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Survival dance
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(1)
「え?俺に?」
「そう、秋斗に」
突然の話だった。
「秋斗今好きな人いる?」
夏弥に聞かれた。
「いないけど」
「じゃあ、決まり」
スマホを出すように言われる。
そしてSHに招待される。
って夏弥SHのメンバーだったのか?
「まあな」
そう言って夏弥は笑っていた。
「で、なんで俺までSHに?」
ていうか入る理由があるのか?
「秋斗は彼女欲しくないか?」
「……まあ、欲しいけど」
「じゃあ、問題ない!」
だからなんで?
「細かい事は気にするな。あと頑張れよ」
そう言って夏弥は自分の部屋に戻った。
しばらくしてスマホが鳴る。
「秋斗って奴いるか?」
「俺っすけど?」
「今フリーか?」
「そうっすけど?」
「分かった今度の祝日に駅前に来い」
なんで?
「細かい事は気にするな。お前の望みを叶えてやるよ」
水奈という人間がそう言った。
夏弥の部屋に言って事情を聴いてみる。
「好きな人いないなら誰でもいいだろ?」
は?
SHにフリーの女性がいるから会わせてやる。
そういう話だったそうだ。
顔はお互い会うまで楽しみにしとけ。
大丈夫なのか?
「俺も紹介してもらったから問題ないよ」
夏弥は言う。
「せめて名前くらい教えてくれないか?」
俺は夏弥に聞いてみた。
「高槻桃花」
同い年らしい。
現在彼氏募集中。
だから問題ないって言ったろ?
夏弥はそう言った。
まあ、会うだけ会ってみたらどうだ?
無理なら仕方ないだろうけど。
多分大丈夫。
夏弥はそう思ったらしい。
こんな適当な出会いでいいのか?
それなりの恰好はするべきなんだろうか?
お見合いとも取れる。
スーツ着ていった方がいいのか聞いてみた。
「ただ会ってみろってだけだからそこまですると彼女の方が引くぞ」
夏弥が言うので普段着で行くことにした。
(2)
「お疲れ様でした」
机の周りを片付けて帰ろうとする。
「あ、高槻さんちょっと待って」
片桐先輩に呼び止められた。
「どうしました?」
「SHのチャット見た?」
ああ……。
「祝日の日に駅前ですよね?」
「うん、水奈とは面識あるんだろ?」
「はい」
「本当は僕も同行した方がいいんだろうけど……」
そう言って片桐先輩は社長室を見る。
社長は片桐先輩の父親。
そして私達を利用して揶揄って遊んでる困った人。
片桐先輩は何度も私達のやりとりを社長に見られて嫁の美希さんと揉めてるらしい。
美希さんを放って私達と遊んでいたら何を言われるか分からない。
それでSHに私の従姉の水奈達に立ち会ってもらう事になった。
水奈なら夫の学がついてくる。
私もいきなり2人で会えと言われても困る。
男と遊んだことが無いわけじゃないけど……どうしたらいいか分からない。
嫌な言葉がどうしても思い浮かぶ。
楠木秋斗。
それが私の彼氏候補らしい。
SHの人間だから大丈夫だと片桐先輩は言った。
だけどSHの名前の強さを悪用してる輩もいる。
少なくとも九州圏内ではその強さは通用するだろう。
そのSHのリーダーが片桐先輩らしい。
余り2人で話していると社長がまた悪だくみをする。
必要な事だけ話して私は帰った。
「お帰り、仕事はどう?」
母さんが言った。
「いつも通り、まだ慣れないけど」
私の指導についている片桐先輩は凄く優しい。
「一度に全部覚えようとしなくていい。一つずつでもいいから納得いくまで質問して欲しい」
勘違いしたまま覚えられたらそれこそ大惨事になる。
まだ見習い期間なんだからあわてないでいい。
とても優しい人。
美希さんがいなかったら私が彼のパートナーになりたいくらいだ。
それは当然秘密にしていた。
でもそんな私の気持ちを多分社長は読み取っているだろうと母さんが言ってた。
母さんは社長の後輩。
社長がバスケで活躍していた時にマネージャーをやったらしい。
母さんの兄の伯父は言っていたそうだ。
