姉妹チート

和希

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優しい嘘

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(1)

「ただいま~」

 誠司が帰って来た。
 時間は21時を回っていた。
 車の音が聞こえたから大方彼女の車で帰ってきたんだろう。
 
「こんな時間までどこに行ってた!?」

 神奈が怒っている。
 大体聞くまでもないと思うんだけど。

「デートしてただけだよ」

 予想通りの返事をしていた。

「この前の車の子じゃなかったぞ!」

 神奈は外に止まっていた車を見ていたらしい。

「別に誰だっていいだろ?」
「彼女じゃなかったのか!?」

 普通は彼女とデートをするよな……

「そんな簡単に彼女が決まるわけないって母さんだって知ってるんだろ!?」
「分かっててなんで毎回違う彼女を連れて来るんだ!?」
「だからじゃないか」

 どの女性が運命の人かわからないから色々試してる。
 誠司の言いたい事は分かるが、それは母親というか女性に言う事じゃないぞ。
 予想通り神奈は激怒して手をあげる。
 止めた方がいいな。
 俺は神奈の振り上げた手を掴んだ。

「誠?」

 神奈は俺を睨みつける。
 とりあえず神奈は後にしてまず誠司だ。

「誠司、夕食は?」
「食べて来た」
「じゃあ、風呂に入って部屋に戻りなさい。もうこんな時間だ」

 俺が誠司に言うと誠司は言われた通り部屋に戻って着替えをもって浴室に向かった。

「何で止めるんだ!?誠司の奴、昔の西松並みに質が悪いぞ!」
 
 中学生でこれなんだ。早いうちに厳しくしないとダメだろ。
 神奈の主張を聞いて俺は言った。

「この前紅葉狩りに行った時の冬夜の言葉覚えてるか?」
「トーヤの?」

 神奈が聞き返すと俺は頷いた。

「あの話を聞いてから俺なりに色々考えたんだ」
「何を考えたんだ?」
「要はアイツは恋人という意味を知らないんだろ?」

 恋という物を知らない。
 どれだけ大切な物なのか分かっていない。

「それは分かってるけど、あいつを放っておけっていうのか?」
「ちょっと誠司と2人で話しがしたい。待ってくれないか?」

 決して妙な話じゃないから。
 神奈も俺の表情を見て分かってくれたらしい。

「まあ、男同士の話ってのもあるんだろうな。お前に任せるよ」
「ありがとう」

 神奈と相談しているうちに誠司は風呂を済ませて部屋に戻った。

「じゃあ、ちょっと話してくる」
「大丈夫なんだろうな?」
「多分あってると思う」

 そう言って誠司の部屋に入る。

「誠司、入るぞ」
「いいけど……」

 部屋に入ると誠司は机の椅子に座っていた。
 誠司の様子を見ると予想通りだったみたいだ。

「また、フラれたのか?」
「……うん」

 ごめんなさい、本気で好きな人出来たから。
 そんなことを言われたらしい。
 もう何回もそんな事を繰り返してるそうだ。
 誠司は冴にフラれて悩んでいる。
 恋の神様は実在しないのか?
 実在するならどうして誠司には力を貸してくれないのか?

