姉妹チート

和希

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藍になって

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(1)

 見失ってしまった。
 大勢の新社会人がいる中で光太を探すのは困難だ。
「ここで待ってて」って言ったのに。
 どこに行ったんだ?
 まだ会場の中に入っていないことを祈りながらメッセージを送っている。
 当然会場の中ではスマホは厳禁。
 書かれていなくてもそのくらいの事は理解している。
 今日は入社式。
 慣れないスーツを着て慣れない化粧をしていれば緊張もする。
 ちょっとお手洗いに行った隙にすぐに消えてしまう。
 まったく……
 スマホをそうしていると誰かが背中にぶつかった。
 振り返ると同じようにスーツを着た女性がいた。
 私を不思議そうに見ていた。

「……ごめん」
「気にしないで。あなたも迷子?」
「うん、あなたも?」
「ええ」

 お互い一緒に来た連れとはぐれたらしい。

「道香!どこ行ってたんだ!?」

 光太と一緒に知らない男性がやって来た。 

「どこって、お手洗い」
「それならそうって言ってくれればいいのに」
「言おうと思ったらいなかった」
「道香の悪いくせだぞ!突然どこかに行くの。で、一緒に居るそっちの美人さんは誰?」

 多分私の事だろう。

「ああ、俺の連れ。紹介するよ。栗林麗華。麗華こいつ俺と同じ部署に配属されるらしい岡沢克樹」

 光太がそう言うと「よろしく」と会釈をしたので私も返した。

「で、光太はどこに行ってたわけ?」
「ああ、克樹が連れを見失ったから一緒に探してたんだ」
「どうして連絡してくれなかったの?」
「スマホ家に置いてきた」

 どうせ、会場では電源切るんだし必要ないだろうと持ってこなかったらしい。

「ごめんね、栗林さん。あ、麗華ちゃんって呼んでもいいかな?」
「……別にいいけど」
「悪いね、どうせこれから年配相手にしないといけないから同期くらいはタメ口で話したいからさ。あ、こいつ俺の連れで筑井道香」
「……よろしく」

 筑井さんはぼそりと呟いて会釈をする。
 そんな筑井さんを見て岡沢さんは謝る。

「悪いね、こいつどうも人見知りするっていうか愛想が悪くてさ」
「大丈夫」

 私も似たようなもんだし。

「そろそろ会場入らないとまずいんじゃね?」

 光太が時計を見て言う。

「あ、本当だ。じゃあ、道香また後でな」

 岡沢さんはそう言って会場に入ろうとする。
 それについていこうとする光太を捕まえた。

「式が終わったらどうやって待ち合わせするつもり」
「あ、そうだ。どうしよう?トイレの前で待ち合わせでいいか?」
「……栗林さんはどこの部署ですか?」

 筑井さん聞いたので答えた。
 どうやら同じ部署らしい。

「じゃあ、私が克樹に連絡するから」
「わかった。じゃあ、また後でな!」

 そう言って岡沢さんと光太は会場に入る。
 私達も一緒に会場に入る。
 配属先ごとに席が違うようだ。
 席に座ると筑井さんが聞いてきた。

「……二人は付き合ってから長いの?」
「まあね、小学生からかな」
「すごいね」
「筑井さんはどれくらいになるの?」
「道香でいいよ、私も麗華って呼ばせてもらうから」
「わかった。で、道香はどれくらい彼と付き合ってるの?」 

 高校の入学式の日に告白されたらしい。
 たまたま隣の席だったから。
 一目惚れ?というわけでもなさそうだ。

「せっかくだからお互い楽しく高校生活送らない?」

 そう言って口説かれたらしい。
 いい加減な物語だ。
 そうまでして手を抜きたいのだろうか?
 そして式が始まった。
 社長のありがたい言葉があって、そして多分大卒の人だろう、新入社員の代表の人が挨拶して終わった。
 それから、各部署ごとに説明を受ける。
 私達は制服の採寸があった。
 車という交通手段が使えない私にとって内勤はありがたい事だった。
 制服も作業着ではなく、受付用のきちんとしたスーツ。
 私達は受付に回された。
 新人に任せていいのか?
 仕事に慣れたら事務仕事に回ってもらうと聞いた。
 受け付けは会社の顔だから若い方がいい。
 暫くは応対の仕方について訓練をするそうだ。
 テーブルマナーの講座にも参加する。
 それから各部署のお偉いさんの所に挨拶に行く。

