184 / 535
空の王
しおりを挟む
(1)
「なんやお前ら?」
女性と数人の仲間を取り囲んでいる連中が僕に声をかけて来た。
僕はそいつらを無視してその女性に声をかけた。
「君が成瀬川由衣さん?」
僕が聞くと女性は怪訝そうな顔で僕を見る。
「そうですけど」
「良かった。探してたの。ついて来て。事情はちゃんと説明するから」
翼がそう言って女性に近づく。
「あなた達は誰ですか?」
由衣さんは当然の事を聞いていたので僕達は名乗った。
「僕は片桐空。そして彼女は片桐翼」
僕達が名乗ると囲んでいる連中が動揺する。
当たり前だろう。
連中の中には黒いゴキブリが混ざっていたのだから。
「この件はSHには関係ない。すっこんでろ」
威勢だけは良いみたいだ。
「関係ないかどうかは僕達が決める。お前たちにとやかく言われる筋合いはない」
それでも文句があるなら相手になってやる。
そう言うと連中は何も言えなくなった。
怯える連中を無視して由衣さんの腕を掴む。
「悪いようにはしないから」
翼が言うけど由衣さんは首を振った。
「まだ、利花姉が……」
「大丈夫、そっちの方も今頃片付いてるだろうから」
「ちぃと待ちーな」
連中のリーダー格っぽい男が言った。
「そない簡単に引き渡す思っとるんか?」
その男が言うと僕と翼と由衣さんを取り囲む。
「大人しく引き渡した方が賢明だと思うよ」
「ガキの遊びとちゃうんわ。怪我しないうちに帰り」
引き下がるつもりはないらしい。
翼に由衣さんを任せると僕は男と対峙する。
「一応聞いておくけど君がリーダーの武内翔和さん?」
「せや、やる気なら相手になるで」
だけど、この人数差でやるつもりか?と聞いてきた。
この程度の人数差で僕達を止められるつもりらしい。
念の為もう一つだけ確認することにした。
「天音の忠告は聞いてる?」
「ああ、こいつらには手を出すなっちゅうやつか?」
手を出したらどうなるか知りたいらしい。
なら口実はできた。
由衣さんは翼に任せておけばいいだろう。
次の瞬間僕は行動にでた。
翔和の頭部に目掛けてハイキックを仕掛ける。
翔和はそれをガードしようとした。
が、僕の蹴りの方が早かった。
頭を強く蹴られた翔和は思いっきり吹き飛ぶ。
恐らく意識も飛ばしたのだろう。
倒れた翔和は起き上がってこなかった。
次はこの大量の雑魚達。
僕と翼はお互いの背中を預けるように陣取る。
雑魚の一人が鉄パイプを持った手を振り上げると、それを学が掴んだ。
「こっちの方が暴れがいがありそうだな!」
水奈がそう言って笑う。
「水奈は天音達の方と合流するんじゃなかったの?」
翼が聞くと、学が代わって答えた。
「向こうはただでさえ紗理奈や天音がいるんだ。水奈までいると本気で殺しかねないからな」
水奈が暴走しないように学の監視下に連れて来たらしい。
「お前らもSHか!?」
雑魚達の質問に答えたのは喜明だった。
「ええ、そうです。あまり物騒な事に首を突っ込むのは遠慮したかったんですけどね」
一生のうちに何人の女の子の涙を止めてあげられるか?
そんな大義名分を出されたら動かざるを得ないと善明は説明した。
「どうする?どうしてもやるっていうなら僕達が相手だ」
僕がそう言うと雑魚達は翔和を連れて去っていった。
僕と翼は由衣さんを車に乗せて目的地に向かう。
その間に由衣さんに事情を説明した。
彼ら創世神はレガリアの持ち主に目星をつけていた。
魅惑の魔眼系列のギャングの中に孤児の世話をしている者がいる。
きっとその孤児の誰かがレガリアだ。
創世神だけでもでかいのに、なぜかFGも協力した。
とてもじゃないけど彼女達だけでは守り切れない。
そして由衣の妹白梅が赤松景太郎に協力を願い出た。
もちろん白梅の独断で。
それを聞いた景太郎が茜に伝えて来た。
茜は既に情報を解析済みだった。
そして僕達はレガリアとやらの保護に動いた。
今頃天音達も暴れてるだろう。
「でもレガリアの保護と私にどういう関係が?」
由衣さんが質問すると助手席に乗っていた翼がにこりと笑った。
「言ったよ。”情報は解析済み”って」
調べてみたら単純な事だった。
どうして宮田キリクでなく由衣さんを魅惑の魔眼の総長にしたのか?
