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不確かな幻想
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(1)
「ごめん!まさか本当に付き合うとは思ってなかった」
片桐天音は私に謝っていた。
私が相談した後、大垣美穂からも相談を受けたそうだ。
美穂の話を聞いて断ることが出来なかった。
どうせ上手くいくはずがないと思っていた天音は美穂に無理矢理告白させたらしい。
そして予想通り断られた。
しかしその後の朝倉先生の行動までは天音にも予測できなかったらしい。
朝倉先生は美穂が告白した晩に美穂の家を訪れたそうだ。
結婚を認めてもらいにいったらしい。
美穂と二人で長時間頭を下げて、そして認めてもらえた。
もちろん私達は16歳。結婚はみとめられない。
高校を卒業するまでは認めない。
中退も同棲も認めない。
そして結婚するまでは妊娠は認めない。
そういう条件の下2人の交際は認められた。
そんな噂はあっという間に校内に広まった。
美穂が毎日朝倉先生のお弁当を作って持って行ってたら嫌でも気づく。
そしてそれは私の失恋を意味した。
私も朝倉先生が好きだったのだから。
卒業式に告白しよう。
正統派で勝負しようと思っていたのに。
その事を天音にも相談していた。
だから天音も美穂の相談を受けた時に困惑したらしい。
でも美穂の気持ちを知ったら放ってはおけなかった。
そして今私に謝っている。
「そう落ち込むなよ美砂。他に男なんていくらでもいるよ。天音の知り合いにもフリーの男子いるみたいだし。今度紹介してもらおうぜ」
渡辺紗理奈が言う。
美砂というのは私の名前。
私の名前は鴨川美砂。
今年桜丘高校に入学した天音達の同級生。
私のクラスは大半が女子だ。
調理科という学科だからだろうか?
でも男子も少なからずいる。
商業高校なんかも女子の方が多いらしい。
桜丘高校にも女子だけのコースがある。
しかし同年代の男子にあまり興味が無かった。
朝倉先生を好きになった理由は優しいから。
ありきたりな理由だった。
高校1年生だ。
そんなに深く恋愛について考えないだろう。
この世界ではそうではないらしいけど。
ただ今は「失恋した」って事を認識することで精一杯だった。
「今はそっとしておいてくれないかな?」
それが精一杯の対応だった。
だけど紗理奈は言う。
「いつまでも悔やんでいてもしょうがねーだろ!さっさと次の男探そうぜ!私も男欲しいし」
紗理奈は遊んでいそうで実はそうでもないらしい。
中学まで男子に恵まれなかったそうだ。
「わかった!今度友達集めてやるよ。防府とか伊田高に友達いるからさ」
そうして私は天音の友達と遊ぶことになった。
放課後SAPに集まる。
SAPは複合型アミューズメント施設。
地元の中高生なら大体ここを遊び場所にする。
もちろん街やショッピングモールで買い物したり映画も見るけどアクセス面が悪くて高校生でも難しい。
SAPは幾つも支店を作っていた。
私達は街に集合することにした。
やっぱりこれといった男に出逢えなかった。
だいたいが彼氏持ちというのもあるけど、一番の理由は今はそういう感情を持てなった。
でもいい気晴らしにはなった。
「今日は部活でいない奴もいるからさ」
天音がそう言う。
「大丈夫、今日はありがとうね」
そう言って家に帰る。
その日から放課後天音たちと遊ぶようになった。
映画を見に行ったりカラオケに行ったり。
皆気を使ってラブソングは歌わないようにしてくれた。
失恋の歌も絶対に歌わない。
そんな心遣いが痛かった。
今日も学校で朝倉先生に弁当を届ける美穂を見て思う。
私が先に告白していたら。
普通はそんなのがばれたら教師は職を失うらしい。
だから先生は交際は出来ないと断ったらしい。
でも結婚を前提にした付き合いなら。
朝倉先生はそう考えてプロポーズをしたそうだ。
ある日天音が言った。
「美砂も一度自分の気持ち伝えろよ。ダメだと分かっていても伝えろよ。じゃないといつまでだっても引きずったまままだぞ?見ているこっちもつらい。踏ん切り着いたら新しい恋に巡り合えるかもしれない」
逃げるな!