「今日付けで総務部に配属されることになった栗林麗華です」
「き、君が!?いや、大変お世話になっとります」

 初対面の人なのになんでだろう?
 私の名前を出すと皆緊張していた。
 どっちが上なのかわからない。
 昼食は社長たちの話を聞きながらみんなで弁当を食べていた。
 そして細かい説明を受けて終業時間になると会社の照明が落ちていく。
 この会社では残業は厳禁。
 それが徹底されていた。
 そして仕事が終ると光太達と待ち合わせする。
 光太は岡沢さんや他の同期の人間と一緒に居た。

「麗華も来るか?」

 入社して早々歓迎会をやるらしい。

「私は止めとく」

 多分女性の私が行ってもろくな目に合わないだろうから。

「家の鍵は持ってるよね?」
「ああ、そんなに遅くならないうちに帰るから」
「道香。お前はどうする?」

 岡沢さんが聞いていた。

「私も止めとく、あまり好きじゃないし」
「そう言うの良くないっていつも言ってるだろ?たまには愛想ふりまいとけって」
「まあ、いいじゃん?克樹。無理矢理は良くないぜ」
「それもそうだな。じゃあ、気を付けて帰れよ」

 そう言って二人は歩いて行った。
 光太と私は会社まで徒歩5分だし、初日から現場に飛ばされることもないだろうと徒歩で来た。
 岡沢さんは道香の車で来たらしい。
 私も帰ろうと道香に挨拶する。

「せっかくだから一緒に夕食でもどう?」

 道香が言うのでせっかくの同期だしいっかと了解した。
 そんなに離れていないファミレスに行った。
 そんなに離れてないけど道香の車で行った。
 道香の車はそれはもう見事に派手な赤色のスポーツカーだった。
 こんな趣味があったのか。
 運転も上手だった。
 見た目の割には飛ばさないスムーズな運転。
 ハンドルを握ると人格が変わるという事もない。
 ファミレスに着くと車が好きなの?と聞いてみた。
 学生時代は自動二輪も乗っていたらしい。
 女性ながらに凄い。

「克樹に合わせてただけ」

 無表情で道香は答えた。
 彼女の私服も化粧も皆岡沢さんに合わせているらしい。
 車種もいわゆる姉妹車と言うものを選んだそうだ。

「そんな生活してて疲れない?」
「克樹だけだから……」

 道香が初めて表情を見せた。
 照れというやつだ。
 小学校中学校と自分といてもつまらないと離れていく友達。
 そして自分1人だけで高校に入学して同じように過ごすのだろうと思っていたら岡沢さんが話しかけてきてくれた。
 それがきっかけだった。
 夕食が終ると家に送ってもらう。

「じゃあ、また明日」
「あの……」

 道香が何か言いたそうだ。
 連絡先を交換しないか?という。
 断る理由は無かった。
 でも、それならと道香をSHに招待する。
 不思議そうにしている道香に説明する。
 道香はSHに入った。
 軽くエンジンをふかして道香は家に帰る。
 私も部屋に行くとシャワーを浴びる。
 23時を過ぎても帰ってこない光太。
 まあ、そうだろうと思っていたけど。
 1時を過ぎて先に寝ようかと思った時に鍵を開ける音が聞こえた。
 玄関に行くとふらふらの光太がいた。

「ただ今帰りました~」
「明日仕事なんだよ?大丈夫なの?」
「このくらい大したこと無いって!」

 そう言って光太は靴を脱ぐと私に抱き着く。

「愛してるぜ、麗華」
「ちょっと匂うから……そんな状態じゃお風呂で溺れるから朝にシャワー浴びなよ」
「溺れないように一緒に入るってのはどうだ?」
「私はもう入りました」

 翌朝光太はシャワーを浴びていた。
 そして急いで朝食を食べる。
 同棲するって聞いた時から一応料理の練習はしておいた。
 案の定光太は昨夜の事なんて覚えてない。
 光太も当分は内勤で講習をうけるらしい。
 会社のなかに食堂はあったけど、少しでも節約しよう。
 そう思ってお弁当を光太に渡す。

「これが愛妻弁当ってやつか!」
「まだ妻になった覚えはないよ」

 その昼道香と二人で弁当を食べた。
 道香も弁当を用意している。
 もちろん岡沢さんの分も用意してるらしい。
 2人もまた同棲しているのだという。
 岡沢さんも昨夜は光太と同じような状態だったらしい。
 いや、もっと酷かったそうだ。
 でも家の中だからいい。
 外で他人に絡んだりしたら大事だ。

「お互い困った彼氏だね」

 そう言って笑っていた。

(2)

