姉妹チート

和希

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創られた世界

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(1)

「ただいま~」

 光太の声がする。
 酷く疲れてるようだ。
 工期は守る、残業はしない。
 凄くいい会社に聞こえるけど実際はものすごく厳しいノルマだ。
 それがこなせないならいらない。
 残業してでも終わらせろの方が余程気が楽だ。
 昔は残業手当目当てにただ事務所に残っているという不届きな輩もいたそうだ。
 今でも現場所長クラスになると暇だけど作業が終わるまで帰れないからとネットで遊んでる者もいるらしい。
 私は内勤だから残業というのが一切無かった。
 例え客が時間ぎりぎりに駆け込もうと一切受け付けない。
 電話も留守番電話対応に切り替わる。
 光太の作業も捗っていないようだ。
 今の時間は20時過ぎ。
 これでも早かった方だろう。

「とりあえずシャワーでも浴びてて。ご飯温めなおすから」
「ああ、悪い」

 光太がシャワーを浴びてる間におかずと味噌汁を温めなおす。
 シャワーから出た光太がご飯を頬張る。

「どうかな?」
「うん、日々上達してるよ。流石だな!」

 お世辞なんだろうけど嬉しい。

「で、今日はどうだったの?」
「ああ、参ったよ一歩間違えたらクビが飛ぶところだ」

 光太の首じゃない、所長の首だ。

「また内装業者?」
「いや、防水業者」

 窓やキッチンなんかにコーキングをしたり屋根やベランダに防水加工をしたりする業者。
 外壁に接着剤を流し込んで剥離しようとしているコンクリと鉄筋をくっつけたりトイレや浴室の床に防水処理も施す。
 塗装業者に任せる場合もあるけど。
 今回は学校のトイレの床の防水に問題があった。
 設計会社は床にFRPと呼ばれる防水材を使うことにした。
 滑り止めに骨材をまぜることにした。
 FRPは船体などに使われるように滑らかな仕上がりを見せる。
 何の問題もないように思った。
 だけど施工業者に問題があった。
 この時期は台風に備えたり、また同じように学校の補修などに駆り出されて忙しい。
 業者がやってきたのは終業時刻前だった。
 慌てて施工に入る。
 夏場だから暑い。
 FRPの塗料は固まるのが早い。
 だから業者も慌ててやってしまった。
 投光器を持ってきて何か所もあるトイレの床と壁を仕上げていく。
 そして悲劇はここから起こった。
 今日行くと折角新しく貼った床のシートに塗料がこぼれてあった。
 当然普通の洗剤では落ちない。
 そして落とすための溶剤を使うとシートの色が変色する。
 それだけではすまなかった。
 乾燥が早かったため綺麗に塗装できていなかった。
 骨材を入れたのも災いした。
 素足ではとても踏み入れないほど床が尖っていた。
 骨材だけが原因じゃない。
 FRPは塗料の下にガラス繊維のシートを敷く。
 それが毛羽立ってしまった。
 それは針の様に尖ってしまいとてもじゃないけど床として成り立たない。
 そしてそれは小学校の校舎。
 転んだら間違いなく擦りむいたじゃ済まない。
 当然業者に問い詰めた。

「骨材なんていれるって言ったそちらの落ち度だ。やり直すなら追加工事になる!」

 業者はそう言い張った。
 しかし骨材を入れないとFRPの床は普通なら滑りやすくて危険だ。
 そして一度グラインダーで尖っている部分を削って上から塗りなおすことにした。
 今度はちゃんと丁寧にするように監督したらしい。
 廊下の洗浄はメンテ業者が丁度入る時期だったのでメンテ業者に任せる事にした。
 FRP防水は防水機能等は優れているが反面扱いが難しい。
 それを素人同然の新人が施工したのだからそうなったんだけどそれを隠していた。
 FRP防水の資格ができたのは他の防水に比べると最近の事なんだとか。
 それでこの時間まで立ち会っていたらしい。
 なんとか盆休みは取れるそうだ。
 取れないなんて事態になっていたら所長は間違いなく僻地に異動されていたであろう。

「俺の話ばかりでごめん。麗華はどうだ?」
「そうね。相変わらずかな?」

 受付は会社の顔。
 当然化粧くらいはする。
 私みたいなのでも美人に見える。
 光太は「すっぴんでも麗華は綺麗だ」と言ってくれるけど単に”化粧が下手”と言いたいのか?と意地悪を言ってしまう。
 とりえあえず受付嬢やCAなどはそんなにひどいのはいない。
 そういう風に見せるように訓練されているから。
 制服も夏服になったとはいえ紺と白の清潔感ある制服になっている。
 決して光太のような作業服ではない。
 そうすると何を勘違いしているのか、偶に営業の人が声をかけてくる。
「今年入ったの?」とか「お昼休み何時から?」とか。
 今で言うなら十分セクハラだ。
 しかしお客様には変わりない。
 どうしたものかと道香と相談していると、光太のお父さんの副支店長がやってくる。

