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運命に委ねて
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(1)
「なぜですか!高槻先生!納得いきません!」
3年の部員が叫んでいた。
バスケットのコートは男子と女子で半分ずつ使う。
あとは卓球の練習やらバレーボールの練習やらに使う。
それでも体育館を使う日は限られてる。
体育館を使えない日はグラウンドで練習するしかない。
当然滑りやすく怪我をしやすい。
だから体育館を使える練習時間は貴重だ。
無駄にしたくない。
「何度も言わせるな。今年のメンバーはこれで決まりだ」
さっさと練習に戻れと言う。
今年はついにチャンスが来た。
新戦力の出現。
音無環奈。1年生。スモールフォワード。
彼女の才能は抜き出てるものがある。
娘の桃花に匹敵するくらいだ。
親目線で見てもそうなのだから他人からしたら桃花より音無の方が上と見るものもいるかもしれない。
でも比べるだけ無駄だろう。
2人のプレイの質が違う。
娘の桃花は試合運びをするチームの司令塔だとすれば、音無はその桃花のパスを受け得点を重ねていく役割。
2人の息が合えば練習時間が少ない事を加味しても市総体くらいは勝ち抜けるかもしれない。
だからこそ練習時間が惜しい。
「なんと言われてもレギュラーを変えるつもりは無い。早く持ち場に戻れ」
「私にとって中学最後の大会なんです!お願いします」
必死に訴えるその子の気持ちも分からないでもない。
いきなり現れた1年に自分の座を奪われたのだから。
自分たちでも頑張れば試合に出れる。
そして新人戦、2年の時の総体と戦い抜いてきたんだから。
実力があれば試合に出られる。
そんなチームに仕上げた。
そして音無の実力が上だと判断したから音無を起用した。
今は無駄な問答を続けている時間はない、少しでも二人の精度を高めたい。
それまでじっと見ていた桃花が言う。
「落ち着こうよ、バスケはスタメンの5人だけで勝ち上がっていける程甘いスポーツじゃない6人目の必要性が必ず出てくる」
音無がもしファールを重ねて冷静でいられなくなった時の6人目が必要になる。
桃花はそう説得する。
だがその子は受け入れられなかった。
その日その子は体育館を後にして練習を休んだ。
追いかけようとする桃花を止める。
「お前が言ってどうなるものでもない、さっさと練習を始めろ」
俺はそう指示を出した。
桃花は練習に戻る。
練習が終わって家に帰ると妻の千歳と相談した。
「翔は間違ってない」
千歳はそう言ってくれた。
部活は単に実力を競うものでもない。
しかし馴れ合いの場でもない。
どんな状況でも諦めない、挫けない強い気持ちを養う場所。
だが、その子の両親はそうは思わなかったようだ。
次の日学校が終ると部活の準備をする。
すると放送で校長室に呼び出された。
何があったのか大体予想はついた。
部員にはランニングとシュート練習を指示すると俺は校長室に向かった。
校長室には校長と教頭、そしてその子とその母親がいる。
俺が娘を贔屓にしている。
母親はそう主張する。
「どうしてうちの子を出せないのか納得のいく説明をお願いします」
「単純に技量の差です。素人がみても動きが全然違います」
どうせなら子供達に最後にいい思い出を残してやりたい。
俺はそう主張した。
「良い思い出ですって?うちの子は試合に出れなくて悔しい思い出しか残せないのに馬鹿げてる」
試合に出してあげたら勝敗なんてどうでもいいじゃないか。
母親はそう主張する。
話は平行線のまま、何の進展も無かった。
「この先も高校、大学とある。何も今勝ちにこだわる必要なんてないんじゃないか?」
校長までそう言う。
親と話していても、校長や教頭と話していても埒があかない。
そう判断した俺はその子に直接話した。
「お前が1年の時覚えてるか?桃花が1年でレギュラーの座を獲得した時の事だ」
その子は静かに頷いた。
「その時お前は思ったはずだ。自分でも頑張れば試合に出れるという希望が湧いたはずだ」
「はい……」
「そしてその事が今の1年にも言えることだ。お前が今まで頑張ってきたのは認める。これまでチームを支えてきたのも事実だ」
「じゃあ、なぜ私は試合に出れないんですか?」
「あの時同じだよ。桃花がそうだったように音無も実力でお前を上回っている。悔しいかもしれないけどそれが事実だ。お前は事実から目を背けているだけだ」
「こんな横暴な先生の言う事を聞くことはありませんよ!だったら自分の娘を出さなきゃいいじゃない!どんなにいい繕ってもただの詭弁だわ」
「高槻と音無は新チームには必要不可欠です。そして二人が組める最初で最後のチャンス。これを逃さない手はない」
俺は断言した。
「私よりも、環奈の方が上手いんですね?」
「ああ、俺の教師生命に賭けて誓うよ」
「じゃあ、負けたらどうするおつもり?この子の思い出を踏みにじった事実は二度と取り戻しがつかないんですよ!」
「母さんは黙ってて!」
その子が叫んだ。
事実を受け入れる覚悟が出来たようだ。
そしてその悔しさが涙となって頬を伝っている。
俺は優しく声をかけてやった。
