姉妹チート

和希

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あらゆる罪を超えて

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(1)

 今日は家庭訪問の日。
 担任が来る生徒は皆早く帰る。
 僕達も早く帰って先生が来るのを待つ。
 呼び鈴がなる。
 母さんが玄関に行く。
 訪れた担任をリビングに案内する。
 そして面談が始まった。
 内容はそんなに大したことじゃない。

「今のままなら志望校は間違いなく合格できると思います」

 もちろん、油断したらいけない。とお決まりの文句を言うけどとりあえずは大丈夫らしい。
 だけど毎年必ず聞かれる事。

「本当にここでいいのか?」

 僕達ならもう1ランクどころかもっと難関校を目指してもいいんじゃないのか?
 高槻先生は言う。
 ちなみに高槻先生は、小学校の時の担任高槻千歳先生の旦那さん。
 偶然で片づけられる問題なのだろうか?
 それはおいておいて先生の質問に答えなくてはならない。
 なんて答えたらいいか?
 翼は躊躇うことなくその答えを口にした。

「一番近い進学校が防府なんだからそこでいい」

 どうせ、進学校だし受ける授業の内容なんてどこも同じでしょ。
 翼はそう言った。

「翼さんだったら藤明の特待生クラスだって行けると思うんだが」
「バス通学なんて面倒なことしたくない」

 自転車で通学も結構面倒だと思うよ?
 ちなみに市内のどの高校もバイクで通学は許可されてない。
 それにスカートでバイクなんて乗れるわけない。

「防府じゃまずい事でもあるの?」

 母さんが聞いていた。

「いや、問題は無いんですがその後の事を考えると少しでも環境の良い高校が良いと思ったので」
「さっきも翼が言ってたけど、受ける授業の内容は一緒なんでしょ?」
「若干工夫をしていたりしますね、それに防府の場合中学からの進級組と差がつくんですよ」
「工夫をしていようとしていまいと解く問題にそんなに差がないでしょ。それにこの子達は難関大学に進学したいわけじゃないみたいだし」
「ああ、もう大学まで決めているんですね」
「就職先まで決めているみたい」
「そこまで将来を見据えての選択肢なら文句はいいません。ただ遠くは嫌だという理由で選択肢を狭めるのは教師としては認められなかったので」

 進路については高槻先生は納得したようだ。
 あとは生活態度。
 こっちも何も問題はない。
 他のクラスは大変らしい。
 まあ、騒ぎの声は聞こえてくるから分かっている。
 FGの連中が好き放題暴れているそうだ。
 やつらの勢力はどうやら高校にまで及んでいるらしい。
 これから先も彼等とやり合うのだろうか?
 だけどSHには手を出さない。
 その約束は彼等は忠実に守っていた。
 FG傘下の暴走族「堕天使」とやらもたまに校庭に現れる。
 その度にパトカーが来て大騒ぎになるけど。
 地元にはまだ暴走族という絶滅危惧種が存在する。
 たまにトンネルにスプレーで落書きしてる。
 彼等は頭が良いのか悪いのか分からない。
 悪魔輪離 、恨火弐鎖威虎迂、火輪鎖忌 など。
 難しい当て字をつかっている。
 ちなみに最初から”おまわり””コンビニさいこう””かわさき”と読むらしい。
 中学校のOBみたいだ。
 まあ、FGの傘下なのだからそうなのだろう。
 高校にもいかないで何をやってるんだか。
 彼等にとって少年院に入ることは一つのステータスなんだそうだ。
 そんな連中でさえ、天音が「うるせーぞ!私の安眠を邪魔する奴は許さない!」と言うと大人しく帰って行くらしい。
 天音にさえ逆らえない連中だ。
 SHの名前を出したら誰も手を出す者はいない。
 だからといってSHのステッカーを売って高額で売りつけるような悪質な連中はまずSHに入れない。
 関係ない奴がそんな事をしていると嗅ぎ付けたら光太が黙っていない。
 自然と淘汰される。
 話を元に戻すと僕達は普通に学校生活を送っていた。
 誰も手を出してこないならわざわざこっちから暴れるような真似はしない。
 天音も大地に遠慮して派手に暴れることは無くなった。
 精々音楽室の音楽家の絵の目に画鋲を指す程度だ。
 何の意味があるのか分からないけど。 
 あとは学校を抜け出して近くのコンビニで漫画を読んでるくらい。
 人に害を与えるようなことはしていない。
 学校にとっては害みたいだけど。