「うちの受付がどうかされましたか?」
「い、いえ。ちょっとお喋りをしていただけです」
「我が社では今は業務時間。あなたのお喋りに付き合ってる時間じゃない」

 光太のお父さんがそう言うと何も言わずに帰って行く。

「ああいう輩には強気で言っても良いよ。後始末はこっちでするから」

 光太のお父さんはそう言っていた。

「そのくらいかな」
「受付も大変だよな。変なおっさん相手にしないといけないし」
「そうね。道香なんて下着の色まで探られてたし」
「セクハラ越えてただの変態だな」

 光太はそう言っていた。
 今年の盆休みは異常に短い。
 有休をとっても5連休がやっとだろう。
 もちろん私達はとらなかった。
 3連休もあれば十分だと思ったから。
 盆は皆と山にキャンプに行く予定だ。
 皆それを楽しみにしていた。

(2)

 山道を登っている。
 目的地は酒井リゾートフォレスト。
 今年も一泊二日の山のキャンプに行く。
 受験生もいるけど偶の気晴らしにはいいだろう。
 今年は翼と空がいない。
 2人は友達とキャンプに行くようだ。
 天音ももう年頃だし友達と遊びに行くかと思ったけどそうでもなかったらしい。
 大地も来るんだから当然なんだろうけど

「ただで肉食えるのに行かないはずがない!」

 それが天音の一番の理由だった。
 まずは遊園地で遊ぶ。
 冬眞達も乗れる乗り物に乗ってはしゃいでいた。
 それをカメラに収めるのが僕の役目。
 誠も同じ様だ。
 崇博や歩美を見ていた。
 誠司と冬吾はもう適当に遊んでいる。
 冬莉は愛莉にくっついて大人しくしていた。
 園から出なかったら自由にしていいと伝えてあった。
 念の為カンナと愛莉がついてるけど。
 茜と純也は大丈夫だろう。
 昼食を挟んで遊園地で遊ぶとオートキャンプ場に移動する。
 テントを設置して火を起こす準備をする。
 愛莉達女性陣は野菜を切っていた。
 茜と冬莉は料理には全く興味を示さない。
 莉子は愛莉がついてる。

「お父さんまだ昼間だよ!これはダメ!」

 桐谷君が娘の恋に怒られていた。
 まあ、桐谷君達に酒が入るとろくな事が無いのは事実だからしょうがない。
 恋は変わったらしい。
 桐谷君に対する恋なりの愛情が芽生えたんだそうだ。
 その結果桐谷君は夜でも「お酒ばっかり飲んでないでご飯も食べなさい!」と愛娘に怒られてるわけだけど。
 BBQの準備が出来上がると渡辺君の挨拶があって肉を焼き始める。

「天音、そんなにがっつかなくても肉いっぱいあるから」
「あるんだからあるだけ食う!そういうもんだろ!?」

 大地は天音の扱いに相変わらず困っているようだ。
 石原家と言えば思い出した。
 恵美さんに挨拶に行く。

「空と美希はうまくやってる?」
「そうみたいね。愛莉ちゃんとも話をしているんだけど特に問題ないみたい」
「それならいいんだけど」
「そうね、ただ大地はああいう性格だからちゃんとしっかりできるのか心配で仕方ないわ」

 誰に似たのかしらと言ってる恵美さんの隣で石原君が苦笑いしてる。
 石原君の隣には酒井君がいた。

「善明はどうやら僕に似たようで……片桐君ごめんよ」
「今更うちの娘は誰にもやらんなんて言わないから大丈夫だよ」
「娘を嫁に送るってどんな気持ちだい?」

 酒井君が僕にに聞いてきた。
 そうだなぁ。

「やっと荷が下りたという反面少し寂しい気もするかな」

 小さい頃の娘の姿を思い起こすんだという。
 きっと花嫁姿を見たら泣くんだろうな僕は笑って言った。

「冬夜さんは今からそんなことでどうするのですか!父親なんだから堂々と送り出してあげてください!」

 愛莉に怒られた。

「善君もよ!娘はいずれは嫁ぐ身なのだからみっともなくじたばた悪あがきするのだけは止めてちょうだい!」

 晶さんの言う通りかもしれない。

「俺は絶対に水奈は嫁に出さん!」

 誠が叫んでる!