天音はそう言った。
自分の気持ちに嘘つくな。
私は放課後先生を呼びとめた。
「どうした?鴨川」
私は自分の気持ちを打ち明けた。
案の定先生は首を振った。
「悪いな。先生付き合ってる人がいるんだ」
「それは本当に好きなんですか?」
「その人をそういう気にさせてしまった。先生という立場上本来なら断るべきなのかもしれない。だけどその人が本気だと知った以上誠実に付き合う必要がある」
「そんな義理で付き合うような事で先生は幸せになれるんですか?」
「それは鴨川でも一緒なんじゃないのか?」
たまたま先に美穂が自分の気持ちを伝えてきた。
それは必死だった。
そして先生は同情した。
その想いに応えてあげたいと悩んだ末、最大の妥協案が結婚だった。
遊びじゃない、本気で付き合う。
そういう結論に至ったらしい。
そう思えたのは「美穂が好き」という感情じゃないのか?
巡り合わせって本当にあるんだな。
「……わかりました。ありがとうございます」
先生は最後まで美穂の名前を言わなかった。
やはり結婚するまでは隠しておきたいのだろう。
もうすでに手遅れだけど。
しかしこの世界は本気で恋愛している人には優しい世界。
女子高なんかでは生徒と結婚した教頭や校長もいるらしい。
道徳を教える教師という立場を考えると禁断の恋愛。
自分の娘に手を出す教師のいる学校に通わせたがる親がいるわけない。
だから先生は親に挨拶に行ったのだろう。
必死に訴えたのだろう。
胸ががすっきりした。
やっと前に進める。そんな気がした。
帰りに美穂と会う。
私も美穂もSHの人間。美穂も私の事は知っている。
「美砂……ごめん」
「ごめんと思うなら絶対に諦めないで。幸せになってね」
その日も天音達とカラオケに行って遊んだ。
これまでの感情を振り払うように。
いつか誰かと恋に落ちるまで。
今は悲しいラブソング。
でもきっと新しい歌が歌える時が来るだろう
(2)
天音の友達と遊んでいた。
SHというグループの連中。
その中でも私達とタメの連中だけで遊んだ。
目的は鴨川美砂の彼氏を探す事。
しかしほとんどの男に彼女がいた。
いない奴もいるけど部活をやっている。
中学からの付き合いじゃしょうがないな。
まあ、他の高校からでも探して来ればいい。
上級生と付き合うのもありだろう。
人生何とかなる。
いざとなったら策者が勝手に作るだろう。
現に私達桜丘高校と防府高校の間のカップルなんて沢山いた。
高校でだめなら大学に行って探せばいい。
高校で彼氏を作れなかったからと言って焦る必要はない。
私だっていないんだから。
まあ、今みたいな皆カップルで仲良くやってるのを見ると肩身が狭く感じるけど。
そんな中私と盛り上がっている男子がいた。
西松康介。防府高校1年生。
見た目は悪くない。成績も良いらしい。
その割にはチャラい。
だからノリが合う。
西松と話をしていた。
地元じゃ有名な病院西松医院の子供らしい。
見た目よくて頭もいい、しかも金持ち。
普通に考えたら彼女いるよな?
だけど西松にはいないらしい。
地位と金目当てな女子に嫌気がさしてどうしても続かないらしい。
そんなもん気にしてどうするんだ?
自分の遊ぶ金くらい自分で稼げ!