「じゃあ、そういうことで」
「はい、よろしくお願いします」

 高槻先生が次の訪問先へと向かった。
 幸いにもクラスメートがこの近所に密集してるそうだ。
 楽でいいと先生が笑っていた。
 先生が帰ると母さんから話がある。

「さっきはああ入ったけど本当にいいのね?」

 母さんが念を押す。

「大学なんてどこでもいいよ」

 翼が言う。

「わかりました。じゃあ、次は天音の担任が来るから天音を呼んできて」

 僕達は部屋にいってなさいと母さんは言う。
 途中で部屋にいる天音に声をかけて部屋に戻ると宿題をする。
 美希からメッセージを受けていた。

「家庭訪問どうだった?」
「普通にしてれば志望校に受かるってさ」

 お墨付きはもらえたみたいだ。

「よかったね」

 美希も問題なかったらしい。
 例え問題があったとしても高槻先生じゃ美希のお母さんに何も言えないだろうと母さんが言ってた。
 そこは桜子と一緒らしい。
 夢と希望に溢れた未来。
 いまからそんな予想図をたてていた。

(2)

「天音さんは将来の夢とかないのか?」
「それ学校で書いたじゃん」

 私の夢。
 それは大地のお嫁さん。
 何か問題あるか?
 愛莉だってパパのお嫁さんと宣言してたらしいぞ。
 問題はそこじゃないらしい。

「女の子だからお嫁さんが希望でも問題はないと思うんだが……」
「じゃあ、何が問題なの?」

 愛莉が担任の中山和重に聞いていた。

「相手は石原家の跡取り息子なんだろ?」
「まあ、その予定だけど?」
「天音のお母さんも片桐先輩と一緒がいいと進路をきめたそうだ」

 まあ、そう聞いてる。

「天音は勉強はできる。やれば出来るなんてもんじゃない。やらなくても出来る」

 実際学力テストは1位だった。

「せめて石原君と同じ高校に行こうとか思わないのか?」
「思わない」
「どうしてだ?」

 社長夫人だ。大卒くらいの肩書は必要じゃないのか?
 先生はそう言った。

「天音は将来の進路を決めたって言ってたわね。母さんはまだ聞いてなかった。一体どう決めたの?」

 愛莉が聞くので答えた。

「調理師になる」

 私は料理が得意だ。そして大好きだ。なら調理師でいい。
 就職先も決めてある。
 渡辺紗理奈の母さん美嘉さんの店で修行を積む。
 意味のない事だけど、やりたい事をやりたい。
 万が一花嫁の夢が叶わなかった時、手に職が無いのは不安だ。
 だったら好きな仕事をやろう。
 そう決めた時から行く高校を決めていた。
 桜丘高校。
 そんなに難しくない高校。
 皆滑り止め程度にしか考えていない高校。
 だけど調理師の資格が取れる高校はここしかない。
 もちろん高卒で学歴を止めるようなことはしない。
 調理師の専門校に通うつもりだ。
 調理師に学歴なんて関係ない。
 資格さえあればいい。
 空だって目的は一緒だ。
 資格がほしいから。
 空はその資格を手に入れる為に大学進学を選んだ。
 私だって自分の将来くらい自分でちゃんと選ぶ。
 私が出した答えがそれだ。
 私の話を愛莉はじっと聞いていた。

「……そこまで考えているのなら母さんは何も言いません」

 愛莉の許可は下りた。

「天音がそこまで考えての選択だとは思わなかった」

 先生も納得したようだ。
 私の進路の話はそれでお終い。
 次に私の生活態度についての話が始まった。
 入学初日からの問題は何も起こしていない。
 昼休みにコンビニに行くくらいだ。
 あとは自習時間にコンビニに出かけて漫画立ち読みしてるくらい。
 こそこそ体育館の裏やトイレでタバコ吸ってる奴に比べたらどうってことないだろ?
 ちなみにSHの中でタバコを吸う奴はいない。

「タバコ臭い!」

 彼女にそう言われるのがオチだから誰も吸わない。
 ましてや運動部に入ってる奴がそんな真似をするはずがない。
 FGの連中とのもめ事は一切起こしていない。
 手を出してこないのに暇つぶしにもならない連中相手にするのも面倒だ。
 私も歳をとったのだろうか?