それは由衣さんこそイーリスの鍵であるアーヴァインコードの持ち主”ファナティック・フルート”だった。
由衣さんの網膜に焼き付けられたアーヴァインコードでしかイーリスにアクセスできないようになっている。
「……知られてしまったんですね」
由衣さんは観念したようだ。
と、いうわけで僕達はイーリスのあるトロパイオンへと向かう。
キリクとその妻蜜柑が待ち受けていた。
由衣さんが事情を説明する。
キリクは少し考えていた。
「SHのリーダーは片桐空……だったな?」
キリクが言うと僕は一歩前に出る。
「由衣と君だけついてこい」
翼達は止めるが、僕は彼らについていく事にした。
その先にあるのは巨大なスパコンと端末。
「……いいの?キリク」
「アーヴァインコードの在処を知られた以上、抵抗しても無駄だ」
キリクが言うと由衣さんが装置に自分の目を向く。
あっけなくパスコードが解除され、イーリスにアクセスされる。
僕はそれを見て驚いた。
これが地元中のギャングが探してる宝物の正体。
言葉が出なかった。
そんな僕をみてキリクは再びイーリスにロックをかけた。
「今見たのが紛れもなくイーリスだ。君はイーリスを手に入れた者……空の王だ」
キリクがそう言うと由衣さんとキリクが拍手をする。
「で、改めて聞きたい。空の王よ、君はこれをどうするつもりだ?」
その厨二臭い二つ名はとりあえず返上したいんだけどな。
それに、これをどうしろと言われても……
「どうもしないよ」
「そうか……」
そして僕達は皆のところに戻った。
(2)
「てめーらがソーセージか!まとめて皆殺しにしてやる!!」
「天音待って!人質がいるんだよ!」
あ、そうだった。
私と大地と遊と粋と紗理奈は山奥にある廃ビルにいた。
創世神というやつらの中でもひと際図体のでかい奴は女の頭を掴み上げこっちを見ている。
あの女が利花ってやつか?
「お前が利花か!?」
私が聞くと男がにやりと笑った。
「こいつは枢。俺の妻だ」
は?
どこの世界に自分の妻にそんな扱いをする奴がいるんだ。
DVってやつか?
ちなみに大地が私にそんな真似をしたら、自分の親に埋められるだろう。
「亭主を裏切っていたんだ。当然の始末だろ?」
「始末?」
嫌な予感がする。
男は笑ったままだ。
「ああ、使えない不良品は……」
やばい!
