姉妹チート

和希

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あなた想ふ誓い

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(1)

「しかし昨夜は参りましたね」
「全くです。ひさしぶりです」

 石原望君はそう言ってわらう。
 早朝からテントを出て2人で火を起こして周囲を警戒している。
 もう馬鹿な事件は起こらない。
 しかし神はきまぐれ。
 何があるか分からない。
 警戒しておくに越したことは無い。
 もう20年近く経とうというのにその癖は全く抜けない。
 体は老いても心は研ぎ澄まされている。
 それは石原君も一緒だろう。
 渡辺班というグループの中でも片桐君と多田君と同じかそれ以上に僕と石原君の仲は良好だ。
 僕達の仲が最悪になったら、地元経済は最悪のものになるだろう。
 幸いにも運命の女神はそういう悪戯を起こすつもりは無いらしい。
 僕達の仲が悪くなったところで晶ちゃんと恵美さんの機嫌さえ良かったら大丈夫だろう。
 彼女たちは家庭を大切にする人間だ。
 そして僕達も家庭を大切にする夫でいる。
 そうでなければ中小企業なんて無いも等しい存在。
 渡辺班に所属する人間が家庭を大事にしなかったら、どれだけの地元の県民が犠牲になる事だろう。
 企業も馬鹿じゃない。
 そんな危険な人材をいつまでも下に置いておくはずがない。
 渡辺班に所属している。
 それだけで出世の道が開かれる。
 中途半端な位置には決してとどめておかない。
 忙しい部署に回せば晶ちゃんたちの逆鱗に触れる。
 そうやって木元先輩は支店長という位まで昇りつめた。
 酒井グループは策者の気まぐれでどんどん大きくなっていく。

「無ければ作ればいいじゃない」

 後先考えない行動はエスカレートしていく。
 この数年で関連企業は数えきれないほどになった。
 取引先の銀行は晶ちゃんの友達石原恵美さん親戚が経営する江口銀行に委ねてある。
 江口グループも年々でかくなっている。

「一々審査を受けるのが面倒になった」

 そんな理由でレコード会社を作ってしまった。
 そのうち映画製作会社まで作りかねない勢いだ。
 口にすると本当にやりかねないから黙ってるけど。
 芸能事務所USEも拡大を続けているらしい。
 東京に支社を作ると次には大阪、名古屋、福岡と事業を拡大していった。
 分野も声優から俳優までありとあらゆるタレントを輩出しているらしい。
 社長の石原君と専務の恵美さんの意向で汚れ芸人のような仕事やグラビアなんかの仕事は取らないらしい。
 営業とテレビ局で揉めたことがあるそうだ。
 怒った恵美さんはテレビ局の株を買い取るという暴挙に出た。
 テレビ会社の社長が土下座したそうだよ。
 その事は事件になった。
 酒井コーポレーションも沖縄、福岡、大阪、名古屋、東京、仙台、札幌と支社を作っている。
 札幌支社は「スキージャンプの選手を育てる」という理由で作ったらしい。
 江口・石原・志水・酒井・白鳥・如月。
 どこかのグループに所属していれば将来は安泰する。
 それは企業に就職という形だけではない。
 スポーツにも彼女たちは着目している。
 地元サッカーチームの胸スポンサーになったり、プロ野球団を買い取ったり、愛媛に売り渡されたBリーグのチームを買い取ったり。
 陸上部やバレー、テニスや水泳、そしてスキージャンプ。
 あらゆるジャンルを網羅しようとしている。