「学校時間内は校内にちゃんといなさい」

 愛莉はそう言った。
 じゃあ、放課後はいいんだな?
 現に空と翼が怒られているのを見たことがない。
 愛莉も知ってるはず。
 空はコンビニでたまにゴムを買っているのを。

「子供は産めないからそうでしょうね」

 愛莉はそう言っていた。

「いや、愛莉さんそういう問題じゃなくてですね」
「中山君だって高校の時公生達とファストフード店に寄ってたって聞いたわよ」
「そ、そういう話を生徒の前で言うのは勘弁してくださいよ」

 中山先生も愛莉の後輩らしい。
 愛莉に敵うはずがなかった。

「まあ、他の生徒に比べたら大人しい方だとは思いますが、教師としては校則を破って良いとはいえないんですよ」
「教師も大変ですね」

 愛莉がそう言って笑っていた。

「じゃあ天音さん。くれぐれも変な問題は起こさないでくれよ。小学校の時の話は水島先生から聞いてる」

 そういや知り合いだったな。
 本当に狭い世間だ。
 母さん達のつながりが広いというだけかもしれないけど。

「じゃあ、俺もそろそろ次回らないといけないんで」
「ご苦労様」

 そう言って先生が帰って行った。

「天音、悪いけど純也を呼んできてくれない?」
「わかった」

 母さんは一度に全部済ませたかったのだろう。
 純也と茜の訪問日も私達に合わせていた。
 私は遠坂家に行くと純也を連れて家に帰り部屋に戻って茜に声をかける。
 今頃水奈が言われているんだろうな。
 私はゲームを始めた。

(3)

 俺達は特に何も言われなかった。
 小学校では普通にしていたし。
 精々梨々香と話をしているくらいだ。
 茜も同じだ。
 学校では普通の小学生。
 図工系が大好きな女子小学生。
 俺達小学4年生に進路なんて難しい話はしない。
 家ではどう過ごしているかくらいだ。

「勉強してインターネットで遊んでる」

 茜はそう答える。
 言葉にするとありがちな回答だけど遊びの内容が過激すぎるのが茜だった。
 航空会社のネットワークに侵入してジェット機の設計図を盗んで仕組みを学んでいたり。
 俺は「勉強してゲームしてる」と答えた。
 多分俺も普通の小学生だと思う。
 たまに彼女とメッセージを交換してるのも今時の小学生なら普通だろう。
 俺達にはSHという繋がりがある。
 だから交友関係が狭いという事も無かった。
 昼休みには太賀達に付き合ってドッジボールをしている。
 成績も普通くらいだ。
 特に問題もないはず。
 話は普通に済んでそして先生は帰っていった。
 それを見送って俺は遠坂家に帰ろうとする。

「純也、待ちなさい」

 愛莉に呼び止められた。
 リビングに戻る。

「私は純也が普段何をしているか把握できていません。りえちゃんから少し話を聞いている程度」

 それがどうかしたの?

「正直に答えて。学校でいじめられてない?家で困っている事とかない?」
「ないよ」

 すぐに答えた。
 学校で俺と茜に手を出すなんて馬鹿な真似を起こす奴はいない。
 家でもりえちゃんが何でも聞いてくれるから困る原因がない。
 そう愛莉に答えた。

「ならいいんだけど。なんでも相談してね?男の悩みなら冬夜さんでもいいから」
「わかった。でもそれもおじさんがいるから平気だよ」
「じゃ、帰ってゆっくりしてなさい」

 そう言われると俺は家に帰る。
 そして部屋にもどるとゲームをしている。
 寂しい生活?
 そんなこと微塵も思ったことない。
 その証拠にスマホが鳴る。

「家庭訪問終わった?」

 梨々香からだ。

「終わったよ」
「どうだった?」
「別になにもなかった」
「まあ、そうだよね」

 そんなやりとりをしているとゲームオーバーになっていた。
 ゲームのゲームオーバーは何度でもやり直しが聞く。
 でも梨々香とのやり取りはゲームオーバーになったらやり直しがきかない。
 茜に言われた事。
 梨々香とのやり取りで困ったことがあったら茜に相談してる。
 そして、時間が経つとりえちゃんに呼ばれる。

「夕飯できたわよ~」

 部屋を出てダイニングに向かう。
 小学4年生もただ時の流れを楽しむだけの年のようだった。

(4)

 私の両隣りには父さんと母さんがいる。
 母さんがいるのは分かるけどどうして父さんが?