「バスケットはスタメンの5人だけじゃ絶対に戦えない。音無にも弱点はある」
「弱点?」
「ああ」
俺はうなずいた。
初めての中学でのデビュー戦。
精神面、体力面。技術は高いけどその二つを補うにはまだ練習不足だ。
「6人目のお前の力が必要になる。あいつがベンチに下がった時、お前が助言してやれ。あいつを休ませる時間をつくってやれ……バスケットはチーム全員で戦うものだ」
レギュラーを勝ち取るための戦いが練習の場なら、試合はチームで勝ちをとる舞台。
誰一人かけても勝ち抜くことは出来ない。
だから皆で勝ちに行くんだ。
俺はその子にそう言った。
理解してもらえたようだ。
「分かりました」
「準備をしておけ。不貞腐れて練習をサボるような奴にチャンスはやらない。今までも、そしてこれからもだ」
「はい、私着替えて練習に戻ります」
その子はそう言って一礼すると職員室を出た。
「そうまでして勝ちにこだわる理由があるのかね?」
校長が聞いた。
「あの子は中学で終わるような子じゃない、少なくとも音無が来るまではチームを支えてきた1人です。高校、大学、実業団……プロへの道もある」
あの子の戦いは中学だけじゃない、バスケを続ける限りずっと戦い続けなければならない。
この程度の挫折で挫けるような子供を育てたくない。
戦い抜く意思を教えたい。
俺がそう言うと母親も折れたようだ。
礼をして退室した。
「じゃあ、俺も部員の練習見なきゃいけないんで」
そう言ってコートに戻る。
その後市総体は勝ち抜いた。
県総体も勝ち上がった。
だけど九州大会は2人だけで勝ちぬける程甘くは無かった。
チームとしての練度もそうだが、個人のレベルが遥かに違う。
第4Qになったときその子に最後の思い出にコートに立っておくか打診した。
余りの実力差に音無自身の心も折れようとしていた。
交代の準備をしようとしたときだった。
「ここで環奈の逃げ道を作ったらダメです!」
その子はそう言った。
次の新人戦からは環奈が主軸のチームに変わる。
だから最後まで諦めないで戦って欲しい。
この悔しさをしっかりと胸に刻んでほしい。
来年、再来年また同じ舞台に立つときの為に。
試合は2回戦で敗退した。
「先輩すいませんでした!」
環奈は泣いてその子に謝った。
自分が台無しにしてしまった。
環奈は泣き崩れていた。
「泣くな!胸を張れ!環奈は私たちの代表でここまで頑張ったんだよ!これからは環奈がチームを背負う番なんだ。応援してる」
「そうだよ。これからは環奈達の出番なんだから……。期待してる」
その子と桃花が言う。
「はい、頑張ります……」
そうして3年の夏は終わりを告げた。
だけど俺達は3年に構ってやる余裕はない。
次の新人戦に向けて動き出さなければならないのだから。
(2)
今日は歓迎遠足の日。
俺達の高校は変わっている。
体育大会は各科の威信をかけたガチンコ勝負。
それはこういう遠足でもいえること。
集団行動は全て体育大会の加点に繋がる。
だから乱れた行動は許されない。
応援団という先輩の監視の中行進する。
FGの連中も逆らえないらしい。
逆らおうものなら先輩の容赦ない拳が飛ぶ。
その暴力は先生も容認している。
俺達は大学には行かずに大抵の生徒が就職する。
そこで味わう徹底した縦社会を俺達は教育される。
先輩がふらりと気紛れで教室に現れても挨拶をしなければならない。
しなかったら各科の役員が教室に現れて怒鳴り散らす。
そして入学してすぐに校歌と応援歌を学ぶことになる。
男女関係ない。
しっかり声を出して腕を振らなければならない。
ふざけた態度をしようものなら拳が飛ぶ。
殴られた生徒は口から血を垂らす。
それでも先生は何も言わない。
ふざけた態度を取ったそいつが悪い。
大昔にそんな練習が嫌で「体育大会を実施するなら自殺する」と脅迫文を出した生徒がいるそうだ。
馬鹿な真似をしやがった。
それが伝統なんだ。
目上の者に逆らってはいけない。
それを徹底的に仕込まれる。
それはいつか社会に出たときに必ず活かされるから。
先輩に対して敬意を払う。
それがこの高校で学ぶ一番の事。
歓迎遠足とは誰を歓迎しているのか分からない。
那奈瀬の公園に着くとさっそく洗礼が待っている。
各科の応援合戦。
それが体育大会の加点になる。
すべての行動が体育大会につながる。
そして俺達が学んでいる建築は過去に10連覇という偉業を達して今もなお優勝回数は最多数を誇っている。
そして応援合戦が終るとやっと解放される。
俺達と同じ高校に通っている同級生は5人。
皆同じクラスだ。
同じ建築科なのだからそうだろう。
そのうちの沢木3兄弟はバレー部で頭角を現していた。
早速レギュラーになったらしい。
今年の高校総体で活躍する事だろう。
3人とも彼女がいる。
沢木桔平の彼女の山崎渚も高校で硬式テニスを始めて奮闘しているらしい。
まだ硬式のルールに馴染めていないけど頑張ってるそうだ。
沢木与留の彼女の水島みなみも高校に通いながら地元サッカークラブで活躍しているらしい。
卒業したらレディースと契約する目途も立っている。
なでしこジャパンに呼ばれるくらいだから当然だろう。
だが彼女は悩んでいるらしい。
ドイツやイギリス、フランスなどの世界クラブも視野に入れてるそうだ。
卒業したらどうする?