そう思って私は高校生になったらバイトしようと思ったが母さんに止められた。
「大人になったら否応なく仕事しなきゃ生きていけないんだから今のうちに遊んでおけ」
そんな時間があるなら勉強しろ!と言わないのがうちの両親だが。
私だけかと思ったら天音や水奈も言われたらしい。
天音にいたっては母親に言われたらしい。
「子供がバイトしないと遊ぶことも出来ないような小遣いではありません。足りないとしたらあなたの使い方が間違っている証拠です。今のうちに金銭のやりくりを勉強しなさい。それでもどうしても足りない時は相談しなさい」
姉や兄がやれているんだから天音が出来ないはずがない。
今やるべきことはお金を稼ぐという社会勉強じゃない。
そんなのは社会に出てからでも遅くはない。
だけど金銭感覚は親に頼れるうちにやっておくべきことだ。
そう天音は言われたらしい。
ちなみに私はお小遣い制じゃない。
足りなくなったらその都度申請する。
服や下着を買うお金はその都度くれる。
もちろんそんなに高いブランド物の服を着るわけじゃない。
髪を切る時とかもお金をくれる。
まあ、小遣いに困ったことはない。
遊びに行くときにもらうくらいだ。
男子は漫画やゲームを買って小遣いが足りないと喚いているらしいけど。
天音も遊びに行く時はお金に困らないらしい。
服も困ったことがないそうだ。
彼氏の石原大地が払ってくれるから。
「私も払う」と財布を出すことはあってもあまりしつこくは言わないらしい。
大地に恥をかかせたくないと思っているそうだ。
まあ、そんなわけで西松の身分に特別凄いとは思わなかった。
「ああ、医者かすげーな」
そのくらいは思うけど。
「お前も医者になるのか?」
私は西松に聞いていた。
「まあね、そんな難関大学に行く必要もないんだけど」
資格が取れる医学部のある大学ならどこでもいい。
医者にさえなれたらあとの知識はいくらでも学べる。
自分の母親は間違いなく名医と呼ばれる存在なのだから。
そんな母親の指導の下で研修期間は学ぶといっていた。
それで選んだのが一番近い地元大医学部だった。
そして家から近い防府高校を選んだ。
私も母さんの店を継ぐために調理師になれる学校を選んだ。
勉強が嫌いだったというのもあるけど。
お互いの身の上話を聞きながら偶に歌を歌ったり騒いだりする。
でも皆学校に通い始めて一か月足らず。
そして私と美砂をのぞいて皆カップルという不思議な状態。
2人でお互いの学校での生活を話していた。
「皆うらやましいな」
西松がつぶやく。
「お前も彼女が欲しいのか?」
私が西松に聞いた。
「そりゃな、俺だって健全な男子だぜ」
「じゃ、私と付き合うか?」
「え?」
は?
自分で何を言ったのか不思議だった。
「俺みたいなチャラいのでいいの?」
西松は言う。
自分なんかよりもっといい男がいるよ。
だが、見た目良し、頭もいい、チャラいと自分で言うけど女性関係は誠実そうだ。
そして優しい、話していて楽しい。
高校生がそんな好物件を見逃すはずがない。
「私じゃ不満か?」
「そんなことはないけど、紗理奈は自分では気づいてないけど見た目と違ってしっかりしてるし」
ちゃんと将来を見据えている。
桜丘高校というブランドが世間の見る目を変えているけど私はそういうのが一切ない。
西松は私をそう評価した。
だったら断る必要もないだろ?
「だったら付き合おうぜ。何も結婚してくれと言ってるわけじゃない」
「紗理奈がそう言うなら俺は喜んで受けるよ」
「よろしくな」
「こちらこそ」
男女が付き合う理由なんて色々ある。
そして男女が付き合うと色々ある。
そんなのを乗り越えられた者だけが結婚という場所に辿り着くのだろう。
私の生まれて初めての恋人がたった今出来た。
本当は美砂の彼氏を見つけるのが先だと思ったんだけどな。
美砂はまだ引きずっているみたいだし、西松はタイプじゃないのかもしれない。
遠慮はしない。
欲しいと思ったら手を伸ばす。
掴んだ手は離さない。
カラオケの時間が終るとフードコートで夕飯食って帰った。
私達は乗るバスが一緒だった。
私の方が先に降りる。
「じゃ、帰ったら連絡するよ」