「今日オフだから」

 そうじゃなくてただの家庭訪問に父親までいるなんて聞いたことないぞ。

「中学生の家庭訪問だ。進路とか色々聞いておきたい」

 父さんはそう言っていた。

「馬鹿な質問するんじゃねーぞ」

 母さんに釘を刺されていた。
 話は進路の話になった。

「水奈さんはやれば出来ると思うんだ。どうして桜丘高校に拘るんだ?」

 担任の中山和重先生が質問した。

「天音も桜丘行くって聞いたから」
「それなんだがな、片桐さんはちゃんと将来を考えていたぞ。調理師免許を手に入れたいらしい。しかし水奈さんは普通科だ。その先を考えているのか?」
「大学行って専門学校行く」
「何の専門学校だ?」

 父さんが聞いた。

「ウェディングプランナー」

 理由はなんとなく、カッコいい職業だと思ったから。

「しかしあれはノルマが厳しいらしいぞ」
「それなら問題ないよ」

 なんせ知り合いに結婚希望者は山ほどいるしな。

「水奈ならそんな厳しい職つかなくても、恵美さんに頼んでUSEに入れてもらえればモデルとしてやっていけるだろ?」

 そう言うのを親ばか目線というらしいぞ、父さん。

「まあ、水奈がなりたいというならそれでいいんじゃないか?」

 母さんが言う。

「しかしそれなら別に公立の進学高でもいいんじゃないですか?ちょっとの努力で」
「水奈にも思うところがあるんだろう?ちゃんと大学に行くっていうんだからいいじゃないか?」

 将来、夢が変わった時の保険にはなる。
 母さんはそう言った。
 その時母さんは少し笑みをこぼしていた。
 気づかれたのだろうか?

「まあ、神奈先輩がそう言うのでしたら俺からは何も言えませんが」

 あとは、桜丘高校とはいえ入試はあるんだから勉強はしなさい。
 学校で問題を起こしてくれるな。
 それだけを言って帰って行った。

「水奈。今日は一緒に料理しないか?」

 先生が帰ると母さんが言う。
 いつもなら部屋に戻って勉強しろというのに。
 特に断る理由もないので母さんを手伝う。

「こういう時じゃないと二人きりになれないからな」

 母さんが言う。
 父さんは誠司と遊んでいる。

「お前”とりあえず高校行っとけばいいや”ってのは本当は違う理由があるんじゃないのか?」

 やっぱり母さんにはバレてた。

「うん」
「どうせ学と結婚するんだからそれまでの時間つぶしになればいい。そう思ってるんだろ?」

 どうせ暇をつぶすなら天音と高校時代を過ごそう。
 何もかもお見通しだった。
 だけどそれを母さんは咎めはしない。
 学と同じ高校に行ったらどうだ?大学だって同じ方がいいだろう?
 それすら母さんは言わない。

「どうせ短い間しか一緒にいれないんだしな。そんなに変わらないよ。母さんが保証する」

 だから好きにやれ。
 私が天音との時間を大切にしたければそうしろ。
 母さんだって天音の母さんや父さんとの学校生活を楽しんだのだから。
 夕食を食べると風呂に入って部屋に戻る。

「家庭訪問どうだった?」

 珍しく学からメッセージが来た。

「特に問題なかったよ。それより聞きたい事があるんだけど」
「どうした?」
「学は将来何になるんだ?」
「公務員かな?どうしたんだ?」
「将来の旦那の稼ぎがどのくらいになるのか興味あってな」
「……水奈に苦労させないくらいは稼ぐよ」
「ありがとう」

 痛みも喜びもすべて噛みしめて。
 そこに理由なんていらない。
 痛みも喜びもすべて抱きしめて。
 私に理由なんていらない。
 欲望よ、我が旧友よ。
 私は向こうで待っているから。
 私は光りを求めて歩き続ける。
 あらゆる罪を越えたその先にある光を。
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