その事で悩んでいるらしい。
沢木克人の彼女の前田美翔は夢に向かって真っすぐ進んでる。
高校でも吹奏楽部に入ってトランペットを吹いている。
「あ、それで思い出した」
克人がポケットからチケットを出した。
「美翔がソロでジャズライブやるらしいからチケット売ってくれって頼まれてさ」
俺は麗華に聞いてみた。
「まあ、友達だし良いんじゃない?」
俺はチケットを2枚買った。
「ありがとう!恩に切る!」
「いつやるんだ?」
「4月の祝日前の夜やるらしい」
「校則に触れないか?」
「ああ、学ランでくるような馬鹿な真似はやめてくれよ」
克人はそう言って笑ってた。
ジャズライブか。
なんか高校生らしいな。
麗華も楽しみにしてるようだ。
うちの高校ではFGの身勝手な行動は許されなかった。
それでも騒ぎを起こしてるらしいが。
だが、教師がみな強面のガタイのいい教師だらけだ。
すぐに鎮圧される。
自由時間が終ると学校に戻る。
そして俺と麗華は自転車で家に帰る。
寄り道はしない。
校則で決められているからではない。
翼や空のように食べる事も無いし、たまにSAPで遊ぶ程度だ。
高校生組が卒業後初めて集合するのがジャズライブか。
ちょっとだけ大人になった気分だ。
みんな元気にやってるだろうか?
久々にメッセージを送ってみた。
皆元気そうだ。
それぞれがそれぞれの社会に適応しているようだった。
(3)
2限目の終わりを告げるチャイムが鳴る。
僕はすぐに売店に向かっていた。
本気で走ればすぐに着く。
そして売店のおばちゃんに向かって叫ぶ
「焼きそばパン!2つ!」
翼の分と僕の分。
僕達は無事に焼きそばパンを確保できた。
あとは鞄に仕舞ってお昼の楽しみにしよう。
もちろん美希の手作りの弁当もあるよ。
じゃあ、なんで焼きそばパンに拘ってるかって?
それは今朝父さんが言った一言から始まった。
「翼たちは防府だったよね?」
父さんが言う。
「そうだけど?」
何を今さら聞いてるんだろう?と翼は首をかしげていた。
「焼きそばパンは今でも美味しいかい?」
は?
「いや、弁当あるから買ってないけど」
翼が答えた。
「そうか、昔っからあそこの焼きそばパンは味が濃厚で美味しくてね」
「そうなの?」
「ああ、父さんが学生の時は愛莉のお弁当と両方食べてたよ」
「そうなんだ」
「冬夜さん!子供に何を教えてるんですか!お弁当だけで十分です!」
ただでさえ、翼のお弁当はボリュームあるのにと母さんは言う。
「でもパンくらいなら翼達なら食べれるでしょ?」
「この子達は学校の帰りに食べ物屋さんに寄って食べてくるんですよ!翼もウェストが大きくなってからじゃ遅いですよ!」
「それなら平気だよ。善明は私がどんな体形になっても好きだって言ってくれるし」
「善明はそうかもしれないけど翼が自分で悩むかもしれませんよ……こんな話があります」
「どんな話?」
「大学時代冬夜さんの食べ癖に付き合ってたことがあって、冬夜さんがバスケを引退したあとなんだけど母さんも運動不足がたたって腰回りが大きくなってスカートが入らなくなって落ち込んだ事があります。事が起こってからじゃ遅いんですよ」
母さんは翼を説得したかのように見えた。だけど父さんは笑ってる。そして翼もその後の事を悟ったのか笑ってる。
「愛莉、その後どうしたの?」
「そ、それは食べる量を制限して元に戻しました」
「その前の話を忘れてるだろ?愛莉」
父さんが言った。
「冬夜さん!子供の暴飲暴食を止めなくてはいけないのに、その話はいけません!」
母さんが慌ててる。
「いいじゃないか、この子達もきっと僕達と一緒だよ」
「父さん続き聞かせて」
翼は興味があるらしい。
父さんは話した。
「愛莉がスカートが穿けなくなったって落ち込んでいた事があってね。それで父さん愛莉に付き合ってあげたんだ」
「何を?」
「愛莉のスカート選び」
へ?