「無ければ作ればいい」

 恐ろしい言葉だね。
 ある意味裏社会を歩いてるより怖いよ。
 石原君と笑っていた。
 車にはねられても追いかけてくる女も大概怖かったけどね。
 裏社会と言えば地元は健全だ。
 隣の県が抗争していてもその勢力が地元に来ることは無い。
 銃弾が町を襲ったことになれば大変なことになる。
 跳ね返ってくるのはトカレフの銃弾じゃない、榴弾砲が空から降ってくる。
 拳銃なんて生易しいもので報復しない。
 無人戦闘機の無差別爆撃だ。
 そんなもんどうやって持ち込んだのか?
 持ち込んだんじゃない。
 造っているんだ。
 この国には非核三原則というものがある。
 核兵器を「持たず・造らず・もちこませず」だ。
 だが僕達の存在はそれを真っ向から否定した。
 持ち込む必要がない。
 造っているのだから。
 恐ろしいほどの高精度の大陸間弾道ミサイルが用意されてるらしい。
 だから愛国心の高い中華マフィアは決して地元に手を出さない。
 手を出せば祖国は核の炎に包まれるから。
 いくら南の小さな島を実効支配しようがそんな事は関係ない。
 彼等は絶対に地元に手を出せない。
 地元に手を出せば憲法9条なんて生易しいものは通用しない。
 日本国は交戦権を有しないとしても僕達の交戦権を否定してるわけじゃない。
 質の悪いことにそれを使う口実を待っている。
 恵美さんと晶さんはどんな些細な口実も見逃さないだろう。
 江口家の領域は大使館のそれより絶対的なものだ。
 石ころでも投げ込んだらたちまち核戦争に持ち込むだろう。
 裏社会を知るものは誰もが知っている常識。
 僕達に絶対に手を出すな。
 現実世界からファンタジーへと移行しつつある物語。
 きっとニュートロンジャマーなんてものも開発されているんだろう。
 自分達さえよければいい。
 そんな「人道?何それ美味しいの?」な非情な世界。
 そんな話を朝から石原君と話をしていると石原君の息子大地君と僕の息子酒井善明が起きて来た。
 大地君はこのキャンプに来る前から落ち込んでいる。

「過ぎたことをいつまでもうじうじ気にするな!今度上手くやればいいじゃねーか!」

 大地君の彼女片桐天音ちゃんから言われていた。
 大人はなんとなく予想がついていた。
 相談した結果大地君から相談してくるまでそっとしておいてやろうということになった。
 今は善明が相談に乗っている。

「2人とも早いね。どうしたの?」
「訓練の成果かな」

 善明が答えた。
 4人で焚火を囲んでいると片桐君も起きて来た。

「昨日は参ったね」

 それは昨日僕達の中では恒例行事になりつつある多田君と桐谷君の暴動。
 だいたい奥さんに鎮圧される。
 そして小言は男性陣全体に及ぶ。
 迷惑極まりない恒例行事なんだけどね。
 そんな事も懐かしいと思う年になったよ。

「おじさんごめんなさい!」

 大地君が片桐君に謝っている。
 やっと言う覚悟がついたんだね。

「どうしたの?」

 片桐君は落ち着いている。
 片桐君は覚悟ができたんだろうか?
 大地君は語り始めた。
 天音ちゃんに醜態を晒してしまった。天音ちゃんを傷つけてしまった。
 片桐君は静かに聞いていた。
 そして困った表情をしていた。

「石原君、こういうとき父親としてはどう対応したらいいんだろう?」

 片桐君が聞いていた。

「……僕は恵美の父さんに危うく頸動脈を締められるところでしたよ」

 石原君は笑って答える。
 娘の親ってそういうものなんだろうか。
 今後の参考の為にも模範解答を頼むよ片桐君。
 うちにも娘が沢山いるからね。

「それでどうなったの?」
「恵美が”先に望の首の骨が折れてしまうからそれは駄目”って止めてくれました」

 けど、片桐君も翼がそうだったんじゃないか?と石原君が聞き返した。
 善明は苦笑いをしている。

「わからないです、娘に手を出しやがって!と怒ればいいのか?でも手を出さなかったらきっと娘の何が不満なんだ!?って怒らなきゃいけないのかな?って」

 石原君自身もなかなか空が美希に手を出さないから「私って魅力ないのかな?」って相談されたらしい。
 男性から見てどうなのか知りたかったそうだ。
 どうして知ってるかって?
 その晩相談の電話がきて石原君と飲みにでたから。