「空、早くしないと遅れちゃうよ」
「美希の車で行くんだろ?奥の手用意してあるから大丈夫だって」

 慣れないスーツに奮闘していた。
 襟がきつい。
 一番上のボタン外してもいいんじゃないか?
 そんなの関係ない。
 どうせネクタイでしめるんだから。
 ネクタイで奮闘してさらに革靴でまた難航する。
 こんな事なら練習しておくんだったな。
 よし、準備出来た。

「じゃ、行こうか」
「待って!ネクタイおかしいよ!」

 美希がそう言って僕のネクタイをしめなおす。
 美希がネクタイをしめると頬にキスをする。

「……キスマークとかついてない?」
「そんなにリップしてないから大丈夫」

 美希と家を出ると車に乗る。
 時間は7時半。
 会場のホテルまでは十分間に合う。
 車を出すと国道を通らず裏道を通る。

「この道本当に大丈夫なの?」
「父さん直伝の裏ルートだから問題ないよ」

 僕たちが済んでる場所から街に向かうには大まかに3つの道に別れる。
 二つのバイパスを通るか旧道を通るか。
 場所的に考えてトンネルをくぐるバイパスを選ぶしかない。
 だけどそれでは狭間インターから下郡に抜けるバイパスとぶつかる交差点、それと大道を通る国道10号の交差点を越えなければならない。
 両方とも混雑の発生点だ。
 だから僕はバイパスを使わず。トンネルの上を越えていく道を選んだ。
 狭いけど美希のコンパクトカーなら離合も楽に出来る。
 離合の相手が余程下手じゃない限りスムーズに進める。
 そして、そのまま狭間インターからの道を渡って裏ルートを使う。
 もちろん制限速度はオーバーしてる。
 しかし30キロなんて制限速度守ってたらどんなに道が空いていても間に合わない。
 信号もない見通しの悪い交差点。
 一時停止だけはしっかり守って行く。
 たまに一時停止すら無視する無謀な車もいるけど。
 そして30分前にはついていた。
 タワーホテルのホールを借りて医学部の新入生も交えての入学式。

「お~い」

 翼の声がする。
 善明は僕達のよりはるかに高そうなスーツを着ている。

「どうせ、成人式やリクルートスーツは買いなおすからと言ったんですけどね」

 善明がそう言っても酒井家は女性の権限が強い。

「ちゃちなスーツ着てみっともない姿で入学式に行くつもりなのあなたは!」

 善明の母さんに怒られたそうだ。
 ほかのSH組も揃ったようだし受付をして会場に入る。
 入学式が終ると皆でSAPでも行かないか?と話をしていた。

「そういう事なら一緒に参加させてほしい奴等がいるんだけど」

 指原翔悟が言う。
 翔悟の後には8人の集団がいた。
 4組のカップルだそうだ。
 翔悟達はきっと後で皆で遊ぶと思って電車で来たらしい。
 翔悟達は地元大学前駅から徒歩で数分の所に住んでいた。
 そしたら同じようにスーツを着て集まってる集団を見かけたので声をかけた。
 それで意気投合してSHに加えたらしい。
 別に反対する奴はいなかった。
 それにしても本当に見たことない人たちだった。
 1人の女性に聞いてみた。

「君どこから来たの?」

 美希に小突かれた。
 なんで小突かれたのか理由が分からない。

「私達別府から来たの」

 なんでわざわざ別府から?なんて質問はしなかった。
 地元から東大に行く人に「なんで東京までわざわざ行くの?」って聞かないだろ?
 地元にある国公立大学は地元大学だけ。
 それが多分理由だろう。

「皆学部は?」

 皆同じだった。
 経済学部。
 この地元にはこんな神話がある。

「地元大学行っとけばどっかに就職できる」

 もちろんなれない職業もある。
 法学部や文学部などはない。
 だから熊本の大学にいったり神奈川の大学に行ったりするんだ。
 とりあえず自己紹介も終わったので皆でSAPに行く。
 僕達は車を移動させる。
 そして軽食を食べてボウリングから遊んでいく。
 そしてカラオケで騒いでいた。

「空、シャツに染みつけないように気を付けてね」

 美希に注意されながら2人で料理にありつく。
 夕方くらいになると皆で食べに行こうという。
 学は断っていた。
 善明と翼も断っていた。
 焼き鳥屋さんにいくそうだ。
 なんか大人っぽくていいな。
 美希に「行ってみない?」と聞いてみたけど却下された。

「そこのラーメン屋で我慢して」

 今日は美希は機嫌が悪い様だ。
 食事中は休戦。
 それは守られていた。
 そしてラーメンを食べ終わると家に帰る。
 家に帰ったらスーツを脱いで部屋着に着替えてそして風呂に入る。

