姉妹チート

和希

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光に満たない青春を

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(1)

「大地!私達が遅刻なんて洒落にならないぞ!」
「分かってるって!」

 大地は器用なところもあるけど身の回りの事だけは不器用だ。
 世話が焼ける。
 大地が準備が出来たというと私は少し整える。

「お前は寝癖を直すのに散々時間をかけてこの髪形か!」

 七五三に行くんじゃないんだぞ。

「ご、ごめん。こういうのどうも苦手で……」

 美希にやってもらったり、秘書にやってもらったりしていたらしい。

「じゃあ、これからは私がしてやるよ」
「ありがとう」

 これ以上のんびりしていると本当に遅刻してしまう。
 ここから駅まで徒歩10分もかからない。
 しかしのんびりし過ぎて遅刻してしまった。

「おせーぞ天音。同棲始めてからこんな時間までお楽しみか……いてぇ!」
「遊は黙ってなさい!」

 たぶん策者の玩具は私達の世代だと遊と粋だな。

「んじゃ皆揃ったし行こうぜ」

 祈が言うと皆SAPに向かった。
 まずはボウリングでテンションをあげる。
 ボウリングでテンションをあげるのは良いけど上げ過ぎるのは禁物だ。
 まずアルコールが入っていると遊ばせてもらえない。
 偶に遊ばせてもらった奴がいるけどゴミ箱の中に用を足したり、レーンに勝手に入っていってワックスで滑ってこけたり、軽いボウルを天井に放り投げて穴をあけたり。
 軽い9ポンドのボウルでも石膏ボードくらい軽く貫通する。
 遊達もその類だった。
 両手で転がして投げたり、かっこつけて投げようとして後ろにボウルが飛んできたり。
 こういうパーティでスコアなんて気にする方がおかしい。
 悲惨なスコアだったけど楽しかった。
 厳密に言うとSH組で卒業旅行に行くんだけど引っ越しやバイト探しで忙しい奴は来ない。
 私達桜丘高校組は大体が専門学校に進学する。
 稀に大学に進学したり就職するものもいるけど。
 カラオケで絶叫する。
 命を賭けて絶叫することを絶唱と言うらしい。
 文字通り命を落とすけど。
 しかし設定どおりに命を落としたのは一人だけ。
 あとは色々理由をこじつけて生きている。
 うどん県を舞台にしたアニメの方が代償が大きく見える。
 ネタだろうと演歌だろうとデスメタルだろうと関係ない。
 皆で騒いでいた。
 ここは合コンする場所じゃない。
 皆で最後にバカ騒ぎをする場所だ。
 愛を囁いているような間抜けはいなかった。
 偶に自殺したロック歌手のバラードを歌って顰蹙を買う。
 某アイドルグループの歌を歌うと粋と遊が怪しい踊りを始める。
 当然のように「恥ずかしいから止めなさい」となずなや花に怒られていた。
 それでも、遊は凝りもせず”巨乳音頭”なんて歌を歌ってなずなと大ゲンカする。
 皆で宥めていた。
 最後に皆で卒業ソングを歌って終わらせる。
 SAPを出るともう22時。
 帰る組と残る組に分かれる。

「みんな元気でまた会おうね!」

 そう言って帰っていく。
 きっと10年後にまた会えるよ。
 残った者は当たり前のように居酒屋に入る。
 巨砲サワーなんて甘えた物は飲まない!
 
「生ビール!」

 私と紗理奈がそう言うと「私も」と皆が言い出す。
 当然愛莉には内緒だ。
 食い放題、飲み放題2時間。
 徹底的に飲んで食いつくす。
 大地を酔い潰そうとしたけど大地はマイペースで熱燗を飲んでいる。
 爺くさいもの飲んでるな。
 食べてるのも揚げ豆腐とかイカの刺身とか。
 まあ、大地の好みを知るいい機会だ。
 嫌いと言っても無理矢理食わせるつもりだが
 同棲を始めて数日間で結構矯正した。
 もちろん無理矢理口に押し込むなんて真似はしない。

「大地は彼女の手料理を残して何とも思わないのか?」

 殺し文句ってやつだ。
 これで残しやがったら本当に埋めるつもりだったけど。
 大地の母さんが用意してくれた部屋は最上階。
 ベランダから突き落とすだけの簡単な作業だ。
 皆酔いが回ってきたところで時間になる。
 最終便で帰る奴は此処でサヨナラ。
 水奈は残るつもりだったが学が迎えに来た。