「ああ、俺も連絡する」
家に帰ると風呂に入って部屋で妹の茉里奈と一緒に遊んでいた。
スマホが鳴る。
西松からのメッセージだ。
返事を返すとまたメッセージが来る。
ゲームを止めてメッセージに没頭する。
「紗理奈ひょっとして彼氏でも出来たの?」
茉里奈が聞いてきたので頷いた。
「よかったな。いい人見つかったんだな」
「まあな」
「私も高校生になったら出来るかな?」
茉里奈が言う。
「焦ることねーよ」
私はそう返した。
焦ることはないけど、この人だって思ったらすぐに動ける心の準備はしておけ。
それはいつ訪れるか分からない不確かな夢なのだから。
「そろそろ寝るよ。おやすみ」
「おやすみなさい」
そう返事をして時計を見ると1時をまわっていた。
学生にしてみたら早い方だと思うけど私も寝る。
恐らく朝になったら来るだろう「おはよう」に備える為に。
(3)
お弁当とお菓子をリュックに入れて水筒を肩にかけて僕達は那奈瀬の公園に向かう。
今日は歓迎遠足の日。
瞳子や誠司達と話しながら目的地を目指す。
公園に着くと最後の1年生が来るのを待つ。
皆がそろうと自由時間となった。
瞳子とおかずを交換したり、みんなとお菓子の交換をしたり楽しい時間を過ごしていた。
中には1年生と混ざって遊んでる同級生もいた。
1年生がまだ幼稚園の時から交際をしていた者たち。
グラウンドでドッジボールしていたから彼等が昼休みに幼稚園の裏庭に向かっていたのはすぐにわかった。
それを揶揄う気も批判するつもりもなかった。
そしてそんな奴らに喧嘩をしかけるのが誠司だった。
「黒いリストバンドをしてる奴等に手加減する必要はない」
誠司は水奈姉さんにそう言われてるらしい。
僕も天音姉さんに言われている。
「黒いリストバンドをしてる奴が気に入らない行動をしていたらすぐに知らせろ。すぐに壊滅させてやる」
天音姉さんはたまにどうでもいい事に自分の労力を使う。
わざわざバスを使って山を登ってFGのリーダーを潰すんだそうだ。
でも天音姉さんの彼氏の石原大地さんが言ってた。
「天音の手を煩わせるようなことはしない。僕が始末してくる」
何かしでかしたらリーダーは海外旅行だと言ってた。
それは脅しでも何でもないらしい。
実際に中学校の屋上からリーダーを放り投げようとしたそうだ。
天音姉さんは遺書の偽造までしたらしい。
そんな事件があって以来FGと呼ばれる連中は大人しい。
僕達SHがどこにいるか分からないから。
そして今日の自由時間も平和だった。
絶えず1年を監視している上級生たち。
それは1年を見守ってるとかそんな生易しいものじゃなかった。
獲物を欲する肉食動物のようだ。
暴れるのに理由はいらない。
気に入らないから、それだけで理由は十分だと思っているらしい。
お菓子を食べ終ると折角芝生の上だしと持ってきたボールで遊んでいた。
グラウンドの土の上と芝生の上ではやはりボールをける力加減や跳ね方が違う。
また走る際の力も全然違う。
すぐになれたけど。
いつか芝生のフィールドでプレイしたい。
そう思った。
時間になると皆集合する。
そして学校に戻る道を歩く。
来るの時のような元気はない。
学校に着くと解散になる。
瞳子達と家に帰る。
家に帰ると弁当箱と水筒をテーブルに置いて部屋に戻って荷物を片付ける。
リビングでテレビを見ているとうたた寝していた。
「夕食まで部屋で寝てなさい」
母さんが言うので部屋で寝ていた。
父さんが帰って来る頃に母さんに起こしてもらう。
「FGの奴ら何かしでかさなかったか?」
天音姉さんが聞いてくる。
むしろ何かして欲しそうにしていた。
「何も無かったよ」
「そうか」
「ふぉーりんぐぐれいすって何?」
冬眞が聞いていた。
「ただの玩具だ」
天音姉さんが答えた。
夕食が終るとお風呂に入って自分の部屋でゲームをしていた。
別にゲームが大好きってわけじゃない。
誠司達に勧められてやってるだけ。
共通の話題があるに越したことはない。
「もう遅いからそろそろ寝なさい」
母さんに言われると僕はベッドに入る。
もうじき連休がやってくる。
僕は皆と会える平日の方がすきだった。