だけど私が動くより先に大地が動いた。
懐からそれを取り出すと男の肩を狙って発砲する。
「天音。彼女を!」
大地が言うと男の手から離れた枢って女を確保する。
邪魔する奴は遊達が始末してくれた。
大地は男から視線をそらす事無くそれを確認すると、男に告げる。
「利花さんを大人しく引き渡せ」
大地は本気だった。
こっちの要求を飲まないなら容赦なく男を殺すだろう。
その意思をさっきの一発で警告していた。
「お前ら何者だ?」
男は撃たれた方を抑えながら聞いてきた。
「僕達が何者だろうが関係ない」
交渉は大地に任せて、私達は利花って女を探す。
男の陰に隠れていたけど後ろの柱に縛られている女を見つけた。
遊達がすぐに救助に向かう。
その隙を縫って私を人質にしようとする馬鹿がいた。
私の肩に触れた瞬間、私はその馬鹿を投げ飛ばす。
そしてその直後に大地の2発目が大男の頬をかすめる。
「これで2回だ。次は殺すよ」
大地の表情は変わらない。
遊と粋が利花の拘束を解いて車に連れていくと、大地が言った。
「このまま帰っても君達の気が済まないだろ?」
そう言って大地は銃を懐にしまうと、大男に手招きをして挑発する。
「こっちもただこれだけで帰ると妻が不満を溜めるんだ」
「たった5人で何が出来る?」
「試してみるといいよ。折角こんなところまで出向いたんだ。ただで帰る気はさらさらないから」
遊と粋と紗理奈も車に利花を乗せて私達に合流する。
「お前らの中にFGも混ざってるんだろ?」
遊が言う。
人が一々人を埋めるのに理由がいるとすればそれだけで十分だ。
そこから乱闘が始まった。
「あのでかい奴は天音に任せるよ」
「いいのか!?」
「嫁のストレス解消くらい考えるよ」
頼もしい旦那だな。
私は頷くと大男に向かって突進する。
大男も身構える。
図体のでかい男に華奢な女性が遠慮する必要は無い。
遠慮なく負傷した肩に掌底を叩きつける。
その反対の腕で腕を掴み、足を大男の足の裏に引っかけて地面に叩き伏せた。
意外と出血するんだな。
こんな所に来る服だからどうでもいいけど……。
「てめえの血が私の服について汚れたぞ!謝罪しろ!!」
そう言って負傷している肩を徹底的に踏みつける。
反対側の腕で私の足を掴もうとしているのに気づいたら、そっちの肩もたたきつける。
鈍い音がした。
「私の体に触って良いのは大地だけだ!」
その間に大地達は他の雑魚共を始末していた。
その後に大地は私の肩に手を乗せ「もう終わったよ」と告げる。
意識があるのかないのか分からない大男に向かって大地は言う。
「今度僕達の前で鬱陶しい真似したら死ぬよ?」
大地が死の宣告をすると私達は車に乗って空達と合流する。
その間に私が利花に説明する。
創世神の頭は双子の兄弟。
だから利花を人質にしているとしたらどちらかの居場所。
2人で行動している可能性もあるけど別行動をしている可能性を重視したのは理由がある。
茜は翔和のスマホを乗っ取っていた。
もう一人の方は枢の旦那。
景太郎が枢と接触していたので特定は簡単だった。
そして由衣と翔和が同じ場所にいる事を突き止めた私達は二手に分かれて行動した。
「あなた達……何者?」
利花はそう聞いてきた。
「それは名乗るまでもないだろ?なあ、枢」
枢は私達の正体に気付いていた。
「セイクリッドハート」
利花はその名前を聞いて驚く。
絶対に私達の逆鱗に触れないように注意していたらしいが、FGと手を組んだ時点で「殺してください」と言ってるも同じだ。
私達は空達が先に行ってるであろうトロパイオンとやらに向かった。
すると空と翼達が待っていた。
利花は由衣と再会をする。
私はそれを見て空に聞く。
「この後どうするんだ?空?」
あいつら壊滅させるならとことんやるぞ?
「放っておこう。精々足掻いているのを笑ってればいいよ」
「でもまたこいつらを狙ってくるだろ?」
「その時はまとめて潰すさ」
「空、一つだけ聞いて良い?」
翼が聞いていた。
「イーリスって結局なんだったの?」
その言葉を翼が口にすると、皆緊張する。
だけど空は笑っていた。
「父さんの言う通りだったよ」
パパの?
「それより、済ませておきたい事がる。由衣さんだっけ?一緒について来てくれないかな」
由衣は空の言う通りに従った。
向かった先は西松医院。
病院のロビーには高校生がいた。
「景太郎!?」
由衣は景太郎の事を知っていたようだ。
空は女医と話をしている。
話が済むと女医が由衣と景太郎に説明する。
「……いいの?意味分かってる?」
由衣が景太郎に聞いていた。
「今度こそ由衣の力になるよ。由衣一人になんてさせない」
そんな二人のやりとりを聞いていた、女医が「準備は出来てるから急ぎましょう」と言って奥に行った。
その間に翼から事情を聞く。
そして私と遊と粋は爆笑する。
「お前いつからそんなに立派になったんだよ!空」
「空じゃまずいだろ!ちゃんと”空の王”って呼ばないと」
「はは~恐れ入りました」
空は困っていた。
帰りに実家に寄ることにした。
空はパパに今夜起きた事を話す。
茜も一緒に聞いていた。
パパは空の話を聞くと笑顔になる。
「よく辿り着いたね。まあ、空達なら大丈夫だと思ったよ」
パパは知っていた?