「大地君、おじさんの話を聞いてくれるかい?」
「はい」
「おじさんは3回しくじったよ。そして4回目が大地君と同じ結果だった」

 片桐君はそう言って笑った。

「天音の言う通りだと思うよ。一度駄目でも次がある。それが許されるのが恋人なんだ」
「次が許されるんでしょうか?」
「天音が次って言ったんだろ、あの子は翼に対抗心があるからね。きっと子供を作るまで続けるよ」

 まだ孫は見たくないけどと片桐君が言った。

「大地、父さんの経験も教えてあげるよ」
「石原君もしくじったの?」
「うん、みっともない話だけどね」

 片桐君が聞くと石原君が答えた。
 石原君は新條さんにゴムを買いにいかせたはいいけど使い方が分からなくて業を煮やした恵美さんが「つけなくていいから!」と言ってそれはいくらなんでも無理と裸で土下座したらしい。
 そりゃ触れられたくない過去……黒歴史だね。

「それでも母さんは許してくれたよ。天音さんもそんなに心の狭い娘さんじゃないよ。だからこそ大地は辛いんだろうけど」
「うん……」
「そういや、善明の時はどうだったんだい?」

 晶ちゃんは愛莉さんから聞いてるみたいだけど僕は聞いたことがない。

「僕もあまり人に話すないようじゃないですね……」

 善明が話し出す。
 翼が泊まりに来た時の話。
 派手なパジャマを着ていたそうだ。
 明らかに誘ってる。
 当然一緒にお風呂に入ったそうだ。

「そろそろ寝ようか」

 理性を保ってる間に寝るに限る。
 そう判断したんだろう。
 この世界に布団を別々に敷いてくれるなんて優しい親は存在しない。
 一緒のベッドで寝る。
 翼は抱きついてくる。
 素数を数えれば落ちつく。
 そういう都市伝説を信じたらしい。
 だが、翼はついにしびれを切らした。

「善明!私は女で善明は男!そのくらい分かってるよね!?」
「は、はい」
「その女の私がこんな格好をしてこうしてあなたに抱き着いてる、その意味を分かってもらえないの?」
「仰る通りですが前提にまだ中学生という条件を忘れてませんか?」
「大昔は私達の年頃には普通に結婚をして子作りしてたみたいだよ」
「それは現代社会のルールにそぐわないものですよ」
「ああ、もう!善明にとって私は魅力的じゃないの!?これじゃまだ不満なの!?なら私にも考えがある!」

 そう言って翼は服を脱ぎだした。
 それはまずい!と思ったらしい。
 男のプライドがどうというよりそんな事が晶ちゃんに知れたら大変なことになる。
 善明はそう思って翼を抱きしめてそしてベッドに押し倒す。
 そんな翼の表情を見て我に返ってしまった。
 取り返しのつかないことをしたんじゃないのか?

「ご、ごめん……」
「謝るなら最後までしてからにして」

 そして事に至った。

「ごめん……初めてなものでその……」
「あやまらないで、私は幸せなんだから」

 なるほどね。
 母親が怖くて彼女と寝ましたはちょっと言いたくないよね。
 でも一番まともなんじゃないのかい?

「な~にお前らだけで面白そうな話してんだよ」

 多田君達が来た。

「そう言う話を俺達抜きで始めるとはどういう了見だ」

 そして男性陣が集まると話が盛り上がる。

「みんなの話聞くだけ聞いて俺だけ話さないってのも悪いよな。俺も初めての相手は神奈だったんだけどさ……」
「誠!その話はまた今度にしよう」

 片桐君は多田君の背後にいる人の群れに気が付いたようだ。
 昨夜の悪夢が蘇る。
 そしていつも通り多田君は気が付かない。
 多田君は試合中フィールドを支配すると言われていたがこの小さなエリアは支配できないらしい。