まだ遊びに行くにも行動範囲が狭すぎるから。
父さんにどこかに連れて行ってもらおうか。
瞳子も一緒だと良いな。
そうやって一年中を楽しむことにしていた。
「ごめん!まさか本当に付き合うとは思ってなかった」
片桐天音は私に謝っていた。
私が相談した後、大垣美穂からも相談を受けたそうだ。
美穂の話を聞いて断ることが出来なかった。
どうせ上手くいくはずがないと思っていた天音は美穂に無理矢理告白させたらしい。
そして予想通り断られた。
しかしその後の朝倉先生の行動までは天音にも予測できなかったらしい。
朝倉先生は美穂が告白した晩に美穂の家を訪れたそうだ。
結婚を認めてもらいにいったらしい。
美穂と二人で長時間頭を下げて、そして認めてもらえた。
もちろん私達は16歳。結婚はみとめられない。
高校を卒業するまでは認めない。
中退も同棲も認めない。
そして結婚するまでは妊娠は認めない。
そういう条件の下2人の交際は認められた。
そんな噂はあっという間に校内に広まった。
美穂が毎日朝倉先生のお弁当を作って持って行ってたら嫌でも気づく。
そしてそれは私の失恋を意味した。
私も朝倉先生が好きだったのだから。
卒業式に告白しよう。
正統派で勝負しようと思っていたのに。
その事を天音にも相談していた。
だから天音も美穂の相談を受けた時に困惑したらしい。
でも美穂の気持ちを知ったら放ってはおけなかった。
そして今私に謝っている。
「そう落ち込むなよ美砂。他に男なんていくらでもいるよ。天音の知り合いにもフリーの男子いるみたいだし。今度紹介してもらおうぜ」
渡辺紗理奈が言う。
美砂というのは私の名前。
私の名前は鴨川美砂。
今年桜丘高校に入学した天音達の同級生。
私のクラスは大半が女子だ。
調理科という学科だからだろうか?
でも男子も少なからずいる。
商業高校なんかも女子の方が多いらしい。
桜丘高校にも女子だけのコースがある。
しかし同年代の男子にあまり興味が無かった。
朝倉先生を好きになった理由は優しいから。
ありきたりな理由だった。
高校1年生だ。
そんなに深く恋愛について考えないだろう。
この世界ではそうではないらしいけど。
ただ今は「失恋した」って事を認識することで精一杯だった。
「今はそっとしておいてくれないかな?」
それが精一杯の対応だった。
だけど紗理奈は言う。
「いつまでも悔やんでいてもしょうがねーだろ!さっさと次の男探そうぜ!私も男欲しいし」
紗理奈は遊んでいそうで実はそうでもないらしい。
中学まで男子に恵まれなかったそうだ。
「わかった!今度友達集めてやるよ。防府とか伊田高に友達いるからさ」
そうして私は天音の友達と遊ぶことになった。
放課後SAPに集まる。
SAPは複合型アミューズメント施設。
地元の中高生なら大体ここを遊び場所にする。
もちろん街やショッピングモールで買い物したり映画も見るけどアクセス面が悪くて高校生でも難しい。
SAPは幾つも支店を作っていた。
私達は街に集合することにした。
やっぱりこれといった男に出逢えなかった。
だいたいが彼氏持ちというのもあるけど、一番の理由は今はそういう感情を持てなった。
でもいい気晴らしにはなった。
「今日は部活でいない奴もいるからさ」
天音がそう言う。
「大丈夫、今日はありがとうね」
そう言って家に帰る。
その日から放課後天音たちと遊ぶようになった。
映画を見に行ったりカラオケに行ったり。
皆気を使ってラブソングは歌わないようにしてくれた。
失恋の歌も絶対に歌わない。
そんな心遣いが痛かった。
今日も学校で朝倉先生に弁当を届ける美穂を見て思う。
私が先に告白していたら。
普通はそんなのがばれたら教師は職を失うらしい。
だから先生は交際は出来ないと断ったらしい。
でも結婚を前提にした付き合いなら。
朝倉先生はそう考えてプロポーズをしたそうだ。
ある日天音が言った。
「美砂も一度自分の気持ち伝えろよ。ダメだと分かっていても伝えろよ。じゃないといつまでだっても引きずったまままだぞ?見ているこっちもつらい。踏ん切り着いたら新しい恋に巡り合えるかもしれない」
逃げるな!
