姉妹チート

和希

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大事な事

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(1)

「なずな、遊の奴目覚めたみたい」

 遊のお母さんの桐谷亜依さんが病室から出て来て、私を呼ぶと私達は病室に入る。
 ベッドで包帯を巻かれた遊が「よぉっ」と手をあげる。
 亜依さんの説明だと骨折とかはないらしく、ただ全身を強く打ち付けただけらしい。
 頭部もしっかりヘルメットを被っていたので、念の為検査をしたけど様子見という事だ。
 とりあえず私は言いたいことを言う事にした。

「あれだけ気をつけてと言ったでしょ、この馬鹿!」
「いてぇ!もう少しやさしくしてくれよ!」

 私は泣いて遊にしがみついている。
 どうしてこんな事になったのかを説明する。
 この日遊達の所属する雪華団は下郡バイパスを使って、深夜にレースをした。
 もちろん許可なんてとってない。
 一般車両も走る公道でだ。
 無謀とも思えるスピードで交差点に進入したらしい。
 信号は青に変わる瞬間だった。
 しかし相手側は慌てて交差点を抜けようとしたらしい。
 そんな相手車両に突っ込んで遊は事故った。
 そして救急車で搬送されて搬送先の病院に勤めていた亜依さんが私達に連絡をくれた。
 その後私と亜依さんで、遊にしっかりと説教する。
 だけどそんな話など聞いてなく遊は粋に尋ねる。

「レースどうなった?」
「ああ、浅井が勝ったよ。突然加速しだしてな」

 もっともその浅井君も下りカーブを曲がり切れずに田んぼに突っ込んだらしいけど。
 どうして男というのはこうもどうしようもないのだろう?
 すると遊の父親の桐谷瑛大と兄の学、妹の恋達がやってきた。
 学と恋も遊を叱るが……

「まあ、思ったより酷くなくてよかったな。不幸中の幸いってやつか?」

 と笑い飛ばすのが父親の瑛大さんだ。
 当然亜依さんに怒られる。

「まあ”不運と踊った”だけだ」

 と余計な一言を言ってさらに怒られる遊。

「単車は事故るとヤバいから気をつけろよ」
「車でも同じだ。水奈」

 学が妻の水奈に言っている。
 あまり遅くなるのも周りに迷惑だし今日は皆帰る事にした。が……

「なずなはついていてあげなよ。1人だと何しでかすかわからない」

 と、花が言う。

「私からもお願い。この馬鹿監視してくれないかな」

 亜依さんに言われると、私は同室で過ごすことにした。
 どう言ったら遊に分かってもらえるだろう?

「しっかし確かに浅井のバイク異常な速さだったな」

 突然加速が増したという。
 どうせ幻の6速でも発動したのだろう。
 でもそんな事は問題じゃない。
 どうして止めるべき立場の遊が率先して無謀な運転をするのか。
 ……天音が言ってたな。

「ねえ、遊」
「わ、分かってるって。もうやらないから」
「遊にとって私は何?」
「彼女だろ?心配させて悪かったって」
「そうじゃないの」
「え?」

 私ははっきり言った。
 遊にとって私とバイク……車でもいい。どっちが大事なの?

「それって別ものじゃないか?」

 遊が答えるけど私は首を振った。

「遊のバイクが暴走とかじゃなかったら私も五月蠅く言わない。でも遊の無謀な走りをしてると、私の事なんてどうでもいいと思ってるとしか思えない」

 だって、遊がこんな事故にあって私がどんな気持ちでこの病院に駆け付けたか分かってくれないから。

「……男には譲れないものがあるんだよ」
「それは私を捨てる事になっても?」
「そ、それは……」

 遊はそれ以上何も言わなかった。
 きっと反省してるんだろう。
 まだ私の事を大事に思ってくれてる証拠だ。
 だから私は言う。

「バイクや車に乗るなとは言わない。でも帰ってくるのを待ってる人がいるのを忘れないで欲しい」
「わかった……考えるよ」
「これで二度目だからね」

 映司さんには年下の暴走を止めろとは言われてるとけど、加担しろとは言われてない。
 その事を忘れないで欲しい。
 私はただ元気に家に帰って来てくれる遊を待ってるだけなんだから。
 一晩話をして朝には寝ていた。

「私バイトあるから。悪さしちゃだめだよ」
「父さんから聞いたけど、看護師と患者っていい線いくらしいぜ」

 こんな時にこの馬鹿は……。

「お前はいっそ何もできないように霊安室に閉じ込めてやろうか?」

 と、亜依さんが言うと大人しくなった。
 私の代わりには花や粋が見張ってくれるらしい。
 天音も話を聞きたいと言っていたので多分来るだろう。
 病室を出てバイト先に向かう。
 バイトが終わって病院に戻る前に着替えとかを準備する。