「お疲れ様」

 美希がそう言ってコップにジュースを注いで持ってきてくれた。
 あれ?
 機嫌が悪いんじゃないのか?
 不思議そうに美希を見ていると美希が抱き着いてきた。

「どうせ私の機嫌が悪いとか考えてるんでしょ?あの時は皆に水を差すと悪いと思ったから言わなかったけど後で教えてあげる」

 とりあえず私もお風呂入ってくるね。
 美希がそう言って風呂に入ると寝室に行く。

「空は運転手だから絶対ダメ。だからと言って私だけってのも約束破るからダメ。でもそれだと皆に水を差しちゃうでしょ?」

 あ、そういう事か。

「やっと気づいた?」

 美希は僕の顔を見て笑っている。

「じゃあ、僕が福山さんにどこから来たの?って聞いた時怒ったのは?」
「目の前で他の女性口説いてたら誰でもムッとすると思うよ」
「そんなつもりで言ったんじゃないよ」
「そんなつもりじゃなくてもそんな風に聞こえたの」

 本気で怒ってるわけじゃないのは何となくわかる。

「じゃあ、皆今頃盛り上がってるんだろうね」
「言っとくけど週末の花見でも一緒だからね」
「わかってるよ」

 花見は皆で公園にあつまるそうだ。
 今が見頃らしい。
 花見が終れば週が明けて本格的に大学生活が始まる。
 光太は入社初日からやらかしたらしい。
 そして新たにメンバーを増やしたと聞いている。
 世界が広くなって新しい仲間と巡り会って。
 だけどどんな時でも諦めない。
 輝きは誰にも止められない。
 思い出は壊されない。
 藍になって空を包むように抱きしめている。

(3)

「それじゃ、新しいメンバーもよろしくな!乾杯!!」

 光太がそう言って宴は始まった。
 皆弁当を持ちよって食べている。
 光太と光太の仲間の岡沢克樹はさっそく盛り上がっていた。
 指原翔悟や別府組も同じ様だ。
 ていうか、沢木兄弟大丈夫なのか?

「試合後はいつもこうだよ」

 そんな大っぴらに騒いだらまずいだろ?
 与留はみなみに怒られていた。
 渚はどうとも思ってないようだ。
 花見は日中に行われた。
 皆ボールやバドミントンを持って遊んでいた。
 ここの場所では荷物を運ばないといけない。
 そして代行を頼むしかない。
 そんな立地条件の悪さが皆を自粛させているかのように見えたがそんな事は無かった。
 それなりにバイトしたリ中には働いている子もいる。
 歯止めにならない。
 そして光太と克樹を筆頭に騒いでいる。
 麗華と克樹の彼女の道香は飽きれていた。
 2人はジュースを飲みながらお話をしている。
 受付嬢も大変らしい。
 基本立ちっぱなしの仕事らしい。
 そしてまだ受付には立たせてもらえない。
 ひたすら頭を下げる練習。
 そして笑顔を絶やさない練習。
 髪形や色。化粧まで細かなチェックが入る。
 2人ともそう言うのに疎いので苦労しているらしい。
 光太達はそろそろ現場に就くらしい。
 花見は夜まであった。
 食べ物もつきかけた頃小さなコンロで焼肉を焼いていた。
 中には七輪を持ってきてる人ももいた。
 ここBBQ禁止じゃなかったっけ?

「この時間ならまだ大丈夫だ」

 学が言う。
 じゃあ、遠慮なく肉を頂く。

「水奈も連れてくればよかったのに」
「水奈も2年になって大変らしい」

 相変わらず勉強は熱心にしてくれないらしい。
 善明の様子が変だ。
 異様なテンションになっている。
 美希が翼に聞いていた。
 原因は光太だった。
 帰りは翼が運転するらしい。
 幸い翼の車で来ていたから平気らしい。

「こうなるのが分かってたから」

 光太を叱る学と陽気な善明。

「そろそろお開きにしようか?」

 翼が言う。

「じゃあ、皆二次会だ。繁華街行こうぜ」
「どうやって行くの?」
「女子に運転任せてさ、大丈夫だろ?」
「そう言ってまた午前様になるつもりでしょ」

 麗華と光太が言い争っている中僕達は片づけに入る。

「じゃ、お疲れ様」

 学が言うとみんな解散する。
 麗華は運転が出来ないので道香に送ってもらっていた。
 家に帰ると荷物を片付ける。
 そして風呂に入って寝室に行く。

「今日は早めに寝よう?」
「そうするよ」

 美希とベッドに入ると2人で抱きあって眠りにつく。

「GWに合宿しようよ」

 そんな事を美希が言っていた。

「合宿って何するの?」
「別荘で何泊かするの」
「誰から聞いたの?」
「母さんから。母さん達もやってたんだって」

 美希の両親、てことは家の両親もか。
 断る理由は無かったので了解した。
 年度が始まってきっとまだまだ出来事があるんだろうな。
 流されずに、傷つかずに。
 藍になって瞬間を掴むように抱きしめている。