それもそのはず。
それはパパの大学生時代でも特にやんちゃをやっていた時期の話。
パパたちもイーリス……IRISを手に入れた。
その時に全てマスコミにリークした上で完全に消滅させたそうだ。
「それで”真実に意味はない”……か」
茜も騙されていたらしい。
まてよ?
ってことは……。
「空があそこで見た物って……」
私が空に聞くと空は頷いた。
「何もない、空っぽのファイルだったよ」
それで馬鹿馬鹿しくなったらしい。
後は勝手にやりあえば良い。
それでもなお鬱陶しい真似をするなら……叩きつぶす。
話が終ると私達は家に帰る。
夕飯を食べてシャワーを浴びると「今日は疲れた」と早々に寝る。
「なんかあっけないオチだったな」
「一つだけ引っかかることがあるんだけどね」
なんだそれ?
私が大地に聞くと大地は言った。
「中身のないファイルを必死になって探す理由」
「単に知らないだけじゃないのか?」
「でもわざわざ外部にリークしてまでイーリスの鍵を手に入れようとする理由にはならないよ」
そう言われるとそうだな。
「まあ、あまり深く考えても無駄だし早く寝よう?」
「そうだな」
この事件はこれで終わった。
少なくとも私はそう思っていた。
「なんやお前ら?」
女性と数人の仲間を取り囲んでいる連中が僕に声をかけて来た。
僕はそいつらを無視してその女性に声をかけた。
「君が成瀬川由衣さん?」
僕が聞くと女性は怪訝そうな顔で僕を見る。
「そうですけど」
「良かった。探してたの。ついて来て。事情はちゃんと説明するから」
翼がそう言って女性に近づく。
「あなた達は誰ですか?」
由衣さんは当然の事を聞いていたので僕達は名乗った。
「僕は片桐空。そして彼女は片桐翼」
僕達が名乗ると囲んでいる連中が動揺する。
当たり前だろう。
連中の中には黒いゴキブリが混ざっていたのだから。
「この件はSHには関係ない。すっこんでろ」
威勢だけは良いみたいだ。
「関係ないかどうかは僕達が決める。お前たちにとやかく言われる筋合いはない」
それでも文句があるなら相手になってやる。
そう言うと連中は何も言えなくなった。
怯える連中を無視して由衣さんの腕を掴む。
「悪いようにはしないから」
翼が言うけど由衣さんは首を振った。
「まだ、利花姉が……」
「大丈夫、そっちの方も今頃片付いてるだろうから」
「ちぃと待ちーな」
連中のリーダー格っぽい男が言った。
「そない簡単に引き渡す思っとるんか?」
その男が言うと僕と翼と由衣さんを取り囲む。
「大人しく引き渡した方が賢明だと思うよ」
「ガキの遊びとちゃうんわ。怪我しないうちに帰り」
引き下がるつもりはないらしい。
翼に由衣さんを任せると僕は男と対峙する。
「一応聞いておくけど君がリーダーの武内翔和さん?」
「せや、やる気なら相手になるで」
だけど、この人数差でやるつもりか?と聞いてきた。
この程度の人数差で僕達を止められるつもりらしい。
念の為もう一つだけ確認することにした。
「天音の忠告は聞いてる?」
「ああ、こいつらには手を出すなっちゅうやつか?」
手を出したらどうなるか知りたいらしい。
なら口実はできた。
由衣さんは翼に任せておけばいいだろう。
次の瞬間僕は行動にでた。
翔和の頭部に目掛けてハイキックを仕掛ける。
翔和はそれをガードしようとした。
が、僕の蹴りの方が早かった。
頭を強く蹴られた翔和は思いっきり吹き飛ぶ。
恐らく意識も飛ばしたのだろう。
倒れた翔和は起き上がってこなかった。
次はこの大量の雑魚達。
僕と翼はお互いの背中を預けるように陣取る。
雑魚の一人が鉄パイプを持った手を振り上げると、それを学が掴んだ。
「こっちの方が暴れがいがありそうだな!」
水奈がそう言って笑う。
「水奈は天音達の方と合流するんじゃなかったの?」
翼が聞くと、学が代わって答えた。
「向こうはただでさえ紗理奈や天音がいるんだ。水奈までいると本気で殺しかねないからな」
水奈が暴走しないように学の監視下に連れて来たらしい。
「お前らもSHか!?」
雑魚達の質問に答えたのは喜明だった。
「ええ、そうです。あまり物騒な事に首を突っ込むのは遠慮したかったんですけどね」
一生のうちに何人の女の子の涙を止めてあげられるか?