「バスケだろうとサッカーだろうと冬夜にボールが渡った時が一番怖いんだ」
伯父はサッカーの選手。
FWというポジションが災いして天才FWと称された選手の中に埋もれて代表には選ばれなかった。
だけど、クラブワールド杯で地元チームを優勝に導いた。
まだ現役を続ける力はあったけど、後は若い選手に任せるといって引退した選手。
世界のクラブでプレイしていた天才FWよりも実はすごい選手だったんじゃないかと言われたほどだ。
その証拠にそのクラブと試合をして勝ち上がっていったのだから。
母さんも自分の兄を尊敬していたらしい。
それある日突然軽蔑に変わる。
友達の桐谷瑛大達と過ごす大学生活は最悪だったらしい。
何度も自分の恋人と喧嘩をしていたそうだ。
それでもいいんじゃないかと思ったけど。
「さすがに母さんの生着替えを見たいとか言われたらね」
母さんはそう言って笑っていた。
父さんも社長と一緒に10分間だけ同じコートに立って試合をしたらしい。
社長の名前は片桐冬夜。
彼の前にも後にも日本代表に五輪でバスケでメダルを勝ち取った者はいない。
そんな人の下で働けるのならと片桐税理士事務所を選んだ。
社長はとにかくすごい。
自分の息子の片桐空にも決して贔屓しない。
むしろ厳しくあたっているように見える。
自分の後を継ぎたいのならその実力を身につけてみせろ。
そう言わんばかりに指導している。
そんな片桐先輩の補佐として私は働いていた。
十分凄い実力を身につけていると思った。
私はまだ未熟なんだと見せつけられた。
彼の足を引っ張らないように日々頑張っている。
そんな話をしながら夕食を終えると風呂に入って部屋に戻る。
当日何を着て行こう?
そんな事を考えたのはいつぶりだろう?
スマホでSHのグルチャを見ながら当日を楽しみにしてた。
(3)
「水奈?」
「お、桃花。久しぶりだな」
小学生の時に一度あったくらいか?
私はとりあえず桃花の胸を見ていた。
千歳も割と普通にあったな。
桃花も同じみたいだ。
と、なるとやっぱり母さんの血統なんだろうか?
天音の奴も「私は妹に負けたぞ!」と荒れていたからなぁ
「心配するな。俺だけで十分だろ」
そう言って学が頭を小突く。
「学だって相手してくれないじゃないか!」
「休みの日は相手してるだろ?」
今日も帰ったら相手してやるからまずは今日の目的を思い出せ。
あ、そうだった。
「えーと、秋斗はどこだ?」
私が探している間学はスマホを弄っている。
コーヒーショップにいるそうだ。
早速コーヒーショップに入るとそれらしい男性がいた。
体格は良さそうだ。
かなり筋肉質の体をしていた。
「お前が楠木秋斗?」
「はい、えーと高槻桃花さん?」
「あ、それはこっち」
そう言って私は隣にいた桃花を指す。
桃花は女性としては平均的に身長が高い。
太ももが女性らしくないからとスカートを好んでいる様だ。
名前で服装を決めてしまえと思ったのか。
薄いピンクのワンピースを着ていた。
髪はバスケを辞めてから伸ばし始めたらしい。
まだ肩にかかる程度だった。
「初めまして。高槻です」
「は、初めまして。楠木です」
そのまま少しコーヒーショップで時間を潰した。
楠木秋斗は母親の会社の白鳥コーポレーションに勤務している。
今の社長は父親。
将来は2人で背負っていくらしい。
将来性のある好物件じゃないか。
秋斗も桃花の話をじっと聞いていた。
緊張しているのだろうか。
「秋斗はカラオケとか行くのか?」
「あまり行かないですね」
せいぜい同期の友達と飲む時くらいだという。
「普段は何をしているのですか?」
桃花が自ら質問していた。
「読書とか音楽鑑賞とか……」
クラシックとかUKロックとかが好みらしい。
なんかすごい幅広いな。
「水奈。そろそろ時間だ」
「あ、映画とかが良いかなと思ってチケット買っておいたんだ。行こうぜ」
初デートで映画ってどうなんだと思ったけど、昼食の時に話の種くらいになるだろう。
しかし私達も善明と同じ運命の様だった。
何を考えてやがる。
なんでデートの映画でホラーなんだ。
それもどう考えてのB級ホラーじゃねーか!