(4)

 今日は小学校の入学式。
 僕達は今日から小学生になる。
 僕も莉子もこの日の為にと父さん達が服を買ってくれた。
 小学校といっても幼稚園と顔ぶれはそんなに変わらない。
 この日ばかりは崇博も歩美も来ていた。
 崇博達は幼稚園にはあまり来てなかった。
 キッズカートのレースでトロフィーをとりまくっているそうだ。
 そして今年から次のステップ、ジュニアカートに移行する。
 ライセンスを取る必要があるけど、その前にマシンが変わる。
 まずはその調整から入っていた。
 細かいルールがあるんだけど、そこはスポンサーの力でごり押ししたらしい。
 年齢制限すら曲げてしまうこの世界。
 でも、それを実力で曲げてしまうのがこの二人だった。
 小学校の間も次々と資格を取っていくつもりだという。
 遊んでいる暇はない。
 勉強も最低限の勉強はするつもりらしい。
 そして同じ年の割には体格は良い方だけどやはりコーナーを曲がる際の荷重がしんどいそうだ。
 それでも相手をごぼう抜きする快感を知ったらやめられないらしい。
 2人だけの問題じゃない。
 2人をサポートするチームの期待もかかっている。
 同い年とは思えない重圧を背負って二人はサーキットを駆け抜ける。
 入学式が終わった後、回転寿司やで昼食をしながら崇博の母さん達の話を聞いていた。
 家にかえるとランドセルを背負った姿を写真に収めるおじいさんとおばあさん。
 着替えてリビングに呼ばれると僕達に手渡されたのはスマホだった。
 リンゴ製の最新機種。

「入学祝です、変な事に使ったらだめですよ」

 母さんがそう言った。
 構造自体は茜のスマホを分解してある程度把握してる。
 中味についても大体レクチャーを受けていた。
 莉子と一緒に茜にスマホ貰ったって報告する。
 SHというグループに招待される。
 莉子がチャットを楽しんでる間に僕はスマホの電源を切って茜といじる。
 分かりやすく言うと片っ端からWi-Fiを利用できるように。
 フリーWi-Fiが危険な事くらい分かっている。
 僕達が狙っているのは個人で持ってるポケットWi-Fi。
 パスワードを解析してこちらの痕跡は一切残さずに利用するという、子供のいたずらっぽい仕様に変えていく。
 悪戯をされたら極悪のウィルスをプレゼントするようにも仕組んでいった。
 茜たちが入ってるグループは荒らしというのが存在しない。
 出来ないように茜が弄ってる。
 そんな真似をしたらグループから追い出されるだけじゃない。
 スマホのOS自体を破壊してしまう、賢いウィルスをプレゼントする。
 改造が終る頃夕食の時間になる。

「小学校は楽しそうかい?」

 父さんが聞いてきた。
 僕は返事する。
 そんなに周りの人間は変わらない。
 授業は来週から。
 だからまだ何も分からない。

「給食は美味しいけど好きなものを大量にとったら苦労するよ」

 父さんは食べ物の話が大好きだ。
 好きな献立を大量に取ると嫌いなものが出たときに苦労する。
 わかめご飯がお勧めらしい。
 逆にお祝いの日に出てくる赤飯は最悪だったと父さんが教えてくれる。

「自分の子供に好き嫌いを勧めるようなことを言わないでください!」

 母さんが父さんを叱っている。

「でもあれは本当に気持ち悪いんだ。臭いをかぐだけで吐きそうになる」
「……困った人ですね」

 両親は僕達の事を「自分の子供」だというけど本当はそうじゃない。
 僕も莉子も本当の両親は事故で亡くしてしまった。
 その事は父さん達から聞いていた。
 それでも今の両親は自分たちの子供だと見守っていてくれる。
 茜や純也もそうらしい。
 夕食が終って寝室に入ると寝る。
 今まで昼寝していたのに学校は昼もあるからと今日から昼寝を禁止された。
 だからとても眠い。
 莉子と一緒に寝る。
 好きな人と一緒に寝るのは普通だと莉子はいうけど、なんか恥ずかしい。
 正直母さん達とはいっしょに風呂に入るのも照れる。
 冬吾も小学校に入ってから一人で入るようになっていたな。
 僕も母さんにきいてみようかな?
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