そんな大義名分を出されたら動かざるを得ないと善明は説明した。
「どうする?どうしてもやるっていうなら僕達が相手だ」
僕がそう言うと雑魚達は翔和を連れて去っていった。
僕と翼は由衣さんを車に乗せて目的地に向かう。
その間に由衣さんに事情を説明した。
彼ら創世神はレガリアの持ち主に目星をつけていた。
魅惑の魔眼系列のギャングの中に孤児の世話をしている者がいる。
きっとその孤児の誰かがレガリアだ。
創世神だけでもでかいのに、なぜかFGも協力した。
とてもじゃないけど彼女達だけでは守り切れない。
そして由衣の妹白梅が赤松景太郎に協力を願い出た。
もちろん白梅の独断で。
それを聞いた景太郎が茜に伝えて来た。
茜は既に情報を解析済みだった。
そして僕達はレガリアとやらの保護に動いた。
今頃天音達も暴れてるだろう。
「でもレガリアの保護と私にどういう関係が?」
由衣さんが質問すると助手席に乗っていた翼がにこりと笑った。
「言ったよ。”情報は解析済み”って」
調べてみたら単純な事だった。
どうして宮田キリクでなく由衣さんを魅惑の魔眼の総長にしたのか?
それは由衣さんこそイーリスの鍵であるアーヴァインコードの持ち主”ファナティック・フルート”だった。
由衣さんの網膜に焼き付けられたアーヴァインコードでしかイーリスにアクセスできないようになっている。
「……知られてしまったんですね」
由衣さんは観念したようだ。
と、いうわけで僕達はイーリスのあるトロパイオンへと向かう。
キリクとその妻蜜柑が待ち受けていた。
由衣さんが事情を説明する。
キリクは少し考えていた。
「SHのリーダーは片桐空……だったな?」
キリクが言うと僕は一歩前に出る。
「由衣と君だけついてこい」
翼達は止めるが、僕は彼らについていく事にした。
その先にあるのは巨大なスパコンと端末。
「……いいの?キリク」
「アーヴァインコードの在処を知られた以上、抵抗しても無駄だ」
キリクが言うと由衣さんが装置に自分の目を向く。
あっけなくパスコードが解除され、イーリスにアクセスされる。
僕はそれを見て驚いた。
これが地元中のギャングが探してる宝物の正体。
言葉が出なかった。
そんな僕をみてキリクは再びイーリスにロックをかけた。
「今見たのが紛れもなくイーリスだ。君はイーリスを手に入れた者……空の王だ」
キリクがそう言うと由衣さんとキリクが拍手をする。
「で、改めて聞きたい。空の王よ、君はこれをどうするつもりだ?」
その厨二臭い二つ名はとりあえず返上したいんだけどな。
それに、これをどうしろと言われても……
「どうもしないよ」
「そうか……」
そして僕達は皆のところに戻った。
(2)
「てめーらがソーセージか!まとめて皆殺しにしてやる!!」
「天音待って!人質がいるんだよ!」
あ、そうだった。
私と大地と遊と粋と紗理奈は山奥にある廃ビルにいた。
創世神というやつらの中でもひと際図体のでかい奴は女の頭を掴み上げこっちを見ている。
あの女が利花ってやつか?
