試していたそうだ。
 もっとも片桐君が父親から言われた言葉は「まだ孫はいらん」てだけらしいけど。
 母親からは「愛莉ちゃんに恥かかせるな」と言われたらしい。
 まあ、それでも空や翼のように立派に育っていた。
 逆刃刀持って暴れる様子のどこが立派なのかは分からないけど。
 
「まあ、子供達を信じるしかないんでしょうね」

 石原君が言う。

「善君は孫の心配するより泉の心配をしてちょうだい」

 晶ちゃんが言う。

「晶……それ多分恋人が現れて変わる事に賭けるしかないかもしれない」

 愛莉さんが言っていた。
 愛莉さんにも茜と冬莉という晶ちゃんと同じ問題があった。
 だけど冬莉は彼氏が出来て変わったらしい。
 茜は一緒に暮らすと面倒だから実家でいいと言ったらしいけど。
 だから愛莉さんは「賭ける」という言葉を選んだのだろう。

「泉に彼氏が出来る気がしないわ……」

 晶ちゃんをここまで悩ませる泉が最強キャラじゃないのかと思えてしまう。
 その後も色々相談をしたけど「もうしばらく様子を見よう」という結論になった。
 まあ、陽葵と菫はともかく茉莉ちゃんと結莉ちゃんですら1歳に満たないからね。
 その時期で「ガッデム」とか言い出したから不安を覚えたんだろうけど。
 
「でも、冬夜さん。一つだけ気がかりがあるのですが」
「どうしたの愛莉」
「さっきから話に出てくるのは天音や翼の子供の事だけじゃないですか」

 空の子供は大丈夫なのか?
 片桐君は美希達に聞く前に結の名前を的中させたらしいからね。
 
「あら?比呂なら元気に育ってるじゃない」

 ありえない程赤ちゃんらしい元気な行動をとっているらしいと恵美さんが言う。
 だけど愛莉さんは首を振る。

「翼が言ってたの。結には”心がない”って」

 感情を全く露わにしない赤子。
 秋久のような感じなのだろうか?
 そうではないみたいだ。
 まるで機械的に”情報”だけをひたすら集めていく機械のような子。

「それでいいんじゃないかな?」
 
 他人事の様に片桐君は言う。
 君の孫の話だよ?

「どうしてですか?」
「翼は言っていた。あの子はすでにいくつもの”能力”を秘めているって」

 そして厄介なことに無邪気にその能力を使うわけじゃない。
 だから空も美希も気づいていないのだろう。

「それのどこが大丈夫なの?」
「例えば結莉や茉莉がそうだったらどうなる?」

 文字通り誰の手にも負えない赤ちゃんだ。
 結はそれを弁えているから冷徹に状況を”分析”しているんだろう。
 片桐家の子供というのはまともに生まれてこないのだろうか?

「そのうちきっとあの子が感情を表に出す時が来るよ」
「それはいつなんですか?」
「……みんな忘れていない?」

 これは恋愛物語だよ。
 策者が一番忘れていそうな事なんだけどね。

「何かあったら僕から空達に伝えるよ」

 そう言って僕達は店を出る。
 店を出ると「今度は夏に会おう」って言って解散した。
 家に帰ると子供達は風呂に入っていたので……泉は別だけど。
 晶ちゃんが懸命に説得してる。

「善君からも何か言って!」

 多分僕が口を出すと面倒な事になると思うんだけど。

「泉、せめて外出した日くらい風呂に入らないかい?」

 泉は僕の顔を見てにやりと笑った。
 絶対嫌な予感がする。

「じゃあ、パパ一緒に入ろう?」

 言うと思ったよ。

「馬鹿な事言うんじゃありません。善君は私とも入ってくれないのよ」

 論点が若干ずれてる気がするのは僕だけかい?
 まあ、いやいや着替えを持って風呂に向かう泉。
 女の子とは思えないほどの早さで出てくる。
 多分シャワー浴びただけだろう。
 せめて髪の手入れだけでもした方がいいんでないかい?
 まあ、着替えただけでもましなんだろう。
 泉は中学生。
 休みじゃなかったら着替えない。
 放っておいたら一日中制服でいる。
 泉が部屋に入ったのを見て僕達も風呂に入って寝室に向かう。

「まだまだ気苦労は絶えないわね」
 
 珍しく晶ちゃんが困っている。

「僕もまだ引退には早そうだね」
「そうね」

 晶ちゃんはそう言って笑みをこぼした。
 人生というのはゴールは無いのかもしれない。
 あったとしてもその思いは永遠に続く。
 信じたくない出来事をいくつも乗り越えていく。
 惰性でも妥協でも堕落でも。
 それでも空へ駆けあがる気持ちがあるのなら、素敵な感覚になるのだろう。
 永遠という素敵な安らかな時間に届くまで。 
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