天音はそう言った。
自分の気持ちに嘘つくな。
私は放課後先生を呼びとめた。
「どうした?鴨川」
私は自分の気持ちを打ち明けた。
案の定先生は首を振った。
「悪いな。先生付き合ってる人がいるんだ」
「それは本当に好きなんですか?」
「その人をそういう気にさせてしまった。先生という立場上本来なら断るべきなのかもしれない。だけどその人が本気だと知った以上誠実に付き合う必要がある」
「そんな義理で付き合うような事で先生は幸せになれるんですか?」
「それは鴨川でも一緒なんじゃないのか?」
たまたま先に美穂が自分の気持ちを伝えてきた。
それは必死だった。
そして先生は同情した。
その想いに応えてあげたいと悩んだ末、最大の妥協案が結婚だった。
遊びじゃない、本気で付き合う。
そういう結論に至ったらしい。
そう思えたのは「美穂が好き」という感情じゃないのか?
巡り合わせって本当にあるんだな。
「……わかりました。ありがとうございます」
先生は最後まで美穂の名前を言わなかった。
やはり結婚するまでは隠しておきたいのだろう。
もうすでに手遅れだけど。
しかしこの世界は本気で恋愛している人には優しい世界。
女子高なんかでは生徒と結婚した教頭や校長もいるらしい。
道徳を教える教師という立場を考えると禁断の恋愛。
自分の娘に手を出す教師のいる学校に通わせたがる親がいるわけない。
だから先生は親に挨拶に行ったのだろう。
必死に訴えたのだろう。
胸ががすっきりした。
やっと前に進める。そんな気がした。
帰りに美穂と会う。
私も美穂もSHの人間。美穂も私の事は知っている。
「美砂……ごめん」
「ごめんと思うなら絶対に諦めないで。幸せになってね」
その日も天音達とカラオケに行って遊んだ。
これまでの感情を振り払うように。
いつか誰かと恋に落ちるまで。
今は悲しいラブソング。
でもきっと新しい歌が歌える時が来るだろう
(2)
天音の友達と遊んでいた。
SHというグループの連中。
その中でも私達とタメの連中だけで遊んだ。
目的は鴨川美砂の彼氏を探す事。
しかしほとんどの男に彼女がいた。
いない奴もいるけど部活をやっている。
中学からの付き合いじゃしょうがないな。
まあ、他の高校からでも探して来ればいい。
上級生と付き合うのもありだろう。
人生何とかなる。
いざとなったら策者が勝手に作るだろう。
現に私達桜丘高校と防府高校の間のカップルなんて沢山いた。
高校でだめなら大学に行って探せばいい。
高校で彼氏を作れなかったからと言って焦る必要はない。
私だっていないんだから。
まあ、今みたいな皆カップルで仲良くやってるのを見ると肩身が狭く感じるけど。
そんな中私と盛り上がっている男子がいた。
西松康介。防府高校1年生。
見た目は悪くない。成績も良いらしい。
その割にはチャラい。
だからノリが合う。
西松と話をしていた。
地元じゃ有名な病院西松医院の子供らしい。
見た目よくて頭もいい、しかも金持ち。
普通に考えたら彼女いるよな?
だけど西松にはいないらしい。
地位と金目当てな女子に嫌気がさしてどうしても続かないらしい。
そんなもん気にしてどうするんだ?
自分の遊ぶ金くらい自分で稼げ!