「なずな、俺のバイクおしゃかなんだよな?」
「……そうだけど?」
「俺この機にバイクは引退するよ」
「それで?」
「車もあるし原付でも買えばいいかなって」
「……遊のバイクは手ごろな値段の部品で修理してくれるって」
「でもそれだとまたバイクでなずなに心配かけるだろ?」
「それが間違ってるの」

 バイクだから事故が心配とかじゃない。
 遊の心構えが問題なんだ。
 ちゃんと無事に帰って来てくれるって安心させてくれることが大事。
 それはバイクだろうと車だろうと変わらない。

「……わかったよ。ごめん、なずな」
「わかってくれたらいいよ」

 遊が退院するころにはバイクは直っていた。
 相変らず粋とツーリングに行っている。
 雪華団の他の皆もバイクの修理に忙しいらしい。
 集会どころの話じゃなかった。
 しかしまた繰り返すだろう。
 みんな自分を待ってくれてる人の事を考えてくれないのだろうか?
 少なくとも遊は変わった。
 そういえば花はどうなんだろう?

「私は強く言ってはいないけど、粋は分かってくれるみたい」

 粋はまだましなんだな。
 でも縛り付けてるだけじゃダメだ。
 遊がバイトから帰ってくると私は言った。

「今度皆で紅葉狩りいかない?」
「でも天音達は……」
「天音達は抜きでも出来るでしょ?……それに」
「それに?」
「遊の運転でドライブも悪くないかなと思ってさ」
「分かったよ」

 遊は笑って答えた。
 雪華団、FG、暴走族、ギャング。
 これでもかというくらい問題を詰め込んできた。
 それも一つずつ解決していくしかない。
 少なくとも雪華団の問題は解決しただろう。
 遊と粋が変わったのだから。
 だけどその考えが甘かった。

(2)

 遊の事はなずなに任せて俺と花は家に帰った。
 家に帰って夕飯を食べて風呂に入ってテレビを見る。
 その間花は何も言わなかった。
 流石に今回はやり過ぎたか。
 気まずい空気の中、どうにかしようと俺は考える。
 でも考えるまでも無かった。
 俺が一言謝れば済む問題なのだから。

「花、ごめん……」
「うん……」

 何か違う。
 怒ってるというより悩んでる?
 思えば、花は俺が夜雪華団と遊んでる事については何も言わない。
 そうなるとやはり雪華団を抜けるしかないか。

「ねえ、粋」
「どうした?」
「私やっぱり我慢できないよ」

 何が?
 まさか別れるとか言わないよな?

「私の話聞いてくれる?」

 花が言うと俺は頷いた。
 花は俺が考えている事と真逆の事を考えていたようだ。
 花は俺と同棲を決める際、母親に言われたらしい。

「花が選んだ相手なんだから最後までしっかりついていきなさい。悩んでいたら背中を押してやればいい。決して足を引っ張るような真似はしてはいけない」

 そんな事言われてたのか。
 だから俺のやることに口出ししなかった。
 でも遊が事故って改めて恐怖を感じた。
 もし事故ったのが俺だったらどうしよう?
 注意したところでやめてもらえるだろうか?
 注意できるならまだましだ。
 もしもう会話をする事すら叶わなくなっていたら……
 不安と恐怖で頭の中が一杯らしい。

「私は今の粋が好き。でもこのまま自由にさせてていいのか?粋にもし何かがあったら私はきっと自分を責める」

 もう単車に乗るのはやめて。
 口にするのは簡単だけど、それで簡単にやめる俺じゃないのは花が良く知っている。
 だからどうすればいいか分からなくて困ってる。
 俺は静かに花の話に耳を傾けていた。
 そんなに思い詰めさせていたのか。
 花はなずなのようにやかましく言わない。
 だけど彼氏を想う気持ちは変わらない。
 そんな話を聞かされて、なお愚行を繰り返す気にはなれなかった。

「花、今の気持ちを正直に聞かせてくれないか?」
「きっと粋と喧嘩になる」
「俺の事信じてくれてるんだろ?」

 ちゃんと受け止めてやるから。
 すると花は俺に抱きついた。

「もうあんな危険な真似は止めて欲しい。もし粋が遊みたいになったら私耐えられない」
「……わかったよ」
「え?」

 花は俺の顔を不思議そうに見る。

「危険な真似はしない。誓うよ。花の気持ちと秤にかけるまでもないだろ」

 こんなに俺の事を案じてくれる人を愛さずにはいられない。

「分かってくれてありがとう」

 そう言って俺の顔を見上げる花の目には涙が滲んでいた。
 不安だったらしい。
 花は天音や祈、なずなほど強くない。
 でも自由に生きる俺を止める権利があるのか?
 そんな事をずっと悩んでいたそうだ。
 だから俺は花と約束する。

「もっと俺を信じて欲しい。もっと俺に頼っていいんだ」

 花は喜んでくれた。
 話が済むと俺と花はベッドで眠りについた。
 花が何があっても俺に付いていくと覚悟を決めたように、俺もまた何があっても花だけは守り抜くと誓った。
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