なんでもコラボすればいいってもんじゃねーぞ。
そして内容も酷かった。
お化けにお化けをぶつければいいってもんじゃねーだろ!
しかも後半になるにつれて役者がやる気が無さそうに見えてくる。
役者が何かお祓いをしてるような仕草をした時私は笑いそうになるのを堪えた。
学を見ると苦笑している。
天音だったら2秒で爆睡するだろうな。
そんな苦痛を90分ちょっと過ごして昼飯にする。
当然映画について触れようと誰もしなかった。
こんなので怖がるのは私が知ってる限りでは翼くらいだろう。
下手すれば翼でも寝てしまうかもしれない。
「秋斗さんはどんな映画が好きなのですか?」
「あまり最近見ていないんだけど……」
ラブストーリーが好きらしい。
もちろんまともなラブストーリー。
昔大地達が見て天音と翼が爆睡してたのとは違う。
謎の病に蝕まれていくバイオリニストとピアニストの中学生の話。
間違ってもICUに入ってる患者を外に連れ出して子作りするような馬鹿な話じゃない。
……あれはドラマにもなった。
天音が丁度小説という名の紙切れを読んでいたので気になって少しだけ見た。
ほんの少しだった。
2分でチャンネル変えた。
とりあえず秋斗は意外に夏弥とは対照的な人間なんだなってわかった。
「この後どうする?」
昼食の後、学が聞いていた。
まあ普通ならボーリングかカラオケか。
「ボーリングにするか」
多分カラオケだと秋斗が苦戦しそうだ。
私もこの面子でデスメタルを歌うのは気が引ける。
天音なら気にしないんだろうけど。
天音はデートで爆睡するからな。
私も他人の事言えないけど。
それにボウリングならペアで対戦できる。
2人で話す時間がとれるはず。
私の思った通り2人で話しをしていた。
いい雰囲気だ。
これなら大丈夫……だと思うけど何か違和感を感じた。
なんだろう?
「どうかしたのか?」
学が聞いた。
なんか違和感を感じると伝えた。
学もそれを知っていた。
「多分高槻さんが問題じゃないのかな?」
「どういうことだ?」
「確か高槻さん失恋したって言ってたな?」
「ああ、そう聞いてる」
「たぶんそれだろう」
学は言った。
「彼女は恋に怯えている」
(4)
とても好感度の高い男性だった。
些細な事も気が利いてくれる。
それとなく雰囲気を作ってくれる。
こんなに優しい人が彼氏になってくれるなら私は大歓迎だ。
だけど……。
楠木さんはどう思っているのだろう?
私の事をどう思っているのだろう?
この恋は逃しちゃいけない。
神様が教えてくれる。
だけど私からとても言えない。
そして私の警戒心が彼に同じ思いをさせてるかもしれない。
たった一言伝えたらいいのに……。
私を臆病にさせる一言
「お前は一生バスケやってろよ」
初めての彼氏から言われたサヨナラの言葉。
ボウリングが終ってゲーセンで遊んで、夕食を食べて帰ろうという時に水奈が動いた。
「桃花は今日何をしに来たんだ!?」
水奈が突然叫ぶ。
今日こそは、この夜こそは、この街できっと見つかると思って来た。
だけど……。
「どんなに悔やんでも足跡は消えないんだぞ」
だから悔んでもしょうがない。
この夢こそは、この恋こそは、……このチャンスだけは逃したくない。
泣いても悔やんでも消せない思い出。
だけど映画の幕の様に終ることはない永遠に続くダンス。
なのにこれ以上また後悔を増やすのか。
頑張る時があるとしたら今だ!