そう思って私は高校生になったらバイトしようと思ったが母さんに止められた。
「大人になったら否応なく仕事しなきゃ生きていけないんだから今のうちに遊んでおけ」
そんな時間があるなら勉強しろ!と言わないのがうちの両親だが。
私だけかと思ったら天音や水奈も言われたらしい。
天音にいたっては母親に言われたらしい。
「子供がバイトしないと遊ぶことも出来ないような小遣いではありません。足りないとしたらあなたの使い方が間違っている証拠です。今のうちに金銭のやりくりを勉強しなさい。それでもどうしても足りない時は相談しなさい」
姉や兄がやれているんだから天音が出来ないはずがない。
今やるべきことはお金を稼ぐという社会勉強じゃない。
そんなのは社会に出てからでも遅くはない。
だけど金銭感覚は親に頼れるうちにやっておくべきことだ。
そう天音は言われたらしい。
ちなみに私はお小遣い制じゃない。
足りなくなったらその都度申請する。
服や下着を買うお金はその都度くれる。
もちろんそんなに高いブランド物の服を着るわけじゃない。
髪を切る時とかもお金をくれる。
まあ、小遣いに困ったことはない。
遊びに行くときにもらうくらいだ。
男子は漫画やゲームを買って小遣いが足りないと喚いているらしいけど。
天音も遊びに行く時はお金に困らないらしい。
服も困ったことがないそうだ。
彼氏の石原大地が払ってくれるから。
「私も払う」と財布を出すことはあってもあまりしつこくは言わないらしい。
大地に恥をかかせたくないと思っているそうだ。
まあ、そんなわけで西松の身分に特別凄いとは思わなかった。
「ああ、医者かすげーな」
そのくらいは思うけど。
「お前も医者になるのか?」
私は西松に聞いていた。
「まあね、そんな難関大学に行く必要もないんだけど」
資格が取れる医学部のある大学ならどこでもいい。
医者にさえなれたらあとの知識はいくらでも学べる。
自分の母親は間違いなく名医と呼ばれる存在なのだから。
そんな母親の指導の下で研修期間は学ぶといっていた。
それで選んだのが一番近い地元大医学部だった。
そして家から近い防府高校を選んだ。
私も母さんの店を継ぐために調理師になれる学校を選んだ。
勉強が嫌いだったというのもあるけど。
お互いの身の上話を聞きながら偶に歌を歌ったり騒いだりする。
でも皆学校に通い始めて一か月足らず。
そして私と美砂をのぞいて皆カップルという不思議な状態。
2人でお互いの学校での生活を話していた。
「皆うらやましいな」
西松がつぶやく。
「お前も彼女が欲しいのか?」
私が西松に聞いた。
「そりゃな、俺だって健全な男子だぜ」
「じゃ、私と付き合うか?」
「え?」
は?
自分で何を言ったのか不思議だった。
「俺みたいなチャラいのでいいの?」
西松は言う。
自分なんかよりもっといい男がいるよ。
だが、見た目良し、頭もいい、チャラいと自分で言うけど女性関係は誠実そうだ。
そして優しい、話していて楽しい。
高校生がそんな好物件を見逃すはずがない。
「私じゃ不満か?」
「そんなことはないけど、紗理奈は自分では気づいてないけど見た目と違ってしっかりしてるし」
ちゃんと将来を見据えている。
桜丘高校というブランドが世間の見る目を変えているけど私はそういうのが一切ない。
西松は私をそう評価した。
だったら断る必要もないだろ?
「だったら付き合おうぜ。何も結婚してくれと言ってるわけじゃない」
「紗理奈がそう言うなら俺は喜んで受けるよ」
「よろしくな」
「こちらこそ」
男女が付き合う理由なんて色々ある。
そして男女が付き合うと色々ある。
そんなのを乗り越えられた者だけが結婚という場所に辿り着くのだろう。
私の生まれて初めての恋人がたった今出来た。
本当は美砂の彼氏を見つけるのが先だと思ったんだけどな。
美砂はまだ引きずっているみたいだし、西松はタイプじゃないのかもしれない。
遠慮はしない。
欲しいと思ったら手を伸ばす。
掴んだ手は離さない。
カラオケの時間が終るとフードコートで夕飯食って帰った。
私達は乗るバスが一緒だった。
私の方が先に降りる。
「じゃ、帰ったら連絡するよ」
「ああ、俺も連絡する」
家に帰ると風呂に入って部屋で妹の茉里奈と一緒に遊んでいた。
スマホが鳴る。
西松からのメッセージだ。