「俺、父さんに似てると思ったけど違うんだな」
「どうしてそう思うんだ?」
「だって父さんは最初の彼女が母さんだったんだろ?」

 誠司も冴がそうなると思ったらしい。
 
「父さんは簡単に嫁さん見つけたのに俺は……」
「それは間違ってるぞ誠司」
「何がだよ?」
「父さんはそんなに簡単に母さんと付き合えたわけじゃない」

 母さんは最初は冬夜の事が好きだった。
 だけど冬夜には愛莉さんがいた。
 幼馴染の方が有利だと思ったけど冬夜の想いは違っていた。
 冬夜にとっては初恋の人は愛莉さんだったんだ。
 冬夜でさえ何度も衝突して今の様になれたのは大学を出てからだ。
 父さんだって母さんと交際するまでに1年かかった。
 どんなに苦労しても側にいて欲しい人を恋人って言うんだ。
 どんな苦難も一緒に乗り越えられる人が嫁さんになるんだ。
 誠司のように嫌な事があったらすぐ他の人に逃げるような人じゃない。
 お前はその彼女とそんな風に一緒にいる事は出来ないと判断したんだろ?
 だから誠司のやり方自体を怒るつもりはない。
 だけどそのやり方にはリスクがある。
 そんな事を続けていたら誠司自体の評価を下げる。
 誠司は軽い男なんだ。
 そう思われたら、いざお前が本気で好きになった女性を口説くのに不利になる。
 
「じゃあ、どうしたらいいの?」
「簡単だよ。お前は恋愛の神様を信じてるんだろ?」
「うん」
「なら待てばいい」

 いつかきっとお前の事だけを想ってくれる人が現れる。
 そしたら誠司もその人の事だけを考えてやれ。
 ずっとその人の事だけを想ってやるんだ。
 それはそんなに難しい事じゃない。
 そうなってしまう事を”好きになる”と言うんだ。
 俺も母さんに色々心配をかけた。
 それでも母さんは俺を選んでくれた。
 それを知ったから俺も母さんを大事にしてる。
 そういう関係を恋愛って言うんだ。
 最初は好きだから不安になる。
 彼女は自分の事をどう思っているんだろう?
 そんな辛い感情も含めて恋なんだ。
 その辛い時期を乗り越える事が出来たら次の段階になる。
 この人なら大丈夫。
 そうやって信じあえるようになる。
 それを愛って言うんだ。
 誠司は俺の話を真剣に聞いていた。

「……冴はそうじゃなかったって事?」
「それは父さんが判断する事じゃない。ただ、冴には耐えられなかった」

 誠司の事を信じたくてもそれすら出来なくなった。
 そんな風にしたのは他でもない。誠司自身がそんな状況にしてしまったんだ。

「俺が間違っていたんだ」
「ああ、父さんも誠司と一緒でな……」

 誠司の様にちやほやされて有頂天になっていた。
 ところが中2の時に母さんと出会った。
 この人だ!
 そう思ったら他の女子なんてどうでもよくなっていた。
 ただ母さんの事を想っていた。
 誠司にもそんな女性がいつか現れる。
 その時に同じ過ちをするな。
 彼女以外の代わりがいるのか?
 それを自分にずっと問い続けろ。
 そしたら多少小言を言われても気にならなくなる。
 そんなやりとりすら愛しい思い出になるから。

「……俺冴に謝らないと」
「どうしてだ?」

 後悔するなよ。

 そんな言葉を最後に言ったらしい。

「謝る必要は無い。もうやり直しは出来ないんだ。だから誠司に出来る事は一つだけだ」
「それは何?」
「……冴の幸せを祈ってやれ」
「わかった」
「分かればいい。お前の不安定な気持ちで試合には出せないからな」
「サッカーの時は集中してるよ」
「ならいい。あまり夜更かしするなよ。あと……」

 真面目に勉強しろとは言わないけど、せめて高校くらいはいけるようにしとけ。
 そう言って部屋を出る。
 通路に神奈が立っていた。

「すまん、やはりちょっと2人で話ってのが気になってな」

 こっそり聞いていたらしい。

「みっともない話だから聞かれたくなかったんだ」
「そんなことねーよ。その証拠に今の誠がいるんだろ?」
「まあな」
「じゃあ、私達もそろそろ寝ようぜ」
「まだ早くないか?」

 俺が言うと神奈はくすりと笑って答えた。

「私の事大事にしてくれるんだろ?」

 愛莉さんは何も言わなくても冬夜が察してくれるらしい。

「わかったよ」

 あとは運命次第。
 誠司の気持ちに変化が見えるのはそう遠くない事だった。

(2)