私は楠木さんの手を取る。
「桃花……これからはそう呼んでくれませんか?」
楠木さんは私の事をじっと見ていた。
「俺では桃花の相手が務まらない、そう思っていたんだけど」
「それは私のせいなの」
私が恋に怯えているから。
あんなに寂しい思いをしたくないから。
一人だと震えが止まらなかったから。
すると楠木さんは私の事を抱きしめてくれた。
「そういう事なら分かったよ。俺がその寂しさから守ってあげる」
嬉しいのに涙が出るのは何故?
「ありがとう……」
「俺の事も秋斗でいいよ」
「うん」
そんな私達を見て水奈は頷いていた。
「じゃ、私達夕食食って帰るから夜は別行動にしようぜ」
「え、でも……」
「秋斗だって女性の扱い方くらい知ってるだろ?楽しい夜にしろよ」
「そんな急に無理だよ」
「私達だって二人でいちゃつきたいんだ。少しは気を使ってくれ!」
「それは今日じゃなくてもいいだろ?」
学が言っていた。
だけど水奈は学を引きずっていく。
「お前は私が誘わないとその気になってくれないだろ!」
そして二人はそう言って商店街に向かって行った。
「良かったら夕飯くらい食べて帰らないか?」
お互い車で来ただろうし、いきなりは無理だろうから。
そういう秋斗に私は言った。
「それなら心配しなくていいよ」
水奈は私に伝えていた。
「絶対うまく行くからバスで来い!2人とも車じゃ夜困るだろ!?」
あと下着くらい準備しておけ。
そう言うと秋斗は咳払いをした。
「いや、初めて会ってそれはさすがに」
「私ももう22歳。母さんだってそんなに五月蠅く言わないと思う」
それにお互い実家なんだからこの先も遠慮してしまうかもしれない。
「お、俺そんなに慣れてないんだけど大丈夫かな?」
困っている秋斗の顔を見てると楽しかった。
「私彼氏はいたけど一緒に寝た事はないよ」
「……とりあえず夕食食べに行こうか?」
秋斗はそう言って笑った。
結局夕食を食べて夜景の綺麗な場所で初めてのキスをして彼は私を送ってくれた。
私のほんの少しの勇気が幸せをもたらしてくれた。
次は彼が私に幸せを与えてくれるのだと知るのにそんなに時間がかからなかった。
「え?俺に?」
「そう、秋斗に」
突然の話だった。
「秋斗今好きな人いる?」
夏弥に聞かれた。
「いないけど」
「じゃあ、決まり」
スマホを出すように言われる。
そしてSHに招待される。
って夏弥SHのメンバーだったのか?
「まあな」
そう言って夏弥は笑っていた。
「で、なんで俺までSHに?」
ていうか入る理由があるのか?
「秋斗は彼女欲しくないか?」
「……まあ、欲しいけど」
「じゃあ、問題ない!」
だからなんで?
「細かい事は気にするな。あと頑張れよ」
そう言って夏弥は自分の部屋に戻った。
しばらくしてスマホが鳴る。
「秋斗って奴いるか?」
「俺っすけど?」
「今フリーか?」
「そうっすけど?」
「分かった今度の祝日に駅前に来い」
なんで?
「細かい事は気にするな。お前の望みを叶えてやるよ」
水奈という人間がそう言った。
夏弥の部屋に言って事情を聴いてみる。
「好きな人いないなら誰でもいいだろ?」
は?
SHにフリーの女性がいるから会わせてやる。
そういう話だったそうだ。
顔はお互い会うまで楽しみにしとけ。
大丈夫なのか?
「俺も紹介してもらったから問題ないよ」
夏弥は言う。
「せめて名前くらい教えてくれないか?」
俺は夏弥に聞いてみた。
「高槻桃花」
同い年らしい。
現在彼氏募集中。
だから問題ないって言ったろ?
夏弥はそう言った。
まあ、会うだけ会ってみたらどうだ?
無理なら仕方ないだろうけど。
多分大丈夫。
夏弥はそう思ったらしい。
こんな適当な出会いでいいのか?
それなりの恰好はするべきなんだろうか?