「まあ、そういうなよ。中々笑えるんだぜ。神奈の奴強がってるけど凄い恥ずかしがり屋でさ。初めての夜の時も電気消してって言ってきてだな」

 石原君がだまって多田君の後ろを指差す。
 それに気が付いた多田君が振り返ると神奈さんが立っていた。

「続けろよ。何が笑えるのか非常に興味あるから……」
「い、いやそんな大した話でもないんだが……」
「望!あなたまさか余計な事を大地に話したんじゃないでしょうね!」
「え、恵美違うよ!頸動脈の話をしていただけだよ」
「頸動脈ってなんだ?」

 天音が嗅ぎ付けた。

「悪戯すると頸動脈締められちゃうって話だよ」

 大地が慌てて言う。

「大地なんか悪いことしたのか?」
「まあ、したかしてないかで言えばしたかな……」

 翼はクスクス笑ってる。
 ああ、察しちゃったんだね。

「お前、ひょっとしてまだ気にしてるのか?次があるから元気出せって言ってるだろ!全く反応しないとかだったら私もショックかもしれなかったけど、そうじゃないんだから大丈夫だ!」
「そ、そうだね」

 大地君はとりあえず笑っとけって感じだ。
 まあ、笑うしかないよね。
 でもそれが大事なんだよ。
 きっといいことがあるから。
 こうして笑い話に出来る日がきっと来るから。
 だから前を向いて歩こう。

「ねえ父さん」
「なんだい祈」
「父さんもやっぱり娘の相手が気になるか?」

 そういや、祈にも相手がいたね。
 ていうか繭ですらいたはず。

「そうだね、まあ少なからずショックはあると思うよ」

 平気だ、何とも思わないなんて言ったら何言われるか分かったもんじゃないからね。

「やっぱり頸動脈締めたりするのか?」

 自分の彼氏を思いやっているのだろう。
 その気持ちに気付いたから理解してしまう。
 いずれは自分の下から去ってしまう我が娘……。
 だから娘との時間が大切なんだ。

「祈の大切な彼氏にそんな真似はしないよ」
「多分あいつは良い奴だから」
「祈の目を信じてるよ」
「ありがとな。朝ごはん出来てるぜ」

 そう言って祈は去っていく。
 娘の幸せをただ祈るだけ……か。

「善君にしては見事な回答だったじゃない」

 晶ちゃんが来た。

「なんとなく理解しちゃったんだ」
「大変よ、うちはそうでなくても娘ばかりなんだから」
「そうだね」
「……娘が居なくなっても善明がいる。それに私も最後まで善君のそばにいるから」
「ああ」
「じゃあ、ご飯にしましょう?」

 そして朝食の時間にした。

(2)

 ここまで来たからさすがに無いと思ってた。
 天音や水奈も嫌がってたから行かないと思ってた。
 然し自ら墓穴を掘っていたことに気付かなかった。
 赤西冴、息子誠司の彼女。
 そして妹の赤西栗。
 二人はあの地獄に行ったことがないらしい。

「じゃあ、連れて行ってやるしかないな」

 神奈が言う。
 朝食の箸が止まる瞬間だった。
 うちは娘の水奈がいる。
 だから覚悟はしてた。
 だけどキャラクター的に水奈は拒絶した。

「私には無理」

 俺が胸をなでおろした瞬間だった。
 だか冴や冬夜の息子冬吾の彼女中山瞳子も行ったことがないという。
 2人に共通しているのは期待に胸を膨らませているという事。

「そんなにいいところじゃないぞ」

 4歳の女の子に誰がそんな事を言えるだろう。
 まず神奈がそれを許さなかった。
 テーマパークにつくと集合時間を確認して自由行動する。
 空と美希、善明と翼、輝夜と勝利はそれぞれ楽しそうに散っていった。
 俺も出来れば適当なところで時間を潰したかったがさすがに4歳の子供放置するわけにもいかず3人について行った。
 誠司にはあらかじめ言い聞かせておいた。