「お前が利花か!?」
私が聞くと男がにやりと笑った。
「こいつは枢。俺の妻だ」
は?
どこの世界に自分の妻にそんな扱いをする奴がいるんだ。
DVってやつか?
ちなみに大地が私にそんな真似をしたら、自分の親に埋められるだろう。
「亭主を裏切っていたんだ。当然の始末だろ?」
「始末?」
嫌な予感がする。
男は笑ったままだ。
「ああ、使えない不良品は……」
やばい!
だけど私が動くより先に大地が動いた。
懐からそれを取り出すと男の肩を狙って発砲する。
「天音。彼女を!」
大地が言うと男の手から離れた枢って女を確保する。
邪魔する奴は遊達が始末してくれた。
大地は男から視線をそらす事無くそれを確認すると、男に告げる。
「利花さんを大人しく引き渡せ」
大地は本気だった。
こっちの要求を飲まないなら容赦なく男を殺すだろう。
その意思をさっきの一発で警告していた。
「お前ら何者だ?」
男は撃たれた方を抑えながら聞いてきた。
「僕達が何者だろうが関係ない」
交渉は大地に任せて、私達は利花って女を探す。
男の陰に隠れていたけど後ろの柱に縛られている女を見つけた。
遊達がすぐに救助に向かう。
その隙を縫って私を人質にしようとする馬鹿がいた。
私の肩に触れた瞬間、私はその馬鹿を投げ飛ばす。
そしてその直後に大地の2発目が大男の頬をかすめる。
「これで2回だ。次は殺すよ」
大地の表情は変わらない。
遊と粋が利花の拘束を解いて車に連れていくと、大地が言った。
「このまま帰っても君達の気が済まないだろ?」
そう言って大地は銃を懐にしまうと、大男に手招きをして挑発する。
「こっちもただこれだけで帰ると妻が不満を溜めるんだ」
「たった5人で何が出来る?」
「試してみるといいよ。折角こんなところまで出向いたんだ。ただで帰る気はさらさらないから」
遊と粋と紗理奈も車に利花を乗せて私達に合流する。
「お前らの中にFGも混ざってるんだろ?」
遊が言う。
人が一々人を埋めるのに理由がいるとすればそれだけで十分だ。
そこから乱闘が始まった。
「あのでかい奴は天音に任せるよ」
「いいのか!?」
「嫁のストレス解消くらい考えるよ」
頼もしい旦那だな。
私は頷くと大男に向かって突進する。
大男も身構える。
図体のでかい男に華奢な女性が遠慮する必要は無い。
遠慮なく負傷した肩に掌底を叩きつける。
その反対の腕で腕を掴み、足を大男の足の裏に引っかけて地面に叩き伏せた。
意外と出血するんだな。
こんな所に来る服だからどうでもいいけど……。
「てめえの血が私の服について汚れたぞ!謝罪しろ!!」
そう言って負傷している肩を徹底的に踏みつける。
反対側の腕で私の足を掴もうとしているのに気づいたら、そっちの肩もたたきつける。
鈍い音がした。
「私の体に触って良いのは大地だけだ!」
その間に大地達は他の雑魚共を始末していた。
その後に大地は私の肩に手を乗せ「もう終わったよ」と告げる。
意識があるのかないのか分からない大男に向かって大地は言う。
「今度僕達の前で鬱陶しい真似したら死ぬよ?」
大地が死の宣告をすると私達は車に乗って空達と合流する。
その間に私が利花に説明する。
創世神の頭は双子の兄弟。
だから利花を人質にしているとしたらどちらかの居場所。
2人で行動している可能性もあるけど別行動をしている可能性を重視したのは理由がある。
茜は翔和のスマホを乗っ取っていた。
もう一人の方は枢の旦那。
景太郎が枢と接触していたので特定は簡単だった。
そして由衣と翔和が同じ場所にいる事を突き止めた私達は二手に分かれて行動した。
「あなた達……何者?」
利花はそう聞いてきた。
「それは名乗るまでもないだろ?なあ、枢」
枢は私達の正体に気付いていた。
「セイクリッドハート」
利花はその名前を聞いて驚く。
絶対に私達の逆鱗に触れないように注意していたらしいが、FGと手を組んだ時点で「殺してください」と言ってるも同じだ。
私達は空達が先に行ってるであろうトロパイオンとやらに向かった。
すると空と翼達が待っていた。
利花は由衣と再会をする。
私はそれを見て空に聞く。
「この後どうするんだ?空?」
あいつら壊滅させるならとことんやるぞ?