お見合いとも取れる。
スーツ着ていった方がいいのか聞いてみた。
「ただ会ってみろってだけだからそこまですると彼女の方が引くぞ」
夏弥が言うので普段着で行くことにした。
(2)
「お疲れ様でした」
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片桐先輩に呼び止められた。
「どうしました?」
「SHのチャット見た?」
ああ……。
「祝日の日に駅前ですよね?」
「うん、水奈とは面識あるんだろ?」
「はい」
「本当は僕も同行した方がいいんだろうけど……」
そう言って片桐先輩は社長室を見る。
社長は片桐先輩の父親。
そして私達を利用して揶揄って遊んでる困った人。
片桐先輩は何度も私達のやりとりを社長に見られて嫁の美希さんと揉めてるらしい。
美希さんを放って私達と遊んでいたら何を言われるか分からない。
それでSHに私の従姉の水奈達に立ち会ってもらう事になった。
水奈なら夫の学がついてくる。
私もいきなり2人で会えと言われても困る。
男と遊んだことが無いわけじゃないけど……どうしたらいいか分からない。
嫌な言葉がどうしても思い浮かぶ。
楠木秋斗。
それが私の彼氏候補らしい。
SHの人間だから大丈夫だと片桐先輩は言った。
だけどSHの名前の強さを悪用してる輩もいる。
少なくとも九州圏内ではその強さは通用するだろう。
そのSHのリーダーが片桐先輩らしい。
余り2人で話していると社長がまた悪だくみをする。
必要な事だけ話して私は帰った。
「お帰り、仕事はどう?」
母さんが言った。
「いつも通り、まだ慣れないけど」
私の指導についている片桐先輩は凄く優しい。
「一度に全部覚えようとしなくていい。一つずつでもいいから納得いくまで質問して欲しい」
勘違いしたまま覚えられたらそれこそ大惨事になる。
まだ見習い期間なんだからあわてないでいい。
とても優しい人。
美希さんがいなかったら私が彼のパートナーになりたいくらいだ。
それは当然秘密にしていた。
でもそんな私の気持ちを多分社長は読み取っているだろうと母さんが言ってた。
母さんは社長の後輩。
社長がバスケで活躍していた時にマネージャーをやったらしい。
母さんの兄の伯父は言っていたそうだ。
「バスケだろうとサッカーだろうと冬夜にボールが渡った時が一番怖いんだ」
伯父はサッカーの選手。
FWというポジションが災いして天才FWと称された選手の中に埋もれて代表には選ばれなかった。
だけど、クラブワールド杯で地元チームを優勝に導いた。
まだ現役を続ける力はあったけど、後は若い選手に任せるといって引退した選手。
世界のクラブでプレイしていた天才FWよりも実はすごい選手だったんじゃないかと言われたほどだ。
その証拠にそのクラブと試合をして勝ち上がっていったのだから。
母さんも自分の兄を尊敬していたらしい。
それある日突然軽蔑に変わる。
友達の桐谷瑛大達と過ごす大学生活は最悪だったらしい。
何度も自分の恋人と喧嘩をしていたそうだ。
それでもいいんじゃないかと思ったけど。
「さすがに母さんの生着替えを見たいとか言われたらね」
母さんはそう言って笑っていた。
父さんも社長と一緒に10分間だけ同じコートに立って試合をしたらしい。
社長の名前は片桐冬夜。
彼の前にも後にも日本代表に五輪でバスケでメダルを勝ち取った者はいない。
そんな人の下で働けるのならと片桐税理士事務所を選んだ。
社長はとにかくすごい。
自分の息子の片桐空にも決して贔屓しない。
むしろ厳しくあたっているように見える。
自分の後を継ぎたいのならその実力を身につけてみせろ。
そう言わんばかりに指導している。
そんな片桐先輩の補佐として私は働いていた。
十分凄い実力を身につけていると思った。
私はまだ未熟なんだと見せつけられた。
彼の足を引っ張らないように日々頑張っている。
そんな話をしながら夕食を終えると風呂に入って部屋に戻る。
当日何を着て行こう?
そんな事を考えたのはいつぶりだろう?