「きつくなったら新しいの買おう?って。それに冬前だったしね。ちょうどサイズが変わる頃だろ?」
「そっか、私も善明が選んでくれるのかな?」
「……父さんは母さんが太っても平気だったの?」
「母さんは理想の体型だったよ。今でもだけど。女性はちょっと丸みを帯びてる方がちょうどいいっていうだろ?」
僕が聞くと父さんはそう答えた。
翼と僕は自転車で通学してる。運動してるから大丈夫。母さんの話は大学に行って車で行動するようになってからだと父さんは言う。
「愛莉、じゃあ問題ないよね?」
翼はにやにやしてる。
「……そう言うところまで冬夜さんに似たんですね」
母さんは困ってるようだ。
「食べ過ぎには気をつけなさい」
母さんが言う。
「ふざけんな翼!帰りにラーメンやらうどんやら食ってるのに売店や学食にも手を出すのか!?」
天音が抗議する。
「高校生の特権だよ。悔しかったら早く高校生になるのね」
翼は得意気に話す。
「後悔するなよ翼。私は街にもよれるんだ。ステーキとかも食えるんだからな!」
「天音!まさかそんな理由で桜丘選んだんじゃないでしょうね!?」
「違うよ!それなら大人しく藤明行ってるって!」
面倒な自転車通勤なんてしない、気軽に府内焼きやたこ焼きも食える藤明にすると主張する。
「まあ、一度食べてみるといいよ。美味しいから」
「冬夜さんは注意する立場なんですよ!それなのに子供に余計な事を入れ知恵してどうするんですか!」
「で、でも本当に美味しかったんだ」
父さんと母さんの口論が始まってる間に僕達は準備をして学校に行く。
そして昼休み弁当と焼きそばパンを食べた。
焼きそばパンは味が濃くて美味しかった。
父さんの言ってた通りだ。
食べてると前田美翔さんがやって来た。
「2人とも4月の祝日前空いてるかな?」
予定は特にないと伝える。
すると前田さんは二枚のチケットを差し出す。
「私、初のソロライブやるんです。来てもらえませんか?」
断る理由は特にない。
生演奏というのに興味があった。
翼と相談してチケットを購入した。
良心的な価格だった。
「ありがとうございます。絶対満足してもらえるように頑張るんで是非きてくださいね」
ライブハウスの場所は街中にあるらしい。
自転車で行けない距離じゃない。
前田さんはそう言うとクラスの他の人にも宣伝してた。
そして学校が終ると帰り道に相談する。
「今日は何食べて帰る」
「う~ん、焼きそばパン食べたしね」
「ファストフード店で軽く食べよっか?」
「そうだね」
ちなみに僕達の量は軽いってもんじゃない。
ビッグな奴にダブチー、照り焼き、フィレオフィッシュ、チキン、フライドポテト、チキンナゲット。
牛肉バーガーは食べない。
美希はアップルパイとジュースだけ。
家に帰ると宿題をさっさと済ませて夕食の時間になる。
食べながら、父さん達にライブの事を言う。
「是非聞いておいで」
父さんはそう勧めてきた。
「帰り遅くなるけどいいかな?」
「高校生だから少々は大目に見ます。ただし飲酒は行けませんよ」
母さんが答えた。
生のライブか、ちょっと楽しみだった
(4)
ライブハウス前。
初めての夜遊び。
SHの高校生組は皆着てた。
水島みなみも今日は休んできたらしい。
沢木与留に誘われたんだそうだ。
皆近況報告をしながら開場を待っていた。
開場されると皆入った。
観客は僕達と普段から通ってる客。
そして会場に入ると中は薄暗かった。
ライブが始まる。
ドラムの音がデカい。
鼓膜が破れるんじゃないかと思うくらい。
ピアノベースなどの音も聞こえてくる。
そして前田さんのソロパートがある。
時には激しく、時には切なく。
色々な感情をこめて演奏していた。
でも根底にあるのは楽しそうだという事。
前田さんの”青春”という文字をこの場で表現していた。
1時間近くの演奏が終わると僕達はアンコールを訴えた。
そして前田さんはアンコールに応えてくれた。
誰もが知っている少し笑える曲。
ライブが終るとライブハウス前で前田さんを待っていた。
「打ち上げ行こうぜ!」
光太が言う。
「ファミレスならいいよ」
僕がそう言うと近所のファミレスに行った。
皆前田さんに質問攻めしている。
「前田さんならプロになれるよ、私が母さんに紹介してあげようか?」
美希がそういうけど前田さんは首を振った。
前田さんには夢があるらしい。
中学校の音楽教師。
子供たちに吹奏楽の楽しさを教える事。
ジャズは趣味でたまにライブやる程度でいい。
しっかり将来を見据えているようだ。
僕達と同じように。
全ては運命に委ねて。
もう後戻りはできない。
運命のレールを誰よりも速く突き抜けるだけ。
その先に見える夢をめざして。
今前田さんと同じように僕達はそれぞれの道を走り始めた。
「なぜですか!高槻先生!納得いきません!」
3年の部員が叫んでいた。
バスケットのコートは男子と女子で半分ずつ使う。
あとは卓球の練習やらバレーボールの練習やらに使う。
それでも体育館を使う日は限られてる。