 俺は上級生を殴り飛ばした。

「てめえ、何するんだよ!?」

 殴り飛ばした上級生はそう言った。

「お前がSHを名乗った。殴り飛ばす理由はそれだけで十分だ」
「お前SHを舐めてるのか!?」
「SHを名乗ってる割には知らないみたいだな。SHを名乗って鬱陶しい真似をする馬鹿は埋めてこいって命令が出てるんだ」
「こいつらはFGだぞ!」
「知らねーよ。お前らが目障りだからぶん殴った。気に入らないなら相手してやるよ」

 そう言うと上級生は俺達を取り囲む。
 冴とその新しい彼の白石識は様子を見ている。

「皆は冴を守ってくれ。これくらい俺一人で十分だ」

 そう言うと冬吾が隣に立った。
 
「勝手に手を出した挙句、全部横取りなんて真似させないよ」
「お前を怒らせると中学校ごと潰しかねないって父さんに言われたんだよ」
「それもいいね。母さんに爆撃機借りてこようか?」

 泉が言う。
 泉の家ならやりかねない。

「で、どうすんの?数はそっちの方が上だ。ちょうどいいハンデだろ?」

 殺してやるからさっさとかかって来い。
 連中はその場から逃げようとする。

「翼も天音も空は甘いって言ってた。こういう馬鹿は二度と馬鹿な真似をしないように躾が必要って天音が言ってた」

 冬莉が逃げ去ろうとする男の襟を捕まえて無理矢理地面に叩きつける。
 アスファルトに叩きつけられた男は起き上がってこなかった。

「ほら、私もさっさと片付けておにぎり食べたいから早くしてよ」

 冬莉が言うけど皆逃げ去った。
 だけど冬莉は容赦を知らない。
 全員の顔をしっかり記憶していた。
 後日わざわざ上級生の教室に入れて一人残らず叩きのめしたらしい。
 二度と馬鹿な真似をさせないように。
 SHの名前は免罪符じゃない。
 自殺志願書だ。
 もちろん母親が呼び出され親子共々怒られる。

「あなた女の子でしょ!何をやってるのですか!」
「女子だから手加減しなくていいって天音が言ってた」

 そんなやりとりを生徒指導室でしていたらしい。
 事情を察したのだろう。
 冬莉は冬吾に「急がないと明太子味私が買い占めるよ」と言い出した。
 冬吾は慌てて冬莉の後を追う。

「冴、大丈夫?」

 瞳子が聞いてた。

「どうして私達を助けたの?」

 私は裏切り者なのに。
 冴はそう言っていた。

「……SHは仲間を傷つけるのは許さないってルールはあっても、グループを抜ける奴を裏切り者と呼ばないし制裁なんてしない」

 俺が替わって答えた。

「私は誠司も裏切ったんだよ?」
「それは俺自身に問題があったんだろ?隣にいるのが新しい彼か?」
「そうだけど」

 冴がそう言うと俺はそいつの前に立つ。

「色々口やかましいけど、冴なりにお前の事気づかってやってるんだと思う。大切にしてやってくれ」

 俺には出来なかったから。
 冬吾達がコンビニから出てくる頃、俺は最後に冴に言った。

「……色々あったけど、ありがとう」
「……ありがとう。さようなら」

 せめてもの優しさに冴の顔を見ずに帰った。

「誠司何かあったの?」

 冬吾が聞く。

「まあな。今はただ流れていくだけだよ」

 冬莉は何となく察したのだろう。
 笑顔を見せていた。
 それからまた冴達とも遊ぶようになった。
 SHだろうと冴達に手出しさせない。
 そして手出ししてくる奴はいなかった。

「誠司は辛いとかないの?」

 冬吾が聞いてくる。

「辛くないと言えば嘘になるな。だけど……」
「だけど?」
「今は冴が笑っているならそれで十分だよ」

 そう言って俺は笑った。

「今週試合あるからな。手抜きしたらボール渡さないからな」
「誠司こそ安易にパスしたら許さないからな」

 やっと俺の恋は終ることが出来たと思った。
 だけどまだ終わっていないんだと知る事になる。
 恋の終わりは次の恋の始まり。
 それがいつになるのかはまだ分からなかった。
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