スマホでSHのグルチャを見ながら当日を楽しみにしてた。
(3)
「水奈?」
「お、桃花。久しぶりだな」
小学生の時に一度あったくらいか?
私はとりあえず桃花の胸を見ていた。
千歳も割と普通にあったな。
桃花も同じみたいだ。
と、なるとやっぱり母さんの血統なんだろうか?
天音の奴も「私は妹に負けたぞ!」と荒れていたからなぁ
「心配するな。俺だけで十分だろ」
そう言って学が頭を小突く。
「学だって相手してくれないじゃないか!」
「休みの日は相手してるだろ?」
今日も帰ったら相手してやるからまずは今日の目的を思い出せ。
あ、そうだった。
「えーと、秋斗はどこだ?」
私が探している間学はスマホを弄っている。
コーヒーショップにいるそうだ。
早速コーヒーショップに入るとそれらしい男性がいた。
体格は良さそうだ。
かなり筋肉質の体をしていた。
「お前が楠木秋斗?」
「はい、えーと高槻桃花さん?」
「あ、それはこっち」
そう言って私は隣にいた桃花を指す。
桃花は女性としては平均的に身長が高い。
太ももが女性らしくないからとスカートを好んでいる様だ。
名前で服装を決めてしまえと思ったのか。
薄いピンクのワンピースを着ていた。
髪はバスケを辞めてから伸ばし始めたらしい。
まだ肩にかかる程度だった。
「初めまして。高槻です」
「は、初めまして。楠木です」
そのまま少しコーヒーショップで時間を潰した。
楠木秋斗は母親の会社の白鳥コーポレーションに勤務している。
今の社長は父親。
将来は2人で背負っていくらしい。
将来性のある好物件じゃないか。
秋斗も桃花の話をじっと聞いていた。
緊張しているのだろうか。
「秋斗はカラオケとか行くのか?」
「あまり行かないですね」
せいぜい同期の友達と飲む時くらいだという。
「普段は何をしているのですか?」
桃花が自ら質問していた。
「読書とか音楽鑑賞とか……」
クラシックとかUKロックとかが好みらしい。
なんかすごい幅広いな。
「水奈。そろそろ時間だ」
「あ、映画とかが良いかなと思ってチケット買っておいたんだ。行こうぜ」
初デートで映画ってどうなんだと思ったけど、昼食の時に話の種くらいになるだろう。
しかし私達も善明と同じ運命の様だった。
何を考えてやがる。
なんでデートの映画でホラーなんだ。
それもどう考えてのB級ホラーじゃねーか!
なんでもコラボすればいいってもんじゃねーぞ。
そして内容も酷かった。
お化けにお化けをぶつければいいってもんじゃねーだろ!
しかも後半になるにつれて役者がやる気が無さそうに見えてくる。
役者が何かお祓いをしてるような仕草をした時私は笑いそうになるのを堪えた。
学を見ると苦笑している。
天音だったら2秒で爆睡するだろうな。
そんな苦痛を90分ちょっと過ごして昼飯にする。
当然映画について触れようと誰もしなかった。
こんなので怖がるのは私が知ってる限りでは翼くらいだろう。
下手すれば翼でも寝てしまうかもしれない。
「秋斗さんはどんな映画が好きなのですか?」
「あまり最近見ていないんだけど……」
ラブストーリーが好きらしい。
もちろんまともなラブストーリー。
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謎の病に蝕まれていくバイオリニストとピアニストの中学生の話。
間違ってもICUに入ってる患者を外に連れ出して子作りするような馬鹿な話じゃない。
……あれはドラマにもなった。
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ほんの少しだった。
2分でチャンネル変えた。
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「この後どうする?」
昼食の後、学が聞いていた。
まあ普通ならボーリングかカラオケか。
「ボーリングにするか」
多分カラオケだと秋斗が苦戦しそうだ。
私もこの面子でデスメタルを歌うのは気が引ける。
天音なら気にしないんだろうけど。
天音はデートで爆睡するからな。
私も他人の事言えないけど。
それにボウリングならペアで対戦できる。
2人で話す時間がとれるはず。
私の思った通り2人で話しをしていた。
いい雰囲気だ。
これなら大丈夫……だと思うけど何か違和感を感じた。
なんだろう?