体育館を使えない日はグラウンドで練習するしかない。
当然滑りやすく怪我をしやすい。
だから体育館を使える練習時間は貴重だ。
無駄にしたくない。
「何度も言わせるな。今年のメンバーはこれで決まりだ」
さっさと練習に戻れと言う。
今年はついにチャンスが来た。
新戦力の出現。
音無環奈。1年生。スモールフォワード。
彼女の才能は抜き出てるものがある。
娘の桃花に匹敵するくらいだ。
親目線で見てもそうなのだから他人からしたら桃花より音無の方が上と見るものもいるかもしれない。
でも比べるだけ無駄だろう。
2人のプレイの質が違う。
娘の桃花は試合運びをするチームの司令塔だとすれば、音無はその桃花のパスを受け得点を重ねていく役割。
2人の息が合えば練習時間が少ない事を加味しても市総体くらいは勝ち抜けるかもしれない。
だからこそ練習時間が惜しい。
「なんと言われてもレギュラーを変えるつもりは無い。早く持ち場に戻れ」
「私にとって中学最後の大会なんです!お願いします」
必死に訴えるその子の気持ちも分からないでもない。
いきなり現れた1年に自分の座を奪われたのだから。
自分たちでも頑張れば試合に出れる。
そして新人戦、2年の時の総体と戦い抜いてきたんだから。
実力があれば試合に出られる。
そんなチームに仕上げた。
そして音無の実力が上だと判断したから音無を起用した。
今は無駄な問答を続けている時間はない、少しでも二人の精度を高めたい。
それまでじっと見ていた桃花が言う。
「落ち着こうよ、バスケはスタメンの5人だけで勝ち上がっていける程甘いスポーツじゃない6人目の必要性が必ず出てくる」
音無がもしファールを重ねて冷静でいられなくなった時の6人目が必要になる。
桃花はそう説得する。
だがその子は受け入れられなかった。
その日その子は体育館を後にして練習を休んだ。
追いかけようとする桃花を止める。
「お前が言ってどうなるものでもない、さっさと練習を始めろ」
俺はそう指示を出した。
桃花は練習に戻る。
練習が終わって家に帰ると妻の千歳と相談した。
「翔は間違ってない」
千歳はそう言ってくれた。
部活は単に実力を競うものでもない。
しかし馴れ合いの場でもない。
どんな状況でも諦めない、挫けない強い気持ちを養う場所。
だが、その子の両親はそうは思わなかったようだ。
次の日学校が終ると部活の準備をする。
すると放送で校長室に呼び出された。
何があったのか大体予想はついた。
部員にはランニングとシュート練習を指示すると俺は校長室に向かった。
校長室には校長と教頭、そしてその子とその母親がいる。
俺が娘を贔屓にしている。
母親はそう主張する。
「どうしてうちの子を出せないのか納得のいく説明をお願いします」
「単純に技量の差です。素人がみても動きが全然違います」
どうせなら子供達に最後にいい思い出を残してやりたい。
俺はそう主張した。
「良い思い出ですって?うちの子は試合に出れなくて悔しい思い出しか残せないのに馬鹿げてる」
試合に出してあげたら勝敗なんてどうでもいいじゃないか。
母親はそう主張する。
話は平行線のまま、何の進展も無かった。
「この先も高校、大学とある。何も今勝ちにこだわる必要なんてないんじゃないか?」
校長までそう言う。
親と話していても、校長や教頭と話していても埒があかない。
そう判断した俺はその子に直接話した。
「お前が1年の時覚えてるか?桃花が1年でレギュラーの座を獲得した時の事だ」
その子は静かに頷いた。
「その時お前は思ったはずだ。自分でも頑張れば試合に出れるという希望が湧いたはずだ」
「はい……」
「そしてその事が今の1年にも言えることだ。お前が今まで頑張ってきたのは認める。これまでチームを支えてきたのも事実だ」
「じゃあ、なぜ私は試合に出れないんですか?」
「あの時同じだよ。桃花がそうだったように音無も実力でお前を上回っている。悔しいかもしれないけどそれが事実だ。お前は事実から目を背けているだけだ」
「こんな横暴な先生の言う事を聞くことはありませんよ!だったら自分の娘を出さなきゃいいじゃない!どんなにいい繕ってもただの詭弁だわ」
「高槻と音無は新チームには必要不可欠です。そして二人が組める最初で最後のチャンス。これを逃さない手はない」
俺は断言した。
「私よりも、環奈の方が上手いんですね?」
「ああ、俺の教師生命に賭けて誓うよ」
「じゃあ、負けたらどうするおつもり?この子の思い出を踏みにじった事実は二度と取り戻しがつかないんですよ!」
「母さんは黙ってて!」
その子が叫んだ。
事実を受け入れる覚悟が出来たようだ。
そしてその悔しさが涙となって頬を伝っている。
俺は優しく声をかけてやった。
「バスケットはスタメンの5人だけじゃ絶対に戦えない。音無にも弱点はある」
「弱点?」
「ああ」
俺はうなずいた。
初めての中学でのデビュー戦。
精神面、体力面。技術は高いけどその二つを補うにはまだ練習不足だ。