「今日くらい、いいだろ!」
「ダメだ!それだけ飲めばもう十分だろ!」

 学に強制送還された。
 紗理奈と私は当然残った。
 繁華街でいい店は無いかと探しているとポン引きに声をかけられた。

「フィリピン人のバーだよお触りもし放題。皆下着だよ」

 私と紗理奈は即決した。
 決め手は”女性ははタダ”だった。
 引き留めようとする大地と康介を引きずって店に入る。
 祈も面白がって入る。
 遊と粋は言うまでもない。
 当然のようにフィリピン人女性の下着姿をみたり足を触ったりして盛り上がっている二人。
 後日なずなと花の機嫌を直すのに一苦労したらしい。
 康介と大地は普通にふるまっていた。
 大地にいたっては水割りを飲みながら余裕を見せている。

「お前こういう女性に興味ないのか?」

 だとしたら私はもっと派手は下着で誘惑しないといけなくなる。
 だけど大地は言った。

「お酒飲んだくらいで前後不覚になる様な、恋人の前で醜態を晒すような訓練は石原家では受けていないよ」

 いつでも大切な人を守れるように注意してるんだそうだ。
 お前会社の社長と言うより傭兵の隊長の方が似合っていないか?
 1時間ほどで私も紗理奈も飽きたので店を出る。
 人数が人数だからムードのあるバーなんかに行って他の客の迷惑になったら悪い。
 ある程度騒いでお酒を飲めて騒げるこの時間に空いてる場所……。
 やっぱりあそこしかないか。
 私達はファミレスに行った。
 朝まで騒いだ。
 夜が明ける頃ファミレスを出て解散する。
 今日からまた新しい一日が始まる。
 それぞれの暮らしに向かって歩き出す。
 私も新居に戻ると風呂に入る。
 かっこいい事を言ってたのに、無防備に寝ている大地。

「寝るんだったらせめて着替えてくれ。洗濯するから」
「ああ、ごめん。ちょっとうとうとしてた」
「醜態を晒さないんじゃないのか?」
「天音と2人っきりだとつい気が緩んでしまうんだ。まだまだ修行不足だね」
「そんな修行しなくていい」

 私と一緒で安心するならそうしてくれ。
 お前が帰ってくる場所に私がなってやるから。

(2)

「じゃあ皆今日は盛り上がろうね!」

 茜が言うと皆一斉にボールを投げる。
 それが俺達中学生の卒業お別れ会の始まりだった。
 担任の中山先生も呼んでいた。
 女子が群がっている。
 ボウリングを楽しみながら皆徐々にテンションを上げていく。
 2ゲーム終わる頃には最高潮に達していた。
 そのままカラオケのパーティルームに入る。
 歌唱と言うよりは絶唱だった。
 魂を振り絞って歌っていた。
 中には彼女の肩を抱いてラブソングを歌うものもいた。
 ひゅーひゅーと囃し立てる皆をみて梨々香に聞いてみた。

「梨々香も同じような事して欲しい?」
「うーん……ちょっと恥ずかしいかな」

 やるんだったら二人っきりの時にして欲しいらしい。
 俺も適当に歌う。
 君はすぐ形で示して欲しいとごねる……か。
 ドリンクを注文していた。
 どでかいクリームソーダ。
 アイスクリームが5個くらい入ってる。
 ストローは二つある。

「梨々香一緒に飲まない?」
「え?」
「一人で全部は無理だからさ。頼むよ」
「……しょうがないね」

 梨々香はそう言って微笑みながら一緒にクリームソーダを飲んだ。
 皆が囃し立てる。
 あまり気にはならなかった。
 梨々香も同じ様だ。
 最後は卒業ソングでしめる。
 SAPを出てファミレスで夕食を食べるとそれぞれ家に帰る。
 来月からは別々の道。
 そんな心の準備は出来ていない。
 桜の花が舞う。
 手を振る皆に笑顔で言う。

「さようなら」

 梨々香と2人を結ぶ、吐息が紡ぐメッセージ。
 聞こえているだろうか?
 空っぽなこの広い世界に語り出す梨々香の瞳はいつもと同じ。
 俺を見つめてそっと微笑む。
 なんでそんなにシャンと立っていられるのだろう?
 縮んでいく俺達の距離。
 その何かを梨々香は知っているの?
 桜の花びらのように舞い散る皆の声。