「何があっても笑顔を絶やすな」

 冬吾は冬夜に似ている。
 冬夜がアドバイスするまでもなく卒なくこなすだろう。
 問題は俺だ。
 アトラクションで遊ぶ子供たちをカメラで撮影して、建物の中で写真を撮ってやり、パレードを撮影する。
 そして精神的に削ってくるファンシーなデザインの食事。
 子供のお子様ランチじゃないんだぞ!
 そんな気持ちはひた隠しにして子供たちに付き合う。
 誠司の様子を見る。
 生まれて初めての彼女と初めて遊びに来た。
 テンションは若干高めなんだろう。
 割と平気でいられたようだ。
 そして集合時間に皆集合地点ん集まって銭湯に寄って夕飯をファミレスで食って帰る。
 何事もなく終わってよかった。

「だいぶ苦戦したみたいだね。誠」

 冬夜が隣に座る。

「お前の才能が羨ましいよ。冬夜」
「意外としんどいけどね。耐性は冬吾の方が上かもしれない」

 俺達は自分の子供が泳いで遊んでいるのを見る。

「なあ?冬夜。昨日冬吾達とボール蹴って遊んでいたろ?」
「ああ、誠司君も誠に似て正確なキックするね」
「冬吾は地元クラブに入れるんだよな?」
「少年団でさせるよりは余計な横やりは無いと思ったから。誠も同じだろ?」
「俺思ったんだけどさ……」
「冬吾は当分試合に出さない。そう言いたいんだろ?」

 冬夜は俺を見てそう言って笑った。

「僕もバスケの時散々言われたからね。技術よりも体力面をって」

 冬吾は小学生の試合レベルでは十分すぎるほどの技術とセンスを持っている。他のメンバーに比べて劣っているとしたら体力面だ。
 でも極論小学校6年生と1年生を比較してもしょうがない。だから小学生の間は試合出場は諦めるくらいの覚悟でいい。
 技術面は冬吾は十分に試合で活躍するだけのレベルに達してる。その才能は当時の冬夜以上だ。
 なら小学生時代はせめて中学生サッカーの試合時間60分走り切れるだけの体作りをした方がいい。
 変な僻みをもたれてサッカーに対する感情が悪くならないように大事にしてやりたい。
 中学生になれば1年生と3年生じゃそんなに差は出てこない。
 少しずつ試合慣れさせながら今度は90分プレイする体力をつける。
 その後はきっと華々しいデビューが待っているだろう。 
 そう冬夜に説明した。

「誠の考えでいいんじゃないのか?試合に出れないからって不貞腐れるような子ならそれまでだったってことだよ」

 冬夜は言う。
 冬夜も冬吾の才能を認めているんだろう。
 だからあえて厳しく当たる。

「U-12は小学校3年生からだったね。そこからは任せるよ」
「ああ、任せてくれ。俺が立派な選手に仕上げてやる。お前の二の舞には絶対にさせない」

 冬夜は才能を持ち過ぎた故に周りに足を引っ張られてそして挫折した。
 あの事件がなかったら冬夜は今頃名選手として殿堂入りしていただろう。
 それだけの才能を捨てさせるような真似は出来ない。

「3年生になるまではどうするんだ?」
「那奈瀬に元Jリーガーが作ったサッカースクールがあるらしくてね。そこにいれようと思う」

 少年団よりはきっとましだ。桜子も娘をそこに入れてたらしいから。と、冬夜が言う。
 誠司と全く同じ道を辿るわけか。

「俺がパスを出してお前が受け取ってシュートを決める。アレの再現が出来るわけだ」

 今からぞくぞくしてきた。

「父さん頭がふらふらする」

 誠司がのぼせたらしい。
 はしゃぎすぎだ。

「誠、そろそろ上がろうか」
「そうだな」

 そう言って俺達は風呂を出た。

「誠」

 着替えながら冬夜が話しかけてきた。

「どうした?」
「冬吾の未来、お前に預ける」
「……まかせとけ」

 ちゃんと受け取った。日本を代表する名ストライカーに育て上げてやる。

(3)