「6人目のお前の力が必要になる。あいつがベンチに下がった時、お前が助言してやれ。あいつを休ませる時間をつくってやれ……バスケットはチーム全員で戦うものだ」
レギュラーを勝ち取るための戦いが練習の場なら、試合はチームで勝ちをとる舞台。
誰一人かけても勝ち抜くことは出来ない。
だから皆で勝ちに行くんだ。
俺はその子にそう言った。
理解してもらえたようだ。
「分かりました」
「準備をしておけ。不貞腐れて練習をサボるような奴にチャンスはやらない。今までも、そしてこれからもだ」
「はい、私着替えて練習に戻ります」
その子はそう言って一礼すると職員室を出た。
「そうまでして勝ちにこだわる理由があるのかね?」
校長が聞いた。
「あの子は中学で終わるような子じゃない、少なくとも音無が来るまではチームを支えてきた1人です。高校、大学、実業団……プロへの道もある」
あの子の戦いは中学だけじゃない、バスケを続ける限りずっと戦い続けなければならない。
この程度の挫折で挫けるような子供を育てたくない。
戦い抜く意思を教えたい。
俺がそう言うと母親も折れたようだ。
礼をして退室した。
「じゃあ、俺も部員の練習見なきゃいけないんで」
そう言ってコートに戻る。
その後市総体は勝ち抜いた。
県総体も勝ち上がった。
だけど九州大会は2人だけで勝ちぬける程甘くは無かった。
チームとしての練度もそうだが、個人のレベルが遥かに違う。
第4Qになったときその子に最後の思い出にコートに立っておくか打診した。
余りの実力差に音無自身の心も折れようとしていた。
交代の準備をしようとしたときだった。
「ここで環奈の逃げ道を作ったらダメです!」
その子はそう言った。
次の新人戦からは環奈が主軸のチームに変わる。
だから最後まで諦めないで戦って欲しい。
この悔しさをしっかりと胸に刻んでほしい。
来年、再来年また同じ舞台に立つときの為に。
試合は2回戦で敗退した。
「先輩すいませんでした!」
環奈は泣いてその子に謝った。
自分が台無しにしてしまった。
環奈は泣き崩れていた。
「泣くな!胸を張れ!環奈は私たちの代表でここまで頑張ったんだよ!これからは環奈がチームを背負う番なんだ。応援してる」
「そうだよ。これからは環奈達の出番なんだから……。期待してる」
その子と桃花が言う。
「はい、頑張ります……」
そうして3年の夏は終わりを告げた。
だけど俺達は3年に構ってやる余裕はない。
次の新人戦に向けて動き出さなければならないのだから。
(2)
今日は歓迎遠足の日。
俺達の高校は変わっている。
体育大会は各科の威信をかけたガチンコ勝負。
それはこういう遠足でもいえること。
集団行動は全て体育大会の加点に繋がる。
だから乱れた行動は許されない。
応援団という先輩の監視の中行進する。
FGの連中も逆らえないらしい。
逆らおうものなら先輩の容赦ない拳が飛ぶ。
その暴力は先生も容認している。
俺達は大学には行かずに大抵の生徒が就職する。
そこで味わう徹底した縦社会を俺達は教育される。
先輩がふらりと気紛れで教室に現れても挨拶をしなければならない。
しなかったら各科の役員が教室に現れて怒鳴り散らす。
そして入学してすぐに校歌と応援歌を学ぶことになる。
男女関係ない。
しっかり声を出して腕を振らなければならない。
ふざけた態度をしようものなら拳が飛ぶ。
殴られた生徒は口から血を垂らす。
それでも先生は何も言わない。
ふざけた態度を取ったそいつが悪い。
大昔にそんな練習が嫌で「体育大会を実施するなら自殺する」と脅迫文を出した生徒がいるそうだ。
馬鹿な真似をしやがった。
それが伝統なんだ。
目上の者に逆らってはいけない。
それを徹底的に仕込まれる。
それはいつか社会に出たときに必ず活かされるから。
先輩に対して敬意を払う。
それがこの高校で学ぶ一番の事。
歓迎遠足とは誰を歓迎しているのか分からない。
那奈瀬の公園に着くとさっそく洗礼が待っている。
各科の応援合戦。
それが体育大会の加点になる。
すべての行動が体育大会につながる。
そして俺達が学んでいる建築は過去に10連覇という偉業を達して今もなお優勝回数は最多数を誇っている。
そして応援合戦が終るとやっと解放される。
俺達と同じ高校に通っている同級生は5人。
皆同じクラスだ。
同じ建築科なのだからそうだろう。
そのうちの沢木3兄弟はバレー部で頭角を現していた。
早速レギュラーになったらしい。
今年の高校総体で活躍する事だろう。
3人とも彼女がいる。
沢木桔平の彼女の山崎渚も高校で硬式テニスを始めて奮闘しているらしい。
まだ硬式のルールに馴染めていないけど頑張ってるそうだ。
沢木与留の彼女の水島みなみも高校に通いながら地元サッカークラブで活躍しているらしい。
卒業したらレディースと契約する目途も立っている。
なでしこジャパンに呼ばれるくらいだから当然だろう。
だが彼女は悩んでいるらしい。
ドイツやイギリス、フランスなどの世界クラブも視野に入れてるそうだ。
卒業したらどうする?