「さようなら」

 愛おしいこの空へ吐息が紡ぐメッセージ。
 途切れない悲しみの向こう側はどこにある?
 涙を全て忘れて君に届けよう。

「大好きだよ」
「え?」

 先を歩いていた梨々香が振り返る。

「この先もずっと梨々香と一緒だよ」
「……うん!」

 この時に誓った言葉は桜が咲く頃に毎年思い出すのだろう。

(3)

「おーい皆こっちだぞー!」

 ぞろぞろと集まる謎の団体。
 それが私達SHの高校3年生組だった。
 県外へ引っ越すもの、バイトを探しているもの、まだ引越しが住んでいない者は来ていないけど凄い人数だった。
 祈と陸がチケットを配る。
 そして搭乗手続きを始めた。
 私達の旅行先は北海道。
 中には修学旅行で行ったという者もいたけど私は行ってない!
 牛肉は嫌と言うほど食った。
 次はラム肉だ。
 それだけじゃない!
 キムチと焼肉しかない韓国とは違うんだ!
 海鮮丼やラーメンが待っている。
 当然それだけじゃ不満が出る。
 だから函館の夜景や稚内の日本最北端を目指した。
 個人的にはずっと札幌でいいんだけどな。
 珍しく遊や粋と意見があった。
 2人とも目的は違うけど。

「また私を怒らせたいの!?」

 なずながいうと遊は黙ってしまった。
 やっぱりあの後大変だったんだな。
 北海道は広い。
 しかも新千歳空港を挟んで真反対の位置にある2か所。
 取りあえずは函館に向かった。
 明日は札幌。
 明後日は稚内。
 そしてその翌日に帰る。
 如月観光が割安で手配してくれた。
 SHだけの特権だ。
 3月の気候は九州の真冬以下の気候らしいので防寒が必要になる。
 と、なると当然暑い。
 かと言って遊の様に「コートだけ用意しとけばいいじゃん!」とかやってると……

「げぇ!寒いを通り越していてーよ!」

 って事になる。
 まあ、ほとんど乗り物での移動だから大丈夫だろう。

「これなら遊達も夜出歩かないね」

 なずなと花は安心していた。
 しかし私と祈は見逃さなかった。
 飛行機に乗る前に見たバッグがやけに荷物が沢山詰め込まれていた事。
 そして函館の夜景を見る時に平然としていた事。
 夕食で北海道を満喫して風呂に入るとなずなや花に話をしてロビーで張り込んでいた。
 すると何も知らずに標的が浮かれてやって来た。

「北国の女性ってみんな肌が綺麗なんだろ?楽しみだな」
「粋、目星はつけてあるんだろうな?」
「当たり前よ!ぬかりねーって……」

 粋が私達に気が付いた。

「な、何やってんだ花」
「それはこっちのセリフです」

 どこに行くつもりだ?となずな達が問い詰める。

「ちょ、ちょっと風呂に入って来るだけだよ」

 言ってる事に嘘はないだろうな。
 ちょっとカマかけるか。

「へえ、体洗ってもらったりマッサージしてもらったりか?羨ましいな。私もついていっていいか?」
「いや、女子が行くとこじゃねーから天音……あっ!」

 慌てて口を塞ぐ遊。

「遊!!あんたまだ懲りてないの!?」

 ロビーで正座して怒られてる遊と粋と2人に乗せられた男子。
 大地はあまり興味がないらしいし、陸も自分で祈一筋と断言したくらいだら有言実行していた。
 ……てなことがあったことを部屋で筋トレしている大地に報告していた。

「あの二人は相変わらずだね」

 大地はそう言って笑っている。

「お前はどうなんだ大地?」
「え?」
「お前は同棲を始めてから彼女の私にすら興味を示さない。どういうことだ?」

 その年で賢者になったのか?
 私に魅力が足りないのか?

「興味ないわけじゃないよただ色々慌ただしかったから」
「じゃあ、旅行中なら問題ないよな?」
「ご、ごめん。考えてなくて準備してない」
「専門学校くらいいざとなったら中退するから心配しないでいい」

 それに私は子供ができにくい体質らしい。
 少なくともすぐできる事はない。
 安心しろ。

「本当にいいの?僕が病気持ってるかもしれないよ?」
「そんなに心配なら今度病院で診てもらえ」

 私は今楽しみたいんだ。
 そう伝えると無駄な抵抗は諦めたようだ。

「いざとなったら僕も大学辞めるよ」
「そんなことにはならないって言ったろ?」

 私達の北海道旅行は始まったばかりだった。
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