返事を返すとまたメッセージが来る。
ゲームを止めてメッセージに没頭する。
「紗理奈ひょっとして彼氏でも出来たの?」
茉里奈が聞いてきたので頷いた。
「よかったな。いい人見つかったんだな」
「まあな」
「私も高校生になったら出来るかな?」
茉里奈が言う。
「焦ることねーよ」
私はそう返した。
焦ることはないけど、この人だって思ったらすぐに動ける心の準備はしておけ。
それはいつ訪れるか分からない不確かな夢なのだから。
「そろそろ寝るよ。おやすみ」
「おやすみなさい」
そう返事をして時計を見ると1時をまわっていた。
学生にしてみたら早い方だと思うけど私も寝る。
恐らく朝になったら来るだろう「おはよう」に備える為に。
(3)
お弁当とお菓子をリュックに入れて水筒を肩にかけて僕達は那奈瀬の公園に向かう。
今日は歓迎遠足の日。
瞳子や誠司達と話しながら目的地を目指す。
公園に着くと最後の1年生が来るのを待つ。
皆がそろうと自由時間となった。
瞳子とおかずを交換したり、みんなとお菓子の交換をしたり楽しい時間を過ごしていた。
中には1年生と混ざって遊んでる同級生もいた。
1年生がまだ幼稚園の時から交際をしていた者たち。
グラウンドでドッジボールしていたから彼等が昼休みに幼稚園の裏庭に向かっていたのはすぐにわかった。
それを揶揄う気も批判するつもりもなかった。
そしてそんな奴らに喧嘩をしかけるのが誠司だった。
「黒いリストバンドをしてる奴等に手加減する必要はない」
誠司は水奈姉さんにそう言われてるらしい。
僕も天音姉さんに言われている。
「黒いリストバンドをしてる奴が気に入らない行動をしていたらすぐに知らせろ。すぐに壊滅させてやる」
天音姉さんはたまにどうでもいい事に自分の労力を使う。
わざわざバスを使って山を登ってFGのリーダーを潰すんだそうだ。
でも天音姉さんの彼氏の石原大地さんが言ってた。
「天音の手を煩わせるようなことはしない。僕が始末してくる」
何かしでかしたらリーダーは海外旅行だと言ってた。
それは脅しでも何でもないらしい。
実際に中学校の屋上からリーダーを放り投げようとしたそうだ。
天音姉さんは遺書の偽造までしたらしい。
そんな事件があって以来FGと呼ばれる連中は大人しい。
僕達SHがどこにいるか分からないから。
そして今日の自由時間も平和だった。
絶えず1年を監視している上級生たち。
それは1年を見守ってるとかそんな生易しいものじゃなかった。
獲物を欲する肉食動物のようだ。
暴れるのに理由はいらない。
気に入らないから、それだけで理由は十分だと思っているらしい。
お菓子を食べ終ると折角芝生の上だしと持ってきたボールで遊んでいた。
グラウンドの土の上と芝生の上ではやはりボールをける力加減や跳ね方が違う。
また走る際の力も全然違う。
すぐになれたけど。
いつか芝生のフィールドでプレイしたい。
そう思った。
時間になると皆集合する。
そして学校に戻る道を歩く。
来るの時のような元気はない。
学校に着くと解散になる。
瞳子達と家に帰る。
家に帰ると弁当箱と水筒をテーブルに置いて部屋に戻って荷物を片付ける。
リビングでテレビを見ているとうたた寝していた。
「夕食まで部屋で寝てなさい」
母さんが言うので部屋で寝ていた。
父さんが帰って来る頃に母さんに起こしてもらう。
「FGの奴ら何かしでかさなかったか?」
天音姉さんが聞いてくる。
むしろ何かして欲しそうにしていた。
「何も無かったよ」
「そうか」
「ふぉーりんぐぐれいすって何?」
冬眞が聞いていた。
「ただの玩具だ」
天音姉さんが答えた。
夕食が終るとお風呂に入って自分の部屋でゲームをしていた。
別にゲームが大好きってわけじゃない。
誠司達に勧められてやってるだけ。
共通の話題があるに越したことはない。
「もう遅いからそろそろ寝なさい」
母さんに言われると僕はベッドに入る。
もうじき連休がやってくる。
僕は皆と会える平日の方がすきだった。
まだ遊びに行くにも行動範囲が狭すぎるから。
父さんにどこかに連れて行ってもらおうか。
瞳子も一緒だと良いな。
そうやって一年中を楽しむことにしていた。
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