その事で悩んでいるらしい。
沢木克人の彼女の前田美翔は夢に向かって真っすぐ進んでる。
高校でも吹奏楽部に入ってトランペットを吹いている。
「あ、それで思い出した」
克人がポケットからチケットを出した。
「美翔がソロでジャズライブやるらしいからチケット売ってくれって頼まれてさ」
俺は麗華に聞いてみた。
「まあ、友達だし良いんじゃない?」
俺はチケットを2枚買った。
「ありがとう!恩に切る!」
「いつやるんだ?」
「4月の祝日前の夜やるらしい」
「校則に触れないか?」
「ああ、学ランでくるような馬鹿な真似はやめてくれよ」
克人はそう言って笑ってた。
ジャズライブか。
なんか高校生らしいな。
麗華も楽しみにしてるようだ。
うちの高校ではFGの身勝手な行動は許されなかった。
それでも騒ぎを起こしてるらしいが。
だが、教師がみな強面のガタイのいい教師だらけだ。
すぐに鎮圧される。
自由時間が終ると学校に戻る。
そして俺と麗華は自転車で家に帰る。
寄り道はしない。
校則で決められているからではない。
翼や空のように食べる事も無いし、たまにSAPで遊ぶ程度だ。
高校生組が卒業後初めて集合するのがジャズライブか。
ちょっとだけ大人になった気分だ。
みんな元気にやってるだろうか?
久々にメッセージを送ってみた。
皆元気そうだ。
それぞれがそれぞれの社会に適応しているようだった。
(3)
2限目の終わりを告げるチャイムが鳴る。
僕はすぐに売店に向かっていた。
本気で走ればすぐに着く。
そして売店のおばちゃんに向かって叫ぶ
「焼きそばパン!2つ!」
翼の分と僕の分。
僕達は無事に焼きそばパンを確保できた。
あとは鞄に仕舞ってお昼の楽しみにしよう。
もちろん美希の手作りの弁当もあるよ。
じゃあ、なんで焼きそばパンに拘ってるかって?
それは今朝父さんが言った一言から始まった。
「翼たちは防府だったよね?」
父さんが言う。
「そうだけど?」
何を今さら聞いてるんだろう?と翼は首をかしげていた。
「焼きそばパンは今でも美味しいかい?」
は?
「いや、弁当あるから買ってないけど」
翼が答えた。
「そうか、昔っからあそこの焼きそばパンは味が濃厚で美味しくてね」
「そうなの?」
「ああ、父さんが学生の時は愛莉のお弁当と両方食べてたよ」
「そうなんだ」
「冬夜さん!子供に何を教えてるんですか!お弁当だけで十分です!」
ただでさえ、翼のお弁当はボリュームあるのにと母さんは言う。
「でもパンくらいなら翼達なら食べれるでしょ?」
「この子達は学校の帰りに食べ物屋さんに寄って食べてくるんですよ!翼もウェストが大きくなってからじゃ遅いですよ!」
「それなら平気だよ。善明は私がどんな体形になっても好きだって言ってくれるし」
「善明はそうかもしれないけど翼が自分で悩むかもしれませんよ……こんな話があります」
「どんな話?」
「大学時代冬夜さんの食べ癖に付き合ってたことがあって、冬夜さんがバスケを引退したあとなんだけど母さんも運動不足がたたって腰回りが大きくなってスカートが入らなくなって落ち込んだ事があります。事が起こってからじゃ遅いんですよ」
母さんは翼を説得したかのように見えた。だけど父さんは笑ってる。そして翼もその後の事を悟ったのか笑ってる。
「愛莉、その後どうしたの?」
「そ、それは食べる量を制限して元に戻しました」
「その前の話を忘れてるだろ?愛莉」
父さんが言った。
「冬夜さん!子供の暴飲暴食を止めなくてはいけないのに、その話はいけません!」
母さんが慌ててる。
「いいじゃないか、この子達もきっと僕達と一緒だよ」
「父さん続き聞かせて」
翼は興味があるらしい。
父さんは話した。
「愛莉がスカートが穿けなくなったって落ち込んでいた事があってね。それで父さん愛莉に付き合ってあげたんだ」
「何を?」
「愛莉のスカート選び」
へ?