「お前がどう思おうと水奈がお前から逃げ出すよ」
「そ、そんなこというなよ神奈」

 この2人も毎回飽きないな。

「そう言えば誠司はどうなんだ?この前のトレセン行ったんだろ?」

 誠に聞いてみた。

「3年後が楽しみだって言ってくれたよ。冬吾ほどじゃないけどな」

 後はケガさせないようにしっかり管理しとくのが俺の仕事だ。メンタル面もケアしないとなと誠は言う。
 崇博と歩美もジュニアカートに格上げしても相変わらず勝ち進んでいるらしい。
 BBQが終ると花火をして遊んでいる子供たちと酒を楽しんでいる大人たちに別れた。
 花火が終ると子供たちはテントに入って寝た。
 僕達もそろそろ寝ようという時に突然花火の音が鳴る。
 ここはオートキャンプ場。
 当然僕達だけで貸し切ってるわけじゃない。
 だけどもう深夜だ。
 こんな時間に花火をするのはマナー違反だ。
 文句を言いに行こうとするカンナと美嘉さんを宥める。

「学生時代の特権だ。大目にみてやろうじゃないか」

 渡辺君が言う。

「私は自分の娘をあんな風に躾けたおぼえはない」

 天音と揃って全治6カ月の重傷を負わせたそうだけど。
 やりすぎるなと言ってるのに天音達はキレたら止まらない。

「それは冬夜さんに似たんですよ」

 愛莉は笑って言う。
 でも僕達にもあんな時代があったんだとバカ騒ぎをしている多分大学生の集団を見て思った。

「少々五月蠅いかもしれんけど。まあ、歳には勝てない。いい加減に寝ようか」

 渡辺君が言うと僕達はテントに入る。
 花火と笑い声を聞きながらかつての自分を振り返りながら眠りについた。

(3)

 朝早く目が覚めた。
 テントを出ると石原君がコーヒーを飲んでいた。
 もう僕達は定番のようだね。

「おはよう」

 僕に気付いた石原君が挨拶をする。
 僕も返事をして座ると自分の分のコーヒーを準備する。

「本当に片桐君には申し訳ない事をしたと思ってるよ」
「善明達も法的にはもう大人だ。自分たちで決めたんだから僕達がとやかくいう事じゃないよ」

 それより僕の事を心配していた。
 娘を嫁に送り出すのは僕が思っている以上に寂しいものがあるそうだ。
 僕には娘がやけに多い。
 毎回その苦痛を味わうことになる。
 きっと嫁に行くのも早いんだろうな。
 策者が就職先を考えるのも馬鹿馬鹿しく思うくらいに。
 2人で話をしていると大地達も起きてくる。
 次々と起きて来てそして自然に朝食の準備が始まった。
 最後まで寝ていたのは中島君と誠君と瑛大君だった。
 これもいつもの事だ。
 美嘉さんを主導に朝食が作られるとそれを食べて片づけに入る。
 片づけを済ませると車を移動させる。
 サファリパークに向かった。
 サファリバスに乗って動物を見る。
 大人が一度見て飽きる物でも子供達はそうでもないらしい。
 サファリパーク内で昼食を食べると車は地元へ戻っていく。

「どうせだからファミレスで夕食食っていこう」

 あんまりお腹空いてないんだけどね。
 まあ、時間的にもそろそろか。
 ファミレスに寄って夕食を食べると解散する。
 家に帰って荷物を倉庫に片づけると家に入って風呂に入る。
 明日は一日オフ。
 休みだ。
 働く事は許されない。
 泉や善斗達の相手でもしてやろうか。
 もっとも泉は灯里たちが世話をしているからそっちにまかせてもいいんだけど、男の子は善斗と善久だけになってしまったからね。
 とりあえず今日は酒を飲んで寝る事にする。

「善君、ちょっと相談にのってくれない?」
「どうしたんだい?晶ちゃん」
「善明達の新婚旅行先で悩んでるの」
「そんなの2人が決めるんじゃないのかい?」
「結婚祝いにプレゼントしてあげようと思って」

 入学祝が家だからね。
 結婚祝いとなるとかなりの物が要求されるんだろうね。

「2人が長期休暇に入ったらクルージングでも用意してやったらどうだい?」

 かなり適当に言ったつもりだった。

「それいいわね!ゆっくり過ごす時間は必要だわ」

 そう言って晶ちゃんがスマホで検索を始める。

「地中海が良いかもしれないわね……」

 ちょっとだけ晶ちゃんのスマホを覗いてみる。
 ……学生の間の新婚旅行でよかったかもしれない。
 下手すれば3か月かけての世界一周なんて言い出しかねないところだったよ。
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