「放っておこう。精々足掻いているのを笑ってればいいよ」
「でもまたこいつらを狙ってくるだろ?」
「その時はまとめて潰すさ」
「空、一つだけ聞いて良い?」
翼が聞いていた。
「イーリスって結局なんだったの?」
その言葉を翼が口にすると、皆緊張する。
だけど空は笑っていた。
「父さんの言う通りだったよ」
パパの?
「それより、済ませておきたい事がる。由衣さんだっけ?一緒について来てくれないかな」
由衣は空の言う通りに従った。
向かった先は西松医院。
病院のロビーには高校生がいた。
「景太郎!?」
由衣は景太郎の事を知っていたようだ。
空は女医と話をしている。
話が済むと女医が由衣と景太郎に説明する。
「……いいの?意味分かってる?」
由衣が景太郎に聞いていた。
「今度こそ由衣の力になるよ。由衣一人になんてさせない」
そんな二人のやりとりを聞いていた、女医が「準備は出来てるから急ぎましょう」と言って奥に行った。
その間に翼から事情を聞く。
そして私と遊と粋は爆笑する。
「お前いつからそんなに立派になったんだよ!空」
「空じゃまずいだろ!ちゃんと”空の王”って呼ばないと」
「はは~恐れ入りました」
空は困っていた。
帰りに実家に寄ることにした。
空はパパに今夜起きた事を話す。
茜も一緒に聞いていた。
パパは空の話を聞くと笑顔になる。
「よく辿り着いたね。まあ、空達なら大丈夫だと思ったよ」
パパは知っていた?
それもそのはず。
それはパパの大学生時代でも特にやんちゃをやっていた時期の話。
パパたちもイーリス……IRISを手に入れた。
その時に全てマスコミにリークした上で完全に消滅させたそうだ。
「それで”真実に意味はない”……か」
茜も騙されていたらしい。
まてよ?
ってことは……。
「空があそこで見た物って……」
私が空に聞くと空は頷いた。
「何もない、空っぽのファイルだったよ」
それで馬鹿馬鹿しくなったらしい。
後は勝手にやりあえば良い。
それでもなお鬱陶しい真似をするなら……叩きつぶす。
話が終ると私達は家に帰る。
夕飯を食べてシャワーを浴びると「今日は疲れた」と早々に寝る。
「なんかあっけないオチだったな」
「一つだけ引っかかることがあるんだけどね」
なんだそれ?
私が大地に聞くと大地は言った。
「中身のないファイルを必死になって探す理由」
「単に知らないだけじゃないのか?」
「でもわざわざ外部にリークしてまでイーリスの鍵を手に入れようとする理由にはならないよ」
そう言われるとそうだな。
「まあ、あまり深く考えても無駄だし早く寝よう?」
「そうだな」
この事件はこれで終わった。
少なくとも私はそう思っていた。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
【R18】私はお父さんの性処理係
神通百力
恋愛
麗華は寝ていたが、誰かが乳房を揉んでいることに気付き、ゆっくりと目を開けた。父親が鼻息を荒くし、麗華の乳房を揉んでいた。父親は麗華が起きたことに気付くと、ズボンとパンティーを脱がし、オマンコを広げるように命令した。稲凪七衣名義でノクターンノベルズにも投稿しています。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
オークションで競り落とされた巨乳エルフは少年の玩具となる。【完結】
ちゃむにい
恋愛
リリアナは奴隷商人に高く売られて、闇オークションで競りにかけられることになった。まるで踊り子のような露出の高い下着を身に着けたリリアナは手錠をされ、首輪をした。
※ムーンライトノベルにも掲載しています。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)
幻田恋人
恋愛
夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。
でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。
親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。
童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。
許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…
僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる