姉妹チート

和希

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閉じ込めた言葉と想い

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(1)

「おい、しっかりしろ!!今すぐ助けるから!!」
「JRに連絡急いで!まだか!!」
「誰か発煙筒持ってきてくれ!」

 非情になり続けるベル。

「車押せないの!?」
「2台同時はさすがに無理だ」

 残酷な状況。
 エアロをつけた車が踏切上で立ち往生。
 慌ててブレーキをかけた後続車。
 だけど事情を知らない後続車が踏切に突っ込んできて挟まれた車は身動きが取れなくなった。
 エアロをつけた車の運転手はとんずら。
 後の車は懸命にバックしようとするが帰宅時間で混雑していて思うように下がれない。
 人間パニックになると単純な動作にもたついてしまう。
 シートベルトを外して車から退避するという行動に移れないでいた。
 また、車をこのままにして逃げたら賠償金を請求されると思い込んでいた。
 だから必死に車をバックさせようとする。

「無理だ!すぐに車から降りて!」
「他人様に迷惑かけられません!」
「お前だけでも子供を連れて逃げろ!」
「そんなことできない!」

 落ち着け、最優先するべきことはなんだ?
 私はチャイルドシートのベルトを外して救助に来た人に子供を託す。

「子供だけでも逃がしてください!」
「馬鹿な事を言うな!あんた達も逃げるんだ!生きることを諦めるな!」
「他人様に迷惑をかけられません」

 少しずつでもバックしていく。
 だけど間に合いそうにない。
 ガタンゴトンと列車の音が聞こえてくる。

「くっ!」

 子供を預けた人は私達の車から離れていく。
 発煙筒は炊いてくれた。非常ベルも鳴らしてくれた。
 けれど不運は重なる物。
 情報が電車に伝わっていなかった。
 私達を目視した運転士が慌てて非常ブレーキをかける。
 しかし停車するのに600Mは最低かかる。
 汽笛が鳴る中彼は運転を止めた。

「ごめん、こんなことになってしまった」
「最後まで一緒だよ」

 電車は私達の車を粉々に粉砕した。
 私達の意識はもうなかった。

(2)

 その晩遅くに遠坂のおじさんとおばさんが来た。
 おばさんの腕の中にはまだ幼い子が眠っている。

「夜分遅くに申し訳ないんだがちょっと時間をくれないか?」
「どうぞ……何かあったんですか?それにその子は一体」

 父さんが聞いていた。

「順を追って説明したい。家にあがってもいいかな?」

 父さんは遠坂の両親をリビングに通す。
 ソファに腰掛けるとおじさんはどこから話したらいいか迷っているようだ。
 そして話を始めた。

「実は管轄内で踏切事故があってね」

 車高を低くしてエアロをつけた車が踏切の段差に引っかかって動けなくなった。
 エアロをが外れるのを覚悟で突っ切れば良かったのに、それすらせずに運転手は逃亡した。
 後についてた車はエンジントラブルでエンストしてしまった。
 オートマの場合、エンジンをかけないとギアをニュートラルに替えられない。
 しかし厳密に言うと方法はある。
 シフトロックを解除すればいい。
 だが、パニックに陥っていた。
 そんな中、子供だけでも助けたいと思ったのは母親の愛情だろう。
 その子供は今は眠っている。
 ちなみに両親は即死だったらしい。
 身よりはいない。そう思っていた。
 だけどおじさんはいると言った。

「被害者は冬夜君、君の従弟だ」

 そして頼れるのは君しかいない。
 しかしうちには翼と空、天音に茜に純也、冬吾と冬莉がいる。

「……部屋に予備がある、茜をまた引き取ろうか?」
「手続きが面倒でしょう」

父さんとおじさんが話している。

「りえちゃん、疲れたでしょ。私が変わってあげる」

 愛莉がおばさんから子供を預かる。
 子供の名前は冬眞というそうだ。
 周りが騒がしかったからだろうか。
 冬眞は目を覚ました。
 そして一言言った。

「ママ」

 愛莉は戸惑っていたけど「ママですよ~」と子供をあやしていた。
 それを聞いて僕は覚悟を決めた。
 今さら一人増えたところで変わらないだろう。

「近いうちにまた増築だな」

 僕が言うと父さんが驚いていた。
 土地がもうないとか、建蔽率の問題とかこの世界では若干法律が緩い。
 都合のいいように解釈される。

「……冬夜君がそう言ってくれると助かる。おじさんも出来る限り協力する」

 おじさんはそう言った。
 僕は冬眞に向かって声をかける。

「冬眞、僕の事分かる?」
「パパ!」

 この子はまだ親の顔もよく覚えていなかったんだろう。
 いつかは本当の事を話さなきゃいけないんだろうか?
 冬眞は僕と愛莉の寝室でしばらくは面倒を見ることになった。
 当分は一緒の部屋で問題ないだろう。
 春にでも増築しよう。
 貯えは十分にある。
 冬吾達もそろそろ自分の部屋で寝ても大丈夫だろう。
 とりあえず愛莉が冬眞の添い寝をしてやる。
 とても大人しい子だ。
 手のかからない子。
 冬吾並みに純粋な子。

「この歳になって子供が増えるとは思っても見ませんでした」
「愛莉には苦労かけるね」
「そんな冬夜さんが好きなのだから気にしないで」

 この子の歳ではもう疲れていたんだろう?
 良く眠っていた。
 そうして片桐家にまた新しい家族が増えた。

(3)

 冬眞はとても手がかからない。
 大人しくしている。
 機会とかプラモデルとかそういうのが好きなようだ。
 冬吾がそれに気づいたらしくて自分の持っているミニ四駆を渡していた。
 冬眞は喜んでそれを手にして分解しては仕組みを調べて調べていた。
 工具を貸してあげたら何でも分解してしまう。
 モーターすら分解してしまう。
 茜ももう使わなくなった古いPCを渡している。
 まだ2歳児。
 早いと思ったけど、冬眞は理解していた。
 茜に近い天性の持ち主なんだろうか?
 この子をどう育てていけばいいかヒントを掴んだ気がした
 天音は水奈や大地と遊びに行っていたけど、翼や空は冬眞の相手をしてやっていた。
 冬吾や冬莉も冬眞の相手をしていた。
 構造物が好きなようだ。
 ブロックなんかの玩具で喜んで遊んでいる。
 ご飯もぐずらない。
 時間になったら眠りにつく。
 哀しいのは自分の本当の親を知らない事。
 不幸中の幸いだったのかもしれない。
 本当は知っているのに気づかないふりをしているのかもしれない。
 冬眞が寝ると3人は自分たちの生活に戻る。

「冬眞の世話は私見てるから愛莉買い物に行ってきなよ」

 翼が言ってくれた。
 
「じゃあ、ちょっといってくるから宜しくね。おむつの替え方と離乳食は……」
「冬吾達の時ただ見てたわけじゃないから大丈夫」
「ありがとう、じゃあ行ってきます」

 そして買い物に行くと神奈と会う。
 フードコートで話をしていた。
 神奈は驚いてた。

「お前もなかなか気苦労が絶えないな」
「子供に罪はないから」

 冬夜さんや子供も協力してくれるから。
 話もそこそこにして家に帰ると冬眞は起きていた。
 そして一人でミニ四駆で遊んでいる。
 改造パーツとかも買ってやった方がいいのだろうか?
 男の子の趣味はわからない。
 冬夜さんが帰ったらそうだんしてみよう。
 趣味:PC
 普通のように聞こえるけどこの子は皆が思うような生易しい物じゃない。
 茜が遠坂の家に残して来たジャンクパーツを組み立て1台のPCを組み立てそしてOSのインストールをしている。
 まだ説明書を読めないはずなのにこの子は仕組みを理解してしまっている。
 決して変なサイトを覗いたりしない。
 冬夜さんはそれを見るとその子のPCに自分のクレジットカードを登録してやった。
 セキュリティは茜がばっちりチェックしたらしい。
 冬眞もまた自分で自分のセキュリティを構築していた。
 まだ字も読めない子がプログラム言語を理解する。
 想像のつかない世界だった。
 夕食の時間、片桐家流のマナーを躾ける。
 食事は静かにする。
 片づけが終ると冬眞を風呂に入れて寝かしつける。
 冬吾は冬夜さんが面倒をみてくれた。
 二人が寝たのを確認すると、私達はリビングでビールを頂きながらテレビを見る。

「冬眞はどう?」

 冬夜さんが聞いて来るので今日あった出来事を話した。

「冬眞は理系かな?」

 冬夜さんはそう言って笑ってた。

「冬眞が大学卒業するまでか、僕もまだまだ頑張らないと駄目だな」
「頼りにしています。冬夜さん」
「身内の不始末を冬夜に押しつけてるようで、すまんな」

 冬夜さんのパパさんが言う。

「不思議と皆いい子だから大丈夫だよ」
「そうか……」

 テレビが終ると皆寝室に戻る。
 私達もすやすやと寝ている二人を見て寝る。

「愛莉に負担をかけてばっかりですまない」
「冬吾や冬莉も弟が出来たと自覚が出来たみたいだし、翼達も自分の子供の様に可愛がってくれるから」
「そうか、もうそういう歳なんだな」
「ええ」
「まあ、愛莉には悪いけど。僕達にも夢が一つ増えたね」
「そうですね」
「じゃあ、そろそろ寝ようか」
「はい」

 まだ冬夜さんは何も言わなかったけどきっと気付いているんだろう。
 そのうち冬眞の親の事を話さなければいけない事を。
 冬眞がその事実を受け止められる歳になったときに。
 だけどあの子なら乗り越えられる。
 そんな気がした

(4)

 弟が出来た。
 血は繋がってないけど。
 名前は冬眞という。
 双子の兄の冬吾は冬眞と遊んでいた。
 弟が出来て嬉しいのだろう。
 それは私も同じ事だけど。
 兄の空や、姉の翼と天音と茜も同様だった。
 姉さんたちは冬眞が来るまでは、今の冬眞と同じ様に構ってくれてたけど、今は冬眞に夢中のようだ。
 それは私の両親も同じだった。
 でもそれは別にどうでもいい。
 1人でのんびりしていられる時間を得る事が出来たのだから。
 何故鳥は飛べるの?
 何故綺麗な花は枯れてしまうの?
 風はどこからどこへと流れていくの?
 何故月は暗い夜に明かりを灯すの?
 何故私は生まれて来たの?
 人は何がしかの意味を持ってこの身を託され命を授かる。
 きっと私が生を受けたのも何か理由があるのだろう。
 私はその理由を知りたかった。
 まだ4歳の私に何を求めているのか分からない恋物語。
 当たり前だけど、私はまだ恋を知らない。
 きっとそれは永遠に続くのだろうと、2人を見ていればわかる。
 楽しそうな冬吾の心。
 だけど私にはあまり興味が無かった。
 私の興味はテレビや本だった。
 私の知らない世界を色々教えてくれる。
 不思議に思ったことを答えてくれる。
 とあるテレビアニメを見ていた。
 謎かけのようなお話。

「愛で人を殺せるのなら、憎しみで人を救えるだろう」

 理解しがたい理屈だった。
 でも憎しみを糧に今日を生きる人もいるらしい。
 それが幸せな人生なのかは分からない。
 生きていればきっといいことがある。
 人は皆そう言って自他を励ます。
 ならば憎しみが人を救う事もあるのだろう。
 私はどっちなのだろう?
 幸せなのか不幸なのか?
 衣食住に困らないことが幸せならば幸せなんだろう。
 だけど満たされた人生を送っているかと言われたら疑問に思う。
 まだ幼稚園児の私が考える事ではないな。
 今日も天音や茜たちがはしゃいでる。
 そんな姉さんたちを羨ましく思う。
 私もいつかあんな風になるのだろうか?
 そんな事を考えながら今日も何となく過ごしていた。
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