「きつくなったら新しいの買おう?って。それに冬前だったしね。ちょうどサイズが変わる頃だろ?」
「そっか、私も善明が選んでくれるのかな?」
「……父さんは母さんが太っても平気だったの?」
「母さんは理想の体型だったよ。今でもだけど。女性はちょっと丸みを帯びてる方がちょうどいいっていうだろ?」
僕が聞くと父さんはそう答えた。
翼と僕は自転車で通学してる。運動してるから大丈夫。母さんの話は大学に行って車で行動するようになってからだと父さんは言う。
「愛莉、じゃあ問題ないよね?」
翼はにやにやしてる。
「……そう言うところまで冬夜さんに似たんですね」
母さんは困ってるようだ。
「食べ過ぎには気をつけなさい」
母さんが言う。
「ふざけんな翼!帰りにラーメンやらうどんやら食ってるのに売店や学食にも手を出すのか!?」
天音が抗議する。
「高校生の特権だよ。悔しかったら早く高校生になるのね」
翼は得意気に話す。
「後悔するなよ翼。私は街にもよれるんだ。ステーキとかも食えるんだからな!」
「天音!まさかそんな理由で桜丘選んだんじゃないでしょうね!?」
「違うよ!それなら大人しく藤明行ってるって!」
面倒な自転車通勤なんてしない、気軽に府内焼きやたこ焼きも食える藤明にすると主張する。
「まあ、一度食べてみるといいよ。美味しいから」
「冬夜さんは注意する立場なんですよ!それなのに子供に余計な事を入れ知恵してどうするんですか!」
「で、でも本当に美味しかったんだ」
父さんと母さんの口論が始まってる間に僕達は準備をして学校に行く。
そして昼休み弁当と焼きそばパンを食べた。
焼きそばパンは味が濃くて美味しかった。
父さんの言ってた通りだ。
食べてると前田美翔さんがやって来た。
「2人とも4月の祝日前空いてるかな?」
予定は特にないと伝える。
すると前田さんは二枚のチケットを差し出す。
「私、初のソロライブやるんです。来てもらえませんか?」
断る理由は特にない。
生演奏というのに興味があった。
翼と相談してチケットを購入した。
良心的な価格だった。
「ありがとうございます。絶対満足してもらえるように頑張るんで是非きてくださいね」
ライブハウスの場所は街中にあるらしい。
自転車で行けない距離じゃない。
前田さんはそう言うとクラスの他の人にも宣伝してた。
そして学校が終ると帰り道に相談する。
「今日は何食べて帰る」
「う~ん、焼きそばパン食べたしね」
「ファストフード店で軽く食べよっか?」
「そうだね」
ちなみに僕達の量は軽いってもんじゃない。
ビッグな奴にダブチー、照り焼き、フィレオフィッシュ、チキン、フライドポテト、チキンナゲット。
牛肉バーガーは食べない。
美希はアップルパイとジュースだけ。
家に帰ると宿題をさっさと済ませて夕食の時間になる。
食べながら、父さん達にライブの事を言う。
「是非聞いておいで」
父さんはそう勧めてきた。
「帰り遅くなるけどいいかな?」
「高校生だから少々は大目に見ます。ただし飲酒は行けませんよ」
母さんが答えた。
生のライブか、ちょっと楽しみだった
(4)
ライブハウス前。
初めての夜遊び。
SHの高校生組は皆着てた。
水島みなみも今日は休んできたらしい。
沢木与留に誘われたんだそうだ。
皆近況報告をしながら開場を待っていた。
開場されると皆入った。
観客は僕達と普段から通ってる客。
そして会場に入ると中は薄暗かった。
ライブが始まる。
ドラムの音がデカい。
鼓膜が破れるんじゃないかと思うくらい。
ピアノベースなどの音も聞こえてくる。
そして前田さんのソロパートがある。
時には激しく、時には切なく。
色々な感情をこめて演奏していた。
でも根底にあるのは楽しそうだという事。
前田さんの”青春”という文字をこの場で表現していた。
1時間近くの演奏が終わると僕達はアンコールを訴えた。
そして前田さんはアンコールに応えてくれた。
誰もが知っている少し笑える曲。
ライブが終るとライブハウス前で前田さんを待っていた。
「打ち上げ行こうぜ!」
光太が言う。
「ファミレスならいいよ」
僕がそう言うと近所のファミレスに行った。
皆前田さんに質問攻めしている。
「前田さんならプロになれるよ、私が母さんに紹介してあげようか?」
美希がそういうけど前田さんは首を振った。
前田さんには夢があるらしい。
中学校の音楽教師。
子供たちに吹奏楽の楽しさを教える事。
ジャズは趣味でたまにライブやる程度でいい。
しっかり将来を見据えているようだ。
僕達と同じように。
全ては運命に委ねて。
もう後戻りはできない。
運命のレールを誰よりも速く突き抜けるだけ。
その先に見える夢をめざして。
今前田さんと同じように僕達はそれぞれの道を走り始めた。
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