 私達はテーマパークを出ると銭湯に寄った。
 最年少は当然私と理絵と冴と栗と冬莉。
 さすがに湯舟で泳ぐなんて真似はしない。
 妹の理絵と背中を流しっこして体を洗って湯舟に入る。

「瞳子ちゃんだっけ?隣いいかな?」

 そう言って来たのは冬吾君のお姉さんの翼さん。
 とてもバランスのいい体つきをしている。羨ましい。

「私もいいか?」

 そう言って来たのは翼さんの妹の天音さん。
 私達は2人に挟まれる形になった。

「姉として聞きたい、冬吾のどこが好きになったんだ?」

 天音さんが聞いてきた。直球だな。
 冬吾君の良い所か。
 見た目は誠司君の方が絶対に良いと思う。ただ、何でもこなす。そしてとても優しい。
 運動能力が高くて優しい。私達の年頃が異性を好きになるには十分すぎる理由だった。

「まあ、冬吾は女心というか人の心を文字通り掴むからな」

 天音さんはそう言って笑ってる。
 そんな冬吾君でも偶に悩んでいることがある。本当にどうでもいい事で悩む。
 人はどうして争うの?とか。
 私はこう答えた。

「分かりあえないこともある。冬吾君の正義が人を傷つける事もある。だけど認め合える人は一人いればいい。それだけが暗闇を優しく散らして光を降らして与えてくれるから。そんな人に私はなりたい。冬吾君の味方であり続けたい」

 二人は静かに聞いていた。

「最近の幼稚園児ってすごいんだな」

 天音さんが言う。

「そうだね、そこまで冬吾の事を思っていてくれるなら私からも一つだけ質問するわ」

 翼さんの顔は真剣だった。

「あの子はサッカー選手を目指してる。父さんと母さんの能力を全部引き継いでスポーツ選手になるの。生半可なレベルじゃない」

 きっとこんな島国で終わるような器じゃない。冬吾君の才能は世界に響くだろう。

「あの子は将来日本から出る時が来る。一緒にいてあげられない時が必ず来る。それでも瞳子ちゃんは冬吾の事を想ってあげられる?」
 
 それが翼さんの質問だった。
 私は祈るように瞳を閉じた。
 この想いが届くようにと。
 何のために弱さ隠して誰の為に涙を流す?
 愛しさはあなたを想う誓いの詩。
 その儚い調べが私を揺らしてく。
 深紅の空は燃え立つように信じる強さを求めていく。
 二つの鼓動が溶けあう時、生きる意味がそっと変わる。
 たとえこの世界が終わりを告げようとも、冬吾君の声が私の未来を燈すから。
 出会いは奇跡だった。
 深紅の炎が目覚める空は私がここにいるしるし。
 確かなものが何も見えなくても、温もりがあなたの言葉を紡ぐから。
 
「冬吾君が私の未来を燈す光だから私の道しるべになってくれる。だから私は彼の後を追いかけるだけです」
「……そっか」

 翼さんはそう言ってにこりと笑った。

「冬吾が瞳子ちゃん泣かせるような真似したらいつでも相談に乗ってやるからな。あいつをしめてやる」

 天音さんが言う。
 私は「わかりました」と笑顔で答えた。

「そろそろ出るわよ」

 冬吾君のお母さんが言うと風呂を出る。
 そしてファミレスで夕食を食べると家に帰る。
 私達は家の前まで送ってもらった。
 冬吾君と冬吾君のお母さんが私のお母さんに挨拶をする。

「じゃあ、またね」
「待って。冬吾君」

 私は冬吾君を呼び止めた。
 一度だけの恋で私は十分だから。
 私は冬吾君を抱きしめてそして口づけをした。
 見せかけだけの強さや名ばかりの絆なんていらない。
 同じ時を生き抜いていくって決めたから。
 だから冬吾君も……

「覚悟してね」

 そう言って私は冬吾君達を乗せた車を見送った。
 挫けそうになっても諦めそうになっても今日の事を思い出そう。
 愛しさというあなたを想ふ誓い。
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