「どうかしたのか?」
学が聞いた。
なんか違和感を感じると伝えた。
学もそれを知っていた。
「多分高槻さんが問題じゃないのかな?」
「どういうことだ?」
「確か高槻さん失恋したって言ってたな?」
「ああ、そう聞いてる」
「たぶんそれだろう」
学は言った。
「彼女は恋に怯えている」
(4)
とても好感度の高い男性だった。
些細な事も気が利いてくれる。
それとなく雰囲気を作ってくれる。
こんなに優しい人が彼氏になってくれるなら私は大歓迎だ。
だけど……。
楠木さんはどう思っているのだろう?
私の事をどう思っているのだろう?
この恋は逃しちゃいけない。
神様が教えてくれる。
だけど私からとても言えない。
そして私の警戒心が彼に同じ思いをさせてるかもしれない。
たった一言伝えたらいいのに……。
私を臆病にさせる一言
「お前は一生バスケやってろよ」
初めての彼氏から言われたサヨナラの言葉。
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「桃花は今日何をしに来たんだ!?」
水奈が突然叫ぶ。
今日こそは、この夜こそは、この街できっと見つかると思って来た。
だけど……。
「どんなに悔やんでも足跡は消えないんだぞ」
だから悔んでもしょうがない。
この夢こそは、この恋こそは、……このチャンスだけは逃したくない。
泣いても悔やんでも消せない思い出。
だけど映画の幕の様に終ることはない永遠に続くダンス。
なのにこれ以上また後悔を増やすのか。
頑張る時があるとしたら今だ!
私は楠木さんの手を取る。
「桃花……これからはそう呼んでくれませんか?」
楠木さんは私の事をじっと見ていた。
「俺では桃花の相手が務まらない、そう思っていたんだけど」
「それは私のせいなの」
私が恋に怯えているから。
あんなに寂しい思いをしたくないから。
一人だと震えが止まらなかったから。
すると楠木さんは私の事を抱きしめてくれた。
「そういう事なら分かったよ。俺がその寂しさから守ってあげる」
嬉しいのに涙が出るのは何故?
「ありがとう……」
「俺の事も秋斗でいいよ」
「うん」
そんな私達を見て水奈は頷いていた。
「じゃ、私達夕食食って帰るから夜は別行動にしようぜ」
「え、でも……」
「秋斗だって女性の扱い方くらい知ってるだろ?楽しい夜にしろよ」
「そんな急に無理だよ」
「私達だって二人でいちゃつきたいんだ。少しは気を使ってくれ!」
「それは今日じゃなくてもいいだろ?」
学が言っていた。
だけど水奈は学を引きずっていく。
「お前は私が誘わないとその気になってくれないだろ!」
そして二人はそう言って商店街に向かって行った。
「良かったら夕飯くらい食べて帰らないか?」
お互い車で来ただろうし、いきなりは無理だろうから。
そういう秋斗に私は言った。
「それなら心配しなくていいよ」
水奈は私に伝えていた。
「絶対うまく行くからバスで来い!2人とも車じゃ夜困るだろ!?」
あと下着くらい準備しておけ。
そう言うと秋斗は咳払いをした。
「いや、初めて会ってそれはさすがに」
「私ももう22歳。母さんだってそんなに五月蠅く言わないと思う」
それにお互い実家なんだからこの先も遠慮してしまうかもしれない。
「お、俺そんなに慣れてないんだけど大丈夫かな?」
困っている秋斗の顔を見てると楽しかった。
「私彼氏はいたけど一緒に寝た事はないよ」
「……とりあえず夕食食べに行こうか?」
秋斗はそう言って笑った。
結局夕食を食べて夜景の綺麗な場所で初めてのキスをして彼は私を送ってくれた。
私のほんの少しの勇気が幸せをもたらしてくれた。
次は彼が私に幸せを与えてくれるのだと知るのにそんなに時間がかからなかった。
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童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。
許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…
僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…
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